「おお、このアニメマジで神じゃん。早速お気に入りに登録っと」
「……」はむはむ
新年を迎え正月真っ只中、二亜は自宅でこたつに入りながらアニメを観ていた。同じくこたつには百も入っており、焼いて醤油を塗った餅を食べている。
「本条、ちょっと良いか?」
「んあ?何グラっち?」
そんな時、椅子に座っていたグラトニーに声を掛けられ、二亜は顔だけをそちらに向ける。
「お前、過去に関わってた奴らから自分のことを忘れて欲しいって言ってたよな?それ、どうにかできるかもしれねぇぞ」
「……それ、本当?」
その言葉に、のんびりとしていた二亜の表情がマジなものに変わり、餅を食べていた百も目線だけをグラトニーに向ける。
「ああ、オレに心当たりがある。それが可能な奴、正確にはそいつの持つ能力にな」
そう言うとグラトニーはその内容を話し始めた。
一月九日、正月休みも明けて士道達の通う来禅高校は三学期を迎えていた。
「よっ、五河、あけおめ」
「ああ、殿町。あけましておめでとう」
始業式を終え、教室に入った士道は悪友である殿町宏人に声を掛けられ、自分も挨拶を返す。
「おう。……ところで、お前は今度は一体何やらかしたんだ?」
「え?」
唐突な質問に士道は眉を寄せるが、殿町が親指で後方を示す。
指を指す方に目を向けると、三人の少女達が士道の方をちらちらと見ながらひそひそ話をしていた。
彼女達はこのクラスの仲良し三人組で、制服を着崩した長身の山吹亜衣、肩まで伸びたショートヘアーが特徴の葉桜麻衣、小柄で眼鏡を掛けた藤袴美衣だ。
「あー……」
三人を見て士道は頬に汗を垂らしながら言葉を濁す。自分は一切覚えてないのだが、先月霊力を暴走させてしまった際、あの三人と出会いやたら情熱的に口説いてしまったのである。
士道本人が覚えていなくても、向こうにはそんなことは関係なく、ああしてこちらを見ていろいろ話しているのだ。
ちなみに士道は彼女達だけでなく、クラスの担任である岡峰珠恵ことタマちゃんも口説いており、仕舞いには二亜も口説いているのだからよりタチが悪い。
「……いや、分からん」
とりあえず適当に誤魔化すことにし、士道は殿町にそう言った。
と、その時教室にチャイムが鳴り響いた。
「おっと、もうそんな時間か。早く席つかねぇと」
それと同時に殿町はそそくさと自分の席に戻って行き、士道も自分の席に腰を下ろす。
ガラララ
するとすぐに教室の扉が開き、担任のタマちゃん先生が入ってくる。その身体にどんよりした負のオーラを纏わせながら。
「はぁい皆さん、あけましておはようございます……。冬休みはどうでしたか?クリスマスに大晦日にお正月。……きっと、楽しいことがたくさんあったんでしょうねぇ……」
言っていることは何もおかしな所はないのに虚ろな表情で言っているものだから、その様子にクラスメートは一斉に息を呑む。
それから始まったのはタマちゃんによる愚痴の数々。自分が今年から30歳になること。同級生達が次々結婚し親友の女性も来月結婚すること。自分が結婚どころか出会いすらもないことなどなど。
実は結婚できない理由の一つが彼女の高過ぎる相手への理想にあるのだが、それは本人含めこの場にいる誰も知らない。
「……はい、ではホームルーム始めまぁす」
『いやいやいやいや!』
一通りぶちまけた後、何ごともなかったかのようにホームルームを始めようとするタマちゃんに亜衣麻衣美衣の三人組がツッコミを入れる。
「全然大丈夫じゃないじゃん!」
「タマちゃん、ちょっと休んだ方がいいよ」
「何言ってるんですか?全然大丈夫ですよぉ」
彼女達の言葉にタマちゃんはさっきと違い朗らかな笑顔を浮かべそう言う。
「あ、早速ですけど、五河くんにお客様がいらっしゃってるんですよ」
「え?俺に?」
急に名指しされた士道は自分を指差し困惑した表情を浮かべる。
「今教室の外で待ってもらってるんですよ。すいませーん、どうぞぉ!」
タマちゃんが扉の方へ顔を向けそう言うと、ガラララと扉が開かれた。
「ったく、随分待たせやがって」
その人物は待たされたことに愚痴りながら教室に入ってくる。
『なっ…!?』
しかしその人物を見て士道だけでなく十香と折紙も目を見開いた。
「ん〜……おっ、いたいた。よう、五河!」
教室を見回し、こちらを見て笑みを浮かべ自分のことを呼んでくるが、士道はそれどころじゃなかった。
「グ、グラトニー……!」
そう、教室に入ってきたのは最凶と呼ばれる精霊、グラトニーだったのだ。どうやら二亜と百はおらず1人で来ているようだが、一体何故わざわざ学校までやって来たのか……。
「え、誰だあのイケメンワイルド美女!?」
「高身長に褐色肌、さらにイケメン顔でスタイル抜群って、属性てんこ盛りじゃん!」
「ど、どうしよう……私女なのに惚れちゃいそう……」
既にクラス内ではグラトニーを見て色々言っており、中には頬を赤らめている者もいる。
「てか、五河くんあのイケメン美女とも知り合いなの?」
「私達を口説いておいてあんな美人さんも誑し込んでたってこと?」
「まじ引くわー。いや、マジ引くわー!」
あの三人はグラトニーと士道を交互に見ながら思ったことを口に出していた。それを聞いたクラスの者達は一斉に士道へと目線を向ける。
「は、ははは……(あぁ〜……また誤解が……)」
その視線を受け士道はまた誤解が広まることを確信し、乾いた笑い声を出した。
「五河、お前に話しがあるから今すぐ早退しろ。お前の家で待ってるからな」
そんなクラスの様子も気に留めず、グラトニーは士道にそれだけ言うと、教室を出て行った。
「五河てめぇ!今のはどういうことだぁ!!」
「十香ちゃんがいながらあんな美人さんとも……なんでお前ばっかりぃ!!」
「しかもあの三人を口説いただとぉ!?五河、お前やっぱりやらかしてんじゃねぇかぁっ!!」
その瞬間、クラスの皆、主に男子達が士道のいる席に殺到する。男子は嫉妬で凄い形相になっており、中指を立てている者もいる。
「ふ、ふふ……五河くんも遠くに行っちまった……くそっ、くそがっ……」
これを止める筈のタマちゃんは教卓に顔を突っ伏しブツブツと1人呟いている。
その後もクラスメート達による尋問は止まらず、タマちゃんが正気に戻るまで続くのだった。