シャドウ   作:ゆばころッケ

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唐突な回想。

回想自体は短いですけどね。

前回の五択が話の中で出てくるので参考までに。

① 簡単に助けられる。
② 少し危険だけど助けられる
③ 死ぬかもしれないけど助けられる
④ 死ぬけど助けられる
⑤死ぬし、助けられないかもしれない。




第二十八話 俺 過去

あぁ、久しぶりに顔見たな。

 

もう俺にとっては30年、いや40年近く前のことなんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はお父さん早く帰ってくるって。」

 

母は嬉しそうに言う。

 

「そうなんだぁ。」

 

僕も嬉しそうに答える。

 

この時僕は愛されていると信じていた。

 

 

 

 

 

「お母さん、何見てるの?」

 

「この間の旅行のアルバムよ。」

 

「見せて、見せて。」

 

「お母さん、あんまり写ってないね。」

 

「私がカメラ持ってたもの。」

 

「このお父さん、かっこいいね。」

 

「ふふ、そうでしょう。」

 

僕はお父さんを褒めた。

 

そうすればお母さんが喜んでくれるのを知っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん、遊んでよ。」

 

「ごめんな、父さん仕事で疲れているから。」

 

「ちょっとだけ。」

 

「また今度な。」

 

頭に置かれた手の重みだけが僕とお父さんとの繋がりだった。

 

結局今度が来ることはなかったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、見て。テスト100点だったよ。」

 

「すごいね。算数?

やっぱりあなたはお父さんと同じで理系ね。」

 

「りけい?」

 

「算数とか理科が得意な人のこと。

顔もそっくりだし、本当にお父さん似よね。」

 

「でもお母さんに似ているところもたくさんあるよ。」

 

「それは親子だからそうなんでしょうけど、

やっぱりお父さん似よ。あなたは。」

 

お母さんは僕をお父さん似にしたがった。

 

実際似ていたとは思うけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、料理できたよ。」

 

「美味しそうね。

でもまだお父さんが帰って来てないから待ちましょうか。」

 

「でも冷めちゃうから。」

 

「お父さんと一緒に食べた方が美味しいわよ。

冷めたら温めればいいだけでしょう。」

 

「そうだね。」

 

その日父の帰りは遅かった。

 

父は俺の料理を食べると、

 

美味しいとも、まずいとも言わずに「お前が作ったのか?」と俺に聞いただけだった。

 

母は父と話すことに夢中であまり僕の料理には触れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「母さん、俺将来どんな人間になるのかな。」

 

「きっとお父さんのような素敵な人になれるわ。」

 

母の目は将来の俺を想像して輝いていた。

 

「なあ、母さんって俺の事好き?」

 

「当たり前じゃない。」

 

『愛してるわよ。』

 

確かに俺の目を見ていながら、母さんの目は遠くを見ていた。

 

俺は母さんが誰を見ているか知っていた。

 

「父さん、早く帰ってくるといいね。」

 

「そうね。後二時間くらいかしら。」

 

父さんを通してしか愛されないことなんて分かっていたことだ。

 

父さんの子だから俺は愛されるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は朝から憂鬱だった。

 

今日は二人の結婚記念日であり、

 

年を重ねるごとに俺の居場所はなくなっていったからだ。

 

今年はとうとうそれとなく家を出るように言われてしまった。

 

そんな日に限って友達は皆予定があり、俺は一人でぶらぶらしなくちゃいけなかった。

 

みじめだなぁ。

 

小学6年生の俺は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中学校に入ると俺は部活を始めた。

 

運動はあまり得意でなかったが、忙しい運動部に決めた。

 

あまり家に居たくなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある休日、俺はその日になって二人が旅行に出かけることをしった。

 

「俺も連れて行ってよ。」

 

「部活があるじゃない。」

 

「一日ぐらいさぼったって平気だよ。」

 

「さぼり癖がつくぞ。」

 

「お土産は買ってくるから待ってなさい。」

 

「分かったよ、いってらっしゃい。」

 

俺は心の中で舌打ちした。

 

その日の部活でしたケガが原因で俺は部活を辞めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校生の時、珍しく父からドライブに誘われた。

 

それも二人きりでだ。

 

「珍しいよな、父さんと二人っきりって。」

 

「ああ。」

 

「今日はどうしたの?」

 

「なんとなくな。」

 

父は寡黙な訳ではない。母の前ではよく話す。

 

「なあ、お前は随分とさびしがりやだよな。」

 

「俺が?」

 

「ああ、人間は……」

 

その時横からいきなり突っ込んできた車が俺達の車に衝突した。

 

俺は一命をとりとめたが、父は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父の遺体の前で母はいつまでも泣いていた。

 

「……元気出して。」

 

「あんたが……」

 

「?」

 

「あんたが代わりに死ねばよかったんだ。」

 

俺はこの言葉を聞いても驚かなかった。

 

むしろいつ言うのかと思っていたぐらいだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。

あなたが悪いわけではないのに。」

 

母は俺に抱き付いて泣いた。

 

この時嫌われてはいなかったのかと安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんと同じ大学にするの?」

 

「成績的に少し頑張らないと難しいけど、

担任の先生は今からなら十分に間に合うって。」

 

「そう。」

 

母は少し嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は一生懸命勉強して合格した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人暮らしを始め、毎日携帯で母と連絡をとりながら思った。

 

俺はなんのためにこの大学に来たのだろうって。

 

毎日同じことの繰り返し。

 

少し疲れていたのかもしれない。

 

俺は車に轢かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅侍君、紅侍君。」

 

俺は俺の名前を呼ばれて目を覚ます。

 

「ああ、えーと……」

 

俺は随分と長い夢を見ていた気がする。

 

「大丈夫?」

 

櫻が俺を覗き込むように見ていた。

 

「ああ……俺寝てたのか。」

 

「寝てたの?

四月とはいえさすがに寒いから風邪ひいちゃうよ。」

 

心配そうに俺を見る櫻の目は俺を捉えていた。

 

ああ、やっぱりさっきの視線は俺のトラウマと同じだな。

 

こうやってしっかりと捉えている視線と比較するとよく分かる。

 

俺は腕時計(待機状態のシャドウ)を見る。

 

「こんな時間か。

もしかして心配になってわざわざ来てくれた?」

 

「うん、いくら連絡しても、紅侍が戻らないって一夏が言うから

もしかしたらと思ってここにきてみたんだ。」

 

「心配かけてすまなかった。一夏にも後で謝らないとな。」

 

俺は起き上って、両腕を思いっきり伸ばす。

 

「謝るのは私だよ。私が変なこと言ったばっかりに。」

 

「大丈夫だよ。もう気にしてないから。」

 

夢を見て逆にすっきりした。

 

転生前のことなんて忘れようと思っていたが、

 

忘れられないんだって分かったからかもしれない。

 

「もうってことはやっぱり気にしてた?」

 

「ちょっとね。」

 

「ごめんなさい。」

 

櫻は真剣に謝っているように思えた。

 

こういう普段の櫻と、冷たい感じのする櫻が

 

鈴が言っていた表と裏なのだろうか。

 

「冗談だよ、からかっただけ。」

 

俺は前を向いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ」

 

「何?」

 

「櫻はさっきの質問何番なんだ?」

 

俺はなんとなく聞いてみた。

 

「私?相手が束さんなら③までかな。」

 

何か気になる言い方だな。

 

「違う人なら4か5なんだ。」

 

「うん……5だよ。」

 

「誰?」

 

「秘密。紅侍君以外の誰か。」

 

「わざわざ俺の名前出したってことは男か。

じゃあ一夏とか?」

 

しばしの沈黙。

 

それから短い溜息した後、櫻は答えた。

 

「皆には内緒ね。」

 

暗くて分からなかったけれど、その顔は赤くなっている様に見えた。

 

へぇ、そうなってくると束さんは櫻にも気を付けないといけないな。

 

前は大切なことがあるとか言ってた気がするけれど。

 

「大切なことはいいの?」

 

「今日の紅侍君はグイグイくるなぁ。もしかして仕返し?」

 

「それ返事になってないよね。」

 

「やっぱりそう思う?」

 

またしばしの沈黙。

 

「正直に言うと、別にどうでもいいんだ。

うんうん、むしろ失敗すればいいんだよ。」

 

「えっ?大切なことじゃないの?」

 

「色々あるんだよ。」

 

その時前を歩いていた櫻はこっちを振り返って悲しそうに笑った。

 

その笑顔はいつもの笑顔と違って寂しさのようなものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以上、その話題については話しにくかったので一夏について聞いてみることにした。

 

「一夏のこと、好きなの?」

 

「また随分と直球だね。」

 

櫻は笑っていた。これもいつもの笑顔とは少し違ったものだった。

 

「うん、好きだったよ。」

 

「だった?」

 

「本当にぐいぐい来るね。」

 

今度は苦笑だった。

 

「私が悪いんだけどね。」

 

「今は違うの?」

 

「もういいの。」

 

櫻は少し真剣な目をしてから再び言った。

 

「もういいの。」

 

それから櫻はまるで女子が他人の恋の話をするように一夏の周りの女子について話した。

 

鈴が今一番リードしていること。

 

箒は特別視されているだけ可能性があること。

 

セシリアさんはまずは思い出を作らないと駄目なこと。

 

他の女子に関しては普通にアピールしても、

 

アピールされることに一夏が慣れているから一夏は好意にきづかないこと。

 

それを話している櫻は普段の様子そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

俺は元気よく扉を開けた。

 

一夏はベッドの上で何か考え事をしていたようだが俺に気が付くと起き上った。

 

「紅侍、どこ行ってたんだよ。心配したぞ。

櫻に話したら私に任せてって言ったきりどこか行っちまうし。」

 

「悪い、悪い。ちょっと考え事に熱中してたら、寝ちゃってね。

シャワー先いい?」

 

「構わないけど……」

 

「じゃあお先。」

 

俺は腕時計のシャドウを見る。

 

今の俺にはこいつがある。

 

世間は俺を男性操縦者としてしか見ないだろう。

 

でも構わない。

 

それこそが俺がISの世界で転生し、ISというロボットに乗れているという証拠であり、

 

俺が俺として生きている証拠なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「紅侍。」

 

「なんだよ。これからシャワーって時に?」

 

俺はシャワールームの前で一夏の方に振り向く。

 

「ISの訓練、明日からも頑張ろうな。」

 

「今更なに言ってんだよ。当たり前だろ?」

 

「俺は今までどこかでこの学園に入れられたって気持ちがあった。

だけど俺はもう逃げない。」

 

そう言う一夏の目は真剣だった。

 

「一夏は一夏自身が思っている程逃げてないと思うけどな。」

 

俺はそれだけ言うと、シャワールームに入った。

 




お疲れ様でした。

櫻が自分の事をべらべら話した理由は想像していただけたら幸いです。

後最後の一夏の発言の真意は次の話で分かると思います。
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