グラトニーとの対話が終わり、士道はフラクシナスに回収されていた。
「令音、士道は?」
「まだ気持ちの整理がついていないみたいだ。……正直、こちらとしても想像外だったね。まさか空腹という理由でこれまで人間を喰らっていたとはね」
「ええ、ある意味理由が単純な分タチが悪いわ。あれを知ると本当に狂三がまだ良識があるって思い知らされるわよ」
艦内の廊下を歩きながら琴里は令音はそのようなことを話していた。
グラトニーからの印象はそれ程悪くはなかった。気に入ったから士道を見逃したのがその証拠だ。しかし彼女は霊力の封印と保護をハッキリ拒絶した。
彼女は自身の飢餓を満たしたいという欲求のみで今までのことをしてきたのだ。結論として話はできるが分かりあうのはかなり難しいだろう。
しかもあれだけ人間を食べて足りないというのだから、彼女が満たされるためにあとどれ程の人間が犠牲になるのか……。
「食べているのは人間だけじゃないみたいだが、人間を優先的に襲っているのは間違いないだろうね」
「ええ、そうね……」
そう話しているうちに士道がいる部屋の前に着いた。部屋に入ると椅子に座り込んだ士道がおり、ガックリと項垂れていた。
「士道」
「琴里……」
琴里に声を掛けられ顔を上げた士道は弱々しい表情を浮かべていた。
「なあ琴里……俺、あいつの言ってたことが頭から離れないんだ……。腹を満たすために人を食べる……あの時それを聞いて、俺一瞬だけど、嫌悪感を抱いちまったんだ……俺は、どうすれば良いんだ……?」
「……っ」
その問いに琴里は顔を歪める。確かに自分も初めてグラトニーの人を喰らう映像を見た時はとてつもない不快感を抱いた。事実今ですら映像を見るたびに胃から込み上げてくることがあるのだ。しかし……
「あなたの気持ちも分からなくはないわ。でも、精霊を救うのを辞める訳にはいかないのよ。それがラタトスクがある最大の理由だから」
精霊と対話し霊力を封印することで平和的に事を収めるのを目的に立ち上げられたのがラタトスクという組織なのだ。霊力を封印し力を失った精霊達が安全に過ごしていけるようこれまで準備もしてきた。
「士道!しっかりしなさい!思うところはあるかもしれないけど、グラトニー以外にも精霊はまだいるの!ここでそんなこと言ってたら救うことなんてできないわよ!」
「琴里……そうだよな…それは俺にしかできないことなんだよな」
パンッ!
琴里からそう言われた士道は自分の両頬を手で叩き、気持ちを入れ直した。
「悪い、琴里。ちょっと弱気になってた。俺が折れちまったらダメなんだよな。あいつが拒絶したとしても、やっぱり放っておくことはできない」
「よく言ったわね。それでこそおにーちゃんよ」
「喝を入れてくれたんだよな、ありがとな」
士道は立ち上がると琴里の頭を優しく撫でる。琴里もそれを少し頬を染めながらも受け入れていた。
「……2人共、仲睦まじい所悪いけど、ここには私もいるんだが」
「「あっ」」
と、今まで黙っていた令音の言葉で2人はようやく第三者がいたことに気付くのであった。
「五河士道……か」
日が落ち夜になった天宮市、とあるビルの屋上でグラトニーは町を見下ろしながら昼間会った少年のことを思い出していた。
「相変わらず満たされてはねぇが、退屈はしなさそうだな」
「あらあら、あなたも士道さんにご執心で?」
「……時崎か」
背後から声が聞こえグラトニーが振り返ると、そこには赤黒い霊装を身に纏ったかつて最悪の精霊と呼ばれたナイトメアこと、時崎狂三が立っていた。
「どうやら、あなたも士道さんに会ったようですね」
「ああ、だがあくまで気に入った程度だ。オレの機嫌次第じゃあいつも食っちまうかもな」
「それは困りますわ。士道さんはわたくしがいただくつもりですので」
「そうかよ」
そしてしばし沈黙が流れる。
「……で、一体何の用だ?ただそれを話しに来ただけか?それとも、こいつの件でか?」
そう話すグラトニーの手には食いかけの狂三の分身体があった。よく見ればグラトニーの足元には血が飛び散っており、明らかに喰らっていたのが一体だけではないのが分かる。
「これで何回目と思っていますの?全く、分身体も決して無限ではありませんのに」
「なんだ、
「いえ、そんなこといたしませんわ。そもそもわたくしの刻々帝はあなたの天使と相性が悪いですから」
グラトニーの挑発に狂三は笑みを浮かべたままそう返す。狂三はグラトニーの天使を見たことがあるため、それゆえの返答だった。
「では、わたくしはこれで失礼いたします。暫くこの町を中心に活動するつもりですので、またお会いするかもしれませんわね」
そう言うと狂三は笑いながら影の中へ消えていった。1人残されたグラトニーはしばらく狂三がいた場所を見つめていたが、やがて視線を外し食べかけの狂三の分身体にかぶりついた。
グラトニーはあまり天使を使わないので能力のデータはどの機関もほとんどないです。