5月1日
今日は月初め、つまりポイントの支給日、俺は朝起きて携帯端末のアプリでポイントの残高照会を行うとポイントは昨日確認した額から変わってない、そうつまり増えてねぇって訳だ。
「普通なら振り込み忘れとか学校側の不備を疑うんだがな」
勿論その可能性だってまだ無いわけではないが茶柱先生のあの口振り的に俺達は支給されるポイントがなかったと考えるのが妥当だろう。そう……俺達だ、ポイントが支給されていない……いやこの場合増えてないと言った方が正しいのか、俺だけでないというのは確かだろう。それが学年単位かクラス単位かは定かじゃないが……俺は一之瀬にメールでポイントが振り込まれたか聞くと『振り込まれてるけどやっぱり先月より少ないね』とソッコーで返信が来た。アプリのクラス内チャットでも既にポイントが振り込まれてないと騒いでる生徒が多数見受けられる。
「ちっ……これで決まりだな、支給されるポイントはクラス毎に違ぇって訳だ」
そして俺達Dクラスがポイントを支給されない心当たりと言えば遅刻や欠席、授業態度……挙げればキリがない程に思い当たる節がある。前に一之瀬のクラスの話を聞いた時概ね授業態度は良く、遅刻や欠席もほぼないと言っていた、あと考えられるなら要因としたら昨日の小テストだがそれにしてもそれだけでポイントを決めるとは考えずらい。
「あー!駄目だ!考えたらキリがねぇ!俺ァ元々こういう考えるとかそういうのは向いてねぇんだ!」
決めた!こうなったらさっさと学校に行って誰かと話ながら考えよう、俺一人で部屋の中でうだうだしてる位ならそっちのがよっぽど建設的だ。
つー訳で俺は学校へとやって来ていた。こういう話が出来そうな奴は限られてくる、そしてそん中から更に頼りになりそうな奴と言えば……よし相変わらず真面目ちゃんなのか早く来てくれてて助かるぜ。
「おっす堀北」
「あら?綾小路君もいないのに貴方から私に話掛けてくるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」
ま、確かに堀北の言うとおり俺と堀北のうっすーい交友関係は綾小路を通してしかないものだがそれでもコイツ自身何となく俺が話し掛けてきた理由は察してるのだろう。ただ何故自分なのかが分からないんだろうけどな。
「まぁ大方ポイントの事なんでしょうけど、災難ね……学校側のトラブルでポイントの振り込みがされてないなんて」
「本当にそうだと思うか?」
俺がそう言うと堀北は目をスッと細める。ったく心にもねぇ事言いやがって、さては俺の事を試しやがったな?
「……他のクラスメイトよりは察しが良いみたいね、こう言ってはなんだけど少し驚いたわ」
「だろうな……俺もそう思うよ」
「でも今知り得る情報じゃあどれも憶測の域を出ないでしょう、つまりこの時間は無駄という事よ」
「そりゃそうかもしんねぇけどよ……」
「ならこの話は終わりね、先生から説明があるでしょうし……私無駄な事は嫌いなのよ」
といった感じに話は強引に堀北によって打ち切られてしまった。堀北の言うことは分からなくもねぇけどそれにしたって淡白過ぎんだろ、チッ……こんな時だけ堀北を当てにした俺のむしがよすぎたか?にしたってアイツはこう……なんつーか協調性みたいなのがあってもいいんじゃねーのか?それとも俺ごときが考えてる事なんてアイツは既に考えが及んでるってのかよ。
当てが外れた俺は自分の席に戻り朝のHRが始まるのを待っているとDクラスのクラスメイト達が次々に登校してきてはポイントが振り込まれてない!学校側の不備だ!と騒ぎ立てている。特に男子の中だと池と山内のバカコンビがポイントをかなり使ったらしくジュースも買えないと言っていたからほぼ全てのポイントを1ヶ月の間で使いきった事になる。そして池と山内程とは言わないがそれなりにポイントを吐き出したのはどうやら女子生徒が圧倒的に多いらしい、まぁ身なりとかに金を使えば10万でも足りねぇ位だろうからな。
そんな追い詰められてる筈なのにどこかふわふわとした雰囲気のまま朝のSHRを迎えた。教室にやってきた茶柱は手に筒状に丸めた大きな紙を持っている。雰囲気も昨日の生活指導室でのそれだ、まったくこれからの事を考えると頭が痛くなるぜ。
「さて、これから朝のSHR、続けて一時間目のLHRとなる訳だが……何か質問のある生徒は?」
分かりきってる癖に白々しいったらありゃしねぇ。当然された質問はポイントが振り込まれてない旨の質問が飛び交うが茶柱先生はさも当然の如くポイントは振り込まれてると答える。ったく意地が悪いのか、それとも質問の仕方が悪いのか、気は進まねぇが仕方ねぇ……俺が質問をするか。
「先生、じゃあ俺達は何ポイント振り込まれたんですか?」
俺のした質問に顔色を変えたり何かに気がついた生徒の数はざっとみても片手で足りる位か。大多数の生徒は俺の事をはぁ?とでも言いたげな表情で見ており山内に至っては「こんな時にくだらねぇジョークいってんじゃねぇ!」と俺を非難する声を上げている。そんなクラスの現状を見て茶柱先生は呆れたように大きな溜め息を吐いて話始める。
「まったくこれだけ荻野が分かりやすいヒントを出しても気付いたのが数人とはな、嘆かわしい事だ」
「ハッハッハッハ!成る程ねぇベースボールボーイ、つまり君は私達に支給されたポイントは0なんじゃないか?そうティーチャーに聞きたいのだろう?」
長い金髪をオールバックにした高身長のキザったらしい生徒、高円寺が自分の爪を研ぎながら愉快そうに俺に話し掛けてくる。俺は高円寺に対して頷くとクラスメイトから声が上がった 高円寺の言葉に一瞬クラス内は静まり返る、がすぐにクラスメイト達は口々に自分達の意見をぶつけてくる。
「は?何を言ってるんだ?」
「毎月10万ポイント振り込まれるって」
「私はそう聞いた覚えがないな、君もそうだろうベースボールボーイ」
「あぁ……その通りだ」
俺と高円寺のやり取りにクラスメイト達は絶句する、ここまでくれば今自分達がどういう状況に置かれているか嫌でも分かるってもんだろ。だがまぁここで大人しく事実を受け入れられば俺達のポイントは0になってねぇっつーか、人間こういう時は自分のせいじゃない、自分以外の誰かが悪いと責任転嫁したがるもんで俺はクラスの連中に責められた。
「ふざけんなよ荻野!お前何で……何でこんな状態になるまで黙ってたんだよ!」
「貴方が私達に教えてくれればこんな事にならなかったじゃない!責任取りなさいよ!」
「お前みたいな奴がクラスにいるなんて信じられねぇよ!」
おーおー、出るわ出るわ罵詈雑言の雨嵐、仮に忠告して俺の言うこと何か聞く耳もったのかよ、と言い返したい所は山々だが昨日茶柱に言われた通りだ。俺は気付くのが遅すぎた、まぁそれが責任っちゃあ責任なのかもな。つーか山内、テメェにはポイント節約しとけってそれとなく言ってやっただろーが、何便乗して俺の事責めてやがんだ。
しかし意外な所から助け船が出されるもんでこの惨状を諌めたのは茶柱先生だった。
「そう荻野を責めてやるな、こいつがその可能性に至ったのはつい最近だ、最も0になるとは流石に予想出来ていなかったみたいだがな」
茶柱先生の言葉に続き間髪いれずに平田が挙手をして茶柱先生にポイントが振り込まれなかった理由を聞く。
「遅刻欠席合わせて98回、授業中の私語や携帯に触った回数が390回、お前達は義務教育で何をしてきたんだ?」
茶柱の言葉に俺は違和感を覚える、遅刻や欠席の数を正確に把握してんのは分かる……だが何で授業中の態度まで正確に把握してやがんだ?確かに教師達は授業中何かをチェックしている様子はあったが……それにしたって390なんて数字は出てこねぇだろ……適当に数字を吹いたって線も茶柱先生の様子からなさそうだ。
「この学校ではクラスの成績がポイントとして反映される、その結果お前達は支払われる筈だった10万ポイントを全て吐き出したという訳だ、どうだ?納得がいったか?入学式でも説明されたし資料にも書いてあっただろう、この学校は実力で生徒を計ると……つまりお前達の評価は0という事だ」
だが平田は茶柱先生の説明に納得が出来ないと更に食ってかかるが結局茶柱先生は正論と常識で説き伏せていき、平田は無力そうに唇を噛みしめながら着席した。
まぁそりゃそうだわな、無断で遅刻や欠席をしない、授業を真面目に聞く、学校という場では言われるまでもなく守らなきゃいけねぇ事だ、それを守らないで納得出来ませんもクソもあったもんじゃねぇ。
問題はこの評価が授業態度の改善によって回復するかどうかだ……もっとも当たり前の事を当たり前にするってのは実力以前の問題だとか抜かしてポイントは増えなさそうなもんだが。
「お前達に1つ良いことを教えてやる、遅刻や欠席、授業態度を改めてもポイントが増える事はない……が変わりにそれを続けても減ることはない、どうだ?覚えておいて損はないぞ」
そう茶柱先生は不敵に笑いながら言い放つ。この人仮にも教師だろ、なんつー事いいやがるんだ。見ろ……隣の須藤なんて「そりゃそうか」とか呟いてその気になっちまってるじゃねぇか。
「さて、本題に移ろうかこれを見ろ」
茶柱先生は持ってきていた筒状に丸めた紙を広げると黒板に貼り付ける。そこに記されていたの恐らく先程茶柱先生が言っていたクラスの成績とやらだろう。上からAクラス940ポイント、Bクラス650ポイント、Cクラス490ポイント、Dクラス0ポイント……
成る程この学校では優秀な生徒順にクラス分けをしたって事か。
確かに中学までの俺の評価なんてひでぇもんだろう、勉強も出来ない、部活も半年で辞めてる、かといって真面目とは言い難くそれを補うような何かも無い。平田もどうやらそれに近い事を気づいたようで再度茶柱先生を問い詰める。
「ようやく理解してきた奴も出てきたか……何故自分達がDクラスかという事を」
「何で私達がDクラスか?」
「そんなの適当な理由以外あんのか?」
「普通はそうだろ」
だが多くの生徒は平田の質問、茶柱先生の言葉の意図をつかみかねているようで口々に一般論を話すがここはその普通ならってのが通用しねぇみてぇだ。
「この学校では優秀な生徒からクラスに分けられている、分からないか?優秀な生徒はAクラスに、逆にそうでない生徒はDクラスに、つまりお前らは不良品の寄せ集めという事だ」
「くっ……だからこそこの順番という事ですか……」
平田は苦々しい表情でクラス別の成績表を見てそう口にする。
しかし平田、櫛田、堀北辺りはDって事はなさそうなもんだが……学力や運動能力だけで判別されてないって事か?それともそれを補って余りある程の欠点があるとかか?実は元ヤンだったり……自分で考えといてなんだけど多分ねぇな。
「まぁ歴代のDクラスの中でも最初の1ヶ月で全てのポイントを吐き出したのは貴様等が初めてだ、おめでとう誇っていいぞ」
茶柱先生はそう口にしながらわざとらしく拍手をするがそれを憎々しげに見つめていた須藤は遂に我慢の限界がきたのか声を張り上げる。
「つまり俺等はこれからずっと他の生徒に馬鹿にされ続けるって訳かよ!」
「ほう?お前でもそのような体裁を気にするとはな須藤、なら頑張って上のクラスに上がる事だな」
って事はこれからクラスポイントを増やす機会があるって事か?俺がそう茶柱先生に質問すると茶柱先生は肯定した、もっとも増やせるものならなと余計な一言まで頂いてしまったが、とりあえず何かしらの方法で結果を残せばそれを学校が評価しクラスのポイントに反映されると見て間違いはねぇだろう。卒業まで0ポイントという最大の危機はどうにか免れたようだぜ。
「さてもう1つお前達に伝えなければいけない事がある、むしろ学校的にはこちらが本題とも言えるがな」
そう言って茶柱先生は先程の紙を取るともう一枚の紙を貼る。今度はDクラスの生徒の名前の横に二桁の点数が書いてある、どう見ても先日の小テストの結果である事は間違いないだろう。
「まぁ見ての通りこれは先日の小テストの結果な訳だが……揃いも揃って粒揃いだな、平均点は65点、こんか基礎中の基礎問題だらけのテストでだ、お前ら中学校で何を学んできたんだ?」
俺の名前は……下から数えた方が早ぇな、英語と国語、社会は50点前後だが数学、理科は壊滅的だな……我ながら泣けてくるぜ。今回のテストの平均が65点だから平均点は32点か33点ってとこか?多分32点か……俺の理科の点数がギリギリ32点、そしてご丁寧に31点以下の点数をとっている生徒の名前の下には赤いラインが引いてある。結構えげつねぇ事すんなオイ。
「これが本番なら7人は退学していた所だ、良かったな入学早々そんな事態にならなくて」
うっわ……何とか免れてはいるが俺もデッドゾーンすれすれじゃねぇか。須藤なんて14点とかあるし……こりゃ俺達は勉強に本腰入れねぇとやべぇかもな。
しかし他の生徒も声を上げられないってのはこの事か、特に赤点ラインの生徒は顔を青くして震えている奴まで居やがる、気にしてねぇのは須藤くらいなもんだ。
「それからもう1つ、この学校は国の管理下の元運営されているため高い進学率と就職率を誇る、貴様等も何かしらの目的があってこの学校に入ってきたのだろう?だが残念ながらその恩恵を受けられるのはAクラスのみとなっている……まぁ世の中そんなに甘くはないという事だ」
逆にAクラスになれば保証してくれんのかよ……つってもこれは俺にはあんまり当てはまんねぇな。どの道俺の目標はプロ野球選手、それこそ野球の実力で入って通用しなきゃすぐにおさらばの世界だ。そのためにはAクラスに入る事よりもこの学校の野球部で甲子園に行く事の方が確率が高いだろう。
それに何もプロ野球選手だけの話でもねぇだろ、学校が望む進路を叶えてくれたってそれに見合う実力がなきゃどの道通用しねぇんだ、どっちかってぇとAクラスに上がる、もしくは維持する=どんな世界でも通用する能力が備わるって事じゃねぇか?だったらそっちの方が難しそうなもんだがな。
「さてお前らはが自分の置かれた状況を理解出来たならこの時間も意味があるだろうな……1限目の終了まであと30分か……私はこれで職員室に戻るとしよう、後の時間は好きに使え、最後になるが中間テストまであと3週間……必ず赤点を回避する方法はあると確信している、このクラスから退学者が出ない事を願っているよ」
そう言い残し茶柱先生は教室を出ていったが教室内はお通夜状態だった。だがその静寂を破ったのは幸村という眼鏡をかけた男子生徒だった。自分がDクラスに配属された事を認められないらしく癇癪を起こし授業態度の悪い生徒や今回の小テストの点数が悪かった生徒を責め立ている……まぁ完全に八つ当たりだわな。
流石にこれは見かねると思い俺が制止しようとする前に幸村に話し掛ける人物が現れる、高円寺だ。
「あまり見苦しい真似はよさないか」
「何だと!なら高円寺!お前は自分がDクラスになったことを認めるっていうのか!?」
高円寺は相変わらず爪を研ぎながら幸村の方を見もせずに自身を評価しきれなかった学校側に問題があると言い放つ。さらに自身は親の会社を引き継ぐためAクラスに興味がないとまで言い放った、流石にここまで言い切られては幸村も返す言葉がないようで大人しく席に座った……がブツブツと呟いている所を見るとまだ事態が飲み込めてないってとこか。その後平田から授業態度を改める事を提案、クラスの連中は一部を除いてそれを承諾、そして今後の事についてクラスの話し合いの時間を放課後に設けるから参加するよう提案してきた……がクラスの半数近い生徒はこれを拒否、結局集まるのは平田、櫛田、軽井沢を中心としたグループのようだ。最後に平田は俺の方を向いてきて参加を求めてくる。
「あぁ……いいぜ、話し合いになる限りは参加させてもらう」
「本当かい!?ありがとう荻野君!」
平田は心底嬉しそうに俺に感謝してくるが俺の内心は冷めていた。話し合いになりゃあいいけどな、特定の人物の悪口大会や傷の舐めあいになりそうな気がしなくもねぇが……俺は溜め息を1つすると入江に部活の参加が遅れる旨をメールする。しかし……どうなんのかねうちのクラスは……それに中間テストも……問題は山積みだな、まぁ一個一個解決してくしかねぇわな。