「悪いことしちゃったなぁ……」
あのままの足でスクエアから出た二亜は、先程のことを思い返していた。
かつて二亜が特に仲の良かった漫画家仲間、高城弘貴。ああは言ったが実は会わなくなってからもずっと気にしていて、彼女の描く漫画はDEMに捕まる直前まで欠かさず読んでいた。
本当は分かっているのだ。人は誰しも醜い部分を持っている、自分だってそうなのだから。疎遠になったのも自分が勝手に調べ勝手に失望し絶望した、ただそれだけ。
しかし一度それを知ってしまうと、ましてやDEMでそれを骨の髄まで味わってしまったから、分かっていても受け入れられないのだ。
それに、自身は復讐をしている身。何としてでもDEMを潰すと決めたのだ。今更止まれない、止まる訳にはいかないのである……!
「おっ、戻ったか本条」
そう考えている内に、いつの間にか公園に着いていたようで、公園のベンチで寝転がっていたグラトニーが二亜を出迎える。
「?グラっち、百ちゃんは?」
この場に百がいないことに二亜は首を傾げグラトニーに尋ねる。
「ああ、百なら飲みもの買いにいってる。少し前に行ったからそろそろ戻ってくるはずだ」
「そ、じゃああたしもここで待とっと」
二亜はグラトニーが寝転がるベンチの隣にあるベンチに腰掛ける。
「……おい、オレとお前だけだから今の内に聞いとく。お前そっちで何かあったろ?」
「……!やっぱり、グラっちにはお見通しかぁ……」
グラトニーに会場で何かあったことを見破られ、二亜は隠さずにあったことを全て話した。
「成る程ぉ……昔の友人と会ったのか」
「うん、と言ってもあたしから一方的に縁を切ったんだけどね……。囁告篇帙の力で嫌な所たくさん知っちゃって、会うのが苦痛になっちゃったんだよ……」
「それで?」
「久しぶりに会ったんだけど、向こうはずっとあたしのこと心配してくれてて、漫画も楽しみにしてるって言われたんだぁ……それが、辛ぐでぇ……」
途中から涙声になり始めていた二亜。自分から一方的に失望し縁を切ったのに、彼女は今でも自分を心配してくれていた。その優しさが今の二亜には却って辛く、いっそ罵ってくれた方がまだマシだった。
だがそれ以上に辛かったのは自分の漫画を楽しみにしているという言葉。DEMでの拷問や人体実験の後遺症で漫画が描けなくなっている二亜にとってその期待はどんな痛みも上回るものだったのである。
「いっそ……もうあたしのこと……忘れでぐれな"いがなぁ"……」
こんな思いするくらいなら、いっそ自分のことを忘れて欲しいと泣きながらそう漏らす二亜。
あの時高城に自分のことを忘れてと言ったのも、汚い部分を知ってしまっていることで、また失望するのが怖かったから。
「………」ポンポン
涙腺が決壊し泣き続ける二亜の頭をグラトニーは無言でポンポンと叩く。グラトニーと違い二亜は以前までの交友関係があったのだ。しかしそれが今の二亜を苦しめる要因になっている。
「(こりゃあ、あの力が必要かもしれねぇな……)」
そう考えるグラトニーの脳裏には、かつて一度だけ対峙したある精霊が浮かんでいた。
「琴里、本当にこの先に二亜がいるんだな……!」
「ええ、会場で中津川が二亜を見たって言ってたから、間違いない筈よ!」
現在、士道達は二亜とグラトニーのいる公園に向かっていた。彼らはコミックコロシアムにサークルとして参加していたフラクシナスクルー、中津川からの連絡で二亜が近くにいることを知ったのである。
あのあと色々調べ、二亜と再び対話しようとしたのだが、二亜がどこにいるのか分からないため、もどかしい時間が続いた。
そんな中入ってきた二亜を目撃したという情報。このチャンスを逃すまいと、士道と精霊達は現場へと急いでいた。
「ん…?」
しかし、士道達は道中にある人物が立ちはだかったことで足を止める。
「………」
士道達の前に現れたのはグラトニーや二亜と一緒にいた黄髪の少女だった。
「……野暮な真似は辞めてください。今あなた達が行っても邪魔なだけです」
「そういう訳にはいかないわ。二亜と対話できるチャンスをみすみす逃せないの」
「それが野暮と言ってるんです。ましてや今大事な所です。あなた達の出る幕はありません、お引き取りください」
琴里の言葉にも少女は無表情のまま淡々とした口調で反論を返す。
「君は一体……」
「……二亜姉様の妹、本条百と申します。もう一度言います、お引き取りください」
自ら正体を明かした百は再度士道達にここから引き返すように言う。
「二亜の…妹!?なら頼む!行かせてくれ!どうしても二亜に会わなくちゃいけないんだ!」
「引き返す気はないと……仕方ないですね。だったら、力ずくで追い返させてもらいます」
「お主、我らと同じ精霊なのか?」
力ずくという言葉に反応した耶倶矢が百も精霊なのかと問う。
「違います。ボクは……改造人間です」
その問いに百は自らを改造人間と答え、右手を上に掲げた。
「《
百がそう口にすると、彼女の頭上に雷雲が出現する。そしてゴロゴロと音を立てたと思うと、幾つもの雷が降り注ぎ百の姿を包み込んだ。
「……ふぅ」
そして雷の中から現れた百は服装こそそのままだが、全身に雷が迸り、掲げた右手には雷を模した槍が握られていた。
「では、始めましょう」
そう言うと百は首に巻いたマフラーをたなびかせた。
二亜がグラトニーに自分の弱音を吐き出す裏で、士道達の前に百が立ち塞がりました。ちなみにこのことは二亜はもちろんですがグラトニーも知りません。