それから。
その日は、そのまま解散というのも伊藤さんに悪いので、少し遊んでいくことになった。
「というわけで、ゲーセンに来ました」
「イエーイ!」
先ほどまでの重圧から解放されたからか、伊藤さんもハイテンションだ。
ちなみにゲーセンとは名ばかりの、ショッピングセンターの一角である。
それでも十分大きいのだが。
「まずはワニ叩くやつでもやる?」
「いいねー、丁度何か叩きたかったんだよね~」
伊藤さんのワニワニ〇ニックの叩く音は、物凄く鈍い音に聞こえた。
これ相当むしゃくしゃしてますね。
誰のせいだよ。俺のせいです。はい。すみませんでした。
そして両手を使ってまで稼いだ俺のスコアは、片手のみで叩いた伊藤さんに大差を付けて負けた。
「くっ、次はエアホッケーだ!」
「良いけど、あたし強いよ?」
マジで強かった。
普通の男女なら、『くそ~』とか『負けないぞ~』とか言い合ってやるものなんだろうが、マジでそんなこと言ってる暇もなく圧倒的に負けた。
「伊藤さん、何でそんなに強いの……」
「あたしが強いっていうか、
やめてくれ。俺の自信をへし折るのは。
ちなみに藤倉というのは俺の苗字である。今更。
「だって、ズルしようとしてパック止めて横から打ってたら、そりゃゴールがら空きなんだから負けるでしょ普通」
「ぐっ……」
「次は何やる? あそこにパンチングマシーンとかもあるけど」
「太鼓の〇人やろうか!」
「負けるのが怖くなったんだ……」
見ないでくれ。こんな情けない俺を見ないでくれ。
「やっぱりゲームは協力するに限るね!」
「……もしかしてだけど、藤倉くんってゲーム下手?」
「い、いや、そんなわけないじゃん」
「だって、今のもあたしがノルマ達成出来てなかったら終わってたよ?」
「……音ゲーってあんまりやったことないんだよ」
普段、家でRPGやらアクションやらばっかりやってるから、いざ音ゲーとなると身体が反応出来ない。
言い訳じゃないぞ。断じて。
「じゃあ次は……。あ、そうだ。プリクラでも撮る?」
ニヤニヤしながら伊藤さんが言ってくる。
ぷ、プリクラ!?
そんなの今まで撮ったこともないぞ!?
「い、いや、それはちょっと……」
「いいからいいから、行こ!」
「ちょっ、引っ張ら……力強っ! 待っ……」
そこからはあっさりだった。
金を入れて、撮って、落書きしたらプリントされた写真が出てきた。
俺のプリクラ童貞が。そんなもんはいらんが。
「はい、あげる」
「え、全部? 折角撮ったのにいらないのか?」
「ちゃんと貰ったよ。ほら」
見ると、スマホケースにプリクラが貼られていた。
「お、おお……。ていうかこれ、俺盛られすぎじゃない? 目がでかすぎてエイリアンみたいになってるんだけど……」
「いいじゃん、面白いし。それより藤倉くんもスマホケースに貼ろうよ」
「えっ!? いや、俺は良いよ! マジで!」
誤解されちゃうから!
ていうか俺自身が今誤解しちゃうから!
伊藤さんって俺に気があるのかな? とか今まさに思っちゃってるから!
「えー? 別にいいけどさぁ……」
露骨にガッカリしないで!
マジで意識しちゃうから!
「じゃ、じゃあ最後にUFOキャッチャーでもして帰ろうか! 伊藤さん、何か欲しいものある!? 取ってあげるよ!」
「えー? 取れる? あたしよりゲーム下手なのに?」
「UFOキャッチャーなら大丈夫だから! 俺を信じて!」
「そう? じゃあ……この犬のぬいぐるみ」
「よしきた!」
ちなみに、UFOキャッチャーも今までほとんどやったことがない。
のだが、奇跡というものは起きるもので。
アームに上手い具合に引っかかり、一発で取れてしまった。
「おおー! すごいすごい!」
「っしゃ、見たか!」
「本当にこれは得意なんだね~!」
「じゃ、はいこれ。プレゼント。大事にしてくれよな!」
「うん、大事にする」
本当に大事そうにぎゅっと抱きしめる伊藤さん。
おいやめろ。ほんの冗談で言っただけなのに。惚れちまうだろ。
「ていうかさ」
「ん?」
「小林くんと小西さんより、あたしたちの方がずっとカップルっぽいことしてない?」
たしかに。
何でメインより俺らの方がイチャイチャしてるんだ。
考えていたらまた気分が沈んできた。
「はぁ……。明日から、あの二人をどうくっつけるか考え直さないとなぁ……」
「そ、それよりさ」
「ん?」
「あたしたち……付き合ってみない?」
「へぇっ!?」
「ほ、ほら、その方がアドバイスとかもしやすくなるだろうしさ。今日みたいな事態が起きても何とかなるかもだし」
設定ではなく、マジで付き合うってことですか。本気ですか。
とはいえ。
伊藤さんの言ってることは確かにその通りかもしれない。
俺たちが本当に付き合うことで、助言もしやすくなるしアクシデントが起きても対処がしやすいだろう。
それに……。
俺自身、伊藤さんに魅力を感じていないかと言えば噓になる。
だったら。
「……わ、分かった。じゃあ、付き合おうか」
こうして、俺と伊藤さんは付き合うことになった。
あの二人を差し置いて。