「はい、もういいわよ、士道」
その日、士道はここ最近日課となっている身体検査を受けていた。今月の上旬に霊力を溜め込んだことで暴走してしまった士道。
幸いそれ自体は乱入してきたグラトニーによって事なきを得たのだが、あれ以来琴里は前以上に士道の身体を心配するようになり、半月経った現在も検査を続けているのである。
「なあ琴里、これっていつまでやるんだ?もう半月も経つんだし、そろそろ……」
「はあ……士道、あんた自分の状況分かってんの?あんだけ暴走して戻ったらはい終わりで済むわけないじゃない!」
「う……ご、ごめん……」
琴里の剣幕に思わずビクリと震える士道。琴里は心配しているからここまで言うのだが、士道には暴走していた時の記憶が全くないため、少し大げさに思ってる所も琴里を苛立たせていた。
「全くもう……それにまだ問題は山積みなのよ?まず、もう知ってるだろうけど、暴走したあなたを止めたのはグラトニーよ。その際に彼女は士道の中にあった私や十香達の霊力の一部を取り込んでる。目の前で颶風騎士を顕現させたから、他の天使も使えるようになってる筈よ」
「じゃあ以前、狂三の天使を使ってたのも……」
「恐らく、狂三からも何かしらの方法で霊力を奪ったんでしょうね」
何はともあれ、士道が助かった代償はグラトニーのパワーアップと中々大きなものである。より警戒しなければならない存在となったのは間違いなかった。
「あと、グラトニーと一緒にいた本条二亜っていう精霊。私達ラタトスクのデータにない新しい精霊よ。一体どこで出会って、そしてどうしてグラトニーと行動しているのか、謎が残るわ……」
「まだ新しい精霊がいたのか……」
士道はそう呟くが、士道は暴走状態の時に一度二亜に会っており、何なら口説いてすらいるのだが、暴走時の記憶が無い士道はそのことも覚えていなかった。
「それと……ここ最近DEMが介入してこないのが気になるのよねぇ……」
琴里はグラトニーや二亜の他にも、DEMが行動を起こさないことを気にしていた。七罪を捕らえるために現れたのを最後に、それから全く姿を見せないのだ。先日の士道が暴走した際もDEMは一切介入してこなかった。
琴里はそれを邪魔が入らなくて良いとも思えば、突然介入がなくなったことを不穏に思ってもいた。
それは今のDEMにそんな余裕がない故なのだが、琴里はそのことを知らない。
「にしても、本条二亜ねぇ。そういえば以前中津川が話してた漫画の作者が同じ苗字だったわね。確か作品の名前は……『SILVER BULLET』だったかしら?」
「…………」
日が落ち太陽が沈みかけている時間帯、彼女は買い物袋を持って道を歩いていた。しかしその姿は悲惨の一言に尽き、着ているスーツはしわだらけでくたびれており、髪は何日も手入れをしていないのか色がくすみ、ボサボサで伸びきっている。
目も光が無く、全てに絶望してるようだった。
「………はぁ」
そして一度立ち止まり小さくため息を吐くと、また歩き始める。
あの日から数ヶ月、彼女はただ毎日を無気力に生きていた。主である男に切り捨てられ、力の源も破壊された。居場所、目的、力、何もかも失い、彼女の心は完全にへし折れてしまった。
その女、エレンは住んでいるアパートに着くと自分の部屋の鍵を開け中に入る。中は最低限の家具だけがあり、ベッドはなく布団だ。台所の隅にはまとめられたゴミ袋が置かれている。
「アイク……なぜ…どうして……」
買い物袋を床に置いたエレンはいつものようにうわごとを口にする。ウェスコトットの目的に賛同して今まで彼の元で活動してきたのに、捕獲対象であるグラトニーには全く歯が立たず、さらにウェストコットに切り捨てられた事実は彼女にトドメを刺すには十分だった。
「私は……何のために……」
変わり果てたエレンの瞳から、ホロリと涙が一筋溢れた。
久しぶりにエレン登場です。今の彼女は魔術師としての力も失いただの一般人と変わらない。むしろ今まで顕現装置頼りだったのもあり、一般人よりも弱いです。
今のエレンと二亜なら余裕で二亜が勝てるレベルです。