箒「べつに。」
櫻「ふーん、まあいいんだけど。
そうだ、箒ちゃんに誕生日プレゼント。」
箒「これは?」
櫻「ロケットだよ。
ここに写真が入れられるようになってるんだ。」
箒「ありがとう。
だがこんなかわいいデザインのもの、私に似合うだろうか?」
櫻「大丈夫、一夏もメロメロだよ。」
箒「なっ、一夏は関係ないだろ。」
櫻「しー。そんなに大きな声出しちゃだめだよ。」
箒「す、すまない。」
櫻「箒ちゃん、それ気に入らないかな?」
箒「い、いやそんなことない。
うむ、好きだぞ。こういうデザインも。」
櫻「ならよかった。」
櫻「ねえ、箒ちゃん。」
箒「なんだ?」
櫻「何かを理由にして逃げちゃだめだよ。」
箒「……」
櫻「あっ、ご飯来たみたい。
おいしそうだねぇ。」
箒「あ、ああ。」
「紅侍が見つからない。」
さゆかは今にも泣きそうな顔で言った。
「夜竹さん、もう夕食の時間です。
一旦戻りましょう。
幸逆君だってすれ違っただけで旅館に戻っているかもしれません。」
山田先生も心配そうだが、さゆかを励まそうとしていた。
「確かにもう暗いし見逃したのかもしれない。」
紅侍は忘れ物をしたからといって海に行った後帰ってこなかった。
それで俺達三人で探すことになった。
「でも私達、声も出してたんだよ?」
さゆかは完全に不安な気持ちに囚われていた。
状況が状況なので無理もないかもしれないが。
「……分かりました。
織斑君は織斑先生に私達が幸逆君を探しているので
夕食に遅れることを伝えてください。」
「分かりました。」
「いいですか、夜竹さん。
そんな今にも泣きそうな顔をしていたら
せっかくの可愛い顔が台無しですよ。
……後十分だけ探して、それでも見つからなかったら
一緒に旅館に戻ってもらえますか?」
「……はい。」
さゆかは力なく頷いた。
時刻は七時半、夕食を摂るために皆大宴会場に集まっていた。
ただ一人紅侍を除いて……。
「一夏、紅侍のことが気になるの?」
右隣に座っていた浴衣姿のシャルが心配そうな様子で俺に尋ねてきた。
ここは座敷なので正座で座っている。
案外様になっているのはシャルの持前の器用さ故だろう。
「ああ、なんか別れた時様子が変だった気もするし。」
「幸逆さんが変なのはいつものことだと思いますが。」
左隣りのセシリアがなんだかきついことを言う。
「教官は何か言っていたか?」
こう言ったのは正面に座るラウラだ。
「いや、その内帰ってくるだろうって。
一応気にしておくとは言っていたけど。」
聞きに行った時、千冬姉の機嫌が悪そうだったからあまり強くは言えなかった。
海で会った時はわずかな自由時間を楽しんでいる様に見えたのだが。
「教官がそう言うのならそうなのだろう。
我が嫁ならどーんと構えろ、一夏。」
ラウラが胸を張った。
その姿が一瞬鈴とかぶった。
ラウラと鈴のどこがかぶったかは言ったら殺されるので言わないでおく。
でもどーんと構えろか……
確かにそうすべきかもしれない。
今最も不安なのはさゆかのはずだ。
そのさゆかだって今は我慢して明るい笑顔を作っている。
……さゆかの作り笑顔、久しぶりに見たな。
ここまで露骨な作り笑顔じゃなかったけど、
昔は紅侍によく作った笑顔を向けていたものだ。
「いやー、本当に旨かったな。」
……紅侍も食べれば良かったのにな。
いやだめだ、だめだ。
俺がしっかりしなければ。
「そうだね。美味しかったよ。」
シャルがにっこりと笑う。
少し作ったような笑顔に見えたのは
誤ってわさびを直接食べたことを思い出したのだろう。
「ええ、私も美味しかっ……た……ですわ。」
正座のダメージを引きずっているセシリアの表情もいまひとつである。
日本人でないセシリアが正座が辛いのは当たり前だ。
食事中、事あるごとにテーブル席に移るように言ったのに
結局セシリアは最後まで移動しなかった。
「日本人は素晴らしいな。
いざという時に備えて、生食を食べられるよう鍛えておくとは。」
何度言っても、ラウラのこの考えは訂正できなかった。
ちなみにラウラにとって正座は苦しくなかったらしい。
この程度、拷問の訓練に比べればなんともないそうだ。
ラウラの過去がちらっと顔を覗かせるとき、
今のラウラを見て俺は本当に良かったと思う。
露天風呂に入ってきたが、紅侍はまだ帰って来てなかった。
……
さすがに千冬姉にもう一度聞きに行かなければならない。
俺は隣の部屋の千冬姉の部屋をノックする。
「織斑先生、今大丈夫ですか?」
「織斑か、構わない。入れ。」
「失礼します。」
千冬姉は何か考え込む様子で窓の近くの椅子に腰掛けていた。
どこか遠い空を見ていたようにも見えた。
千冬姉以外には誰もいなかった。
「織斑先生、一人部屋なんですか?」
「いや、山田先生も同じ部屋だ。
だがさっき風呂に行ったばかりだから
しばらくは帰ってこないだろうな。」
なら二人きりなのか。
「千冬姉、紅侍のこと本当に知らないのか?」
「千冬姉って呼ぶってことは検討はついているのか、一夏。」
俺が千冬姉と呼んだのは家族として話したいからで……
ということは俺と千冬姉共通の知り合いの話をすることになる。
「やっぱり束さん関係なのか?」
「そうだ。
明日の日程は装備試験だ。
紅侍にはいつも束から武装を用意している。
だから借りて行っても問題ないというのが奴の主張だ。
といってもその話を聞いたのはついさっきだ。」
千冬姉は短い溜息をついた。
「千冬姉は本当に装備試験が目的だと思う?」
「違うだろうな。大体の目的も検討がついてる。
見つけ出して奴の目的を阻止したい所だが、
私もあいつばかりに構っていられないからな。」
「なら俺が……」
千冬姉は立ち上がり、俺を一睨みした。
「自惚れるなよ、一夏。
自分にできること、
それを見極められない様では何もできないのも同じだ。」
「だけど、できること、できないことを自分の中で決めていたら
それこそ何もできないんじゃないか。」
俺は思わず声を荒げてしまう。
千冬姉はそんな俺を見て微笑を浮かべる。
「大馬鹿者だな、お前は。
まあいい、そう思うならできることをやってみろ。
ただ、今のお前に紅侍を見つけることはできない。
それは確かだ。
今日は寝ておけ、明日に備えてな。」
「明日ってなんだよ?」
大馬鹿者というのは褒め言葉だと思うので嬉しかったが、
それよりも後半言ったことの方が気になった。
「明日になれば分かる。
それはそうと一夏、こうして久しぶりに二人なんだ。
あれ、やってくれないか。」
あの後、千冬姉にマッサージをしながら久しぶりに家族として何気ない会話をした。
なんだかはぐらかされたような気がしないでもない。
でも家族として話せたのは嬉しかった。
俺にとって千冬姉は姉であって、母で、唯一の家族だ。
改めてそう実感できた。
その晩俺は夢を見た。
夢の中の俺はベッドで寝ていて体は小さかった。
小学校に入る前ぐらいの俺だろう。
俺は眠っていたのだが、隣の部屋で聞こえた物音で目を覚ました。
そして足音が聞こえてきて、俺が寝ている部屋に近づいてくるのが分かった。
ドアが開かれる。
俺とその女の人の目が合う。
真っ直ぐな目をした人だと思った。
女の人は震えていた。
覚束ない足取りでゆっくりと俺に近づく。
そして俺を抱きしめた。
抱きしめてくれたその腕は震えていて、優しくて、温かくて……
俺はその人の愛を感じた、
見知らぬその人を心から信頼して、俺もその人を抱き返した。
女の人の目からは涙が流れていて、でも何か強い意志を持っていた。
合宿二日目、試験武装のデータ取りだ。
紅侍は一晩経っても帰ってこなかった。
「諸君、予め指定しておいた武装のテストを行うように。
それから専用機持ちはその専用武装のテストをするからこっちに来い。
それと篠ノ之、お前もだ。」
「はい。」
なんで箒が?
皆も不思議そうな顔をしている。
「お前には今日から」
千冬姉がそう言った時、
いつの間にか千冬さんの後ろから例のウサミミが現れた。
「専用機が与えられるんだよ。」
「……束、背後に立つな。」
千冬姉の容赦ないひじ打ちが束さんを襲う。
「ぐふっ、ちーちゃんの愛は相変わらずだなぁ。」
千冬姉の(おそらく)全力のひじ打ちを喰らって平気にしていられるのは束さんぐらいだろう。
「早く用件を言ってください。」
箒は冷たく言った。
「あー、ごめんね。
お姉ちゃん、ちーちゃんと箒ちゃんと久々に会って
テンション上がりすぎちゃったよ。てへぺろ」
「ですから早く用件を。」
「はいはーい、カモーン!」
束さんが空を指さす。
太陽の光を受けながら何か巨大なものが舞い降りる。
「これが、箒ちゃん専用機『
全スペックが全てのISより上回る束さんのお手製だよ。
早速フィッティングとパーソナライズやっちゃうからね。」
箒は頷くと、その紅椿とかいうISを纏う。
「箒ちゃんのストーキングもとい
身辺警護をして集めたデータが予め入れてあるから……」
空中投影のディスプレイとキーボードを巧みに操り、
物凄い速度でなにかを打ち込んでいる。
「カチャカチャ、ッターンってね。
はい、フィッティングしゅーりょー。」
皆ぽかーんとしていた。
それもそうだ、あっという間に事が進んでいってついていけてないのだろう。
「あっ、いっくん。
暇そうだね。暇なら束さんと遊んでよっ」
いつの間にか束さんは俺の頭の上に立っていた。
「ちょっと、どこに立ってるんですか!?」
「ふふーん、束さんは神出鬼没なのだよ。
あっ白式ちょっと見せて―。」
俺の頭から降りるとくるっと一回転してポーズを決める束さん。
フリーダムすぎる……
「どうぞ。」
俺は白式を纏う。
束さんはすかさず白式にコードを刺す。
「おっ、いいねぇ。
面白いよぉ、面白いよ、いっくん。
実に興味深いフラグメントマップだよ。」
フラグメントマップって確かISの発展経路だよな。
良く分からないけど、嬉しそうなのでまあいいか。
「そういえば束さん、俺ってどうしてISに乗れるんですか?」
束さんは満面の笑みで答える。
「教えてあげてもいいけど、知ったら後悔するよ。」
背筋がぞくっとした。
束さんの瞳は俺の事を見据えて離さなかった。
「教えたらいっくんがどんな顔するのかも興味あるといえばあるけど、
いっくんには英雄になってもらいたいからね。
そんなことはしないのだよ。」
束さんは嬉しそうにその場で一回転した。
「ハハハ……これならやれる!」
何てことだろうか。
束さんの言う通り紅椿次元が違った。
箒と紅椿をある者は羨望をもって見つめ、
ある者はただただ驚くばかりである。
その中で二人明らかに他とは異質な反応を見せた者がいた。
一人は櫻だ。
その表情は失望といった感じだった。
本当につまらないものを見るように箒を見ていた。
紅椿というよりは箒をだ。
といっても俺が見ているのに気付くとすぐ笑顔を作ったけれど。
もう一人は千冬姉だ。
千冬姉のその顔は見たことがあった。
……櫻を見るときに偶に見せる顔だ。
「織斑先生、大変です。」
紅椿に皆が見惚れているその空気を壊すように山田先生が走ってやってきた。
「……思ったより早かったな」
「織斑先生?」
「なんでもないさ、何の用だ?」
「そ、それが」
……一体何があったんだろうか?
お疲れ様でした。
以下謝らなければならないことになります。
もしかしたら気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、
タグの最低週一投稿を外しました。
ここ一ヶ月ぐらい忙しくなりそうで
週一投稿できるか怪しいのでやむを得ず外しました。
一度外してしまった以上はもう掲げることはできませんが、
8月でしっかり週一ペースで上げていたら書いていた話数分ぐらいは
上げられるようにしたいと思います。
ペースを上げたいと散々言っておきながらこの体たらくで申し訳ないです。