Reverse:1999 短編集   作:ぱる@鏡崎琴春夜

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コーンブルメとメラニアはうちの主戦力


盗み取る者と盗み聴く者

「相席いいかな?」

 お昼には少し早いのに席が埋まってしまっているカフェテリアで、机に課題を広げていた私へ、そう声を掛けてきた女性は、にこやかに笑って言った。

「・・・・・・どうぞ?」

 積み上げていた資料を動かす。季節はずれと思える青いマフラーを首に巻いた女性はありがとうと言って席に着く。

 彼女はカフェラテとオムレツ、トーストにサラダといういかにもな朝食と今日の朝刊をテーブルに置く。そして、カップに口づけし、カフェラテを少し口の中へ流し込んだ。

 彼女は自分のルーティンをテキパキとこなす。それはまるで機械が定められた動きをなぞっていくように、気まぐれを挟まない動きで、カップをソーサーに戻すと、今度はトーストを口に運び、新聞を開く。

 私は彼女の新聞へ視線を送る。───今日の一面は怪盗現る。短い見出しだが、それで十分人の目を引けるのだろう。

「それは、大学の課題かい?」

 女性の声に私は視線を新聞から離す。女性は新聞の端から薄い青の瞳を覗かせていた。

「そうだけれど・・・・・・?」

「いや、ずいぶん難しそうだなって思ってね。私も大学の講義を聴いたことがあったけれど、そのとき聴いたものより高度な内容だ」

「そうかしら、普通の内容だと思うのだけれど」

 女性は新聞を側に置き、私をまじまじと見つめた。

「でも、君にとっては少し難しかったんじゃないのかい? 目の下にクマができてる。夜更かししたんだね」

 女性はクスリと笑いながら自分の目の下を指し示した。

「───え、えぇ、そうね。教授ってば、いきなり課題を出すんだから、手間取っちゃって」

「へぇ、それは災難だったね」

 労いに他人の不幸と言う少しの蜜を混ぜた言葉を女性は口にする。スゥと細められ、笑いを表すように曲がった線となった女性の双眸にも、それが現れていたが、私はそれに何故かちょっぴりの恐怖を覚えた。

「・・・・・・そうだ、がんばる若人にお姉さんから贈り物をあげよう。ちょっと待ってて」

 なにか不味いのではないかと思い始めた瞬間、女性の雰囲気は、まるで別のモノに入れ替わったかのように変化した。そして、私が答える間もなく席を立ち、歩いて行ってしまった。

『メラニア、あの白髪の彼女、気をつけた方がいい』

 女性がどこかへ行ってしまったのを見計らったように、私の鞄が小声で囁く。

「分かってる、アッシ先生。彼女、何か気づいてるようにも思える。けど、昨日の私は完璧だったハズ・・・・・・アッシ先生もそう思うよね?」

『メラニア、確かに昨日は完璧だった。でも、その前は? もしかしたら彼女、ずっと君を追っているのかもしれない』

 そんなことは、と言いたくなる思いをぐっと押さえる。思い出すと、彼女の行動すべてが、何か意図のあるモノのように思えてきてしまう。

「はぁ、頭痛くなってくる。甘いモノがほしいわ」

 本当に初めて出会ったのが今日だったのか、よく思い出そうとしていた時だった。

「やぁ、お待たせ」

 女性がカップを一つ持って帰ってきた。

「はい、頑張る学生さんにお姉さんからのプレゼントだよ」

 そういって差し出されたカップを、私はおずおずと受け取る。

「これって───」

 カップから香る香りはカフェモカ。それも、このカフェテリア特製のスペシャルレシピ。それは、私が最近好んで飲んでいたものだった。そして、先ほど欲しいなと思ったもの。

「その顔、プレゼントに満足してくれたみたいだね」

「なんでこれを・・・・・・」

「君は頭を使っていただろう? それに夜更かししていた・・・・・・なら、糖分とカフェインの接種が必要と思ったわけさ」

 女性は得意げに推理を披露する。

「・・・・・・財団には探偵もいるの?」

「さぁ、私は聴いたことないね。これはちょっとした職業病みたいなものさ」

 彼女は一体どういう人物なのだろうと、貰ったカフェモカに口を付けながら考える。

 人を観察する仕事。先ほどの口振りから財団にはそれほど詳しくない。この場所には様々なアルカニストがやってくるが、女性の服装はあまり動きやすそうとは言えない。恐らく内勤なのだろう。

 彼女の姿でもっとも目を引くのは青いマフラー。しかし、これは彼女の仕事を特定する手がかりにはならない。あとはヘッドフォンぐらいだろうか。

「ふふっ、ずいぶん熱心に見つめてくるね。気になるかい?」

 私はコクリと頷く。彼女から得られる情報は少ない。どこにでもいる一般人、そうとしか思えなかった。

「残念、そこまで興味を持ってくれるのはうれしいけど、教えることはできないんだ」

 申し訳なさと嬉しさに少しの意地悪さを混ぜた返事が返ってくる。

「さて、あまり邪魔するのも申し訳ないし、私はさっさと食べてしまうよ」

 ちらりと時計を確認して彼女は食事を再開し始めてしまった。

 きっともう彼女は質問しても答えてはくれないのだろう。私も渋々ながら課題を再開した。

 

 

 

 コトリとソーサーにカップが戻される。その音に視線を向けると女性の食事は終わったようだった。

「ふぅ、食べた食べた。じゃあ私はこれで失礼するよ」

 楽しい食事だったよと彼女は告げ、席を立ち上がる。

 だが、立ち上がった彼女は、私を見下ろして少し考える仕草を見せる。そして、先ほどまで読んでいた新聞を私に差し出した。

 私がそれに困惑していると、彼女は口を開いた。

「君にあげるよ。一面の記事、読みたいんだろう?」

 読みたかったのは事実だったため、私は新聞を受け取る。すると彼女は私の耳元の口を近づけて囁いた。

「昨晩はとっても格好良かったよ、怪盗アッシさん」

 私は驚愕と焦燥に突き飛ばされて、女性から距離を取る。だが、彼女はただにっこりと笑って、席から去ったのだった。

 

 

 

 ふわぁと大きなあくびをするコーンブルメを見つけた私は、彼女に近づいた。

「やぁ、コーンブルメ。眠たそうだね」

「ん? あぁ、ヴェルティ。昨晩とても面白いことがあってね、ずっと聴いていたんだ」

 もう一度コーンブルメは大きなあくびをした。彼女が何かに耳をそばだてていることはよくあることだが、一体何を聴いていたのだろう。気になった私はそれを尋ねた。

「とびきり可愛い怪盗が誰にも気づかれることなく、宝石を盗み出したんだ。泥棒はいけないことだけど、ああも綺麗に盗むなんて・・・・・・私はファンになってしまったのかも」

 楽しそうなコーンブルメの語り口を聞いてくるうちに、私もその話を聞いてみたくなった。だが、彼女に聞いても、どんな番組名だったのか教えてくれなかった。

「・・・・・・ミスラジオに聞けば教えてもらえるかな」




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