秘密にしといてという話ではあったけれど、
俺の引っ越しのこともあり、
「誰かが転校してくるとのでは?」というのは一年で有名な話になっていた。
引っ越しの際に何かを聞いたのではないかと疑われた俺達は朝から色々と質問されている。
「どこのクラスに転校生来るの?」
「わざわざ紅侍君が引っ越したってことはもしかして男子?」
「部屋に空きがあるのに、どうしてそっちに引っ越さなかったの?
もしかして転校生って複数?」
女子の勘ってすごい。
大体当たっているので俺達もただ苦笑いするしかない。
が、この質問攻めはまだよかった。
一組の教室に入ると、
『俺と一緒に暮らしてくれるか?』
があっちこっちで再生されていた。
……頼むから勘弁してくれ。
さゆかの席を見ると机に顔を突っ伏している。
周りの友達がなにやらはやしたてているようだ。
なんか周りには告白に近いニュアンスで受け取られている気がする。
さゆか本人はどうかというと、
まあ今まで通りに普通に接している。
というかそうしないと一緒の部屋なんて気が気でなくなるのだろう。
さゆかをはやしたてていた女子の一人が俺を見つける。
「あっ、新郎の登場だよ。」
その一言でまた大盛り上がりである。
俺は助けを求めて一夏の方を見る。
一夏はいつの間にか俺から離れて、箒と話していた。
……逃げたな。
仕方なく俺は俺の席、つまりさゆかの横に座る。
はやしたてていたのは谷本さんだった。
てめぇ、自分はシャルの着替えを手伝わずに逃げたチキンのくせに。
もうどうにでもなれ。
俺はさゆかと同じようにして突っ伏した。
この時ほど千冬さんが来るのを待ち望んだ時は今までなかっただろう。
「諸君、おはよう。」
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます!」
千冬さんと山田先生が教室に入ってきた。
HRがいつも通りに進行する。
「最後にISスーツのカタログを配っておく。
知っての通り、来週から本格的な実践訓練を開始する予定だ。
そこで学校指定以外のISスーツも希望者には貸し出すので、
それを着用してみてから決めるというのが大多数ではある。
ただ金銭的な問題もあるので毎年申し込み日の
一週間前の今日から配っておくのが定例となっている。」
俺は配られたカタログを一応見る。
うん、素晴らしくどうでもいい。
俺は束さんが作ってくれたやつがあるし、
そもそもカタログに載っているのは女性用だしな。
「山田先生、後は頼む。」
最後と言ったのにまだあるということは……
クラス全員が「転校生が来るのでは?」と期待しているようだ。
「皆さん、良いお知らせです。
この一組になんと二人も新しいお友達が加わることになりました。」
なんか幼稚園生あるいは小学校低学年に言うような言い方だ。
「さあ、二人とも入って。」
「失礼します。」
クラス全員がポカーンとする中、その転校生は挨拶を始める。
「シャルル・デュノアです。
フランスから来ました。
色々とご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。」
「失礼かとは思いますが聞かせてください。
あなたは男ですか?」
この質問をしたのは鷹月さんである。
いつも冷静な彼女もさすがに取り乱していた様子だった。
「はい。同じ境遇の方がいると聞いて転入してきました。」
中性的な顔立ちであり、俺らと同じ男子の制服を着ているため一応男に見える。
が彼は彼女である。
本名シャルロット・デュノア、正真正銘女だ。
さてと、俺は耳栓をする。
「きゃああああああああああああああ。」
「三人目の男子!」
「イケメン!一夏君とは違うタイプの!」
「ああ、金色の髪が素敵!
王子様みたい!」
「はっ!
ってことはあの娘が一夏君と同室?
ふふふふふふふふふ……。」
最後色々とおかしい。子の漢字とか。
「静かにしろ。」
千冬さんの恫喝で皆一瞬にして黙る。
俺としても静かにして欲しかったのでありがたい。
もう一人の方が興味がある。
「挨拶しろ。」
千冬さんに促されてようやく彼女が口を開く。
「はい、教官。」
佇まいを直したことで確かに軍人らしく見えた。
「もう教官ではない。
ここでの私は教師だ。織斑先生と呼べ。」
「分かりました。」
でも彼女は織斑先生とは言わなかった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
クラス中が静かになる。
ラウラに圧倒されているのもあると思うが、皆その次を待っている。
ラウラはそんな雰囲気をなんとなく感じたらしくめんどくさそうに付け足した。
「以上。」
やっぱりクロエさんに似ている。
千冬さんが原作でクロエさんの妹と言っていたのを覚えている。
ラウラは試験管ベビーであるから、おそらく同じ遺伝子なのだろう。
銀色の髪はもちろんだが、背の低いところも似ている。
見た目で違いと言えば、制服と左目の黒眼帯だろうか。
制服をきて黒眼帯をつけたクロエさんを想像してみる。
……似合うかも。
俺がやたらと見ていたからか、
ラウラの目線が一瞬俺の方を向き、俺を睨んだ。
しかしすぐ逸れて、一夏を見つける。
一夏は最前列にいるから正に目の前だ。
「!貴様か。私はお前が教官の弟なんて認めないぞ。」
ラウラの手が一夏の頬に近づくが、
結局その手が一夏に当たることはなかった。
後ろから消しゴムが飛んできて、それを叩き落とすためにビンタを中止したからだ。
「何の用だ?」
ラウラの視線は俺を通り過ぎて、どうやら櫻に向いているようだ。
「ラウラ、今のはお前が悪い。
それと華蛇、お前も事態をややこしくするな。」
「師匠だったら止められたんじゃないですか?」
少し笑顔が怖かった。
「教官、この女は先生と呼ばなくていいんですか?」
あっ、余計なことに気付いた。
「ああ、その件か。
おい華蛇。」
出席簿やらチョークやらが飛んできたが、櫻は避け続けている。
「師匠、またこの不毛なやり取りをやるんですか?」
「もういい。
じゃあラウラ。」
「教官……まさか……」
スパーン
「久しぶりにご指導していただき、ありがとうございました。」
言葉ではあんなこと言っているが、表情から見るにクリティカルヒットしたようだ。
「私の一撃が避けられるようになったら、
教官なり師匠なり好きに呼ぶが良い。」
「ところで師匠、教官と先生って何が違うんですか?」
千冬さんの顔が露骨に引きつった。
「華蛇、お前ふざけているのか?」
「いえ、純粋な疑問を述べているだけですよ。嫌だなぁ。」
チートさんの千冬さんいじりだ……。
「確かにこの女の言うことにも一理あるのではないでしょうか、教官。」
あっ、乗っかった。ラウラ……それでいいのか。
「もう一撃喰らいたいようだな。」
うわぁ、千冬さんがそろそろ本気で怒るぞ。
あそこまで怒りメーターがいったら、しばらく機嫌悪くなるしな。
ちなみにこれは俺に対する尋問の際の経験則。
「あのぉ、織斑先生。そろそろ一時間目が始まります。」
山田先生が困ったように言う。
「そうですか……。では朝のHRを終わりとする。
ラウラ、華蛇。昼休み、少し顔を貸せ。」
おお怖い、怖い。
「後、幸逆。自分に怒りの矛先が
向いていないからといって安全圏にいるつもりか?」
「すみませんでした。」
一時間目の地獄を終え、今は休み時間。
岸原が千冬さんをマスターと呼んだのが決定打だったな……。
あれで怒りメーターが振り切れた……。
皆へとへとになっている中、一人だけ席を立つ者がいた。
シャルだった。
「織斑君?初めまして。
さっき皆の前で自己紹介したけど、
改めてさせてもらうね。」
「えーと、シャルル・デュノアだよな?」
「あっ、覚えてくれたんだね。」
一夏から話しかけたってことは原作通り一夏狙いってことでよさそうだ。
俺は席から移動していないが、教室が静かなため二人の会話はよく聞こえる。
皆疲れていたし、二人の会話に興味津々だったからだ。
「もちろん、三人しかいない男子だし仲良くしようぜ。」
一夏が握手を求めて手を出す。
シャルも上品にそれに応える。
ああ……貴公子って言われる理由が分かった気がする。
「よろしくね。織斑君。」
「一夏でいいよ。」
「じゃあ僕のこともシャルルでいいよ。」
イケメンとイケメンだ。
当たり前だけど、俺と居るより画になるな。
「おーい、紅侍。お前もそんなところに居ないでこっち来いよ。」
へいへい。
「幸逆君もよろしくね。」
シャルが手を差し出す。
「よろしく、俺のことも下の名前でいいよ。」
俺は手を受け取った。
男性とは思えない華奢な手だった。いや女性の手だけどさ。
「じゃあ僕の事もシャルでよろしく。」
はい、自己紹介終了。
二時間目の休み時間。
「おい、ちょっと来い。」
声の主はラウラだった。
なんか気に障るようなことしたっけ?
反抗しても面倒だからとりあえず連行される。
校舎裏まで行くわけにも行かず、
ラウラはてきとうに人の通りが少ないところで止まった。
「さて、何の用だ?」
ラウラはすごみのある声で言う。
体勢は壁ドンだ。
やったね、流行に乗れたぜ。
……少し古いか?
「呼び出しておいて何の用かはないだろ?」
俺は困った風に答えた。
「ちっ、今朝どうして私を見ていた?」
ああ、それか。
「知り合いに似ていたから?」
クエスチョンがついたのは、
自分にドイツ人の知り合いが居るというのがおかしい気がしたからだ。
ラウラもそう思ったらしい。
「それを信じると思うのか?」
そう言われてもなぁ。
「……まあいい。
本当の事を言っているようにも思えんが、
嘘をついているようにも見えないしな。」
それだけ言うとラウラは立ち去ってしまった。
銀色の長い髪が揺れていた。
クロエさんと違って手入れはされていないがそれでも綺麗だった。
教室に帰ると一夏に色々と聞かれた。
一夏は自分だけでなく、
俺にもちょっかいを出したから、
ラウラが男性嫌いと考えていたらしい。
ただそこに櫻が割り込んできた。
「ラウラさんは一夏に対して怒っているんじゃないかな?」
「?」
「だって朝のHRでビンタしようとしてたよ。
紅侍君は暴力ふるわれたわけではないんでしょ。」
「一夏には説明したけど、何もされてない。
まあ俺がラウラに呼び出しくらったのは自業自得だしね。」
「そういえばあいつ、俺が教官の弟なんて認めないって言ってたな。」
「師匠のドイツ時代の教え子みたいだね。
その時になにかあったのかな?」
「話す機会があれば話してみたら?」
この件に関してサポートできることなんて何もなさそうだ。
でもなにかしてあげたい気持ちもなくはないのだが難しい。
「そうだな。ただ向うがあれじゃなあ。」
ちらっと一夏がラウラを見ると、
ラウラはすぐに視線に気づき一夏を睨んだ。
「じっくり時間かければなんとかなるよ。
根は悪い子に見えないし。」
「そっかなぁ。」
「そろそろ時間だ。座ろうぜ。」
俺のこの一言で会話はお開きになった。
その後は一日中、一夏、シャルと三人で行動した。
IS学園の施設案内とはもちろんのこと、
男子として色々と守らなければならないルールを説明するためだ。
シャルは男性関連のことは一々反応が鈍く、
本当に女性であることを隠す気があるのだろうか。
こっちが見ていて心配になるくらいだ。
なんだかんだで一日が終わり、俺は自室に居る。
さゆかが大浴場に行っているので今は一人だ。
束さんから通信が入る。
『じーくんは転校生のことどう思う?』
『どうってクロエさんに似てますよね?』
『ああ、そっちじゃない。
あれは似てるだけ。キンパツの男はどう?』
似てるだけ?
妄信すると決めた翌日から疑問を覚えてしまう発言だったが、
まあ束さんのこと分からないという疑問ではないのでよしとしよう。
『女性なんじゃないですか?』
『どうしてそう思うのさ?』
『だって男性らしい特徴なんて制服だけですよ。
喉仏も出てませんでしたし。』
『ふーん、まっ、そうなんだけどね。
あれは女だよ。
まったく性別を偽ってまでいっくんと同室になるとか
何考えてんだろうね?』
『はぁ……』
『まああんな小物は無視、無視。
万が一いっくんに手を出そうものなら……
じーくんに一仕事してもらうことになるだけだから大丈夫。』
……何をさせられるのだろうか?
翌日、授業ではラウラが千冬さんを教官呼びしても、
もう千冬さんは何も言わなかった。
櫻はその様子を楽しそうに見ていた。
チートさんはまたしても千冬さんに勝ったらしい。
ラウラは久しぶりに千冬さんと会えてなんだか嬉しそうである。
このまま平和だといいんだけどな……。
お疲れ様でした。
今週の投稿はこれで最後です。
週末予定が入ったので書きました。
最後紅侍が余計なフラグ立ててますが、
次回もたぶん平和?な日常回です。