シャワシャワと虫や木の葉の自然な音が優しく流れるお昼過ぎ。
子供や親子連れの楽しそうな声の聞こえるよく晴れた公園のベンチで、私と男鹿はボーッとしていた。
ベル坊が私達に挟まれて座りミルクを飲んでいる中、男鹿が力無く呟いた。
「ケンカしねーとかさ、無理じゃね?」
「……案はある、お前の人生が超ハードモードになるだろうけど」
「もう既にハードモードなんだが?」
「外に出ない、ずっと家の中に引きこもる」
「……それはそれで無理じゃね?」
「うん、絶対ヒルダさんに引きずり出される」
「あー…てか今回は完全にあの女狐にしてやられた」
「それなー…試すためとはいえ、よくやるよな」
「ああ、結局、捕まったふりかよ…」
私はおぼろげながら原作のおかげで事前に知っていたが、男鹿からしたらたまったもんじゃないだろうなぁ。
「ったく、今思い出してもムカつくぜあの乳女。人がせっかく助けに来てやったのに礼の一つもなしかよ。古市はコロッケおごってくれたのに、なぁベル坊…ベル坊?」
話題を振られたベル坊はある一点を見つめていた。
ベル坊の目線の先には、高い高ーいをして遊んでいる親子の姿があった。
「ダ」
しっかり指を指して要求している……私に。
「え、私?男鹿じゃなくて?」
「ダ」
「じゃぁしつれいしてー…ほーら、たかいたかーい!」
「アー……フー」
すごいがっかりされた顔を向けられてしまった。
これ結構ショック受けるな、そんでそれ見てた男鹿はそんな顔すんな、笑うんじゃねぇ。
「じゃあ次は男鹿だな」
「ダ」
「あぁ?」
「ほらほら、やりなよお父さーん」
「ダ!」
ベル坊の目が爛々と輝いている、相当期待しているようだ。
それを男鹿も感じ取ったのだろう、生半可なことはできないと冷や汗をかいている。
「たかいたかーい!!」
「ヒョーッ」
その日、ベル坊は飛んだ、空を一直線に、ムササビのように、四肢をしっかり伸ばし、体全身で風を感じているようだった。
そう、男鹿はベル坊を砲丸投げのように空高く投げてしまったのだ。
「男鹿!全力ダーッシュ!!」
「まてこらぁあ!!」
…ひとまず男鹿なら大丈夫だろう。
こんな晴れた日に全力で走ることになるとは、自業自得とは言え、哀れだ。
「…二人の飲み物、準備しときますか」
休みが開けて登校中、私は聞いた噂を男鹿に話した。
「女王?」
「そうそう、ウチの女子全員連れて遠征に行ってて、それが終わったっぽいから帰ってくるんだって」
「フーン、女王ねぇ……そういやお前は?」
「え?」
「いやお前は遠征誘われなかったのかなって」
「誘われたよ?でも断った」
確か入学してすぐだったなー、高校生の中でもかなり大人びた色気を感じさせる人だった。
確か名前は大森さんだったか。
「なんで行かなかったんだ?お前だって女子だろ」
お前なぁ、それ聞く?
「行ったら男鹿と遊べねーじゃん、だから断った」
「ほー」
校舎に女子のキャイキャイとした声が聞こえるようになってしばらく、一緒にジュース買いに来た男鹿にたずねてみる。
「なぁ男鹿、女王って見たことある?」
「は?ねぇけど、逆にお前ねえの?誘われたんだろ?」
「誘ってくれた人は女王じゃないみたいでさ、一人で来てくれたんだけど、その人去り際に「姐さんに連絡しなきゃ…」って言ってたから。だからその姐さんってのが女王なんだろうなぁって」
「あーね」
「ふと気になってさ、ヒルダさんとどっちが強いんだろうな」
「はぁ?そんな事気にしてたのか?」
「まぁ…ヒルダさん並に強いならベル坊も気に入るのかなって」
なんか原作でも女王…邦枝 葵(くにえだ あおい)さんとヒルダさんのバトルは結構あった気がするし、決着とか着いてたのかな…。
そう思ってたら男鹿が急に手を掴んで走り出した。
「行くぞ古市」
「え、何処に」
「女王んとこ」
「はあ!?ちょ、まて、場所わかんの!?」
「勘で行く」
まじか…。
「男鹿辰巳、覚悟なさいっ!!アンタの悪行もここまでよ!!」
まじか…。
ホントにたどり着きやがった。
こいつ神崎の時も一発で場所当てたよな、こいつ勘やばくね?
「……あんたが男鹿辰巳?」
「……そうだけど?」
「………」
「?」
なんか邦枝さんめっちゃ困った顔してるんだけど。
てか奥の二人、谷村さんと大森さんじゃね?
「えっと、お久しぶりです、大森さん」
「ん?……ああ!あの遠征断った1年!」
「あの時はせっかくのお誘いを断ってしまい…」
「いやそれはいいんだけど…」
やっぱいいなぁ大森さん、あのウェーブのある赤毛はすげー綺麗だし、特攻服やロングスカートでも隠せない程スタイルいいし。
隣の谷村さんも艶のあるストレートな黒髪に小柄な体躯が小動物感があってとっても可愛い、二人ともレベル高いな!
そんでその二人にも負けない美貌を持った大和撫子然とした邦枝さんよ…ホント綺麗じゃね?
「古市、知り合いか?」
「ほら朝話した遠征に誘ってくれた人」
「ああなるほど」
「…えっと、古市だっけ」
「あ、はい」
大森さんから話しかけられた、なんかあったかな。
「あんたがウチに着いてくの断った理由って、男鹿?」
「?はい、確かその時も言いませんでしたっけ」
「だってその時、世話しなきゃ生きていけない幼馴染がいるって…」
「はい、それが男鹿でででで頬引っ張るんじゃねー!」
「だーれが世話されなきゃ生きていけねーだぁ?」
「じっさいそーだろーが!わたひがどんだけ尻ぬぐひしたと思っへんだこら!」
「ぬがっりょうほうひっはるんじゃねぇ!!」
お互いにお互いの頬を引っ張り合う男女ができた、もちろん男は男鹿で女は私だ。
「…あんたら、付き合ってんの?」
「「いや?」」
「………」
「…姐さん」
いや、何この状況、完全にケンカする流れじゃなくなっちまった。
邦枝さんがビビったとかの侮辱するような野次が飛んだりせず、ただひたすらに男鹿を呪う呪詛ばかり聞こえる。
えぇ、もしかしてこれ、私がやっちゃったパターンですか?
「…一旦仕切り直しましょう、放課後、屋上で待ってるわ。逃げずに来なさいよね」
結局、邦枝さんにそう言われてこの場は解散となった。
まじか…。
こんなふうに流してますけど、もちろん邦枝さんにもヒロインレースに入って貰います、男鹿に勘違いでもなんでも惚れてない邦枝さんとか想像出来ぬので……