「ふんふんふーん♪」
自宅で男は上機嫌に鼻唄を奏でている
(今日から俺も上位ハンター……長かったなぁ)
先日のドラギュロスの1件の後、数度のクエストを達成した後に男は上位ハンターの認定を貰っていた
「うし!ギルド行く前に勉強しとくか!」
置いてある図鑑を広げる
これはギルドが男に渡したFクラスモンスターの図鑑
(あ、この前のクソボケモンスターじゃねぇか、名前はドラギュロス……クエスト有ったくらいだから先に見つけられてて当然か、あ……前にドツキ回した蟹だ、タイクンザムザ……ふぅん)
これを最近発見された新種モンスターの図鑑として男に渡し知らぬままFクラスモンスターと戦わせようとするギルドの卑劣な策略
男がまともに話すのはG級3人と受付嬢だけなのでバレないのだ
(古龍にも新種……あ?分類不明モンスター?なんだそりゃ?……大巌竜ラヴィエンテ……デカッ!?ラオシャンロンの数倍デケェのかよ!?なんっだそりゃ!バカか!?)
図鑑を楽しく見ている、男の子はいつだってこういうのが好きなのだ
(そういやデカイのは前にもギルドから発表されてたな……何だったっけあの蛇、名前は確かダラ……あーそいつとどっちがデカイんだぁ?)
どっちがデカイんだや強いんだは男の子の誰しもが考えるあるある
「まっ俺にゃあ夢のまた夢ってね」
そんなモンスターと戦う日が来るのは遥かな遠くだと思い、遠いが見える故にいつかを想う
(帰ってからまた見るか)
そうやって何度も読み込んで頭に刻む、男には好きな作業なので改めて読むのを楽しみにすらして図鑑を閉じギルドへ向かう
「さぁて……上位はどんなもんかねぇ」
「今日はアクラ・ヴァシムです」
受付嬢は今日も元気にニコニコ笑顔
「そいつって確かサソリみてぇなヤツだったっけか?図鑑でチラッと見たな」
「そですそです、甲殻種のモンスターですね」
「甲殻種?サソリなのにダイミョウザザミとかと一緒だってのか?」
「そです、甲殻種です」
「虫だろ?甲虫種だろ」
「甲殻種です、ハンターさんの誰が何と言おうと甲殻種です、偉ーい学者さんがそう決めたので甲殻種です」
「節穴じゃねぇのかその学者?」
「あまり気にしない方が良いですよ、この業界は不思議と神秘で溢れてますから」
「そんなもんか、言われてみりゃそこまで気にするこっちゃねぇな確かに」
納得して男はクエストを受注する
「気をつけてくださいね」
「誰に言ってやがる、俺は上位ハンターだぜ?楽勝で狩ってきてやらぁ」
意気揚々と男は出発した
「ごふっ……」
クエストは失敗していた
(強ぇ……戦えたけど勝てなかった……)
前のように驕りや油断も無かったが普通に負けた
(ん~……下位の時と一緒になるか?)
前に狩猟したドラギュロスは上位相当の個体だったがクエスト内容を詳しく知らされていない男は下位と思っていて上位の認識は無い、今回が初めての上位挑戦と思っている
(そいつは避けてぇが……)
あの時はキレてたのと集中力が高まっていた事に加え下位と思い込んでいた事が奇跡的に噛み合い初見のモンスターに異常な対応力を発揮して倒したのだ
平時はこんなものだった
(早く勝てるようにならねぇと……)
男が思うのはギルドへの迷惑と
(あー帰りたくねぇ……)
受付嬢に格好つけた手前、合わす顔が無かった事だった
「わりぃ……失敗だった」
恥ずかしくて顔が見れない男
「初見じゃ仕方無いですよ、でも残念でしたね」
受付嬢はいつもと変わらず応える
「これからですよこれから!」
「あー……」
気の悪い返事をする男に受付嬢は首を傾げる
「どうかしました?」
受付嬢からすれば失敗は当然の場所なので特に思う事も無い、男が今朝に言った格好つけも男のハンターなら誰しもがやる事なのでいちいち気にする事でもない、だから本当に何とも思ってない
「いや……何でもねぇ」
「そうですか!ではハイッ!補償金どうぞ~!」
クエスト失敗時に払われる男だけの特別措置
「……すまねぇ」
遠慮気味に受け取りギルドを出ていく
「はぁ……」
大きな溜め息を吐きながら
「ぐぬぅ……」
今日も失敗
(上位にもなるとキチィな……やっぱよ)
ここ十数回のクエストの殆どが失敗していた
(戦えてはいるんだがなぁ、初見のもそれなりに……慣れたヤツは上手く行きゃ勝てるし)
手応えはあれど上手くいかない、下位の時と同じ状態になっていた
(時間が足りねぇんだよなぁ、長いと集中力も切れるし……このままじゃまた迷惑しかかけねぇ、それはマズイ……)
男の一番の優先はギルドへの貢献、それが果たせずにいる現状が最も男を焦らせる
(となるとやっぱり……)
持つ武器を見る
(これかねぇ)
男は鍛冶屋へ向かう事を決めた
「親方~久々~!」
「あ~?今手紙読んで忙し……なんだお前か、今回は早かったな、また年単位と思ってたぜ小僧」
「ハハッ……いやまぁ……ハハッ」
「言い返せねぇからって笑って誤魔化すなアホンダラ」
フンっと鼻息を鳴らして親方は男を睨む
「んで?今日は何の用だ?ついに防具作る気になったか?あ?」
「いや、防具は要らねぇ」
相変わらず防具に関しては無表情の男に親方は引いてしまう
「ッ……ならまた武器の強化か、素材はあんのか?」
「こんだけ有る」
男は持てる下位素材を全て並べる
「ふぅん……」
数える親方
(少ねぇな……これだと小僧の武器じゃ下位の最終段階の2つ手前が限界だ)
男をチラリと見る
「お前、上位に上がれたのか?まだ下位か?」
「んあ?ああ……最近上位に上がれたよ、やっとな……苦戦してっけど」
「ほぉう……」
親方は数え終えている素材をまだ数えられてない風に装いながら難しい顔をしている
(鍛えたとは言えゴミに多少毛が生えたレベルの武器でよくもまぁ上位に上がれて戦えてるもんだ……)
上位ともなると下位とは全てにおいてレベルが違う、モンスターの体力など比ではないのだ、それに男の持つ武器はFクラスの武器であるF規格ではなく本家の武器、圧倒的に火力不足なのである
もっとも親方は本家の専門鍛冶屋でありFの存在は知らないが本家の話だとしても火力不足は変わらない
ちなみに男が狩猟したFクラスモンスターの素材は剥ぎ取り分も含めて全て本家モンスターの素材とすり替えられている、ドラギュロスの素材はまだ新種で解明がされてないので使い道がまだ無いと言われており鍛冶屋に出しても混乱するから出すなと言われている、他のFクラスモンスターの素材も同様
「…………」
親方は少し考える
「お前のメインは大剣とハンマーと弓だったな?数はギリギリ足りる、最終段階まで鍛えれるぜ」
「……はぁ?ホントかよ?」
男は不思議な声をあげた
「俺の目算だが全然足りねぇだろ?」
要求数に足りてないと思っているからだ
「やかましいぞドシロウトが!オレが足りてるって言ったら足りてんだよ!それとも何か?オレが耄碌してるって言いてぇのか!あぁ!?」
親方に凄まれ男は怯む
「あ、いや……足りてんならいいんだよ、文句なんかねぇって……んな怒んなよ親方」
「わかりゃいいんだわかりゃ、ったくドシロウトが二度と生意気な口きくんじゃねぇぞ!わかったか!」
「わかったって……悪かったよ」
親方の勢いに謝る男
「わかったら武器出せ、強化しといてやる」
「あいよ、んじゃ頼んだぜ」
武器を置いて出ていく男
「っかしーな、足りねぇ筈なんだが……」
納得いかないとブツブツ言いながら……
「……フンッ」
男が見えなくなったのを確認した親方は鼻を鳴らす
(赤字だな……まぁ下位素材だからそこまでデカイ赤字じゃあねぇが)
男の思った通り素材は足りていない、不足は親方が負担するのだ
(どうにもオレァああいうのに弱い……応援したくなっちまうんだよな、あんなめげずにひたむきに頑張るヤツってのを……)
これは親方の厚意、個人的に気に入ったハンターへ個人的にする贔屓
この鍛冶屋の責任者である自分がする、誰にも文句は言わせない贔屓
(ああそうだ、そういや通達来てたんだったなギルドから……)
奥に入って途中だった手紙に目を通す
(装備鍛錬資格に関する呼び出し、か……G級以上の新規格でも出やがったか?ふぅん……)
内容の詳細は伏せられていて拒否も出来るが来た場合にも守秘義務が発生すると念押しされている
「面白そうだ、新規格とくらぁ鍛冶屋の腕が鳴るってもんよ!」
行く事を決めた親方は男の装備の強化に乗り出す
後日、ギルドでFクラスと男の取り巻く環境を知らされた親方がギルドの陰険なやり方に激怒して大暴れした事を男は知らない
鍛冶屋の親方は口は職人気質で悪いけどめっちゃ良い人。
G級3人がライバルや悪友なら親方は兄貴や親父タイプ、気に入った相手には厳しくも可愛がる見えないツンデレタイプ。