間に合えば今日もう一話あげます。
「はぁ。」
俺は箒の部屋の前に居る。
箒と櫻が同じ部屋だということで、教えてもらったのだ。
今は放課後。
とりあえず白式のフィッティングが終わったらあまり訓練せずに帰ってきてしまった。
櫻にこんな状態じゃやっても意味ないってつっぱねられてしまったからだ。
というか1024号室って、俺の部屋の隣じゃないか。
「箒、いるか?」
俺が部屋をノックする。
しばらくすると、
「特に話すことはない。」
ぶっきらぼうな返事が返ってきた。
「俺があるから来たんだよ。」
「また後にしてくれ。話したくない。」
ここまで拒絶されるとはな。
「後っていつだ?」
「さあな。」
「6年後か?」
「お前は何が言いたい。」
「やれることはやれる内にやらないと機会を逃すってことだよ。」
またしばしの沈黙。
と思ったら扉が開き、箒が出てきた。
「私は待っていたんだ。」
その目は少し潤んでいた。
俺は何をと聞こうと思ったが聞いてはいけない気がした。
「お前の返事を。」
聞いてはいけない気がした理由がようやく分かった。
俺は返事をしたくなかったんだ。
「だが……待っていたお前は私の想像と違った。」
「どうして剣道をやめたんだ?それに……」
箒は言いかけてやめてしまった。
だがそれよりも俺がどうして剣道をやめたか……。
どうして……?
「箒や箒の親御さんが居なくなったからじゃないか。」
俺は櫻にも言ったことを言った。
「お前にとって剣道とはなんだったのだ?」
「なんだったのだ」か……。
成程、箒にとって俺の剣道は過去の物なのか。
剣道は俺が初めて取り組んだ壁だった。
そしてそれは今もきっと越えていない。
「箒、俺は剣道をやめたつもりはない。」
「なら、なんでやっていなかったんだ?」
「だって誰も教える人もいないし、それに……」
「壁がなくなったから。」
「壁?」
箒の張りつめた顔が少し崩れた。
「お前の事だよ、箒。」
俺は思いきって言った。
「お前は私にとって壁だったのか?」
箒の顔は少し赤くなっていた。
嫌な予感がする。怒っているのか。
「いや、悪い意味じゃないぞ……?」
「分かった、そこまで言うなら今から鍛えてやろう。」
箒はいつの間にか木刀を持っていた。
次の瞬間には俺は自分の部屋に逃げ込んだ。
「何故逃げる!?」
「俺は生身だぞ!」
俺は扉を閉め、鍵をかける。
息を落ち着かせ、扉にもたれかかる。
部屋には沢山の本があった。
ズドン!
うわっ。
俺はゆっくりと戻っていく木刀を見つめていた。
……ってそんな場合じゃない。
「箒、待ってくれ。」
「もう一度行くぞ。」
俺は急いで扉を開ける。
「だから待ってくれって。」
目の前の箒の顔は怒りのせいかやっぱり赤かった。
「鍛えてやるって言ってるだろう?」
木刀が俺に振り下ろされる。
「うわっ。」
俺は何とか素手で受け止める。
かなり痛いが避けていたらどこかに直撃していただろう。
「昔からいざという時の反応だけはいいな。」
そう言うともう一度振り下ろそうとする。
そうはさせるか。
俺は箒の腕を引っ張ると部屋に無理矢理入れた。
「な、何をする!?」
箒は慌てた様子だった。
「ここなら暴れられないと思ってな。」
「なんだ?ここは。」
この部屋は異様だった。
本が沢山置いてあったのだ。
新入生が新しく入る部屋とは思えない。
とりあえず箒がおとなしくなったようなので俺はほっとする。
「よく見るとISの本ばっかだな。」
俺は本を避けながら、窓際のベッドに座る。
「ISの本か……。」
箒が複雑そうな顔で部屋中を見渡す。
「どうした?」
俺は箒がどうしてそんな顔をするのか分からなかった。
「別に。」
箒は顔を逸らす。
「にしてもここに住んでいたやつはISが好きだったんだろうな。」
「私は嫌いだ。」
箒が小さな声で呟いた。
「ここにだって政府の奴らに半ば強制的に入れられたもんだ。」
「俺もそうだよ。せっかく藍越学園に受かったっていうのに。」
「その点、ここの部屋の元住人は幸せだよな。
IS好きでここに来たって感じだろ?」
「あの人の仕事が人のためになるとはな。」
その言い方はどうなんだ。
「やっぱり箒は束さんが嫌いなのか?」
小学生の時から薄々思ってたことだった。
「嫌いか……。少し違うな。」
「じゃあなんなんだ?」
「自分の感情も分からん奴に言われたくないな。」
えっ……?
「私なりに6年間考えていたんだ。
もし私が大会で優勝したとしてどうなったのかをな。」
「お前はどう思う?」
「俺は……。」
「考えてみることだな。」
箒はそう言うとゆっくりと部屋を出ていった。
それから俺は紅侍がこの部屋に来るまでずっと考えていた。
でも何か分かるどころか、更に分からなくなっていった。
後で聞いた話だが、この本は全て紅侍のものらしい。
紅侍は幸せなんだろうな。
口には出さなかったが俺はそう思った。
私は一夏の部屋から自分の部屋に戻って溜息を一つついた。
やっぱり一夏は変わっていなかった。
昔好きだった彼と何も変わらない。
そのことを喜ぶべきなのか私には分からない。
再会してみて、すぐに分かった。
やっぱりまだ櫻のことを引きずっているのだ。
それ自体はあまり気にならなかった。
むしろそうでなくては一夏とは言えない。
勿論、成長を遂げ、それを乗り越えていてくれるのが一番良かったのだが。
ただ剣道をやめてしまったことには我慢ならなかった。
私と彼との拙い繋がりが絶たれた気がしたから。
昔彼は私を女というよりは
だがそれでも良かった。
彼が特別な感情を抱く女性なんて、千冬さんと櫻と私しかいなかったのだから。
先程の壁という表現には驚いたが、
それでも私を特別視していたということを本人の口から聞けて、
満足している私がいるのも事実だった。
それと同時に恋なんて感情と程遠いということをやはり認識させられた。
私は
「それでよく分からなくなったからって、
木刀を取り出したのはまずかったか。」
私は独り呟く。
だが、
「箒ちゃん、あの扉の穴はやっぱりあなたが?」
返事が返ってきた。
「さ、櫻!?どうしてここに?」
私は動揺してしまう。ええい、落ち着くんだ。
「どうしてって、私、箒ちゃんと同じ部屋だよ。」
櫻は私の隣に座ると顔を私にぐっと近づける。
そして笑顔とともに優しい声で言う。
「一年間よろしくね。」
この人は昔からずるい。
この人は私にとって恋敵だ。
でも私はこの人を嫌いになれない。
私が刀を構えたって、
後ろから優しく抱きしめて刀を私から取り上げていく。
それはまるで子供をあやすようである。
今もほら、
「うむ。」
気圧された私は短い返事しかできない。
そんな私に櫻は優しく微笑む。
ああ、私がどうにもできない以上、一夏が櫻を乗り越えるしか可能性はないというのに。
お疲れ様でした。