「モンスターの沈静化はどうなっている!?」
「沈静化の報告はあがって来てます!ですがまだ多数のモンスターが暴れていて楽観は出来ません!」
吹き荒ぶ嵐の渦中にあるギルド内
「終わった者へ新たに追加依頼を出せ!普段惜しみ無く支援してるぶん働かせろ!嫌ならハンター資格を取り上げろッ!!」
町の壊滅の危機においてもギルドの掲げる信念に基づき業務は遂行されている
「クシャルダオラは!!?」
そして目下の脅威への迎撃進捗
「そ、それが……」
受付嬢が困り果て、言うのも苦しそうにもたらされた情報を口にした
「迎撃隊は敗北……ほぼ壊滅状態との事です」
「「「何だと!!?」」」
上層部の驚愕の声が響き慌ただしかったギルド内が静寂に包まれる
「た、確かなのか……?」
「ハイ……危険時には逃げるのを許可された下位ハンターからの確かな情報です」
「……そうか」
迎撃隊の敗北とは則ち町の壊滅を意味する
町民を外へ待避させる事が業務より優先となったのだ
則ち町の放棄
「……現時点で業務を放棄し町民の避難を第一とする、クシャルダオラに町が破壊される前に1人でも多く外へ避難させろ」
その声に力は無かった
任せたハンター達の敗北は信じて送り出した者達の生気を奪うには充分過ぎる事実であったのだ
「……待つのじゃ」
大長老の声に皆は視線を集める
「ほぼ……と言ったな?ならば彼はどうなった?彼もやられたのか?」
「それ……は……」
受付嬢は言葉を濁す
「聞いた限りでは逃げる前に最後に残っていたのは彼だったとは聞いてはいますが……その後の情報はありません」
戦ってやられたのか下位ハンター2人とは違う場所へ逃げたのかわからないのだ
「……至急外の様子を確認しろ、ギルドを出たすぐでよい……クシャルダオラの蹂躙が始まっているのならわかる筈だ」
ギルド員が嵐の外へ向かい、伝言方式ですぐに状況が知らされた
「今だ破壊音、形跡無し!砦方面からクシャルダオラと思われる咆哮を確認!」
その知らせを聞いてギルド員達は大長老へ答えを求める視線を向ける
「……戦ってくれているのだ、彼が」
大長老はそう言った
「間違いない」
確認もしていない、状況からの推測に過ぎないのに大長老はそう断言した
「業務を続けよ!我等には未来の大英雄が付いておる!心配は要らん!」
「「「……了解しました!!」」」
ギルド員達は信じた
真実も定かでない希望を一様に信じた
「沈静化の続きの情報をくれ!」
「残業代出ますよね大長老様!?」
彼等は皆知っているのだ
あの魔境と名高きFクラスに不相応な装備で挑み続ける
「今日は失敗したなんて言わないでくださいね!」
男の姿を……
「どらああああッ!!」
振りかぶった大剣とクシャルダオラの尾がぶつかる
ガァン!
甲高く響く金音が威力の高さを物語る
「ッチィ!?」
弾かれた大剣ごと飛ばされないように踏み止まりすぐさま回避運動に移る
「グオオッ!!」
直後に男が居た場所をクシャルダオラの前足が引き裂き大地に深い爪痕を刻み込む
「ガァッ!!」
男へ目掛けブレスを撃つ、それを前転回避で潜り抜けた男は大剣を振り下ろす
「この位置ならァ……!!」
大剣の切っ先がクシャルダオラの頭部へ命中し古龍の血を飛散させながら怯ませる
「効いたかよ?親方の武器は痛ぇだろ!」
クシャルダオラと一定の距離を死守しながら頭へ攻撃を加える男
「フゥ……フゥゥゥゥ……!」
その距離は生命線
龍風圧と呼ばれる暴風にギリギリ堪えられ大剣をギリギリ届かせる生死のライン
4人が戦っている時に観察して得た生死の間際
近ければ龍風圧に体を崩され殺される、遠ければ攻撃は届かず詰め殺される
生を得るには戦うしかない男は極限の刹那で抗っていた
「……ッ!?クソッ!!」
大剣が頭部を切らず空を切る、距離が僅かに遠かった、隙を晒す
「ヤベ……ェ……!?」
クシャルダオラの攻撃が来るのを予感した男は攻撃より先にクシャルダオラへ飛び込み龍風圧を受けよろめき倒れた、その直後に男を見失ったクシャルダオラの攻撃が空を切り、先を読んだ故に出来た僅かな隙に立ち上がり体勢を整える
「フゥゥゥ……」
雨でわからないが男は尋常ではない汗をかいている、それ程までに生死のラインを維持するのは汗と同じく尋常ではない集中力が必要なのだ
(このままじゃ死ぬな……)
男は敗北を予感していた
4人と戦い撃龍槍を受け大きなダメージを負っていて更に結構な攻撃を加えたのにまだクシャルダオラの勢いが止まらないどころか緩みもしないのだ
対して自分は極限状態に精神の疲労を感じ始めている
これまで得た膨大な経験からこのままではそう長くない時間で詰むと確信出来てしまったのだ
(どうにかしねぇと……何か……何かないか!?)
相手の出方を伺い睨み合う一瞬の膠着
「……!」
男の足に何かが軽く当たった
隙を晒さぬよう一瞬の目配せで足元を確認する
(……!こいつは……使えるか?)
一瞬故に詳細まで確認は出来なかったが男は期待通りであれとクシャルダオラから目を離さず即座にしゃがみ、足元のモノを掴むと手首の返しで投げつけた
「……ッグオォ!?」
それは見事にクシャルダオラの眼に刺さり怯ませる
「上手く刺さっ、ラッ……毒付いてろよ!」
思わぬ成果に言葉を混乱させながら足元にまだ落ちている投げナイフを数本投げつけた
「グオオッ!?」
龍鱗に弾かれたナイフもあったが頭部の傷口に2本が抉るように突き刺さる
(毒付いてんのか付いてねぇのか……)
大剣を振り下ろす
男が見つけたのは4人の内の誰かが持っていて吹き飛ばされた時に落として散らばった投げナイフだった
(どっちだ!?)
刺さったナイフが打ち込まれるように大剣に叩きつけられクシャルダオラが苦悶の声をあげ後退する
毒が付いた毒投げナイフならクシャルダオラを毒状態に出来て纏う風鎧を剥がせるからだ
(どっちにしろだがよ……!)
男は毒投げナイフの確率は高いとふんでいた、何故なら相手は毒が有効なクシャルダオラ、戦闘中に調合するつもりでもなければ落ちていたナイフは毒付きだと信じたのだ
「グオオオオオッ!!?」
追撃の回転切りが頭部に命中したクシャルダオラは呻きをあげながら横転し悶える
(……チャンス?)
毒投げナイフだろうがそうでなかろうが攻撃しなければならない事は変わらない、毒になれば戦い易くなるだけの話でしかない、ナイフに毒が付いていた場合は棚ぼたでしかないのだから
(チャンスか……!)
明らかな無防備状態と判断した男が大剣を構え力を集中する
(頭が暴れてやがる……暴れんなよクソッ!)
苦痛の悶えが狙いを定めさせない
「~~~ッ!?当たれクソがァ!!」
祈りも込めて溜め3切り
「グガァァァァァァッ!!?」
その切っ先は運か実力かクシャルダオラの頭部を捉え顔面に斜めに大きく走る切り傷を刻みこんだ
「ガッ……グゥオオッ……!!」
立ち上がったクシャルダオラだが様子が異なる、それを男はすぐに気付いた
(風が無くなってやがる!やっぱ毒付きだったか!)
厄介な風鎧の消失に加え度重なったダメージと毒により苦しそうに見えるクシャルダオラに男の戦気は高ぶりを見せる
(今しか……今しかねぇ!!)
千載一遇の攻め時は今、この時をおいて無い、逃せば詰み
そう確信した男は集中力を最大限に駆けた
後の事を考えずに
「オラアアアアッ!!」
力の限り攻めた、死を相手に
「くたばれクソ古龍がぁぁぁ!!」
死と踊る
「ガッ……グオオオオォウッ!!?」
クシャルダオラの耳をつんざく咆哮を前転回避で抜けた男の一撃で怯まされ咆哮は止められる、こうすれば咆哮を回避出来ると幾多の経験から男が習得した技
「グオォ……オオオッ!!」
バックステップの動きから翼を羽ばたかせ滞空、ブレスで狙い撃とうと首を竦めた瞬間、クシャルダオラの視界が閃光に包まれた
「やっぱ持ってて正解だった……なぁ!」
読んでいた男の置き閃光玉がクシャルダオラを墜落させ混乱するクシャルダオラのラッキーパンチに気をつけつつ確実に大剣を叩き込む
「ガァッ!?グッ……ガッ……グオオォ……!?」
何度も襲い来る大剣の嵐舞にクシャルダオラの様子に変化が起きた
「グオオオオオオオオッ!!」
咆哮をあげた次の瞬間、突然クシャルダオラは飛び上がった
滞空ではなく上空へ向かって空高く
「あ?何だ?」
意図の読めない行動に怪訝な顔で見つめる男の前で
(おいどこ行くんだよテメェ……)
クシャルダオラは彼方へ飛び去って行ったのだった
嵐を連れて……
「……逃げたって……事か?」
少しの間警戒していたが嵐は完全に去り天気も回復し何の脅威も感じない事を何度も確認した男は大きく息を吐いてその場に座り込んだ
「撃退成功……でいいんだよな……?討伐は出来なかったけど……いいんだよな?撃退でも……」
脅威は去ったのだ
「はぁ~~~っ……疲れた……」
また大きな息を吐き、快晴の空を見上げる
「これでちっとはギルドに恩返し出来たかねぇ」
そんな事を呟き空を眺めていると遠くから声が聞こえ顔を向ける
「居たッ!居ましたッ!良かった生きてたぁー!」
受付嬢等ギルドの職員が迎撃隊を探しに来たのだ
「おーお疲れさん」
手を振る男の顔は笑っていた
「えーモンスターの活性化は大陸各地のギルドと諸君等ハンター達の協力でほぼ沈静化出来た、残りは緊急性が低いので後日改めて沈静化に向かってもらう、一先ずは礼を言わせてくれ……ありがとう」
2日後の夜、集まったハンター達へギルドの大幹部が今回の事件の顛末と感謝を述べている
「活性化の原因については現在調査中だ、判明次第ギルドで発表するので憶測やデマを広めないようにしてくれ」
ハンター達はよかったと頷いている
「次にこの町を襲ったクシャルダオラ襲撃に関してだが……迎撃に参加したメンバーは前に来てくれ」
出て来た8人が全ハンター達の前に並ぶ
「君達のお陰で町は嵐による軽微な破損以外無傷で済み町民も無事だった、ありがとう……よくぞ古龍を相手に勇敢に戦ってくれた、君達の勇気に敬意を表す」
危険度で言えばクシャルダオラ襲撃の方が上であり重大だった、外で暴れるモンスターも危険だが人の生活圏に直接乗り込んできた災害の方が当然危険なのである
故に感謝も大きい
「……」
男は何も言わず黙って聞いている、俺がやりましたとかそんな事は主張する気も無い、何故ならチームでやった事だから功績もチームの物だと思っているから
そう沈黙する男の前でギルドナイトの男が喋りだした
「何て事なかったですよ」
(……は?)
事も無げに言い放たれた言葉に男の眉がピクリと動いた
(テメーG級と一緒にどっかの一乙おじさんみてぇな声出して乙ってたじゃねぇかよ)
一乙おじさんとは「狩りに生きる」で特集された謎のネタハンターである
(我慢だ我慢……俺達はチームだったんだ、隊長が何て事なかったと思うなら合わせろ……ブッ殺したいが我慢だ我慢)
怒りを抑え無表情に努める男の前で次はG級の男が喋りだした
「俺達にかかれば古龍だろうと楽勝だよ!」
(……あ?)
男の額に青筋が浮かんだ
(俺が1人で撃退したのテメー等4人でもたもた苦戦してたじゃねぇか!撃龍槍まで使って乙ってたじゃねぇか!)
男の怒りはかなり沸騰していた
(いや待て我慢だ、せっかくの場でキレちゃギルドに迷惑かける、命令違反蒸し返されてクビなんてなったら目も当てらんねぇぞ!我慢だ……ブッ殺したいが我慢だ!)
しかしそこは流石に常識ある大人、空気を読んで歯を食い縛り我慢している
「静かにしたまえ……」
大幹部は言うがギルドナイトとG級は気にする事なく互いの腕を交差させ、高らかに言った
「やったな私達!」
「ああ!!」
まるで2人だけでやりましたと言っているようにしか見えなかった
「ざけんなテメゴラァ!!」
2人は床に顔を叩きつけられた
ギルドの時が止まる
「俺達皆の手柄だろうが?テメー等の手柄じゃねぇだろうが、ああ!?」
G級の後頭部を持ち上げ叩きつける、鼻血を出しながらGは既に気絶していた
「ごふっ……な、何を言っている!?私達2人が与えた多大な蓄積ダメージと撃龍槍へ誘導した作戦が撃退の決め手だっただろう!?」
「それは確かにそうだ!でも最後にやったのは俺だコラッ!」
ギルドナイトの後頭部を持ち上げ床へ叩きつける
「ぶはっ!?う、嘘を言うな!誰も見てないぞ!?」
「でも!やったのは!俺!何だよ!」
一言毎にリズミカルに叩きつけられるギルドナイト、あまりにショッキングな映像にギルドの時はまだ動かない
「あとテメーが俺の事イカレポンチって言った事忘れてねーぞ!あ"あ"!?」
完全にキレた男は止まらない、ブッ殺す事しかもう頭に無い
ガンガンガン
既に気絶しているG級にも攻撃を加え始める
「オイ止めろ!このままでは2人が死んでしまう!?」
ようやく時が動いたギルドの大幹部の言葉にハンター達が男を取り押さえようと大勢が掴みかかる
「死ねコラァァァ……!!」
「な、何て力だこいつ!?バケモンだ……!?」
数人で押さえてるのに男はまだ動きギルドナイトを殴っている
「おい」
誰かが男に声をかけた
「……!」
男の動きが止まり声の主を見上げる
「それぐらいにしといてやれ」
大男だった
その後ろには小男と女も居る
「……わかったよ」
了承した男は取り付くハンター達を力任せに振り払い既に気絶しているギルドナイトを床に放りギルドの大幹部へバツが悪そうに言った
「すんません……責任は取ります、俺はクビでも何でもいいんで好きにしてください、ですがどうかこの2人じゃなくチーム全員を労ってやってください、俺達皆で撃退したんです……お願いします」
それだけ言うと男はギルドを出て行った、後に大男達3人も続いて……
「おっと遅かったようじゃな」
大長老が現れ惨劇を見て髭を擦る
「本当に遅いですよ大長老様……死人が出るところでした」
「フォッフォッ!まぁこの2人には良い薬だろう、事実を誤認したまま勘違いする恐怖を知る良い機会じゃろうて」
ギルドは全てを知っていた
あのクシャルダオラ戦の時も男の監視役のアイルーが付いており全てを見ていたのだ
「皆……クシャルダオラは最後に彼の手で撃退された」
大長老直々の説明
「嘘かと思うがこれは事実、この延びとる2人は目覚めたらクシャルダオラが居ないから撃龍槍のダメージが原因で気絶した後逃げ去ったと勘違いしたみたいだが……この2人を合わせ5人を退けたクシャルダオラを撃退し町を救ったのは間違いなく彼だ」
疑う声を出す者は居ない
「本来なら彼の功績となるが彼も言った通りチームで臨んだ迎撃戦だ、功績はチームに与えられる……隊長だったギルドナイトと言えど隊長の責任対価として多少の割り増しはされど独占などは有り得ない、この件に関してもギルドは彼と同じ考えだ」
これも異を唱える者は居ない、さっきの2人のやり取りを面白くないと思っていた迎撃メンバーはちゃんと評価してくれると喜んですらいる
「つまりだ……正当な主張をした彼は悪くない、これはやり過ぎではあるがな……よって彼の迎撃功績で暴行罪禍を相殺させお咎め無しとしたいがどうだろう?」
ハンター達は頷いた、それで構わないという事だ
「ありがとう……では気になっているだろう彼についてだが、すまぬが話せる事は無い、これまで通り干渉無しで頼みたい」
ハンター達は力の限り全力で頷いている
(((あんな狂犬に関わりたくねぇ……)))
ボロクズのようにされる惨劇を見ていた全員の思いは一致していた
触らぬ神に何とやらである
男の逆鱗に触れて血祭りにされたくないのである
これで男はこれからは凄いがキレたらヤベー奴としてこれまでと同じく無視されて過ごす事になる
(もうバカにすんのやめとこ……殺される)
(死ねとか思ってスンマセンでしたー!)
ギルドの猛り暴れる狂人として……
 ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_ ̄_
-???-
「帰らなくていいの?」
図鑑を読んでいた白いドレスの少女が問うと男の子はハッと思い出したように慌てだした
「おじいしゃんにおこらえる!?」
白い少女の膝から降りて本を手渡される
「お姉しゃん!お兄しゃん!ありあとう!」
男の子は図鑑を大事に抱え笑っている
「またご本よんで……!ばいばい……!」
来た道を拙い足でいそいそと帰って行った
「またね……」
白い少女は男の子の背に向けて手をヒラヒラ振っている
「楽しかったようだな、それは何よりだが漏れているぞ?」
「あら本当……」
白い少女は立ち上る禁忌のオーラを止めた
「影響が出るだろう、過去か現在か未来か……我等にはどうでもよい事ではあるがな」
「ええ、どうでもいい事よ……人の誰が死のうが龍のどれが死のうが……」
白い少女は楽し気に踊る
「我等以外の誰が死のうが……」
運命の名の元に……
何か長くなるんだよな……2話分くらいある。
書いてたらいつの間にかこんなに書いてた……有ると思います。
このクシャルダオラは超強化個体ではありますがそれでもFクラスの上位程度の実力しかありません、Fはホントに魔境なんすわ……
これにて中盤は終わり、終盤へ向けて主人公の不幸が加速して行きます。