ありふれない紅き閃光   作:銀翼

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弱音と本音

「な、何じゃと!?その話は本当かメルド!」

 

「お、落ち着いてくださいラングル局長!」

 

草木も眠る丑三つ時のハイリヒ王国王城。その中にある一室でメルドとラングルが話をしていたが、メルドが言った言葉にラングルは彼に掴みかかった。

 

「これが落ち着いて等おれるか!何故オルクス大迷宮にアイツ等を連れていく事になっておる!?」

 

「それが、俺にも解らないのです。いつの間にか彼奴等全員大迷宮に連れてけという王命と教皇猊下からの言葉なのです」

 

「己、いくら儂等よりも強い力を持っておるが……!」

 

悔しげに歯軋りしながら椅子に座り直すラングル。

 

オルクス大迷宮というのはホルアドという町にある大迷宮で、全百階層にもなる。当然ながら進めば進む程に強い魔物やトラップが現れる場所であるが、騎士団の実戦演習にも使われるので。低階層なら然程危険では無い。だが、それでも傷を負う者は現れはする。

 

そのオルクス大迷宮に彼等を連れて行くというのは、もう騎士団による充分に訓練が出来たであろうということでもうそろそろ実戦投入させろ、という王家と教会からの命令だ。

 

しかし、これまで地球では害虫を除いて生き物を殺した事が無い彼等にいきなり命のやり取りをさせろ、というのは余りにも酷過ぎる。

 

メルドはまだ慣れていないので時期尚早と何度も王家や教会等の上層部に口酸っぱく上奏していったが、もうそれも通じなくなってきた。特に王家とその上の立場である教会を牛耳っているイシュタルからはいつまで訓練させているつもりだと言ってきた。

 

しかも回復士を連れて行くのはまだ良いとして、何故か錬成師であるハジメまでも連れて行くというのだ。

 

それならば作農師の天職を持つ愛子を連れて行けと言ったがそれは却下された。

 

非戦闘職ではあるがハジメのありふれた錬成師と比べて農地で役に立つ。というのがイシュタルの言だ。

 

その言葉を聞いてメルドは歯が砕けるばかりに歯軋りしたが、一国の騎士団の長に出来るのは従う事しか無い。

 

垂れたくも無かった頭を垂れ、付きたくなかった膝を付け、そして発したくなかった御意の言葉を発した。

 

しかし、その言葉を国家錬成師局局長であるラングルに言ったのが今こうなってる事だ。

 

大声を出した事で幾分か頭の熱気が取れたのか、落ち着きを取り戻したラングルは掴んでいたメルドの襟から手を離す。

 

「……オルクス大迷宮には、いつ出立する事になっておる」

 

「……まだ具体的な日時は明らかになってませんが、そう遠くない時期かと……」

 

「……何故かは解らんが、嫌な予感がする……。出来る限り叩き込まなければ」

 

なってしまった事は致し方無いし、今ここで怒鳴っていても決定事項はどうにもならない。不幸中の幸いというのがいつになるかは定かでは無いが時間はまだあるという事だ。

 

嫌な予感が胸に湧き上がるが、ラングルは自身に出来る限界までハジメを鍛える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後 ホルアドの町

 

メルド率いる数人の騎士の引率でやって来た異世界組は、殆どがその町に圧倒されていた。

 

大迷宮というからには、何とも空気が張りつめているような町と思っていたが、正反対に大迷宮を観光名所にして、それなりに繁盛している町だったのだ。

 

その理由としてはオルクス大迷宮に現れる魔物は倒した際に魔石と言う物質を落とす。その魔石というのはこの世界の住人にとっては資源であり消耗品だ。

 

そしてそれを狙ってくる冒険者もいる。その冒険者に狙いを定めて宿屋、武器屋、道具屋等のお店が乱立している。

 

「お前達、惚けるのは構わないが迷惑になるぞ。これから王家が持ってる宿屋に行くから見に行くならその後でだ」

 

お上りさんよろしく町を見ている異世界組に、メルドは学校の先生のように声を出して注意をする。

 

メルドの注意で全員気を取り直して町に入ると、またお上りさんよろしく周囲の露店や建物を見ながら、王家がバックアップ、更に騎士団の拠点の一つになっている宿屋に入る事になった。

 

メルドや騎士団が宿屋で全員分のチェックインを済ませると、全員に向き直る。宿屋の支配人もスタッフも、彼等の事を王家から知らされているので実質今は貸し切りだ。

 

「良いかお前等、ここでは決まりごとは特にないが一つ言っておく。ここは知っている通り王城では無い。だからこそ自覚を以て行動しろ。特に檜山!斎藤!中野!近藤!お前等だ!」

 

「「うぐっ!!」」

 

小悪党共は名前を呼ばれて身を固くする。ハジメに返り討ちされてから暫くは訓練をしていたがサボり癖が抜ける事が出来ず、結局またサボり迷惑を掛けている。

 

メルドから名指しで注意された事で、クラスメイトの殆どが失笑したり鋭い目で見ていたりと針の筵な気分だった。

 

結局それからは各々迷惑を掛けないよう注意を払いながら自由な時間を過ごしていき、夜になった。

 

自室にて、零は己のステータスプレートを見てみる。普通なら天職は戦士になっている所だが、その個所や数値、技能は大きく異なっていた。

 

天職:破壊神 LV:???

 

筋力:10000[フォームチェンジ-2倍~+2倍、ミュトスフォーム+2倍]

 

体力:10000

 

耐性:10000[フォームチェンジ-2倍~+2倍、ミュトスフォーム+2.5倍]

 

敏捷:10000[フォームチェンジ-2倍~+2倍、ミュトスフォーム+2.5倍]

 

魔力:0

 

魔耐:10000[フォームチェンジ-2倍~+2倍、ミュトスフォーム+2.5倍]

 

技能:言語理解、気配探知、物体探知、暗視、弱点探知、剣術、銃術、槍術、旋棍術、格闘術、騎乗術、レプリロイド化、チャージ、ゼットセイバー、バスターショット、トリプルロッド、チェーンロッド、リコイルロッド、シールドブーメラン、ゼロナックル、エレメントチップ、ラーニングシステム、サブタンク[+16]、フォームチェンジ[+ミュトスフォーム]、ヘッドチップ、ボディチップ、フットチップ、サイバーエルフ[+クロワールキャパシティレベル21]

 

魔力以外、かつて前世で戦った時と然程変わっていない。

 

変わっている所というのはレジスタンスにいた時にキャプチャーしたEXスキルが使えなくなっている所位だ。

 

人間とレプリロイドの間には隔絶された力があるが、これでもこれからどうなるのか読めないので楽観視出来ない。

 

「……」

 

ともあれ多少変更されてはいるが、前世の力とサイバーエルフのクロワールと共に戦える事が出来るのは心強い。

 

零は休もうとステータスプレートの電源を切り、ベッドに横たわろうとした時だった。

 

――コンコンコン

 

「?」

 

響いてきたノックの音に、零は身体を起こしてベッドから出て、扉を開けるとそこにいたのは、寝間着代わりだろう体操服を着用した中村恵理だった。

 

「零君」

 

「何だ?」

 

「少し外で良いかな?」

 

「あぁ」

 

休むにしてもまだ少し早い時間帯なので、恵理の頼みを聞きいれる事にした。

 

宿の外に出た二人は、そのまま宿の裏手に行く。空はすっかり夜の帳が降りていて、満天の星空と煌々と輝く満月が大地と天空を柔らかく照らす。

 

「明日、迷宮に行くんだよね」

 

「あぁ」

 

「これから、訓練じゃなくて実際に魔物と殺し合わなきゃいけないんだよね」

 

「……そうだな」

 

零は特に変な事は言わないし、天之河光輝の様に変な美辞麗句を言う事もしない。ただ事実を言うだけで変に励ます事はしない。

 

「私、凄く不安だよ。下手すると自分が魔物に殺される……。訓練したからと言っても凄く怖い……」

 

「……ん?」

 

明日に対して不安を抱いている恵理を横目で見る。励ます事は無いが弱音や本音を聞くだけだが、零の耳に何か聞こえて来た。

 

――ヒュン、ヒュン

 

「――ぁ!」

 

「これは、声?何か振っている音……?」

 

恵理にも聞こえていたので、零の空耳では無かったようだ。

 

声のする方角に向かって歩いていくと、そこにいたのは――

 

「はっ!」

 

八重樫雫だった。体操服で持参してきたであろう木刀を汗だくになりながら一心不乱に振るっている。

 

だが、太刀筋を見ていたらとてもじゃないが見ていられない程に乱れているのが良く解る。それに太刀筋だけじゃなく、身のこなしも足さばきも普段とは大きくかけ離れた、実に見ていられない程に酷かった。

 

木刀を振るうのも、何かを振り払うように乱雑だ。

 

「……」

 

もう最早見ていられず、零はその雫に近付き後ろから木刀の刀身を掴んだ。

 

「ッ!れ、零……!?」

 

木刀の刀身を掴まれた事で木刀が震えず、しかもピクリとも動かないので文句を言ってやろうとしたが、その掴んでいた人物が零だったことで、雫は急速に熱が解れた。

 

「雫ちゃん」

 

「恵理も。どうして二人共ここに?」

 

「……恐らく、恵理はお前と同じだ。明日の事が不安で堪らない。そういう事だ」

 

「うん」

 

「ッ……そう」

 

これじゃ隠し事出来ないじゃない、と雫は困ったように言うと、近くにある木の根元に木刀を立て掛けて座り込むと零と恵理も雫に近付く。

 

「正直、私も恵理と同じよ。明日から魔物達と殺し合いをしろ、て言われても不安で仕方ないわ。私達はこれまで戦いという所から隔絶されてた場所から急にこの世界に飛ばされてきた」

 

「……」

 

雫の弱音、嫌、本音を零はただ黙って聞いている。

 

「エヒトって神様が何故私達を神の使徒としてこの世界に召喚したのか解らないけど、今となっては迷惑な話よ。魔族との戦争?知った事じゃないわ。光輝に流される形でこうなったし、イシュタルさんにもどうにも出来ないから仕方ないけど、今すぐにでも逃げ出したい……。元の平和な世界に帰りたいわ……」

 

「だが、逃げた所でエヒトと聖教教会に追い付かれ、戦いを強いられる事になるだろうな」

 

「そうね……」

 

逃げた所でどうにもならないのは雫にも恵理にも解っている。逃げた所で神の神託を受けたであろう聖教教会に強制的に連れてこられ、下手すれば武器を手に縫いこませて、防具を身体に縫わせて死地に送るだろう。それに、元の世界に帰れたとしても異世界召喚が出来る相手なのだ。逃げ場なんて無いに等しい。

 

「雫ちゃん。私も同じだよ。助けて欲しくて零君と話していたよ。零君は何も言わないけど、天之河君の様に決めつけたりしないし、美辞麗句は言わない。黙ってだけど弱音や本音を聞いてくれる」

 

「恵理……」

 

「でも偶然かも知れないけど、これまでの雫ちゃんを見て怖いのは私だけじゃないって知って少し嬉しいの。零君や天之河君はどうなのかは知らないけど、皆怖いんだって知れた。怖いから皆力を合わせていけるんだって思えた」

 

零はレプリロイドの時代から恐れを抱いた事は無かったが、人間はそうでは無い。だからこそその人間が世界を変えられるし、レプリロイドはその人間達に力を貸せる存在で居続けたい。

 

今は亡き親友のエックスが人間を最後まで信じ続けていた。零もそんなエックスを信じていたし、エックスが信じていた人間達を信じた。

 

「周囲を見てみろ。周りを頼れ。一人で戦ってる訳じゃ無い」

 

零は決して多くは語らない、美辞麗句は絶対に言わない。だがだからこそ一部を除いて傾聴に値する言葉を出す。

 

「……ありがとう。零」

 

「礼なら二人で言え。俺は何もしていない」

 

「えぇ。そうさせて貰うわ」

 

あくまで第三者の立場だと言葉を言う零に、雫と恵理は笑みを浮かべる。さっきまで悩んでいたが何か吹っ切れたような、そんな顔だ。

 

その後二人は語らい、零は二人の会話に加わる事はせずそのまま付き合う事にした。




この話をしていたので、ハジメと香織が話していたのを知りません。
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