目次
第9章「深く、
「ここからは少々…複雑で長い話になります。ここまで全力で走ってきましたし、ここで休憩もしておきましょうか!」
「あ…正直、助かります…」
「まぁ、寝起きで全力疾走はな…流石に俺も疲れてたんだ…」
「そっすね。ジョゼさんも話をする前に一旦休んだ方が良いんじゃないっすか?」
「お気遣いありがとうございます!ですが…私は全く疲れていないので大丈夫ですよ!」
こいつは演技が上手いが…
マジで疲れて無さそうだな…
「いや…あんたも座ってろ。」
「そうですね!では失礼して…話を始めましょう。」
【それは、彼女がヘカーティアの魔法によって気絶する寸前まで遡る。】
「我は
【へカーティアの言葉に共鳴し、ひび割れていた鏡面が渦を巻いて闇へと変わる。】
か…体が…動かせない…!
体に力を入れられない…!
ダメだ…この鏡を見てはいけない…
本能で理解出来るほどに異質な何かを感じているというのに…目を離せない…ッ!
【その手鏡の闇は異質だった。それは深海を思わせる様に深く、闇の終わりが、底が見えない。その闇は彼女の思考と視線を引きずり込み、無の中へと沈めていく。】
思考が…
あた…ま…が…
私…が…みなさん……を…
「
【彼女の目を闇が覗き、彼女の視界を
何も…見え…ない…
聞こえな…い…
分かれない…
私の体に……何かが…
まとわりついて…
【鏡面から溢れ出す影を彼女は見る事ができず。自分がそれにどの様に包まれているのかも理解できなかった。それでも彼女は抗い続ける。】
あ…あぁ…
私は…わたシ…ワ…
アキ…らメ…な…イ…
【自分の体が抵抗することを止めて床に倒れようとも、永遠に続く底の無い闇へと沈みながら抗い続ける。】
わた…し………
【思考までもが、滅びゆく事にも気づかずに。】
第10章「
…………………………
………………………
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
「…ッ!」
【思考と体の自由が戻った瞬間、ジョゼフィーヌは目を開くと同時に立ち上がり、戦闘態勢をとった。しかし、周囲の景色を見た彼女は困惑した。】
「ここ…は…?」
ここは…いったいなんだ…?
なぜ私は…こんなにも…
美しい場所に居るんだ…?
【彼女は一人、青い薔薇が地平線まで咲く丘の上に立っていた。夜空の煌びやかな星々と、青くて大きな満月が辺りを照らしている。青い薔薇は月の光を反射し、なぜかうっすらと銀色に光っている。虫の音は無く、心地よいそよ風が彼女の髪と薔薇を揺らす。辺りに人工物は無く、人の気配と動物の気配も感じられなかった。そこにはただ幻想的で神秘的な景色が広がっていた。】
確か私は…
彼の『魔道具』によって無力化されていたはず…
今は…とにかく武器を…!
「『
【彼女は『魔武具』の名前を呼ぶと同時に手を前に伸ばしたが、何も現れなかった。】
「…?『
クッ…なぜだ!
なぜ『魔道具』を呼び出せない!
「せめて…ナイフを…!」
【彼女が右足に付けていたガーターベルトから、流輝に預かったアーミーナイフを引き抜こうと手を伸ばした。】
「無い…!」
レッグポーチの中は…!
【彼女がポーチを開くと、中に入っていたはずの物が消えていた。】
私の組織の道具も…
これでは作戦に支障が…!!
そして…『
いや…今は彼等と合流することを急がねば…!
しかし…
「私は…いったいどうしたら…」
「私が助けてあげましょう、ジョゼフィーヌ。」
「くッ…!」
後ろから声が!?
音も気配も無かった筈だ!
【彼女が急いで声の方向へと振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。】
「ご機嫌よう、ジョゼフィーヌ。私の可愛く美しく…気高い子。」
【その女性の髪は一切の淀みのない純白の美しい長髪で、月の光を受けている為か、彼女の髪そのものが銀色の光を放っているのか、辺りに咲く青い薔薇と同じく銀色に光っている。
彼女の眼は赤い宝石や鮮血を思わせるような透き通った赤色で、その眼は淡く赤く光っている。
彼女が来ているドレスは、黒色と紺色を基調としており、青い薔薇の飾りつけがされている。】
「あ…あなたは…!?」
【彼女を見たジョゼフィーヌは、驚きを隠せなかった。】
「フフ…驚いている様ですね。理由は私と貴女の身体的な特徴が酷似しているから…でしょう?」
「は…い…」
とても…とても似ている!
私の姿とも…私の母の姿とも…!
体型も髪型も…顔のパーツの一つ一つが…私の妹と同じ様に酷似している!
「あなたは…あなたは何者ですか!?」
「私は…貴女の先祖です。」
「先…祖…?」
「つまり私は貴女の
「世間的に考えるとあなたが……私の叔母……」
彼女からは敵意が感じられない…
ひとまず、彼女は私の敵では無さそうだ…
現に彼女は自らの事を『貴女の叔母』と言っている。
『貴女の』という事はつまり私の…
私の…!?
「私の叔母様なのですか!?」
【ジョゼフィーヌは思わぬ情報に驚き、大声で質問した。すると、女性は静かに微笑みながら質問に答えた。】
「えぇ、そうですよジョゼフィーヌ。驚く姿も可愛いものですね。」
まさか…今のは聞き間違いでもなく本当の…しかし…
「ですが…世間的に考えればとは…?」
「生物学的な話をすると…私が貴女の母親にあたります。」
「………はい?」
『生物学的な話をすると…私が貴女の母親に…』
今…彼女は何と…
「簡潔に言うと、私が貴女のお母さんです。」
『私が貴女のお母さんです。』
い…今…彼女は…!
自らの事を…『お母さん』と…
お母さん…ん?
「お……お母様!?今…貴女が私の…お…お母様と?」
「えぇ、貴女が今まで母親として慕ってきた子も貴女も…私の可愛い可愛い我が子です。」
「な……え…?えぇえぇえええ!!??」
第11章「血縁の証明」
わ…訳が…
情報を理解する事が…
『貴女が今まで母親として慕ってきた子も貴女も…私の可愛い可愛い我が子です。』
いや…!
「それは…嘘です!」
【ジョゼフィーヌのその言葉を聞いた女性は、先程の様に静かに微笑みながら、楽しげに質問を返した。】
「では…なぜそう思ったのか聞かせて下さい。」
「あなたの話が本当ならば…私が今まで過ごしてきた母と、私と、貴女の年齢が明らかに不自然です!あなたの容姿からして…年齢は私と近いはずです!」
「フッ…ウフフフフ…!」
【女性がその時、初めて表情を崩してはっきりと笑顔を作り、心の底から楽しんでいるかのような笑い声をあげた。そして彼女は笑い終えると、ジョゼフィーヌの事を見ながら話を初めた。】
「貴女には…私の年齢が18歳辺りに見えますか?」
「はい…!」
「とても嬉しい事ですね。ですが、私の本当の年齢は…確か数千…数万…はたまた数億…いまや年齢を数える事も面倒になり、私が何年生きているのかも忘れましたが…私は、少なくとも貴女の予想しているような年齢ではありません。とてつもない程のお年寄りです。」
「な…何を馬鹿げた事を…!」
最低でも数千歳など…
どのような生物でさえ有り得ない!
そもそも…その年齢まで生きられたとしても、脳と精神が耐えられなくなって発狂してしまうはずだ!
「貴女が私の事を疑うのはごく当然の事です。娘に疑われるのは少々、悲しい事ですが…私が『ただの人間』では無いという事を証明しましょう。」
「ただの人間では無い…?」
「えぇ、そうです。私は…」
【彼女はそこで言葉を切ると、右手がジョゼフィーヌに見えるように前に差し出し、手を広げた。】
「『
【彼女の手の平から赤い鮮血が溢れ出し、地面に流れ落ちる。流れ落ちた鮮血が青い薔薇を血染めの赤い薔薇に変えていく、彼女の手から血が溢れる度に、青い薔薇が血濡れて行く。それはやがて勢いを増し、彼女の足元だけでなく、彼女を中心とした広範囲の数えられない程の薔薇を赤く染めた。その風景を上空から見るとするなら、青い布の上に一滴の血が垂れたかの様に見えるだろう。】
「こ…これはいったい…!?」
「『
【彼女はそういうと右腕を高く掲げ、手首を内側に曲げた。すると青い薔薇を赤く染めていた鮮血が全て宙に浮き、空中に血の水玉模様を作る。】
「血が…全て浮き上がった…!?」
「これは序の口です。」
【彼女がそう言いながら人差し指で星の形を描くと、宙に浮いていた血が俊敏に動き出し、彼女の上空で大きな星の形になって停止した。】
「次は…」
【彼女が指で渦を巻くと、血も渦を巻く。】
「そして次は…」
【彼女が指でハートのマークを描くと、血もその通りの形を作る。】
「最後に…」
【彼女が指を鳴らすと血液が立体的な薔薇の形を作り、端の方から花弁となって散り始め、彼女の右手の中へと吸い込まれて消えて行った。】
「今のはただのお絵描きの様なものです。平和な血の使い方ですね。」
「今のが…」
今のがただの遊び…?
あの大量の血液を指先ひとつで思い通りに…!
それも最後は…とてもリアルに動く薔薇を…指を鳴らしただけで!
今のは『魔法』の筈だ…
だとすれば彼女は…
無詠唱で先程の高等な『魔法』を容易く使用していた事になる!
「貴女のその顔からして、私が常人では無いと理解出来ている様ですが…もう少し証拠を見せておきましょう。」
「い…いえ!十分です…あなたは確実に…」
【ジョゼフィーヌの静止を無視し、彼女はジョゼフィーヌの目を見ながら声を出した。】
「血よ、真の主の命に従え。」
「なっ…!?」
【彼女の言葉を聞いた彼女は突然、体を動かす事が出来なくなった。】
「体が…私に一体何を…!」
「貴女自身というよりも、『貴女に流れる血液に命令した』という方が正しいでしょう。貴女を含めた私達の種族は…条件さえ揃えば、相手の血液を思い通りに操れます。程度の低い生物なら無条件で、ある程度の力を持つ者なら…『自身の血液を少しでも相手に与える事で、相手の血液に命令すること可能』になります。」
「相手に血液を…?いつ私にあなたの血を……いや…まさか…!」
「気づきましたか?」
『私が貴女のお母さんです。』
「あなたの血が…私に流れているから…!」
「えぇ、正解です。流石は我が子です。では…こちらに来なさい。」
【彼女の言葉を聞いた途端、ジョゼフィーヌ体が勝手に動き出し、女性の元へと歩き始める。】
「か…体が勝手に…!?」
【そして女性の目の前までたどり着くと、彼女はジョゼフィーヌを正面から優しく抱き締め、頭を撫でた。】
「な…きゅ…急に何を…!?」
「フフ…我が子を褒めているだけですが?」
と…とても…恥ずかしいが…
悪い気はしない……
しかし…なんとも言えない複雑な感情だ…!
「あの…そ…そろそろ離して頂けませんか?」
「照れているのですか…可愛いですね。少し残念ですが良いでしょう。」
【彼女がジョゼフィーヌから手を離すと、ジョゼフィーヌの体は再び自由に動く様になった。】
「体が元に…」
「安心して下さい、私は貴女に危害を加える気は一切ありません。命令も解除してありますよ。」
「その…私はあなたの事を何とお呼びすれば…?」
「お母さんでもお母様でもママでも構いませんよ。」
「いえ!そうでは無く…」
「名前ですか?」
「はい!」
「今は…貴女の旅が終わるまでは偽名にしておきましょう。そうですね…『エリザベート』…で良いでしょう。私の名前はエリザベートです。貴女の旅が終われば、『真名』を教えましょう。」
「エリザベート…血の貴婦人と呼ばれた物語の女性ですか…分かりました!」
おそらく偽名を使うのは…『真名の支配』への対策だろう。
「早速なのですが…私の状況を教えて頂けませんか?」
「えぇ、勿論ですとも。私が貴女を助けてあげましょう。私は貴女の母親なのですから。」
あとがき
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
今回と次回は、ジョゼフィーヌがへカーティアの魔法によって倒れていた際に、彼女に何が起きていたのかという話の内容になります。
今回は主人公にとっても皆さんにとっても衝撃的な展開になったのではないでしょうか?
感想・コメントもお待ちしております!
それでは次回もお楽しみに!