―――神学者『アルベルト・シュヴァイツァー』
「ネイトさん、早く偵察から戻ってこないかなぁ…。」
「偵察してくるって言って出てったけどもう30分経つね…。」
「だ、大丈夫、戦闘音もないし、きっとすぐに戻って来るよ。」
昨日と同じ場所に着陸したベルチバードでネイト以外の面々は偵察に出たネイトの帰りを待っていた。
「そうだよ、三人とも。みて、ネイトさんが持ってるビーコンがまだゆっくり動いている。無事な証拠だよ。」
先生が持つシッテムの箱にはネイトがもつビーコンの信号が表示されまだ動いている。
戦闘音もなくこの反応だとロボット兵から隠れ続けていることに成功しているのだろう。
そんな中、
「………。」
「…アリスちゃん、ネイトさんが心配なの?」
「はい…ネイトさん、モンスターがいっぱいな場所にたった一人で…。」
アリスはずっとネイトが向かった方角を見つめて帰りを待っていた。
アリスは目覚めてから今まではずっとゲーム開発部や先生にネイトと共に行動してきた。
それが当たり前だと思っていた矢先にアリスの言うところのネイトの『パーティ離脱』。
たった一人で乗り込んでいった彼を殊更心配するのは無理はないだろう。
「大丈夫だよ、アリス!ネイトさんは強いんだから!」
「モモイよりもですか?」
「もう全然!私やミドリにユズがいっぺんに相手になってもあっという間にやられちゃうよ!」
「そんなに高レベルなのですか?」
そんなアリスを元気づけようとモモイはネイトの強さを力説。
アリスもネイトがキヴォトス人ではないことは察しがついている。
そんなネイトがキヴォトス人を相手取っても負けないと聞きアリスは目を見開く。
「ネイトさんはいままでどんなダンジョン探索やレイドバトルをやってきたのですか?」
「じゃあ、戻ってくるまでアリスにネイトさんがどんなことをやってきたか教えてあげよっか。」
そう言い、モモイはアリスにネイトと出会いそこから彼がキヴォトスで何をなしてきたかをお立ち台のつもりかその辺にあった瓦礫の上に飛び乗り語り始めた。
「アレは…寒さも厳しいある朝のことだった…。」
その姿は…さながら冒険者が集う酒場で一席を設ける吟遊詩人のようだった。
モモイも興が乗ってきたのかかなり芝居がかった語り口で話を続けていく。
「彼は水に沈んだ廃都で眼前に立ちふさがる機械の軍団を圧倒し白亜の鋼鉄の猛獣を磔として…!」
「機械の軍団…!鋼鉄の猛獣…!」
水没地帯にて繰り広げられた激戦を…
「絶体絶命かと思われたが…彼は帰ってきた…!鋼の津波をも打ち砕ける黒鋼の要塞とともに…!」
「黒鋼の要塞…!」
戦艦マサチューセッツとともに帰還したことを、
「そしてついに!彼と四人の仲間は鋼の城を攻め落とし獣の亡骸を手土産に故郷へと凱旋したのだった!」
「凄いパーティだったのですね…!」
わずか五人で敵の本拠地を一気呵成に攻め落としたことを、
「だが、彼らへの試練は続く・・・!砂漠の彼の地に悪しき大蛸の無数の足が迫り彼らを引き摺り下ろさんと暗躍を始めたのだった…!」
「お、大蛸…!」
ネイトとアビドスを攻め落とさんとしたカイザーとの戦争を、
「その大蛸に彼と彼の輩は必殺の一撃を与えた!同胞を攫った大蛸の配下は瞬く間に討ち取られ大蛸の軍は二日と経たずに姿を消し…ついに砂漠の彼の地に平和が戻ったのさ…。」
カイザーを打倒し戦争に勝利したことを最後に…
「これがキヴォトスに轟く『熱砂の猛将』にして『アビドス解放の英雄』、ネイトの物語…。」
モモイは恭しくアリスに頭を下げるのであった。
「…どうだった?」
「わぁぁぁぁ!凄い、凄いです!ネイトさんは『英雄』だったのですね!モモイのお話もすごくおもしろかったです!」
「フッフ~ん!これがゲーム開発部シナリオライターの実力だよ!」
拍手するアリスを見て鼻高々に胸を張るモモイだが…
「へぎゅ!?」
「モモイ、随分シナリオ作りが上手くなったな。」
「あ、ネイトさん。おかえりなさい。」
いつの間にか戻りモモイの背後をとっていたネイトにぐっと頭を抑え込まれるのであった。
「ネイトさん、何するの!?」
「なにするもこうするもそんな風に俺を持ち上げるのは止めてくれ。褒められたくてやったわけじゃないんだからな。」
「でも、嘘は言ってないよ!?」
「だとしてもだ。」
「まぁまぁネイトさん。モモイも悪気があったわけじゃないんですから…。」
苦い表情でモモイを注意するネイトを宥める先生だが…
「…先生。」
ネイトは目線だけである方向を差す。
その先には…
「………!」
目をキラキラと輝かせながらネイトを見つめるアリスがいた。
「…まだ物を良く知らないあの子が無茶やらかしたらどうする気だ?」
「…すみません。」
もっともな指摘に先生も閉口するしかなかった。
「はぁー…アリス、ちょっと。」
「はいっ!」
そんなアリスをネイトは呼び寄せる。
「ネイトさんはすごい人だったのですね!英雄だなんてまるでゲームの主人公みたいです!」
「…アリスはモモイの話を聞いてどう思った?」
「はい!アリスもネイトさんみたいな『英雄』と呼ばれるような人になりたいと思いました!」
なおも目を輝かせながらネイトを称賛し憧憬を抱くアリス。
「そうか。…だがな、アリス。これだけは覚えておいてほしい。俺はな…『英雄』なんかになろうと思ったことなんか一度たりともないぞ。」
「?」
ネイトはそんな彼女に柔らかだが…どこか物悲しさを帯びた表情で言い聞かせる。
「ただ俺は…自分の使命と義務を…為すべき事を果たし続けてきたにすぎない。」
「為すべき事を…ですか?」
「そうだ。それが今の俺にとっては『アビドスを立て直すこと』だ。それをやってたら周りが独りでに俺を『英雄』と呼びだしたが…俺は何でもない、ただ銃が上手く扱えるだけの人間だ。」
「………。」
「アリスにはあるか?自分が為すべき事や本当になりたいと思えるようなことは?」
アリスにそう問いかけるネイト。
「…アリスは…まだ分かりません。私が何をすべきなのか、まだ見つかっていません。」
冷静な彼を見て少し冷静になったアリスは表情を暗くしながらそう答えた。
何分、目覚めた時には自分が何のために存在していたかをすっかり忘れていたのだ。
そんな自分が為すべきことを問われても答えに詰まった。
すると…
「…そうだ、それでいい。」
「え?」
「まだ目覚めたばかりなんだ。焦る必要なんかない。ゆっくりこれから…自分の目で世界を見てみつけていくといい。」
ネイトはアリスの肩に手を置き浅く笑いながらその答えを肯定する。
「…はい!アリス、為すべきことやなりたいことを見つける探索クエストを続けていきます!」
彼が自分のことを認めてくれたからか、アリスの表情は一気に明るくなった。
「あぁ、君がそれを見つけられる日を楽しみにしてるぞ。」
ネイトもそんなアリスに細やかなエールを送るのであった。
「…さて、偵察してきた結果だが…やはりロボット兵は増員されていたな。」
その後、全員が集まり地図とネイトが得た偵察結果を照らし合わせ改めて作戦会議が行われた。
「見てみろ、盾持ちにバズーカ持ちとロボット兵のオールスターだ。」
「うわッやっぱり昨日の私達が来たから警戒してるのかなぁ?」
「これ以外の脅威はなかったですか?」
「座標までの道中だけだからまだ何とも言えないが…増援の中に紛れ込む可能性は高い。」
「ま、まさかケテルが、来たりしないですよね…?」
ユズが顔を青くしながらかつて相まみえた強敵の名を上げる。
ここも廃墟区画、出てくる可能性はあるが…
「いや、その可能性は低いと言っていいだろう。」
「ど、どうしてですか?」
「以前、奴の移送の際に移動を主目的にしてロボット兵を無視するように設定していたんだが…」
「どうだったんですか?」
「周りにいたロボット兵が奴に銃撃を浴びせていた。おそらく、ケテルにはケテルに許された活動領域があって…。」
「そのフィールドを出ると同じ種族のモンスターであっても攻撃されるということですか?」
「そう言うことだ。」
カイザーとの戦争直前の記録を基にネイトはその可能性は極小と分析する。
「それに出てきても一体だけなら…ここにいるメンバーならどうとでもできるだろ?」
そして、不敵な笑みを浮かべながら煽るようにネイトがモモイ達に問いかけると、
「…そうだね!なんたって私達だってネイトさん抜きでケテルを倒してるもん!」
「うん、それに今回はアリスちゃんも仲間になってるから心強いですね!」
「だ、大丈夫…!今日はちゃんと、靴を履いてきました…!」
モモイ・ミドリ・ユズは気合を入れて答える。
そう、ホシノ達と共同とはいえモモイ達もケテルを討ち取った経験者だ。
ネイトも加え先生もいるこの状況…負けるわけがない。
「モモイもミドリもユズも討伐経験があるのですか!?アリスも倒したいです!」
「あ、アリス…無茶はしちゃいけないからね?」
唯一その経験のないアリスも負けじとケテルが出現した際は戦う意欲を見せてくれた。
「それはさておき、現状はそう言った感じだな。」
「じゃあ今回もこっそり隠密で行くんですか?」
「…いや。今回は電撃戦…一気に仕掛けるぞ。」
「え、でッ電撃戦、ですか…?!」
まさかのネイトの作戦にユズは驚愕の表情を浮かべるが…
「私はネイトさんの作戦に賛成!」
「…そうですね、この場合はそれが最も安全な作戦でしょう。」
モモイと先生はその作戦を指示する。
「じゃあ、モモイ。この作戦の有効性を答えられるか?」
「うん!だってここの廃墟一帯にどれくらいロボット兵が潜んでるか分かんないんでしょ?しかも今は警戒状態、増えることはあっても減ることはない。つまり、今が一番『手薄』な状況だってことだね!」
「…正解だ。やるな、モモイ。」
「えへへ~♪」
ネイトの質問にほぼ満点ともいえる回答をたたき出すモモイ。
「じゃあ、先生。なんで俺がこの作戦を提案したか分かるか?」
「現有戦力の関係です。今はあの時のメンバーに加えユズにアリスもいる。それに…この状況ならネイトさんも『アレ』を使うはず。相手の想定戦力をはるかに上回る戦力を叩きつける、シンプルながら最も効果的な作戦です。」
「分かってきたじゃないか。そうだ、奴らのデータには昨日のこちらの戦力の物しかない。真正面から意表を突けるということだ。」
先生もネイトの思惑を理解しピタリと言い当てて見せた。
「お姉ちゃん、凄い…!」
「そ、そんなところまで考えるんですね…!」
らしくないモモイの答えにミドリとユズは驚愕の表情を浮かべるのであった。
「つまり、作戦『ドンドンいこうよ』と言うことですか?」
「そう言うことだ。」
「お任せください!アリスはタンク兼光属性広域アタッカーです!」
自分が知る内容ではあるがアリスも作戦を理解。
意気揚々と光の剣を掲げて見せる。
しかし…
「それは頼もしいな。だがな、『タンク』の役割は…。」
ネイトはそう言い…それを出現させた。
実に…一月以上ぶりのお披露目である。
「ッ!」
「俺に任せてもらおうか。」
それを見た途端…アリスはこう言葉を発した。
「れ、煉獄の甲冑…!」
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昨日の侵入者の襲撃を受けこの一帯のロボット兵は確かに増員されていた。
侵入者の戦力・戦闘パターンを解析、潜入しようと絶対に見つけ出す布陣を固めていた。
…それだというのに、
「道を空けろ、ブリキ人形共ぉッ!!!」
こちらの銃撃など意も介さない『化け物』が襲い掛かってくることなど考えられなかった。
先陣を切りパワーアーマー『X-02』を装着したネイトがガトリングレーザーを掃射し突入。
ロボット兵の装甲や盾ごと貫き次々に灰の山としていく。
さらに、
「アリス、前方のモンスターたちを殲滅します!!!…ッ光よ!!!」
追従してきたアリスが光の剣:スーパーノヴァをフルチャージし発射。
放たれた砲弾は軌道上のロボット兵を造作もなく粉砕。
「行くぞ、アリス!モモイ達の道を切り開くぞ!」
「はい!アリスは今までモモイ達と一緒に27回のダンジョン探索と139回のレイドバトルを成功させてきました!『流星の槍』を使うネイトさんもいるなら勝利は確実です!」
「その意気だ!相手はTSCのプニプニよりも雑魚、俺達に敵うわけがないッ!!!」
時にガトリングレーザーの掃射、時に光の剣の砲撃。
布陣していたロボット兵の軍団は瞬く間に食い破られていく。
「ひゃあっやっぱネイトさんはこうでなくっちゃ!アリスも派手だねぇ!」
「ネイトさんとアリスが先鋒を突き崩した!追従するよ!」
「行くよ、お姉ちゃん!二人が前に集中できるよう背後を守らなきゃ!」
「だ、大丈夫、私達なら、ネイトさんとアリスちゃんの背中を守れる!」
その後を先生を護衛するようにモモイ達が追いかける。
「モモイ、8時の方向の路地に掃射!」
「やっぱり来たね、増援!そうはさせるかぁ!」
横から増援が来ればモモイが掃射で排除し、
「二時の方向のビルの4階にスナイパー!」
「任せてください!この距離なら負けません!」
狙撃手を見つければミドリがカウンタースナイプで排除。
「ユズにアリス!前方二手に分かれて一個分隊ずつ!」
「け、ケテルより弱いのなら…怖くない…!」
「お任せください、先生!…ッ光よ!!!」
相手が固まっているのならユズのパルスグレネード弾とアリスの光の剣で一掃。
「モモイ、グレネードを!」
「いっくよ、ネイトさん!」
時にモモイが投げつけた野球ボールグレネードをV.A.T.S.照準し爆破。
Perk『Demolition Expert』によって倍加した威力によって多数のロボット兵が吹き飛ばされた。
「ハハッ!全選手負傷でコールドゲームだな!」
「やっるぅ、ネイトさん!ノーヒットノーラン達成だよ!」
「そう言う野球ゲームの勝ち方もあるのですか!?今度やってみます!」
「いやっないからね、アリス!?野球ゲームにそんな物騒な勝ち方なんか!」
「お姉ちゃん、アリスちゃんが勘違いしそうなこと言わないで!ネイトさんもッ!」
「こ、今度『シャカリキプロ野球』、やらせてあげるからね…!」
そんな軽口をたたき合う余裕を見せさせながらなおもネイトたちはロボット兵を突破。
と、その時、
「ッ!全周囲上空、ドローンの編隊だ!」
ネイトが警戒を発すると同時に包囲するように遠方から多数のドローンが迫る。
「ユズ!先生を物陰に退避させろ!」
「わ、分かりました!先生、こっちに!」
「四人とも、気を付けて!」
素早くネイトはユズに先生を託し…
「モモイッミドリッ、対空防御だ!!!撃って撃って撃ちまくれ!!!」
「シューティングならお姉ちゃんに負けないよ!」
「何をぉ!?私の連射性能を甘く見ないでよね!」
才羽姉妹をタッグにしある一方の上空を任せ、
「アリス、光の剣じゃ戦いにくい!こいつを使え!」
「はいっ!アリス、『光の剣:スーパーノヴァ』から『流星の槍』に装備を変更します!」
ネイトは自らのガトリングレーザーをアリスに渡し、
「ハエ叩きには…こいつだよな…!」
自身はコンバットショットガンを構え、
「撃てぇッ!!!」
四人が迫るドローンたちに向け一斉射撃。
掃射と狙撃される『炎』と『毒』の7.62×51㎜NATO弾、凍てつかせるレーザーの弾雨、炸裂する散弾の嵐が襲い掛かる。
ドローンは次々に撃墜、
「モモイにアリス、そっちは進行方向じゃない!車両を燃やせ、煙幕を張るんだ!!!」
「分かりました!モンスターの目をくらませます!」
「オッケェイ!そう言うのは大得意だよ!」
モモイとアリスに車両を破壊させ炎上、もうもうと煙を上らせドローンの追撃を抑え込む。
「よしっユズに先生、先に進むぞ!」
「分かりました!」
すぐさま前進を再開しG.Bibleがあるという工場の座標を目指す。
増援は来るものの先生の全体を見回せる指揮とネイトの用兵術が合わさりほぼノンストップで突破し…
「あそこだ!あの工場だよ!」
「今度は間違いじゃないよな、モモイ!」
「今度こそ絶対!」
「よし、先に行け!俺はパルス地雷を仕掛けながら追いかける!」
昨日の工場よりも巨大な廃工場に突入することに成功。
「はぁ…はぁ…なっ何とか成功…かな?」
「進入成功、ミッションをクリアしました!」
なんとか建物内に潜り込め一息つくことができた。
アリスはケロッとしているが元よりインドア派の集まりのゲーム開発部。
昨日よりも息は上がっている。
「ねぇねぇ、私達ってもしかして実はすごく強くなってるんじゃない!?C&C とか他の学校の戦闘集団と戦っても勝てちゃうかも!」
それでも…自分たちはやり遂げた。
無数に迫るロボット兵を撃破しとうとうG.Bibleが眠る座標までやってこれた。
確かな自信を持ってモモイはそう言い放つ…が、
「ほぉ?じゃあ今度ウチの『セタス部隊』と模擬戦するか、モモイ?」
地雷を仕掛け終えやってきたネイトが彼女にそう問いかける。
「せ、『セタス部隊』って…!?」
「W.G.T.C.各部隊の隊長と選りすぐりの隊員ばかり集まった最精鋭部隊だ。ちなみに隊長は俺だ。」
「い、いや~…それは遠慮したいかなぁ…。」
W.G.T.C.の、それもその最精鋭部隊など…考えたくもない。
先ほどまでの勢いはどこへやら、モモイは顔を青くしてへっぴり腰になってしまう。
「冗談だ。だが…本当に強くなったな、皆。」
それでもモモイ達の強さはネイトも認めるところ。
先生の指揮や自分がいたことを加味しても…そんじょそこらの戦闘部隊に後れを取ることはないだろう。
「お姉ちゃんほど自信満々にはなれないしC&Cやネイトさんたち相手だと絶対無理だと思うけど…確かに自分でもこんなにやれるなんてびっくりです。きっと先生やネイトさんのおかげですね。」
「わたしも、そう思う…。ネイトさんや先生がいると、安心感と勇気が全然違う…。」
「いやいや、私なんて…。皆が頑張ったからだよ。」
「何言ってる。先生の指揮もあったからここまですんなり行けたんだぞ。」
「ネイトさんもアリスとすごくいいコンボを出せました!あんなコンボ、ゲームでも出せません!」
「あぁもう、みんなすごいってことにしておこう!」
とモモイが話しをまとめたところで…
「それより四人とも、残弾は大丈夫か?」
モモイ達の状態の確認に移る。
おそらく帰りはこれよりもハードな戦いになるだろう。
そのための準備も必要だ。
「私はまだ大丈夫だよ!グレネードもたっぷり!」
「…こっちの徹甲弾もまだあります。」
「パルスグレネード弾は…あと少しですけど、通常弾や、ミサイルは、まだたっぷりあります。」
実弾武器を扱うモモイ達はまだ余裕はありそうだが…
「ネイトさん、バッテリーがチカチカしています…。『マナが足りません』、ということでしょうか?」
「…かもな。フルチャージはあと…撃てて一回が限度だろう。」
レールガンという『電力』を用いるアリスの『光の剣:スーパーノヴァ』のバッテリーがそろそろ切れそうだ。
「バッテリー切れの時は言ってくれ。俺のガトリングレーザーを貸すから。」
「はい!」
「それから…至急至急、こちらネイト…。」
その際の対処法をアリスに伝えネイトはどこかへ通信を飛ばす。
「ラジャ、有事の際は支援を願う。アウト。」
「ネイトさん、今のは?」
「心強い助っ人さ。さぁ、探索を始めようか。」
「さぁてG.Bibleはどこかなぁ~?」
通信も終わり一行は工場の探索に入る。
すると…
「ここは…。あ…。」
アリスが立ち止まり辺りを見回す。
「アリス?どうしたの?」
「分かりません…。ですが、どこか見慣れた景色です。」
「どういうことだい、アリス?」
「…こちらの方に行かないといけません。」
そう言い、アリスは一人で先に進み始めた。
「…アリス、ここに来たことあるのかい?」
「アリスの記憶にはありませんが…まるで『セーブデータ』を持っているみたいです。」
「アリスの失われた記憶のかけらか?」
「そうかもしれません。この身体が反応しているんです。」
「身体が反応?何か信号みたいなのを感じてるの?」
「…例えるなら…そう、チュートリアルや説明がなくても進められるような…あるいはまるで何度もプレイしたことのあるゲームを遊んでいるような…。」
アリス自身も理由が分からないまま工場内を進んで行く。
いつの間にか暗い光が差しにくい暗い区画まで進んだ…その時だった。
「あっ、あそこにコンピュータが一台…あれ?」
「あのコンピュータ…電源が…ついてる?」
そこには一台のまだ生きているコンピュータが鎮座していた。
おそらく放棄されて長く経っているだろうこの工場で電源が生きているとは思ってもいなかった。
「これは…。」
ネイトも一旦X-02から降りる。
パワーアーマーを着ている状態ではさすがにコンソールなどは使えない。
もしもの場合にすぐにコンピュータを操作できるようにするためである。
しばしそのコンピュータを眺めていると…何かの電子音が鳴り、
と表示された。
「Division?分裂?」
「変わった名前のシステムですね…。」
大人二人がこのシステムについて疑問を覚える中…
「おっまさかの親切設計だね。G.Bibleについて検索してみよっか。」
暢気・・・というか肝っ玉が座っているというかモモイが早速このシステムを使い始めようとする。
「いや、ちょっと怪しくない?それより『ようこそお越しくださいました』ってことは…。」
「ディビジョンシステム、っていうのは…この工場のこと?」
「まあ、宛もないしやってみるか。えぇっとキーボードは…。」
「キーボードを発見、G.Bibleと入力してみます。」
ネイトが見つけるよりも早くアリスがキーボードにG.Bibleと打ち込んだ。
すると…
「あ、結果が出たよ。」
「…アリス、エンターは押したか?」
「い、いえ…文字を打ち込んだだけです…!」
操作を実行する前にコンピュータは検索を実行。
だが…
「ば、バグっちゃった…!?」
コンピュータは意味の分からない記号を表示する。
「こ、壊れちゃったの!?」」
心配するモモイだが…その時画面にこう表示された
「!コイツ…アリスを知ってるのか…?!」
アリスがアリスになる前…あの椅子に刻まれた型番と思しき文字の羅列をぴたりと言い当てたコンピュータ。
「?いいえ、アリスはアリスで…。」
アリスは『違う』と入力しようとするが…
「音声認証付き…!?」
「いよいよ訳が分からなくなってきたな…。」
コンピュータは声でアリスをAL-1Sと判定した。
「ネイトさん、AL-1Sっていうのは…アリスちゃんのことなんですか?」
「あぁ…アリスが眠っていた椅子にそう刻まれていたんだ…。」
「…アリスの本当の名前…本当の、私…。」
表示された文字を見てアリスは…
「…どうしたらいいですか、ネイトさん?」
ネイトに対処の方法を求めた。
「…聞いてみるといい、アリス。」
記憶の無いアリスが初めて自分のことを前から知る存在に出会ったのだ。
自分のことを聞くのを止めさせる権利はこの場の誰にもない。
「…あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」
意を決し、コンピュータに尋ねてみた。
…が、
「…あれ、固まっちゃった?」
「なんだか画面もぼんやりしてきたね…。」
「処理が、重いのかな?」
先ほどと打って変わって返答に時間のかかるコンピュータ。
「…叩いてみるか?ホシノはまえそうやってテレビを直してたぞ?」
「精密機器に乱暴なことはダメですよ、ネイトさん…。」
なんとも脳筋な解決方法をネイトが提示した、その時だった
再び画面に訳の分からない言葉の羅列が表示される。
「なにこれ、どういう意味!?」
「何かの暗号…?」
「暗号だとしても法則性が全く分からないな…。」
困惑するミドリに意味を探ろうと頭を捻るユズとネイト。
「あ、結果が出たみたい。」
ようやく答えが聞けると全員が画面に視線を注ぐ。
だが…
まさかの短すぎる余命宣言。
「えぇ!?ダメ、せめてG.Bibleのことを教えてからにして!」
ここまで来て手ぶらでは帰れない。
モモイは必死にコンピュータに呼び掛けると、
ようやく本命についての検索結果が現れた
「YES,YESだよ!」
ミドリが急いで答えると…
とうとうG.Bibleの情報が表示された。
だが、それは廃棄される予定のようだ。
「廃棄!?ダメ!それはゲーム開発者たちの…いやこの世界の宝物なのに!」
必死にモモイが止めさせるように求めると…
「え、G.Bibleの在り処を知ってるの?」
なんとコンピュータはG.Bibleの存在する場所を知っているようだ。
モモイがそのことについて尋ねると…
コンピュータは意味深な文字を表示する。
「ど、どういうこと!?」
なんとG.Bibleはこの機械の中にあるというではないか。
しかし、それもあと数十秒足らずで消えてしまう。
「そ、そうはいっても急に保存媒体なんて…!」
だが、そんな都合のいいものがこの場に…
「…モモイ、失敗しても恨むなよ?」
「え…?」
あるではないか。
あの世界において一等高性能な電子機器が。
「フンっ!」
言うが早いかネイトはPip-Boyのソケットをコンピュータに接続。
「よし、いけた…!」
「がんばれ、Pip-Boy!!!」
Pip-Boyの画面を見るとVaultボーイがハンマーを振り下ろし書類を圧縮しているアニメーションが表示されている。
「…ねぇ、大丈夫なんですか!?まともな方法で容量確保してるとは思えないんですけど!?」
「黙ってろ、先生!始まったもんは仕方ないだろ!」
思わずツッコむ先生をしり目に…
という表示と共に郵便配達員の恰好をしたVaultボーイが手紙を届けるアニメーションに切り替わった。
それと同時にコンピュータの電源も落ちたようだ。
「どれどれ…?」
Pip-Boyを操作し確認すると…
<G.Bible.exe>
「こ、これって!?」
「やった!G.Bibleが手に入った!ネイトさん、早く開けて!」
『Misc』のカテゴリーに確かにG.Bibleは入っていた。
が…
「…ダメだ、実行するにはパスワードがいる。」
そう容易く開けるようなものではないようだ。
あてずっぽうでやるとデータが消滅しかねないのでいったん手を付けないことにしたが、
「大丈夫です。普通のパスワードくらいならヴェリタスが解除できるはずです…!」
「そうです…!あの部活ならこれくらい…!」
どうやらそれに関しては問題ないようだ。
「これがあれば本当に面白いゲームが…『テイルズ・サガ・クロニクル2』が…!」
「うんっ作れるはず!」
思わぬ形ではあったが目的の物も手に入れることができた。
「待っててね、ミレニアムプライス…いや、キヴォトスゲーム大賞!私たちの新作は今度こそキヴォトスのゲーム界に良い意味での衝撃を与えてやるんだから!!!」
…できたのだが、モモイが喜びのあまり興奮しすぎて大声を上げてしまった。
(あれ、これデジャビュ…。)
前にも…いや昨日も同じことがあった。
「おっお姉ちゃん…!大きな声出しすぎ…!そんな大声で叫んだら…!」
ミドリが声を潜めつつ注意するも…
「………。」
「ここにいるって、言ってるような、も…の…。」
「あちゃー…。」
「…なぁ、こういうのって『テンドン』って言うんだったか?」
物陰から一体のロボット兵が姿を現した。
次の瞬間、足下で電子音が鳴り響きロボット兵が足元を見た瞬間…その体はEMPに包まれた。
道中仕掛けていたパルス地雷を作動させたようだ。
「すぐに増援が来るぞ!!!ユズとミドリで先生を護衛しながら前進!!!俺とモモイとアリスで殿を務める!蹴散らしながら脱出するぞ!!!」
「ようやくG.Bibleが手に入ったのにこんなとこでやられるわけにはいかないよ!」
「皆で無事にベルチバードまで…いいや部室まで帰るよ!」
「「「うん!!!」」」
直ちにX-02に乗り込んだネイトの指示で撤退戦が開幕。
今度ばかりはロボット兵側も本気のようで…
「あ、あの四角い奴は!?」
「スイーパーだ!囲まれるなよ!」
水没地帯でも大挙して襲い掛かってきた戦闘ロボット『スイーパー』の姿も多数確認。
「ど、どいてっ!」
ユズは群れで迫るスイーパーに向けパルスグレネード弾を発砲。
一気に多数の機体が巻き込まれ群れに風穴があいた。
「進路開けました!」
「先に行け、俺達も追いかける!」
先生たちを優先して逃がすネイト。
工場の奥からはなおも多数のロボット兵とスイーパーが湧き出てくる。
「あぁもう!しつっこいなぁ!」
「ネイトさん、フルチャージを使いますか!?」
「まだだ、アリス!切り札は取っておくんだ!」
その軍団を押しとどめながらネイト達も徐々に出口へと向かう。
その時、今までにない大きな足音が工場内に響き渡る。
「なに、今の足音!?」
「ボスキャラの登場ですか!?」
困惑するモモイとアリスだが…
「この足音…まさか…!」
ネイトは聞き覚えがあった。
それはあの時…ホシノ救出のために乗り込んだアビドス砂漠のカイザーPMC基地にいた。
その予想を確信づけるように…それは『二体』現れた。
二足歩行の腕部にガトリング砲と頸部にビーム砲を備えた大型戦闘兵器…
「ゴリアテ…まさかここにも…!」
カイザーの最新兵器であるはずの代物、ゴリアテが現れた。
「モモイ、俺と左の奴を!アリス、切り札を使う時だ!右の奴にブチかませ!!!」
あれを室内で暴れさせるのはまずい。
一気に勝負を付けるためネイトの指示が問う。
「これでも食らええええ!!!」
「スコアをもう一つ稼いでやる!!!」
ユニーク・アイディアの焼夷徹甲弾とレーザーが一体のゴリアテに襲い掛かる。
さすがに頑丈だがそれでもレーザーによって装甲に穴が開きモモイの弾丸を通るようになる。
さらに…
「丸裸にしてやる!」
ゴリアテの各種武装にV.A.T.S.で狙いを定め発砲。
武装さえ何とか出来ればゴリアテもただの木偶の坊にすることができる。
そしてその隙に…
「むん!」
ゴリアテに向け何かを投げつけ付着させるのであった。
一方、
「魔力充填70%…!」
アリスは最後の一撃を放つべく電力のチャージを開始。
だが、バッテリー切れ寸前故かかなり遅い。
なんとかゴリアテの攻撃は往なせているが…
「充填80%…!早く、早く…!」
それでも気持ちは逸る。
だが…
「キャッ!」
意識をチャージに割き過ぎたか、足元の凹凸に足をとられ転倒してしまった。
そこへ…ゴリアテは無情にも頸部のビーム砲を構える。
「ひっ…!」」
今まで感じたことのない恐怖にアリスは悲鳴を上げるも…砲口からビームが放たれた。
「―ッ!」
確実に来るであろう衝撃に身を固めるアリス。
だが…
「だ、ダメージが…?」
その衝撃は一向に来ない。
目の前に目を向けると…
「大丈夫か、アリス!?」
「ネ、ネイトさん!」
『スカラベ』を展開しアリスの前に立ちふさがりビームを受け止めるネイトの姿があった。
さすがはケテルの装甲、ゴリアテの砲撃すら受け切って見せている。
そこへ、
「アリスをいじめるなああああ!!!」
モモイが野球ボールグレネードを投擲しビーム砲を打つゴリアテに命中させ体勢を崩させる。
「おまけだ!」
さらにネイト、V.A.T.S.クリティカルを使用し追撃。
『氷結』の効果で一瞬のうちにゴリアテは凍り付いた。
「アリス、今だっ!」
「はっはい!魔力充填100%!!!」
二人が生み出した隙をアリスは見逃さない。
「この光に意志を込めて…!貫け!バランス崩壊!」
凍り付いたケテルに向けフルチャージされた『光の剣:スーパーノヴァ』の一撃が放たれ命中。
凍り付いていたこともあってゴリアテは粉々に粉砕された。
「や、やりました!アリス、ボスを倒しました!」
「よくやった!でも喜ぶ前に脱出だ!」
「行くよ、アリス!」
「はっはい!」
既にもう一機のゴリアテの武装は破壊済み。
これ以上まともにやりあうのは時間の無駄のためネイトたちは一気に工場の外を目指し走り出す。
ゴリアテや周囲のロボット兵たちも逃がすものかと追撃。
一足早くネイトたちは工場の建物から脱出、
「三人とも、こっちだ!」
見ると先生が手を振り居場所を教えてくれている。
三人は振り返ることなく走り続けるもゴリアテたちも外に出てきて襲い掛かろうとした…その時だった。
一筋の蒼い流星がゴリアテに横殴りに襲い掛かり粉砕。
それだけでなく工場にも降り注ぎロボット兵諸共瓦礫の山と化すのであった。
「ひゃー!今のってあれだよね!?あんなに正確に当てれるの!?」
「試作が上手くいったようだな!」
「い、今のは!?」
「アリス、話はあとだ!今は逃げるぞ!」
「はっはい!」
一瞬背後を確認しネイトたちは先生と合流。
その後はベルチバードの所まで逃げ切り…廃墟区画を脱出。
こうして…第二次G.Bible確保作戦は大成功の裡に幕を閉じるのであった。
恐怖と勇気がどんなに近くに共存しているかは、敵に向って突進する者がいちばんよく知っているであろう。
―――経済学者『オスカー・モルゲンシュテルン』