ありふれない紅き閃光   作:銀翼

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じ、自信ねぇ……。


再臨

ベヒモス

 

その名を持つ魔物は、このオルクス大迷宮第65階層に生息している魔物で、100年前の当時最強と言われた冒険者達ですら歯が立たなかったとも言われている。それが今目の前で存在感を示している。

 

このハイリヒ王国騎士団を率いるメルドが硬直しているのだから、その強さが如何程なのかが解る。

 

「……、■■■■ーーーーッッッ!!」

 

大きく息を吸いこみ、そして身体を仰け反らせて大きく咆哮。それによってメルドは気を取り直した。

 

「ッ、アラン!皆を率いてトラウムソルジャーを迎撃して退路を開け!カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ!全力で食い止めるぞ!光輝、お前は皆を率いて階段へ行け!」

 

「待って下さい!あれが明らかに一番ヤバい奴でしょう!メルドさん達だけに……」

 

「わがままを言うな!あれはお前等にはまだ早い!お前達を死なせる訳にはいかん!」

 

「しかし……っ!」

 

鬼気迫るメルドに尚を食い下がる光輝。それを尻目に、零は行動に移る。

 

――あのトラウムソルジャーは数こそ多いけど、攻撃力防御力はかなり低いよ。いつも通りの力を出せば勝てるよ!

 

(了解した)

 

クラスメイト達が冷静さを欠き、混乱の坩堝と化している中で、零は冷静さを崩さない。

 

腰の長剣を抜剣すると、すかさず一体のトラウムソルジャーに対して斬りかかる。

 

「■ッ!?」

 

洗練されて鋭く、そしてそれでいて重量がある斬撃を受けて、そのトラウムソルジャーは死骸に変わっていった。

 

次のトラウムソルジャーを狙い、更に零はその中を駆けて斬りかかり、そのトラウムソルジャーの数を徐々に減らしていく。

 

「皆、零を見習え!奴等は第38階層の魔物のトラウムソルジャーだが、冷静になれば勝てる!!訓練を思い出せ!!」

 

皆を指揮しているアランが檄を飛ばすが、パニックに陥った生徒達の絶叫や悲鳴が部屋に反響している為か声が届きにくくそれも効果が薄い。

 

「きゃあ!」

 

その混乱の中で、パニックに陥っている生徒に園部優花が倒れてしまう。しかしその眼前には剣を振りかぶったトラウムソルジャーがいた。

 

「あ……」

 

振りかぶっている剣が振り下ろされていく光景が何だか物凄くスローモーションに見える。しかし、突如としてそのトラウムソルジャーは急激な斜面と化した地面によって周囲に集まっていたトラウムソルジャー諸共奈落の底に落としていった。斜面はすぐに元の地面に戻る。こういう芸当が出来るのは、錬成師たる彼しかいない。

 

「大丈夫?」

 

「な、南雲……。うん、大丈夫だよ!」

 

――ハジメ、やるね。この状況でも冷静さを忘れてない

 

(あぁ)

 

ハジメの行動に感嘆の声を上げる零とクロワールだが、その間にも手を緩めない。

 

優花を斬ろうとしたトラウムソルジャーは周囲の同胞も纏めてハジメの錬成で叩き落されていく。零の方は一体ずつではあるが確実に、堅実に屠っていく。零とハジメの行動はピンチに陥った生徒達を鼓舞していく。

 

「皆巌人と南雲を見習って!冷静なら勝てる!」

 

その零とハジメの行動で次第に落ち着きを取り戻していった生徒達はいつも通りの訓練を思い出していき、隊列を整えてトラウムソルジャーを徐々に押していき、戦線を押し戻していく。

 

だが、後一手足りない。必要なのは皆を率いるカリスマ性と一点突破に長けた技を持つ者。

 

頼るのは身の毛もよだつ程に嫌な相手だが、最善の手がこれしか思い浮かばない。

 

――気持ち解るよ。ものすっっごい癪だけど、仕方ないよね。我慢するしか無いよね……

 

同化しているクロワールが嫌な気持ちを一切隠す事無く零に進言する。だが状況が状況だ。我慢するしか無い。

 

零は後方から身を翻して最前線の方、メルド達や光輝達がいる方向に向かっていった。

 

「チィッ……!もう保たない……!光輝、我儘ばかり言わずに引け!命令だ!」

 

「嫌です!その命令は聞けません!」

 

駄々を捏ねてばかりの光輝に業を煮やしたメルドだったが、思いもしなかった人物達がやって来た事でその勢いは削がれた。

 

天之河光輝が忌み嫌う人物の一人である巌人零だ。

 

「いつまで駄々を捏ねてるつもりだ」

 

「い、巌人!?」

 

突如としてやってきた人物にその場にいた者達が目を剥くが、零はお構いなしだ。だがこういう危機的状況にあっても冷静さを崩さぬ零の姿勢は助かった。

 

「零、皆の方は」

 

「後方の戦線は俺とハジメで少しずつ押し戻す事が出来ているが、階段に行くには後一手足りない。突破するにはメルドや天之河、雫と龍太郎が必要だ」

 

「……そうか。聞いての通りだ。光輝、強大な敵を倒す事だけが進む事じゃない。皆で生き残る事も重要だ」

 

先程まで怒鳴っていたメルドだったが、零の行動と言動、姿勢によって己を取り戻して先程とは違う、諭すように光輝に言う。

 

零が言っているだけだったら如何に正論であっても確実に反論、または大反対するだろうが、そこにメルドが加わったら多勢に無勢。もう一々反論する事が許されなくなった。

 

「~~~~ッ!!解った!すぐにあっちに――」

 

「ッ!?下がれェェーーーーッ!!」

 

危機的な信号を感じ取ったメルドが、退避の号令を下したそのすぐ後、ガラスが割れる音と同時に障壁が粉々に砕け散った。

 

「■■■■ーーーッ!!」

 

砕け散った障壁が消滅していく中で、ベヒモスが大きく咆哮した。耳をつんざく咆哮とそれに伴われる衝撃波が襲い掛かるが、零がベヒモスの真正面に立って剣を地面に突き立てながら耐える。だがメルドと三人の騎士団員、光輝と龍太郎はその衝撃波によって吹き飛ばされてしまった。

 

後者の二人はすぐに起き上がったが前者の四人はもろに受けてしまった為に呻き声を上げていて今すぐには起きられない状況になっている。

 

「……俺がコイツを足止めする。行け」

 

「れ、零!?いくら零でもあんな奴無茶よ!!それに、零の剣が……!」

 

零の言葉を聞いた雫が止めに入る。確かに、零の剣はアーティファクトの類には入らない、それこそ数打ち物(量産型)の剣だ。それに先程に数多くのトラウムソルジャーを斬り伏せて来た事で刀身全体が刃毀れを起し亀裂が刻まれている。こんな剣でベヒモスと戦うのは自殺行為に等しい。

 

零は流し目で雫の方を見る。もう反論は許さない、という意思を眼光に込めて。

 

「死ぬつもりは無い。早く行け」

 

「……その言葉、信じてるからッ!」

 

「■■■■ッ!」

 

鋭い眼光と圧力に雫はその身を翻していったが、ベヒモスはタイミングを見計らったかのように角が熱を帯びて赤く輝き出す。しかしその隙を逃すほど甘くはない。

 

「はっ!」

 

その角のうちの一本、左方向の角を角の根本目掛けて剣を一閃。最も斬れる点を最も斬れやすい線に沿わせる様に振るわれたその剣閃は、強固な筈のベヒモスの角を斬り落とした。

 

「■■■■ッ!?」

 

矮小な人間ごときに角を叩き落される事に驚いたのか、ベヒモスは驚愕して一旦下がる。だが――

 

――パキンッカランカラン

 

幾ら斬り落としたとは言っても、零の剣はトラウムソルジャーを何体も斬り伏せて来た事で元々から深いダメージを負っていた。そして今度のベヒモスを角を斬り落とした時に刀身の半ばから真っ二つに折れてしまった。

 

「……」

 

「■■■ッ!」

 

忌々しい人間の武器が無くなった事を理解したのか、ベヒモスは口元を笑みを浮かべるように歪ませて突進をしてくる。だが零は甘くない。横っ飛びでその突進を躱すと折れた剣を逆手に持ち、そのままベヒモスの眼に柄も通らんばかりに思いっきり突き立てたのだ。

 

「■■■■■ーーーーーッ!?」

 

迸る血潮と目に走った無窮に続く痛みと視界の半分が失われた事でベヒモスは後退し、目に突き刺さった剣を抜こうと頭部を左右に大きく振っていく。その時に零の背後に誰かが近付いてきた。

 

「零!」

 

「ッ、ハジメか?」

 

「皆、階段に撤退出来たら、魔法の一斉攻撃が来る……!」

 

ハジメに言われて後ろを流し目で見てみると、光輝やメルドの指揮によって全員が先程よりも階段に近付いていっているのが解る。

 

「ベヒモスを一回拘束させて、その隙に僕が錬成で更に拘束する!だから――」

 

「ハジメ、錬成は後何回出来るか?」

 

「え?えーっと後一回位は、少し回復させれば二回程……」

 

「……俺が時間を稼ぐ。錬成が二回出来るようになったら拳銃を上空に向けて発砲しろ」

 

「えっ」

 

そんなの無茶だ、とハジメは零に向かって反論しようとした時だった。突如として零の身体が光り出したのだ。光り出したと言ってもほんの一瞬だけだったが、零の姿は大きく変わっていた。

 

メタル感がある黒いボディスーツと紅いアーマーのボディ。頭部には黒と紅、そして額部に翡翠に輝くクリスタルが嵌め込まれたヘルメットを装着している。右手には白い棒状のようなモノを握り、腰部には見た事の無い形状をした携帯銃をマウントしている。

 

その傍らには柔らかな光を放つ妖精がいる。ハジメは知らないが電子の妖精サイバーエルフのクロワールだ。

 

どこにでもいる普通の男子高校生「巌人零」から、伝説の紅き英雄「ゼロ」に戻った瞬間だった。

 

ゼロに戻った瞬間を、階段の方にいた生徒達や騎士団員は戦ってる人間以外は全員惚けた様に見ている。

 

その視線を馬耳東風、柳に風、笹の葉に雪とばかりに受け流してゼロはクロワールを流し目で見る。

 

「クロワール」

 

「解った!」

 

軽く言葉を交わしただけで何をして欲しいのかを察知したクロワールは、ゼロの傍らから離れてハジメの近くに着く。

 

「さ、ハジメ。少し離れて」

 

「あ、う、うん」

 

クロワールに(いざな)われ、ハジメはゼロから少し離れる。それを確認したゼロは右手に握っていた白い棒から鮮やかな翡翠色をした三角形型のビーム状の刀身を持つ剣、ゼットセイバーを展開する。

 

背後から「嘘!?」「ビームソード!?」「アーティファクトかっけぇ!」とか声が聞こえてくるが、ゼロはそんな声を一切無視してベヒモスに向かってダッシュで接近していく。

 

「■■■■ッ!」

 

当然ベヒモスもそれに反応。片目が剣に貫かれた事で赤黒い隻眼になった瞳でゼロを睥睨し、角に熱を持たせて赤く光らせ突進してくる。

 

ゼロはダッシュの勢いを利用し突進してくるベヒモスの額部にゼットセイバーの切っ先を突き立てる。

 

――バキィィンッ!

 

「■■■ッ!」

 

突進してきたベヒモスは、そのダッシュの勢いを利用したゼットセイバーの刺突(つき)をまともに受けて後ろ脚で立ち上がり退いていく。

 

これまで会得したEXスキルは使えないが、それに限りなく近い真似事ならば話は別だ。

 

退いていきながら両脚を着くベヒモスに対して、ゼロは次の手を打つ。

 

ゼットセイバーの刀身をオフにして柄を大腿部のホルスターに納めると、今度は腰部にマウントしていた携帯銃(バスターショット)を握ると、ベヒモスの潰されていない方の眼に向かって連射していく。

 

「■ッ!」

 

発射されてるのは威力の低いノーマル弾でその殆どが兜によって防がれていくが、もう片方の目を潰されまいとベヒモスは頭を振ってその弾を避ける。だがベヒモスはその代わりに重大な隙を晒した。

 

「零!」

 

――ダァンッ!

 

ベヒモスが隙を晒している内に、ハジメの方の魔力が充分チャージが完了したらしい。

 

これで錬成を行った後に全力疾走で逃げる事が出来る。そう判断したゼロはバスターショットを腰に納め、またゼットセイバーの柄を握り武器を展開する。だが、今度は(ゼットセイバー)では無い。

 

ゼロの逆手部分から手首、肘にまでそのビーム状の光がいく旋棍(トンファー)型の武器、リコイルロッド。

 

「今度はトンファーかよ!?」「剣に拳銃、一体いくつ武器があるの!?」とかの声が聞こえてくるが馬耳東風。ヘッドパーツの内の一つ「クイックチャージLV3」を装着してチャージ速度を速める。

 

そしてチャージが完了した事でダッシュでベヒモスの懐に接近し――。

 

「はっ!!」

 

「■■ッ!?」

 

完全にチャージしたリコイルロッドを思いっきり突き出した。リコイルロッドのチャージ攻撃はその破壊力以上に相手を大きく吹き飛ばす、または姿勢を崩して相手の行動を遮る効果を持つ。

 

当然、ベヒモスはそのチャージが完了したリコイルロッドの攻撃をまともに受けた事で大きく吹き飛ばされた。

 

「今よハジメ!」

 

「はっ!錬成!」

 

クロワールの言葉で気を取り直したハジメは、片手を石橋につけて魔法を発動する。

 

吹き飛ばされた事で大きく体勢を崩したベヒモスの脚に、ハジメの錬成によって石橋が変形してその脚に絡まる。

 

「今だ!二人共走れェーーッ!」

 

メルドの声に引き寄せられるように、二人はベヒモスに背中を向けて疾走していく。ゼロはベヒモスにより近かった為に初動は遅れたものの、今はハジメを追い越して先導する。

 

ベヒモスも二人を逃がすまいと、錬成で変形した石橋を破壊して二人に迫る。しかし、そこにクラス全員の魔法が襲い掛かった。その魔法を受けてもダメージを与えた様子は無いが足止めは出来ている。だが、その時、ゼロは見た。悪意と殺意、そして呪詛に満ちた顔をした、ある男子生徒。

 

「「ッ!?」」

 

無数に放たれた魔法のうちの一つが、明らかに誘導した挙動を取ったのだ。行く先は二人のすぐ近くの石橋。

 

「ふっ!」

 

「うわっ!?」

 

ゼロは難なく一足飛びでその魔法を躱したが、ハジメの方はその魔法が着弾した際に出来た衝撃波をモロに受けてしまった。

 

衝撃をモロに受けた事で、ハジメはその場に倒れてしまう。そしてベヒモスも倒れて動けそうにも無いハジメに狙いをつけた。

 

角を再び赤熱化させて大きく跳躍。飛び掛かった。だが、ゼロによって片目にされた事で距離感を測り損ねた。着地したのはハジメから少し離れた場所。だが――

 

――ビキッ、ビシビシッ!バキッ!

 

これまでの戦闘によって傷ついた橋は、そのベヒモスの重量に耐え切れずに破壊していった。ベヒモスは少しでも足掻こうとしたがそれすらも許されず奈落の底に落ちていった。

 

そして――

 

「ハジメ!」

 

倒れたハジメの所にもその亀裂が走り、ゼロはそのハジメを救おうとハジメの手に向かって手を伸ばす。だがそれよりも早く、ハジメはベヒモスに倣うように奈落の闇に消えていった。

 

「チッ……!」

 

その闇の中に向かって落下していくハジメを見てゼロは強く舌打ちすると、ハジメを追いかけようと脚に力を籠める。

 

「ダメ!零君、行っちゃダメ!」

 

そのゼロを恵理が背後から抱き着いて止める。肩越しに見てみると、恵理はその眼鏡の奥の眼に涙を一杯に溜めて、必死にゼロを止めていた。

 

「……クロワール」

 

「解った」

 

自分は今は行く事が出来ない。だがせめて補佐(サポート)出来るかどうかは定かでは無いが、とクロワールに頼む。快諾してくれたクロワールはそのまま奈落の奥深くに飛んでいった。

 

向こうで香織が奈落の奥底に落下していったハジメを追いかけようと、身を乗り出すがそれを光輝とメルドに止められていた。

 

「嫌ァァァァァッ!南雲君!嫌ァァァァァッ!」

 

「待つんだ香織!君まで落ちてしまう!」

 

「離して!約束したのに!私が守るって約束したのに!離してよォ!」

 

その華奢な身体の何処にそんな力があったのか、光輝とメルドに止められているがそれでも香織は奈落の奥に行こうとする。

 

「行くな!南雲はもう無理だ!行ったら君まで死んでしまう!」

 

一応香織気遣った言葉ではあるが、今の錯乱している香織には寧ろ逆効果も良い所だ。

 

「無理って何!?南雲君はきっと生きてる!きっと助けを求めてる!」

 

「……」

 

光輝の言った言葉で香織は益々錯乱してしまう。それを見たゼロは、恵理の手を握るとゆっくりと離させて、錯乱を続けている香織に近付き――

 

「ッ!」

 

バスターショットを握ると、思いっきり香織の頭に向かってその銃底を振り下ろした。

 

「あ……」

 

頭に突如としてやってきた強い衝撃と痛みによって、香織は一瞬だけ声を出すとすぐに気を失った。

 

「おい、い――」

 

ゼロの行動を見て、光輝はゼロを睨み付けるがそれよりも先に雫が機先を制して光輝を止め、気を失った香織を背負う。

 

「香織を止めてくれて、ありがとう。零」

 

「……」

 

雫のお礼に、ゼロは無言で踵を返すと、紅いボディからいつもの服装に戻り、零として恵理達の元に戻る。

 

――カツンッ

 

「ん?」

 

その時に、ゼロの身体からある物が落下した。ゼロの持っていたステータスプレートだ。それをメルドが拾うが、今は撤退が先決という事でステータスプレートを懐にしまう。

 

「皆、撤退だ!落ち着いていくぞ!生き残る事を最優先に考えろ!」

 

メルドの号令によって、異世界組はノロノロと動き出す。

 

目の前で発生した数の暴力と力の暴力の罠、クラスメイトが一人奈落の底に落下して生存率は絶望的……。目の前で「死」と言う物を見せつけられたのだ。この状態で戦争などバカげた事としか言えない。

 

メルドや騎士団の先導によって目の前にあった長い長い階段を少しずつ登っていく。薄暗く、長い登り階段はまるでクラスメイト達の心の中を現しているようだった。

 

ノロノロと、しかし確実に一段ずつ登っていく中で等々ある物を見つけた。魔法陣が描かれた大きな壁だ。

 

「これは……。まさか」

 

カイルがその壁に近付き、魔法を詠唱する。すると忍者屋敷のカラクリよろしく壁がガチャッと一回転してとある空間が現れた。転移する前の20階層だ。

 

「戻れたのか……」

 

「疲れた……」

 

「帰れた……帰れたよう……」

 

その階層の光景に、多くのクラスメイト達が安堵の息を漏らす。だがまだここは死地も同じだ。緊張の糸が切れたら益々危険な目に逢う。

 

「皆、気持ちは解るがまだだ!ここで座り込んだら益々危ないぞ!魔物との戦闘は可能な限り避けて最短ルートで行く!ほら、もう少しだから踏ん張れ!」

 

本音を言うと休ませてやりたいが、ここの危険性を熟知しているメルドは声を張りあげて皆を精一杯鼓舞する。座り込もうとした生徒は何とか腰を上げて、地上に向かって歩を進めていった。

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