シャドウ   作:ゆばころッケ

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長めです。

でも二話分はないです。

明日もあげられたらあげます。

それが無理ならまた日曜になりそうです。


二 一夏、別れ

一夏、別れ

 「そろそろお昼作ってくるね。」

 

「あぁ、もうそんな時間か。今日は俺が作るよ。」

 

櫻に勉強を教えもらい始めてから、家事は全部櫻任せだ。

 

家事が嫌いでない俺としてはむしろやりたいのだが……。

 

「一夏は勉強しないとだめでしょ。

私が作ってくるから後一時間頑張って。」

 

この一言に俺は勝てない。

 

仕方がないのでまた勉強に集中する。

 

確かに俺は勉強せざるをえない状況にいる。

 

エリートばかりが集うIS学園では、高校内容は学んでいることが前提らしい。

 

成績が悪くはなかったつもりだが、

 

高校内容までマスターする程天才ではないからな。

 

 

 

 

 

 

 「ご飯できたよ。」

 

櫻の声がした。

 

よし、これで勉強を一時中断できる。

 

俺は二階の自分の部屋を出て、

 

急いで下のリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

「おお、おいしそう。」

 

「どうぞ、召し上がれ。」

 

今日の昼食はハンバーグだった。

 

ポテトサラダとコンソメスープもついている。

 

それだけでなくデザートのゼリーまであった。

 

「ゼリーなんていつの間に作ったんだ?」

 

「朝食つくるついでにね。」

 

櫻は料理が上手だ。

 

悔しいが俺よりも上手なのだ。

 

よってハンバーグを食べた時に、

 

 

 

 

 

 

 

「最高だ!」

 

俺がこう叫ぶのも仕方のないことなのだ。

 

いきなり叫び出した俺に一瞬驚いた櫻だったが、

 

「ありがとう。」

 

と言って、満面の笑みを浮かべた。

 

俺はその笑顔に違和感を覚えた。

 

いや本当は違和感を覚えるべきものではない。

 

「どうかした?」

 

また笑顔、今度は違和感はない。

 

しかし今度のこそ、違和感を覚えるべきそれだった。

 

櫻の笑顔はあの日以来変わってしまった。

 

最初は違和感を覚えていた笑顔が回数を重ねるにつれて、

 

あたかも普通の笑顔のようになってしまった。

 

昔見せてくれていた笑顔を今となっては時々しか見ることができない。

 

そして悲しいことにそういう本当の笑顔に違和感を覚えるようになってしまったのだ。

 

「いや、なんでもないよ。」

 

俺はハンバーグをもう一口食べる。

 

先程の味が嘘のように、食感しか伝わらない。

 

俺は自然とあの日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は小学二年生になっていた。

 

櫻と仲良くなってからちょうど一年くらい経っていただろうか。

 

あの日は朝から雨が降っていた。

 

教室に着いた俺と箒はすぐ異変に気が付いた。

 

「あれ、櫻は?」

 

「今日は遅れているのか?」

 

「今日はまだ来てないよ。」

 

「風邪?」

 

「去年は一日も休んでなかったよね。」

 

「もしかして寝坊じゃねえの?」

 

「あんたじゃあるまいし。

それに櫻に限ってそんなことはないでしょ。」

 

皆、櫻のことを気にかけていたらしく、

 

俺と箒の発言を受けて教室は一気に騒がしくなった。

 

結局、朝の会の時間になっても櫻は来なかった。

 

「今日は櫻ちゃんはお休みです。」

 

先生がそういう言うまで俺は櫻が来るのを待っていたのを覚えている。

 

いや、言った後でさえ来るんじゃないかと思っていた。

 

だからその日は授業に集中せず、扉ばかり見ていたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、俺は見舞いに行くことにした。

 

「箒、櫻のお見舞い行かないか?」

 

「行きたいのはやまやまだが、今日は練習試合の予定が入っててな。」

 

「じゃあ俺一人でいくか。」

 

掃除を終えた教室は人がまばらだった。

 

「ところで一夏、お前住所は知っているのか?」

 

あっ……

 

「箒は知ってる?」

 

「知らないから言ったのだ。」

 

「だよな。」

 

そういえば一年間で家庭の話はほとんどしてなかった気がする。

 

 

 

 

 

先生に櫻の住所を聞いた俺は雨の中町をさまよっていた。

 

要するに迷子になっていたのだ。

 

高級住宅街って行ったことある?

 

同じような高い塀の家。

 

道を聞こうにもなんだか話しかけにくい人ばかりだった。

 

自分は場違いなのだと強く感じさせられた。

 

時間が経ち、夕暮れになって俺は途方に暮れていた。

 

さまよっている内に俺は河原に逃げていた。

 

高級住宅街には息苦しくて居られなかったのだ。

 

そこは櫻に合気道を教わった場所だった。

 

河原には雨の中赤い傘をした少女が一人立っていた。

 

俺は目を疑った。

 

なぜなら彼女は櫻だと俺は思ったからだ。

 

背中しか見えないから断言はできなかった。

 

でもその時俺はそう確信していた。

 

「櫻……。」

 

彼女はゆっくりと振り返った。

 

彼女はやっぱり櫻だった。

 

でも俺は櫻と信じたくない自分が居ることも知っていた。

 

欠席した櫻が外に出ているというのはおかしいし、

 

なによりも櫻は泣いているように見えた。

 

「あっ……一夏だ。」

 

そう言うと櫻は弱弱しく笑った。

 

その笑顔も櫻に似合っていない気がした。

 

「一夏はどうしてここに来たの?

雨だから増水してて危ないよ。」

 

「それはこっちのセリフだ。櫻こそどうして?」

 

「どうしてなんだろうね。」

 

また笑った。

 

しかしその笑顔は自嘲気味たものだった。

 

「なあ櫻……悩みでもあるのか?」

 

俺にはそう言うことしかできなかった。

 

「一夏には関係のないことだよ。」

 

「関係ないはずないだろ!」

 

「そうかな?」

 

「だって……」

 

「だって……?」

 

櫻と俺の目が合う。

 

「大切な友達だろ。」

 

別に違うという訳ではない。

 

でも本当に言いたかったことではなかった。

 

この時俺がなにを言いたかったのか、今でも分からない。

 

彼女はちょっと笑った後、突然

 

「親の子に対する愛ってどんなものなのかな。」

 

と言い出した。

 

俺に答えられる訳がなかった。

 

俺に両親の記憶というものは一切ない。

 

「私はね、理由もなく愛せることだと思うんだ。」

 

理由のない愛?

 

「想像にすぎないけど。」

 

「一夏はどうして私が大切?」

 

「えっ……」

 

「話していて楽しいから?」

 

違う気がした。

 

改めて言われると言葉にするのは難しかった。

 

「なんでもないよ。変なこと言ってごめんね。」

 

話を元に戻そうかと櫻は続ける。

 

さっきから口調はいつものままだが、弱弱しい雰囲気だった。

 

「私の親は私の事を二人を飾るアイテムの一つとしてしか見てないんだ。」

 

「アイテム……?」

 

「そう、アイテム。

別に今に始まったことじゃないけど……。

きっと生まれたその時からそうだったんだよ。」

 

「もしかしたら、その前からかも。」

 

「その前?」

 

「また変なこと言っちゃったね。」

 

この時も確か笑った。

 

「私自身にも良くわからないんだよ。」

 

「最近ね……、私が……」

 

「櫻……?」

 

櫻の様子は明らかにおかしかった。

 

何かに怯えているようだった。

 

「……大丈夫か?」

 

どうして俺はこんなことしか言えかったんだろう。

 

「今は大丈夫……。」

 

今は?

 

なら明日は?

 

もっともっと先は?

 

過去は?

 

「大丈夫だから。」

 

「話を聞いてくれてありがとう。

今日はもう遅いから帰ったほうがいいよ。」

 

「まだなにも。」

 

「これ以上話すと風邪ひいちゃうよ。」

 

「でも……。」

 

「じゃあね。私は帰るから。」

 

そういうと櫻は走り去って行った。

 

その日は一晩中雨はやまなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺が教室に入ると、櫻は居た。

 

俺と目が合うとにこやかに俺に笑いかけた。

 

俺はその笑顔に違和感を覚えた。

 

「一夏、昨日はごめんね。もう大丈夫だから。」

 

「そうか、もう調子はいいのか。」

 

何も知らないし、気づいていない箒が安心したように言う。

 

「箒ちゃんも心配かけちゃってごめんね。」

 

「別に謝ることではない。」

 

「それもそうだね。」

 

じゃあ改めてっと小さく言ってから、

 

「心配してくれてありがとう。」

 

笑顔で言う。

 

「うむ。」

 

箒は照れたらしく下を向く。

 

教室には和やかな雰囲気があった。

 

だが、俺だけが目の前の櫻を恐れていた。

 

拭えない違和感は俺にとって恐れる対象以外の何ものでもなかった。

 

「一夏、どうかした?」

 

やめろ、そんな顔で俺を見るな。

 

俺の中で何かが崩れ去った。

 

俺は教室から、目の前の現実から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日体調不良ということで、俺は保健室で寝た。

 

昨日は雨の中一日中外にいたというそれらしい理由もあったし、

 

なにより顔が青ざめていたので仮病と疑われることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから櫻はIS適正試験を受けて、代表候補生になった。

 

引っ越すことこそなかったが、忙しいらしく、会う機会はなくなっていた。

 

たまに会ってもあの笑顔を向けられるだけだった。

 

俺があの日何か言えれば違っていたのか?

 

俺には未だに分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、櫻。」

 

「何?一夏。」

 

俺は食事の合間に話しかける。

 

「櫻は俺のことを……」

 

大切に思うか?

 

もしそうならばその理由は?

 

何故俺は今になってこの質問を?

 

なんの意味もないことだ。

 

「なんでもない。」

 

「変な一夏。」

 

櫻は笑う。違和感のない笑顔。

 

そうだ、今となってはこれでいいんだ。

 

きっと……。

 

変か……。

 

変わっているとは箒にもよく言われたなぁ。

 

俺の思考はまた過去へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

櫻が代表候補生になってから、俺と箒はさらに仲良くなった。

 

それは櫻がいない寂しさをごまかすような所があったと思う。

 

それにこのころから箒は束さんと仲が悪くなったようだ。

 

元から束さんはともかく、箒の方はべったりという訳ではなかったらしい。

 

でも嫌っている訳ではなかったとか。

 

ISの開発によって、束さんが一躍有名になってから

 

少しずつ上手くいかなくなっていったらしい。

 

箒曰く付き合い方が分からなくなったんだってさ。

 

俺が剣道を習い始めたのは小1で、その時にはIS発表から1年経っている訳で、

 

徐々に仲悪くなり始めている頃の二人しか見たことない。

 

箒が一方的にそっけない態度をとっている印象が強かった。

 

そっけない態度をとっていた箒だけど、

 

そのころにはまだ束さんが遠い所に行ってしまったような寂しさもあったのではないか。

 

とにかく俺と箒は寂しかった。

 

だからお互いは居なくならないようにとずっと一緒に居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学三年生の頃俺は箒に少しずつ勝てるようになった。

 

それでも基本動作とかは箒の方がよくできていた。

 

箒によると俺がたまに予測できない動きをすることがあったらしい。

 

それが原因で負けてしまうのだということだった。

 

俺が意外だったのは箒が負けても喜んでいたことだった。

 

もちろん悔しがってもいたし、反省会もしていた。

 

でもそれよりも喜んでいるように見えた。

 

「一夏、お前はやっぱり変わっているな。」

 

嬉しそうに箒は言った。

 

「そうか?」

 

「ああ、一夏の動きは篠ノ之流のものなのは間違いないのだが、

土壇場となるといつもよりも動きが速くなるんだ。」

 

またそうなのか?とか言いそうになった。

 

「じゃあそんな変わり者の俺と居る箒も変わり者だな。」

 

俺は笑いながら言った。

 

「私は、変わってなどいない。」

 

軽く叩かれた。

 

「いいじゃねぇか。共通点があるっていうのも。」

 

「馬鹿を言うな!」

 

箒はまた俺を叩くとそっぽを向いてしまった。

 

一瞬見えた表情は赤かった。

 

もしかしたらこの頃から箒は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学四年生の時、剣道大会の前日俺は箒に告白された。

 

いや、確信はないんだけど、あれは告白だったと思う。

 

つきあってくれって言い方じゃあ買い物とかの誘いの可能性もあるからな。

 

でもやけに頬も赤かったし。

 

それにその時の様子は俺に告白してくれた他の女子に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が初めて告白されたのは小学三年の時だった。

 

初めての時は言っている意味が分からなくて

 

告白してきてくれた子を泣かせてしまった。

 

あの時は放課後でその子を慰めていたら、かなり時間が経っていた。

 

荷物を取りに教室に帰ると、櫻が居た。

 

「あれ?今日は登校してったっけ?」

 

「うーん、放課後は時間があったから友達と話に来たんだ。」

 

教室にはもう誰もいなかった。

 

「もう教室に人いないし、今から帰り?」

 

「そうしよっかな。一夏は?」

 

「今から帰る。」

 

「じゃあ久しぶりに一緒に帰ろうよ。」

 

笑顔だった。

 

さすがに慣れ始めていた俺は恐怖を感じなかった。

 

 

 

 

校門を出て、二人並んで歩き出す。

 

「そういえば一夏はどうして残ってたの?」

 

「いや……」

 

俺は言うべきか、言わないべきか迷った。

 

「当ててあげようか?」

 

「告白されてたでしょ。」

 

「見てたの?」

 

「ちょっと聞こえてきただけ。ほら放課後の学校って静かだし。」

 

そうかなぁ。まあ結構大泣きだったしな。

 

「一夏、はっきり断るのも優しさだよ。」

 

「うっ、いや告白って最初分からなくて。」

 

「それはいいけど、その後慰めたりしたら、

その子気持ちひきずったままだよ。」

 

「じゃあどうすればよかったんだ?」

 

「だからきっぱりと。」

 

「そう言われてもな。」

 

俺は少し困っていた。

 

「一夏は優しすぎるからね。

それが良い所でもあるけど。」

 

その笑顔は眩しかったが違和感を覚えた。

 

そうだった、この時には既に昔の本当の笑顔の方に違和感を覚えていた。

 

その後は大した会話はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が大会で優勝したらつきあってもらう!」

 

妙に気合が入っていた。

 

こういう時の箒は人の話を聞かない。

 

「なぜ何も言わない。」

 

後いつもより沸点が低い。

 

俺は困っていた。

 

「もしかして嫌なのか?」

 

箒と……?

 

嫌ではなかった。でも……

 

「とにかく、そういうことだからな。」

 

そういうと箒は去っていった。

 

櫻は断るためのアドバイスしかくれなかった。

 

箒に対してどうすればいいかは分からなかった。

 

箒の告白を断ろうとも思わない。

 

だが……。

 

 

 

 

 

その約束が果たされることはなかった。

 

翌日箒は引っ越ししたからだ。

 

俺はまた一人友人を失った。

 

何の断りもなく、引っ越したことに俺が感じたのは喪失感だけだった。

 

その日の夜櫻から電話があって、

 

箒が重要人保護プログラムのせいで引っ越したことを知った。

 

だから箒が俺を嫌いになったとかそういう訳じゃないと

 

櫻は繰り返し、何度も言っていた。

 

だが、俺の喪失感は拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小学四年の俺が失ったのは箒だけではなかった。

 

第二回モンド・グロッソの決勝の日、俺は誘拐された。

 

その時の記憶もはっきりしない。

 

だが、千冬姉が助けに来てくれたことだけは覚えている。

 

千冬姉があそこまで動揺しているのを見たのは初めてで、

 

……いや二回目か?

 

とにかく震えながら俺を抱きしめる千冬姉に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は……心を強く打たれた。

 

これが家族なんだって思った。

 

千冬姉は親ではないけれど、

 

櫻が言っていた理由のない愛というものが分かった気がした。

 

だから俺は千冬姉を強く抱きしめ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後千冬姉はドイツに行ってしまったのだ。

 

俺は一人になった気がした。

 

別に櫻や箒以外の友人もいるし、

 

俺が小さい頃から贔屓にしているお店のおじさん、おばさんだっている。

 

一人じゃないのは分かっていたのだけれど、

 

それでも孤独を感じずには居られなかった。

 

そんな時だった。

 

俺が鈴と会ったのは。

 




お疲れ様でした。

一夏は原作程鈍感にはしないつもりです。

後は恋愛関係いじると思います。

そのまま原作だと書いていて原作のコピーになりかねませんし。






にしても詰め込みすぎた気もしますね……。

まあこの作品で一夏が何を思って行動しているかの

参考にしていただければ程度のサイドストーリーだということで。
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