―――詩人『ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ』
アリスがエンジニア部から『光の剣・スーパーノヴァ』を託された後、一行はゲーム開発部の部室に戻り…
「それでえぇっと…座標はここだったよね、モモイ?」
「そうだよ。昨日はちょっとずれちゃってたみたいだね…。」
「だとすると、昨日と同じ場所に着陸するとして…距離が少し伸びてるな。」
「おそらく今度はロボット兵たちも警戒態勢を敷いてるでしょうね。」
床に広げられた地図とにらめっこしG.Bible確保のための第二次作戦を考案している。
昨日はアリスを連れ帰ったために中断しているがなんとしても早急に確保したいとモモイが提案してきたので改めて作戦を練り直している。
「おつかいクエストですか?アリスも得意です!」
「おつかい…というには道中が物騒過ぎるぞ、アリス?」
「モンスターも倒せばコインや経験値も貰えてレベリングがはかどりますよ!」
アリスもちょこんと座って作戦会議に参加している。
「ネイトさん、昨日の規模からして…今回はどのくらいいると思いますか?」
「そうだな…。何分初めての地域だ。俺も予想しかたてられないが…増員はされているだろう。」
「う~ん…じゃあ弾は少し多めに持って行った方がいいかな?」
「それよりも今回は昨日みたいにこっそり行けるかどうか…。」
「スニークミッションでもあるのですか?」
「いや、この状況なら…。」
とそんな風に作戦会議を進めていると…
「…あ、そうだ!ちょっと作戦会議待ってもらっていい?!」
「どうかしたのか?」
「今日の午後にアリスの資格審査にユウカが来るんだった!」
モモイが慌ててユウカがここに来ることを全員に告げた。
「午後って…もう二時間もないじゃないか…?!」
「資格審査って何!?そんなの初めて聞いたんだけど!?」
「だってアリスの学生証だったり武器だったりで忙しかったじゃん!」
時計を見るともう11時を過ぎている。
ユウカのことだ、昼休みが終わり次第すぐにやってくるだろう。
「モモイ、報連相はしっかりしようね。皆も困っちゃうから。」
「はぁい。」
さすがにこれには先生もやんわりとモモイを注意する。
すると…
「ホウレンソウ?薬草の種類ですか?」
聞きなれない言葉にアリスは首をかしげる。
「違う違う、報告・連絡・相談を縮めた言葉だ。アリスだって一緒にゲームしてて何も言われず仲間に勝手に動かれたら困るだろう?」
「はい、冒険には仲間との連携は欠かせません。」
「そうだ。どこに敵がいたとか自分は今ここにいるとかこのアイテム使っていいかとか言いあった方がスムーズに戦えるだろう?」
「その方がアリスも冒険がやりやすいです!」
「そう、仲間と連携するために必要なことだ。覚えておこうな。」
「分かりました!ホウレンソウ、アリス学習しました!」
それもネイトがアリスにも分かりやすい例を上げることですぐに理解してしまった。
エンジニア部でネイトがアリスを叱ってからの関係を先生たちは心配していたが…
「アリスとネイトさん、仲直りできてよかったね。」
「あのまま怯えちゃったままだったらと思うと心配だったよ…。」
「本当なら私がきちんと言わなきゃダメだったんだけど…もっとしっかりしなきゃなぁ…。」
どうやらアリスもネイトがちゃんと自分のためを思って叱ってくれたことを理解してくれたようで安心している。
「何はともあれ最終チェックをしよう!アリス、自己紹介を!」
気を取り直しユウカの資格審査のためにアリスの言葉のチェックを行うモモイ。
…が、
「私の名前はアリス・ザ・ブルーアイ、ドワーフ族の槍騎士。使用武器はガンランス『火竜の牙』、出身地は鋼鉄山脈。幼いころ、魔族の襲撃により家族を失って燃え盛る鉱山の中へと単身乗り込み…。」
アリスの口からすらすらと出てくるのはどう考えても彼女のことではない。
「待って待って待って!」
「はい?」
「ゲーム内アバターのプロフィールじゃなくてアリス自身の!」
「あ、理解しました。」
「アハハハ…じゃあ、アリス。私に君のことを紹介してくれないかな?」
モモイの指摘を受けアリスも何を言えばいいか理解。
次は先生が面接官役を引き受けて再度質問を行う。
「はい、私の名前はアリスです。」
「授業に出席の記録がないけどどうしてかな?」
「はい。それは最近転校してきたばかりで受講申請のタイミングを逃してしまったためです。まだ授業の登録ができていない状態ですが来月から授業へ正式に参加する予定です。」
「どうしてゲーム開発部にいるのかな?」
「授業にはまだ参加できなくても部活動への参加は可能とのことでしたのでゲーム開発部に入部しました。」
「あ、結構それっぽいですね。」
聞いた感じは特段変なことはないが…
「ゲーム開発部で担ってる役割はタンク兼光属性アタッカー…。」
「ちっ違う違う!アリスの役割はプログラマーだよ!」
「プ、プログラマーです!生まれた時から母国語よりも先にJabaを使っていまして…。」
油断したり慌てるとおかしなことを口走ってしまう。
「うぅっ本当に大丈夫かな…!?」
心配そうなミドリ。
「…よし、アリス。合図を決めよう。」
「合図ですか?」
「その合図があったら一旦深呼吸するんだ。」
そんなアリスにネイトはアドバイスをする。
「…そんなのでいいの、ネイトさん?」
「何言ってる?軍でも行われてるメンタルトレーニングの一つだぞ?このおかげで俺はすぐに眠れるようになったんだ。」
実際に軍では合図やルーティンで速やかに入眠できる方法を採用している。
ネイトがほんの数秒で眠りに付けるのはこの方法を徹底的に鍛えたからだ。
「でも合図なんて出してたらユウカに怪しまれるんじゃないですか?」
「じゃあ怪しまれても問題ない出し方にすればいい。ユズ、いるか?」
「は、はい…!」
突如声を掛けられたユズはロッカー内から声を上げた。
「もし、アリスが慌て始めるような雰囲気を感じたらロッカーを鳴らしてくれ。」
「こ、こんな感じ、ですか…?」
ネイトの指示でロッカーをガタガタと鳴らすユズ。
「アリス、この音が鳴ったら深呼吸するんだ。多少回答に遅れようと問題ない。」
「分かりました!ユズが『こんらん』のデバフを解くターンを作ってくれるのですね!」
「そう言うことだ。…頑張れよ。」
「はいっ!アリス、試練に打ち勝ちます!」
「じゃあ、アリス。もう一度最初から予行練習やってみようか。」
作戦も決まり予行練習を重ねアリスは気合を入れてユウカの資格審査に臨むのであった。
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案の定、ユウカは昼休みが終わってすぐゲーム開発部の部室にアリスの資格審査にやってきたのだが…
「…有り得ないわ。」
まさかの第一声がこれであった。
「ゲーム開発部に新入部員が入ったなんて…ありえない…!」
「ちょっとユウカ!?それはないんじゃないの!?」
「…?」
「だってあなた達、友達少ないし今までどんなに勧誘頑張っても見向きもされなかったじゃない…!」
あんまりにもあんまりな言葉だが無理もない。
ゲーム開発部の以前までの評価はレトロゲームを愛するオタク集団どまり。
しかも、モモイをもってして『友達が少ない』と自称する面々の集まり。
勧誘を頑張っても入部希望者がいないことは無理もないが…
「…それであなたが噂のアリスちゃんね。ゲーム開発部に入ったっていう四人目のメンバーの。」
こんなタイミングでまさかの新入部員の登場。
ゲーム開発部の現状を憂いていたユウカも…若干猜疑の目を向けている。
理由はそれだけではない。
「ふーん…ミレニアムの生徒ならほぼ全員把握してると思ってたけど…私がこんなに可愛い子のことを知らなかったなんてちょっと信じられないわね…。」
さすがはセミナーの会計であるユウカ。
生徒の情報はきっちり頭の中に入っておりその引き出しの中にアリスの情報はなかった。
「…その言い方は誤解うみそうだから止めといたほうがいいぞ、ユウカ。」
「?ネイト社長、それってどういう意味…~ッ!?ち、ちがいますよ!?別に私そんな趣味ないですからね!?」
「……???」
「それより!これで部の規定人数満たしたから苦情言ってきた生徒の言い分はもう通らないよね!ミレニアムプライスは頑張るけど!」
そう、モモイの言うようにゲーム開発部へのやっかみの大半は『規定人数に満たない部員』だった。
アリスが加入したことでこれはクリアしたはず。
だが…
「…そうね。でも、それはこの子が本当に自分の意志でゲーム開発部に入部した部員だったらの話ね。」
そうは問屋が許さない。
「本来は部員の加入を申請すればそれだけでよかったんだけど…最近は部活の運営規則も少し変わって少し厳しく確認する必要が出てきたの。」
ミレニアムの部活は他の学校より部費が高くなる傾向にある。
それを幽霊部員ばかりで構成された部活などに支払う余裕はないためこのような措置が取られるようになったのだ。
「それに私がしっかり調べたってお墨付き貰った方が後からいろいろ言われなくて済むでしょ?」
「ぐ、グヌヌ~…。」
「だから、アリスちゃんにいくつか簡単な質問をするわね。」
理にかなっているユウカの意見のためモモイもそれ以上反論できず資格審査が始まった。
「よろしくお願いします、ユウカ!」
「フフッ元気がいいわね。じゃあ。アリスちゃん。あなたがゲーム開発部に来たきっかけは何?」
「授業の登録ができてなかったのでどう過ごすか悩んでいたところを「一緒に遊ばない?』かとモモイに誘われました!」
「ふ~ん、モモイがねぇ…。」
「手持ち無沙汰にブラブラしてたからね。案内も兼ねて部室のゲーム機で遊んでもらってたの!」
「なるほど、モモイらしいわね。」
まずは上々な手ごたえ。
元気いっぱいに答えるアリスにユウカも好印象を抱いているようだ。
「でも、ここはレトロゲーム部じゃない、あくまでゲーム開発部。…最近はネイト社長のおかげで博物館みたいになっちゃってるけど。」
「いやぁそれほどでも。」
「おっほん!…つまりアリスちゃんもゲーム造りに参加するということよね?あなたの作業担当は何?」
ネイトのちゃちゃを往なしつつユウカが次の質問をする。
だが、
「はい、光属性アタッカー兼タンク…。」
「…えっ?」
「じゃなくてっえぇっとぷ…ぷ…プログラマラスです!」
(ヤッバッ…!)
対策をしていたがやはり意味が通じない回答をしてしまうアリス。
「…ハイ?プログラマー、じゃなくて?」
「あ、はいそうです!その通りです!私は間違いなく完璧な…!」
ユウカに聞き直され慌て始めるアリスだが…その時、ロッカーが大きな音を立てて揺れた。
「え?!ちょ、ちょっとユズ?!大丈夫!?」
「だっ大丈夫…!じ、自分の影に、驚いただけ…!」
あまりの大音量にユウカもそちらを振り返り中にいるユズを案じる。
「!…スゥ~…フゥ~…。」
ネイトとの作戦通り、アリスはその隙に深呼吸を行い気を鎮める。
「そ、そう?…じゃあ、アリスちゃん、質問に戻るけど…プログラマーってすごく難しい役割って聞くけど?」
「…はい、すごく大変です。でも、仲間たちで作ったゲームが完成に近づいていくのが楽しいです。」
「…楽しいのね?」
「はい!それにお休みの時にみんなでゲームをやるのが楽しいです!ユウカは『英雄神話』や『聖槍伝説』は御存じですか?本当に『神ゲー』ですよ!」
そのおかげで続くユウカの質問にはしっかりとした受け答えだけではなく笑顔を浮かべゲーム開発部での活動の楽しさを伝える。
(いいよ、アリス!)
(よく立て直せたね!)
一時はどうなるかと肝を冷やしたモモイとミドリだがこれには内心でアリスを称賛。
「…ありがとう、分かったわ。短い時間だったけどアリスちゃん、アナタのことについてはおおむね理解できたわ。」
「?もう試練は終わりですか?」
「えぇ、少し怪しい所はあるけど…ゲームが好きだってこと。それに新しい世界を冒険したり仲間と一緒に何かをやり遂げるストーリーが好きなんだってことは十分伝わってきたわ。」
ユウカもそんなアリスの想いを聞き届け…
「そんなあなたがゲーム開発部の部員だというのは…何も不思議なことじゃないわ。」
「ということは…!」
「規定人数を満たしているので…ゲーム開発部を改めて正式な部活として認定します。」
「ぃやったー!!!」
正式に彼女の入部を承認、ゲーム開発部が正式な部活としてセミナーに認められた瞬間であった。
「さて、これで憂いはなくなったわね?あとはミレニアムプライス…頑張りなさいよ。」
「任せて、ユウカ!きっと受賞して見せるから!」
「楽しみにしてるわ。それじゃあ、この後の手続きはやっておくから失礼するわね。」
ユウカはささやかながらもモモイ達へエールを送り部室を後にして行った。
そして、ユウカの足音が完全に聞こえなくなったのを確認し…
「「やったー!!!」」
「クエスト成功です!」
モモイとミドリはもろ手を上げて喜びアリスも満面の笑みを浮かべる。
「よ、よかった…!アリスちゃんも、これで正式にゲーム開発部の仲間…!」
ユズもロッカーから出てきて安どの表情を浮かべるが…
「ナイスアシストだ、ユズ。」
「あれでアリスが落ち着けたから本当によくやったよ。」
「はい!ユズはゲーム開発部の名バッファーです!」
「わ、私はロッカー揺らしただけだから、アリスちゃんがすごいんだよ。あぅぅ~…。」
ネイト・先生・アリスから褒められ縮こまってしまった。
「よぉし!それじゃあこれでG.Bibleをまた取りに行けるね!」
「今度こそ手に入れなきゃ時間もないしね、お姉ちゃん。」
「よし、それじゃ早速再出撃といこうか。早く準備するんだ。」
「えぇっとコートは乾いて…いるね。皆みたいに戦えないけど私も精いっぱい支援するよ。」
「クエストに出発ですか?アリスも頑張ります!」
これで懸案事項は消えG.Bible捜索に注力することができる。
「ネイトさん、またあのグレネードちょうだい!」
「ほれ、ポーチに入れておくといい。」
「私には徹甲弾貰えますか?」
「M61でいいか?」
「アイテムを選択、『光の剣:スーパーノヴァ』を装備しました!」
再び廃墟区画へ向かうため武器や弾薬に装備を準備していると…
「あ、あの…!」
「ん?どうかしたのかい、ユズ?」
「…G.Bibleを探しに、また廃墟に行くなら…私も一緒に行く。」
今回はユズも同行を申し出てきた。
「ユズちゃん、平気なの…?」
「ちょ、ちょっと外に出るのは、できるようになってきたし、それに…。」
「それに?」
「この部室は…もうわたし達だけの物じゃない。ネイトさんや先生、アリスちゃんの、思い出がある場所だから…一緒に護りたいの。」
もともと、ユズはこの部室に完全に引きこもっていた。
授業はインターネット講習のみ。
それがガラッと変わったのが…ネイトとの出会いだ。
あの日、強引にモモイに連れ出され久しぶりに外に出てネイトに出会った。
その日のうちにケテルという強敵や見たこともないプログラムも目の当たりにした。
そして…ネイトからチャレンジコインを渡され初めて自分の成したことを称賛された。
そのコインは今もユズのポケットの中にあり不安な時には握りしめ勇気をもらっている。
これらの経験は自分に自信を持てなかったユズに確かな自信を与えた。
そのおかげか、以前よりもユズは外に出られるようになった。
「…分かった。『パルスグレネード弾』だ、火力支援は任せたぞ。」
「は、はい…!」
そんなユズにネイトはホルダーいっぱいの対ロボット兵用グレネード弾『40mmグレネード・パルス』を託す。
「パンパカパ~ン、ユズがパーティに参加しました!」
「よ~しこうなったら絶対手に入れてやるんだから!行こう!」
「うん!みんなでこのゲーム開発部の部室を守ろう!」
こうしてアリスとユズという仲間が増え…第二弾G.Bible捜索作戦のため一行は再びベルチバードに乗り込み廃墟区画へと向かうのであった。
何かを始めるのは怖いことではない。怖いのは何も始めないことだ
―――バスケットボール選手『マイケル・ジョーダン』