一夏「でも次また俺視点らしいぜ。」
紅侍「!?」
一夏「だって、箒、鈴、シャルロットって
メインの話あったのにラウラにないんじゃなぁ。」
紅侍「!?」
一夏「どうした?」
紅侍「お前、セシリアさんのこと嫌いなの?」
一夏「あっ……」
紅侍「……」
一夏「いやそういう訳じゃないんだ。
信じてくれ。」
紅侍「まあセシリアさんの本番は対マドカ戦だしね。」
一夏「!
そういうことだ。」
紅侍「いつになるかは知らんけどな。」
目を開ける。
一番に思ったのはなんか暗いってことだ。
時計は止まっていた。
今までこんなことなかったのに。
辺りを見回す。
そこでようやく自分の部屋でないことに気づく。
頭まわってないな、こりゃあ。
えっと……なにしてたんだっけか。
ああ……うん。
首を触ると包帯が巻かれていた。
俺があの時しようと思ったこと、
それをラウラにしていたらラウラはこんなものでは済まなかっただろう。
そう思うとなんだか申し訳ない気持ちになる。
次に眼鏡のことを考えた。
どうやらないらしい。
少しだけほっとした。
「目覚めたか?」
何かの電子音とぷしゅーっていうドアの開く音がして
千冬さんがやってきた。
「ずいぶんと長い間寝ていたな。」
「はあ、俺はどのくらい寝ていましたか?」
「半日だな……。」
ああ、じゃあ決勝は終わっているな。
「決勝、どっちが勝ちましたか?」
「一応織斑とデュノアだ。」
一応なんて言い方やよく見ると疲れている様子から
おおよそ原作通りのことが起こったのだろう。
「そうですか……。」
「それよりお前の試合だ。」
……
「お前はあの試合の最後何をした?」
「ヘビースモーカーで目隠しして、
なんとか一矢報いました。
でも結局負けた、それだけです。」
俺は嘘をつく。
「幸逆、お前は嘘をつく時いつもは平然としている。
それなのに今日は随分と後ろめたそうな感じだな。」
「そうですか?」
俺は愛想笑いを浮かべる。
……浮かべたと思う。
「話が逸れたな。
もう一度聞こう。最後に何をした?」
「だからヘビー・スモーカーで最後の抵抗をした。
それだけですよ。」
苛ついた口調で答えたのが自分でも分かった。
「やはりいつもと様子が違うな。」
千冬さんは少し考えてから
「なあ、幸逆。私が誰だか分かるか?」
穏やかに言った。
何を言っているんだろうか?
「織斑千冬さんです。
第一回ブリュンヒルデで、元日本代表で、一夏のお姉さん。
それからIS学園の先生で俺の担任……」
「そうだ。先生だ。
生徒は先生を頼るものだ。
ましてや担任となればなおさらだ」
ますます何を言っているんだ?
「日本政府からお前の監視を任されている身として、
私にはお前に聞かなくてはならないことがたくさんある。
だが、その前に私はお前の担任だ。」
……だから何なんだ?
千冬さんは小さく溜息をついてから言った。
「何か悩みがあったら言ってみろ。」
ああさっき言ってた頼るってそういうこと。
強硬策より懐柔策できたか。
「ないです。」
俺はきっぱりと言った。
「ならどうしていつもと様子が異なっているんだ?」
「織斑先生の気のせいですよ。」
千冬さんはまた何か考え事をしてから言った。
「そういえばお前の眼鏡はどうした?」
「ああ、気絶のドサクサでなくしてしまったみたいです。
御存知ないですか?」
「預かっている。」
「ありがとうございます。
では返していただけますか?」
俺はあの眼鏡がなくて、
ほっとした先程とは違い少し焦っていた。
千冬さんは一息おいてから続けた。
「分析させてもらった。」
「眼鏡をですか?
……どういう結果が出たんですか?」
ああ……もうどうでもいいや。
「お前が一番分かっているんじゃないのか?」
「あはは、かもしれませんね。
ええ、そうです。
俺が一番いや、
束さんの方が知っているのかな?
とにかくあなたよりは知っていますとも。」
俺は勢いに任せてそのまま続ける。
「あれはISですよ。
そうです、あの試合。俺はあいつに頼った。
でも良心の呵責に悩まされて、
結局何もできなかった。
後悔すらしていた。
……なにもできない半端ものだ。」
後半の方は怒鳴り声になっていた。
首に痛みが走る。
その痛みが俺を攻めているようで、俺は自分を自分で更に苦しめた。
「感情的になるな。
お前が何に苦しんでいるのか私には分からない。
でもお前が半端ものなんてことはない。」
俺は黙った。
下を向く。
物言わぬ鉄の地面。
物を言えないのは感情がないのと同じだ。
きっと何も感じないっていうのはそれはそれで楽だろう。
「ところでそのISはなんて名前なんだ?」
俺は顔を上げる。
千冬さんの目を見る。
ああ、良い視線だ。
俺を前にしていながら俺を見ず、遠くを見る視線。
なにか他の事を気にしている。
……俺にはやっぱり感情を失うなんて無理みたいだ。
いや、あの時のIS。
あれにさえ乗ればきっと忘れられる。
忘れられないって諦めたけど、きっと……
「幸逆、聞いているのか?」
千冬さんが俺の肩を掴む。
「すみません。
先程から取り乱してしまいました。
名前でしたよね?」
その時だった。
また何かの電子音とぷしゅーっていうドアの開く音がした。
それに続く足音。
「やあ、紅侍君、千冬。
久しぶり。」
その声は知っている。
その顔は……
「……お前がどういう方法でここに入ったかは知らないが、
お前にそういう言い方をされる筋合いはもうないし、
ここでの私は先生だ。」
シンさんはうっすら笑みを浮かべる。
俺はこの時思った。
シンさんは器用な人間だって。
でも一夏は不器用だ。
それが二人の違いだ。
「冷たいことを言うな。千冬は。
それに今の俺は侵入者だから、
ここのルールに従う必要はないんだよ。」
「分かった。
だが、私のことを千冬と言うな。」
千冬さんはいつもと違った苛つき方をしていて、
苛ついているというより、取り乱しているようだった。
こんな千冬さんは初めて見た。
「あの……お二人はどういう関係ですか?」
俺は恐る恐る聞く。
「紅侍君、君は分かっていることを
分からない振りするのが好きだね。
実にねじ曲がってる。
もっと素直になった方が楽に生きられるよ。」
シンさんは俺に近づき、
座っている俺と目線を合わせるように背をかがめて言う。
「きっとそういう習慣が身についているんだね。
分かっていても分からない振りをする。
それは辛いことだ、君は今までよく耐えた。
でももうそんなことしなくていい。」
肩に手を置かれる。
「これ、持ってきたよ。」
「眼鏡ですか……」
ああ……俺はこれから逃れらないのかな。
「そんな嫌そうな顔するなよ。
この眼鏡は君の味方だよ。
それは忘れないでくれ。」
「嘘をつくな、そのISは呪われている。」
千冬さんが厳しい口調で言う。
「呪われている……ね。
千冬、君は勘違いしているよ。
あれはね呪いなんかじゃない、祝福だよ。」
シンさんは千冬さんの方に向き直る。
呪い、祝福……
どちらにせよ誰がかけたものなのだろうか。
「祝福?ふざけるな。」
「なら俺が何をふざけているかを言ってくれるかい?
紅侍君の前で。」
「それを言ってしまったら困るのはお前らだろう。」
「ああ、そうかもしれない。
でも千冬は紅侍君を巻き込みたくなかったんだろう。
言ってしまって困るのは千冬もじゃないかなぁ?」
「あんなくだらない計画に
これ以上多くの人を巻き込みたくないだけだ。」
「そう、それだよ。
千冬。
千冬は紅侍君を見ていない。
そして」
シンさんは俺の方を見る。
「俺も君を見ていない。
分かるだろう。この視線。
でもね、ISは君だけを見ている。
シャドウも、もちろん」
「デミスⅢもね。」
時が止まったみたいに場は静かになる。
それでいて不思議な緊張があり、
その静寂を破る力が俺にはないように思えた。
静寂を破ったのは
「貴様らは何を考えているんだ!?」
千冬さんの怒鳴り声。
俺は千冬さんの方を見る
「何故幸逆なんだ?
幸逆にデミスを使わせる必要はない。
束や貴様らだけが使えばいい。」
「俺にはデミスを使えないよ。
それに幸逆君だってデミスを求めているはずなんだ。
俺達は幸逆君の望みを叶えただけなんだ。」
俺には二人の会話が分からない。
きっと俺について話しているのに、俺には何一つ分からない。
「紅侍君、何も分からないって顔だね、
君は半分くらい分かっていると思うがね。
まあいいさ。
それじゃあ一つずつ教えてあげようか。
そうそう千冬、今から言おうとしていること邪魔したら分かっているね?」
そう言って、シンさんはライターで火をつけタバコを吸い始めた。
そのライターは見る角度によって色の変わる不思議なライターだった。
「君には専用機が今はない。
無理はしない方が良い。」
そう言ってシンさんは千冬さんに微笑みかけた。
「さてまずさっき質問があった俺と千冬の関係だね。
俺の顔、誰に似ているかな?」
……
「織斑一夏。」
「じゃあそこから予想される俺と千冬の関係は?」
……
「親子」
「そう、その通りさ。」
シンさんは嬉しそうに答える。
千冬さんの方を見ると、千冬さんはシンさんを憎々しげに睨んでいる。
「そんなに怖い顔をするなよ、千冬。
まあお前の気持ちも分からんでもない。
でも……」
そこでシンさんは少し躊躇した。
「いや話の続きをしようか。
じゃあ次、君の新しい専用機デミスⅢについてだ。
最初に紅侍君が分かっていることを言ってもらおうかな?」
俺はシンさんを見つめ、答える。
「待機状態は俺の眼鏡、
ワンオフ・アビリティーは絶対搾取。
相手の武装を奪うことができます。
原理は分かりませんが、コアネットワークを通じて……
いえ、なんでもありません。」
「他に気付いたことはないのかい?」
「……非常に好戦的なIS。」
「そう、そうだね。
やっぱり君には分かるんだね。
すごいよ、すごいすごい。」
シンさんの表情は一夏戦を見ていた時のそれに似ていた。
「幸逆、好戦的と分かっているなら、
そのISをこちらに渡せ、そいつは危険だ。
大丈夫だ、悪いようにはしない。」
千冬さんが珍しく必死に言っているのが少しおかしかった。
「こちらって誰ですか?」
「さすが紅侍君、良い質問だね。」
腹を抱えながらシンさんは笑っている。
「日本政府だ。」
「それはいくらなんでもないよ、
悪用しかされない。
シャドウⅢも喜ばない。」
シンさんは笑っていたのから一転、呆れたように言う。
「……お前には関係ないだろう。
幸逆に私は聞いているんだ。」
「織斑先生、俺は……誰がって聞きました。」
「誰になるかは分からない。
でもそのISはまず初期化することになる。
そのままではまともに使えない。」
「初期化ですか……
彼女は……いやなんでもないです。」
「で、紅侍君は結局渡すのかい?」
「俺は……」
『ボクなら君の願いを叶えてあげられる』
ふと彼女が言った言葉を思い出した。
「俺は……デミスⅢを手放すつもりはありません。
シャドウと同じでずっと俺を見てくれたISです。
見知らぬ誰かに渡すつもりはないですし、
まして初期化なんてさせやしません。」
「そうか、なら強制的に回収させてもらおう。」
「そうはさせないよ、千冬。
今この場で奪おうっていうなら、俺が黙っていない。
後々回収するくらいなら紅侍君にはIS学園を抜け出してもらい、
表舞台から消えてもらう、そうなればいよいよ……」
「待て、それだけはやめろ。それだけは……」
「そうさ、それは嫌だろ。
なら政府に何も言わず、
紅侍君にデミスⅢを持たせておくんだ。」
「……分かった。」
やっぱり俺について話しているのに、俺はそっちのけである。
その間俺は
さっきまでは恐れていたのに今度は求めている。
それはこいつが望みを叶えてくれるからだろうか?
そもそも俺の望みってなんだ?
俺の望みはロボットに乗ることじゃなかったのか?
俺は……
「じゃあ俺はこれで。」
そう言って、シンさんは立ち去ろうとする。
「シンさん。」
「なんだい、紅侍君。」
「最後に二つ質問いいですか?」
「ああ、そういう趣旨だったんだっけ。
俺も千冬も君も、それぞれの考えが違うから
どうもまとまらない会話になってしまった。
うん、二つくらいなら答えよう。なんでもね。」
「ありがとうございます。
まずシンさんって本名はなんていうんですか?」
「おいおい、面白いことをきくね。
でも意外と俺が本名を名乗るのは久しぶりだな。」
ごほんと咳払いをしてからシンさんは自己紹介を始めた。
「俺の名前は
千冬の父親で、研究者さ。」
一夏のとは言わないんだな。
「案外本名に近い偽名なんですね。」
「あはは、俺は生まれつき
あらゆることに素直な性格なのさ。」
シンさんはウィンクをした。
「じゃあ二つ目の質問です。
デミスとデミスⅡの持ち主は誰ですか?」
シンさんの顔が一瞬引きつったのが分かった。
でもすぐ笑顔になった。
「ああ、紅侍君はやっぱりいい質問をするね。
厳密にはそれは二つだって言いたいけど、
まあ俺もケチじゃない。答えよう。」
「束さんと……」
シンさんは千冬さんの方を見て微笑む。
「華蛇櫻だ。」
お疲れ様でした。
伏線回収回でした。
デミスⅢのワンオフ・アビリティーについては
後でもう少し説明すると思います。
今まで色んな武装を出してきたのは
このワンオフ・アビリティーのためでもあります。
次回は前書きの通り、
一夏視点でラウラ戦やります。