寒いぜ…暖房ないぜ…部屋の温度10℃だぜ…
手が…上手く動かないぜ…
流石に今日はもう、無理だぜ…
レッドテイルにいじられた後はどんなに関係性が薄くても記憶を思い出す刺激を期待して神崎さんに姫川さん、聖石矢魔の生徒に先生…結構な人数と話した。
結果は惨敗、屋上で気落ちする男鹿に対しヒルダさんは記憶を戻す事に戸惑いがある様子。
自分の事は知りたいが今のままでも十分幸せで、記憶が戻った時その幸せだという気持ちが消えてしまいそうで心配らしい。
なお、我らが男鹿くんはすぐに台無しな事を言ったため空気が死んだ。
仕方なく屋上から帰る途中、バッタリと邦枝さんに寧々さんと出会った。
そして、
「はじめまして、たつみさんの妻のヒルダです」
空気が凍り、割れた。
「たつみさん、なんですかこの女は…いやらしい。私というものがありながら他の女に手を出しているのですか?」
「いや、出してない」
「男鹿…何これ?なんで私こんな失礼な事言われなきゃいけないわけ?ヒルダさんとうまくやってるみたいでよかったじゃない」
「いや、やってない」
「お、男鹿…多分これ止まらない奴」
「古市!ヘルプ!」
「無理だろ…」
二人は睨み合い、空気は重くなる。
いつの間にかギャラリーが出来ていたが二人はお構い無しに口撃を始めた。
「あなた名前は…?」
「はぁ?何言ってんの知ってるでしょ?」
「どろぼう猫の名前など知りません」
「誰がどろぼう猫よっ!!」
「違うというのですか?」
「違うわよっ!!何を根拠にそんな事言ってんのよっ!!」
「では、たつみさんの事もなんとも思ってないわけですね?」
「と…」
一瞬呆ける邦枝さん。
「と」チラッ…カァァ
「?」
男鹿を見て赤面する邦枝さん。
「当然でしょーっ!!!」
「姐さーんっ!!」
脱兎のごとく逃げ出した邦枝さん、完全に脈アリです。
「……なんか」
「思い出しませんよ」
「こわいよベル坊くん」
「アウ」
「…少し、思い出すのが怖くなってきました」
それからお昼を食べた後ヨルダさんが現れ、ヒルダさんに皮肉を言いつつもヒルダさんの記憶を消した悪魔、サラマンダーに記憶の戻し方をはかせDVDにして持ってきてくれたのだ、ツンデレまで披露してくれた。
だが、
「知りたくありません」
「……はぁ?」
ヒルダさんはそれを拒絶した。
「何言ってんのよ!!記憶が戻るって言ってんのよ!?」
「そんなの…思い出したくありません」
「しゃんとしなさいヒルデガルダっ!!あなたはそれでも由緒正しき大魔王の末子ベルゼバブ4世の侍女悪魔ですかっ!!」
「そーだぞヒルダッ!!ベル坊だって本当はお前に思い出してほしいと」
男鹿はそれ以上言えなかった。
「……そんなに私は、いらない存在なんでしょうか……」
ヒルダさんが泣いて、逃げ出してしまったから。
「ヒルダッ!!」
「男鹿!ヒルダさんは任せろ!!」
そう言い残し走り出す。
今のヒルダさんを一人にしておけない、どうにかして元気になってもらわなくては…。
……。
……美人の涙って、こんな心にくるんだなぁ。
ヒルダさんを追いかける間に学校を出てしまった。
やっとヒルダさんに追いつけたが、そこはいつもの川原だった。
「ヒルダさん」
「…あなたは、古市さんですか」
「隣、座ってもいいですか?」
「……どうぞ」
初めのうちは無言の時間が多く、まるでコミュ障な男が必死に女性に話しかけてるような会話だったが、日が沈む頃までくればお互い自然と話せるぐらいにまでなった。
「そっか!ベル坊お風呂でも楽しそうだな!私まだベル坊をお風呂に入れてあげたことがないからこの話新鮮だわ」
「そうなんですか?ふふーん、やはり私の方がベルちゃんの親として相応しいようですね!」
「いやベル坊の女親でヒルダさん以上に相応しい人いるわけないでしょ」
「そーでしょーそーでしょー!なんたって私は!ベルちゃんの親ですから!!」
んー…やっぱこの人可愛いな。
ヒルダさんの可愛いが限界突破してくんだけど。
そんなふうに話してたら無粋なヤツらが来たが、丁度よく来た男鹿によって川に犬神家された。
ベヘモットの残党だし、悪魔だし生きてるさ。
「ありがとうございました、たつみさん」
「おう、あんま心配かけんじゃねーぞ」
「……以前にもきっと私は、こんな風に助けられたんですね。こんなに、たくさん傷を作って」
男鹿の腕に触れるヒルダさん、そこに男鹿は何やら小瓶を見せた。
いつの間にか私の傍にラミアにヨルダさん、邦枝さんが来ていたため、何となく察する。
あれが、記憶を思い出す方法なのだろう。
「これは…もしかして記憶を戻す薬ですか?」
男鹿も昼間の事を気にしているのだろう、渡すのを戸惑っていた。
「下さい、大丈夫です」
それをヒルダさんは、朗らかに求めた。
「今の私は消えてしまうかもしれませんが、元の私もきっと幸せですから」
ブン……ポチャン
「あーぁ、ベル坊何投げてんだよ、これじゃあヒルダ元に戻れねーじゃねーか」
「アウ」
「─ま、あれだ。しばらくこのままでいいか、どっちにしろお前がこいつの母親って事には変わりねぇしな」
「ダウ」
男鹿はベル坊をヒルダさんに渡しつつそう言う。
「アー」
「…ベルちゃん」
ヒルダさんはベル坊に、愛のキスをした。
「それによくよく考えたら今のお前の方が飯もうまいしな、いーんじゃねーのそのままで」
「……そんなに私の作る飯は不味かったか?」
…あれ?
「あ?まずいなんてもんじゃねーよありゃ、殺人未遂だ殺人未遂」
「ほう」
…後で聞いたのだが、薬の方はラミアの師匠が準備してくれたもので、本当の戻し方は「王子様の口付け」だったらしい。
王子様…この場合の王子様は夫ではなく、本当に王子様なベル坊の事。
つまり、
「いい度胸だな、ドブ男。だが次は未遂ではすまんぞ」
「……あれ?もどってる?」
「この愚か者がっ!!」ゴキィ
「あがぁっ」
こうして、ヒルダさんの記憶は戻ったとさ…。
よし、お風呂入って暖まろう…。
皆さんも寒さにお気をつけ下さい…。