クロエ「そうかな?」
束「おかわり!!
まあくーちゃんだからね!!」
紅侍「でもさ……今日のメニューって……」
クロエ「?」
束「おかわり!!」
紅侍「いやなんでもない。」
紅侍(この間のさゆかの弁当に入ってたやつだよなぁ……)
「夜竹、そうじゃない、何度も言っただろ!」
「近接戦闘がまるでなってない、もっと度胸を持て。
敵を恐れるな。」
「……適正通りならもう少し力を出せるはずだぞ。」
「もっと武装について勉強しろ。
射撃の仕方がどの武装でも同じだ。」
「展開が遅い。」
「ああ、そうじゃないって言ってるでしょ。」
訓練を始めて三か月程経った。
私が知ったのは私がやっぱり無力ということだった。
候補生の中で、一番年下で一番遅れて入って来た私は一番下手だった。
先輩たちの私に対する風当たりは強かった。
それは立場が一番下というのもあったが、
代表である華蛇さんへの嫉妬で同い年である
私に八つ当たりしているということも大きかった。
「あの子、下手くそよね。」
「訓練に集中してないし。」
「IS乗っている時、いつもつまらなそうな顔してますよね。」
「あの子って貧乏なんだって。」
「ああ、通りで臭いわけね。」
「私、あまりに臭いからあの子の鞄、ごみ箱に捨てちゃいました。」
「「「アハハハ。」」」
「ただいま。」
私は笑顔でドアを開ける。
玄関近くの台所から姉が返事をくれる。
「お帰りなさい、毎日遅くまで大変だね。
今晩御飯できるから待っててね。」
私が検査をしたのが秋だったので姉は今高校受験の準備中だった。
姉は当初高校に行くことを拒んだが、
私が無理を言って行ってもらうことにした。
リビング兼寝室にはお父さんはいなかった。
私が代表候補生になった後もお父さんは無理に働いていた。
理由は借金を早く返さなければならないから。
私達がした借金の半分は知人から借りたものであり、
残りが工場の土地を担保にしたものだった。
工場は昔程の規模はなくとも細々とやっていて赤字にはなっていなかった。
「お父さん、今日も遅いみたいだから先に食べようか。」
遅い日は警備員の仕事をしている日だった。
「うん。
おっ、今日の夕飯はシチューだ。
私シチュー大好きなんだ。」
「知っているわよ。
だからシチューにしたんじゃない。
さゆかは頑張ってくれているから、そのご褒美よ。」
それを聞いた途端、私は少し悲しくなった。
「そんな気を遣わなくていいのに。」
私が代表候補生になってから家族は私に気を遣うようになった。
それは私にとってとても辛いことだった。
「いいの、いいの。これぐらい。
それにさゆかだって私が働いていた時、
夕飯に私が好きなカレー作ってくれたじゃない。
しかも辛いやつ、あんた甘い方が好きなのに。」
「うっ……。」
そう言われてしまうと反論できなかった。
ちなみに私はあまりカレーが好きではないので
辛かろうと甘かろうと姉が喜んでくれる方がよかった。
「ほら、冷めちゃうから早く食べて。」
「さゆか、今日の放課後遊ばない?」
小学校で友人から誘われた。
「ごめんね、今日も習い事があるんだ。」
「ふーん、毎日あるんだね。
塾とジムだっけ?頑張ってね。」
「うん、ありがとう。」
「さゆか、最近付き合い悪いよね。」
「あの子、家が借金してるんだよ。
だから忙しいんじゃない?」
「そうなんだ、大変だね。」
「でも何も嘘つくことないんじゃないの?」
ISの代表候補生であると言えば、何も問題はないはずだった。
でも言えなかった。
ISのことを学校でも一日中言われなければならなくなると
思うと耐えられなかった。
「夜竹さん?」
どこかで聞いたことのある声だった。
私は顔を上げた。
そして思わずへりくだった。
「あっ、初めまして。
私は夜竹さゆかと言います。よろしくお願いします。」
ニコニコ笑っているその女は華蛇さんだった。
私達候補生の目標であり、永遠に届かない壁。
「私は華蛇櫻。よろしくね。」
華蛇さんは私の隣に座ってきた。
「同い年だったよね?
だから仲良くしようよ。
同い年の子居ないから候補生の人に友達いないんだ。」
彼女の言っていることは嘘だ。
候補生が彼女に逆らうはずはないのだ。
「でも私じゃあ釣り合わないですよ。」
私は乾いた笑いと一緒に答えた。
「その顔は疑ってるな。
本当に友達居ないんだってば。
一番頼りにしていた師匠も居ないし……。」
師匠とは織斑千冬のことだろう。
「それに友達に釣り合うも釣り合わないもないでしょ?」
彼女の笑顔は魅惑的だった。
私はこの時彼女となら友達になれるかもしれないと思った。
だが……その時ふと疑問に思うことがあった。
本当に友達に釣り合う、釣り合わないが関係ないなんてことがあるだろうか。
今、彼女は容易に私の心を掴んだが、私は彼女の心を掴んでいるのだろうか?
「うん、そうだね。」
私は作り笑いをした。
彼女の顔も笑顔だった。
華蛇さんは候補生の人とはレベルが違いすぎて、
あまり私達候補生の練習に顔を出すことはなかった。
それでも私の事は気遣ってくれているようだった。
私は彼女の下でISの操縦技術と……
自然な笑顔の作り方を学んだ。
私と彼女が初めて会った日の事を何度も思い返す内に
私は彼女の笑顔が作り物ではないだろうかと考えるようになっていた。
私は彼女の心を掴んでいないのであって、
そんな私に本当の笑顔など向けるのだろうか?
そう思うとあれが作った笑顔に見えてたまらなくなった。
そして決意した。
嫌いなISと共に生きていかなければならないならば
感情を隠すために笑顔を作れるようになるべきだと。
中学校一年の時のことだ。
「夜竹、来月からあなたを候補生から解任します。」
いきなりの宣告だった。
その口調はとても冷たかった。
「えっ?」
私は耳を疑った。
昔ならともかく最近では華蛇さんの教えもあって、
多少はマシになっていたはずだった。
「知っての通り、あなたの同い年に華蛇さんという絶対的存在が既に居ます。
更に今月から更識簪さんが候補生になることになりましてね、
その方もあなたと同い年なのです。」
「そんな、そんなのってあんまりです。
私はこれまで努力してきました。
そんな新人に負けるつもりはありません。」
悲劇っぽく言ったのは演技も混じっていた。
でも本当に候補生から外されるのは困ることだった。
姉はまだ高校二年生だし、できれば大学にも行かせてあげたかった。
借金だってまだ残っているのに。
加えてこの頃お父さんは体調を崩した。
昼間には工場、夜間には警備員……
そんな生活をしていれば当然だった。
だから私だけがこの家を支えていた。
私しかいなかった。
あんなに嫌いなISなのに、
私達家族はISに縋り付くことでしか生きられない。
「普通の人ならそうでしょう。
でも更識さんは小さい頃から武芸の訓練を受けています。
それは更識さんの家柄のためであって、
あなたとは生まれ持った才能も違うし、
生まれてから訓練を積んできた期間も違うのです。
勿論ISの訓練は積んでいませんが、
それを考慮してもあなたより遥かに優秀な人材です。」
理路整然と諭され、私は何も言えなかった。
私がずっと苦しみの中守ってきたものが
第三者によってこうもあっさり崩されるのか……。
嫌いなISについて学び、その訓練をやる苦痛。
候補生に虐められる苦痛。
忙しさのせいで学校の友人関係が上手く行かなくなった苦痛。
ぎこちない家族関係に対する苦痛。
作り笑いをし続けなければならない苦痛。
でもそれは仕方のないことなのかもしれない。
私はやっぱり何もできないのだから……
だけど私がここで諦めたら……
「お願いします、なんでもしますから候補生で居させてください。」
私は懇願した。
私は泣いていた。
「夜竹、あなたが候補生で居たい理由は何かしら?
正直に言ってみなさい。」
「……命です。
私と私の家族が生きるためです。
もっと分かりやすく言えばお金です。
……お金が欲しいんです。」
「でしょうね。」
女は満足そうに頷いた。
私のここまでの行動は全て予測されていたようだった。
「だから私達はあなたに候補生以外での仕事を与えようと思います。」
彼女の勿体ぶった言い方は恩着せがましく感じられた。
しかし私がその思いを顔に出すことはなかった。
「あ、ありがとうございます。」
ただ感涙したように見せた。
実際に涙が流れていたのは事実だった。
「さゆか、最近訓練あんまりないのね。」
姉は心配そうに言った。
それはそうだ、
毎日のように遅くまでやっていた訓練がなくなれば、それは驚くだろう。
これでも図書館で時間を潰したりはしているのだが、
やはり家族には隠せないのだろうか。
「ああ、最近操縦技術を学ぶより、
もう少し知識をつけろって言われてね。
武装のことを学んでいることの方が多いんだ。」
私は笑顔を作る。
姉は少し暗い顔をする。
それでも……次の瞬間には私を安心させるよう気丈に振舞った。
「ところで、今日の夕飯何がいい?」
「うーん、コロッケかな?」
「OK。コロッケなら今ある材料で作れそう。」
……ごめんなさい。
私がやっていることは家族に言ってはいけないことだった。
私がやっているのはテストパイロットだ。
テストのためのISは数が多くない。
そのために行かなければならない日は減った。
さてテストパイロットとしての私の価値はそれなりだったようだ。
代表候補生だったため、
私はIS適正やISの操縦技術は高い方だった。
……でも私の利点はそれだけではなかった。
私は国の言いなりだった。
だから国家機密の武装のテストをさせるのに私はうってつけだった。
国家機密の武装、それはつまり軍事用のものだ。
その中には操縦者のことを考えているとは言い難い武装もあった。
ああ……お母さん。
私もまた罪を犯すようです。
「夜竹、あなたをIS学園に居れておいて正解だったわ。」
私のIS学園における役割は外国の試験武装の偵察だった。
正直IS学園に行くのは嫌だったが、逆らえる立場にないのは間違いなかった。
「はぁ。何のことでしょうか。」
「二人目の男子操縦者が見つかったのよ。」
私にずっと指図してきたその女は忌々しそうに言った。
「織斑一夏以外にってことですか?」
織斑一夏に関してはある程度仲良くするように言われただけだった。
「そう、織斑様の弟なら分かるけど、
あんな小僧がどうして操縦できるのかしら?」
「はぁ……それでその男と私になんの関係が……」
「ああそうだったわね。
その男がね、生意気なことに素直に日本政府に従わないのよ。
どうやら篠ノ之博士に実験体として興味もっていただけたみたいでね、
政府には顔を出さないのよ。
まあ今頃解体されてるかもしれないけどね。」
女は一気に捲し立てた。
「結局私は……どうすれば……?」
「少しは黙って聞いていなさい。
私達日本政府としてはその男を確保しておきたいのよ。
そこであなたの出番よ。
恐らくその男はIS学園に入学するわ。
あなたや一夏君と同い年なのよ。
だからあなたは彼と接触しなさい。」
「接触って……
彼を通して篠ノ之博士の動向を探れってことですか?」
「まあそれもあるわね。
でも一番の目的はそいつと恋仲になってもらうわ。
それであなたが彼を日本に縛り付ける。
簡単でしょ?」
……
「あなたは感情を隠すのが得意だと私は考えているわ。
あなたが私達に見せる態度は全部作り物だって、
私達には分かるけど、あの小僧には分かりやしないわ。
大丈夫、あなたならできる。」
……
そっかばれてたのか……
私は華蛇さんみたいにはなれないなぁ……
小学校三年生の時好きな男の子が居た。
その子は格好良かった。
皆に優しかった。
皆の人気者だった。
でもある日気づいた。
私に彼は眩しすぎるって。
それ以来素敵に見える人は私にとって
憧れではあったけれど、好きと思うことはなかった。
幸逆紅侍……
顔は普通。
性格は理屈っぽいきらいがあるらしい。
好きなものはカレー。
そんなことはどうでもよかった。
ただ一つ気になったのが……
ISが好きで仕方がないということ。
つまりは私と反対の存在だ。
私と相容れるのか。
私としては甚だ疑問だった。
お疲れ様でした。
次回はちょっと時間かかるかもしれないです。
今までの話を見直しながら書くことになると思うので。