―――武道家『ブルース・リー』
「…ンッ?」
翌朝、普段から早起きのネイトは日が昇らないうちに目が覚めた。
目を開けると見慣れない天井だったが…
(あ、そうか…ゲーム開発部の部室で寝たんだ…。)
寝る前のことを思い出しゆっくりと身を起こすと…
「………。」
「…アリス?」
ゲームをポーズさせたままネイトを見つめているアリスがいた。
「おはよう、どうかしたのか?」
「…ようやく気が付いたか。無事に目を覚ましたようで何よりだ、君は運がいいな。」
起きたネイトに昨日よりもバリエーション豊かな言葉で声をかけるアリス。
「…あぁ、まぁ言葉は結構覚えることはできたみたいだな。」
「君の言葉を肯定しよう、必滅者よ。」
「…やっぱりゲームばかりで覚えさせるのは無理があったか…?」
しかし、だいぶ偏りのある内容。
プレイしたのがモモイ達の持つレトロゲームばかりなのだから無理もないが…。
「あぁっとそれからな。朝起きたり出会った人には『おはよう』っていうものだぞ?」
「…ゲームの宿屋のセリフで覚えました。おはようございます、ネイト、さん。」
「そう、上手だ。改めておはよう、アリス。」
そんな風に会話をしていると…
「んみゅ…あれぇ、ネイトさんにアリスぅ…?」
目をこすりながらモモイも起き上がった。
「起こしてしまったか?」
「ん~ん大丈夫ぅ。おはよう、二人ともぉ…。」
「あぁ。おはよう、モモイ。」
「おはようございます。」
そんな彼女にネイトとアリスが挨拶をすると…
「…んんっ!?今アリス、おはようって言った?!」
モモイの脳が一気に覚醒、目を見開き朝の挨拶をしたアリスを見る。
が、いささか声が大きかったせいか…
「うるさいなぁ…!静かにしてよ、お姉ちゃん…!」
「ふぁ…皆、おはよう…。」
「い、いけない…。いつのまにか寝てしまっていた…。」
ミドリたちも目を覚ましてしまった。
「おはよう、皆!だけどっそれどころじゃないよ!アリスが!」
「アリスちゃんがどうしたの…。」
なおも騒がしいモモイに怪訝そうな表情を浮かべるミドリだが…
「おはようございます。」
「…えッ!?アリスちゃんが挨拶を…!」
「そ、それにすっごくなめらか、だった…!」
「おっおはよう、アリス。凄いね、もう挨拶も覚えたのかい?」
アリスからおはようと声を掛けられ同じく驚く。
ユズと先生も同じように目を見開いていた。
「おはよう、三人とも。アリスはすごいぞ、教えたらすぐに理解してくれた。」
「はい、目覚めた時と朝に出会った人物に掛ける挨拶と学習しました。」
「凄いね、アリスちゃん。今のあいさつ凄く自然だったよ。」
「…なるほど、単語とその意味に使うタイミングを教えれば…。」
「で、でも、やっぱりネイトさん、教えるのが上手。」
「昨日は『おかえり』も覚えられたもんな、アリス。」
何はともあれまた一歩、アリスの言語能力が向上したことを確認できミドリたちも嬉しそうだ。
「…でも早く起きすぎちゃったなぁ。」
まだ日も昇っていないような時間、これから動き出すのはまだ少し早い。
「じゃあ、アリスちゃんのゲームをまた見てる?」
「アリスちゃん、一晩中やって、疲れてない?」
「この程度の鍛錬などあくびも出ないわ。」
「…大丈夫…そうだね。」
そんな感じで再びアリスのプレイする様子を眺めてようかと思う先生たち。
すると…
「あぁ、モモイ。少し聞きたいんだが…。」
「なになに?どうかしたの?」
挙手したネイトがモモイにあることを尋ねる。
それから少し経ち…
「ここがトレーニングルーム、普段あまり使ってる人は見ないけど設備はばっちりだよ!」
「おぉ…こんな最新式の設備は見たことないな…!本当にここを使っていいのか…?」
「ミレニアム生には解放されてるし私たちが見てるならいいんじゃないかな。」
ネイトたちの姿はミレニアムの一角にあるトレーニングルームにあった。
初めて見る最新のマシーンたちにネイトも興奮気味である。
「でもまさか『トレーニングできる場所を教えてくれ』って言われるなんて思いませんでしたよ。」
「この時間、よくシロコとCQCのトレーニングをしていてな。体が習慣付いてるんだ。」
「ネイトさんとCQCのトレーニング、相当きつそう…!」
「最近シロコも成長してきてな。うかうかしてられないんだ。」
「ここはレベル上げをするところなのですか?」
「う~ん…まぁそんな感じの認識でいいかな?」
ネイトのトレーニングに興味を持ったか、ミドリたちも揃ってついてきた。
「さてと早速やるか。」
Pip-Boyを操作し普段運動着代わりにしているタンクトップとカーゴパンツ姿になるネイト。
すると…
「うわッ…ネイトさんの腕の筋肉凄っ…!」
「やっぱり普段からめちゃくちゃ鍛えてるんだ…!」
「お、男の人ってあんなふうになるんだね…!」
何気に初めて見るネイトの腕を見て驚くモモイ達。
タンクトップから覗く腕と肩は筋肉が隆起し胸元も胸筋で押し上げられている。
何分男性の大人という存在が希少なキヴォトス。
そんな中であってネイトのような発達した筋肉を見る機会はそうないだろう。
一方、
「貴方のジョブは『武闘家』なのですか?」
「そう言うわけじゃないが武術はいくつか習得してるぞ、アリス。」
「『かいしんのいちげき』が発生しやすくなることはいい事です。」
アリスはゲームで得た知識で彼女なりにネイトの肉体を称賛。
そして、ネイトが肉体美を披露したものだから…
「ひょっとして先生も脱いだら凄いの…?」
「そのスーツの下も実はムキムキとか…!?」
当然、期待の視線が先生にも向くのだが…
「い、いやぁ…私はデスクワーク専門だから…。」
元軍人かつ今でも第一線で現場を取り仕切っているネイトと比べられるのはさすがに酷だ。
「鍛えといて損はないぞ?一緒にどうだ?」
「え、遠慮しておきます…。」
「そうか?まぁ、鍛えたいときはいつでも声をかけてくれ。…よし、始めるか。」
お喋りもそこそこにネイトは入念なストレッチの後トレーニングを開始。
「フッフッフッ…!」
まずは体を温めるためランニングマシンでランニングをこなし…
「しっしっしっしっ…!」
鉄棒を使った各種懸垂を経て…
「シュー…シュー…。」
中程度の負荷をかけてのウェイトトレーニング、特に足回りや前腕から手首に掛けてのトレーニングを重点的に行っていく。
「あの手首とかを曲げ伸ばしする運動はなんだろう…。」
「もっと重い重りでこうバンバン腕を曲げて鍛える物じゃないのかな?」
「先生は、ネイトさんのトレーニングが、どういう意味か、分かります?」
「い、いやぁ…基本的な運動のことは分かっても専門的なことは…。」
「………。」
隅のベンチに座りネイトのトレーニングを見学する四人。
ミドリは今後のためと言ってスケッチしている。
やはりトレーニングに無縁故かネイトのトレーニングの意味をあまり理解できた者は居ないようだ。
すると…
「アレは『リストカール』といって前腕を集中的に鍛えるウェイトトレーニングなんですよ。」
「わッ!?」
「主に握力強化や肘を曲げるときの動作がスムーズになるなどの効果があります。」
いつの間にかやってきていたトレーニングウェア姿のポニーテールの生徒がネイトのトレーニングを解説してくれた。
「他にもハンマーカール、ナローチンニング、ワンハンドロウイング、各種腹筋に懸垂にレッグエクステンション…各種運動機能に直結したトレーニングをこなされてますね…。」
「え、えぇっと君は…?」
「あ、突然すみません。私は『トレーニング部』のリーダーを務めています『乙花スミレ』と言います。」
彼女、『乙花スミレ』は頭を下げて自己紹介をするが…
「ねぇお姉ちゃん、トレーニング部って知ってる?」
「さ、さぁ初めて知ったよ…。」
「う、運動部自体、ここじゃ珍しいし…。」
同じ学校のはずのモモイ達はどうやらトレーニング部は初耳のようだ。
「初めまして、私は『シャーレ』の先生。ここを使わせてもらってすまないね、スミレ。」
「貴方が…噂はかねがね。いえ、ここは本来公共の場ですし校内に立ち入りを認められている方なら誰でも使用して構いませんよ。ということはあそこにいる方は…。」
そう言いつつスミレがネイトの方を見ていると…
「ふー…よし、次の運動に行くか。っと、ひょっとしてここの管理をしている生徒か?」
水分補給のために戻ってきたネイトが彼女に気付き声をかけてきた。
「はい。非常に効果的なトレーニングをされていてとても感心していました。」
「ここの設備は素晴らしいな。おかげで充実したトレーニングをこなせているよ。」
「それは私も嬉しい言葉です。改めまして、トレーニング部の乙花スミレです。」
「W.G.T.C.のネイトだ。よろしくな。」
共にトレーニングに造詣が深いもの同士、初対面なのに非常にウマが合ったような二人。
「ネイトさん、もうトレーニングは終わり?」
「いや、これから実戦形式のトレーニングだ。…と言ってもこれが相手だがな。」
ネイトがそう言い出現させたのは丸太の各所から棒が飛び出たような物体だ。
「なッ!?そ、そんなのをどこから!?」
「ぶ、武術家は魔法を使えないはずでは!?」
「あ、二人には初めて見せたか…。まぁ、それは置いておいて…これは『木人椿』といって対人戦闘を想定したトレーニング用具だ。これをこうやって…」
次の瞬間、トレーニング室内に快音が響く。
ネイトが拳、手刀、掌底、肘、膝、足を目まぐるしい速度で木人椿に叩きこんでいるのだ。
それも正面からだけではなく左右に動きながら的確に人体の急所に叩きこむような連撃を放つ。
「す、凄い…!一発打ったと思ったらもう次の攻撃が飛んできてる…!」
「あんなに速いパンチ見たことない…!V.A.T.S.だって使ってないのに…!」
「格闘ゲームでも、あんな速いキャラ、そうはいない…!」
「素早さと確かな重さを感じさせる連撃…相当な鍛錬を積んでますね…!」
初めて見るネイトの純粋な格闘技術にモモイ達だけではなくスミレも驚いている。
「あれ…あの動き…どこかで見たことあるような…。」
唯一、先生だけがネイトの動きに『見覚え』があった。
そして…
「全攻撃、人体におけるバイタル及び行動にダメージを与える攻撃と判断…。脅威度は非常に高いです…!」
アリスも優れたその視覚センサーでネイトの攻撃を分析、その連撃の脅威を認めた。
しばらくその連撃は続き…
「…フゥ~…と、こんな感じに相手の攻撃を想定してどうしかけるかと考えながら使うんだ。」
ようやく連撃がおさまった頃にはネイトの体は汗ばみ呼吸が少し上がっていた。
「お見事…何かの格闘術とは理解しますがまだ私の見識がそこまで及んでいないことが恥ずかしいです。」
「無理もない。俺の国でも『本格的』に学んだのは稀なものだからな。」
木人椿を解体し、
「俺はこの辺で切り上げさせてもらう。ここを貸してくれてありがとう。」
「またいつでもいらしてください。貴方ならいつでも歓迎しますよ。」
タオルで汗をぬぐいつつネイトとスミレは固い握手を交わすのであった。
すると…
「そうだ。ここを使わせてもらった礼として…ひとつ面白いものを見せよう。」
「面白いもの?」
「まぁ見ててくれ。」
そう言うとネイトはトレーニング室に吊り下げられた巨大なサンドバッグの前に立ち…ある『構え』をとった。
それがおよそサンドバッグの前に立ちとるような構えではないことはスミレだけでなく運動に疎いモモイ達にも分かった。
だが、次に彼女たちが目の当たりにしたのは…くの字折れ曲がり跳ね上がるサンドバッグの姿であった。
―――――――――――――――――
―――――――――
―――
その後、トレーニング室から引き揚げネイトたちはゲーム開発部の部室に戻り…
「はい、アリス。これを上げるね!」
「…?アリスは『正体不明の書類』を獲得した。」
モモイがアリスにある物を渡していた。
アリスにはそれが何かは分からなかったが…
「ミレニアムの学生証さ。というか、もうできたんだな。」
それはミレニアム生がもつことを義務つけられている証明書である。
これで見かけ上はアリスの身分はミレニアム生徒となったわけであるが…
「うん、生徒名簿にもヴェリタスがハッキ…いや、登録してくれたからもうアリスは正式に私たちの仲間だよ!」
「…ちょっと待って、モモイ。今『ハッキング』って言いそうになってなかった?」
「気のせい気のせい!」
データ上でもどうやらアリスがミレニアム生となれたようである。
…え?本当に大丈夫なのかって?
世の中にはこう言った格言がある。
『ばれなきゃ犯罪じゃない』。
「仲間…なるほど、理解しました。」
アリスもモモイが言ったことを理解したようで、
「パンパカパ~ン、アリスが『仲間』として合流しました!」
両手を上げて嬉しそうに宣言するのであった。
「さてと、服装に学生証とそれに話し方!この辺は全部解決できたから…。」
(まだ結構怪しいと思うんだけどなぁ…。)
「あとは…武器だね。」
そんなネイトの内心など聞こえるわけもなくモモイは次の行動に移る。
キヴォトスにおいて自らの武器は最早身嗜みと言ってもいい。
「調達する方法はお店とかいろいろあるけど…このミレニアムで一番手っ取り早くちゃんとした武器が手に入る場所と言えば…。」
「…エンジニア部か?」
「エンジニア、部?」
「平たく言えば機械の開発に組み立てや修理を行う人たちのことさ。」
「ミレニアムじゃ『マイスター』って呼ばれるけどエンジニア部はその『マイスター』がたくさん集まったハードウェア特化の部活なの。」
「機械全般に精通しているし武器の修理やカスタマイズなんかも担当している部活だから使ってない武器とかがあるんじゃないかな?」
「確かにお店で購入しようにも経歴の調査があるから…そっちの方が安心かもしれないね。」
「というわけで早速行ってみようか!」
善は急げということで出発の準備を進めるモモイだが…
「あの。」
「ん?どうかしたか?」
「貴方があの時使っていた武器じゃ…ダメですか?」
おずおずとアリスがネイトに尋ねる。
ネイトがあの時使っていた武器というと…
「…これか?」
「!はいっ、それです!」
手に出現させたコンパウンドボウを見て目を輝かせるアリス。
だが…
「いやぁ…これはあまりお勧めしないぞ?」
「え…?」
「扱いが銃より難しいし射程も劣る。使える場面が極端に限られるんだ。」
ネイトは難色を示す。
扱いこそ習熟しているが時と場合を選んだ時しかネイトも使わない。
それに…
「皆銃を持っている中でこれを持っているといやでも目立つ。だから、今はモモイの言うように銃を持った方がいい。」
コンパウンドボウを持った生徒などミレニアムどころかキヴォトスでも目を引くことは確実だ。
「…そうですか。今のアリスではレベルが足りませんか…。」
「そう言うことだな。ごめんな、アリス。」
納得はしたようだが…目に見えてがっかりするアリス。
それを見てか、
「…だがまぁ。」
「?」
「アリスがこの学校に馴染んでそれでも欲しいというならまた声をかけてくれ。」
条件付きながらアリスに弓矢を贈ることを約束するネイト
「ーッ!はい、隠し装備獲得のためレベルを上げます!」
先ほどとは一転、目を輝かせるアリスなのであった。
「だからまずはエンジニア部に行こう。」
「分かりました!」
「よぉし、じゃあ出っぱーつ!」
「クエスト開始です!」
アリスはテンションそのままにモモイに引き連れられ部室を飛び出していく。
ネイトもその後ろをゆっくりと付いて行った。
「…ねぇ先生。ネイトさん…随分アリスちゃんに懐かれてますね。」
「確かに。それにネイトさんもなんだか普段と違うような…。」
「優しい感じは、普段通りですけど、なんだか雰囲気が…。」
「…ともかく私たちもエンジニア部へ行こっか。」
残されたミドリとユズ、先生はそんなことを話し合ってネイトたちを追いかけるのであった。
ちなみにユズはロッカーに留守番するそうだ。
時間もちょうどよかったのか…
「そう言うことであればエンジニア部に来たのは素晴らしい選択だね、モモイ。そっちの方に私たちが作ってきた試作品が色々と置いてある。そこにあるものならどれを持って行っても構わないよ。」
「やった!ありがとう、ウタハ先輩!」
エンジニア部は勢ぞろいしており部長のウタハが快く試作品の譲渡を認めてくれた。
…認めてくれたのだが、
「この拳銃がおすすめだよ、アリス。ポリマー製だから軽いし反動も少ない。初心者にもやさしいはず。」
エンジニア部の一年生であるヒビキが紹介したのは見かけはポリマー製の拳銃だが…
「それに…この銃にはミレニアム史上初の機能『Bluetooth』が内蔵されている。」
「…拳銃なのに?」
「Bluetoothを通じて音楽鑑賞やファイルの転送まで可能な拳銃…調べた限り、そんなものは今まで存在しなかった。」
そりゃそうだ、拳銃にそんな機能は普通搭載しない。
「もちろん、スモモ機能も搭載。乗り物のICパネルにかざすと交通機関を利用することもできる…。NFC機能もあるからコンビニで支払いも出来ちゃう…。」
「す、凄いと言えばすごい気もするけど…。」
「コンビニでコレ突き出して『これで支払い』とかいうと即ヴァルキューレに通報されちゃうよ、ヒビキ…。」
「…シロコ辺りなら喜んで使いそうだな。」
最早拳銃なのかスマホなのかよくわからないほど『ハイテク』な代物だった。
その後もいろいろ紹介されたが…
「このスナイパーライフルは銃声に反応して16,777,216色に発光する…。」
「ばれたらまずいスナイパーライフルなのに目立っちゃダメなんじゃ…。」
「こっちのショットガンは登録された声で発砲する…。一言ごとに発砲するから気を付けてね。」
「いやチューブ式だとあっという間に撃ち尽くすだろ。」
「じゃあこっちのサブマシンガン、備え付けのファンが回転するから銃身を冷却してくれる。」
「おぉっ!それなら撃ちまくれ…。」
「ただし冷却のために必要な風速が相当だから頑張って抑え込んでね。」
「いや、当たらないんじゃない!?そんなに風強かったら!」
なんだか色々機能が搭載されているが…なんとも一癖も二癖もある物ばかり。
正直今まで様々な変わり種の武器を使ってきたネイトも…
「創意工夫は認めるが…もう少し実用的なのはないのか?」
そうツッコまざるを得なかった。
すると、
「あれ?そう言えばアリスちゃんはどこに?」
いつの間にかアリスがどこかへ行ってしまっていた。
「アリスちゃん、アリスちゃーん?」
「…あ、あそこに…あれは。」
その姿はすぐに見つかったものの…
「………。」
アリスは食い入るようにソレを見つめていた。
様々なコードに繋がれたそれは…銃というには大きすぎた。
全長は1.5m以上、肉厚なボディも合わさって相当な重量であることが一目でわかる。
口径もそれに合わせて大口径だ。
「これは…もはや大砲だな…。」
ネイトもそばにより食い入るように見つめる。
そこへ…
「ふっふっふ…お二人ともお目が高いですね。」
「え、えっと…。」
「コトリか。久しぶりだな。」
「ご無沙汰してます、ネイトさん!説明が必要ならいつでもどこでもお答えをご提供!エンジニア部のマイスター、コトリですよ!」
「?」
「そして、あなたがアリスですね!ゲーム開発部の四人目のメンバー!」
エンジニア部の最後の部員であるコトリがメガネをクイッと上げながら近づいてきた。
「それでコトリ。この大物は一体何なんだ?」
「いい質問ですね、ネイトさん!これはエンジニア部下半期予算のうち70%近くをかけて作られた…エンジニア部の野心作『宇宙戦艦搭載用レールガン』です!!!」
ネイトの質問にコトリは胸を張って答える。
これを聞いて驚かなかった人物はいない。
コトリもそんなネイトたちの反応を楽しみにするが…
「「「「…………。」」」」
「…あっあれ?」
ネイト・先生・モモイ・ミドリの反応は薄かった。
「どッどうかしました!?」
「えッ!?い、いや~、宇宙戦艦だなんてまたすごいの考えてるなぁって…。」
「それにエンジニア部の7割の予算だなんてすごくつぎ込んだなぁって思って…。」
「ロマンがあっていいね、宇宙戦艦だなんて創作の中でしか見れないから。」
「船が空を飛ぶか…。夢があっていいじゃないか。」
動揺するコトリにそれぞれ反応を返すが…
(((言えない…。もうレールガンを搭載した戦艦があってそれに乗ったことあるだなんて…。)))
ネイト以外の三人はすでにレールガンを積んだ戦艦に乗艦済みであることを…
(アイアンサイズ船長や船員たちにUSSコンスティチューション…元気かなぁ…。)
ネイトに至っては空飛ぶ軍艦を見たこともあることなど…彼女には言えなかった。
「そ、そうですか!話を戻しますとエンジニア部は現在、ヘリや汎用作業ロボットに続いて宇宙戦艦の開発を目標としているのです!」
調子を取り戻したコトリは説明を再開する。
「このレールガンはその第一歩です。大気圏外での戦闘を目的として開発された実弾兵器!これはミレニアム史上明らかに類を見ない初の試みです!」
「か…カッコいい…!聞いただけでワクワクしてくるね!」
「さすがミレニアムのエンジニア部!今回は上手くいってるんだね!?」
悟られないようにモモイとミドリがヨイショし話を続けさせるが…
「ふっふっふっもちろんです!…と言いたいところだったのですがちょっと今は中断してまして…。」
コトリが急速にトーンダウン、がっくりと肩を落としてしまった。
「えぇッなんで!?期待したのに!」
「いつものことながら技術者たちの足を引っ張るのは…予算なんです。」
世知辛い話だがいかにエンジニア部と言えど予算は無限ではない。
世界最強の米軍と言えど財布を握っている財務省には逆らえなかったのはネイトにとっても懐かしくも苦い思い出である
「このレールガンですら下半期予算の70%をかかったのに船体そのものを作るのには果たして何千倍の予算がかかるのか…。」
「まぁ、宇宙戦艦でなくとも船を造ること自体一大プロジェクトだもんな…。」
「そんなの計画段階で分かり切ってるのに何でレールガンは完成させちゃったのさ!?」
至極真っ当なモモイのツッコミに…
「愚門だね、モモイ。ビーム砲は…ロマンだからだよ。」
これまた真面目な表情でウタハが答えるのであった。
「うんうん。」
「その通りです!ビーム砲の魅力が分からないなんて全くこれだからモモイは…。」
ヒビキとコトリもノリノリで便乗するのを見て…
「バカだ!頭いいのにバカの集団がいる!!!」
モモイは盛大にツッコむのであった。
だが悲しいかな、この二つは必ずしも矛盾しない。
「エンジニア部の情熱が注ぎ込まれたこの武器の正式名称は…『光の剣:スーパーノヴァ』だよ!」
「な、なんだかすごい名前だね…!」
なんとも大仰な名前だが…
「!ひ、光の剣…!」
「あ、アリスの目が輝いてる…!」
「わぁ、うわぁ…!」
「アリスちゃんがこんなに興奮してるの初めて見たかも。」
それを聞いた途端まるでおもちゃを見た子供のようにアリスがはしゃぎ始め、
「…これ、欲しいです。」
「………え?」
「偉大なる鋼鉄の職人よ!あの龍の息吹が欲しいのだ!」
何と自身の装備のこの『光の剣:スーパーノヴァ』をねだり始めた。
が…
「う~む…そう言ってくれるのは嬉しいのだけど…。」
「申し訳ないですがそれはちょっとできないご相談です!」
エンジニア部の面々の反応は芳しくない。
「なんで!?この辺にあるものなら何でも持ってっていいって言ったじゃん!」
「も、モモイ?いくらなんでも限度があるよ?」
「モモイ、それには理由があってね。」
「理由?もしかして私のレベルが足りてないから…!?装着可能レベルを教えてください!」
アリスも諦めきれないのか粘るも…
「いや、悪いがそういった問題ではなくてだね…。」
ばつが悪そうなウタハの代わりに…
「物理的に『重すぎる』んだろ、ウタハ?」
「…そう言うことだよ、ネイトさん。」
端的にネイトがその理由を言い当てた。
「この武器は個人が扱うには重すぎるし大き過ぎる。」
「なんと基本重量だけで140kg以上でさらに光学照準器やバッテリーを足したうえで砲撃を行うと瞬間的な反動は200㎏を超えます!」
ちなみに反動などで用いられる『kgf』という単位に当てはめると…メジャーな重機関銃弾である『.50BMG』が『13.39』。
『光の剣:スーパーノヴァ』はそのおよそ15倍にもなる。
「キヴォトス広しでも扱える者はいないだろう。…もしかしたら。」
「?」
「いや、何でもないよ。…これをカッコいいと言ってくれただけで私たちは嬉しいよ。…ありがとう。」
ネイトを一瞬見てウタハはアリスに向き直り礼を述べる。
が、
「持って行けるのならば本当にあげたいところなんだけど…。」
「?…!」
申し訳なさそうなウタハの言葉を聞きアリスの表情が輝いた。
「汝、その言葉に一点の曇りもないと誓えるか?」
「ん?この子、また喋り方が…。」
「たっ多分ですが『本当なのか』って聞いてるんだと思います!」
「もちろん嘘はないが…それはつまりアレを持ち上げるつもり…ということかい?」
「…!」
ウタハの返答にアリスは大きく頷き…
「…この武器を抜く者…此の地の覇者になるであろう!」
『光の剣:スーパーノヴァ』に近づき両手でつかむ。
「フフフッなるほど。意気込みは素晴らしいですね!」
「ふっ…!」
「無理はしない方がいいよ…。クレーンを使わないとビクとも…。」
力を籠めるアリスにコトリとヒビキは心配そうに声をかける。
だが…
「んんんんっっ…!」
アリスがさらに力を籠めると…
「まさか…?!」
「えぇッ!?」
「おいおい、冗談だろ…!?」
「…も、持ち上がりました!」
『光の剣:スーパーノヴァ』が…持ち上げられた。
「う、嘘、信じられない…!?」
「えぇっとボタンは…これがBボタンでしょうか…?」
呆然とする一同をしり目にアリスは…『光の剣:スーパーノヴァ』の発射スイッチを押してしまった。
「まっ待って…!」
「全員伏せろぉっ!!!」
制止するヒビキと警告を飛ばすネイトの声が重なった次の瞬間…
「…ッ光よ!!!」
爆音とともに青い軌跡が砲口から放たれ…
「あああああ!!!わ、私達の部室の天井がぁ!?」
「な、なんて威力…!?」
事故などを想定し頑丈に作られているはずのエンジニア部の部室の天井に大きな風穴が穿たれた。
「…すごいです!アリス、この武器を装着します!」
完全にご機嫌なアリスだが…
「どういうつもりだ、アリス!!!」
『ッ!!!?』
格納庫内に…ネイトの怒号が轟いたのもその時だった。
「デカいおもちゃを貰ってはしゃいでいるのか!!?」
身を起こしたネイトはずんずんとアリスに迫る。
「え、あ、あの…!」
「いいか、それはとんでもない兵器だ!!!一歩間違えば大事故を引き起こす!!!それをお前は面白半分で振り回しているんだぞ!!!」
「う、うぅ…。」
「武器を握るんならそれ相応の『覚悟』と『責任』を持て!!!そうでなければお前にその武器をウタハからもらう資格なんかないぞ!!!」
涙ぐみ怯えるアリスだが…ネイトは許せなかった。
銃を…武器を扱うという心構え、それがアリスには全くなかった。
誰もネイトの怒気に気圧され動けなかった。
「フー…フー…ッ!」
アリスの眼前まで迫ったところでネイトは足を止め…彼女の言葉を待つ。
それ次第では…。
そして…
「ヒぐッ…エグッ…!」
アリスは涙を流しながら…
「ご…ごめんなさい…!」
『ッ!』
「あ、アリス…仲間たちを危険にさらして…ごめんなさい…!」
発射したことと全員を危険にさらしたことを謝るのであった。
モモイもミドリも先生もネイトも…この言葉の使い方は教えていない。
アリスが…自ら考えて自分の意志で反省し謝罪したのだ。
「………。」
それを聞いたネイトは…
「………アリス。」
「ふぇ…?」
「…よく謝れたな、偉いぞ。」
怒気を収めつつ、自分で考えて謝れたアリスを撫でながら褒めた。
「そうだ。悪いことをしたらちゃんと謝って次に気を付けるんだ、いいな?」
「お、怒ってない…のですか?」
「アリスが自分で考えて謝ったんだ、もう怒ってない。俺も怒鳴って悪かったな。」
「だ、大丈夫です!アリスは、もう怖くありません!」
アリスに目線を合わせつつ安心させるように微笑みながらネイトも怒鳴ったことを謝る。
「…ウタハ、すまないな。屋根は俺が責任をもって直すから…アリスを許してやってくれないか?」
「…ネイトさん、頭を上げてほしい。屋根のことは気にしないでほしい。」
頭を下げるネイトとそんなネイトを真似てか頭を下げるアリスにウタハもそう返し…
「アリス、『光の剣:スーパーノヴァ』…持って行ってくれ。」
アリスに『光の剣:スーパーノヴァ』を託すのであった。
「ぶ、部長!?」
「ウタハ先輩、本当にいいんですか?」
「あぁ、どちらにせよ…この子以外には使えないだろうからね。それに…。」
「それに?」
「もう彼女は過ちを繰り返さないだろう。そうだろう、アリス?」
「はい!アリスは学習しました!」
「よし、なら問題ないよ。ヒビキ、あとでアリスが持ち運びやすいように肩紐とグリップを作ってあげてくれ。」
「分かったよ。…前向きにとらえると実戦データをとれるようになったのはありがたいかも。」
「よかったね、アリス!なんだかすごい武器貰っちゃって!」
「あ、ありがとうございます!」
『光の剣:スーパーノヴァ』を託してくれたウタハにアリスは礼を述べる。
が、
「いや、お礼にはまだ早いさ。」
『え?』
ウタハはその礼に待ったをかけ…
「ヒビキ、以前に処分要請を受けたドローンとロボットを全機出してくれるかい?」
何やら物騒なことを言いだすのであった。
―――――――――――――――
――――――――
―――
「モモイ、牽制して!ミドリはアリスがチャージを完了するまで支援を!アリスは回避を優先して!」
アリスに『光の剣:スーパーノヴァ』を託す最終試験としてエンジニア部のロボット達とコトリとの戦闘が繰り広げられている中…
「いやはや、あんなデカ物をもってよくもあんなに軽やかに動けるものだ。」
「貴方は参加しなくてよかったのかい、ネイトさん?」
安全な場所でそれを眺めるネイトとウタハ。
「逆に聞くが…俺が参加してそれはテストの意味はあるのか?」
「…確かにね。あなた一人でもあのロボットとコトリは対処できてしまうだろう。」
「弟子の成長具合も確かめられるいい機会さ。老兵は引っ込むに限る。」
すると…
「しかし、ネイトさんがあそこまで声を荒げるのは意外だったよ。」
ウタハは先ほどのネイトの怒りっぷりに言及する。
普段はむしろ温厚な部類のネイトがあそこまで怒るのは見たことがなかった。
「アリスは今日初めて武器を持ったんだ。何がどう悪くてどうすればいいか…強引にでも理解させなきゃ危険だ…と思ってつい、な。」
「そうか。でも、あなたがしたことを私は間違いだとは思わないよ。」
「そう言ってくれると…助かる。」
互いに優れたエンジニアであるネイトとウタハがそう言葉を交わしていると…
「………ネイトさん、気付いているかい?」
「………あぁ。」
どちらもその目に真剣な光を灯し話し始める。
「アリス…彼女はただの生徒ではないね?」
「………。」
「最低でも1tを超えると推定される握力、発射時にもブレない安定した体幹バランス…。」
「生身の肉体からは想定できない骨格強度と筋力、肌もあれだけ弾丸を受けて傷すら入らない…。」
そう、互いに優れたエンジニアであるが故…アリスの異常性には気付いていた。
「つまり…最初から厳しい環境での活動を想定しナノマシンによって『自己修復』することを前提として作られた体…。」
「生身ということを除けば…まるで俺が持つパワーアーマーだな。いや…子供の形をしたパワーアーマーといった方が正しいか?」
「その目的は…『戦闘』、だね。」
「だろうな。」
「わぁ、ワー!アリス、戦闘に勝利しました!」
「クッ悔しい…!ですが、これが結果ですね!」
ロボットとコトリを倒し勝利を喜ぶアリスを眺めつつ二人は同じ結論に達した。
「ネイトさん。アリスは一体…。」
ネイトを見据え…ウタハは問いかける。
すると…
「…オートマタとロボット兵、その違いは何だ?」
「え?」
突然、ネイトはウタハにそう尋ね返す。
「…オートマタには意志がありロボット兵にはそれがない。それが決定的な違…~ッ!」
その答えの途中でウタハはネイトの意図に気付く。
「そう、アリスは『意志』を持っている。まだ幼い部分もあるが…自ら学び実践している。だから…一先ずそれでいいんじゃないか?」
ネイトらしくないふわふわとした回答だ。
それでも…
「…そうだね。彼女の意志がどんなところに行き着くかを見守るのも年長者の務めだね。」
ウタハにはそれ以上雄弁な答えもなかった。
「さて、戦闘も終わったようだし戻るとしようか。」
「そうだな。…あぁそうだ、ウタハ。」
「どうかしたのかい?」
「…集光結晶アレイはチタンにしてみろ。それで照射時間は向上する。」
「え…!?」
「アリスを許してくれた細やかな礼さ。じゃあな。」
そう言い残し、ネイトは三人の元へ戻っていった。
自分を追いかけようと必死に走り続ける若きエンジニアに一つだけヒントを残して…。
子供を教えるには怒るところは怒り、褒めるところは褒めるという区別が大事
―――指導者『吉田栄勝』