シャドウ   作:ゆばころッケ

63 / 64
鈴「一夏、競争よ。
  あそこの岩までどっちが速く泳げるか勝負よ!」

一夏「別にいいけど、三年前みたいに足つるなよ。」

鈴「……あんた、なんでそんなこと覚えてんのよ。」

一夏「そりゃ、鈴が居なかったとき、
   アルバム結構見てたしな。
   昔の事でも何回も思い返してれば覚えてるもんさ」

鈴「えっ……」

一夏「スキあり!」

鈴「あっ、ちょっと、待ちなさいよ―
  先にスタートするなんて卑怯よ!」



第五十二話 俺 不在 後編

 「しばらく待て。」

 

千冬姉は機嫌が悪そうにそう言い放つと黙って柱に寄りかかってしまった。

 

試験武装のテストをしようとしたら、箒が専用機持ちになって、

 

その専用機紅椿に驚いていたら、山田先生が慌てた様子でやって来て、

 

武装テストが中止になったと思ったら、専用機持ちだけ全員連れてこられて……

 

とまあ訳の分からない状況なので一言ぐらい説明が欲しい。

 

……そういえば紅侍以外の専用機持ちの中で簪さんがいないな。

 

「なぁ、櫻、簪さんが見当たらないんだけど。」

 

俺は隣に居た櫻に耳打ちする。

 

「ああ、あの子は休みだよ。

開発に専念したいから環境が整っている学園に留まることにしたんだって。」

 

櫻も耳打ちしながらひそひそ声で返事をする。

 

……いい匂いがした。

 

正直気恥ずかしくならなかったといったら嘘になる。

 

でもいつも通り櫻と俺の距離が変わる訳はない。

 

平行線なのだ。俺が何かを変えない限りは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。」

 

扉がガラっと開き、少し高い女性の声がした。

 

随分と間の抜けた声である。

 

声の主の方を見る。

 

その女性は軍服を着ていた。

 

髪は黒髪、長さは肩にかかる程度、

 

目は大きく、左目に泣き黒子があった。

 

その目を見ていると何か吸い込まれそうな気分になる。

 

「山田先生、紹介してやれ。」

 

千冬姉がこれまたぶっきらぼうに言った。

 

「は、はい。

この方は日本政府でISに関する助言をしなさっている

朱葉(あかば)(はるか)さんです。」

 

「はい、ご紹介に上がりました朱葉遥です。

よろしくお願いしますね、えーと……」

 

山田先生と組むとなんだか場の緊迫した雰囲気が一気に崩れる。

 

しかも朱葉さんの方が山田先生よりひどい。

 

「織斑一夏さん、篠ノ之箒さん、セシリア・オルコットさん、

凰鈴音さん、シャルロット・デュノアさん、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。」

 

「後さっちゃん、久しぶり。」

 

朱葉さんは少し腰を低めて櫻に向かって手を振った。

 

「お久しぶりです。遥さん。」

 

隣に居た櫻が頭を軽く下げる。

 

「織斑先生、どこまで御説明を?」

 

「なにもしていない。」

 

千冬姉は柱に寄りかかったまま目をつぶっていた。

 

まるで何も見たくないみたいに。

 

「あらあらそうでしたか……。

それで皆さん困った顔をなさっているんですね。

納得いきましたよ、私。」

 

一人で楽しそうに何度もうなずく。

 

「本当は一人一人とお話をして仲良くなりたいところですが、

時間もないので説明に入りたいと思います。」

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の

軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走してしまったそうです。

悪い子ですよね。」

 

本来は驚くべきことが述べられているのかもしれないが、

 

朱葉さんの口調のためか自然と内容がすーっと頭に入っていく。

 

それにしてもこの人、どこかで見た事がある気がする。

 

「それでですね、逃げ出した悪い子は日本に向かっていることが判明しました。」

 

場の雰囲気がここに来て緊張を取り戻した。

 

「ここにアメリカ、イスラエルの関係者がいないので複雑な気持ちですが、

日本を守るためにあなた方にも

この子の迎撃に協力していただたきたいというのが私からのお願いです。

下手したら三途の川を渡る、いえ天に召される……うーん……あっ!

死ぬことになる危険な任務です。

それでも協力して頂けるという方はこの場に残ってください。」

 

朱葉さんは頭を深々と下げた。

 

誰一人として立ち上がろうとする者はいなかった。

 

「御協力ありがとうございます。

では任務について御説明いたします。

銀の福音ちゃんは現在超音速飛行をしていまして、

まずその移動経路を捕捉し、予測経路の地点で迎え撃つことになります。」

 

「現在捕捉している経路はほぼ直進ですので、

予想が外れる事はないとは思いますが、

万が一この子が迂回するような経路をとった時の場合があなた方の出番です。」

 

「ということは本命の経路は私が?」

 

櫻が朱葉さんに聞く。

 

「はい、そうなりますね。

確かさっちゃんが最近高速移動に特化した

オートクチュールを開発しましたよね?

それを使って予想経路からのずれを一番カバーできるのがあなたですから。

では具体的な配置を今から示しますので……」

 

オートクチュール?

 

ああ、専用機用の換装装備だっけか。

 

空中ディスプレイが表示される。

 

「えーと、どのファイルに作戦のためのデータ入れたんでしたっけ?」

 

良く分からないが整理できない人らしい。

 

さっきから色々な画像が表示されるが、全く関係のないものばかりだ。

 

猫の写真やら食べ物の写真やら本当に訳が分からない。

 

「あっ、ありました。では説明に入ります。」

 

「こちらが銀の福音ちゃんですね。

それでこちらがスペックデータです。」

 

全身銀色で頭部から生えた一対の巨大な翼が印象的なISだ。

 

スペックデータのことはよく分からないが、

 

櫻と箒を除いた全員が難しい顔をしている。

 

よっぽど強いんだろうか。

 

「えーと、では次に地図映しますね。

この線が移動経路ですね。

この赤丸がさっちゃんの配置になります。

他の方はさっちゃんから左右に円状に距離をとりながら控えてもらうことになります。

それでさっちゃんの左右に配置する方がある意味最重要になるのですが……」

 

「織斑一夏さん、櫻の右、頼めますか?」

 

えっ?

 

「お、俺ですか?」

 

「はい、さっちゃん程の手練れになれば

銀の福音ちゃんも足を止めざるを得ないでしょう。

無防備に背中をさらして逃げ切れる程彼女は甘くないですから。

ですが、他の方となると正直まともにやり合うならともかく、

銀の福音ちゃんにとって逃げ切るだけなら容易でしょう。

ですから一撃で仕留められる力を持つあなたは適任なのです。」

 

「……お願いできますか?」

 

朱葉さんの目が俺を捉える。

 

俺が託されたことの重みは分からない。

 

でも俺は心底嬉しかった。

 

……櫻と同じ場所に立てる気がしたから。

 

「はい、俺にやらせてください。」

 

俺は勢いよく答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では次に左に配置する人ですが、高速移動できる人がいいですね。

簡単には逃げられそうにない、そう認識させられる人、それが一番です。

時間を稼げば他の方のヘルプを呼ぶことのできる可能性もありますから。」

 

すっとセシリアが手を挙げる。

 

「それならばイギリスから

強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られてきている私が。」

 

「そうでしたか、それは不幸中の幸いというべきでしょうか。

では後でストライク・ガンナーのスペックを見せていただいても?

それで配置の微調整をしますので。」

 

 

 

 

その時だった。

 

「ストップ、ストップ。

そんなやつよりここは紅椿を擁する箒ちゃんが適任なんだよ。」

 

束さんが天井を突き破って朱葉さんの前に飛び出た。

 

「あら?

しののんじゃないですか?来てたんですか?」

 

朱葉さんは少し笑みを浮かべる。

 

しののんという呼び方といい、この笑顔といい、

 

二人は仲いいんだろうか。

 

「うん、はーちゃんに会いに来たんだよ。」

 

「まぁ、嬉しい。」

 

二人が手を取り合って見つめ合う。

 

「って、違うよ、はーちゃん。

今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。

作戦たてなきゃでしょ、箒ちゃんをさっちゃんの左に配置するって話でしょ。」

 

おぉ、束さんがツッコミ役に回った。

 

「そういえばそういう話だったね。

うん、いいよ。しののんが言うなら間違いないもの。

じゃあセシリアさんには織斑一夏さんの更に右に位置してもらいましょう。

織斑一夏さん自体が速いわけではないですからね。

お二人ともそれでいいですか?」

 

箒は束さんの登場を嫌そうに見ていたが、

 

自分が重要なポジションにつけると分かると、悦に浸った表情を見せた。

 

箒は舞い上がっている、俺はそう思った。

 

「はい、いい感じです。

しののんが協力してくれるなら間違いないですから。

皆さんも安心してください。」

 

テンションが上がったのかやや早口になる。

 

それでも普通の人より遅いが。

 

「時間もないですし、他の方の配置も決めましょう。

篠ノ之箒さんの更に左は軍隊に所属している

ラウラさんにお願いします。冷静な判断で的確なサポートをお願いします。」

 

ラウラが黙って頷く。

 

「残るは凰鈴音さん、シャルロットさんですか。

確か凰鈴音さんはセシリアさんと組んだことがありましたよね。

ならセシリアさんの右に凰鈴音さんを配置しましょう。

ラウラさんの左はシャルロットさんでお願いします。」

 

二人は頷く。

 

「具体的な位置は皆さんのISのスペックデータを確認した後決めますので

後15分時間をください。」

 

朱葉さんは頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は15分後に再集合ということで一旦解散となった。

 

「なんか見たことがある気がするんだよなぁ。」

 

「どうしたの?一夏。」

 

軒先に出て座っていた俺の隣に櫻が座る。

 

「いやあの朱葉さんって人どこかで見たことある気がするんだ。」

 

櫻は俺の顔をまじまじ見てから少し笑った。

 

違和感を覚える笑顔だった。

 

でもそれは綺麗なものではなかった。

 

「あはは、それはそうだよ。

あの人は師匠と一夏のお母さんだって言われている人だもの。

最も身分証明書が『朱葉遥』の名でしっかりしたものがあるから

噂でしかないけど。

まあそんなの束さんの力でどうにでもできると思うけどね。」

 

「あの人が俺達の母親?」

 

ということは40歳以上はいっているのだろうが、そうは見えなかった。

 

「あれ?一夏怒るかなって思ったんだけど。」

 

「何に?」

 

「あの朱葉さんに。」

 

「そうだな。

確かに良い気持ちはしない。

でも俺にとって家族は千冬姉だけで両親なんていないようなものだから。」

 

だから赤の他人以上の感情は抱けなかった。

 

「そうなんだ。

そう割り切れるものなんだ。」

 

櫻は立ち上がり、空を見た。

 

どこか遠くを見るその目には何が映っているのだろう?

 

空は雲が少なく、どこまでも澄み渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

櫻はしばらく空を見ていたが、ふとこちらを振り向いた。

 

「一夏、私オートクチュールの最終確認してくるね。

元々今日テストするつもりだったからすぐにでも起動できるものなんだけど。」

 

「ああ、お互い頑張ろうな。」

 

「うん。

でもそれには及ばないよ。

私が撃墜するから。一夏には負担はかけないから。」

 

少し語気を強くして櫻は俺に言い放った。

 

その言葉は俺が櫻と同じ所に立つのを拒否しているように思えて俺は悲しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏。」

 

「箒か。」

 

俺はまだ軒先で座っていた。

 

風が涼しかったからそこに居たかったのだと思う。

 

「学年別トーナメントの前に私とした約束覚えているか?」

 

もし学年別トーナメントで箒が優勝したら箒と付き合うという約束のことだろう。

 

「覚えてるよ。箒が本気で言ったことを忘れる訳ないだろ。」

 

「学年別トーナメントはあんな形で終わってしまったから、

その……」

 

箒は口ごもっている。

 

俺はそんな箒を見て、もうはっきり言わなければならないと思った。

 

俺は箒を失いたくなくて返事を先延ばしにしてきた。

 

でもきっとそれは箒に失礼なことなんだ。

 

怖くても言わなければならない。

 

自分の中の弱い自分がこんなタイミングでは言うべきでないと言う。

 

俺はそれをつっ返した。そうだとしても言わなくてはいけないのだ。

 

「箒、本当は今言うべきことじゃないかもしれない。

だけど言わなくちゃいけないことだと思う。

箒の事はライバルだし、友達として大事に思っている。

ただ恋愛感情は一切ない。」

 

一気に言った。

 

怖くて仕方なかったから勢いで言った。

 

これでは箒が約束した時に勢いに任せていたのを責められないな。

 

俺は箒を見る。

 

箒はやっぱり泣いていた。

 

「そうか。

いやお前が私に恋愛感情を抱いていないのは分かっていた。

でもそれでも……告白してみれば変わるものもあるかと思ったんだが……」

 

「箒……」

 

「私は馬鹿だな。

告白されたからといって付き合うような男なら好きになるはずないのに。

でも私はもう待てなくなったんだ。

6年前中途半端な告白して、

四月にその話を掘り返してしまって……

トーナメント前に昔と同じような告白をすることで勇気を絞り出して……

またそれも有耶無耶になってしまった。」

 

「それで今日、専用機を手に入れたことで一夏に近づけたと思った。

同じIS学園にいるのに何かと疎遠なのを

全部専用機のせいにしてきたんだよ、私は。

だから今日、今日なら告白が上手く行く、そんな気がしたんだ。

ましてやこれから命を懸ける任務だ。

吊り橋効果とかいうやつも頭によぎってだな、それで……それで」

 

これ以上大切な箒が傷ついているのを見たくなかった。

 

「箒、もう時間だ。」

 

再集合まで一分前だった。

 

「そうか、少し遅れると伝えてくれないか。

大事な時に済まないな。」

 

「気にするな。俺も悪い。」

 

俺は箒をその場に置いて行った。

 

冷たい態度だったかもしれない。

 

でも昔、櫻に却って優しくするのはよくないと言われたのを思い出したから……。

 

いや違うか。

 

大切な人だからこそ慰めるにもどう慰めていいか分からなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒は3分遅れでやってきた。

 

その時は普段の箒に見えた。

 

あれが正しい判断だったのかは分からない。

 

でも今はそのことを考えるべきではない。

 

目の前の任務に集中しなくては……

 




お疲れ様でした。

またオリキャラですね。

たぶんもう出しません。

といっても亡国機業の設定は多少いじるので

そっちがオリキャラっぽくなると思います。






あと前回の話で紅椿を赤椿と間違えていました。

以後気をつけます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。