連邦生徒会統括室付『特命係』   作:どいるしょうさ

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『スカウト』

 

 

 

「あー、どうしてこんなことになったんだろー!!」

 

 

 神代トウコは星空がよく見える荒野で途方に暮れていた。

 

 入学書類をギリギリまで出しにいかなかった自身を責めるべきなのだろうが、それにしてもこんなことは誰が予想できただろう。

 

 

 

 ゲヘナ学園、それはキヴォトス有数のマンモス校であり自由と混沌を信条とする生徒達の巣窟である。彼女もこの春からそこに登校する予定であったのだが、入学書類が家に届いていることに気付かず旅行に行ってしまい、提出日が今日までだったことに気づいたのが今日の朝だったのである。

 

 

「やばいやばいやばい────!!」

 

 

 急いで書類をしたため、自宅から最寄りの一時間に一本しか来ない田舎特有のバスに乗りゲヘナ学園まで向かおうとしたところに悲劇が訪れる。

 

 

 二十人ほど乗れるだろうか、かなり小さめのバスであるが、なおかつ数人の客しか乗っていない、過疎地のバス。しかも混沌渦巻くゲヘナ行きという近寄りがたい場所が目的地なのだ。そもそも乗る人も毎日決まった人しか乗らないのであろう、運転主とも顔なじみの乗客も多く、降車の際に軽く話し合いながら出て行くほほえましい様子が見られる。

 

 トウコが乗ってから五つくらい停留所を過ぎたあたりだろうか。

 

 

「このバスは我々が占拠したー!!」

 

 

 銃声と共にヘルメットを被った人たちが急に乗り込んでバスジャックを行なったのだ。

 

 

 三人組だった、全員ヘルメットを被っており、改造された黒いセーラー服が特徴だった。たぶんこの辺の不良の一派だと思うが、当然武装をしており、大した戦闘能力を持っているわけでは無いトウコはおとなしくしていることしか出来なかった。

 

 

 彼女達は連邦生徒会に対し不当な扱いを受けたとしてバスの乗客と引き替えに百万クレジットを要求する、とよく分からないことを述べていた。

 

 

「あのー!!」

 

 

「なんだ、大人しくしていれば危害は加えないぞ」

 

 

「不当な扱いって具体的にどんな事受けたんですか!」

 

 

 トウコは割と肝が据わっていたためバスジャック犯に犯行動機を尋ねてみることにした。

 

 

 彼女たちのリーダー格らしい緑色のヘルメットをした犯人は怪訝な顔をしながらもポツリポツリと話し始める。

 

 

「連邦生徒会……私たちのヘルメットがあいつらの安全規格に満たしてないからって……」

 

 

「ゴクリ……」

 

 

「連邦生徒会が斡旋している交通誘導のアルバイトをさせてもらえなかったんだ!!」

 

 

「ええ……そんなことで」

 

 

「そんなことだと!! 私たちのこのヘルメットが!! アイデンティティが!! 否定されたんだぞ!! これは許せるわけない!! ジスジスヘルメット団として!!」

 

 

 ジスジスヘルメット団、独特なネーミングセンスだと思いながらトウコはそれ以上話すことをやめ、そのうち来るであろう救助を待つことにした。

 

 

 キヴォトス、無数の学園が集まり構成されている学園都市。

 

 学校に通う彼女たちは生徒と呼ばれ、様々な神秘渦巻くこの世界は、銃による戦闘行為が相次ぐが、それが日常であり、誰も気に留めるものもいない。こういったバスジャックなどのテロ行為もよくある話である。

 

 

 数時間後、ゲヘナ郊外の荒野、犯人たちの指示により停車させられたバスはヴァルキューレ公安局の生徒たちに囲まれていた。

 

 

「バスジャック犯に告ぐ!! このバスは完全に包囲した!! 抵抗をしなければ取調室でのカツ丼は約束しよう!!」

 

 

 拡声器から聞こえる声は連邦生徒会への要求が通っていないのか、捕まえた後のことを告げる、テロリストには屈しない確固たる意志が現れていた。

 

 人質のことを少しは考えているんだよねと思いたくなるほど攻撃的な発言だが、実際バスジャック犯に勝ち目はない。

 

 

「この爆弾が見えるか!! このバスごと吹き飛ばしてやるからな!!」

 

 

「せめてヘルメットの規格に際する発言を撤回させろー!!」

 

 

「アルバイトさせろー」

 

 

 そんなやり取りがしばらく続いた後犯人の一人がうっかり手榴弾でバスを爆破させてしまったことにより事件は終了。乗っていた乗客達は当然爆発に巻き込まれ、重軽傷を負うこととなった。幸いトウコは軽傷で済んだものの持っていた入学書類が吹き飛ばされ、最寄りの駅までとぼとぼ歩いている次第だ。

 

 

「いやー、お先真っ暗です! このまま一年間無所属の不良の仲間入りです!!」

 

 

「こんばんは、未来を嘆くあなたに素晴らしい提案があります」

 

 

「うぇっ!?」

 

 

 突然隣から聞こえた女性の声、どこかで聞いたような透明感のある優しい声。

 

 水色を主体としインナーにピンク色が入った独特な長髪。

 

 白くかっちりとした制服、所々に金色の星のような意匠やボタン、それは紛れもなく連邦生徒会の制服であった。

 

 そして

 

 私の記憶が間違っていなければ──

 

 

「次期連邦生徒会長…………ですか!?」

 

 

「はい、びっくりさせちゃいましたね」

 

 

「あのあの、いつの間にっていやその、えっとうぇえ」

 

 

 両の腕を激しく上下に振り回し、そんなに慌てふためくことがあるだろうか。

 

 あまりにも唐突に、想像もしていなかったことだったからか、動揺をあらわにしてしまう。

 

 次期連邦生徒会長──数日後には晴れて連邦生徒会長となる彼女がどうしてこんな所にいるのだろう、そしてなぜ私に話しかけてきたのか、聞きたいのだがまだ胸の動悸が収まらず、目を右へ左へ明らかに挙動不審の状態のトウコを優しい瞳で見つめ、彼女は口を開いた。

 

 

「あなたは連邦生徒会の一員になってみませんか?」

 

 

「はい?」

 

 

 連邦生徒会の一員…………? 

 

 私が? 中学卒業したばっかだけど、いきなり連邦生徒会? 

 

 トウコの頭はさらに混乱した。

 

 

「私が会長になるこのタイミング、連邦生徒会は改革のチャンスだと思っています、フレッシュな新人を探していたとこなんですよ♪」

 

 

「そして、新しい部署を試験的に作ろうと考えていて、あなたはそこにぴったりだと思うんです」

 

 

「神代トウコさん、どうか──」

 

 

 次期連邦生徒会長は矢継ぎ早に言葉を続ける。その顔は穏やかではあったがどこかほんの少しだけど、悲壮感を漂わせていた、そんな気がした。

 

 

「はい、分かりました!」

 

 

 トウコはその顔を見て、つい反射的に了承してしまった。

 

 

「ふふっ、そう言ってもらえると思ってました、そこでは特定の業務に囚われず、臨機応変に各学園の問題を解決できるような目標をもって活動してもらいたいのです」

 

 

「あの、因みにその部署の名前って何なのでしょうか?」

 

 

 次期連邦生徒会長はくるっと踊るように回転しながらトウコの三歩ほど前に立って少し斜めになった体勢から笑顔で言葉を紡いだ。

 

 

「連邦生徒会統括室付『特命係』なんてどうでしょう?」

 

 

 

 

 

 

「アタシのミスでした……」

 

 

 サンクトゥムタワー、キヴォトスを一望出来るほど高い建造物。頂上に至っては雲の上まで届いているのではないだろうか。

 

 どうやって建てたのか分からないがきっと頭の良い先輩たちが知恵と技術を持って作り上げたのだろう、その一角に位置する部屋で窓の外を眺めながら現実逃避しつつ、横目で自身の机を見る。

 

 目線の先には自身の背丈を越すほどまでに積み重ねられた書類の山、その一つ一つにありとあらゆる学園からの要望、苦情、その中には無茶振りも含まれているに違いないと、憂鬱な気分になる。

 

 

「まさかここまで書類が溜まっているなんてー!!」

 

 

 項垂れてばかりでは仕方がないと、積み上がった紙束から一番上の書類を手に取る。

 

 ゲヘナ学園の生徒からのようだ。

 

 

『D.U.地区の美食が味わえるお店を教えてくださいませ』

 

 

 知らんわ。

 

 なに、何なの。ここ連邦生徒会ですよ。飲食店の味とか知らんよ、ぐる◯びに聞いてくださいよ!! 

 

 

「あー、でもこの前先輩に教えてもらったカフェのパンケーキは美味しかったなー」

 

 

 美食と聞いて真っ先に思い出したのはD.U.区内、このサンクトゥムタワーから歩いて10分ほどにある外見は古めのレンガ作りの建物で、赤茶けた色がトレードマークだ。

 

 年季の入った外見とは裏腹に店内は丁寧に掃除がされており、店主の細やかな心遣いが表れている。

 

 そこの三段パンケーキをこの部屋の“主人”である先輩に教えてもらったのだ。

 

 とりあえずその店の名前でも書いておこうと思いペンを走らせる。

 

 

「今日はデスクワークに取り組んでいるようですね」

 

 

「うひゃあ!!」

 

 

 書面を見るのに夢中になっていた私は正面から近づいていた女に気がつかなかった! 

 

 

「驚かせてしまったようですね、失礼しました」

 

 

 黒い長髪を後ろでまとめたポニーテール、尖った耳にメガネをかけた理知的なイメージそのままな彼女『七神リン』がそこにいた。

 

 

「“特命係”としての仕事は慣れましたか?」

 

 

「いや~、なかなか忙しいですね~、あっちこっち飛び回るのは楽しいですけどその間に

 

 こんなに書類がたまっちゃって」

 

 

 机の上の書類をリンさんと眺めながら遠い目をする私。

 

 リンさんは連邦生徒会統括室の行政官で、たまにこの部屋にやってくる。ほとんどが追加の書類や緊急でやって欲しい案件を持ってくるため、彼女の姿が見えると少しどきりとしてしまう。

 

 

「あの~、もしかしてこれ以上書類が増えるとか…………?」

 

 

 リンさんはにこりと微笑を浮かべ、手元にあった一枚の紙を差し出す。

 

 

「緊急の案件になります、この部屋の室長……いえ、『右近 キョウ』さんと共に行ってください」

 

 




初投稿です。

この世界はブルーアーカイブ本編の約一年前を想定していますので、リンちゃんは二年生になりたてですし、連邦生徒会長は二年生の時から会長をしているといった設定です。

初回から短めですが、続けていけるよう頑張ります。
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