「む、六喰っ!!」
吹っ飛ばされてきたのが六喰と分かった士道はそのボロボロの姿を見て大きな叫びを上げる。精霊達も声こそ出さないものの六喰の姿に皆動揺を隠せない。
「うわー、随分やられてんねぇ」
そんな中二亜だけはさっきまでと変わらない様子でそんなことを呟いている。
「おぉ、我ながら派手に吹っ飛びやがったなぁ」
すると、六喰が飛ばされてきた方から声が聞こえてきて、士道達と二亜はそっちに目を向けた。
「死んではいねぇよな?」
見るとグラトニーがこちらへと歩いてきていた。だが姿は自分達が知っているものではなく、人の姿と離れた異形なものだった。
「ん?なんだここに戻ってきたのか。五河だけじゃなく他の奴らもいんのか」
グラトニーはそう言って士道達に顔を向ける。
「ひっ……」
常人とはかけ離れた黒く染まった眼を向けられ、四糸乃が小さく悲鳴を上げた。ガントレットに付いた無数の口が蠢く様に他の精霊達も嫌悪の入り混じった表情を浮かべる。
「グラトニー……お前が、六喰をやったのか…?」
「ああ。だが誤解すんなよ?最初は軽く倒すつもりだったんだが、そいつが舐めた発言をしたんだよ」
「だからって……あんなになるまですることないだろ!?」
士道が悲痛な顔で声を上げる。遠くから見ても分かるが、六喰は全身ボロボロ。霊装は所々が破れ、美しかった髪は土で薄汚れてしまっていた。
「オレからしちゃ死なない程度に加減はしたつもりだ。まあそれでもダメージは相当大きいみたいだけどな」
「死なない程度って……何のためにこんなことするんだよ!?」
「決まってんだろ、霊結晶を奪うためだ」
士道からの問いにグラトニーは自身の目的をハッキリ告げた。
「星宮六喰の天使、封解主はあらゆるものを閉じたり開けたりといったことができる天使だ。オレはそれを手に入れるために今回の策を考えたんだ」
「っ!じゃあ、俺達に六喰のことを教えたのも……」
「それもオレの計画の内だ。精霊である星宮のことを話せば、お前らラタトスクは必ず保護しようと攻略に動き出す。そして、後はお前らがうまくやって奴を地上に降ろしてくれるのを期待した」
「で、お前らはよくやってくれたよ。おかげでここまでは概ねオレの計画通りだ」
「そんな……」
グラトニーから告げられた事実に士道は愕然とする。つまり自分達はまんまと利用されたのだ。精霊を保護するラタトスクの使命そのものをグラトニーは逆手にとって、六喰が地球に戻るように仕向けた。
琴里が懸念していた通り、やはりあの話の裏にはグラトニーの企みがあり、自分達は知らず知らずのうちにそれに加担させられていたのである。
「さあ、話は終わりだ。そろそろ霊結晶をいただくとするか」
話し終えたグラトニーは、ダメージで動けない六喰の元へ歩いて行く。
「あ…!ま、待てグラトニー!」
それを見て我に返った士道達は止めようとするが……
「ふんっ!」
二亜が持っていた杖を思いっきり振るった。するとグラトニーと士道達を遮るように、両者の間に高い青い炎の壁が出現した。
「邪魔はさせないよ。ここで台無しにされちゃたまらないからね」
「二亜……お前も、この件に協力してるんだよな……?」
「そうだよ。今更何言ってんの?」
「なんで……なんで協力したんだ。これはお前の復讐とは関係ない筈。なのにどうして……」
とことんグラトニーのサポートに徹する二亜に、士道は問う。グラトニーが六喰を狙う企みは二亜のDEMを潰す目的とは関係がない筈だ。それなのに、何故二亜はグラトニーに手を貸しているのか。
「……キミは分かってないねぇ。グラっちがあの子の霊結晶を狙うのはグラっち自身のためじゃない、あたしの為なんだよ」
「え……?」
「……まあいっか、ここまで言っちゃったからもう」
そう言うと、二亜はこの一件を起こした理由を語り始めた。
「その前に……あたしが5年前からDEMに囚われてたってのは前に話したよね。そんな中でグラっちに助け出されて、あたしは自由の身になった」
「けどDEMはあたしに呪いを残した。拷問や人体実験の記憶はあたしの中にずっと残り続けてる。そのせいで、あたしは漫画を描くことができなくなった」
『!!』
二亜の明かした内容に士道達やインカム越しに聞いていた琴里達も驚く。その中でも彼女の漫画のファンであるクルーの1人、中津川の動揺は大きかった。
「あたしの生きがいを奪った報いを与える。これがあたしがDEMに復讐を誓った本当の理由だよ。漫画が描けなくなった漫画家なんて、ただ辛いだけなんだから」
そう話す二亜の表情は怒りと悲しみが入り混じったものだった。
「それで、今回の事を起こした理由だけど、この前親しくしてた人と会ったんだよ。その時あたしの漫画を楽しみにしてるって言われて、それがどれだけ苦しかったか。もういっそあたしのことを忘れて欲しいとまで思ったよ」
「そんな時だよ。グラっちからあの子、星宮六喰について聞いたのは。あの天使の力で、あたしは過去に親交のあった人達の記憶を封印する。もう二度とあたしに漫画を求めないように」
「二亜……」
二亜の明かした襲撃の全貌。まさか、今回の計画は全て二亜のために立てられたものだったとは。
「グラっちには感謝してるよ。わざわざあたしのために情報をくれて今回の計画も一緒に考えてくれたんだから。あの子の封解主の力を手に入れて、あたしは過去を完全に断ち切る!」
「そんなの……そんなの間違ってますよ!!」
「み、美九……?」
二亜の言葉に反論の声を上げたのは美九だった。
「私も前に声を失ったから、漫画が描けなくなった二亜さんがどれだけ辛かったのか分かります。けど……だからって今まで仲の良かった人達との関係をなくしちゃうなんて……そんなの、寂しいじゃないですか……」
「美九……」
「美九さん……」
美九はかつて事務所がでっちあげたスキャンダルによりファンから疑惑の目を向けられ、そのストレスで声が出なくなってしまった過去がある。その影響で人間不審、特に男を嫌悪するようになり、精霊になってからそれが増した。
しかし士道と出会い助けられたことで、全ての男がそうではないと気付かされ、自分の潔白を信じていたファンもいたこともあって今があるのだ。
だから同じく
「……確かに、あたしもかなり迷ったよ。本当に繋がりを断ち切って良いのか。でももう決めたの。あたしは考えは改めない」
「ッ……二亜さん……」
美九の言葉に思うところはあったようだが、二亜は考えを変えるつもりはないと返した。
「それに……愛しい人が側にいてくれればあたしはそれで構わないとも思ってるから」
「愛しい人……?それってもしかして……」
「あたしはグラっちのことが好きなんだよ。グラっちと百ちゃんさえいれば、もう誰もいらない」
そう言い切る二亜の頬は赤く染まっていて、それは精霊達が士道に向けるものと同じだった。
「っと、そう話してる内に、終わったみたいだよ」
二亜が杖を振るい炎の壁を取っ払うと、向こう側の光景が明らかになる。
「ハハハ」
そこでは倒れ伏す六喰の前にグラトニーが立っていて、その手には黄金色に輝く結晶が握られていた。
原作だとなんやかんや敵といえる精霊は二亜の魔王から生まれたニベルコルだけでしたが、(正確には精霊の贋作)それも二亜が士道に好意を持っていたことで対応できてたので、他の二次創作とかも読んでて絶対悪な精霊がいても面白いんじゃないかと思いました。