と言う訳で53話、どうぞ。
「何?五河がエレンを?」
二亜の自宅にて、グラトニーは散歩から戻ってきた百から話を聞いていた。現在二亜は不在でここにいるのはグラトニーと百の2人だけである。
「はい、確かにこの目で目撃しました」
「そうか。ま、あいつらしいな」
「……すぐにでも殺しますか?あの女は二亜姉様にとって因縁が深い方と伺っていますが……」
「いや、当分は放置してて良いだろう。もし五河達がやつの面倒見るんなら、そっから動くことはねぇ筈だ。やろうと思えばいつでも手は出せる。それより今は、本命の方を叩くのが先だ」
「本命……ですか」
その言葉に無表情な百の目つきが若干鋭くなる。
「ああ、既に本条にも伝えてある。ま、今はアイツの帰りを待とうじゃねぇか」
グラトニーはニヤリと笑みを浮かべそう言った。
「……う、うう……」
どれ程眠っていたのか、閉じていたエレンの目がゆっくりと開く。
「ここは……」
目を覚ましたエレンは首を動かして周りを見渡す。さっきまでいた公園ではなく、どこかの部屋のようだ。
続けて自分の状況を確認する。自分は今ソファに寝かされ上から毛布が掛けられている。
「(それにしてもこの部屋……なんか見覚えが……)」
「あら、目が覚めたみたいね」
「っ!?」
その声にエレンがバッとそちらへ目線を向けると、イフリートこと五河琴里がこちらを見下ろしていた。
「なんで私がいるのかって言うような顔ね。そりゃあ、ここは私んちだからね」
「……!どうりで……見覚えがあったと……」
「あのバカ兄に感謝することね。倒れたっていうあんたを心配してうちに連れて帰ってきたんだから」
「………っ」
エレンは思わず琴里から目線を逸らした。ちなみに今このリビングにいるのは琴里と士道、エレンのみで、十香達はお昼を食べた後精霊マンションに戻ってもらっている。
「眠ってる間に身体を調べたけど、あんた酷く衰弱してるわよ。あと数日遅かったら危険だったぐらいに」
「……だったら、何だと言うのですか……私には、もう…何も残ってない……」
「…!あんた……」
その言葉に琴里が僅かに目を見開く中、先程までキッチンにいた士道がエレンの元にやってくる。
「良かった、目が覚めたんだな」
士道はお盆を持っており、そこからいい匂いがしてくる。琴里から衰弱していることを聞かされ、彼女のためにおかゆを作っていたのだ。
「おかゆ作ったんだ。これなら今のお前でも食べられると思う」
「っ……いりません。そのような施し、私には必要……」
ぐうぅぅぅぅ〜
「っ!……うぅ……///」
最初はプライドから断ろうとしたエレンだったが、直後鳴った腹の音に頬が赤くなる。
「どうやらお腹は正直なようね。くだらない意地なんて張ってないで、大人しく食べなさい」
「ほら、口を開けて。熱いから気をつけてくれ」
「……っ、ふぅ、ふぅ……はむ……」
エレンは少し渋ったが、空腹に耐えきれなかったのか、観念したように士道の差し出したレンゲに乗ったおかゆを食べる。
「ゆっくり食べろよ。急がなくていいからな」
そう言われるがまま、エレンは大人しく士道からおかゆを食べさせられる。
やがておかゆを食べ終え、顔色もある程度良くなった所で、琴里は彼女がこうなった訳を尋ねる。
「……あんた、何があったの?仮にもウェストコットの右腕のあんたが、そんなになるまで酷使されると思わないけど……」
「………私は、切り捨てられたんですよ……」
「切り捨てられた……?それってどういう……」
「私はグラトニーに何度も敗北を喫しました。そのことでアイクに見切りをつけられ、DEMをクビになったのです」
「そうだったの……」
七罪を助ける時と義手の件でエレンがグラトニーに因縁があるのは察していたが、まさかDEMをクビになっていたとは思わなかったのだ。
「……滑稽ですよね。右腕を奪われた憎しみの余り、自分のプライドを優先し、結果何も成せず全てを失った。私の力の源であるユニットも、奴に破壊されてしまいました……」
エレンは破損したデバイスを士道と琴里に見せる。
「今の私は魔術師でも無くただの人。誰からも必要とされない、何の価値もない女ですよ」
そう話すエレンの目はやはり虚ろなままだった。それから暫しその場には沈黙が流れる。
「……どうして」
「ん?」
「どうして、私を助けたのですか……私は何度もあなた達の邪魔をしてきました。助けた所でメリットなどない筈……なのにどうして……」
それはさっきからエレンが疑問に思っていたことだった。敵である自分を助ける意味などない。なのに目の前にいる彼は倒れた自分をここに運んできて、こうして看病までしているのだ。
一体何故なのか、エレンには全く理解できなかった。
「……確かに、お前には何度も邪魔をされたし、十香や七罪に酷いこともした。けど……あんな弱った姿見たら、放っておける訳ないだろ」
そして口には出さなかったが、公園で見たあの絶望した目、そういうのに敏感な士道は、敵であってもエレンを見捨てることができなかったのだ。
「……甘いですね、甘い………うゔぅ……」
そう言い放つエレンだったが、次第に目から涙が溢れ嗚咽を漏らし始める。
「なのに……その甘さが、今は染みる……」
かつてのエレンであれば士道のそれを戯言と切り捨てたであろうが、心身共に弱った今はその言葉が深く響いた。
「……あんたの境遇は分かったわ。ひとまず、あんたの身柄は私達が預かるわ。連れて来ちゃった以上、そんな状態で放り出すのも寝覚めが悪いしね」
口ではそう言うが、内心琴里もエレンの落ちぶれた経緯に少し情が沸いており、魔術師としての力も無いなら危険性は低いと判断したのだ。
「とりあえず、このことはウッドマン卿に報告させて貰うわ。かつての同志だったんだから、一定の理解はしてもらえると思う」
「ッ!エリオットに……ですか……」
彼の名前を聞きエレンは目を見開き強く反応する。
「あなたのこと、ウッドマン卿が話してたわ。昔は自分によく引っ付いてたってね」
「……そんなの昔の話です。彼とは私とアイクの前から去った時点で、既に袂を分かっています。今更どんな顔をしてそんなことを……」
「ウッドマン卿はあなたのことも連れて行きたかったって言ってたわ」
「……え………」
「私が言うのはここまでよ。私からウッドマン卿に対面できるか掛け合ってみるから、もしできたら続きはそこで聞きなさい」
そう言い琴里もリビングを後にし、部屋にはエレンと士道の2人だけが残された。
「………その……一度しか言いません。……助けてくれてありがとうございます」
「……!礼なんていい。俺がしたくてやったことだからな。もし礼がしたいなら、代わりに後で十香達にちゃんと謝って欲しい」
「……そう、ですね。ここにいる以上、彼女達にも顔を合わせるでしょうから……」
士道の言葉に目を逸らしながらも、エレンは拒否の意見は出さなかった。
「……うぅん……」
と、エレンの目が段々と半開きになってきた。
「眠いのか?なら無理しないでゆっくり寝るんだ。じゃないと身体も回復しないからな」
「そうさせて……もらいます……すぅ…すぅ…」
そう言うと、エレンはゆっくりと目を閉じ静かな寝息を立て始めた。
「……眠ったみたいだな」
エレンが眠ったことを確認した士道は、改めてエレンの姿を見る。伸びきった髪に痩せこけ隈のついた顔。そしてグラトニーに奪われ義手になっている金属製の右腕。
「大変だったんだな……お前も」
そう口にすると、手を伸ばしエレンの頭を撫でる。するとエレンの表情が柔らかなものになった。
「……!そういう表情にもなるんだな」
かつての敵の初めて見た表情に、士道は少し驚きつつ、しばらく側に寄り添っていた。
「ただいまぁ」
「ようやく帰ったか、本条」
「お帰りなさいませ、二亜姉様」
日が暮れた頃、二亜がようやく帰宅した。
「出かける前に伝えたが……覚悟はできてるか?」
「うん、とうとうあたしの悲願が果たせるんだから」
「よし、すぐに準備しろ。でき次第ここを発つ」
「やはり、やるんですね」
「ああ、これまでやってきた行動も大詰めだ。DEM本社を潰す」
士道達がエレンを保護した一方、グラトニー達によるDEM本社襲撃が始まろうとしていた。
いよいよ次回はグラトニー達によるDEM本社襲撃です。