ありふれない紅き閃光   作:銀翼

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本編が思い浮かばないので番外編です。


番外編
愛ゆえに


21〷年

 

人間と人間に限りなく近い思考、判断能力を持つロボット、レプリロイドが共存する未来の世界。

 

限りなく人間に近いが故に、レプリロイドは時に人間に逆らい犯罪を犯す事もある。そういった危険思想を持ったレプリロイドを人間はイレギュラーと呼び恐れた。

 

そのイレギュラーと呼ばれるレプリロイドを取り締まるレプリロイドによる警察機構、イレギュラーハンター。そして大規模な災害などに迅速に対応する事が出来るレプリロイドだけの軍隊、レプリフォースが結成、組織される事になった。

 

その世界の中での一幕。

 

時は、優秀な科学者レプリロイドDr,ドップラーが突如としてイレギュラー化して起こした反乱、イレギュラー戦争第三の戦役、ドップラーの反乱とそのすぐ後に起こったレプリロイドのDNAソウルが奪われ、二度と動く事が出来ない冷たい鉄屑となる現象「イレイズ」事件のすぐ後にまで遡る――。

 

イレギュラーハンター第17精鋭部隊ハンターベース

 

イレギュラーハンターの中でも総本部とも言えるハンターベースの隊長室。その己のオフィスで隊長のエックスが届いてきた通信で対話していた。

 

「そうか……。それでゼロがあんなに……」

 

『はい。正直、あれほど激怒している隊長は初めて見ました……。表情はそこまで変わってませんでしたが、雰囲気だけでそれがすぐに解る程に』

 

エックスが対話している相手はスズメバチ型のレプリロイド。

 

親友であるゼロが所属し隊長として率いている通称忍び部隊である第0特殊部隊の副官、影の飛忍の異名を持つエクスプローズ・ホーネックだ。

 

ドップラーの反乱前、ドップラーが指導し建設していた平和都市ドッペルタウンにゼロが招待されていたが当時のゼロは極めて多忙だった為にゼロの名代としてホーネックがやってきた所にイレギュラー化してしまった。

 

ドップラーの反乱時、ゼロは後方支援に徹していた為にエックスが彼を止めたが、その後は招待されていた多くのレプリロイド達と共にシティアーベンにあるレプリロイド修理センターに運ばれてボディを再生してもらい、再びゼロの副官として復帰した経歴を持つ。

 

因みにイレイズ事件の際、レプリロイド研究所がある南洋の島ラグズランドにて8体のガーディアンとして同型のレプリロイドがエックスとゼロの前に立ちはだかるが、あれは全くの別個体だ。

 

彼がエックスに話していた内容だが、つい先ほどにあった任務の事だ。

 

とある人間の大富豪が己の豪邸で社交界の面々でパーティを行っていた中で、一体の執事レプリロイドが突如としてイレギュラー化。

 

会場や豪邸が大混乱に陥る中で、ゼロ率いる第0特殊部隊が別任務を終えて己のハンターベースに帰還する場所が一番近いとの事で急ぎゼロに連絡が入った。

 

ホーネックと同じくイレギュラーハンター第0特殊部隊に原隊復帰したマグネ・ヒャクレッガーが誰にも気付かれない様に豪邸に侵入し状況を確認した後に、ホーネックが己の蜂型メカニロイド、ボムビーを用いて窓ガラスと壁を破壊。そこをゼロ率いる第0特殊部隊の面々が迅速に突入。ホーネックやヒャクレッガーを始めとした隊員レプリロイドが他の執事やメイドレプリロイド、社交界の人間達を守護している間にゼロはそのイレギュラー化した執事レプリロイドにゼットセイバーを一閃。

 

結果として無事に任務を遂行し完了する事が出来た。

 

その後にハンターベースに帰還しようとした時だった。

 

豪邸の主である人間や社交界の人間達から感謝の言葉も無く、代わりに出てきたのが罵詈雑言だった。

 

やれ自分の豪邸を破壊した責任を取れ、やれ食器の弁償をしろ、やれドレスや服が汚れた、やれ最高級の食材が全部パーになった、やれ突入の時間が遅い……。

 

奥で他の執事やメイドのレプリロイド達が申し訳なさそうにしているのを尻目に、その人間達はゼロ率いる第0特殊部隊隊員達を(なじ)り、(そし)る……。

 

余りにも続く罵詈雑言に我慢が出来なくなったヒャクレッガーが人間達に反論しようとした時、他ならぬ隊長のゼロが、オフにしたゼットセイバーの柄を握ったままの右手で制して止めた。

 

そして、隊員達に告げた。

 

『……任務終了。撤収だ』

 

先頭に立って背中を向けるゼロ人間達はまだ何か(なじ)ってきたが、もうそれは聞こえないフリをしていた。

 

「それで、ゼロは?」

 

『訓練施設で身体を動かしています。しかし、まるで八つ当たりです。気持ちは分かりますが、誰の言葉も耳を貸しませんし正直もう見てられませんよ……』

 

第0特殊部隊の訓練施設は数あるイレギュラーハンターの訓練施設の中でも屈指の難易度であるが、ゼロは人間達に当たるのでは無くそっち方面でぶつけている。

 

「解った。後は僕に任せて」

 

『大丈夫ですか?正直今の隊長を止めるのはかなり難しいと思いますが……』

 

「大丈夫。任せて」

 

『はぁ、畏まりました』

 

ホーネックは何なのか?と言いたげに通信を切り、通信用モニターが切れて画面が黒くなる。

 

「さてと、彼女の言葉なら聞くだろうし、今は彼女は大丈夫かな……」

 

ホーネックの前に言った手前、これはエックスにとっても賭けに等しいがもうこれしか無い。エックスはとある人物のアドレスを押した。

 

 

 

 

 

 

 

それから少し時間が経過して、ゼロが率いる第0特殊部隊ハンターベース。

 

「……」

 

訓練施設で難易度が最も難しい設定で何度も何度も八つ当たりを繰り返していたゼロだったが、今はもうそれを止めてハンターベースにある己のオフィスで、照明のスイッチを切ってネオンに輝くシティーアーベンを見ていた。

 

というのも、八つ当たりを繰り返していても、心の中もモヤモヤとしたモノは一向に晴れない。それ所かそのモヤモヤは八つ当たりを繰り返す度にどんどん大きくなっていっている。

 

それに気付いて八つ当たり等を繰り返しても時間の無駄でしかないと悟ったゼロは、訓練施設から出てここにいる。

 

窓から見える満月も星空も輝くネオンも人間と一般レプリロイドの営みも、何もかも今のゼロの視界では色を失いグレーに見えている。

 

人間とレプリロイドの共存……。親友と共に願っていた夢は、視界に見える景色と同じように色を失いかけている。

 

元々、シグマが初めて人間達に牙を向けた時も、人間は何も出来ずただ右往左往する事しか出来なかった。

 

その後に起こった第二次シグマの反乱も、イレギュラーハンターのハンターベースにあるマザーコンピューターが不正にアクセスされて世界が大混乱に陥ったサイバーミッション事件も、ドップラーの反乱も、イレイズ事件も、何もかも人間達は自分達レプリロイドに全て丸投げしてただ縮こまっているしか出来なかった。

 

「……くそ」

 

拳を握る握力が強まる。かつて同じ夢を見ていた仲間をもこの手で葬った事がある。それも一回のみならず何回も。

 

それもいつか訪れるであろう平和な未来、人間とレプリロイドの共存の為と言い聞かせるように繰り返してきた。だが、今回の人間達の態度はゼロの精神(ココロ)に深い亀裂を刻んだ。

 

人と機械の共存など、所詮は壮大な夢物語なのでは無いだろうか――。

 

そう思いかけたが、ゼロはそれを自覚するとその言葉を真っ先に切り捨てる。

 

この言葉は、親友とレプリロイドを開発したケイン博士をこの上なく侮辱する言葉だ。そんな言葉を吐くものなら自分はあの人間達とそんなに変わることは無いのだろうか。

 

正直このままでは、いつまた来るか解らない任務に支障を来すかも知れない。

 

このままでは休めるかどうかも解らない。そう思いゼロはオフィスから己のカプセルベッドのある自室に帰ろうと身を翻した時だった。

 

突如として扉が来客を知らせるブザーを鳴らした。

 

『隊長。お客様です』

 

外から聞こえる副官、ホーネックの声。しかしこの深夜とも言える時間帯に客人とは何なのだろうか。

 

追い返す程に覇気も気力は湧かない。適当に話して切り上げると判断した。

 

「解った。開ける」

 

言って扉の開閉スイッチを押すとそこにいたのは、副官のホーネックと共に一人の少女レプリロイドだった。可愛らしい赤の帽子型ヘッドギアを装着し、艶やかな茶髪を膝辺りまで伸ばし、それを一纏めにしている。白と赤、青のトリコロールを基調としたボディ。

 

目つきは大きく丸っこく、瞳の色は優し気な緑色。

 

レプリフォースのオペレーターを務めている女性レプリロイド。アイリスだった。

 

「では、私はこれにて」

 

一礼してホーネックはその場から去っていくと、ゼロはアイリスに尋ねた。

 

「お前、カーネルは良いのか?この時間帯に男の部屋に行くというのはいくらカーネルでも許さんだろう」

 

「エックスからの通信を受けた後に兄さんにも尋ねてみたわ。そしたら兄さんもその噂を聞いてたらしく『アイツを殴ってでも立ち直らせろ』って太鼓判を押してくれたの」

 

「……」

 

そんなので良いのか?とゼロは思ったが、レプリフォース総司令官ジェネラルの右腕的存在のカーネルからのお墨付きを貰ってるのならば、それに乗っかるまでだ。

 

「……入れ」

 

「へ?あ、うん」

 

兄からのお墨付きを貰ったとは言え、深夜の男性の部屋に入るなんて人間なら如何わしい事を想像するだろうが生憎二人はレプリロイドだ。そんな事は無い。

 

ゼロから招かれたアイリスは顔を赤くしながらも、中に入る。

 

そういえば、ここは照明が点いていないので光源と言えば月明りと彩り豊かなネオンの光しかない。

 

ゼロは照明のスイッチに手を伸ばす。

 

「あ、良いの。ゼロ。このままで話しましょ?」

 

「……」

 

そのスイッチに伸ばした手をアイリスが握り、ゼロの行動を制するとそのままスイッチから手を離すと二人は各々窓の近くで夜景を見る。

 

もし二人が人間でここがお洒落なバーならば、かなりいい雰囲気なのだが二人はレプリロイドだ。

 

彩り豊かな夜景と柔らかな月光が窓ガラス越しから二人の身体を照らす。

 

「ゼロ……。貴方が気に病む必要は無いわ。でも……」

 

そこでアイリスはゼロの方に目線を向ける。宗教は現代に比べて稀薄になってしまったが、例えるならば全てを優しく包み込む聖女のような優しい目線と微笑みだ。

 

「今心に溜め込んでるモノ、全部吐き出して。エックスにも言えないような事、全部言って」

 

親友であるエックスにも隠し事はしてないが、アイリスには全て見透かされているようだ。叶わんな、とゼロは苦笑を浮かべながら、心の内を明かす。

 

「人間とレプリロイドは本当に心の奥底から信じあい、共存し合えるのかに足る存在なのか?」

 

「……」

 

「これまで人間とレプリロイドの心の奥底からの共存の未来という同じ夢を語り合った友をこの手で葬った事はある。一度ならずに何度も、それも数えることが億劫になる程に」

 

一度零した思い(ホンネ)は、堰を切ったように溢れ出し、アイリスはその本音を真っ向から受け止める。

 

「だが、あの人間達の顔や声を思い出すと、その夢は本当に正しい事で俺達が間違っているだけなのかと思う。俺達をただの機械人形と蔑む奴らの為に、何故俺達レプリロイドが殺し合わなければならないのか。あれ程鮮明なビジョンを以て語り合った夢は、もう今は霧にかかってるように靄が掛かっているように見える。俺は正直解らないし、この上なく憎い。俺達レプリロイドを機械人形と蔑んだ奴等、何より今その仲間達の夢を誇大妄想に過ぎないのかと蔑んでいる俺自身に……」

 

ゼロの本音。エックスのように深く悩み誰もが思い付かない答えを見出す事から最も遠く離れているが故に、本音を漏らす相手がいない。エックスは悩みに悩み、苦しみに苦しんで出した答えに対して一切ブレない。

 

まだこの時のゼロは知らないが、遥かなる未来の時の中で、たった一人で途方もないイレギュラーと戦う事になった時も、おそらく同じ思いだったのかも知れない。その結果が己の心を死なせる事も――。

 

ゼロが己の心の内を全て明かした後、アイリスが声を出した。

 

「ね。ゼロ。こっち向いて」

 

「?」

 

アイリスに誘われるままに、ゼロは身体をアイリスの方に向ける。そしてその瞬間、ゼロの身体は柔らかく、温かな何かに包まれた。

 

胸元を見てみるとアイリスの赤い帽子を被った頭が見える。

 

最初は何が何なのか解らなかったが、ゼロは少しずつ理解をしていく。アイリスに抱き締められたのだ。冷たい鋼の身体の感触では無い、柔らかくて温かな感触はさっきまでの冷たくドロドロとした思いは浄化されていく気がする。

 

「ゼロ、力抜いて。少しずつで良いから」

 

アイリスからの言葉が、ゼロの身体の奥深くまで入り込んでいく。硬直していた身体から硬さが取れていき、自然な形のままでアイリスの身体を抱き締めていた。

 

「……この方法はね。兄さんが教えてくれたの」

 

「カーネルが?」

 

「うん。「イレイズ」事件でイレギュラーハンターに研修に行く前、本当は怖くて堪らなかった。そこで兄さんにどうすれば良いのって相談してみたら兄さんが同じことをしてくれたの。そして言ってくれたの。『お前に出来る全てを発揮すれば、必ずゼロとエックスの助けになれる。自分を信じろ』」

 

レプリフォースからイレギュラーハンターにオペレーターとしてやってくるだけでも勝手が解らないのに世界中で問題になっている現象の渦中に行くのだ。

 

それこそプレッシャーに圧し潰されてもおかしくない状況の中でアイリスは己の務めを全うしてみせた。後に二人から「彼女がいなければ事態はもっと長期化して、被害は深刻化していたかも知れない」との事を貰った。

 

「武骨なカーネルがそんなおまじないをな……」

 

想像してみると、武骨で融通の利かないレプリフォース陸軍士官のカーネルがそういう事をするのははっきり言ってギャップがあり過ぎて笑えて来る。

 

「エックスのようにずっと貴方の傍らにいる事は出来ない。でも、せめて私の思いだけでも貴方の傍にいさせて」

 

「アイリス……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

戦場を疾駆する赤い閃光は一瞬たりとも止まる事は無く、閃く剣閃は淀みを知らず、放たれる銃弾は目標を過たず撃ち抜いていく。

 

誰が何を言おうとも、自分が信じるモノの為に戦う。英雄?破壊神?そんなものは知らないし他人に言わせてやれば良い。

 

ココロの中、そこに一点の迷いも曇りも、何もない。あるのは目指すべき未来の形。まだ朧気ではっきりとは見えないが、己の戦い如何で輪郭が解るようになってくるのならば。

 

「愛って奴だな」

 

「偉大なもんだな」

 

任務の現場で、ゼロが撤収命令を出す姿をホーネックとヒャクレッガーが並んで、ゼロに温かな目線をやっていた。

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