ようこそノゴロー(偽)と行く教室へ   作:ネオニューンゴ

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第1話

 軽く自分語りって奴をさせてくれ。神様って奴は実に俺の事を嫌いらしい、俺の大切なもん全部持ってっちまうんだからな……幼い俺から両親を奪っていった。つってもじいちゃんとばあちゃんが俺の事を引き取ってくれて人並みの生活は送らせてくれた。でも幼いながら実の親がいねぇってのはどうも周りから見ると異質でしょうがないらしい。

 小学生時代そんなくだらない事でいじめってのは成立しちまうもんで俺は同学年の奴らの悪意に晒されてきた。だが小学生ってのはそんな単純な事でいじめを起こせる分黙らせるのも簡単だった。思い返してもみて欲しい、自分がガキの頃偉かった奴らはどんな奴だった?頭がいいやつ?それもそうだ。容姿が優れてた奴?まぁ違いないだろう。だがもっと分かりやすい、そう例え前者2つが劣っていても偉い奴はいた筈だ。そうスポーツが出来る奴だ。端的に言えば俺は運動能力で言えば才能があったらしい。自分を認めさせるために小学校の野球クラブに入った。そこで俺はエースで四番、自身の学校を全国大会に導いた立役者としていじめられっこから一躍人気者にジョブチェンジってやつだ。そこからの人生は正に順風満帆……って訳にはいかなかった。

 中学1年生の夏、俺は右肩を壊しちまった、そこからはまた面白い位人生の下り坂を転げ落ちていった訳だ。どうやら野球というアイデンティティを失った俺は精々いじめの標的位しか役に立たなかったらしい。普通ならここで自分はそういう運命の人間だからそういう人生を歩んでいくしかない……って折れちまうんだろうな、生憎と俺は反骨心だけで生きている人間だ、利き手が壊れちまったなら反対の手を使えば良いってな。2年近くの歳月を経て俺は左手でも右手と遜色ない程の投球が出来るようになったって訳だ。こんな体に産んでくれたお袋と親父には感謝しなきゃな。

 さてそんな俺も早いもんで高校生、自分の進路ってやつを考えなきゃいけねぇ。夢は勿論プロ野球選手だがじいちゃんとばあちゃんも既に年金暮らしを始めててこれ以上負担を掛ける訳にはいかねぇ、中学生になったばかりの頃はスポーツ推薦で高校へ進学すれば金の心配はいらねぇと思ってたんだが生憎と中学の俺はポンコツだ、そんな俺に当然スポーツ推薦の話しなんざくるわけがねぇ。そんな俺荻野吾郎が高度育成高等学校へ進学するってのはある意味必然だったんだろう。

 

 

「ふっ……ふっふっ……ふっ……」

 

 4月上旬、春にしては暖かい日射しが照りつけ散った桜で舗装された道を、風を切りながら俺は走っていた。額に浮かぶ玉の汗をうっとおしく感じながら細かく息を吐いて地面を蹴る。

 

(チッ……こんなならおじいちゃんの言うとおりバスを使っとけば良かったぜ、卒業するまでの三年間は嫌でも外に出られねぇんだ失敗したな)

 

 そう内心で愚痴りながらも走り続け、目的地である高度育成高等学校の校門をくぐり抜けると大きく息を吐く。

 

「どっかにクラス分けが張ってあると思うんだが……」

 

 そう言ってキョロキョロと周りを見渡すと見覚えのある後ろ姿を見つけて思わず後ずさる。どうやら向こうもこちらを見つけたようで名前を呼びながらこちらにやって来る。

 

「おーい!荻野くーん!」

 

「ちっ……ガキじゃねぇんだからそんなに大きな声出すなよ一之瀬」

 

 一之瀬帆波、同じ中学出身で中学時代ある問題を引き起こし俺と同じ穴の狢になっちまった悲しい奴だ。その時似た境遇のもの同士お互いつるむ相手がいなかったため自然とつるんでた……というより一方的に寄られてたんだが、まぁ奇妙な縁がある。因みに俺の勉強を見てもらった恩人でもあるんだが、まぁ俺もコイツの世話をしてやったしお相子ってもんだろう。強いて難点を上げるとしたらコイツ無駄に容姿が整ってるから周囲の注目を集めて仕方ない。

 

「もう!折角一緒のバスで行こうねって朝メールしたのに!」

 

「あ?どうせケータイは持ち込み禁止だから見てねぇよ」

 

「あ、そうなの!?まぁいいや、一緒にクラス分け見に行こうよ、一緒のクラスだといいね?」

 

「俺ァどっちでもいいけどよ、早いとこ行こうぜ」

 

「?」

 

 コイツ……周りから注目浴びてるの気づいてねぇ……俺は後頭部を掻きむしりながらこの天然姫様の背中を押しつつクラス分けの張られた掲示板の前へとやって来る。えーと俺の名前は……

 

「あっ!あったよ荻野君!荻野君はDクラス、私は……」

 

「Bクラスみてぇだな」

 

「あちゃー、別のクラスかぁ……まぁいつでも遊びに来てよ、私も行くからさ」

 

 簡単に言ってくれるぜ、お前みたいな美人訪ねても訪ねられても変な注目浴びちまう。「気が向いたらな」と言い残し俺達は各々振り分けられたクラスの教室へと足を運ぶ。ガラリと扉を空けると一瞬の静寂が教室内を支配するがそれも何事もなかったかかのように喧騒に包まれる。俺は自分の名前が書かれたプレートが置いてある席を見つけ肩に掛けた鞄を下ろして座り込む。既に他のクラスメイト達は小さくはあるがグループを形成しているのが見て取れる。お早いこって……と思いながら自分の隣の席に目を移すと……

 

(うげっ!髪も赤く染めてるしいかにもヤンキーみたいな奴じゃねぇか!……って決めつけるのもよくねぇか、筋肉の付きかた的にスポーツマンか……野球じゃねぇな、よし興味無し)

 

 ヤンキーもどきの隣の席となった自分の不幸を呪いつつハンドグリップでトレーニングをしながら時間を潰していると程なくして予鈴のチャイムが鳴り教室にスーツ姿のポニーテールに髪を纏めた30歳位の女教師が入ってくる。

 

「おはよう新入生諸君、私は茶柱佐枝、このDクラスの担任を務めさせてもらう、担当科目は日本史だ、このクラスは3年間クラス替えが存在しないため長い付き合いになると思う、さて一時間後に入学式となるがその間にこの学校の特別な決まりごとについて説明させて貰う、今から資料を配布するので目を通すように」

 

 そっからぐだくだと長い説明が続いたが要約すると学校側が許可しない限り外部との連絡はなし、勿論外出もなし。そして一番の特徴であるSシステム、この敷地内でのみ使えるポイントが存在しこの敷地内に存在するものは何でも買えるらしい。学生証がクレジットカードのような役割を果たしており何と俺達は10万円もの大金を手にした。これには俺も内心ガッツポーズをする。高校生に10万とは随分太っ腹な学校だなと思うがもしかしたら今月だけの特別な措置かもしれねぇ、ご丁寧に毎月10万とは言ってねぇし、俺達はここで三年間暮らすのだから何かと必要な生活用品の購入にポイントを割かなきゃいけないだろうからな。茶柱先生は最後にカツアゲ等はしないようにと釘を差し質問があるか聞くとないようなのでそのまま教室から去っていった。主にポイントの使い道で教室内がざわつく中一人の男子生徒がスッと手を上げ発言する。

 

「皆少し話を聞いて貰ってもいいかな?」

 

 今言葉を発した男子生徒、一言で表すなら爽やかイケメン野郎だな。奴の言い分はこれから三年間同じクラスの仲間だから自己紹介をしようとのことだが……

 

(めんどくせぇ、大体嫌でも三年間一緒なんだから名前なんてそのうち覚えるだろ)

 

 そんな俺の内心など知られる由もなく自己紹介は進んでいく、誰かこの空気をぶち壊してくれないかなーと思っていると隣の席の赤髪不良が勢い良く立ち上がる。

 

「くだらねぇ、ガキじゃねぇんだし自己紹介なんてやりたい奴らでやれよ」

 

 そう言って奴は椅子を蹴り飛ばして教室を出ていこうとする……がそれに習い俺も立ち上がり奴の肩を勢い良く掴む。

 

「おいちょっと待てよ赤髪ヤンキー」

 

「あぁん!?テメェ誰に喧嘩売ってんだ!」

 

「別にお前の言い分なんてどうでもいいけどよ、俺のカバンも一緒に蹴ってんだよお前、詫びくらいいれろや」

 

 俺と赤髪は一触即発の空気になり互いににらみ合いが続く。どうやら向こうは謝る気などサラサラないようだ、なら取るべき行動は一つだ。

 

「面貸せよ赤髪」

 

「チッ!望むところだ」

 

 俺達はメンチを切り合いながら乱暴に教室のドアを閉めて校舎裏の方へと向かう。入学式の前だ、ここならまず人は来ねぇだろ。俺はブレザーを脱ぎ捨てると向こうもやる気のようで既に臨戦態勢だ。

 

「俺に喧嘩を売った事、後悔しながら死ねやぁぁぁ!」

 

 そう叫びながら振りかぶり眼前に拳が迫る……がその拳は俺の顔に届く事なくピタリと止まった。もっとも俺が奴の手首を掴んでいるからなんだが。

 

「いて、いてててて!離しやがれ!」

 

「それじゃあこれでチャラにしてやるよっと!」

 

 俺は赤髪の鳩尾目掛けて拳を振るうと苦悶の表情を浮かべながらその場に踞る。

 

「で……テメェ……!」

 

「お前、やっぱ筋肉の付き方がスポーツマンだな、なら分かり易く説明してやるよ、あのカバンにはな俺の大事な野球の道具が入ってんだよ、おじいちゃんとおばあちゃんが入学祝いだっつって買ってくれたスパイクがな……お前だって自分の道具が蹴られたら怒んだろ」

 

 赤髪は苦しそうに何かを言いたげにしていたが、少し落ち着いたのか観念したように両手を上げて降参のポーズを取る。

 

「チッ……なら先にそう言えよ、悪かったよ、これでいいか?」

 

 不服そうではあるものの俺の要求通り謝罪をしたコイツを許さない程俺も鬼畜じゃあない。手をさしのべて起き上がるのを手伝ってやる。

 

「しかしお前……あぁお互い名前も知らねぇか俺は荻野吾郎だ、これから入学式だってのに容赦なく顔面狙ってくんじゃねーよ」

 

「須藤健だ……それでお前腹殴ったのかよ、しかし改めて見るとスゲェガタイだな……何のスポーツをやるんだ?」

 

 そう言いながら須藤はマジマジと俺の体を見つめてくる。野郎にそんなことされても気持ち悪いだけだっつーの。

 

「俺はこの学校の野球部を甲子園に連れていってプロ野球選手になるつもりだ、お前は?」

 

「……バスケだよ、んで将来はプロになるつもりだ」

 

「んだよ!何でちょっと自信なさそうなんだよ!いいじゃねぇか!そうかバスケか!お前タッパあるもんな!いいねぇ!なら今年のDクラスからプロスポーツ選手が二人も出るってわけだ!」

 

 俺は須藤の肩に手を回しバンバンと背中を叩く。高い目標を持ったスポーツマンの存在に俺はテンションが上がる、須藤は俺の反応が信じられないようでまじまじと俺の顔を見つめてくる。だからやめろっつーの、野郎にされてもうれしくねーんだよ。

 

「お前笑わないのか、そんな夢叶うはずないって」

 

「あ?人の夢を笑うバカがどこにいんだよ?」

 

「だってよ、今まで……」

 

「なら今までお前の周りにはそういうバカしか居なかったって事だ、本気なんだろお前?」

 

「お、荻野……!」

 

 だからその捨てられた子犬が飼い主見つけたみてぇなカオはやめろっつーの。

 

「とりあえずさっきも言ったが今朝のはあれでチャラ、これからはクラスメイトとして、同じ志を持つスポーツマンとしてよろしく頼むぜ」

 

 そう言って俺は右手を差し出すと須藤は躊躇いがちではあるがガッチリと掴んできた。友情成立の瞬間ってな。その後時計をチラリと見ると既に入学式の開始時間は過ぎていた。

 

(仕方ねぇ……サボるか)

 

 どうやら須藤も同じ事を思ったようで俺達は揃って校門の方へと歩き出す。

 

「俺はコンビニでも行こうと思ってるけど荻野はどうすんだよ?」

 

「あ?俺は大型のショッピングモールにでも行って生活用品買ってくるよ、ついでに散策がてらスポーツショップも探してぇしな」

 

「そうか、よさそうな所見つけたら俺にも教えてくれよ」

 

「あいよ、じゃあな須藤、また明日」

 

 俺はひらひらと手を振りながら須藤とは反対方向に歩いていく。そういえば入学式サボったって一之瀬にバレたらうるさそうだな……いやバレる訳ねぇ……ねぇよな?何て考えは商業施設に来たらふっ飛んだ。すげぇな、流石に三年間敷地内から出さないと豪語するだけあってザッと見渡しただけでも必要な店舗は揃ってるしいわゆるオタク向け?のショップから楽器の販売店まで至れり尽くせりって感じだ。もっとも今日の目的は生活用品の買い足しとスポーツショップの位置の把握だからポイントを浪費するつもりはないが。

 

「んおっ早速1店舗目発見っと、どうせ時間も浮いたしちょっと覗いてくか」

 

 そして一時間後、俺はスポーツショップの前に居た。ちょっとのつもりがかなりの時間居たみてぇだ、その証拠に入学式を終えたのか他の生徒の姿がちらほらと散見される。とっとと用事を済ませようと踵を返すと今もっとも出会いたくない存在が俺の前に現れた。

 

「荻野くん?入学式……サボったでしょ?」

 

 

「げっ一之瀬……いや?何の事かな?俺は走ってここまで来たから他の奴より早く着いてたってだけだぜ?」

 

 一之瀬はジト目になりながら腕を組みふーんと呟いている。よかったこれで誤魔化せ……

 

「まぁDクラスの子に聞いたから嘘だってわかってるだけどね」

 

 てなかった!この野郎、分かってて聞いてきやがったのか。俺は観念したようにため息を吐くと一之瀬も同時にため息を吐いてきやがった。なんだってんだよ。

 

「あのねぇ、おじい様とおばあ様が悲しむよ?」

 

「痛いとこ突いてきやがって、悪かったよ、てかお前は俺の母ちゃんかよ」

 

「望むならそうなってあげてもいいけど?」

 

 勘弁してくれよ、お前が母親になったら俺の高校生生活は一気に破綻するっつーの。

 

「てゆう冗談はさておいて、買い物付き合ってよ荻野君、どうせ荻野君も生活用品買いにきたんでしょ?」

 

 そんな一之瀬の提案に俺は渋い顔をする。女の買い物って長いイメージしかないし出来ることなら買うもん買ってさっさと部屋でダラダラしたいんだが……ニコニコと笑う一之瀬の無言の圧力に屈し結局俺は同行する事になった。俺達は大型のショッピングモールへと足を運びお互いに必要な物をかごに詰め込んでいく。そんな最中目を引く存在が俺達の前に現れた。

 

「なんだ?無料品お一人様月三点まで?」

 

 ワゴンの中には無造作に歯ブラシやシャンプー、ボディソープやマスク等が点在している。遊びに金を使いすぎた生徒への救済措置だろうか?俺はワゴンの中の物を手に取りマジマジと見つめる……確かにいかにもって感じの安物だが無料……もしくは割り引きする程の不良品とは思えない。やっぱ毎月10万なんてくんねんじゃねーかこの学校?こんな事なら茶柱の説明をもっとちゃんと聞いておくんだったぜ。

 

「ま、いーかどうせ無料なら貰っとこ」

 

 俺は深く考えるのを止めてワゴンの中から歯ブラシと歯みがき粉、シャンプーを自身のカゴに放り込み会計を済ませる。30分程するといつものニヤケ面から一転考え込む様子の一之瀬がブツブツと独り言を言いながら姿を現す。てかあんなんじゃ人にぶつかりそうでアブねーっての。

 

「ったく、おーいおせーよ一之瀬」

 

 俺が声を掛けると一之瀬はこちらに気づいたようでニコニコ顔に戻りこちらに駆け寄ってくる。

 

「ごめんね荻野君、ちょっと気になる物を見ちゃったから」

 

「あ?無料品のワゴンの事か?」

 

「うん、10万分ポイントも支給してくれたのに随分気前がいいんだなって」

 

「まぁ確かにそうだな、それよりも俺腹減っちまったよ、さっさと飯買って帰ろーぜ」

 

「はいはい、まったく荻野君は気楽なんだから」

 

 俺達はそのままスーパーへと向かう、俺は生活用品で無料の物があるなら食い物だって無料の物があると踏んでスーパーの中をぐるくると回っていると……やっぱりありやがった。食べ物は生活用品よりも顕著で中には割り引き品の弁当までありやがる。俺は無料の品の中から惣菜パンを手に取ると一之瀬に待ったを掛けられた。

 

「荻野君スポーツマンなんだからそんなのばっか食べてたら体壊しちゃうよ」

 

「つったって俺メシ作れねーし、こんぐらいで壊れる程俺の身体はヤワじゃねぇよ」

 

「もう!ご飯なら作ってあげるから、ほら行くよ!」

 

「お?マジ?じゃゴチになりまーす」

 

 持つべきものは同中だと一之瀬に感謝しながら一之瀬の買い物を横目で見つつ、自分は飲み物と軽くつまめる物を買い物を終え、俺達はその足で寮への帰路を歩いていた。

 

「ごめんね荷物持ってもらっちゃって」

 

「いーんだよこんぐらい、メシ代が1食浮くんだから安いもんだ」

 

「荻野くんらしいね、腕によりを掛けて作るからね!」

 

「お前の作るメシはうめーからなそこは心配してねぇよ……あん?どうした?」

 

 夕陽のせいか知らないが一之瀬の顔がほんのりと朱色に染まる、風邪でも引いてんのかコイツ?人の機敏には聡いくせに自分の事になるとみょーに鈍くなるからなコイツ。まぁ本当にやべぇなら自分で線引き位すんだろ。しばらくお互い無言の気まずい時間も流れるが程なくして寮へと着く。

 

「あっもう着いちゃった……そうだ!荻野くん、連絡先交換しようよ」

 

「あいよ、部屋に入ったら部屋番号送るから夕飯頼むぜ」

 

 そのまま別れて……とはならず一之瀬の部屋まで荷物を持っていった俺は夕飯の催促を忘れず行い自身の部屋へと戻る。確か部屋番号は……あった401か。学生証がカードキーとしての役割を果たしておりかざすとガチャンとロックの外れる音がする。内心これで開かなかったらどうすれば良かったのかとヒヤヒヤしていたがどうやらいらない杞憂に終わったらしい。部屋にはいると備え付けの机の上に寮を使用する上での決まりごとが書いてある冊子が置いてあったためパラパラとめくる。

 

「ほーん、水道代、光熱費、電気代はタダなのか、そうなるとマジでポイントなんて余ってしょうがねぇ気がするけどな……後は……まぁいいやなんか目ぼしい事があれば一之瀬が教えてくれんだろ」

 

 俺は冊子を机の上に投げ、制服からジャージへと着替える。しかし中学の時は学ランだから良かったがブレザーってのはどうも堅っ苦しくて好きになれねぇ。制服をベッドの上に脱ぎ捨てると一之瀬に部屋番号をメールで送信する。程なくして返信が帰ってきて一時間程でこちらに向かうそうだ。しかしそうなると暇なものでこんな事なら漫画でも買っておくんだったなと肩を落とす。結局俺は一之瀬が来るまで自分のグローブを磨いて時間を潰す事にした。

 ピンポーンと部屋の中にインターホンの音が木霊しふと顔を上げると既にメールを送った時間から一時間程経過していた。律儀な奴だなぁとと思いつつ部屋の扉を開けるとタッパーを持った一之瀬がそこに居た。

 

「お待たせ荻野君」

 

「ワリィな一之瀬、ん?何でお前タッパー2つ持ってんだ?」

 

「何でって、私も食べるからだよ?」

 

 コイツ……ナチュラルに男の部屋でメシ食うつもりだったのかよ……そんなんだからあんな事があったにも関わらず一定数の男子から人気が出んだよ。俺が眉をぴくつかせている間に俺を押し退けて部屋の中へと入っていくためため息を吐きながら俺も扉を閉めて後に続く。タッパーを机の上に置くとあー!といきなり大きな声で叫びやがった。

 

「も~!制服!こんな脱ぎ散らかして!シワになるよ!」

 

 一之瀬は頬を膨らませながら俺の制服をハンガーに掛けていく。プンプンと漫画なら擬音が付きそうなもんだ、と割りとどうでもいいことを考えながら立て掛けたあった備え付けのテーブルを出す。

 

「んなことより腹減った、飯食おーぜ」

 

「だらしないなぁ~もぉ~、ほらこれが夕御飯だよ、私飲み物出すから先に食べてていいよ」

 

「あいよ、飲み物は冷蔵庫ん中入ってるから適当にしてくれ」

 

 俺はそう言いつついそいそとタッパーを開けるとそこにはタッパーにぎっちりとナポリタンが詰まっていた。しかも目玉焼きまで乗ってやがる、これはポイント高いぜ。 

 

「いただきまーす!うお!っうめ~!」

 

「ハイハイ、そんなに急いで食べなくてもご飯は逃げないよ、お茶置いておくね」

 

 俺が凄い勢いでナポリタンを啜るのを見て一之瀬は満足そうに頷きながら俺の前に麦茶を差し出す。サンキューと短く礼を言い再びナポリタンを平らげる作業に集中する。10分程で平らげるとご馳走さまでしたと手を合わせ一之瀬に礼を言う。流石に一之瀬はまだ食べ終えてないのでここからは談笑タイムとなる。

 

「しっかしまぁ何と言うか至れり尽くせりだな、この学校は」

 

「そうだね~ちょっと怖くなっちゃうくらい」

 

「まぁ不自由しないってのは良い点だけどな」

 

「そういえば荻野君は友達出来た?」

 

「おうよ、つっても1人だけどな」

 

 俺がそう答えると一之瀬は信じられないような物を見たような表情でこちらを見てくる。オイ、フォーク落としてんぞ、失礼な奴だな。

 

「ウソ!?」

 

「ホントだよ、そういうお前は……って聞くまでもねぇか」

 

「うん、クラスメイトは良い人達そう」

 

「底抜けのお人好しのお前が言っても説得力がねーっての」

 

 そんな事ないよ~と抗議の声を上げるが、それこそそんな事ないよってもんだ。現にこうして俺に夕飯を作ってるんだからお人好し以外の何者でもないだろう。しかしコイツの周りには本当に人が集まってくるからな、中学時代だってあんな事がなきゃ俺と関わりなんてなかっただろうしな。しかし俺に友人が出来た事に本気で驚きやがって、ちょっと仕返ししてやるか。

 

「どうだ?クラスメイトにイケメンは居たか?いや~お前モテるからなぁ、周りの男が放っておかないだろ」

 

「そ、そんなことないと思うけどにゃ~」

 

 出た、コイツの唯一と言って良い変な癖、照れたり焦ったりしてる時何故か語尾がにゃーになる。よしよし効いてるぞ。

 

「お前だって花の女子高生なんだから色恋沙汰の1つや2つあるだろうぜ、彼氏が出来たら教えろよ」

 

「出来ても荻野君にだけは教えないと思うよ、絶対に」

 

「あ?なんだそりゃ?」

 

「私知~らない!フン!……ばか」

 

 急に不機嫌きなりやがって、そんな変な事言ったか俺?これ以上この話題を続けるとムスッとしだして機嫌を直すのが面倒臭いので露骨に話題を変えて俺達はしばしの談笑を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

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