ありふれない紅き閃光   作:銀翼

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衛星軌道上 衛星砲台ラグナロクにて。


本編
ゼロから始まる物語


時間は現在の地球とは遥かな時を隔てた未来の時代。場所はその地球の衛星軌道上に浮かぶ真紅の衛星砲台、ラグナロク。

 

神々の終末の名を持つその衛星砲台の中心部にて、この世界の命運を掛けた戦いが繰り広げられていた。

 

嫌、正確に言うと終わろうとしていた。

 

細身の真紅と黒いボディに、額部分には翡翠のクリスタルがはめ込まれた同色のヘルメットを被り、そしてヘルメットに覆われた頭部から輝く黄金の髪をたなびかせる男、嫌、男性レプリロイド。破壊神の異名を持つ伝説のレプリロイド、ゼロ。そしてそのゼロの傍らに寄り添うように飛行している小さく光る青い妖精、「サイバーエルフ」の「クロワール」がいる。

 

ゼロが両手持ちにした翡翠に輝くビーム状の刀身を持つ剣、ゼットセイバーをその敵に叩き付ける。

 

「はぁッ!!」

 

「ぐぁぁっ!!流石だなァ!英雄……!」

 

オレンジのバイザーで頭部を守り、巨大な白いアーマーとなったラグナロクのコアと黒いマントを身に纏った科学者、ドクターバイルのしゃがれた声が響き渡り、そのバイルのボディの内部より閃光と爆風が起こった。

 

視界を白く埋め尽くす爆発と、それに伴われる衝撃波。それらによってラグナロクの内部を覆っていた分厚い壁が破壊され、宇宙空間の外に出る。

 

落下していくラグナロクによって膨大なエネルギーを循環させるケーブルが波打ち、生命の故郷である地球が段々と近付いていく。

 

ドン、と一際強い振動が走り、ゼロは床に膝をついて振動に耐えるが、すぐに姿勢を正す。

 

「くっ!落下が止まらない……!?」

 

『ゼロ!もう限界高度だわ!』

 

ゼロのヘルメットに装着されているトランシーバーから一人の少女の声が通信される。

 

少女の名はシエル。イレギュラーという不当な扱いを受けていた無辜のレプリロイド達を纏めるレジスタンスのリーダーであり、百年の眠りについていた伝説のレプリロイド、ゼロの封印を解いた張本人だ。

 

『これ以上落下スピードが上がったら、ゼロを地上に転送出来なくなってしまう!お願い!戻って来て!』

 

そのシエルの言葉にゼロは返事を返そうとした時だった。

 

『はっはっはっは!まだだ!まだ終わらんよ!』

 

ゼロの目の前にあった大穴からまたしてもしゃがれた声が響き渡り、何かが浮き上がってきた。

 

「死ねん!この程度では死ねんのだァ!」

 

頭部を守っていたバイザーは破壊され、ラグナロクのコアで出来た強固なアーマーは見るも無残な程に破壊され黒いマントは破れており、そして皮膚がより一層剥がれて機械の身体を先程より露わにさせたバイルだった。

 

「バイル……!」

 

「クークックックック……。クヒャーッハッハッハッハッ!無駄だァ!儂はこの程度では死ねんのだよ!最早、ラグナロクの墜落は誰にも止められん!!」

 

確かに、バイルの言う通り。このままではラグナロクは何の躊躇も無く外界に遺された僅かな自然、地平線の彼方(エリア・ゼロ)に墜落してしまう。

 

「このまま」では。

 

『ゼ、ゼロ!もうダメ!戻って来て!早く!』

 

切羽詰まったようなシエルの声がトランシーバーより響く。もう諦めて欲しい。自分達レジスタンスの元に帰ってきて欲しいと切実な思いを言葉に込めて。

 

しかし、ゼロはその思いに首を左右に振った。

 

「嫌、まだ手はある。バイルごとコアを破壊さえすれば、ラグナロクは崩壊する。バラバラになれば、大気圏との摩擦で全て燃え尽きる筈だ!」

 

『そんな!?ゼロ、そんな事をしたら、貴方は!』

 

余りにも分が悪過ぎる賭けだ。ゼロがバイルによって捻じ伏せられエリア・ゼロに墜落するのが先か、それとも逆にゼロがバイルを斬り伏せ、ラグナロクを破壊するのが先か。いずれにしてもゼロ自身は死ぬ事に変わりは無い。それでもゼロは覚悟の上でモノを言っている。

 

「クヒャーッハッハッハッハ!!出来るかね!?貴様にそんな真似が!レプリロイド達の英雄である貴様が!人間を守る正義の味方が!地上の人間を守るためにこの儂を、守るべき人間であるこの儂を倒そうと言うのか!」

 

現在存在しているレプリロイド達に共通する暗黙にして絶対の掟。それはどんな悪人に対しても絶対に手を上げてはならないという遥か昔の時代に人間達が出した(エゴ)。その掟を振りかざしてバイルはゼロに迫る。

 

しかし、そのバイルの背後に二本の太いケーブルが突き刺さった。やがてその刺さるケーブルの量が更に一本、二本、三本を増えていく。

 

「あぐっ!どうだこの痛みは!貴様に解るか!」

 

ケーブルが突き刺さる度にバイルは苦悶の表情を浮かべるが、やがてその身体は巨大化していき、遂にはラグナロクそのものと完全に一体化した。どんなレプリロイドよりも禍々しく、どんな悪人よりもおぞましい化物と化したバイルだが、ゼロは何の躊躇も無ければ戸惑いも無い。

 

やがて、ゼロは一瞬だけ白い光に包まれた。

 

赤と黒の細身で流線形のボディはより金属質になって白い(ライン)がいくつも入り、同じ様に「ZERO」の刻印が両肩、両脚、ヘルメットに刻まれている。ヘルメットの外側に出ていた長い黄金の髪は光に反射して輝く雪の様な白銀に変色している。そして右手に握られていたゼットセイバーは、ビーム状の三角形の刀身から長剣型となり、左腰に黒い鞘と共に佩刀されている状態になっている。

 

「ミュトスフォーム」

 

英雄(オリジナル)のボディを持った破壊神(ニセモノ)を倒した時に覚醒した、ゼロの最終形態にして最強のフォームだ。

 

そして、ゼロは鯉口を切り、鞘に見合った細身の刀身となったゼットセイバーを抜刀する。

 

「俺は、正義の味方でもなければ、自分を英雄と名乗った覚えも無い。俺はただ、自分が信じる者の為に戦ってきた。俺は、悩まない。目の前に敵が現れたならば、叩き斬る、までだ!」

 

英雄や正義の味方では無く、一人の戦士として、イレギュラーハンターとしてのゼロの信念。ゼロをゼロたらしめている、一つの信念。

 

『ゼロ……!ゼロ……!』

 

ゼロの選択と信念を聞き、シエルは狂った人形の様にゼロの名前を連呼する。

 

ゼロはシエルに最後の言葉を交わす。信じるモノ、守るべきモノ、そして他ならぬ自分自身の誇りを言葉に乗せて。

 

「シエル……。俺を、信じろ!」

 

『ゼローーーーーーッ!!』

 

シエルの叫びを皮切りに更に落下速度が上昇し大気圏に接近した事で通信不可領域に入った。ゼロは右手に握った長剣型ゼットセイバーを構え、絶大な力を手にしたバイルに駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ゼロ……。ゼロ……

 

「……ん」

 

レプリロイドに備わっている聴覚センサーにゼロを呼ぶ声が入り込む。儚いが優しく、温かな感じのする女性の声。この女性の声を、ゼロは知っている。

 

その声によって停滞していた意識が急上昇してパチリ、とゼロは閉じられていた瞼を開けると、その空間に眉をひそめた。真っ白いだけで音も無く、光も無い不可思議な空間。横たわっていたのだろう身体をゆっくりと起き上がらせると、自分の身体を見てみる。

 

「ミュトスフォーム」は既に解除されており、ノーマルフォームに戻っているのは変わらず、腰にマウントされている携帯銃(バスターショット)、大腿のホルスターに収まっているゼットセイバーの柄も同じく変わりが無い。傍らを見てみると相棒の「クロワール」も無事だ。

 

そして、目の前に一つの大きな光が降り立ってきた。命あるモノ特有の温かくて柔らかく、そしてオレンジの柔らかな光を発するその生命体は――。

 

「マザーエルフ……」

 

ゼロ自身の記憶(メモリー)に残っていないが、百年前に起こった戦争である「イレギュラー戦争」末期。本来イレギュラーとなったレプリロイドを癒し元に戻すという目的で造られたマザーエルフだったが、ドクターバイルが彼女をダークエルフに改造した上に彼女のコピー「ベビーエルフ」を数多製造した事で、レプリロイドの力を増幅して思い通りに操るように悪用した事で起こった、人間の60%、レプリロイドの90%が死滅した史上最悪の戦争「妖精戦争」を引き起こしたとされている。

 

今ではバイルが施した改造(ノロイ)も解けた事で真の姿であるマザーエルフに戻り、今は世界の何処かに飛び去って行った。

 

しかし、周囲を見てみるとサイバーエルフとレプリロイドの魂が暮らす世界のサイバー空間でも無さそうだが、彼女自身がここに運んできてくれたと断定出来る。

 

「ゼロ……。光を……掴……んで……」

 

「?」

 

「光が……導いて……」

 

たどたどしくはあれども、マザーエルフはそれだけを言うと、またしても行先を告げる事無く姿を消して行った。

 

「光を……?」

 

言われるがままに、ゼロは右手を前に伸ばして握る仕草をしてみる。すると握られた手の中から強い光が漏れてきた。

 

「!?」

 

その漏れてきた光に驚く間もなく、ゼロはその光の中に包まれていった。

 

光に包まれたと思えば今度は一寸先の景色すらも見えない漆黒の闇がゼロの視界と意識を覆っている。

 

――……ロ……ゼ……

 

(この、声は……?)

 

聞き覚えのある声が脳内に響く。しかし、聞こえる筈の耳からではなく、脳内に直接語りかけてくるような声だ。

 

――ゼロ……!ゼロ…!

 

(クロ、ワール……?)

 

聞こえてくる声によって、ゼロの意識は視界と一緒に急上昇していく。しかし、視界の方は暗いままというよりもぼやけてしまって良く見えない。しかも何か身体が小さくなっている上に何か柔らかいモノに寝かされているような感じがする。

 

しかも、何故か声が出ない。嫌、それよりも――

 

「おぎゃ……?」(む……?)

 

何故か、レプリロイドとしての声では無く人間の、しかも赤ん坊の声として口から出てきた。

 

「だぁだぁ……あぶぅ?」(クロワール……。これは?)

 

――ちょっ、ゼロ……その声止めて……吹き出しちゃう……

 

ゼロの言葉にならない声にクロワールが噴き出す。確かに、聞こうとしているが声は言葉にならないが、これではどうしようもない。

 

――コホン。多分、心に思えば良いと思うよ

 

漸く落ち着いたクロワールによって、ゼロは試しに精神で会話をしてみた。

 

(これで、どうだ?)

 

――ん、大丈夫。ゼロ、もう察していると思うけど、ゼロの魂は人間の、それも赤ん坊の器の中に入りこんだよ

 

(……)

 

言葉を発するというか、クロワールから出された答えはゼロの許容範囲(キャパシティ)を大きく超えた為に言葉を発するという事を一瞬忘れた。

 

それから数秒後。何とか気を取り直した。

 

(……コピーの身体から今度は人間に、か……)

 

百年前、バイルと彼が制作した悪魔のレプリロイド、オメガに自分のオリジナルボディを奪われ、コピーボディに魂を入れられたが今回は人間のそれになった。

 

しかし、シエルが以前、ゼロに言った言葉が去来する。

 

(だが、俺は俺でしかない。俺の心が俺である限り、俺はゼロだからだ)

 

――ん、ゼロらしいね。

 

喜色に混じったクロワールの声が心に響く。

 

――じゃあ、解った事を今のうちに言うね。

 

それから、クロワールの説明が始まった。

 

―どう?理解出来た?

 

(あぁ)

 

クロワールの説明からすると簡単に纏めるとこういう事になる。

 

・レプリロイドのボディから人間の身体になった

・現在はとある部屋のベッドに寝かされているがどうやら孤児らしく、老いてなお元気な二人の老人科学者達が経営していえる孤児院にいる。

・外の文化レベルは自分達のいた世界と比べると過去の物でレプリロイド、サイバーエルフ等はいない。

・現在いる所は日本という国の首都東京

・クロワールは現在ゼロの身体と同化している。

・現在ゼロの名前は巌人(いわと)(れい)という名前になってる

 

――でも、大気圏の摩擦で死んだと思ったら人間になってるっていうのはマザーエルフの事を抜いたら変な感じだよね

 

これではシエル達の元へ帰れるかどうかも解らない。しかし光が導いた先がここなら。

 

(だが悩んでいても事態が良くなる事は無い。前に進むしかない)

 

――うん。そうだね

 

元より悩むという事は無い。それならば答えは決まっている。ゼロはこれから巌人零として生きる事に決めた。

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