Fallout archive   作:Rockjaw

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友と共に暗闇の中を歩く方が、一人で光の中を歩くよりいい
―――社会福祉活動家『ヘレン・ケラー』


A Moment when one's Mask Breaks

G.Bibleを確保し廃墟区画を脱出したネイトたち。

 

肝心のG.Bibleにはロックが掛かっていたのでそれを解くためミレニアムに直帰後、

 

「ヴェリタスって確かハッカーの部活だろ?ぱっと持って行ってパスワード解析とかやってくれるのか?」

 

「はい、結構騒動を起こしてますけどシステムやデータの復旧もやってくれてるので忙しくなければ大丈夫だと思いますよ。」

 

「反セミナーって聞いてるけど…ユウカから頼まれた私やネイトさんが行っても追い返されたりしない?」

 

「確かに普段からそう言ってるけどそこまで険悪じゃないし企業とかからもお仕事受けてるから平気平気、、先生。」

 

一行はPip-Boyの中に入れられていたG.Bibleのパスワードを突破できうるであろう部活である『ヴェリタス』の部室へと向かっていた。

 

「そ、それにお土産も、買ってるから、喜んでくれますよ。」

 

「…女子高生へのお土産でエナドリ箱買いが喜ばれるのはちょっと気になるかなぁ…。」

 

「エナドリとはスタミナポーションみたいなものですか?アリスも飲んでみたいです!」

 

「止めといたほうがいいぞ、アリス。飲むなら砂糖とミルク入れたコーヒーの方がいい。」

 

「ネイトさんはエナドリ飲まないんですか?」

 

「そもそも俺はほぼ徹夜しない。寝不足はいい仕事の敵だからな。」

 

道中購入した手土産にヴェリタスの多忙ぶりがうかがえつつネイトたちは部室を目指すのであったが…

 

「あり得ない…!あり得ないよ、こんなの…!」

 

解析を頼んで早々、ヴェリタスの心はぽっきりと折られた。

 

今まさに打ちひしがれている彼女は『小鈎ハレ』。

 

2年生でヴェリタスの中では主にAIやシステムの作成を行う役割を持っている。

 

特筆すべきはその頭脳で…ヒマリなどの例外を除きミレニアムで彼女に敵う者はいない。

 

ミレニアム発の最先端機器の開発にはほとんど関わっていると言えばその頭脳明晰ぶりが分かるだろう。

 

そんな彼女が…

 

「なんなの、このウェアラブルデバイス…!?回路の構造とスペックに載っかってる機能の説明がつかない…!」

 

今目の前に置かれた機器…Pip-Boyに頭を抱えるしかなかった。

 

「…やっぱエナジードリンク箱で渡すのはまずかったか?」

 

「いや、絶対そこじゃなくて…。」

 

問題が起こったのは入室早々だった。

 

挨拶を済ませて早々、

 

「手土産と言っては何だがこれを受け取ってほしい。」

 

Pip-Boyを操作し何もない所からエナジードリンク『妖怪エナジー』の箱を三つ取り出したネイト。

 

もはやゲーム開発部や先生には見慣れた光景だ。

 

が、

 

「「「…え?」」」

 

物理的にあり得ない量の物体を腕のデバイスを操作し取り出したその光景はヴェリタスの度肝を抜くには十分だった。

 

その後はPip-Boyを外しG.Bibleのパスワードの解析を依頼したのだが…

 

「電波受信装置にナビゲーション機能にライトにガイガーカウンターに各種バイタルチェック機能に近距離対人レーダー…!?」

 

見れば見るほど訳が分からない。

 

他の機能はさほど珍しくもないがこんな小型の対人レーダーなどキヴォトスでもお目にかかれないだろう。

 

それ以外の機能はまだ理解できるが…これらの機能をもってしておつりがくるのが…

 

「物質の『データ化収納』…!?そんな技術見たことも聞いたこともないのに…!?」

 

Pip-Boyの十八番ともいえる『収納機能』だ。

 

身体に負担がかからない最大の重量にして410ポンド、実に200kg近い物資を『データ化』させこの中に入れることができるというではないか。

 

しかも、体への負担を無視すれば…その容量は実質無限。

 

ミレニアムであっても構想すらできていない驚異の機能である。

 

さらに問題なのはPip-Boyそのものの『性能』だ。

 

「ネ、ネイトさん…!もう一度このデバイスのスペックを…!」

 

「だから、それは『Pip-Boy 3000 Mark IV』、RAMは64KBでさっき見た時の残量は35.711KBだった。」

 

こともなげに語るネイトだが…

 

「なんで今はもう見れないような低スペックのこんな小さな『真空管式コンピュータ』でこんな多機能とこのデータがダウンロードできたの…!?」

 

より一層頭を抱えるハレ。

 

「えぇっと…スペック的に分かりやすく言うとどのくらいになるのかな、ハレ?」

 

「容量だけでいえば…その子たちが遊んでいる超レトロのカセットゲームと同等だよ…!」

 

「え…?!」

 

相当する代物を挙げられいよいよ先生にもこのPip-Boyの異常性が分かってきた。

 

たったそれっぽっちの容量では考えられないような多機能。

 

それをマイクロチップなどの集積回路を一切用いず真空管で実現している。

 

今まで様々な最新機器を生み出してきたハレだからこそ…こんな理不尽を前に打ちひしがれるのも無理はない。

 

「へぇ~。」

 

一方、ネイトはというといまいちピンとこないのか軽く返す。

 

「へぇ~…Pip-Boyって『ドラテス1』くらいの容量なんだ…。」

 

「そんな風には見えないですけど…不思議な機械ですね…。」

 

「で、でも、『レッドメナス』が遊べたのも、納得…。」

 

「つまり、太古の昔の激レアアイテムというわけなのですね!」

 

付き合いの長いゲーム開発部の反応もかなり軽めだ。

 

アリスも便利なアイテムくらいの認識しかない。

 

「だが、ちゃんとG.Bibleは入ってるんだろ?なら問題ないじゃないか。」

 

「むしろ『なんで入っている』と私は聞きたいんですけどね…。」

 

そう言い、これまたげんなり顔で現れたのは長い金髪でメガネとヘッドホンがトレードマークの生徒。

 

『音瀬コタマ』、3年生でヴェリタスが誇るハッカーの一人で専門は『盗聴』。

 

なぜか

 

「どうして、コタマ先輩?ちゃんとダウンロードできたのに何がおかしいの?」

 

コタマがなぜそんなにげんなりしているかが分からず首をかしげるモモイ。

 

「…このデータ、見かけ以上にかなりの容量でして…モモイさんが持ってるゲーム機にダウンロードするとなるとほぼすべてのデータを消去しないとダウンロードできないほどなんですよ…。」

 

モモイがもつゲーム機、『ゲームガールズアドバンスSP』とは8コア16スレッドカスタムCPUに8K解像度を誇るキヴォトス唯一の16bitゲーム機である。

 

モモイがもつ型式のメモリの容量は『32GB』。

 

「あ、危なかったぁ…!もう手に入らない装備とかのデータがこれには入ってるのに…!」

 

「心配するのはそこですか…!?それだけのデータをたったの3.2KBまで一切の破損なく『超圧縮』してこのPip-Boyはダウンロードしているんですよ…!?」

 

ちなみに現実で可能なデータ圧縮の比率は40%

 

そして問題のPipーBoyの圧縮率だが…実に0.0000001%、1000万分の1と比べることすら烏滸がましく思える。

 

「例えるなら木炭がダイアモンドに変化するくらいの圧力がかかって…このG.Bibleはこの中にダウンロードされたんです…。」

 

「よ、よくデータが破損しなかったね…。」

 

「本当に…一体どんな技術を使えば…。」

 

聞けば聞くほど…常識外れの機能満載のPipーBoy。

 

「あの…一度こっちで預かって解析というのは…。」

 

「ダメ。」

 

「ですよね…。」

 

少しでも解析したい、もっと言えばバラしてみたいと思うのは無理はないが…PipーBoyの持ち主はネイトだ。

 

いかにヴェリタスと言えど持ち主の目の前でそんな暴挙には及べないし…ネイトを怒らせるのも怖い。

 

大人しく引き下がるしかなかった。

 

「それでマキちゃん。G.Bibleのパスワードの解析はどうなってるの?」

 

「ちょ~ッと接続に苦労したけど今解析が終わったよ、ミド。」

 

ミドリが声をかけたPCに向き合い作業中の赤い髪のお団子ヘアーの生徒。

 

『小塗マキ』、ヴェリタス最年少の1年生。

 

モモイとミドリをあだ名で呼ぶほど仲が良くゲーム開発部にもたまに顔を見せるほどだが…少々悪戯癖が度を越えてトラブルを起こしたりしている。

 

趣味は壁面アート『グラフィティ』、なおやりすぎて補導経験がある。

 

「そう言えば講和会議の時モモイ達を会場に入れるようにしたのも君だったな。」

 

「あの時はモモにどうしてもってせがまれてね。いやぁそれにしても噂のネイトさんがこんなとんでもないデバイスを持ってたなんてねぇ…。」

 

「そんなことよりマキ!G.Bibleはどうだったの!?」

 

「焦んないでよ、モモ。」

 

先輩二人がグロッキー状態の中、楽天的な性格が幸いしマキはPipーBoy内のG.Bibleの分析を終えていた。

 

結果はというと…

 

「結果は…アレは確かに彼の伝説のゲーム開発者が作った神ゲーマニュアル…G.Bibleで間違いないね。」

 

「やッやっぱりそうなんだ!」

 

「う、噂は、本当だったんだね…!」

 

マキが断定するにはいくつか確証があった。

 

解析して判明したファイルの作成日に最後に転送された日時やファイルの形式などからも本物としての確証は十分。

 

極め付きは件のゲーム開設者のIPアドレスも完全に一致しデータの転送の形跡も一回しかない。

 

「ってことは!」

 

「うん、オリジナルの『G.Bible』だろうね。」

 

「すっ凄い!」

 

「伝説のアイテムゲット成功ですね!」

 

「うぅ…走り回った甲斐があったよ…!」

 

この二日間の苦労が報われ安堵するモモイ達だが…

 

「でも問題があって…ファイルのパスワードについてはまだ解析できてないの。」

 

「えぇッ!?じゃあ結局見れないってことじゃん!?」

 

肝心のパスワードが今もって不明で中身を見れないことに唖然とする。

 

「やっぱり時間がかかるのか?」

 

「アタシはあくまでクラッカーでホワイトハッカーじゃないからね…。」

 

「…ハレとコタマだとどうかな、マキ?」

 

「できないこともないだろうけど…やっぱり時間が掛かっちゃうよ。」

 

「ネイトさんもハッキングできるんですよね?」

 

「それはそうだが…PipーBoyの中にあるとなると少し骨だな。」

 

時間があるなら腰を据えて解析を依頼してもいいが…今は余裕がない。

 

モモイ達としては一刻も早くG.Bibleの中身を確かめたい。

 

そんなはやる気持ちを察してか…

 

「でも…方法が無いってわけじゃないよ。」

 

マキが別案を提案する。

 

「そうなの?」

 

「あのファイルのパスワードを直接解析するのは多分ほぼ不可能。でも、セキュリティファイルを取り除いて丸ごとコピーするっていうことならきっとできるんじゃないかな…。」

 

「…要は金庫のドア部分をくりぬいて金庫を中身ごと他所に移すってことか?」

 

「例えるとそんな感じだね、ネイトさん。で、そのためには『Optimus Mirror System』…通称『鏡』って呼ばれるツールが必要なの。」

 

「ネイトさんの例えでなんとなくわかったけど…。」

 

「つまり、G.Bibleの中を見るには『鏡』って言うプログラムが必要だってことだよね?」

 

「マキ、それはどこにあるんだい?」

 

なんとも便利なツールがあったもので一気に希望が湧いてきた。

 

先生がその『鏡』とやらの所在を尋ねると…

 

「あたしたち、ヴェリタスが持って…た。」

 

「…なんで、過去形なの?」

 

何やら訳ありそうな回答が返ってきた。

 

「そうだよ、今は無いの。生徒会に押収されちゃったの、もうッ!この前ユウカがいきなり押し入ってきて『不法な用途の機器の所持は禁止』って言って持ってっちゃった。」

 

「『鏡』もそうですし…私の盗聴器とかもいろいろ持っていかれてしまいましたね…。」

 

「………おいまさかシャーレにあった盗聴器の出所は…!」

 

「…その節はどうも、今度はもっと見つかりにくい場所に仕掛けて見せます。」

 

「いやッ盗聴はもうしないって言ってくれないかな、コタマ!?」

 

「コタマ先輩ったらあの日一日中難聴になって大変だったんだからね。」

 

まさかの下手人発覚に話題がそれそうになるが…

 

「その『鏡』って…そんなに危ないものなの?」

 

ミドリが『鏡』の性能について尋ねる。

 

セミナーが慌てて回収するような代物だ。

 

もしPipーBoyに使って何か悪影響があったら…

 

そんなミドリの問いかけに、

 

「そんなことはないよ。単に暗号化されたシステムを開くのに最適化されたツールってだけ。ただ…世界に一つしかない、私たちの部長が直々に制作したハッキングツールで。」

 

ハレは懐かしむように答えた。

 

「ヒマリが作ったシステムか…。それはすごいだろうな。」

 

「あれ?ネイトさん会ったことあるの?」

 

「昨日の晩にな。」

 

「ヒマリ?」

 

「この部活の部長で今はちょっと他所に引き抜かれてるらしい。車いすに乗ってるから見かけたらすぐに分かるさ。」

 

「凄い人でね。少なくとも今のミレニアムにはいない天才…っていうのかな。この学校の歴史上で3人しかもらえてない学位『全知』を持ってる人なの。」

 

「この前の戦争でもネイトさんを助けてくれた人なの!でも、そんなヒマリ先輩が作った装備をどうして取られちゃったのさ?」

 

モモイの疑問も納得だ。

 

ヒマリ作成の代物であるならばむしろ保有していない方が宝の持ち腐れという物。

 

それを没収したとなると余程の理由が…

 

「……私はただ先生のスマホのメッセージやW.G.T.C.のデータを確認したかっただけです。そのために『鏡』が必要で…。不純な意図は全くなかったのですが…。」

 

「意図がないどころか不純すぎて逆に純粋になってるよ!?」

 

…うん、よほどの理由だった。

 

「残念、そういうシステム使っても『電子的諜報シギント』だけだと絶対ウチのデータは覗けないぞ。」

 

「『人的諜報ヒューミント』はうちの部活の専門外なんですが…。」

 

「まだ酒も飲めないような君たちのハッキングに対処できないようじゃな。」

 

「グヌヌ…。」

 

防諜においてネットワーク方面もネイトには抜かりはなかった。

 

「うわあぁん!早く『鏡』を探さないと部長に怒られちゃう!」

 

「とにかく、ざっくばらんに言うと私たちも『鏡』を取り戻したい。ゲーム開発部としてもG.Bibleの中を見るために『鏡』は必要…そうでしょ?」

 

「…なるほど、目的地は一緒なんだし旅は道連れってね。」

 

奇しくもゲーム開発部とヴェリタスの思惑は一致、

 

「さすがモモ、話が早いね。」

 

「うん、この話乗ったよ!」

 

「共にレイドバトルを始めるのであれば私たちはパーティメンバーです!」

 

そんな笑顔を浮かべるアリスと対照的に…

 

「あの…お姉ちゃん、もしかしてだけど…。」

 

ミドリは顔を青くし…

 

「まさかヴェリタスと組んで生徒会を襲撃するつもりなんじゃ…!?」

 

想像したくもないが想像せざるを得ない計画の答えに行きついた。

 

「…先生、これはシャーレ的には?」

 

「う、う~ん…!お悩み解消もだけど生徒会に襲撃をかけるのも止めるべきで…!」

 

モモイ達の願いか襲撃を止めさせるべきかの板挟みになる先生であった。

 

「…でもちょっと問題があってね。」

 

と、まとまりかけた同盟だがマキが表情を少し歪ませる。

 

「問題?」

 

「『鏡』は生徒会の『差押品保管所』に保管されてるんだけど…そこを守ってるのが実は…。」

 

「実は?」

 

「…メイド部、なんだよね。」

 

マキの口から出たその部活名に…

 

「…え?メイド部ってもしかして…!?」

 

ミドリは目を見開き、

 

「あぁ『C&C」のことだよね?ミレニアムの武装集団、メイド服で優雅に相手を『清掃』しちゃうことで有名なあの…。」

 

モモイは聞きなじみかのように明るくそれに答える。

 

「そうそう!まぁ些細な問題なんだけどさ~♪」

 

マキもつられて明るくそれに返した。

 

「そっか~!そうだねー、うーんなるほど~…。」

 

が、モモイは徐々に勢いがなくなり…

 

「諦めよう!!!ゲーム開発部、回れ右!!!撤退開始ぃッ!!!」

 

踵を返しヴェリタスの部室の出口へと駆け出そうとするのであった。

 

「待って待って待って!諦めちゃダメだよ、モモ!G.Bibleが欲しいんでしょ!?」

 

「そりゃ欲しいよ!でもだからってメイド部と戦うなんて冗談じゃない!そんなの走ってる列車に乗り込めとか燃え盛る火山に飛び込めって言われた方がマシだよ!!!」

 

「で、でもこのままじゃあたし部長に怒られ…じゃなくて!ゲーム開発部も終わりだよ!?このままだと廃部になっちゃうかもしれないんでしょ!?」

 

そんなモモイを止めようとマキが飛び掛かりわちゃわちゃとしだす。

 

「…やっぱりただの『家政学部』みたいな集まりじゃなかったか。」

 

二人の反応を見てネイトは妙に納得がいった。

 

『メイド部』、先のアビドス独立戦争でアビドスに派遣されたミレニアムの調査員たちだ。

 

当時『ホットスポット』を警護していた生徒たちは口々に『只者じゃない』と報告している。

 

ネイトもボディカムの映像から…並の生徒では太刀打ちできない強者を見抜いていた。

 

「…コタマ、そのメイド部に『室笠アカネ』という生徒はいるか?」

 

「!ご存じなんですか、ネイトさん?」

 

ピタリと名前を言い当てたネイトをコタマは少し驚きながら見る。

 

「情報はな。」

 

「…『室笠アカネ』、コールサイン『ゼロスリー』。メイド部…いやC&C内で4人しかいないナンバー持ちの一人だよ。」

 

「どういった連中なんだ?」

 

「セミナー直轄の武装組織で警護・潜入・破壊工作・人質救出に戦闘…なんでもござれのメイド集団です。」

 

「『パラミリ』みたいな連中だな。」

 

「『パラミリ』?…今までC&Cの『ご奉仕』で壊滅させられた違法組織や武装サークルは数知れず、最後は痕跡すら残さずきれいに掃除される…というのは有名な話だよ。」

 

「なるほど。説明をありがとう。…モモイ、落ち着け。」

 

あらかた情報を聞け二人に礼を述べてからモモイを宥めるネイト。

 

「だってネイトさん!C&Cってめちゃくちゃおっかないんだよ!?」

 

「別にマキも『C&Cを倒そう』って言ってるわけじゃない。目的は『鏡』の奪還、戦わないっていう選択肢もとれるんだぞ?」

 

そう、C&Cはあくまで障害。

 

真正面からぶつかる必要はなく回避することもできる。

 

「そうそう!ネイトさんの言う通りだよ!『鏡』さえぱっと取って帰ってくるだけでいいんだからさ!」

 

「そんなに変わんないッ「…いや、それがそうでもないよ。」…え?」

 

食って掛かりそうになったモモイだがハレの言葉で冷静に戻る。

 

「私の盗ちょ…情報によると現在メイド部は完全な状態ではありません。」

 

「同じ学校相手にも盗聴してるんだね、コタマ…。」

 

さらにコタマが情報を提供してくれた。

 

ミレニアム最強の武装集団であるメイド部。

 

最強たる所以は優秀なエージェントであるメイドが揃っているというのもあるが…

 

「中でもメイド部が最強たり得ているのは『彼女』の存在。」

 

「メイド部の部長、コールサイン『ダブルオー』…ネル先輩…!」

 

特記戦力たる生徒がいるということに尽きるだろう。

 

ミドリの顔が青ざめていることから…かなりの手練れなのだろう。

 

「ネル?」

 

「先生は、見たことあると、思います。初めてミレニアムに、やってきたときに…。」

 

「…ひょっとしてモモイがミニガン浴びせてホシノがテーザー打ち込んでた、あの!?」

 

「俺がいない間に何やってるんだよ、あいつら…。」

 

「と、とんでもない事やってたんだね…。けどいま彼女はミレニアムにいないんだよ。」

 

その最強たる『ネル』が不在とのことだ。

 

ならば…

 

「正面衝突を避けて『鏡』だけを奪って逃げる…うーん…。」

 

モモイも立ち止まり勝算の有無を考える。

 

すると…

 

「……やってみよう、お姉ちゃん。」

 

いままで消極的だったミドリがこの作戦に前向きな言葉を上げる。

 

「えぇッ!?でもネル先輩がいないからって相手はあの…!」

 

「分かってる。でも…このままゲーム開発部をなくすわけにはいかない。ボロボロだし、狭い部室だけど…。」

 

目を閉じると寸分たがわず思いえがける。

 

「…もう今は私たちがゲームをするだけの場所じゃない。思い出が詰まったみんなで一緒にいるための…大切な場所なんだから。」

 

この数か月でいろいろなことがあった。

 

それまでの自分達では考えられないような戦いや出会いもあった。

 

そして…昨日新たな仲間も増えた。

 

「だから少しでも可能性があるなら…私はやってみたい。ううん、もしメイド部と対峙することになってもそれがどれだけ危険だとしても…!」

 

敵は強大、だからどうした?

 

勝てるはずがない、だからどうした?

 

ミレニアム最強の部活、だからどうした?

 

「アリスちゃんのために…ユズちゃんのために…そしてここまで私たちのわがままに付き合ってくれたネイトさんや先生のために…私達、全員のために!」

 

そんなことなど…諦めていい理由にはならない。

 

「ミドリ…。」

 

いつになく熱い思いを語るミドリを真剣なまなざしで見つめるモモイ。

 

そして…

 

「私達ならできます。」

 

「アリス?」

 

アリスも決意の光をその目に灯し語り始める。

 

「伝説の勇者は…世界の滅亡を食い止めるために魔王を倒します。アリスは計45個のRPGをやって…勇者たちが魔王を倒すために必要な一番強力な力を知りました。」

 

「一番強力な力…?レベルアップ?あ、装備の強化?」

 

「盗聴ですか?」

 

「EMPショックとか!?」

 

「おい、コタマにマキ。そんな現代チックな魔王は俺も嫌だぞ。」

 

「ち、違います…。」

 

そんなネイトのツッコミもあったがアリスは満面の笑みを浮かべ…

 

「一緒にいる仲間です。」

 

「アリス…。」

 

「仲間がいればどんな魔王にだって勝てます!」

 

天真爛漫を絵に描いたような笑みで語るアリス。

 

そんなアリスを見て…

 

「…うん、よし。やろう!生徒会に潜入して『鏡』を取り戻す!」

 

モモイもとうとう腹をくくった。

 

「ハレ!何かいい計画とかない!?」

 

「任せて。ただその計画を実行するためには…いくつか準備が必要だね。色々必要だけど…やっぱり『仲間』がもっと欲しいかな。」

 

「仲間?」

 

「でも、私達とはそんなに親しい仲ってわけじゃないから…先生にお願いしないとね。」

 

「先生、ご指名だぞ?」

 

「…分かったよ、皆。私にできることなら、任せて。」

 

先生も覚悟を決め計画に参加する意思を示す。

 

すると…

 

「ネイトさん!ネイトさんもアリスたちのパーティに加わってください!」

 

アリスがネイトの手を取って作戦参加をねだってきた。

 

確かにネイトは戦闘に潜入や電子作戦もなんでもござれの文字通り『切り札』的存在だ。

 

この作戦のメンバーに加われば成功確率も大きく跳ね上がるだろう。

 

だが…

 

「…。」

 

ネイトは手近にあった紙の裏にある文章を走り書きしその内容を全員に見せる。

 

それをした後…

 

「…悪いが、今回の参加は見送らせてほしい。」

 

なんと作戦参加を辞退する言葉を発したのであった。

―――――――――――――――――

 

―――――――――

 

――――

「なるほど、それは確かに的確な判断だ。」

 

ヴェリタスの部室を後にした一行の姿はエンジニア部にあった。

 

「君の言う通り、その方法なら私達じゃないと難しいだろうね。」

 

ウタハは作戦参加の打診を受けしばし考え…

 

「うん、分かった。協力しよう。」

 

『鏡』奪還作戦に参加を表明、

 

「ほ、本当にいいんですか?エンジニア部は実績も沢山ありますし、こんな危ない橋を渡る必要は…。」

 

「そうだね。そうかもしれない。」

 

「なのにどうしてメイド部と戦うなんて危険な作戦に協力してくれるんですか?」

 

正直、メリットはあまりない。

 

むしろ、終わった後に受けるデメリットの方がエンジニア部には多いだろう。

 

ミドリの疑問ももっともだ。

 

だが…

 

「それは…。」

 

「うん、そっちの方が面白そうだから…かな?」

 

「そうです!それに私たちももっと先生やネイトさんと仲良くなりたいですから!」

 

エンジニア部にとってそれらは些細なこと。

 

自分たちのやりたいこと、面白いと思うことをやる。

 

どんなことでも彼女たちの活動方針に一切のブレはない。

 

「それと…。」

 

「?」

 

「ウタハ先輩?」

 

「…いや、今はいいさ。よろしく。」

 

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします…!」

 

こうしてエンジニア部も仲間に加えることができた。

 

「これで準備は万端か?」

 

「うぅ~緊張しますね…!」

 

「アリス、どんなことでも頑張ります!」

 

「うん、絶対に『鏡』を手に入れようね。」

 

「よぉ~し、ハレにエンジニア部も仲間に加えられたって報告しなくちゃ!」

 

一行は再びヴェリタスの部室に戻っている。

 

すると…

 

「…ネイトさん。」

 

「どうかしたか?」

 

アリスがネイトを呼び止めた。

 

「アリス、実はネイトさんにお願いしたいことがあるのです。」

 

「お願い?なんだ?」

 

「アリスは今まで45個のRPGをプレイしてきましたが一番好きなキャラクターがいるんです。」

 

「え、なになに?!アリスはどのRPGのキャラが好きなの!?」

 

ゲーマーとしては聞き逃せない話題にモモイも話に入ってきた。

 

「私もちょっと気になるかも。あれだけやってその中でアリスちゃんが一番好きなキャラクターって。」

 

「でもネイトさんにどんな関係があるんだい、アリス?」

 

「はい!そのキャラクターは少年時代の勇者とNPCとして一緒に冒険をしていました!まだアリスはそのゲームをクリアしてませんが一番魅力的だと思いました!」

 

「へぇ、そのゲームはなんて言うんだ?」

 

「『ドラゴンテストⅤ 大空の新婦』というゲームです!」

 

生憎ネイトはこのタイトルをプレイしたことがないのでピンとこないが…

 

「あ、分かった!確かにあのキャラは魅力あるよね!」

 

「うん、シリーズであのタイプのキャラクターは一杯出てくるけど一番を上げるとやっぱりあの人だよね!」

 

モモイとミドリはすぐに察しがついたようだ。

 

そして…

 

「…あぁ、分かった!だからなんだか見覚えというか既視感があったんだ!」

 

「そっか!ネイトさんとアリスちゃんのやり取りってまさに主人公とあのキャラクターみたいだね!」

 

アリスがどうしてそれをネイトに言っているかもすぐに理解した。

 

「三人で盛り上がってないで教えてくれよ。アリス、一体どんなキャラクターなんだ?」

 

そんな様子を微笑ましく見つめつつアリスにそのキャラクターの紹介を求めるネイト。

 

………ネイトにとってはこの判断は『迂闊』過ぎた。

 

「はい!そのキャラクターは『ファザス』と言って主人公の『父親』なんです!」

 

アリスの口から語られたキャラクターと主人公との関係を聞いた瞬間…

 

「~ッ!!?」

 

ネイトの表情が固まった。

 

「…え?」

 

「ネイトさん…?」

 

「ど、どうし…。」

 

付き合いのある先生やモモイにミドリはその変化を敏感に感じ取ったが…

 

「アリス、今日の冒険でネイトさんと一緒にモンスターと戦っているとき『ファザス』と一緒に戦う主人公もこんな感じなのだと分かりました!」

 

アリスは満面の笑みを浮かべたまま話を続ける。

 

「そして、目覚めた時やボスからの攻撃から守ってくれた時にネイトさんからモモイ達から感じる『暖かさ』と違う『暖かさ』を感じました!検索してみるとそれは『安心感』や『愛情』だと分かりました!」

 

アリスはようやくネイトに感じていたものの正体が分かりとても喜んでいる。

 

「ネイトさんはアリスにとって仲間です!でも、もっともっと特別な関係になれると思いました!そうすればネイトさんとアリスはもっと仲良くなれます!」

 

アリスはあまりにも…あまりにも『純粋』過ぎた

 

その願いは本心からだろう。

 

その思いは真心からだろう。

 

「ネイトさん!どうかアリスの■■になってはもらえませんか?!」

 

だから…ネイトは聞き取れなかった。

 

アリスの願いの核心を…聞き取ることを『許さなかった』。

 

「………。」

 

「…ネイトさん?」

 

「ッ!す、すまない。ちょっとボォッとしていた。」

 

固まっているネイトにようやく気付いたアリスが首をかしげながら様子を尋ねる。

 

…答えなくてはならない。

 

今この子から…逃げることは許されない。

 

「…もう一度言ってはくれないか?」

 

覚悟を決めアリスにもう一度尋ねるネイト。

 

そして…

 

「はい!ネイトさん、どうか『アリス』の『パパ』になってはもらえませんか?」

 

聞きたかったくなかったその言葉が…アリスから再び放たれた。

 

「…………できない。」

 

「え…?」

 

口を突いて出た答えだった。

 

それも…アリスが今まで聞いたこともないような冷たい声だった。

 

思わずアリスも固まってしまった。

 

「あ…!」

 

すぐにネイトもしまったといった表情を浮かべ…

 

「す、すまない。少しびっくりしたんだ。」

 

アリスに弁明…いや、まるで自分に言い聞かせるようにネイトは理由を説明し始める。

 

「アリス、それは…とても『重い』ことなんだぞ?」

 

「重い…こと?」

 

「そう。例え『呼び方』だけであっても…それは決して『安易』に使っちゃダメなんだ。」

 

「どうしてですか?」

 

「それは………とにかく、俺はアリスの『仲間』だ。これからもずっとだ、いいな?」

 

「は、はい。」

 

アリスは言い知れないネイトの雰囲気に気圧されてそうとしか言えなかった。

 

「よし、じゃあそう言うことだ。…すまないが、先にヴェリタスの部室に戻っててくれ。ちょっとお手洗いに行ってくる。」

 

強引に話題を打ち切るようにネイトは足早にその場を後にして行くのであった。

 

 

 

 

 

Side Nate

 

トイレに駆け込んだ俺は頭を冷やすように顔を洗い続けた

 

俺は…一体何を思った?

嬉しかっただろう?

そんなわけない。

じゃあなんであの子にあんな風に接してたんだ?

普段通りだ、何も違いはない。

いいや、俺は絶対あの子に特別な思いを抱いていたはずだ。

違う、ホシノやモモイ達と何ら変わらないはずだ。

じゃあなんで…あんな風に叱ったんだ?

トリガーコントロールは常識だろう。

だとしても…なんで反省したらすぐにあの子を誉めたんだ?

それは…あの子はまだ目覚めたばかりで…!

そうだ。あの子は昨日目覚めて『アリス』になったばかりだ。

…何が言いたい?

あの子は『赤ん坊』も同然、親は絶対必要なはずだろう?

 

「黙れ…ッ!」

 

頭の中に聞こえるもう一人の『俺』の声を振り払うようにそう呟くと…少し冷静になれたか声がしなくなった。

 

「ふぅー…。」

 

息をつき鏡を見ると…

 

「…ひどい顔だ。」

 

自分で見ても…とんでもない表情を浮かべていた

 

表情は死に目は虚ろで焦点が定まっていない。

 

『1000ヤードの凝視』そのものの顔だ。

 

アラスカでもこんな表情にはならなかったのに…。

 

その時だった。

 

あの子の…アリスの言葉が脳内にこだました。

 

『ネイトさん、どうか『アリス』の『パパ』になってはもらえませんか?』

 

忘れろ、忘れるんだ。

 

お前に…そんな『資格』があるはずないだろ。

 

120年前と60年前に…とっくに失っているはずだ。

 

許されるわけがない。

 

俺が此処にいるのはユメの願いを果たすためだけ。

 

それ以外は何もない、何も願っちゃいけない…!

 

ただの…地獄に落ちるまでの執行猶予を貰っているだけの身なんだぞ…!

 

『ネイトさん、どうか『アリス』の『パパ』になってはもらえませんか?』

 

またその声が響いたとき…俺の顔が『笑み』を浮かべそうになった。

 

「~ッ!」

 

反射的だった。

 

俺は懐からデリバラーを抜き放ち…

 

「武器を握るんならそれ相応の『覚悟』と『責任』を持て!!!」

 

また…俺の声が響いた。

 

Side Out

 

「ッ!?ネイトさん、一体何が…!」

 

ネイトの変化を敏感に感じ取った先生はネイトを追ってきていたが…突如鳴り響いたガラスの割れる音。

 

急いでその音の発生源である男子トイレに駆け込むと…

 

「はぁー…はぁー…!」

 

「ネ、ネイト…さん…!?」

 

銃把で鏡を叩き割り息を荒くするネイトがそこにいた。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「…あぁ、先生か。なんでも…。」

 

「何でもないわけないじゃないですか!?とにかくこっちへ!」

 

明らかにネイトの状態は異常だ。

 

すぐに駆け寄りネイトをその場から連れ出す。

 

しばし後、

 

「…落ち着きましたか?」

 

「…あぁ、取り乱しているところを見せてすまない…。」

 

二人の姿はベンチにあった。

 

「…モモイ達は?」

 

「先にヴェリタスの部室に戻っています。」

 

「そうか…。」

 

「ネイトさん…どうしてですか?」

 

意を決して先生は尋ねる。

 

「どうして…アリスの話を聞いたときにあんな悲痛な顔を…。」

 

アリスのお願いは確かに唐突ですぐに答えられるようなものでもなかったのは理解できる。

 

だが、ネイトの変化はその前…『父親』というワードがアリスの口から出たタイミングだった。

 

それからずっと…いや、ネイトの異常はひどくなっている。

 

「………俺はな、先生。」

 

普段のネイトならあり得なかっただろう。

 

だが…ネイトの『精神的防御』が若干崩れ生徒ではない『先生』だったからこそ……自然と口から出てきた。

 

「俺には…妻と生まれて間もない息子がいたんだ…。」

 

『ネイト自身』の過去、

 

「ある朝…出かける前にニュースを見ていると…いきなり核戦争が始まったんだ…。」

 

ここまでならアビドスでも一部の生徒は耳にしたことがある内容だ。

 

だが…ここから先は…

 

「氷漬けにされて…150年たったころに目が覚めた時…俺の息子を狙ってやってきた連中がいたんだ…。」

 

「む、息子さんをですか…?」

 

「そんな連中から息子を護るために抵抗した妻のノーラは…俺の目の前で…射殺された…。」

 

「え…ッ…?!」

 

「俺は…目の前にいたのに…ポッドの中で妻が殺され息子が連れ攫われていくのを…見ていることしかできなかった…ッ!」

 

この世界で誰も爪の先すら掛けられなかった彼の…『本当』の過去が明かされていった。

 

「俺が連邦で旅を始めたのはな、先生…。息子を探すためと…ノーラを殺した仇を…殺すためだったんだ…!」

 

連邦復興など高尚なものではない。

 

ただただ…自分本位で復讐心に駆られた行動だったのだ。

 

「仲間ができて…いろいろな組織で役目を負っていくうちに…仇と息子の痕跡を見つけて…とうとう妻を殺したあの野郎を見つけて…俺は奴を…!」

 

軍人としての矜持など打ち捨てて…只の『復讐者』として人を殺めたことを。

 

「そして…俺はそいつの持っていた痕跡のおかげで息子を見つけ出すことができたんだ…。」

 

「…待ってください、計算がおかしいですよね…!?」

 

そこまで聞いて先生も気付いた。

 

ネイトはかつて言っていた。

 

『210年間冷凍された』、と。

 

だが、彼の息子が攫われたのは『150年』と言っていた。

 

つまり…

 

「あぁそうさ…。息子、ショーンは…俺よりも年寄りになっていたんだ…。」

 

「…ッ!」

 

ネイトは…父親としての役目すらも全て奪われてしまったのだと。

 

「それでも…俺は嬉しかったんだ…!ショーンに…俺とノーラが生きた証に出会えて…!でも…それも長くは続かなかった…。」

 

ショーンを見つけても…ネイトの苦難は終わらなかった。

 

「連邦に混乱をもたらしていた正体不明の存在『人造人間』を生み出す『インスティチュート』…。ショーンは…その組織の最高指導者だったんだ…。」

 

「人造人間て…まさか…!?」

 

「…その中にはショーンが自分の幼いころの姿をした人造人間もいた…。」

 

「それであの時…!でも、アリスは…!」

 

「分かっている、人造人間のショーンとアリスは全く別の存在だ…。…本当のショーンは…俺があったときにはもう長くなかったんだ…。」

 

ようやく会えたというのに…運命とはとことん残酷だ。

 

「最期を悟ったショーンは…俺にインスティチュートを…連邦の『再構築』を…連邦で生きる人間すべてを『人造人間』に置換する計画を俺に明かしたんだ…。」

 

「人間を人造人間に…!?」

 

あまりにも人道に反した…『合理性』しか見ていない計画に…

 

「俺は…反対した。その頃には俺も…連邦の…そこに生きる人々の『生きる力』を目の当たりにしていたんだ…。」

 

ネイトは一人の『連邦の民』として…ショーンに異を唱えた。

 

「連邦は立ち上がれる…復興できると、ショーンに訴えたんだ…。今思えば…そこで…俺はショーンと袂を分かったんだ…。」

 

「………。」

 

「インスティチュートは俺が立て直した組織『ミニッツメン』を脅威と判断したんだろうな…その後すぐに大軍団を差し向けてきたよ…。」

 

ようやく会えた実の息子と…血を血で洗う戦いを繰り広げ…

 

「最後は…インスティチュートの本拠地に突入して…インスティチュートを完全に『消し去った』…。」

 

「そんな…ッ!」

 

ネイトたちは連邦の未来を賭けた勝利を収めた。

 

息子の願いを踏みつぶして…。

 

「子供のショーンの人造人間が縋ってきたが…受け入れられなかった…。俺の息子は…たとえ袂を分かとうが…人間のショーンだけだ…。」

 

それでも…彼は『父』だった。

 

愛情は…最後の最後まで本物だった。

 

「そして…最後に…病床に臥したショーンに会った時…俺は誓ったんだ…。連邦を必ず蘇らせる、と…。」

 

『息子』の願いを果たすため…ネイトは鉄の誓いを立てた。

 

「そこからの俺の人生は…『誓い』を果たすためだけに生きた。連邦から出てワシントンD.C.やアパラチアにも向かって知識を集めた…。働いて働いて働き続けて…80を超えた頃にようやく復興出来た…。」

 

それ以外は何もかもかなぐり捨てた。

 

「…俺は…地獄に堕ちるべき人間だ。」

 

「そんなことはッ!」

 

「妻も守れず…息子の願いと夢に築き上げてきたものすべてを踏みつぶしたのにか…?」

 

「~ッ!?」

 

ネイトの顔を見た先生は二の句を告げることができなかった。

 

おそらく…処刑寸前の死刑囚というのはこんな顔をするのだろう。

 

それほどまで…ネイトの表情から生気を感じることができなかった。

 

さらに先生を閉口させたのは…

 

「俺が今キヴォトスにいるのは…ただ『アビドスを復興』するためだけだ…。だから、カイザーとも戦争したんだ…。」

 

『狂気』だ。

 

目的のためならどんなに強大な障害をも破壊する。

 

例え、その身が滅びようとも…成し遂げる。

 

狂気じみた覚悟…それこそがネイトの原動力だ。

 

いや、『それ』しかない。

 

ネイトの中に…『己』の意志や望みは一切感じることができなかった。

 

「だというのに…アリスにあぁ言われたとき…俺は『喜び』を覚えてしまったんだ…!」

 

そんな中…アリスのあの純粋な『願い』を聞き…

 

「俺にそんな資格なんか無い…有っていいはずがないのにな…。」

 

自分の中に…『望み』が芽生えてしまった。

 

だから…ネイトは否定する。

 

その芽をすぐに踏みつぶした。

 

「…他人を幸せにする『義務』はあっても俺に幸せになる『権利』なんかない…。望むことすら…烏滸がましいのにな…。」

 

「ネイトさん…!」

 

「…すまない、先生。こんな不出来な師匠の話なんか聞かせるべきじゃなかったな…。」

 

ネイトは席を立ち…ヴェリタスの部室とは別の方向に歩み始める。

 

「…少し…時間をくれ…。作戦開始までには…元の『俺』に戻っているから…。」

 

その背中は今まで見たこともないほど…『細かった』。

 

ネイトがそのまま力なく歩いていくのを…先生は見ることしかできなかった。

 

(どうする…!どうすれば…!?)

 

それでも彼は必死に考える。

 

ネイトをどうすれば…『救える』のか。

 

だが…その考えが全く浮かばない。

 

当然だ。

 

ネイトと自分では人生経験が違いすぎる。

 

自分には妻も居なければ子供もいない。

 

そんな自分がどう言葉をかければいいか…先生には分からなかった。

 

(…そうだ!)

 

だが、それを理由にネイトを救わないという選択肢など先生にはなかった。

 

ネイトもやっているではないか。

 

自分にできないことは…

 

「…あ、もしもし。突然申し訳ありません…。」

 

すぐに先生はある人物に連絡を取り始めたのであった。

 

そして…

 

「そっそんな…ッ!」

 

どこかの一室でそれを『聴いて』いた…『全知』の少女はあまりにも壮絶な内容に口を覆い…一筋の涙を流すのであった。




人はだれでも孤独である。自己の運命を思う時孤独である。苦悩に出会う時、病む時、死を思う時、すべて孤独である。
―――宗教家『住岡夜晃』
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