泉新一のいる実力至上主義の教室 作:salong
「警察からは、犯人がまだ敷地内に潜んでいる可能性があると聞いている。とにかく、全員不要な外出は控えることだな」
敷地内で行方不明者が出たと言う衝撃的なことを説明した後、茶柱先生は教室を後にした。
「行方不明者って…」
「犯人が敷地内にいるってまじかよ」
「こわーい」
生徒たちはさっきのことについて話し合っている。
「まさか行方不明者が出るとはね。やっと落ち着いてきたと言うのに」
「その言い方だと前にも何かあったのか?」
俺は15年間ホワイトルームにいたので外部のことは一切知らない。
「あなた知らないの?ミンチ殺人のことよ。テレビでも散々言ってたじゃない」
「あまりテレビは見ないんでな。それでそのミンチ殺人ってのは何なんだ?」
「数年前から起きていた殺人事件よ。その名の通り、死体がミンチにされているのよ。一部では化け物がやったって言ってるみたいだけど」
「化け物がやった…?」
「二人で何話してるの?」
堀北の話を聞いていると櫛田がすぐ近くに来ていた。
「堀北から前に起きていた殺人事件のことを聞いていたんだ」
「前に起きていた殺人事件?それってミンチ殺人のこと?」
「ああ」
「やっぱりそうなんだ。本当怖いよね。どうしてあんなことするんだろう」
すぐに俺たちが話していたことが分かる限り、相当知れ渡っている事件であるらしい。
「あー、あの事件か。やばいよな。人間じゃない化け物の仕業だって言ってるし」
「他にもどっかの中学で起きた事件とかもそう言われてるよな」
いつの間にか池と山内までこちらにいる。
「知ってる、知ってる。あれって生徒がやったことらしいじゃん。確か名前も分かってたよな。えーと……島田秀雄…だったっけ」
中学でもそんなことが起きていたのか。しかも生徒が犯人?とんでもないな。
「そういや、化け物を見分ける方法で髪の毛を抜くってのが噂になってたよな」
そう言って池の髪の毛を抜く山内。
「いって!山内、何勝手に人の髪の毛抜いてんだよ」
「悪ぃ悪ぃ。ちょっと試してみたくなったんだよ」
「所詮、ただの噂に過ぎないわ。私はそう言うのは一切信じてないから」
「ノリ悪りぃなー、堀北ちゃんは。でもよ、数打ち当たりゃそのうち化け物も見つけることが出来るんじゃねーか?もし、見つけたら俺が退治してやるぜ」
堀北はそのようなことをあまり信じるタイプじゃないからそう言われるのは当たり前だ。というか他人の髪の毛を誰彼構わず抜いていくなんて迷惑過ぎると思うぞ山内。それにしてもその化け物って一体何なんだ?
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時刻は夜の8時を回っていた。風呂から上がって髪を乾かした後、ベッドに倒れこんで仰向けになり、今日聞かされたことについて考えていた。
(仮にあいつらの仕業だったとしたら…いずれはどこかで…)
俺や宇田さんのように脳が生き残っていることが分かると危険と判断して襲いかかってくるかもしれない。母さんを殺した奴がそうだったように。もし、戦うことになったら俺一人でやるしかないんだ。でもそうなってしまった時は学校を、みんなを巻き込むわけにはいかない。最悪退学になろうが人が死ぬよりかはましだ。
そんなことを思って過ごしているとふと甘いものが飲みたくなってきたのでロビーにある自販機まで買いに行くことにした。エレベーターに乗り、1階に着いて降りると自販機の前に見覚えのある人物がいた。
「あれ、泉君?」
「一之瀬」
「泉君も飲み物買いに来たの?」
「うん。ちょっと考え事してたら喉が渇いちゃってさ」
「そうなんだ。ねぇ、今日のこと聞いたよね?行方不明者が出たって」
一之瀬も今日のことについて何やら思っているようだ。
「ああ。物騒だよな。しかも犯人がまだ敷地内にいるかもしれないって」
「怖いよね。前にももっと怖いことがあったのに」
「それって、ミンチ殺人のことか?」
「うん、最近は聞かなくなったけどね。それによくネットとかでは化け物がやったって言われてるから」
本当にその化け物がやったことなんだけどな。
「そうか。悲惨な事件だったからな。まぁ、そう言うのに巻き込まれないためにも先生が言ってたようにあまり不要な外出はしないようにするしかないよ」
「そうだね。それが一番だよね。そのうちきっと警察が犯人を捕まえてくれるよね」
「だといいな…」
やがて話が終わると、別れ際に一之瀬から連絡先を交換しようと言われた。俺が携帯を差し出すと一之瀬は慣れた手つきで操作し、すぐに返してきた。こんなことは交友関係が広いと慣れてしまうんだろう。連絡先の交換を終えると別れの挨拶を交わし、互いに部屋に戻っていった。
その頃、とあるバーで3人の教師が飲み合っていた。
「それにしてもこの敷地内で行方不明者が出るなんてね」
「全く、ミンチ殺人と言い、殺人犯と言い、そして今回の件と言い、世の中どうなっているんだ」
今回の件について言及する星之宮にそう応える茶柱。更にそれに加えて真嶋が発言する。
「それだけじゃありません。我々教師陣の中でも特に衝撃だったのがとある中学校で起きた校内大量斬殺事件。生徒や教師、警察官を含む犠牲者が出ていて、しかも犯人はたった一人の生徒。聞いた時は耳を疑いましたよ」
「あれは本当に酷い事件だったよね。しかも噂じゃ人間じゃなかったって聞いたし」
ワインを飲みながら応える星之宮。
「知恵、噂なんか当てにするな。ところで真嶋先生。その例の中学出身の生徒がAクラスに在籍しているようですが」
「泉新一のことですか。彼は学力自体は目立つ程ではありませんが、身体能力に関しては群を抜いています。その実力は今年の、いや、歴代の入学者の中でトップの成績を残してしまう程です」
「泉君かー。私、あの子かっこいいし結構気に入ってるんだよねー」
「泉新一…か」
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そして6月も最後の日を迎えていた。結局、行方不明者のことについては今のところ何も進展がない。あれが人間の仕業なのか寄生生物の仕業なのかは分からず仕舞いだ。
(まぁ、警察に任せるしかないよな…)
実際、このようなことは警察の仕事であり、高校生である俺が首を突っ込む必要はない。以前が異常過ぎたのもあるが。それに寄生生物は人間を食べなくても生きていくことが出来る。かつて田宮や島田がそう言っていた。普通の食べ物…人間と同じ食事を取ることで飢えを凌げる。確かに今は寄生生物による動きが見られない。それもみんな食生活そのものを変化させたからだと言うのか。本当にそうならいいんだが…
「泉、どうしたの。ボーッとしちゃって」
顎を手に乗せてそう考えていると神室からそう聞かれる。
「別に、何でもないさ。気にしないでくれ」
「ふーん。そう」
「おいおい、泉。せっかく真澄ちゃんが気にかけてくれてるんだぜ。少しは何か話してみたらどうだ」
俺たちの会話を聞いていた橋本がそう言ってきた。
「うるさいわね。あんたは関係ないでしょ。てか、気安く下の名前で呼ばないで」
「相変わらずつれないなぁ。でもそういうところがいいんだな」
「あっち行きなさいよ。気持ち悪い」
橋本は神室のことを大層気に入っているらしいが、一方の神室は橋本のことをあまり良く思っていないようだ。
「泉、さっきも言ったけど何かあったんなら話してみろよ。話すだけでも少しは楽になるぜ?」
「いや、本当に何もないんだ」
「そうか?ならいいけどよ」
こんなこと話してみても信じて貰えないだろう。それこそ実際に奴らを見てみないと。
「じゃあさ、今日放課後ゲーセン行かね?面白そうなの見つけたからよ」
「ごめん、今日は遠慮しとくよ」
「ったく、仕方ねぇな。じゃあまた今度な」
そう言って自分の席に戻っていく橋本。誘ってくれたのは嬉しいけど今はそんな気分じゃないんだ。まだ少し引っかかっていることもあるし。俺はそう思い、授業の準備をするのだった。
1年生編までは描きたいと思っています。