一夏・紅侍(……)
セシリア「どうかしましたか?」
一夏・紅侍(……ひっでぇ部屋。
私物が全てセシリア(さん)のものしかねぇ。)
紅侍「同室誰だっけ?」
セシリア「鏡さんですわ。」
一夏「鏡さんの私物は?」
セシリア「?お洋服ならあそこに入っていますけど。」
紅侍「おい、一夏何か言ってやれよ。」
一夏「俺が言うとひどい目に合う気がする。
ここは紅侍が……」
ガチャ
鏡「ただいま。」
セシリア「おかえりなさい。」
紅侍「鏡さん、一つ言いたいことがあるんだけど。」
鏡「?」
紅侍「ずばり、この部屋の現状についてどう思う?」
鏡「どうって……」
鏡「ウチ、和風な家だったから
こういうお姫様みたいな部屋憧れてたんだぁ。
ふふふ、夢がかなった気分だよ。
しかもあれだよ、
セシリアが持っている紅茶、すごく美味しいし。
ベッドはふかふか。
非の打ち所がないねっ!」
紅侍・一夏「ああ……そうなんだ……」
第四十七話 俺 走る
「お別れだね。」
さゆかが肩を震わせながら言う。
「ああ。」
やけに感情をこめられたその一言に対して、
俺は複雑な気持ちでいっぱいでそれしか言えなかった。
「って言い方、紛らわしすぎだろ。」
「えぇー、だって一回ぐらいはふられた時のために
予行演習しておきたかったから。」
さゆかがおどけた調子で言う。
にしても随分とひどいことを言うものだ。
「俺ってそんなに飽きっぽく見える?
つきあい始めた当日からそんなこと言われるとは思わなかった。」
「いやいやごめんね。
べつにそういうわけじゃないんだ。
いつものネガティブの一環だよっ、ね。」
ねって言われてもな。
現在俺は引っ越しの準備を終えて部屋を変えるところである。
シャルが女性だと暴露したことにより、
部屋替えがなされることになった。
俺は一夏と同じ部屋に、シャルはラウラの部屋に移されるらしい。
さゆかはまた一人部屋になるらしかった。
……ラウラが気難しいって理由で俺らが同室だったんだけどな。
なぜさゆかが一人部屋なのかは考えないでおこう。
「まあいいけどさ。
それじゃあ俺行くね。」
さゆかは最後には笑顔で見送ってくれた。
「よっ、一夏。」
俺は部屋にふてぶてしく入る。
元々俺の部屋だし、同じ男子だし気が楽といえば楽だ。
あっ。
シャルと一夏が向き合ってなんだか良い雰囲気だった。
「……ごゆっくり。」
俺は静かに出ていった。
そっかぁ、そうか。
男女同室だもんな。
しかもシャルは一夏狙いで送られたわけだしな。
仕方ないか。
「おい、待て。紅侍、何か勘違いしてるだろ。」
俺はドアにのしかかって考える。
そっかぁ、そうか。
「おい、紅侍。開けろって。
わざとやってるだろ。」
……
そろそろやめるか。
俺は横っ跳びをする。
ドアに力をかけていた一夏は勢いあまって外に吹っ飛ばされる。
「うわぁああ。」
「一夏、大丈夫!?」
驚いたシャルがあわてて駆け寄る。
しかし慌てたためか、シャルはすっころび、
一夏の上に覆いかぶさるような形になる。
……シャルだとあざとく見える。
いやなんでもない。
その時だった。
「一夏、騒々しいぞ。」
隣から箒が出てきた。
「なっ、一夏。
お、お前は一体なにをやってるんだ!」
「ちが、違うんだ。
これは事故なんだ。
紅侍、箒に説明してやってくれ。
それからシャルロットは早く起き上ってくれ。」
ふむ、俺はシャルをちらっと見る。
その顔は少し蕩けていて完全に至福モードだ。
しばらくだめだな、こりゃ。
「一夏。
俺、荷物持っているのめんどいからさゆかの部屋にいるわ。
じゃっ、事態が鎮静化したら呼んでくれ。」
「おい、紅侍ぃいいいいいいい。」
そうそうハーレム作品の主人公はこうでなくてはならない。
俺は一夏を見捨ててとっとと逃げた。
ただいま午前二時、
なんというか誰かに話しかけられた気がしたから俺は起きた。
「おい、起きろ。」
俺は寝ぼけた眼をこすりながら暗闇の中、声の主の正体をさぐる。
この声はクロエさん……?
あっ、ラウラか……。
「おとなしく、この部屋から出ていけ。」
「いや、なんでだよ。
ここ、俺の部屋だから。」
「ふむ、確かにお前の言う通りだ。
だが、ここは一夏の部屋だ。
よってその夫である私こそ、この部屋に相応しいのだ。
夫婦は同じ部屋で寝るものだと聞いたのでな。」
とんでも理論きた。
つーか、夫って……
いや今ラウラが言っている嫁の方が或る意味正しいのかもしれないが、
なんだか頭痛くなってきた。
「いやいや、じゃあ俺はどこの部屋にいろって言うんだ。」
「お前の隣の部屋の女のとこにでも行けばいいのではないか?」
「……断る。」
一瞬だけ行くことを想像した自分が恥ずかしくなった。
「我儘なやつだな。」
お前が言うか……。
最終的に一夏が起きてなんとか説得した。
「ほら、例のもんだよ。」
昼休み、俺はラウラを呼び出して紫電を渡す。
シャドウの初期武装だったそれは改造されて、
どのISにも装備のできる追加武装になり、色がなぜかピンク色になっていた。
「ほう、これが。」
ラウラは興味深そうに見ていた。
紫電の大きさは普通の銃とそう変わらない。
「もう、俺行っていいか?」
俺としては俺の貴重なアイデンティティーがラウラ、
いやドイツが使えるようになってしまったのであまり嬉しくはない。
まあ俺が提示した条件だ、今更文句は言えない。
「待て、こいつが本当に機能するか試す必要がある。」
まあごもっともな意見ではある。
「とはいっても公の舞台で使うなよ。
……まあドイツも秘密裏に
それを独占したいだろうからそんなヘマしないと思うけど。」
俺が今言った公の舞台というのは少し広い意味だ。
例えばIS学園のアリーナも含む。
他から一切の監視を受けない場所でないと秘密にはできない。
「そうだ、だから取引成立のためにも
お前がその隠れて試せる場所を用意しろ。
お前が威を借りている人に頼むんだな。」
……俺は狐らしい。
でもって束さんは虎だ。
『じーくん、じーくん。
どうせならさそいつにデミスⅢの訓練相手になってもらいなよ。』
相手の思惑にただで乗る気はないらしい。
『はぁ……。』
俺としては遠慮したい。
デミスⅢを纏うと自分を制御できなくなる。
「どうした?」
「束さんから条件が一つ出た。
紫電の試し撃ちが終わった後、デミスⅢと模擬戦をしてくれないか?」
紫電の訓練とデミスⅢの模擬戦を分けたのはせめてもの慈悲だ。
どう考えてもデミスⅢとの模擬戦じゃあ紫電の試し撃ちができない。
「ほう、私もあの黒いISとは戦ってみたかったところだ。
その条件でいこう。」
「おいおい、いいのか。
今度こそあの試合の続きをやるかもしれないぞ。」
「今回はあそこまで追い詰められてやるつもりはない。
それに万が一追い詰められても……」
ラウラはそこで言葉を止めた。
「追い詰められても、なんだよ?」
「いや、とっととアリーナに行こう。」
「今からか?午後の授業は?」
確かに人が居ないという意味では授業中というのは
悪くないタイミングではあるのだが。
束さんの力でデータ上での戦った記録は全てなくなるが、
直接見た人の証言は誤魔化せないからな。
「山田先生が担当だから問題あるまい。」
えぇ……
「紫電を扱う上で覚えなくちゃいけないのは二つ。
一つ目は敵とどのくらいの距離で敵がどのくらい止まるのか、
二つ目はリロードまでの時間。
これを念頭においてやってみてくれ。」
「分かった。
しかしお前に教えられなくてはならないとはな。」
「教えてやってるのにその態度はないだろ。
……まっ、俺もお前に教えるのは変な気分なんだけど。」
ラウラと訓練しているとクロエさんとの訓練をどうしても思い出す。
そういう意味では俺が教える側っていうのは奇妙な気分だ。
「変な気分っていうのもなかなか失礼だと思うがな。」
「なぁ、どうして近~中距離向きの裂空しか使ってないんだ?」
「だって紫電の訓練だろ、
本気の試合ならもう少し色々やるけど、
近~中距離で紫電をどう当ててくか考えるのが重要な訳だし。
相手と遠距離なら紫電以前に
普段近接戦しようとする感覚で戦えばいいし。」
「そうか。
だが星の欠片ぐらい使ったらどうだ?」
「うーん、紫電を使うことを意識しすぎて、
動きが予測しやすいから使わなくても正直なんとかなってる。」
「……なんだと?」
ラウラが恐ろしい顔でこっちを睨んでくる。
「いや……馬鹿にしてる訳じゃなくて、
俺にもそういう時期があったからなんとなく分かるというか。」
「まあいい。」
「放課後まで後一時間くらいか。
そろそろお前の用事に移るか?」
「もう大丈夫なのか?」
俺は正直デミスⅢに乗りたくなかった。
自分がどうなってしまうのか分からなかったからだ。
「ああ、大体は掴んだ。」
自信満々に言うラウラが
俺に指導している時のクロエさんと少し重なって懐かしくなる。
「さすが、織斑先生の弟子だな。」
喜ばせたくて俺はこんなことを言ってみた。
「ふん、当たり前だ。」
口ではこんな事言いながら嬉しそうだった。
『早くボクを使ってよ。』
その時頭の中から声がした。
俺は忘れていた。
俺はラウラに攻撃できなかったことを後悔したはずだ。
いい機会じゃないか。
「……じゃあやるか?」
俺は口元に手をあてながら言った。
手をあてたのはそうしないと俺の口角が上がっているのがばれるからだ。
「私もここからは本気でいかせてもらうからな。」
ああ、今は最高な気分だ。
今度こそ潰してやる。
ラウラが出す武装を次々と奪う。
本体との結びつきの強いワイヤーブレードだけは奪えなかったが、
まあどうでもいい。
ほれ、みろ。
まるで相手にならない。
また一つスラスターを潰してやった。
もうこれでまともな上昇はできない。
試合開始から15分か。
そろそろ遊ぶも最終局面にいくか。
ボロボロになったラウラとシュヴァルツェア・レーゲンを見て俺は笑う。
『絶対搾取』
俺はグラビティガンを呼び出した。
グラビティガンは鎖が弾丸となっている銃で、
当たれば相手に絡みつき重石となる。
弾丸が遅いのが少々欠点だが、
スラスターはもう全部ぶっ壊した。
また地面にへばりつかせてやる。
俺はグラビティガンを連射。
弾がつきたらまた新しいのを呼んだ。
もうラウラと見えないくらい鎖をつけてやった。
特に顔は重点的にやったんだ。
問題はなにもない。
……俺は一体何を心配しているというのか。
俺は刀を呼び出し、首に向かって急降下する。
迷うなら一撃を喰らわせてやる。
これで後悔をなくせる。
これで……。
「うわぁあああああああああああ。」
俺が突き刺したのは地面だった。
何を迷う?
何故だ、何故迷う。
あ、ああ……
俺はデミスⅢを引きはがした。
「はっ、はぁはぁ。」
全身が痛い、特に頭が……
俺は……
「大丈夫か?」
ラウラが俺に話しかけた。
「あぁ……。」
落ち着いて辺りを見回すと俺が奪った武装は全て消えていた。
どうにも無理矢理デミスⅢを収納するとこうなるらしい。
「悪かったな。
また傷つけるところだった。」
「それを謝るのは却って私に失礼だ。
私にも誇りがある。
ここが戦場ならそれは当たり前のことだ。
それにまたお前はとどめを刺さなかった。
そうだろう?」
俺は黙って頷いた。
「にしてもお前のそのISはどうなっている?」
「ははは……本当にどうなっているんだろうね。」
俺自身にも分からない。
分かろうとも思わない。
アリーナを出た時、勘が鈍い俺すら寒気がした。
隣に居たラウラは震えていた。
「二人とも、いい度胸だな。
授業をさぼっていたとはな、
覚悟はできているんだろうな。」
気づいたときにはなぜか背後に千冬さんが居た。
「あぁ……」
「教官、いや……その」
「お前らはペナルティーとしてグランド10周だ。」
IS学園のグラウンドは一周5キロだ。
「……せめていつぞやと同じく6周にしてください。」
「分かりました、教官。」
ラウラはグラウンドに向かって走り出した。
「ラウラはやる気のようだぞ。」
「……はい。」
ちなみに一夏の時と違って、
俺より遥かに体力のあるラウラはとっとと俺を抜いて行ってしまった。
そのため最後の一周は一人で走るはめになった。
いや……最後以外も並走していないので一人だったようなもんだけど。
……にしても50キロって死ぬかと思った。
お疲れ様でした。
後三話ぐらいは平和なパートなはずです。
今回が平和かどうかと言われるとかなり微妙ですが……