ようこそノゴロー(偽)と行く教室へ   作:ネオニューンゴ

4 / 6
 誤字報告してくださった方ありがとうございます。感想、評価、お気に入り登録もモチベに繋がるのでありがたいです。これから他の生徒共ちょいちょい絡みも増えてきます、そんな4話です。


第4話

 俺が部活に入部してから一週間位が経過した。野球部には俺、入江、郷田の他に7人の生徒が入部し練習も苛烈を極めている。ちなみに悲しいかなDクラスには野球部志望が一人もいなかった、まぁ探せば経験者位は居そうなもんだが多くの奴はこの学校の胡散臭い就職率だか進学率100%に釣られてきた奴等だろうしやる気もそんなにないだろうな、そんな奴誘っても戦力にならねぇし途中でリタイアが目に見えてるか。

 そんなある日の夜、部活で体をいじめぬいた俺は疲労がピークに達しここ数日どうしても夕飯は出来合いの物になってしまい栄養価の観点からすると決して誉められたもんじゃない食事を摂っている事が我等が一之瀬大先生にバレてしまった。チャットアプリには『夕飯持っていきます』とだけ書かれており既に確定なのが恐ろしい所である。

 

「まぁぶっちゃけ助かってるんだけどよ」

 

 先日大量のポイントを手に入れたとはいえ流石にこのままじゃ良くねぇっていう自覚はある……あるんだが……。

 

「うめぇ~!」

 

「はいはい、ありがとう、おかわりもあるからね」

 

 いっそこのまま一之瀬の好意に甘えてしまおうか、と思わせる位コイツの作る飯は旨い。今もカレーライスinハンバーグを頬張り既に2皿目に突入しようとしていた。結局自分の中で答えが出せないままカレーを食べ終えた俺はだらしなく横になり、一之瀬はシンクで洗い物をしている。構図は完璧にぐーたら親父と母ちゃんだな。

 

「やっぱり部活大変なんだね、私のクラスの渡辺君も大変だって言ってたよ」

 

 この渡辺って奴は俺達が入部した次の日に入部してきた奴だ、野球部1年生の仲は比較的良好と言って差し支えないだろう。1年生全員とは連絡先を交換したし同じ苦労を共にしているから部活中に話もする。いくら部活が実力主義といってもマネージャーがいないウチは雑用の殆どを1年生でまかなっているため負担は大きい、そのため変な連帯感が生まれる。

 

「部活も大変みたいだけど荻野君クラスはどうなの?」

 

「んあ?あー……まぁぼちぼちってとこだな」

 

 なんて言ってるがぶっちゃけ人間関係は大して広がっていないのが現状だ。昼飯は大体須藤とおまけの池、山内と食べたまに綾小路と行くくらい。クラスで人気者の地位を確立しつつある平田(自己紹介を主導していた爽やかイケメン、名前は池経由で聞いた)と櫛田(池経由)、軽井沢(これも池経由)ともそんなに話さないしな。アイツ等の周りには常に集団が出来ておりとてもじゃないがこっちから話し掛ける気にはならねぇ、変なやっかみとかめんどくせぇし何よりクラスの大部分はまだ初日のアレで俺に良い印象持ってねぇしな。これは須藤もなんだが俺達のクラス内での立ち位置は触らぬ神にたたりなし、って状態だろ。

 

「そういう一之瀬学級委員長様はどうなんだよ」

 

 まぁコイツの場合聞くのもバカらしいが、というご期待通り一之瀬は既にクラスの中心人物になっているらしくその交友関係は他クラスまで伸びているらしい。マジでどうやったらそうなるんだよ。

 

「難点なのはまだ広く浅く~って感じかな……あっ!でも神崎君とは最近よく話すかなぁ」

 

「おっ!男の名前!遂にお前にも春が来たな」

 

「だったら今ここにいないよ~、分かってて言ってるでしょ~」

 

 まぁそりゃそうか、彼氏とかそれに近い関係の異性がいたら態々俺の部屋に飯作りになんて来ねぇわな。

 

「そういう意味じゃ荻野君が1番だから安心してよ」

 

「何を安心すんだよ、ったく……しっかし入学して10日間位過ぎたがウチのクラスの連中は結構ポイント使いが荒ぇみてぇだな、この前もゲーム機買ってもうポイント半分もねぇって言ってる奴もいたしよ」

 

「そう思うなら注意してあげなよ、私のクラスは一応呼び掛けてるよ」

 

「つってもなぁ……アイツ等俺の話なんて聞きやしねぇし」

 

 一応仲の良い奴等にはそれとなーくポイントの使いすぎには注意しろって警告はしたが素直に受け取ったのは綾小路くらいなもんで、特にウチのDクラスは部活に入ってる奴が少ないから放課後は遊び三昧みてぇだな。まぁ冷めてるかもしれねぇけどそこは自己責任って奴だ、まさか来月ポイントが全く貰えないって事も無いだろうし……ねぇよな?

 

「なぁ一之瀬」

 

「ん~なに~?」

 

「まさか来月ポイントが全く貰えないって事はねぇよな?」

 

「流石にそれはないと思うけどな~、あるとしたら相当な問題を起こした人とか位じゃないかな?」

 

 成る程な、確かにその線はありそうだな。まっ、それなら今のとこ野球に励んでる俺には無縁の話だろ……いや初日のアレは……うん、大丈夫だろ、多分。

 

「クラスって言えば荻野君のクラスはどうなの?授業態度とか」

 

 

「あ~控えめに言って最悪だろうな」

 

 日を追う事にクラスの授業態度は悪くなる一方だ。ここの教師はマジで生徒の授業態度を一人たりとも注意しねぇ……高校だから留年もあるんだし筆記テストに自信がねぇなら授業態度で点数稼いでおいた方が良い気もすんだけどな……あれ?オイちょっと待てよ……。ここで俺はある事に気付いて背中に冷や汗が流れるのを感じる。そういや1年で留年した奴がいるなんて話聞いた事ねぇぞ。

 

「なぁ一之瀬、お前のクラスに留年したっつー奴とかいるか?」

 

「えっ……そう言われてみると聞いた事ないね、留年の人がいるって話」

 

「だよなぁ……でも普通に考えりゃ1学年に1人位留年した奴とかいてもおかしくねぇよな?」

 

「まぁでもここ進学校だし、あんまりそういうのないんじゃない?」

 

 そんなもんか?とてもじゃないがウチのクラスの状況を見るとそうは思えねぇんだが……明日茶柱先生に確認してみるか。

 

「もーどうしたの荻野君、今日は変だよ?」

 

「確かにな、疲れてるからかもしんねぇ……」

 

「そうだね、今日は早めに寝ときなよ、それじゃ私はお暇するね」

 

「おー、あんがとよ……またな」

 

「おやすみなさい、荻野君」

 

 一之瀬の背中を見送りつつ俺は寝間着に着替えてベッドに横になり目を瞑るがみょーにさっきの会話が引っ掛かるっつーか目が冴えちまって眠れそうにねぇ。こういう時話せそうな一之瀬にはさっき話しちまったし、須藤も池、山内は論外だしなぁ……となると残されているのは一人しかいねぇか。俺はチャットアプリを開いて目的の奴へチャットを送る。

 

『綾小路今時間あるか?』

 

 これで寝てたり遊びに出てたりしたらしゃーねか、と思ったがチャットを送って1分もしないうちに既読が付いた。アイツ暇なのか?どちらにせよ俺からしたらありがてぇ限りだ。

 

『時間ならあるがどうした?』

 

『ちょっと話してー事あんだけど電話いいか?』

 

『構わないぞ』

 

 綾小路から了解を得た俺は連絡先から綾小路を選び電話を掛ける、数コールの後綾小路は電話に出るのだった。

 

Side綾小路清隆

 

 入学してから時が過ぎるのは早いもので10日程の期間が過ぎた。とてもじゃないが俺の高校生活は順風満帆とは言い難い……が幸い話せる間柄の友人は出来た。そんな最初に最初にして我が最大の友人荻野吾郎からチャットが飛んで来たのは暇をもて余していた21時過ぎた位の時間だった。

 

『綾小路今時間あるか?』

 

 最近は荻野も部活で忙しいらしく学校の休み時間位しか話さないのだが今日は珍しいなと思いつつ俺の友人一号のためならいくらでも時間を作る、それが友人としての努めという奴だろう。

 

『時間ならあるがどうした?』

 

『ちょっと話してー事あんだけど電話いいか?』

 

 ふむ、この荻野吾郎という男勘が良いというか着眼点が良いというべきか、発想は常識の範囲内だが何かと気付く男だ。現に茶柱の最初の説明から支給されるポイントに疑問を抱きポイントの節制を呼び掛けている。そういう意味では堀北と上手くやれそうだが、堀北が人と関わる気がないからなぁ……まぁそっち系統の話じゃなくて雑談でもウェルカムだが。

 

『構わないぞ』

 

 チャットを返信するとすぐに携帯端末に荻野から着信が入ったため俺は通話ボタンを押す。

 

『もしもし、わりぃな急によ』

 

『チャットでも言ったが構わないぞ、俺も暇してたしな』

 

『いやよぉ、ちょっと気になる事があってな、別のクラスの知人にも話してみたんだけどちょっとお前の意見も聞きてぇなと思ってよ、こういう話は須藤とか駄目だかんな』

 

 成る程やはりそっち系の話か、確かに荻野の言うとおり須藤達は今の学校の現状に疑問を抱かずかなり楽観的な考えを持っているからな、それで俺にお鉢が回ってきたという事だろう。

 

『それで、気になるっつーのがよ普通の高校って留年とかあるよな?その割には留年したっつー生徒の話を聞かねぇからよ、一学年に何人かいてもおかしかねぇだろ?』

 

 俺には普通の高校というものがどんな物かは分からないが荻野が言うならばそうなんだろう。ここは無難に話を合わせておくか。

 

『確かに、そういう生徒が居れば噂になってもおかしくないな』

 

『だろ!?しかもここってみょーに羽振りがいいしよぉ……まさか留年なんて存在しなくて例えばテストで赤点とったら一発退学とかねえよな……とか考えたりしてよ』

 

 成る程、留年という着眼点からその発想に至るか、普通がよく分からない俺には無い発想だな。だがここは有数の進学校だ、そう考えれば留年生は珍しいのではないかという発想も出来る筈だ、その事を俺が話すとその発想は荻野の知人とやらが至っていたらしい。ふむ……成る程。

 

『だがお前の考えてる事は全て悪い予想が当たって積み重なったらの話だ、須藤程とまでは言わないがもう少し気楽に考えてみてもいいんじゃないか?』

 

 等と心にも思っていない事を言ってみる。しかし荻野からはどこか焦りに近い感情を感じるな、それほどまでに退学を恐れる理由があるのだろうか?と言いつつ俺も退学だけはごめん被るのだが。

 

『あー、まぁそうかもな、わりぃな……面白くもない話に付き合わせてよ』

 

『まぁ荻野は部活で大変だろうしな、気分が落ち込む時もあるだろう、そういう時は思考も悪い方向に進むものだ、また話位なら聞くからいつでも連絡してくれ』

 

『おう、サンキューな綾小路、また明日学校でな、おやすみ』

 

『おやすみ』

 

 通話が切れた事を確認すると俺は携帯端末に充電器を差し込み時間を確認する。どうやら思ったより話し込んでいたらしく時計の短針は10を示していた。しかし内容はどうであれ友達と長電話というのは青春の醍醐味という奴だろう。明日はもっと良い日になりますように、と俺はベッドに身を預け眠りにつくのだった

 

綾小路Side out

 

翌日

 

 野球部の朝練を終えた俺は欠伸を噛み殺しながら教室に入ると何やら男子達が集まっており騒がしい。それを見ている女子達の視線がこえーのなんの。アイツ等何やってんだ?そんな事を考えながら席につくと池が俺が登校したのに気付いたようで声を掛けてきた。

 

「荻野、お前も来いよ!今クラスの中で誰が1番巨乳か賭けてんだ、一口1000ポイントだ、お前もやらねぇか!?」

 

 コイツ……恥とかそういう感情がねぇのか?しかし成る程、これで合点がいった。そりゃ女子達の視線も厳しい訳だ、それも朝から堂々とクラスの真ん中でやるなっての。

 

「俺はやめとくぜ、クラスの女子はよくわかんねーし、何より金欠だからな」

 

「んだよノリわりぃな~!」

 

 言い訳としては拙いがこんなもんでいいだろ、池も俺が断るとそれ以上は追及してこず集団の中へと戻っていった。何でアイツ等今日になってあんな事してんだ……あぁ……そういや今日の体育は水泳とか言ってたな。しかしまだSHRまで時間があるな、ちょっくら綾小路のとこで暇でも潰すか。

 

「よっ綾小路おはよーさん」

 

「おはよう荻野……大丈夫か?昨日あんまり寝れなかったのか?」

 

「あぁ……まぁ俺の良くない癖でな、心配事があると眠りが浅くなるんだよ」

 

 起きた時に鏡を見たら目の下に隈が出来てたからな、意外と綾小路は人をよく見てるみてぇだな。

 

「昨日も言ったがあんまり考え過ぎるなよ」

 

「あぁ、授業中寝ねぇように気をつけてねぇとな」

 

「意外……と言ったら失礼かもしれないが荻野は授業は真面目に受けるんだな」

 

「そりゃ授業聞いとけばとりあえず赤点はねぇからな、テスト勉強のために部活の時間削んのもやだしな、っとそろっと時間か……邪魔したな」

 

 その後俺は襲い来る睡魔と格闘しつつ何とか午前の授業を乗りきり昼休みを迎える。隣でイビキをかいて寝ている須藤を半目で睨みつつ自分の疑問を解消すべく職員室へと向かった。

 

「失礼しまっす、茶柱先生はいますか」

 

 そう言って職員室内を見回すが今回は残念ながら茶柱先生の姿はなかった。どうしたもんか、出直すか?と困っているとセミロングの髪にウェーブをかけた一之瀬のクラス担任である星之宮先生が俺に話し掛けてきた。

 

「あら?ゴメンねサエちゃん今日の昼休みは外せない用事があるみたいなのよね~」

 

「まじっすか……しゃーねぇ明日にすっか」

 

「私で良かったら用件聞こうか?何聞きたい?彼女の作り方とか?」

 

「いや、ここって留年とか退学とかの基準ってあんのかなって思って聞きに来たんすけど」

 

 俺が用件を言うと普段ふわふわした雰囲気の星之宮先生からは想像もつかないような鋭い目付きになる……がすぐにいつもの星之宮先生に戻った。何だってんだ一体?

 

「ごめんね~先生的には答えてあげたいんだけどそれはやっぱりサエちゃんに直接聞いた方がいいかも~もしだったら私から伝えておこっか?」

 

 あ?何で茶柱先生に聞かなきゃなんだ?それに答えてあげたいんだけどって事は答えられねぇって事か?訳わかんねーな。

 

「じゃ、お願いしますわ、すんませんね」

 

「お役に立てなくてごめんね~」

 

「んなことないっすよ、それじゃ失礼しますわ」

 

「また遊びに来てね~!」

 

 また遊びに来てねって遊びに来たわけじゃねぇんだけどな、つうか遊びに来たら相手してくれんのかよ星之宮先生は……いやあの人ならしそうだな、勘だけど。結局俺の疑問は解消されるどころか謎を深めて終わっちまったが、まぁしょうがねぇ。とりあえず切り替えて飯にでもすっか。俺は購買でおにぎりと牛乳を買って教室に戻ると何故か分からないがDクラスが騒がしい。今度は山内辺りがセクハラでもしたか?と思いながら教室のドアを潜ると人だかりの中に一之瀬がいた。こ、コイツ……本当に俺のクラスまで来やがった……あーあ、こりゃ後がめんどくせぇぞ。一之瀬は教室の扉を開けた俺を見つけるとこちらへとやって来る。

 

「あっ!やっと帰って来た!遅いよ、もう~!」

 

「どうしたんだよ、何か用か?」

 

「お昼、それじゃ足りないでしょ?はいお弁当、容器は洗わないでいいから、またお部屋行った時に貰うね、それじゃ!」

 

「お、おう……サンキュー」

 

 昨日の様子から俺が昼飯適当にするって予想してやがったなアイツ……しかも最後に爆弾発言まで投下しやがって……。

 

「お~ぎ~の~!お前彼女いたのかー!」

 

「テメェ~!何だあの美少女はー!女に興味ないってのはウソだったのかー!後部屋に行くってなんだ!」

 

 そらきた、池と山内は俺を囲むように机の周りを陣取る。やめてやれよ、俺の前の席の地味眼鏡(隠れ巨乳)ちゃんがすっげー迷惑そうにしてるじゃねぇか。

 

「うるせぇ!一之瀬は中学の時からの腐れ縁だよ!」

 

「ウソつけ!荻野の彼女ですか?って聞いたら否定はしなかったぞ!」

 

「それに部屋にまで入れる仲で知人は無理があるだろ!なぁ!?なぁ!?えっちしたんか?したんだよな!?感想聞かせろー!」

 

 な、何てしつこい奴等だ……俺は無視を決め込み休み時間が終わる前に弁当を食う事に集中した。途中山内がおかずを取ろうとしてきたので箸で手を刺してやった、ざまぁねぇぜ。

 さて午後の授業は5限目6限目と連続して体育となっておりプールの授業だ。しかし流石というべきか何と言うべきか学校内に温水プールを完備している学校などここを除けば日本中を探してもそうはないだろう。そして忌々しい事に一部男子のテンションは最高潮に達しており池は「櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん」と呪文のようにクラスメイトの名前を呟いている。俺はそんな男子達から避難し比較的そういった事に興味のなさそうな綾小路と須藤の元へ避難する。

 

「しっかし煩くてかなわねぇな」

 

「同感だ、あれじゃあ他のクラスメイトもいい気分じゃないだろう」

 

「わかっちゃいたけど荻野、お前すげぇ体してんな……てか聞きにくいんだけどよ、その傷……」

 

 須藤はどこかバツの悪そうに俺の体にある無数の傷を指差している。確かに見てて気持ちのいいもんじゃねぇわな。

 

「あぁ……俺ァか弱いいじめられっこだったからな、そんときに出来た傷だよ」

 

「わ、わりぃ……」

 

 須藤は謝ってくるがこんなもんは過去の物だし俺自身大して気にしちゃあいない。その事を伝えると須藤は「そうか」と短く返事し俺達の間に変な空気が流れる。つか綾小路、なんだその目は?俺がいじめられてたってのがそんなに信じられねぇか。そんな俺等の変な空気を取っ払うかのように男子達からは悲鳴にも似た歓声が聞こえてくる。

 どうやら女子達が水着に着替えてきたようだが……少なっ!まぁそりゃ教室であんな事されりゃあ見学する奴の方が多いのが道理か。そんな男子達から避難するように2人の女子生徒がこちらの方へやってくる。一人は池の彼女(妄想)の櫛田桔梗、もう一人はなんつったかな綾小路の隣の席の……そう堀北だ。

 

「三人とも凄いね、運動部の2人は分かるけど綾小路くんも何かやってたの?」

 

「いや、別にそんな事はないが」

 

「ふぅん、それならその体に産んでくれた親御さんに感謝する事ね……あら、荻野君その傷……」

 

 またこの流れかよ……と俺は若干辟易しつつ再度自分がいじめられてた事をカミングアウトすると2人に謝られた。綾小路がボソッと「良かったな荻野、堀北が謝るなんて相当レアだぞ」と言っていたが堀北に背中をつねられていた。ふとそんな時視線を感じたため視線の主を探すと見学組の軽井沢が見学用施設の2階から俺を信じられないような物を見る目で見ていた。何がそんなに衝撃的だったのかは分からねぇが俺が軽井沢の方を見ている事に気付くのも相当遅く俺の視線に気付いたらサッと視線を逸らしていたがそれでもチラチラと横目で俺の体を見ている。バレバレだっつーの、なんだアイツの好みはマッチョマンなのか? 

 

「よーしお前ら集合しろー」

 

 いかにも体育会系のマッチョの教師がクラスの生徒を集め点呼を行う。見学者の多さに難色を示していたがクラスの役半数が見学ともなればそういう反応も仕方がないだろう。全員が正当な理由の見学でないことは明白だが体育教師はそれを咎める事はしなかった。

 

「それじゃあ早速準備運動をした後泳いで貰うぞ、お前らの実力も見たいしな」

 

 体育教師が似合うんだか似合わないんだかニカっと白い歯を出して笑う。その時1人の男子生徒が手を上げ泳げない事を告白するが安心しろ、それでも授業に参加したお前は見学組よりは立派だと俺は思う。

 

「そうか、だが俺が必ず夏までには泳げるようにしてやるから安心しろ!泳げるようになれば必ず役に立つぞ、必ず……な!」

 

 何で二回も言うんだよ、体育教師の言動に疑問を抱きつつ準備運動をした後流しでいいから50m泳ぐよう指示される。プールは冬に体を鍛えるために行って以来だなと思いながら入水すると適温でちょうどいい温度だ。俺は軽く全身の状態を確かめるようにゆっくりと泳ぐ。睡眠不足のためか多少体はだるいがまぁ泳ぐ分には問題ねぇだろ。全員の生徒が泳ぎ終えてプールサイドに上がると再度集められ体育教師からある提案がなされる。

 

「よし、それじゃあ早速競争をしてもらうぞ、男女別50m自由型だ」

 

「競争!?まじすか!?」

 

「あぁ!だが一位になった生徒には5000ポイント支給しよう、だが逆に1番遅かった奴は補習を受けて貰うから覚悟しろよ!」

 

 ほーん、こんな形でポイントを貰えたりすんのか、多いんだか少ないんだか分からねぇがこれなら生徒のやる気向上にも繋がるだろうし悪くはねぇな。今日見学してる奴等もこれなら次回以降の授業も出てくる奴は増えそうだ。形式としては女子は見学者が多いため2組に別れて1番タイムが早かった奴が優勝、男子はタイムが早かった上位5名で決勝を行うらしい。まずは人数の少ない女子から行うらしく男子生徒はプールサイドで見学となる。

 

「櫛田ちゃーん!頑張れー!」

 

 女子の中で1番声援を受けているのは櫛田でちょっと他の奴が不憫になる位だ。誰か別の奴も応援してやれよ。さて男子達は女子のタイム等気にせず泳ぐ女子の姿に釘付けだが知ってる所で言うと堀北が2位、櫛田は4位、そして水泳部らしい女子がぶっちぎりで1位だった。まぁそうなるわな。続いて男子の出番となる。俺と一緒のグループには須藤がいた。

 

「へっ荻野!お前には負けねぇぜ」

 

「ほーん、言っとくが俺は泳ぎはちと得意だぜ?」

 

 俺と須藤の間にバチバチと火花が散る中教師の笛の合図で一斉に飛び込む。俺と須藤のタイミングはほぼ互角、だが前半はやや須藤がリードする展開となる。コンニャロー、勝負を仕掛けてくるだけあって結構やるじゃねぇか!だが決定的だったのは25m地点でターンしてからだった。須藤はターンに若干もたついていたが俺は素早く壁にタッチすると勢いそのままにグングンと須藤との差を縮め残り10m付近で追い越す。須藤も負けじとペースを上げるが俺もラストスパートを掛けゴールする。体育教師は手に持ったストップウォッチを見て驚愕していた。

 

「荻野、須藤……二人とも25秒きってるぞ、磨けば光る、我が水泳部にどうだ?」

 

「バカ言わないで下さいよせんせー、俺は野球一筋の野球バカですよ」

 

「俺もバスケバカなんで、水泳は眼中にないっす」

 

 恐らくだが教師の反応的に俺と須藤は決勝進出確定だろう。須藤もそのつもりのようで決勝では負けねぇとリベンジを誓っていた。さて次のグループは我等がクラスのイケメン王子様こと平田の番だが女子からの歓声が凄まじい。櫛田に負けず劣らずクラスの女子の殆どが平田に声援を送っている。結果は頭ひとつ抜けて平田が早くゴールしタイムは26秒、平田が1位だったのが女子からは「きゃー!」と黄色い声が聞こえてきてうるさいことこの上ない。池と山内は俺と須藤に決勝で必ず平田を倒せと命令してきたがやりたきゃお前らがやれ。

 続くグループでは何故かブーメランパンツの水着を着用した金髪の生徒高円寺の出番となる。筋肉だけで言えば俺と須藤よりも勝っており思わず男女問わずその完成された肉体におぉ……と驚嘆の声を上げる程だ。そしてその肉体に違わず高円寺はダイナミックなバタフライを披露しぶっちぎりの1位でゴール。タイムも23秒22と規格外の数値を叩き出していた。続くグループでは綾小路がいたがアイツは平均より少し早い程度のタイムを叩き出していた、アイツならもう少し早い気もするのだが水泳が苦手なのだろうか?

 何はともあれ迎えた男子の決勝戦女子の意識は完全に平田だがレーンに並ぶ男子生徒は俺、須藤、高円寺、平田、もう一人は名前は分からねぇ奴。事実上三つ巴の決勝戦の火蓋が切って落とされる……が高円寺が圧倒的に早い。早い段階で俺と須藤は差を付けられるがどうにか差を広げられないよう食らいつく。高円寺は俺達等眼中にないようで更にスピードを上げていく。半分が過ぎた所で須藤は完全に落ち俺と高円寺の一騎討ちとなる……がいかんせん差が縮まらねぇ!

 

「頑張れー!荻野くーん!」

 

 女子達からの声援を受けラストスパートを掛けるが高円寺に2m程差を付けられ俺は敗北した。プールサイドに上がり息を切らした俺に高円寺が声を掛けてくる。

 

「中々やるじゃないかベースボールボーイ、少し本気を出してしまったよ」

 

「けっ!負けは負けだ、完敗だよ」

 

「フッ、敗北を素直に認められるのは美しい事だ、それではアデュー」

 

 高円寺は髪をかきあげながら去っていく。野郎何が本気を出しただ、全然余裕そうじゃなねぇか。俺が息を整えていると綾小路と櫛田が駆け寄ってくる。

 

「惜しかったな荻野」

 

「凄いね荻野君!大接戦だったね」

 

「んおお、サンキューな二人とも……まぁ負けちまったのは素直に悔しいけどな」

 

 タオルで体を拭いていると櫛田と話してたのが気にくわないのか単に嫉妬からくるものなのか池と山内が絡んできやがった。

 

「荻野テメー!櫛田ちゃんに何話し掛けてんだよ!」

 

「お前には一之瀬ちゃんがいるだろ!?俺達から櫛田ちゃんまで取り上げんな!」

 

 相変わらずぶれない奴等だ、見ろその愛しの櫛田なんか笑っちゃいるがひきつってるぞ。そんな一幕を挟みつうこうして水泳の授業は終了し俺達は着替えに戻るのだった。そういえば軽井沢はなんだったんだろな、俺の自意識過剰か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。