今となっては"転生"なんて当たり前なジャンルだ、物語の導入として散々使われてきたし見慣れてきただろう。
では"憑依"はどうかと言えば、刺さる人には刺さる、ていう所だろうか。
元のキャラが嫌われ者だったのに対して憑依して善人になったり大人になったりするのだ、元からのギャップで面白いと思う人も居るはずだ。
…そして、TS。
今の時代だと扱い辛いだろうが日本人にとっては割と受け入れられていると思う、少数だろうけど。
見た目も性格もイケメンだった奴が美女になればイケメン美女となって素晴らしいと思うし、冴えないおっさんが美少女になって身も心も乙女になっていくのは何処か愛らしさと悍ましさで脳がキマるので楽しい。
嵌れば抜け出せない、つまり沼だな。
ここまで語ったのには理由がある。
皆様は『古市 貴之』というキャラを知っているだろうか。
そう、銀髪で女好きの彼だ。
ここまでの流れで何となく想像がついた方も居るだろうが、ここで自己紹介をさせてもらう。
私の名前は『古市 ユキ』現在高校1年の花のJK。
そして、今作の舞台となるべるぜバブの主人公、男鹿 辰巳の幼馴染だ。
ああ、本来はあの意外と男なやる時はやる女好きのポジションに何故か私がいる。
私の前世は職務に誠実とは言いきれないいい加減な男だった。
友達がいない、という訳ではないが人との縁が少なくサブカルチャーこそが我が相棒という感じだった。
そんな奴だったが全ての文化に通じてる訳でも無く、べるぜバブを読んだのは学生の頃くらいだけだったように思う。
そんな奴が主人公の相棒というかツッコミポジに居ていいんだろうか。
ふとした拍子にあのおっかない金髪美女にバレて細切れにされそうで怖い。
まあ今更、男鹿と離れる事は出来ないんだが。
小学生の時から問題を起こす男鹿とその尻拭いというか巻き添えをくらう私という、いつの間にか不良と優等生の凸凹コンビみたいになっていた。
そうやってよく一緒にいたもんだから高校受験もなんも考えずに男鹿と一緒のとこに行くことにしたけど。
そんな関係が続く五月すぎ、男鹿から急に相談に乗って欲しいと連絡があり部屋で待っていると男鹿がやって来た、私が買っておいたショートケーキ片手に。
─むかしむかし あるところに それはそれはハンサムで かっこよくて モテモテで みんなに尊敬されまくっている
「死ね…男鹿…」
メキメキメキ メキャ…
「○△✕□卍△!!」
─尊敬されまくっている 心優しい若者がおりました
「全員土下座」
「まてまてまて」
「む?」
割とイケメンなのに眼力で台無しになっているこの幼馴染にツッコミする。
「む?じゃねーよ 誰が心優しくてモテモテだ、開口一番の時点で暴君じゃん!!」
「ばかめ」
ばかはお前だばか、フォークでこっちを指すなばか。
「いいか?よく考えてみろ、オレが理由もなく人を土下座させる様な男だと思うか?」
「うん?うーん…うん」
考えてみたが男鹿ならやりそうだ、だって男鹿だし。
「そうかそうか続きを聞きたいか!!」
「いでででギブッギブーッ」
急に首を絞めるなフォーク咥えて暴れるな危ないなぁ!
─はなしはもどって
「いや本当さっきは調子こいてすみませんでした、石校の無敗伝説 男鹿くんがあまりにも無防備に寝てたんで…ついチャンスと思って…」
「チャンスじゃねーよお前あれオレじゃなかったら死んでっぞ」
「いやー本当にねぇ〜」
斜めに刺さった鉄骨と地面の間には男鹿が枕代わりにしていたカバンが貫かれていた。
それを見て男鹿を狙った不良が小さく
「死ねばよかったのに…」ボソッ
と呟いた。
─心優しい若者は
「ちょ ゲボゴボゴボ ゴボッ ガボッ」
「落ちるのかなーこの汚れ」
男鹿は不良の両足をつかみ逆さまにして不良の上半身を川に沈め始めた。
─川に洗濯に行きました
どう見ても拷問である。
─すると川上の方から大きな…
─大きなおっさんが
─どんぶらこっこ どんぶらこ
「はいストーーーーップ!!」
咄嗟に叫んでしまった、だがこれはしょうがないだろ。
「えーと…何?この話どこへもっていきたいの?てか大きなおっさんて何?」
「流れてきたんだから仕方あるまい…」ズッ…
「流れてこねーよそんなもんっ!!!」
てか何飲んでんだ!いつ準備したその熱いお茶!持ってきてなかったよな!?
「いや確かにあれは…オレも超びびったよ、実際他の奴らは一目散に逃げてったからな」
「そりゃ逃げるだろ普通…てかマジなの?ついてかなきゃいけないのこの話に…」
もう既にゲンナリしてるんだが。
「おうしっかりついてこい、続きいくぞ」
「待て、ギリギリのリアリティーを模索する」
おっさん、川原…ホームレス!橋の下に住んでたホームレスが何かの拍子に流された、これだ!というかなんだこれ!?初っ端からこんな飛ばした内容だったか!?
「よし、ほんとはよくないけどよし!こい!」
「うむ…」
─心優しい若者はたった一人で大きなおっさんを引き上げた そして…
パカーッ
─二つに割ると中から元気な男の子が
「割るなーーーーっ!!!!」
今一度、大きく息を吸い、ありったけの気持ちを込めて叫ぶ。
「割るなーーーーっ!!!」
「…若者はいいました「おおっ なんてかわいい 赤ん坊」」
「もういいよっ!無理だよ誰もついてこねーよそんな話!!」
読者舐めんなっ!!
「ったく、まじめに聞いて損したぜ、お前が珍しく相談があるとか言うから…」
「いやいやまだ続きがあるんだって」
「続きぃ?」
皿やフォーク、あと飲み終えたらしいマグカップを回収していく。
そういえば部屋の掃除や枝毛の確認ばっかでなんも準備してやれなかったことに気付いた。
このままじゃ気持ち悪いし帰りになんか菓子持たせるか。
「そーそー、こっからが大事なんだから」
「ひとまずこの食器片付けさせて、ついでに飲み物取ってくるから」
「あ、おい!」
まだ麦茶あったよな、なんて考えながらドアを開けると
「アー」
足元に緑色の髪に黄色いおしゃぶりを咥えた、おそらく男鹿の上着だと思われる学生服を不格好に羽織った全裸の赤ん坊がいた。
物語が、始まった。