目次
第28章「薔薇の
「今の私に残っている能力…それは、私のお母様の力です!今ここで…お母様に力を借ります!」
【ジョゼフィーヌはガーターベルトにストックしていたアーミーナイフを右手で取り出し、流輝の心臓部の上で左手首に刃を当てていた。】
彼のその姿を見たときは、頭の中が真っ白になってしまっていた。
彼の姿を見て、私の脳内で『あの日』の光景がフラッシュバックしてしまった。
当時の私の未熟さが招いた『あの日』の光景が…
『今の私に残っている能力…それは、私のお母様の力です!今ここで…お母様に力を借ります!』
この言葉は…自動的に口をついて出た言葉だった。
『
今の私にはその力に
【彼女の右手にあるナイフが、ほんの少しだけ震える。】
今までの任務の中でも、『あの日』以来は大切な人がこれほどまでに傷ついたことは無かった。
思い返してみれば私は常に前線に立ち、仲間の傷つく姿から目を背け続けてきた。
私は、もう二度と『あの日』のことを繰り返すまいと…一人で先頭を走り続ける醜い姿を仲間に見せ続けてきたのだ。
飛び交う弾丸や刃が私につける傷を無視して…彼らと妹が私に…涙ながらに静止を求める声に振り返らずに…
それでも…私が仲間の為に受け止めることができなかった傷がある。
その度に私はどれほどの血と涙を流しただろうか…?
己の無力さをどれほど呪ってきただろうか…?
生死の境を
だが…今の私には『血を統べる者』の力がある…!
私は誰かを守り、救う為に血を流すことができる!!
【彼女は目を閉じ、自らの精神の奥深くに集中した。そして、心の中でエリザベートに呼び掛けた。】
『お母様…私に力をお借し下さい!』
【その時、彼女の
「ふふ…早速、私の出番が来たようですね。何があったのか…そして、貴女が望んでいることも把握しています。」
「では…!」
「もちろん、力をお借しします。ですが少々、特殊な方法を取ることにしましょう。」
「特殊な方法…?」
「私が貴女に伝えた方法で力を貸すと、貴女の『魔力』と『生命力』の消費量がかなり多いのです。その為、貴女に今も続いている
「それは…困りますね…」
「なので、特殊な方法を行います。」
「その方法とは…?」
【彼女にそう問われたエリザベートは更に笑みを広げ、より愛おしそうに彼女を見つめた。】
「私が彼を治療するのでは無く…貴女が彼を治療するのです。もちろんサポートはするのでご安心を。」
第29章「一輪の薔薇と花束を」
「なっ…」
私が…直接彼を…?
「お母様!私はまだ『血を統べる者』の力を完全には…」
【彼女の言葉を遮るように、エリザベートは彼女の
「この状況は貴女の『血を統べる者』としての力を引き出し、成長を
【彼女はそこで言葉を切ると、不安げな表情を浮かべるジョゼフィーヌの
「貴女は、貴女が思っているよりも遥かに有能です。己を卑下する暇があるのなら、己の力を認めて下さい。それが無理なら、その心の弱さも背負って強くなりなさい。貴女の為に、そして、仲間の為に…!」
【彼女のその言葉が、ジョゼフィーヌの不安を拭い去り、彼女の心をより一層強くした。彼女の心に灯った光を表すかのように、夜空に浮かぶ月が、蒼く美しく輝いた。】
あぁ…あなたはやはり私の母親なのだろう…
あなたと初めて出会ったときはただ…時間を無駄にしないように、『きっとそうなのだろう』と無理やり自分を納得させていた。
だがあなたの言葉は…その優しさに満ちた眼差しと微笑みは…本物の愛なのだろう…
【ジョゼフィーヌは彼女の紅い瞳を見つめたまま、頬に当てられた彼女の両手に自分の両手を重ね、決意に満ちた声と表情で言葉を紡いだ。】
「ありがとうございますお母様!私が流輝さんを…皆様を助けます!私の中に眠る力を引き出して…!!」
【その言葉に、エリザベートは満足そうに頷いた。】
「貴女には…常に美しく、力強く咲き誇る孤高の青い薔薇の様に、前に進み続けることができる力と心があります。ですが、時には一輪の薔薇としてあり続けるだけでなく、花束の中で他の花と共に美しさを引き立てる為の花となることも大切です。」
【そう語るエリザベートの目は、どこか遠くの懐かしい記憶を見ているかのように、寂しさと優しさを含んでいた。】
「つまり…貴女が完全に全てを成し遂げる必要は無く…周囲の者の力を借りることも大切だということです。」
【エリザベートはそう言うと手のひらから血を出現させ、その血でナイフを作り、ジョゼフィーヌの右手のひらに乗せた。】
「私は常に貴女を愛し、守り、手を差し伸べます。さぁ…貴女も私の手を握り返し、助けを受け入れて下さい。」
「ありがとうございます、お母様。そして、どうか…私に力をお借し下さい!」
【彼女はその言葉と共に、右手に乗せられた血のナイフとエリザベートの手を握り締め、左手首にそのナイフを当てた。その瞬間、周囲に咲いている青い薔薇の花びらが二人の周りを舞い、エリザベートとジョゼフィーヌの間に花びらの壁を作った。そしてその壁が散って消えると、ジョゼフィーヌは『魂の領域』から現実世界へと帰ってきた。しかし、エリザベートが彼女に手渡した血のナイフは、彼女の手の中で紅い輝きを放っていた。】
第30章「救う為に流れる血」
「なっ…あんたのそれは…?」
「いつの間にそんな物を…?いや…それは君のお母さんの…!」
【『魂の領域』内で1年が経ってやっと現実空間では1秒の時が流れる為、彼らからすれば彼女が唐突に、瞬きよりも短い時間の間に血のナイフを取り出したことになっているのだ。】
「そうです、春喜さん。このナイフはお母様が作り出したものです。そして私はこれから…流輝さんの治療を開始します!」
【彼女はそう言うと、自分の手首を切って流輝の胸の上に血を垂らした。その瞬間に彼女の傷口が塞がり、血のナイフも溶け初め、彼女の血と共に流輝の中へと一瞬で吸収された。その時、エリザベートの声が彼女の頭に直接的に響いた。】
『さぁ、集中して下さい。彼の体内に吸収された、貴女と私の血液に宿る「魔力」を感じ取るのです。目を閉じ、余分な情報を遮断して下さい。』
『はい!』
【彼女はエリザベートの言う通りに目を閉じ、『魔力』を感じ取るために集中した。その時、青色の淡い光が見えた。】
『まさか…これが…?』
『どうやら見えたようですね。では次に、その光の上に…彼の胸の上に手を乗せて、更に「魔力」を流し込んで下さい。「魔力」を流すイメージはできますか?』
『はい!』
【彼女は目を閉じたまま流輝の胸に手を乗せると、『魔力』を流す準備を始めた。】
『魔力』を表現するならば、私のイメージでは電気やエネルギーの様な物だ。
そして、その『魔力』を体内に有する私はバッテリーや機械に近いと言える…
つまり私のこの腕は、彼の体内に電気を流すための接続器だ…
後は私の体に宿る『魔力』をイメージ通りに流すだけだ…!
【彼女はイメージを何度も繰り返し、思考をその光と腕に集中していた。すると、少しの疲労感と共に、流輝の胸の内にある光がより大きく青く輝いた。】
くッ…体が…重くなった様な気がするが…
『上手く…行きましたか?』
『はい、上出来です。後は、その光が彼の体内に
『なるほど…血液の循環を意識する事が大切ですね…』
『呑み込みが早いですね。ではイメージして下さい。彼の心臓の収縮と鼓動を、そして一つ一つの血管に送り出されていく血液と血流を…』
【エリザベートの声が彼女の脳内に響き続け、彼女の思考の中へと催眠の様に入り込んで行く。】
私の手を伝って、彼の心臓の鼓動が伝わって来ているが…
まだ心臓の鼓動が不規則だ…
正しい鼓動をイメージしろ…
鼓動と共に流れていく血を感じろ…!
【彼女が意識すると、彼の心臓部で留まり続けていた血液と『魔力』の塊が、彼の心臓を中心に体中に広がっていった。それと同時に彼女の目が開かれ、彼女の口から自動的に言葉が紡がれた。静かで冷たく、そして低い声で力強く。】
「血よ…我が
【その瞬間、彼の体が青と赤の光に包まれ、電流で焼け焦げた痕や傷が消滅し、心臓の鼓動が正常に戻った。】
『お母様…上手く行きましたか…?』
『はい、彼はじきに目覚めるでしょう。完璧な治療です。』
『よかっ……た…』
あぁ…だめだ…
疲労と眠気で…意識…が…
【瞳を閉じたまま深い闇の中に意識が沈んで行く中で、エリザベートの優しい声が聞こえた。】
『良く頑張りました、私の愛しく勇敢な子。今はただ眠りなさい…これから繰り広げられる戦いは、壮絶なものなのですから…』
あとがき
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!
投稿期間がめっちゃ空いてすみません…
以前に話していたYouTubeの件はまだ準備中なので、しばらくかかるかもしれません!
今回はジョゼフィーヌとエリザベートの関係性や、『血を統べる者』の能力。
そして、ジョゼフィーヌの過去の意味深な描写が楽しめたかと思います!
次回は既に書き終えているので、翌日に投稿予定です!それでは次回もお楽しみに!