「すまん……また失敗だった」
今日の男のクエストはダイミョウザザミの狩猟だった
「聞きましたよ……乱入があったらしいですね」
担当受付嬢が暗い顔で言う
「ああ、見た事ねぇモンスターだった、図鑑にも載ってなかったと思う……何なんだあの蟹?みてぇなモンスター、甲殻種の新種か?」
「え、ああ……そう、ですね……多分……」
焦る汗を一筋流しながら受付嬢はぎこちなく笑っている
「やっぱそうだよな?アレの乱入がなきゃダイミョウザザミ狩れてたっつーのにクソッ……ダイミョウザザミが逃げやがって時間足りなくなって腹立ったからそいつハンマーでドツキ回してやったぜ、勝てなかったけどよ……倒せてたら俺が新種発見者になれてたかもしれねぇのに惜しかったな」
久々にクエスト達成が出来ると思っていた男はしょんぼりしていた
「こ、今回はしょうがないですって!次!次頑張りましょう!ハイ補償金です!忙しいのでそれではまた!」
受付嬢はお金を置いてそそくさと奥へ引っ込んだ
「……」
置かれたお金を見つめる男
「はぁ……」
情けないと知りつつも手に取りギルドを出ていった
「~~~~ッ!?」
ギルドの奥で受付嬢は不満気に頭を掻く
(事前調査でF独自のモンスターは居ない筈だったのに……!)
今回の男のクエスト内容に不満があったのだ
(タイクンザムザ……こっちには居ないF領域だけに生息する甲殻種)
男が戦ったのはFクラスのみに存在するモンスターだった、本家には存在すら知られていない
(あの人にバレないように本家と被るモンスターとしか戦わせなかったのに……あーもう!)
これも大長老の計画の一部、まずは本家と被るモンスターとだけ戦わせて地力をつける目的だったのだ
(でもしょうがない部分もあるか……だってモンスターの事だもん、予想外の事は起きる……むしろ今まで上手く行き過ぎてた、か……)
報告書を纏めながら所感も足していく
(あの人もただの新種で納得してくれてるみたいだし今回は大丈夫そうかな、でもコレが続いたら流石に危ない……よねぇ)
少し考えるも決めるのは上の人間だと切り替えた受付嬢は報告書を渡しに行くのだった
(ていうか……初めて見る新種のモンスター、しかもFクラスを八つ当たりでドツキ回すって……何それ怖ッ!)
「ん~……暇だな、飯にはちっと早いしどうすっかな」
町をぶらぶらと眺めながら男は歩いていた
(あ、待てよ?ようやく素材集まってきた筈だよな?久々に鍛冶屋行ってみるか?)
一瞬逡巡し
(行くか!)
足を向けた
「うーす、親方~久々~!」
鍛冶屋に来た男の声が響き奥から鍛冶士が顔を出す
「あ?お前昔に見た事あんな?」
「ああ、新米の時に来た以来だから数年前だな」
「顔見せねぇからとっくに死んでると思ってたぜ」
「勝手に殺すんじゃねぇ」
他愛の無い会話をしていると親方がふと男の顔を凝視する
「なんだよ?」
「……ちょっと待て」
奥に戻った親方は置いてある紙を眺め始める、その紙には似顔絵と注意事項のような事が書いてあった
「……あいつだったのかよ、ギルドの大英雄候補ってのは」
男の事はギルドを通して町全体に知らされている、特にハンターが利用する施設などには通達がなされていた
(でもわからんでもないな、初めて見た時より風格が段違いになってやがる……死線を常時潜ってる歴戦のハンターみてぇな、な……)
(だがその割には覇気がねぇな……上手くやれてねぇんじゃねぇのかギルドは?)
男の事情を察した親方は何も無いように奥から戻っていく
「どしたよ?」
「炉の火ぃ消し忘れてたんだよ」
「そりゃ危ねぇな」
男は何も疑っていない
「そんで?今日は何の用だ?」
「ようやく素材が貯まったからよ、武器を鍛えて貰おうと思ってな」
「ほぉう?何を鍛えんだ?」
「大剣とハンマーと弓だな」
「3つか……見せてみろ」
武器を出すと親方は顔を歪めた
「お前コレ……ギルドの支給品じゃねぇか、ずっと使ってたのか?」
それはボーン装備と呼ばれる最安価の武器、新米にギルドが支給する練習用の武器、これで自分に合う武器を見つけて鍛えて行けよ!という意味を持つお試し用の武器
「ああ……金も素材も無くてな、コレで頑張ってた」
「おいちょっと、ちょっと待て……」
親方は頭を抱えた
(イカれてやがる……こんなゴミで数年戦って来たってのかコイツは?)
普通のハンターならば絶体にしない所業、イカれと言われてもしょうがない
(詳しくは知らねぇがギルドは何がしてぇんだ?武器ぐらいどうにかしてやれねぇのかよ、それともこいつの問題か?)
「俺も鍛えようと思ってたんだがよ?ほら、1段階くらいじゃ大した差はねぇから2、3段階くらい一気にやりたかったんだよ!そんで時間掛かったわけだ、達成率も悪かったし」
(こいつの問題だったな……ギルドも勧めたがこいつのこだわりが邪魔してたって事か)
何処かで受付嬢が「そうなんです~!」と叫んでいる様
「ああわかった、素材はあんだろ?」
「当然あるぜ!」
男が素材を並べると親方が数える
「数は……少し余るな、防具でも作るか?どっかの部位の1つくらいなら造れるぞ?」
親方が顔を上げると男の表情は消えていた
「いや、防具は要らん」
「あ?何でだ?」
「1発食らったら終わるからだよ、防御力が10や100上がったところで何の意味もねぇ、避けるのが一番だ、当たらなければどうという事は無いってやつだな、ハハッ」
「ッ……!」
その諦観した絶望の顔に親方の肝が冷えた
(どんな地獄で戦ってんだこいつぁ……!)
他のハンターはモンスターからの攻撃に備えて防具を付けるのにそれを無意味と一蹴する経験からくる断言、すなわちそれはそういう場所で戦っているという証左
「いや……だがな」
防具には防御力だけではなくスキルと呼ばれるハンターに加護のように有利にする効果もある、親方はそれすら知らないのではと思い口に出そうとするが
「要らん」
「……ッ!!?」
余りに覚悟が決まった言葉に口を紡ぐしかなかった
「わかった……武器だけだな、鍛えてやるよ」
「おうサンキューな!」
男は嬉しそうな笑顔を出す
「これで狩りもちっとは楽になりゃいいな~達成率も上がると万々歳だ」
「……お前なら出来るだろうさ」
親方は小さく呟く
「あ?今何か言ったか?」
「良いの造ってやるっつったんだ、ちょっと待ってろ!」
「う~い!飯でも食ってくらぁ!」
男は上機嫌に出ていった
「どうかね彼は?」
会議室に集まるギルドの上役達
「Fクラスの独自モンスターと遭遇したと聞いたが?」
「新種と勘違いしているようで問題はないかと、あくまで今回は……ですが」
「流石にモンスターの出現まで読めんからな……こうなって来たらそろそろ段階を上げて本格的にFクラスと関わらせては?」
「それはそうなんですが……なにぶん、本人が本家のレベルの中で落ちこぼれの認識ですから何年も騙されていたと知ったらどうなるか……このギルド皆殺しにされるかもしれません」
「有り得るのが怖いね……このやり方間違ってません?今更ですが……」
「発案者の大長老様が責任取ってくれるさ、ね?大長老?」
「そこは皆で謝ろうじゃないか」
「イヤっすねー」
「イヤだニャー」
「まぁ冗談は置いといて……前に懸念に上がっていた精神面だけど、短期間だけクエストを本家に戻して達成率を上げてもらって自信を付けて貰うのはどうだろう?」
「難易度の落差が違い過ぎて無理ですよ、Fクラスに戻って来た時に何て言えばいいんですか!怪しいだけですよ!」
「うーん……ギルドのそれなりの武器でも支給するかい?まだ支給品だろ彼?信じられないけど」
「それに関しては色々言ってはいるんですがどうにも暖簾に腕押しで……自分で鍛えて行きたいらしくいつも断られています」
「「「うーん……」」」
会議は進まない
「そういえばタイクンザムザと戦ったって聞いたがどうだったんだ?さすがに初見のモンスターじゃすぐやられたんだろ?」
「ボコボコにしてたニャー!」
「「「は?」」」
「ダイミョウザザミに逃げられてキレた旦那にドツキ回されてたニャ!あの勢いは時間があったら倒せてたニャ!」
「「「何それこっわ」」」
ギルドの秘密育成員達の心配を他所に
新しい武器を造って攻撃力が上がりモンスターと戦い易くなり達成率が少し上がった事で男のメンタルはちょっぴり回復したのだった
休みで時間あったので投稿。
この作品はこんな感じの短い話を続けるスタイルになりそうです。
最後の展開は決めてますが途中は全然考えてないので逆算しながら適当に肉付けしていきます。
・登場キャラ紹介
男ハンター
手違いでフロンティアの魔境に送られて何も知らずに無我夢中で戦ってクエスト達成してしまった故にギルドの上層部に目をつけられた可哀相なハンター。
ヤル気はあるのにギルドの陰謀によって落ちこぼれと思い込む不幸な男。
後の大英雄。