Fallout archive   作:Rockjaw

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商人か泥棒か、どちらかにならなければならない。
―――フランスの諺


MaidVSNerds⠀ ⠀ ⠀⠀ Part1

ゲーム開発部にヴェリタス、そしてエンジニア部の連合部隊でセミナーにカチコミを仕掛け『鏡』を奪還するという作戦が立てられ一晩が明けた。

 

この日のミレニアムに朝一で…『ミレニアムタワー』で爆音が轟いた。

 

その爆発により生じた煙の中…

 

「クッ…や、やられてしまいました…!ふ、復活の呪文……を…!」

 

ボロボロになったアリスが気絶し力なく倒れた。

 

「…信じられない。どんな方法で来るのかと思ったら…よりによってアリスちゃん単独の強行突破だなんて…。」

 

アリスを制圧したのはたまたま居合わせたユウカと

 

「この子がアリスちゃんですね。」

 

この場の守護を仰せつかっているメイド部・・・いやC&Cのエージェントであるアカネであった。

 

「とってもかわいいですね~。6番目のエージェントメイドとして育てたくなってしまいます。連れて帰ってもいいですか、ユウカ?」

 

「…それはダメ。今は生徒会を襲撃した犯人の一人なんだから…。」

 

「あら、それは残念。では、この後はどうしますか?」

 

「とりあえず一旦は生徒会の反省部屋に閉じ込めておくわ。」

 

ユウカは周りの生徒に指示をしてアリスを搬送。

 

「それにしても…まさかエレベーターの『指紋認識システム』を突破するためとはいえ…無理やり扉を撃ち破るだなんて…。」

 

その場に残されたのは無残に破壊されたエレベーターの扉。

 

『鏡』があるのはこの『ミレニアムタワー』の最上階の『差押品保管所』。

 

そこに行くためにはこのエレベーターしかないが『指紋認識システム』があるので行けるのは生徒会役員と限られた人物のみ。

 

その突破のために襲撃を仕掛けてきたのだろうが…相手が悪かった。

 

いや、そもそも…

 

「まさかヒマリ先輩の情報通りに本当に襲撃を仕掛けてくるなんて…。」

 

この襲撃はすでにセミナーとC&Cに把握されていたのだった。

 

「確認しました。エレベーターのセキュリティロックをすぐに修理するのは難しそうです。すぐに対処するには丸ごと交換するしか…」

 

「そう…じゃあすぐに…うぅん、ちょっとまってちょうだい。」

 

オペレーターの報告を受けユウカは少し考えこむ。

 

「アリスちゃんの出所不明のあの巨大な武器…十中八九エンジニア部で作られたものに違いないわ…。」

 

いかにユウカとはいえアリスの持つ『光の剣:スーパーノヴァ』は見たことがない。

 

すぐにエンジニア部の関与に勘付くが、

 

「ですが…ゲーム開発部と懇意にしているW.G.T.C.…いえ、ネイト氏が作ったものかもしれませんよ?」

 

アカネがネイトの関与に言及。

 

しかし、

 

「いいえ、少なくともあの武器はエンジニア部が作ったもので違いないわね。」

 

「その根拠は?」

 

「確かにネイト社長のテクノロジーはミレニアムでも脅威だわ。でも…技術体系が違うから一目見ただけですぐに分かるわ。」

 

ユウカはその可能性を否定。

 

ネイトの技術を一口で言い表すのは難しいが…ユウカはこう評する。

 

「枯れた技術を極限まで先鋭化し最先端まで押し上げた、それがネイト社長の技術の特徴よ。あの武器はどう考えても『最新鋭』のテクノロジーだからエンジニア部作と思っていいわね。」

 

「なるほど…。」

 

「それにネイト社長が関わっているなら…アリスちゃんじゃなくて自分で突入を仕掛けてくるはず…。…想像したらゾッとしちゃったわ。」

 

もし、今襲い掛かってきたのがアリスではなくネイトであったなら…

 

「部長がいない今でしたら…倒れているのは我々だったかもしれませんね。」

 

「…ともかくこういう時はエンジニア部に依頼していたけどそこに罠がある可能性も捨てきれないわ。エンジニア部製じゃない一番強力そうなセキュリティに交換して。」

 

何はともあれこれで襲撃が終わったとは考えられない。

 

ユウカは万全を期すために対策を練るのであった。

 

それから少し経ち…

 

「今朝は騒がしかったようだな、ユウカ。」

 

「…えぇ、大変でしたよ。」

 

セミナーで仕事中のユウカの前にネイトが現れた。

 

「全く…セミナーの襲撃計画を立ててると思っていたがまさか本当に実行するとはな…。」

 

と飄々とした口調で語るネイトだが…

 

「…ネイト社長、あなたは本当に関わっていないんですね?」

 

「おいおい、そんな目で見つめるな。」

 

ユウカの目線は猜疑心でいっぱいだ。

 

(確かにヒマリ先輩の情報だとネイト社長はこの作戦には不参加を表明してたそうだけど…。)

 

情報はそうでも…相手はあのネイト。

 

アビドスの情報を自分達にまで隠しきりまだ見ぬ技術、兵器を保有するシンギュラリティだ。

 

口も達者で自分たちはおろかゲヘナもカイザーも手玉に取る実力。

 

言葉の通り受け取るには…リスクが高い。

 

「そもそも…幾らゲーム開発部に協力しているとはいえそれは『友人』の範囲内だ。『商売相手』のセミナーに敵対しようっていうのは少々その範囲からは外れる。」

 

「…それだけの理由ですか?」

 

あくまで友人として付き合える限度を超えているので手を引いたと主張するネイト。

 

それでもジトッとした目線を向けるユウカだが…

 

「考えてもみろ。俺が月95億の安定収入を捨ててまでゲーム開発部につくメリットは何だ?」

 

「…確かに。」

 

そう言われると納得することしかできない。

 

ネイトは『社長』、友人関係は大切にするきらいはあるがその実やり手のビジネスマンでもある。

 

今ネイトが廃墟区画で自由に活動できているのはミレニアムとの良好な関係があってこそ。

 

アビドス復興が最優先の彼のことだ。

 

毎月95億の収益をみすみす捨てなければならないような選択をとる可能性も低い。

 

「…申し訳ありません。今朝のことで少し気が立ってたみたいで…。」

 

「無理もない。こんなタイミングで訪問して悪かったな。」

 

「お気になさらず。それでご用件は?」

 

「明日の朝一旦アビドスに帰るからヘリポートをこの期間貸してくれた礼をしに来たんだ。」

 

「そうですか。このくらいでしたら全然構いませんのに。」

 

「今度、何か差し入れ持ってくるさ。じゃ、俺はここらあたりで失礼するよ。」

 

長居するのも悪いと思ったのかネイトは要件を伝えそそくさと退散していった。

 

ネイトの性格上いまの話に嘘はないと思われるが…

 

「…もしもし、保安部?今晩、何人かネイトさんのベルチバードに監視をつけてもらえないかしら?」

 

一応の保険を掛けるためユウカは保安部に連絡を取るのであった。

―――――――――――――

 

――――――

 

―――

時は進み、日もとっぷりとくれた深夜。

 

「…さて、始めよっか。はぁ緊張する…!」

 

「大丈夫かい、ミドリ?」

 

「こんな気持ち、古代史研究会の建物を襲撃した時以来…。」

 

「大丈夫!皆がいればきっとやり遂げられるから!」

 

先生とモモイにミドリの姿はミレニアムタワーにあった。

 

いよいよ…『鏡』奪還作戦本番である。

 

「ハレ先輩、ヒビキやウタハ先輩は?」

 

《もう『お客さん』を出迎える準備はできてるって。》

 

「いいね、さすがだよ。」

 

エンジニア部も持ち場に待機し出番を待っている状況のようだ。

 

「やってるのは決していい事じゃないけどね…。」

 

「まぁ…終わってからユウカやセミナーの皆にちゃんと謝ろう。」

 

正直、先生としてもこの作戦は褒められたものではない。

 

それでも…ゲーム開発部の存亡がかかっているのだ。、

 

ならば…毒食わば皿までということで先生も同行することを腹を決めた。

 

「マキにコトリは大丈夫?」

 

《こっちも準備OK、待機中だよ~。》

 

《お任せください!私の理論上、この作戦が成功する確率は0.5%です!》

 

「えぇッ!?ほぼ間違いなく失敗じゃん!なんで自信満々なのさ!?」

 

《えへへ、場を和ませるジョークですよ!逆です、99.5%成功するでしょう!》

 

別動隊のマキとコトリも準備万端のようだ。

 

何やらコトリはこの作戦の成功に大変な自信を抱いているようだ。

 

「コトリちゃんとマキちゃんの準備も終わって…。」

カチッ

「…よし。第二段階、だね。」

 

これで準備は整った。

 

「それでは…先生!」

 

「うん、『鏡』奪還作戦開始!」

 

「はいっ!」

 

「行っくぞー!」

 

こうして『鏡』奪還作戦が始まった。

 

…が、

 

「…来たわね。」

 

「監視カメラにて対象を発見しました。1番ゲート、ポイントA1にターゲットを確認。」

 

その動きはセミナー側に筒抜けだった。

 

何を隠そうこのミレニアムタワーには差押品保管所に行くまでであっても監視カメラが400台に警備ロボット50台が配備されている超厳重警戒の施設だ。

 

さらにそこにブラック企業から押収した戦闘ロボットも数十台配備されている。

 

それらをすべて掻い潜って突破するのは…理論上不可能だ。

 

「人数は?」

 

「才羽モモイと才羽ミドリの2名。」

 

「了解したわ。こちらユウカ。監視班、ベルチバードに動きはあった?」

 

《こちら監視班、数時間前にネイト社長が乗り込んでから異常なし。周囲に警戒中のアサルトロンがいるため外部からの接触もありません。》

 

「…どうやら本当にネイトさんは作戦に不参加のようね。」

 

ユウカは素早く状況を整理する。

 

既に分かり切っていた襲撃計画、どんな手段に出てくるかと思ったが…これでは肩透かしもいいところだ。

 

「間もなくポイントA2に進入します。」

 

「そこまで入れば…もう脱出はほぼ不可能とみていいのですよね?」

 

「えぇ、完全に網の中に入ったわ。」

 

「では、私が行きましょう。」

 

「あら?だいぶ高く買ってるみたいね。アカネがわざわざ行く必要があるの?」

 

そんなモモイ達の迎えに赴くというアカネ。

 

この人数なら保安部を差し向ければ容易くカタが尽きそうだが…

 

「もちろんです。お客様のお出迎えはメイドとしての基本ですから。…それに。」

 

「それに?」

 

「あの『アビドス解放の英雄』と戦場で肩を並べた実力…甘く見るわけにはいきませんもの。」

――――――――――――

「え~ッとこの辺でいいんだっけ?」

 

「凄く奥の方まで来た感じだけど…おそらく間違ってはないね。」

 

ミレニアムタワー中層階の暗闇の中に響くモモイにミドリの声。

 

そこへ…

 

「えぇ、あっていますよ。」

 

『ッ!?』

 

「こんばんは、良い夜ですね。お二人のここまでの行動は監視カメラですべて見させていただきました。」

 

『迎え』にやってきたアカネが現れ声をかける。

 

「薄々お気づきかもしれませんが…あなた達の計画はもう失敗しています。お早めに投降することをお勧めしますよ。」

 

嫋やかに、それでいて一切隙を見せない歩調で二人に迫るアカネ。

 

「改めまして、私はC&Cのコールサイン『ゼロスリー』…本名はヒミツですので…。」

 

とエージェントらしい物言いで雰囲気を演出するが…

 

「あ、アカネ先輩!?」

 

「特技が『暗殺』で有名なあのアカネ先輩?!」

 

「…うーん、一応秘密のエージェントのはずですがいつのまにかそんな知られ方を…。正体を明かさない系ヒロインはもう時代遅れなのでしょうか…?」

 

そんな情緒をぶっ壊す才羽姉妹の発言に困り顔を浮かべてしまった。

 

「ネイトさん達も『ただ者じゃない』って言ってたくらいだしもう堂々とした方がいいんじゃなぁい?」

 

「さすがはW.G.T.C.とその指揮官、お見通しでしたか…。ですがそうはいきません。さぁ、そろそろ姿を見せていただきましょうか、モモイちゃんにミドリちゃん!」

 

自らの得物であるボルトアクション消音拳銃『ウェルロッドMk.1』、『サイレントソリューション』を構え投降を呼びかけるアカネだが…

 

「「…フフッ。」」

 

「?」

 

不敵に笑い始める才羽姉妹…

 

「まだ気づいてない感じかな?失敗してるのは…そっちの計画の方だよ?」

 

「はい?」

 

「こっちに来てくれてありがとうございます、アカネ先輩。」

 

いや…姿を現したのはモモイでもミドリでもなかった。

 

そこにいたのは…

 

「ハ~イアカネ先輩!寮に戻ろうとしてたんだけど道に迷っちゃってさ~♪」

 

「あ、あなた達は!?」

 

「あなたたちと聞かれたら説明するのが世の情け!どんな質問にも答えをご提供!今日絶賛二度ほど心を圧し折られてますがエンジニア部の説明の化身、豊美コトリ!」

 

「芸術と科学のコンビネーション!ヴェリタスのデジタルアーティスト、マキだよ!」

 

コトリとマキでモモイとミドリはどこにもいなかったのであった。

 

《ユウカ、何が起きているんですか!?ここにいたのはモモイちゃんたちでしたよね!?》

 

この異常事態にアカネはすぐさまオペレーションルームにいるユウカに説明を求めるが…

 

「わ、分からないわ!こっちの監視カメラでは今確かにモモイとミドリが映ってる!それにアカネ、あなたの姿も見えないわ…!」

 

ユウカたちもこの状況を飲み込めないでいた。

 

アカネがいるポイントA2のモニターには依然としてモモイ達しか映っていない。

 

《なっなんですって!?これはもしかして…!?》

 

「カメラの設定を初期化して!クラウド接続を遮断しプライベート回線で画面にもう一度映して!」

 

何が起こったか察しがついたユウカが指示を飛ばしオペレータがその操作を行うと…

 

「更新します!新しい画面…出ました!アカネを確認、コタマとマキと対峙しています!」

 

アカネの言う状況通りの映像が映し出された。

 

《なるほど、ということは…。》

 

「私たちがさっきまで見ていた映像は…まさかッ!?」

 

ようやく状況が呑み込めたユウカとアカネだが…

 

「そろそろ録画映像だってことがバレた頃かな?」

 

既に先生たち一行はミレニアムタワーのエントランスにいた。

 

そう、あの映像は誰もいないタイミングで二人が通った録画したものをシステムをハッキングし流していたのだ。

 

「今更だけど誰もいない平和な状態の映像でも流しておいてこっそり『鏡』をとりに行った方がよかったんじゃない?」

 

ミドリの案も確かにできる作戦だったが…

 

「人の出入りが頻繁なところだったしなにもない方が違和感を覚えるかもしれないでしょ?」

 

そう、ここはミレニアムの中枢施設。

 

生徒一人いない映像を流してはそれはそれで怪しまれるうえ…

 

「それにこうしてC&Cの先輩たちを分裂させて閉じ込めておけた方が成功率は高くなるはずでしょ?」

 

この作戦のメリットは脅威を減らすことができるのだ。

 

人手もいるのでそちらの方がメリットも大きいとモモイは判断したのだ。

 

「それにネイトさんだって言ってたじゃん。『戦術の基本は牽制・陽動・分断』だって。」

 

「いやはや…モモイまでいろいろ理解し始めてきちゃったかぁ。」

 

成長を喜ぶべきか末恐ろしいのか先生が苦笑していると…

 

「あ、エレベーターが来たよ!それじゃ『本当に』入るとしよっか!」

 

呼んでいたエレベーターが到着。

 

「よし、これからが本番だね…!」

 

「あ、先生。暗いから離れない様に私たちの手をしっかり握っててください。」

 

「これでいいかい、ミドリ?」

 

「はい、大丈夫です。…」

カチッ

ここでミドリは気を落ち着かせるように息を吸い、

 

「それではいきましょうか!」

 

「Go!」

 

意を決しいよいよセミナーの施設がある最上階へと乗り込んでいくのであった。

 

ちょうどそのタイミングで…ミレニアムタワーの警報システムが作動。

 

ここでもう一つの警備システムが作動。

 

先述の通りミレニアムタワーには指紋認証システムが導入されている。

 

では、もし登録されていない指紋の持ち主が入ってきた場合はどうなるか?

 

「はぁ、まったくもう…!」

 

ため息をつくアカネの前に立ちふさがるのは…金属製のシャッターだ。

 

最上階はいくつものセッションに分けられている。

 

もし、侵入者や火災が発生した場合はそのセッションごとにシャッターが下ろされ閉鎖されるのだ。

 

「へへッ仲良く閉じ込められちゃったね~?」

 

そんなアカネを茶化すように声をかけるマキだが…

 

「そんなことはありませんよ。あなたたちと違って私はシステムに指紋が登録されていますから。」

 

アカネは冷静にシャッターに備え付けの指紋認証装置に指を付けスキャンさせる。

 

「痛い思いをしたくなかったら大人しくしていてくださいね。お会いできて光栄でしたが私はモモイさん達を…。」

 

あとはシャッターが上がるのを待つだけ…そう思われたその時、

 

『データ不一致、未登録の指紋です。』

 

「えっ…!?」

 

まさかの返答がシステムから返ってきて…

 

『セカンドシャッターが作動します。』

 

「そんなッ!?」

 

アカネが驚く間もなく今度はさらに分厚いシャッターが下りてきたではないか。

 

これもセキュリティシステムの一つでもしシャッターに強い衝撃などが伝わるとさらに頑丈なチタン製のシャッターが下りてくるのだ。

 

こうなると解除には生徒会役員の指紋と虹彩のスキャンが必要になってしまう。

 

これでアカネという強力なカードは身動きが取れなくなったが…

 

「ノアが近くにいるはず、大至急向かわせて!」

 

それもセミナー役員であれば解除できる上…

 

(一体どういうつもり…?!この状況だと『本物』のモモイやミドリもどこかで閉じ込められているはず…?!)

 

モモイ達も閉じ込められ身動きが取れなくなるはず。

 

正直あまりメリットが無いように思えるが…

 

「ッもしかして…!?」

 

ユウカはある推測を立てる。

 

ちょうどその時、そんな彼女の推測を確かなものにするように…

 

「ノアからも連絡!彼女の部隊も閉じ込められており指紋と虹彩スキャンでもシャッターが開かず救援を求めています!」

 

「なっなんですって!?」

 

別動隊であるノアも隔離されてしまったという報告が飛び込んでくるのであった。

 

「今日新しくしたばかりなのに故障!?ちゃんと指紋のデータも移行した…いや、まさか!?」

 

ようやく…あの行動の意味も分かった。

 

「ハッキングされてる!?これを狙ってアリスちゃんを突っ込ませて扉を破壊させたっていうの!?」

 

全てはあの時から始まっていたのだ。

 

「ふぅ~これで生徒会役員は全員隔離できたね、お姉ちゃん。」

 

「これで今このタワーを自由に動けるのは私達だけ!」

 

「まさかここまで順調に行くなんてね…。」

 

モモイ達一行はシャッターを次々に突破しタワー内を進行。

 

道中、まだ閉じ込め切れてなかった生徒会役員や警備ドローンに戦闘ロボットとの戦闘はあったが先生の指揮と普段より軽い身のこなしで突破した。

 

そう、アリスが破壊したことによって交換されたセキュリティシステム。

 

ユウカは有事に備えてエンジニア部製ではない物を使ったが…

 

「名前は隠してたからユウカもアレがエンジニア部製だとは思わなかっただろうね。」

 

「その辺の塩梅もさすがはエンジニア部!じゃあ堂々といただきに行くとしよっか!」

 

そう、そのシステムもエンジニア部製…つまり『埋伏の毒』をセミナーに盛ったということだ。

 

結果、不可能と思われたハッキングも成功し生徒会勢力の分断と自分たちの移動経路の確保にも役立つのであった。

 

ただ唯一懸念があるとすれば…

 

「どうせなら『アスナ先輩』も一緒に閉じ込めておきたかったところだけど…まだ居場所がつかめていないんだよね?」

 

「ハレ先輩ができるだけ学区全域を調べたらしいけど見つからなかったみたい。学区外にいるんじゃないかって。」

 

「大丈夫なのかい?その子もC&Cなんだろう?」

 

C&Cのナンバー持ちエージェントの一人がフリーになっていることだろう。

 

出来るだけ捕捉、可能ならアカネ同様隔離しておきたかったが…

 

「まぁ神出鬼没の先輩だし簡単に見つからないのは仕方ないよ、先生。」

 

「ミッション中に急に出かけていなくなることもあるらしいですし…今のところ計画通りですんでこのままいきましょう。」

 

モモイとミドリは普段のそのエージェントの様子からあまり気にしていないようだが…

 

「何事もなければいいけど…。」

 

先生だけは嫌な予感を感じていた。

 

そして…

 

「最後のシャッターも解除!これで今や生徒会専用フロアは私たちも思うが儘~♪」

 

とうとう必要な分のシャッターの開放に成功。

 

「あと少しで『鏡』のある差押品保管所に…!」

 

もう邪魔する物は何もないとモモイは意気揚々と歩を進めようとしたその時、

 

《モモイ、伏せて!!!》

 

ハレからの緊急通信が飛び込んだと同時に…窓ガラスが砕けモモイの頭上を弾丸が掠めて壁に風穴を開けた。

 

「ヒィッ!?何今の!?壁に穴が開いてるんだけど!?」

 

「モモイ、大丈夫!?そこにじっとしてて!」

 

「平気!」

 

高層建築であるミレニアムタワー、その最上階の頑丈な窓ガラスを砕き壁にまで届く一撃。

 

並の狙撃銃の代物ではない。

 

「た、対物狙撃用の『.55 Boys』弾!?よかった、お姉ちゃんの身長が後5㎝高かったらおでこにクリーンヒットだったよ!?」

 

「ヒューッ確かに!小さくて良かっ…じゃないよ!?」

 

「『予想通り』…此の廊下はすでに狙撃ポイントに入ってるってことだね…!」

 

「そうですね、先生…!C&Cのスナイパー…カリン先輩の…!」

 

「一体どこから…!」

 

狙撃地点を確かめようと手鏡を取り出し弾丸が飛んできた方向を探るモモイだが…一瞬閃光が見えたかと思うと手鏡が砕け散った。

 

「うわぁ!」

 

「お姉ちゃん、どこから撃たれてるの!?」

 

「えっえぇっと11時の方向のビルの屋上!」

 

モモイが何とか探し当てたそのポイント…ミレニアムタワーから500mほど離れたビルの屋上に…

 

「…なるほど、『猛将』と戦場を共にしただけのことはある。」

 

大型のライフル『ボーイズ対戦車ライフル』を膝立ちで構える褐色の肌と黒い長髪のメイドの姿があった。

 

「小さくてすばしっこいうえ反応も素早い…。当てにくいな…。」

 

『角楯カリン』、C&Cにてコールサイン『ゼロツー』を持つ二年生の狙撃手だ。

 

女子高生にしては大柄で恵まれた体格だが『ボーイズ対戦車ライフル』、『ホークアイ』を操る。

 

「…でも、速度とパターンは把握した。風も少ないし視界を遮る物もない…。」

 

まるで仔猫のように逃げるモモイ達をすでに補足、

 

「壁を背にしたら大丈夫かと思ってるかもしれないけど…残念。次は100%命中…。」

 

とどめを刺すべくモモイに狙いを定めた…その時。

 

ーーーーーーーーー

 

「ーッ!!?」

 

今まで感じたことないほどの『殺気』が叩き込まれた。

 

まるで…自分の目の前に猛獣が牙をむいて立ち塞がっているかのようだ。

 

(なんだ!?どこ!?どこから!?)

 

狙撃手の本能だろう。

 

カリンはそのさっきの出所を探そうとする。

 

だが…その場所はどう見ても…

 

「あ、あそこから…!?」

 

今まさに自分が狙いを定めているミレニアムタワー最上階から放たれている。

 

まさかモモイ達が?

 

(いや、あり得ない…!?)

 

カリンはすぐさま否定。

 

いかに戦闘経験を積んだとしても…こんな殺気を放てるわけがない。

 

これだけのオーラ、カリンが知る限りでは…

 

(リーダークラスでもなければ…!?)

 

ミレニアム最強の『部長』からしか感じ取ったことがない。

 

(一体…『ナニ』があそこに…!?)

 

その正体を探ろうとするカリンだが…

 

「これでも食らええええええ!!!」

 

一瞬の隙を突きモモイがカリンの居るビルに向け『ユニーク・アイディア』を掃射。

 

ミレニアムの夜空を7.62×51㎜NATO弾の曳光弾が駆け抜ける。

 

だが、連射によって精度も悪化した弾丸ではカリンを捉えられない。

 

「…今は目標に集中…!」

 

数発近くに着弾するもののカリンは一切動じず身をさらしたモモイに狙いを定める。

 

が…引き金を落とす寸前に…

 

(?今何か光った…?)

 

モモイが発するマズルフラッシュとは質の違う閃光が走ったような気がした。

 

そして…ホークアイから銃声は放たれたが…いつも感じる反動が伝わってこなかった。

 

「~ッ!?詰まった!?」

 

この現象は弾丸が銃身内に詰まってしまったことに他ならない。

 

こうなってしまっては銃を分解しバレル内から弾丸を摘出するより他ないが…

 

「おや、私が計算するまでもなかったようだね。」

 

「―誰だッ!?」

 

突如声を掛けられ振り返るとそこには…

 

「天下のC&Cにはらしくない不運だね。」

 

「…は?」

 

二足歩行で歩く『雷ちゃん』に腰かけたウタハがそこにいた。

 

「さて、もう勝負ありのようだが…先輩として彼女たちの援護はさせてもらうよ。」

 

ウタハがそう言うと…雷ちゃんに装備されたミニガンをカリンに向け掃射し始める。

 

「なっなんだそれはあああ!!?」

 

「なに、『彼』のロボットには叶わないがエンジニア部の自信作。全天候対応可能な二足歩行型戦闘用の『椅子』、『雷の玉座』こと雷ちゃんさ。」

 

得物も使用不能になったカリン、こうなっては逃げ惑う以外方法はないがそこへさらに頭上から風切り音も響き…迫撃砲弾も飛来。

 

「なんなの、一体これはああああ!!?」

 

「我が部活の後輩の曲者の妙技、とくと味わってくれ。」

 

そう、ウタハはいわば彼女の目でもある。

 

エンジニア部『猫塚ヒビキ』、彼女の持つ60㎜コマンド迫撃砲『LRM vz. 99 ANTOS』、銘を『ファンシーライト』がウタハの観測の元ミレニアムタワーの向こう側から正確にこの位置に叩きこまれ続ける。

 

「なんでこんなことにいいいいい!?」

 

憐れ、カリンは弾幕と迫撃砲弾の二重奏に巻き込まれ狙撃どころではなくなってしまうのであった。

 

《こちらヒビキだよ。カリン先輩を抑え込めた。進んでいいよ。》

 

「了解だよ、ヒビキ!」

 

「流石…!二人がカリン先輩を抑え込んでいるうちに進もう!」

 

「ごめんね、カリン…!あとでちゃんと謝るから…!」

 

何はともあれ脅威は去った。

 

モモイたちはこの機を逃さずに走り出すが…ミレニアムタワーの下から突き上げるような衝撃が伝わってきた。

 

「えぇなに!?地震!?」

 

「爆発…みたいだったけど…!」

 

「急ぎましょう!計画だとそろそろ…!」

 

悠長にしている暇はない。

 

三人は差押品保管所に向け走り出す。

 

すると、非常灯すら消え周囲に闇のとばりが下りた。

 

「今の停電、ウタハ先輩とヒビキの策が成功したってことだよね!?」

 

「うん、そのはず!あ、先生!足下暗いので…!」

 

「大丈夫、懐中電灯は持ってきてるから!」

 

その後しばらく懐中電灯の明かりを頼りに走り続け…

 

「ここさえ抜ければもう差押品保管所です!」

 

「やった、これでようやく『鏡』を…!」

 

差押品保管所まであと一歩の所までやってきた一行だが…

 

「お、やっと来たね!」

 

『~ッ!?』

 

この場に似つかわしくない明るい声がその足を止めた。

 

「結構早かったねー。まさかカリンの狙撃から逃げ切るなんて。」

 

三人の前に姿を現したのは暗闇でも映えるアッシュグレーの長髪に青色の瞳のツリ目に…胸元が大胆に開いたメイド服の生徒。

 

「ようこそ、ゲーム開発部!それにえっと…先輩?だっけ?」

 

どこか大型犬のような愛らしさを醸し出しているが…立ち振る舞いに隙は無い。

 

「あっ違う違う!思い出した!『先生』だ!ずっと会えるのを楽しみにしてたんだよ~?」

 

右の袖部分に刺繍されたナンバーは…『01』。

 

「あ…アスナ先輩!?どうしてここに!?」

 

「アスナ…!?じゃあ彼女が…!?」

 

「どうしてって言われても~…何となく?」

 

『一ノ瀬アスナ』、ミレニアムサイエンススクール3年生、

 

「予感とか直感とかあるでしょ?ここで待ってたら先生にもあなた達にも会えるんじゃないかなー…って。そんな予感がしたから!」

 

「む、難しい言葉じゃないのに全然何言ってるか分からない…!」

 

C&Cエージェントにしてコールサイン…『ゼロワン』、

 

「でもちょっと勘が外れたかなぁ?予想してたよりも人数が少ないね~…。」

 

「そういっつもいっつも勘が当たってたらたまったもんじゃないよ!?」

 

「う~ん…それもそっか!じゃあ、始めよっか。」

 

「えっと…念のために聞くのですが…何を?」

 

ミレニアム最強の武装組織にしてそのナンバーを得ているということは…

 

「戦闘を!私って戦うのが好きなの!」

 

「構えて、皆!」

 

「あ、そうだ。先生にはまだ自己紹介してなかったね。」

 

掛け値なし、ミレニアム最高峰の戦力ということに他ならない。

 

「C&Cコールサイン・ゼロワン、アスナ!行くよッ!」

 

今まさにミレニアムの暴力の権化が…先生たちに襲い掛かろうとしていた。




Let's just say goodbye to an uninvited guest.
招かれざる客に別れを告げよう。
―――『007 死ぬのは奴らだ』より
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