というわけで、第50話どうぞ!
ラタトスクの地下施設、そこの休憩室に士道達はいた。フラクシナスで治療を受けた後六喰はすぐこの施設に搬送され、引き続き顕現装置で治療を受け続けている。
皆んな六喰のことが心配でここで治療が終わるのを待っていた。すでにかなりの時間が経っており、時計の針はもう深夜を指していた。
「………」
そんな中士道は部屋の中を歩き回り落ち着きのない様子だった。
「ちょっと士道、あんた落ち着きなさいよ……」
「同感。ここに来てからずっとその調子ですよ」
「あ、ああ……そうだな」
七罪や夕弦に指摘され、士道はそう言い部屋にある椅子に腰掛ける。
しかし士道の頭の中にはグラトニーに言われたことがずっと残っていた。
"攻撃を躊躇う考えはすぐにでも捨てろ。そんなんじゃ死ぬぞ"
「ッ……」
その言葉を思い出し拳をギュッと握り締める。グラトニーの言ってることは正論だ。いくら精霊であっても敵であるなら攻撃できなければこちらがただやられるだけだ。
二亜と交戦した際も向こうが殺す気が無かっただけで、その気があったらと思うと恐ろしい。
「(やらなきゃ……いけないのか……)」
これまでなかった精霊との完全対立。士道も考えを変えなければいけない時が来ていた。
と、そんな時扉が開き、琴里が大きなあくびをしながら部屋に入ってきた。
「ふぁあ……って皆んな、まだ起きてたの?」
「琴里こそ、随分眠そうだぞ?」
「問題ないわよ。こんなのこれが初めてって訳じゃないしね」
十香が問うと、琴里は慣れていることだと気高に振る舞う。
「琴里、六喰の容体は?」
「とりあえず、もう大丈夫よ。フラクシナスですぐ治療できたのが幸いしたけど、もう少し遅かったら危なかったわ。肋骨にはヒビが入ってたし、内臓も所々損傷してた。六喰もあんな身体でよく頑張ったわよ」
「そうか、良かった……」
六喰の命が助かったのを知り、士道達は安堵の息を漏らす。
「医療用顕現装置での処置はもう済ませてあるわ。今は眠ってるけど、いつ目覚めてもおかしくないと思うわよ」
「本当…ですか…!」
「ええ、だから「ピピッ」ん…?」
と、琴里が言いかけたところで、彼女のポケットに入っていた端末が音を鳴らした。すぐに端末を取り出し画面を確認する。
「……噂をすれば、ね」
そう言って琴里は扉の方を示してきた。
「六喰が目を覚ましたみたいよ。会いたいでしょ?」
『……!!』
琴里のその言葉に起きていた者は勿論、眠くてウトウトしていた者達も目を見開き大きく頷く。
「こっちよ、ついてきて」
そんな様子に苦笑しつつも、琴里は皆を促し六喰のいる部屋に案内する。そして少し歩いたところで、六喰がいる治療室に到着した。
そのまま琴里を先頭に部屋の中へ入っていく。
「おや、みんな来たみたいだね」
中には令音がおり、その横には医療用のベッドが置かれ側には様々な機械があった。
六喰はそのベッドに寝かされており、士道達が入って来たのに気づいたようで目線をそちらに向ける。
「…主様、皆も」
「六喰!」
士道は名を呼ぶとすぐさま六喰のもとへ駆け寄る。それに続くように、精霊達も六喰の寝ているベッドを囲んだ。
「六喰さん…大丈夫…ですか?」
「うぅ、良かったですぅ。もし六喰さんの身に何かあったら私……」
精霊達が各々言う中、六喰はゆっくり皆を見回し、口を開く。
「心配をかけたのじゃ。むくのせいで皆に迷惑をかけてしまった……」
六喰は自分のせいで士道達を心配させてしまったことを言い、罪悪感で目を伏せる。
「むくが怒りに身を任せたばかりに……状況を悪化させてしもうた」
「本当に迷惑をかけた……申し訳ないのじゃ……」
「……ッ」
士道はその姿を見て六喰のことを抱きしめる。
「大丈夫だ。迷惑なんてかけてない。六喰が無事なら、それで十分だ」
「っ……主、様ぁ…」
そう言われて堪えられなくなったのか、六喰の両目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「すまぬ……本当にすまぬ……じゃが……怖かったのじゃ…!目の前でまた、大事な人が死ぬかもしれんかったのが……1人になるのはもう嫌だったんじゃ……」
一度決壊するともう止まらず、六喰は泣きながら本心を吐露する。
「星宮六喰、今のであなたがどれだけ色んなものを抱えてきたか伝わってきた」
折紙は六喰の流す涙を見て、彼女がずっと辛さや寂しさをため込んでいたを察する。
「心に鍵をかけていたのも、辛い記憶を思い出したくないのと、1人でも寂しく思わないようにするためよね?」
「ぐす……そうじゃ……奴に家族を殺されて、むくは1人になった。だから心を閉ざし、何も感じないようにしたのじゃ」
琴里の予想に六喰は嗚咽を漏らしながら答える。そして色々教えてくれた。
グラトニーによって家族を失い絶望の中にいた六喰。そんな時にファントムに出会い、彼女は霊結晶を与えられ精霊となった。
六喰はグラトニーに復讐しようとするも、精霊になったばかりの彼女に対し、その時から既に凄まじい強さだったグラトニー。
まだ何もかも未熟だった彼女は、あっさりとグラトニーにあしらわれてしまった。
『何だこの程度か。精霊になってまたオレの前に現れたかと思ったら……ガッカリだな』
『ハァ……姉の顔を立てて見逃してやる。どこへでも行きやがれ』
その言葉に六喰は怒りや悔しさでどうにかなってしまいそうだったが、結局その場から逃亡するしか無かった。
その後絶望の上塗りをされた六喰はいつしか何も感じたくない、思い出したくもない。1人誰もいない所にいたいと思うようになり、その末自分の心に鍵をかけ、誰もいない宇宙空間にいることを選んだ。
もう辛い思いをしたくないがために。
「これが、むくがかつて味わった過去じゃ……」
「…そう……」
六喰の明かした過去に皆悲痛な表情を浮かべていた。家族をグラトニーに殺されたのは知っていたが、改めて聞くとやはり壮絶なものだ。
実の親に捨てられ、星宮家に引き取られ新たに家族を得たのに、その家族もグラトニーによって殺された。
そんなことがあれば失うことを恐れるのも無理はない。特に士道は六喰がその時味わったであろう絶望がよく理解できた。
士道も同じように実の親に捨てられ五河家に引き取られた経緯がある。だが六喰はその新しい家族すらも失って再び絶望し、さらに精霊になり仇であるグラトニーに勝てずまたしても絶望を味わった。
過酷という言葉では足りないぐらいの過去を持つ六喰。だからこそ、士道は彼女をこれ以上絶望させたくないと強く思った。
「六喰、大丈夫だ。俺達が新しい家族になる。それにお前のお姉さんも、お前のことが大切だったから庇ったんだろう?」
「士道の言う通り。だからあなたは幸せにならなきゃいけない。あなたの家族もそれを望んでいた筈」
「主様……折紙……」
「俺は死なない、ずっと一緒にいる。いや、俺だけじゃない。皆んなも同じだ」
「……ッ」
士道の言葉に、六喰は他の精霊達を見る。
「心配するな六喰!私達は離れたりしない!これからは一緒だ!」
「私達…友達ですから…!」
『よしのん達が友達だから、六喰ちゃんは1人ぼっちじゃないよぉ!』
十香や四糸乃、よしのんは口々にそう言い、
「かか、そう案ずるでない。この颶風の巫女である我はそう簡単には死なん」
「無用。夕弦達はそんなにやわじゃありません。だから安心してください」
八舞姉妹の耶倶矢はいつもの口調で、夕弦も六喰の頭を撫でながらそう言葉を掛ける。
「こんなに可愛い六喰さんから離れるなんてあり得ませんよぉ!ほ〜ら、せっかくのお顔が大変ですよ〜」
美九は六喰の容姿にメロメロになりながらも、ポケットからハンカチを取り出し涙を拭ってあげている。
「まあ……私みたいなやつで良いなら、一緒にいてあげるわよ」
七罪も後ろ向きな言い方だが、一緒にいると約束してくれた。
「ッ!!ううぅ……皆…ありがとうなのじゃあ……」
それに六喰は再び涙を流し、しかし笑みを浮かべ士道や精霊達に感謝の言葉を掛けた。
グラトニーの存在により二亜と六喰は原作から大きく変わった展開となりました。二亜はグラトニーの仲間となり復讐の鬼に、六喰は原作以上の地獄を味わい、二亜の代わりに六喰が霊結晶(半分)を奪われることになりました。
グラトニーに救われた二亜と対象的にグラトニーに全てを奪われた六喰。しかし皮肉にも仇であるグラトニーの目論みのおかげで士道達と巡り会ったのです。