暴食の精霊 《グラトニー》   作:赫夜叉

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36話です。今回も二亜がメインです。


35話

「琴里、これは?」

 

士道はテーブルに置かれた漫画について琴里に尋ねる。

 

「この漫画、『SILVER BULLET』って言うんだけど、作者が本条蒼二ってあるわよね?」

 

「ああ、けどそれがどうしたんだ?」

 

「うちの中津川がこの作品の大ファンなんだけど、5年前から連載がぱったり途切れてるらしいの」 

 

「え、5年前って……まさか…!?」

 

そこまで聞き、士道はある可能性に辿り着く。

 

「そのまさかよ。作者名が同じ本条、連載が途切れたのと二亜がDEMに捕まったのも5年前。気になって以前から令音達に調べてもらって、二亜の名前が出てきたわ」

 

「じゃあやっぱり……!」

 

「ええ、本条蒼二と本条二亜は同一人物。つまり、二亜は漫画家としてこれを連載してたってことになるわ」

 

「そうなのか……」

 

「むぅ……じゃあ何故二亜はまた漫画を描こうとしないのだ?」

 

琴里の説明を聞き十香が疑問に思ったことを口にする。実はそれこそが二亜が復讐を決めた最大の理由なのだが、士道達がそれを知る由がない。

 

「とにかく、まずは二亜の過去の交友関係を調べてみようと思うわ。もしかしたら何かしら情報を得られるかもしれないから」

 

と、そう案を出してこの場はお開きとなり、後に二亜の漫画家仲間を見つけ話しを聞くことになる。そこで二亜が突然親しかった者達と疎遠になったことを知るのであった。

 

 

 

 

 

 

それから日数は過ぎ、本年の最後の日、12月31日を迎えた。

 

 

 

 

 

 

その日、二亜はある場所へ訪れていた。それは天宮スクエアで、そこでは様々なサークルがそれぞれ執筆した漫画を売り出すコミックコロシアムが開かれていたのだ。

 

漫画が描けなくなった二亜だったが、やはり未練は残っており、囚われる前は毎年サークルとして出ていたイベントに、顔を隠し客として出向いていたのである。

 

「やっぱ漫画はいいなぁ……」

 

先程買った漫画の表紙を見つめながらそう呟く二亜。彼女が背負っているリュックには今回の戦利品が大量に入っており、このために朝早くからやって来たのだ。

 

ちなみにグラトニーと百の2人にはスクエア近くにある公園で待ってもらっている。

 

「さて、これでお目当てのものは全部かなぁ……」

 

買った漫画をリュックにしまい、2人の元へ戻ろうとする二亜だったが………

 

 

 

 

 

 

「本条先生……?」

 

「ッ!?」

 

突如後ろからそう声を掛けられた。自分にとっては聞き覚えのあったその声に、二亜が恐る恐る振り向くと、そこにはかつて親しかった分厚い眼鏡を掛けた女性、高城弘貴の姿があった。

 

彼女も二亜が囁告篇帙で調べ嫌な部分を知り、疎遠になってしまった者の1人だ。

 

「た、高城…先生……」

 

「やはり本条先生…!お久しぶりですな、まさかここでお会いできるとは」

 

「あ、ええと……いや、こちらこそ……」

 

思いがけない再会に、二亜はしどろもどろになりながらもそう返す。

 

「突然すみませぬ。顔を隠しているのでお忍びかと思ったのですが、つい話しかけてしまい」

 

「でも一つだけ、お聞きしたいことが……」

 

そう言うと高城は二亜のことを眼鏡越しに見つめ、二亜は気まずそうに顔を逸らした。

 

「小生……気づかぬうちに何か粗相をしてしまったのでしょうか?もしそれで疎遠になってしまったのならば、謝らせていただきたい」

 

そう言って高城は二亜に頭を下げる。

 

「そ、そんなことはないですよ!」

 

それを見て二亜は慌てた様子で声を上げた。

 

「そうなのですか?」

 

二亜のその言葉に高城は顔を上げ目を丸くする。それから少しの間無言の状態が続くが、やがて高城が口を開く。

 

「たとえ嫌われていたとしても、先生の出す本、楽しみにしておりますよ」

 

「ッ!!」

 

その言葉に二亜はビクリと肩を震わせる。明らかに先程とは様子が変わったのが見て取れる。

 

「先生……?」

 

高城もその変化に気づいたようで、怪訝な表情を浮かべる。

 

「……あ、あたしは……もう漫画は描けない…です」

 

「っ!?そ、それは一体、どう言うことでこざいますか!?」

 

二亜のその発言に高城は衝撃を受けたようで、すぐにその真意を尋ねる。

 

「言った通りですよ。それと……この際あたしのことも忘れてくれると……」

 

「ど、どうして!やっぱり小生のせいで、不愉快な思いをしてしまったのですか!?」

 

「それは違います!……とにかく、あたしなんかのことは忘れて、ファンのために漫画を描き続けてください。応援してますから……!」

 

そう高城に告げると、二亜は彼女へ背を向け走り出す。背後から自分を呼ぶ声が聞こえるが、二亜は振り返ることなく人混みの中へ消えていった。

 

「本条先生……どうして……」

 

1人残された高城は、二亜の走り去った方向を見つめながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

「あれは………」

 

その光景を、ちょうどサークルで参加していたある人物が目撃していた。




漫画が描けなくなっている二亜にとって、高城の自分の出す本を楽しみにしているという言葉は何よりも突き刺さりました。
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