泉新一のいる実力至上主義の教室   作:salong

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水泳と噂

「浦上はまだ見つからんのか!」

 

そう言い放つのは北警察署の平間警部。彼は新一が住む地域の担当官としてパラサイト対策特命捜査を指揮していた。

 

「はい…まだ行方が掴めないのです」

 

「攻防戦の隙をつかれたのがまずかった…これもあのパラサイトのせいだ」

 

浦上は人間を斬殺することに快感を覚える殺人鬼であり、見ただけでパラサイトを判別する能力を持っている。その判別能力を見込まれ、捜査活動に利用されたのだが、東福山市役所の攻防戦の際に混乱に乗じ、監視役の若い刑事を銃器で殺害。その後は行方を眩まし、逃走中である。

 

「しかし平間警部、ここ最近ではパラサイトの動きらしきものは感じられなくなってきています。もしかするとあの攻防戦による効果が出ているのでは?」

 

「そうだとは限らん。我々が駆除したのはほんの一部にすぎない。全国的にもまだ見つかっていないものがいるはずだ」

 

「なるほど。確かにそうですね」

 

「それに数ヶ月前に山中で見つかった化け物の死体。恐らくだが何者かに殺されたのだと私は考えている」

 

「いっ、一体誰がやったんですか…?」

 

「分からん。少なくとも人間一人にどうこうできる相手ではない。それより、一刻も早く浦上を捕まえるんだ」

 

「はい」

 

 

(泉新一……まさかとは思うが…)

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

入学式から1週間以上が経過していた。学校生活にもだいぶ慣れてきた頃、今日は教室がやけに騒がしかった。と言うのも午後から水泳の授業が行われるからである。しかし、どうしてこんな時期から水泳があるのだろうか。ここはやはり普通の学校とはどこか違うみたいだ。

 

「泉!今日は待ちに待った水泳だぜ!」

 

上機嫌な橋本が発する。

 

「そうだな。でもどうしてこの時期から水泳があるんだ?」

 

「さぁな。細かいことはいいだろ。それより早く女子たちの水着姿を拝みたいぜ!」

 

「はは……」

 

そして昼休みが終わり、次はみんなが待ち侘びた水泳の授業だ。だけど俺はあまり乗り気じゃなかった。肌を露出したくないからだ。更衣室でみんな話をしている中、ひっそりと上半身を脱ぎ始める。

 

「おいおい泉、男のくせに何恥ずかしがってんだよ。早くぬ………」

 

服を脱ぐのが遅い俺を見た橋本が服に手をかけ、脱がせようとする。すると俺の体を見た橋本を始め、他の男子生徒たちは驚いた顔をしていた。

 

「わっ、悪りぃ……!」

 

「いや、そんなに気にしなくても……」

 

まぁこの胸の傷を見るとそうなるのも無理ないか。中学でもそうだったし。

 

「泉…もし何かあった時は教えてくれ。力になれるかは分からんが」

 

俺の肩に手を置き、そう発言する葛城。

 

「ありがとう。そう言ってくれるだけで嬉しいよ」

 

そして着替え終わった俺たちはプールサイドへ行った。すると目に入ってきたのは完全な屋内プールだった。その辺のプールなんかよりも大きい。名門校と言うこともあって金の掛け方も違うのかと思っていると女子たちがやって来た。だが、さっきの橋本たちと同じような反応をしている。

 

「い、泉…それ…どうしたの……」

 

「えっと…前にちょっと事故にあってさ」

 

「そうなの……」

 

いつもそっけない感じの神室だが、今回ばかりはそういうわけにもいかなかったみたいだ。胸の傷を見て動揺している。

 

「全員、揃っているな」

 

しばらくすると体育の先生がやって来た。いかにも体育会系らしいような見た目だ。

 

「今日は見学者は1人か…。早速だが、準備体操をしたら実力が見たい。泳いでもらうぞ。泳ぐのが苦手でも構わんが、克服はさせる。泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ、必ず、な(・・・・・・・・・・・・・)

 

必ず後で役に立つ…か。妙に引っかかる言い方だ。そこからは準備体操を終わらせ、軽く泳ぐ。全員泳げることがわかると先生は男女別50M自由形競争をすると言い出した。1位になった生徒には、特別ボーナスとして5000ポイントを支給するらしい。逆に最下位だった奴には補習が待っている。そして早速予選が始まる。

 

「にっ、23秒06だと…」

 

「「「「はっ、はぇぇっ!」」」」

 

周囲が驚きの声をあげている。

 

(もっと手を抜くべきだったな…)

 

「あんた、部活やってなかったんじゃないの?いくらなんでも早すぎるわよ」

 

「調子が良かっただけだよ」

 

そんな中視線を感じ、目を向けると見学している坂柳がこちらをじっと見つめていた。

 

(あの坂柳って子…さっきからずっとこっちを見てるな。何なんだ?)

 

その後は勝ち抜いた5人で決勝となり、予選と変わらず1位だった。

 

「すげーよ、泉!早すぎて全く追いつけなかったぜ!」

 

「その圧倒的な泳ぎ、俺も見習わねばならんな」

 

「そんなことないよ。みんなだって早かったじゃないか」

 

「あんたが早すぎるのよ」

 

「そ、そうかな」

 

こうして水泳の授業は終わり、競争は俺の優勝で幕を閉じた。約束通り、先生から特別ボーナスとして5000ポイントが支給された。

 

 

 

 

泉新一君…と言いましたか…彼は一体何者なんでしょう。自己紹介の時は普通の男子生徒だと思っていましたが今回の水泳の授業で大きく印象が変わりました。少し離れたところから見てもわかるほどの大きな胸の傷跡。最初は何かの手術の跡かと思いましたが、近づいた際に見てみると縫い合わせたというよりは溶接したような跡でした。何をすればあんな傷跡が出来てしまうのでしょうか。ですがそれよりも気になったのは彼の泳ぎの速さです。経験者でもない彼がなぜあのレベルなのか。それに顔を見る限り、まだ本気ではない筈です。彼のことを詳しく知る必要がありそうですね。

 

 

 

 

放課後、俺は橋本たちと一緒にケヤキモール内のゲームセンターに来ていた。少し前まではのんきに遊んでる暇なんかなかったので何だか新鮮な気持ちだ。

 

「泉上手いな。そんなにぴったり止めることが出来るなんてよ」

 

「こういうのは得意なんだ」

 

こんな風に動きが早いものは、目を凝らせばスローで見えてしまうからだ。だからどのタイミングで押せばいいのかも分かってしまう。そして一通り遊んだ後、カフェに向かった。中に入り、コーヒーを飲みながら談笑をしていると橋本がこんなことを話してくる。

 

「なぁ、お前ら知ってるか?今から話す噂のこと」

 

「噂って何だよ?」

 

「髪の毛だよ、髪の毛。化け物を見分ける方法で髪の毛を抜くんだよ」

 

俺はそれを聞いて即座に思い出した。寄生生物を唯一見分ける方法と言うことで一時期流行っていたことを。

 

「知っている。俺が住んでいた地域でもよく聞いた」

 

鬼頭が橋本にそう応える。

 

「そんなのただの噂だろ。それに化け物なんているわけないじゃないか」

 

「わかんねぇぜ〜。最近はあまり聞かねえけどよ、少し前まではミンチ殺人ってのが起こってたじゃねえか。あれこそ化け物がやったんじゃないかってネットとかにも書いてあっただろ。片っ端からやればもしかしたら化け物も案外簡単に見つかったりしてな」

 

 

 

「だめだ!!そんなことしちゃ!!」

 

 

 

気づけば俺は大きい声でそう叫んでいた。声に驚いた周囲が何事かと視線を向けていた。

 

「お、おい、いきなりどうしたんだよ…大声なんか出して」

 

「と、とにかく…ただの噂なんだからそういうことはあまり信じるなよ」

 

「何だよー。ノリ悪いなー」

 

橋本の言っている通り、髪の毛を抜けば化け物かどうか見分けることが出来る。しかしもし仮に偶然、人間に化けた寄生生物の髪を抜いてしまった時は…逃げる間もなく殺されてしまうだろう…

 

 

 

___________________

 

 

 

 

次の日の朝。教室に向かう途中、廊下でうずくまっている女性を見かける。

 

「うっぷ…昨日は飲みすぎたなぁ…」

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「あれ、君は確か…真嶋君とこの…」

 

うわっ…この人凄く酒臭いぞ。相当飲んでいたみたいだな。

 

「泉です。Aクラスの」

 

「あー!思い出したよ!君が泉新一君だったね!聞いたよ、水泳の授業でもの凄く早かったって!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

この人…確かBクラスの担任だったような…

 

「知ってるかもしれないけど、一応自己紹介するね!私は星之宮知恵(ほしのみやちえ)、Bクラスの担任をしてるの!」

 

「やっぱりそうでしたか。何度か見かけたことがあったんで。その、ところで体調は大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫、大丈夫。これくらい…」

 

全然大丈夫そうには見えないんだが…

 

「星之宮先生、おはようございます!」

 

すると先生に向けて明るい挨拶が飛んできた。そこにはピンク色の髪を伸ばした女子生徒がいた。

 

「あら一之瀬さん、おはよう!」

 

「先生、お酒臭くないですか?さては昨日沢山お酒飲みましたね!」

 

「仕方ないのよー!飲まなきゃやってられないし!」

 

「もー先生ってば。あれ、君は?」

 

「あー、えっと俺はAクラスの泉新一。先生が気分悪そうだったから心配してたんだ」

 

「そうだったんだ、ありがとう!私はBクラスの一之瀬帆波(いちのせほなみ)!よろしくね!」

 

後で聞いた話によると一之瀬はBクラスの中心人物らしい。明るくて社交的な性格からクラスメイトに限らず多くの同級生と幅広く交友関係を持っているそうだ。

 

「あ、もうこんな時間だ。それじゃあ、またね泉君!」

 

「ああ、またな」

 

俺は一之瀬と別れ、教室に向かった。

 

 

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