悪い、待たせちゃって。」
箒・シャル「一夏、
これはどういうことなのだ(なの)?」
一夏「えっ、俺遅刻したか?時間間違えたかな。」
箒・シャル「時間のことじゃなくてなんで
シャルロット(箒さん)が居るのだ(の)?」
一夏「ああ、そういえば言ってなかったな。
今日は三人で買い物に行こうかなって。」
箒・シャル「うわぁあああああああああ。」
箒(せっかく櫻が気を使って一夏の誘いを断ってくれたというのに)
シャル(付き合ってくれないかって言われた時勘違いしたのは悲しかったけど、
二人でデートできるならそれでもいいかって思えたのに)
一夏「にしても二人って仲良いんだな。
さっきから息ぴったりだぞ。」
箒・シャル「一夏の馬鹿!」
一夏「ゴフッ。
俺が一体何をしたというのだ……」
「ごめん、待った?」
現在時刻は午前8時55分。
俺は20分前から来ていたりしたのだが、
「いや今来たところ。」
とりあえずこう言うべきなのだろう。
デート?なにそれ?おいしいの?
なんて人生を過ごしてきた俺から言わせればどうすればいいのか分からない。
さゆかは淡い赤いワンピースに、オレンジ色のスカートを着ていた。
靴はサンダルで白い花の飾りがついていた。
似合ってるぜ、ぐらい言いたいのだがどうにも恥ずかしくって言えない。
似合ってるていうか、かわいいていうか、夏っぽくて、
ああ夏がこんなに最高だと思ったことはない
と叫びたいぐらいには心を奪われていたのだが……まあ言えない。
「じゃあ、行こっか。」
俺の口から出た言葉はこんなもんである。
そんなに混んでいない電車に二人並んで座る。
いや混んでなくとも連れだったら普通隣に座るだろ。
どうにも頭が混乱している。
距離が近いからか、なんかいい香りがしてきた。
同室だったので彼女が使っていたシャンプーは知っていたのだが、
その香りとは違ったもののようで今日のためにつけてきたのかもしれない。
香りが俺を余計に混乱させる。
「今日どこ行こうか?」
「えっ、誘ってくれたから考えてあるのかなって。」
さゆかが少し驚いたように言う。
「あっ、ああ。
いや実は」
ここで一夏の誘いを断るために急遽誘ったと言おうとして言葉を呑み込む。
それは言わない方がいいだろ。
「俺この辺に住んでた訳じゃないからどんなのがあるか分からないんだ。
一夏の話だと駅前のレゾナンスってとこに行けばなんでもあるらしい。」
そう、レゾナンス様頼みなのだ。
「そうだよねぇ。
私も分からないや。
住んでた場所はここから遠かったからさ。
……お父さんとお姉ちゃん元気かなぁ。」
さゆかが少し懐かしむような顔をする。
「そういえばさゆかの家族ってあまり知らないな。
どんな人なの?」
「お父さんは真面目な人だよ。
少し心配になるくらいにね。」
表情が暗くなる。
「お姉ちゃんは私と似ているところも多いけど、
私よりいろんなことができる人なんだよ。」
今度は楽しそうに言ってはいるが……。
「あっ、でも紅侍には会わせたくないかな。
私よりきれいだから、会ったらお姉ちゃんのこと好きになっちゃうかも。」
「じゃあ会ってみよう。」
俺はノリノリに答えた。
「ひどいなぁ、もう。」
二人で笑う。
……少し大袈裟なくらいに。
たぶん母親はいないんだろう。
俺も前世では父親が居ない期間があった。
父親について聞かれるのは嫌いだった。
死ぬ前もそうだったし、死んだ後はなおさらだ。
大変だなとかなんとか言われるのも面倒だった。
そんなことを思い出したからか
俺はくだらない冗談でこの会話を終わらした。
それに今日という日に落ち込んだ雰囲気は相応しくない。
「うわ、本当にでかいな。店の種類も多いし。」
こんなにあるのか。予想以上の規模だ。
「行くところ決めてないんだよね?」
「おっ、なんか行きたい所でもあった?」
「うん、水着売り場行きたいかな。
学校指定の水着しか持ってないしさ。」
来週の臨海学校で着るのだろう。
自由時間もあるから女子は一夏のために気合を入れてそうだ。
「あー、俺は水着あるからいいや。
じゃあ俺はこのプラモ屋でも見てるよ。」
……
「紅侍、これデートだよね?」
さゆかにじぃっと見つめられる。
「やっぱり一緒に見ないと駄目か?」
「うん。行こう。」
さゆかに腕を掴まれて、俺は引きずられるように連れていかれる。
「これ、どうかな?」
さゆかが選んできたのは白いビキニだった。
「……いいんじゃないか。」
俺はさゆかのビキニ姿を想像してしまう。
「赤くなったぁ。
今想像したでしょ。
面白いから他のでも試してみようかな。」
からかうように笑ったさゆかは売り場の奥へと進んでゆく。
なんか悔しいな、ちくしょう。
その後、1時間くらい水着選びを手伝った。
さゆかにこの水着はどうかと聞かれるたびに
俺は水着姿を想像して赤くなった。
結局買った水着は一番最初に見た白いやつだった。
なんでも俺の反応が一番良かったのがその水着だったそうだ。
「次、どこ行こうか。」
「そうだな、ありがちだけど
映画とか考えてみたけど時間が中途半端だな。」
「だね。映画はお昼ご飯食べてからの方がいいな。」
「じゃあ適当に雑貨屋でもまわらないか。」
「?いいけど。」
さゆかが不思議そうな顔をしたのも無理はないだろう。
俺が家具とかキーホルダーにこだわりがないのは知っているだろうし。
「これ、かわいいなぁ。」
さゆかが見て回るのを、俺は後ろから見ていた。
今さゆかが見ているのはかわいすぎるな。
にしてもさっきから一つも買わないな。
別に俺に買ってもらおうという素振りもない。
「あっ、これもいいなぁ。
でもお姉ちゃんの方が好きそうだな。
よし、これお姉ちゃんのお土産に買ってこう。」
さゆかは俺の方を振り向いてレジに行ってくることを伝えた。
レジは混んでいた。
今がチャンスか。
さゆかはこの店の商品を全体的に気に入っている。
少し女性っぽい店だが、男性でも買えないことはないだろう。
さゆかがレジに並んでいる間に俺は商品を見て回る。
さゆかが気に入っていたのは動物系が多かったな。
あっ、これなんかいいな。
熊のキーホルダーを取る。
目がボタンでできていて、触り心地もなかなかだ。
色違いもあるし、ちょうどいいな。
「あっ、紅侍。
今までどこ居たの?
レジで買ってきて店の外に出たらいないんだもの。」
「ああ、悪い悪い。
店の商品見てたんだよ。」
「えぇ、私と見ている時は
あんまり自分から商品見てなかったのに。
自分から雑貨屋行こうって言ったのに何してるのかなって思ったよ。」
「さゆかのこと見てたんだよ。」
「紅侍が照れずにそういうこと言う時って
大抵何かごまかそうとする時だよね。」
「三か月の付き合いってのは馬鹿に出来ないな。」
俺は頭を掻いた。
「お昼はモックか。」
「ファーストフードじゃ不満?」
「いや一応初デートなのにどうなのかなぁって。」
俺はしばらくぶりのその安っぽい味を味わう。
別に嫌いではない。
カップヌードルとかハンバーガーはそれはそれで美味しいものである。
でもデートっていうとなんかこうもう少し良い所に行くイメージがあった。
それだけだ。
「しょうがないじゃん。
どこのお店も混んでいてハンバーガーぐらいしか
大して待たずに食べられそうなところなかったし。」
「まあそうだよな。
フードコートの一角に席が空いていたこと自体奇跡だ。」
俺は混んでいる周りを見渡す。
「そうそう、
並んで時間無駄にするくらいならもっといろんな所まわろうよ。
あっ、そうだ。」
「ん、どうかした?」
「はい、あーん。」
……はっ?
俺の目の前に差し出されたポテトを俺は見つめる。
「あーん。」
いや二回言われても……。
「えっ、あっ。
食べてくれないの。
そうだよね、いくらなんでもやりすぎたよね。」
あっ、まずい。
さゆかのネガティブスイッチが入る。
ここは腹を括るしか。
「あーん。」
俺はまだ差し出されたままのポテトに目をつぶって食べようとする。
あれ?
「ひっかかったぁ。」
さゆかが満面の笑みを浮かべる。
俺が目を開けた時にはさゆかがポテトを半分食べていた。
「さっきのネガティブは偽装か。」
「うん。ああすれば食べてくれるかなって。」
「というか食べさせたいなら食べさせてくれよ。」
「えー、でも一回はこういういたずらやってみたかったから。」
「じゃあ、今度こそあーん。」
「あーん。」
今度は食べられた。
「じゃあ、さゆかも。」
俺はさゆかにポテトを差し出す。
しかしさゆかはなかなか食べない。
「どうかした?」
「……こういうのって食べる側の方が恥ずかしいね。」
さゆかは赤くなってしまった。
その後はなんだか互いに恥ずかしくなって普通に静かに食べた。
「うーん、このラインナップかぁ。」
昼食後、映画館に行った。
「これ、どうかな。」
さゆかが指さしたそれはいかにもB級臭の半端ないものだった。
「えっ、それ。
なんか地雷な気がする。」
「あはは、やっぱりそうかな。」
さゆかは照れた様子で顔を逸らした。
もしかして結構本気で見たかったのだろうか?
結局ネズミ―のベイミニマムを見た。
ロボットと男の子の物語なのだが、
CMでやっていたような感じではなくて激しいバトルものだった。
デートで見るようなものではなかったかもしれないが、
ちょこちょこと笑えるところもあって、
二人で笑い合えて楽しかった。
「面白かったね。」
「まあネズミ―みたいな大御所見たら
大外れってことはないって。」
「紅侍は有名なやつ見るの?」
「映画館に行くときはね。
レンタルDVDなら冒険することもあるけど……。」
「へぇ。」
「さゆかは?」
「私?
映画館あんまり行かないから分からないな。」
「ゲームセンターかぁ。」
さゆかはなんだかきょろきょろしていた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。
あっ、このぬいぐるみかわいいな。」
「よし、じゃあそれ取るよ。」
俺は気合を入れてそのUFOキャッチャーに近づく。
「えっ、悪いからいいよ。自分でやってみる。」
さゆかがまずはやってみる。
あんまりやったことなかったのか、たどたどしくやっていた。
普通に胴体の真ん中にキャッチャーを合わせる。
うん、気持ち的には分かるけど、
やっぱりキャッチャーの力足りないよな。
「あっ、全く持ち上がらない。」
ガーンって効果音が聞こえそうなくらい落ち込んだ顔をしていた。
「俺がやってみていい?」
俺は俺の40年近い経験を生かして全力で
このぬいぐるみに挑む。
……
「とれたー。」
1000円くらいかけてようやくとることができた。
「あはは、お疲れ。」
さゆかは途中から熱中してしまった俺に若干呆れているようだった。
「ごめん、少し熱中しすぎた。
はい、これ。」
「いいの?」
「だって俺が持ってても仕方ないもの。」
「ああ、それもそうだね。
じゃあありがたく頂戴します。」
少し大きいぬいぐるみをさゆかは抱くように持った。
その後は取られることを前提とした小さなぬいぐるみのやつを
やってもらってさゆかにも楽しんでもらった。
「あっ、さゆか。
これやろうぜ。」
IS/VSのゲーセン版があった。
大画面でできたり、ゲーセン限定の武装があったり、
まあこういうところでやるから楽しいことがあるのだ。
「あっ。」
さゆかは一瞬嫌そうな顔をした。
「じゃあ、えーと……」
俺は辺りを見回して二人でできるやつを探す。
「ううん、
紅侍、IS/VSやりたいんでしょ。だったらやろうよ。」
さゆかのその時の笑顔は優しかった。
なにか気遣わせるようなことしちゃったか。
でもせっかくの優しさなので素直に受け取る。
「紅侍ってゲームも上手いんだね。」
「そりゃそうだよ。
ISに本当に乗れるなんて思ってなかったから。」
正確には前世での話だが。
ロボットアクションゲームを前世でやった経験が生きている訳だ。
といっても本当に乗れる保証がなかったから、
今の人生でもIS/VSもそれなりにはやりこんでいたけれど。
「まあ紅侍が楽しそうでなによりだよ。」
「俺、そんなに楽しんでいるように見えた?」
「悔しいけれど今日一番ね。」
確かにゲームをやっている間は楽しかった。
でも久しぶりだったからだろうか。
でも違う。
感じたのはもっと最近まで感じていた楽しさだ。
「……でもさゆかも楽しかったでしょ?」
「えっ、そう見えた?」
「やっている時は画面ばっか見てたから分からないけど、
だって俺が楽しめたから。」
「えー、なに。
その理由?」
「なんとなくそんな気がしたから。」
「変なの。」
そう言ったさゆかは笑っていた。
それは俺の発言が可笑しかったというより、
なにかほっとしたような感じだったのだ。
「結構遊んだな。」
「そうだね。」
二人で少し距離をあけて、人気の少ない一角にあったベンチに座っていた。
二人とも疲れていた。
それはそうだろう。
今日、俺達はずっと異常なまでに楽しもうとしていた。
だから疲れてしまったのだ。
……
「「あのっ」」
二人同時に話しかけようとする。
さゆかの方を見ると深刻そうな顔をしていた。
「さゆかからどうぞ。」
俺の用事は大したことのないものだったのでさゆかに譲る。
「紅侍、今日一日楽しかった?」
「ああ。楽しかった。」
「そっか。じゃあ私のこと、
……どんなことがあっても嫌いにならないかな?」
「どんなことがあっても?」
自分でも自分の顔が引きつっていくのが分かった。
仮面が剥がれていくように
自分の中にあった疑念が溢れていく。
さゆかはそんな俺の様子を見て、不安そうな顔をする。
剥がれかけていた彼女の仮面もさらに剥がれていく。
俺達は黙ったまま見つめ合う。
微妙な均衡を保ちながらも、
崩壊が来るのは目に見えていた。
「幸逆、夜竹。こんなところで何をやっている?」
俺達は声の方を向く。
「お、織斑先生。」
「少し邪魔するぞ。」
千冬さんは俺達の間に無理矢理座ろうとしたので俺が少しどく。
さゆかはなんだかぽかーんとしていた。
「俺らはまあ買い物です。
織斑先生こそこんなところでどうしたんですか?」
「ああ、私も買い物だよ。
教え子を偶々見かけたのでな。声をかけた訳だ。」
「そこはほっておいてくださいよ。」
俺は愛想笑いしながら答える。
「しかしここは暑いな。」
俺の発言を無視するかのように露骨に話題を変えやがった。
「七月ですからね。
でも暑い方が海は楽しめますよ。」
海というのは勿論来週の臨海学校のことである。
ただ束さんが何かを企む以上、俺が楽しめる保証はないのだが。
「そうだな、楽しめる内に楽しんでおくといい。
夜竹もそう思わないか?」
千冬さんに話題を振られてさゆかがようやく口を開く。
「そう、ですよね。
私もそう思っていたんですけど……。」
さゆかは地面を見たままゆっくりと答えた。
そんな様子を見て千冬さんは少し溜息をついた。
「……なあ幸逆。
あそこにソフトクリーム屋が見えるな。」
「ええ、見えますね。」
俺の前に千円札と500円玉が突き出される。
「ソフトクリームを楽しめるのも暑い内だ。
三人分買ってきてくれ。」
まあ奢ってくれるならいいか。
「分かりました。
味は何にしますか?」
「私はバニラだ。」
「さゆかは?」
「ああ、えっとじゃあバニラで。」
「OK、じゃあ買ってきます。」
ソフトクリーム屋はそこそこ繁盛しているらしく混んでいた。
俺は並んでいる間、手持無沙汰になった。
ふとさゆかと千冬さんの方を見ると、
二人でなにか話しているのが見えた。
そういえばあの二人が話しているのってあまり見たことないな。
授業中はともかくそれ以外でだ。
とはいっても千冬さんは熱心なファンを避けるためか、
あまり生徒と話すことはない。
だから不自然なことでもないけれど……。
「買ってきましたよ。
さっきは何話してたんですか?」
俺は千冬さんとさゆかにソフトクリームを渡しながら話しかける。
「別に大したことじゃない。
邪魔して悪かったな。」
そう言うと千冬さんは立ち上がった。
「食べてかないんですか?」
「ああ、待たせている奴が居るのでな。
道中食べながら待ち合わせ場所まで行くさ。」
「そうですか。」
「幸逆、
夜竹には言ったが、あまり深く考えるなよ。」
それだけを言うと千冬さんは行ってしまった。
俺はさゆかの隣に座る。
距離はさっきより少し近かった。
「じゃあここで。」
俺達は自室の前まで帰って来た。
「うん、じゃあね。」
さゆかがドアに手をかける。
「あっ、さゆか。
これ受け取ってくれないか。」
「なぁに、これ?」
俺が手渡したのは雑貨屋で買った熊のキーホルダーだ。
「なんというか、記念?
俺の分も色違いのやつ買ったからお揃いでどうかなっと。」
「……ん、ありがとう。
私大切にするね。」
さゆかは笑顔でそう返事をすると部屋に戻って行った。
今日一日で色々なさゆかの笑顔を見たけれど、
今の笑顔はそのどれとも似ていない寂しげなものだった。
お疲れ様でした。
たぶんブラックコーヒーは要らないデート回です。
一夏達と出会ってデート台無しにする誘惑に何度もかられたのですが、
そんなこともなく無事終わらせられました。
次回から臨海学校編に入ります。