Fallout archive   作:Rockjaw

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チームワークは平凡な人々が非凡な結果を達成する秘訣だ。
―――作家『イフェアニ・イーノック・オヌオハ』


MaidVSNerds⠀ ⠀ ⠀⠀ Part2

「全く…あの子達ったらやってくれるわね…!」

 

ユウカはオペレーションルームを出てモモイ達の元へ向かっていた。

 

停電の影響でエレベーターも動かずシャッターは閉じられているので一度非常階段を降りまた昇るという方法ではあるがもうすぐその場所に到着するだろう。

 

正直言ってヴェリタスとエンジニア部の協力があったとはいえここまでいいようにやられるのは想定外であった。

 

「でも、もう終わりのはず…!さっき報告でアスナ先輩が接敵したようだし差押品の戦闘ロボットのプログラム書き換えも済んだ…!」

 

アスナは自他ともに認めるミレニアムきっての強者。

 

いかに数的不利があろうと才羽姉妹に後れを取る可能性は低い。

 

さらにそこにC&Cの命令を聞く様にプログラミングしたロボットも全機救援に出した。

 

「チェックメイトよ…!みんな仲良く反省部屋に叩きこんでやるんだから…!」

 

ゲーム開発部の境遇には確かに同情する部分は多分にあった。

 

だが、これはいくら何でもやり過ぎだ。

 

無条件の停学一週間か拘禁は下す腹積もりである。

 

と、その道中…

 

「あら、ユウカ…。」

 

「アカネ、ちょうどよかったわ。」

 

中層階から階段を上ってきたアカネと合流、

 

「先ほどは申し訳ありません。非常事態とはいえシャッターを爆破してしまい…。」

 

「仕方ないわ。まさかここまでやるなんて…。」

 

先ほどのミレニアムタワーの揺れはアカネの爆破によるものだった。

 

室笠アカネ、見かけこそ『theメイド』といった感じだが…その正体は敵や施設を一切の逡巡なく爆破する爆弾魔だ。

 

C&Cは任務遂行に貢献はするが無暗矢鱈に爆破するものでユウカはいつも爆破された施設の損害賠償に頭を悩まされている。

 

しかし今回はそんな彼女の爆破スキルが大いに役立ったようだ。

 

「さぁ、さっさとあの子たちを捕まえに行くわよ。」

 

「はい…改めて『お掃除』と行きましょうか。」

 

これで役者は揃った。

 

あとは先に戦闘を繰り広げているアスナと共にモモイ達を捕縛するだけ。

 

その時…ユウカたちの耳にまで届く爆発音が響き渡った。

 

「ッ!?」

 

「今のは!?」

 

戦闘を繰り広げているのだ、爆発音の一つや二つあってもおかしくはない。

 

だが、その爆発音は二人に悪寒を走らせ階段を駆け上がらせる。

 

そして、目的地である差押品保管所付近に到着した二人が見たものとは…

 

「あ、アスナ先輩!?」

 

「そんな…!?」

 

柱にもたれかかり力なく意識を失っているアスナだった。

 

数分前、

 

(お、思ってたより…かなりやるね…!)

 

アスナは予想外の苦戦を強いられていた。

 

幾多のミッションをこなし実力も付けたことはアスナ自身がそう思っていることだ。

 

ミレニアム内でも相当高位の実力であるのは自他ともに認めるところである。

 

だが、

 

「モモイ、『スイッチ』!」

 

「うん!」

 

「クゥッ!?」

 

襲い掛かるモモイの弾幕。

 

それを避けるため近くの遮蔽物に飛び込もうとするアスナだが…

 

「ミドリ!」

 

「ハイッ!」

 

「わわッ!?」

 

そこへミドリの精密射撃が浴びせられる。

 

寸でのところで交わし遮蔽物に飛び込めたが…

 

「ミドリ、『スイッチ』!」

 

「分かりました!」

 

今度はその遮蔽物に釘付けにするようにミドリが連続射撃。

 

身動きが取れなくなるアスナだが…

 

「ピッチングだよ、モモイ!」

 

「てりゃあっ!」

 

モモイはそこへ野球ボールグレネードを投擲。

 

接触起爆式のグレネードだが…壁でバウンドしアスナの目の前に転がってきた。

 

「ヤバッ!?」

 

通常のグレネードではありえない挙動にアスナもあわてて遮蔽物から飛び出すが…

 

「隙ありッ!」

 

「うぐッ!?」

 

ミドリの狙撃がアスナの脇腹を捉えた。

 

「やったなぁ!」

 

「うあぁッ!?」

 

アスナも負けじと反撃に出る。

 

ミドリが少々被弾するが、

 

「私もいるよ!!!」

 

「うぐぅッ!?」

 

回り込んだモモイが再び弾幕を貼りアスナを絡めとる。

 

「やるね!」

 

「わわッ!?」

 

反撃として攻撃をモモイに浴びせ何とかアスナは別の遮蔽に飛び込めた。

 

(一人一人の戦闘能力はすごいわけじゃない…!)

 

所々痛む身体を労わりつつアスナはモモイとミドリを再評価し始める。

 

(でもそこに『チームワーク』…ううん、『一心同体』のコンビネーションが二人を高め合ってベテラン級の戦闘能力にまで昇華させている…!)

 

先生の指揮込とはいえ…アスナは若干才羽姉妹に押し込まれかけていた。

 

例えとしてアスナの戦闘力を7とするとせいぜいモモイ達それぞれの戦闘能力は3、高く見積もっても4は越えない。

 

だが…モモイ達は『双子』というアスナにはないアドバンテージを用いるだけでなく…

 

(先生の場を支配するような的確な指示…!一層二人の戦闘能力に磨きがかかってる…!)

 

先生の指揮によって戦闘力の答えを『足し算』ではなく『掛け算』に発展。

 

結果…戦闘能力は『9』となりアスナを押し込む結果となっている。

 

(双子パワーってやつかな…?それとも先生の特異能力…?)

 

甘く見ていた自分を省みるアスナだが…まだ疑問点がある。

 

(なんだろう…この違和感…?)

 

彼女はずっと腑に落ちないでいた。

 

自分の勘ではここにいるのは先生含め三人…な訳がない。

 

もっと何か…別の何かがいるはずだが…一切分からなかった。

 

(スナイパーを配備している…?ううん、ここを狙える場所は限られてるからカリンが見逃すはずがない…。)

 

外部勢力の情報は入っているがどこにも狙撃手を配備している情報は入っていない。

 

(じゃあ何?私はなにを感じ取ったっていうの…?)

 

今まで自分の勘を疑ったことはない。

 

だとするとこの違和感の正体は?

 

「…ともかく、今はあの子たちを止めないとね…!カリンの援護があればなぁ…!」

 

頭を振るい意識をモモイ達に集中するアスナ。

 

その時、

 

《アスナ先輩、ユウカです!今そちらに救援のロボットを送りました!先輩の指示で動きますから活用してください!》

 

「ッ!ナイスタイミングだよ、ユウカちゃん!」

 

ユウカから通信が入った。

 

見ると十数台のロボットがこちらにやってきている。

 

「よぉしじゃあ反撃開始…!」

 

これで形勢逆転、アスナも一気に反撃に転じようと構える。

 

ロボット達も展開し攻撃を開始。

 

「がはッ!?」

 

…飛行ドローンからの弾丸はアスナに叩きこまれた。

 

それだけではない。

 

数台のロボットがなんと周りのロボットに対し攻撃を始めたではないか。

 

それに対し他のロボットは反撃、同士討ちが始まってしまった。

 

「うっうそ!?なんで!?」

 

先ほどユウカはロボットは自分の指示で動くと言っていた。

 

プログラムのエラー?

 

いや、ここは天下のミレニアムだ。

 

そんな簡単なプログラムで不具合を出すようなセミナーの職員はいない。

 

ではなぜ…。

 

「一体全体何がどうなってるの!?」

 

モモイ・ミドリの戦闘能力、ロボットの同士討ちなど色々なことが起こりすぎて訳が分からず大声を上げるアスナ。

 

「チャンスだよ、お姉ちゃん!」

 

「悪いけどここは通らせてもらうからね、アスナ先輩!」

 

好機と見たかモモイにミドリがアスナの居る遮蔽物に迫る。

 

「行かせないよ!私だって意地があるんだから!」

 

迎え撃とうとアスナも愛銃のFA-MAS『サプライズパーティー』を構えた。

 

だが…鋭敏な感覚を持つ彼女は『感じ取ってしまった』。

 

ーーーーーーーーー

 

「え…?」

 

今目の前に…見たこともないような一対の曲角をもつ怪物が自分目掛け巨大で鋭い爪を振り被り襲い掛かってくる情景を。

 

次の瞬間、

 

「~ッ!!??!??」

 

彼女の体に耐えがたい熱さと衝撃が走り意識がそこで途絶えた。

 

場面は冒頭に戻る。

 

「な、何が一体起こってるの…!?」

 

あのアスナが敗れた。

 

その事実にユウカだけでなくアカネも驚愕するしかない。

 

しかもそれだけでなく派遣したロボットは同士討ちの真っ最中。

 

異常をきたしたロボットは残り少ないがそれでも大きく戦力を減らされてしまっている。

 

事態は混迷を極めていた。

 

「ゆ、ユウカ…!」

 

「それにアカネ先輩まで…!」

 

先ほどの戦闘はやはりきつかったか服は汚れ方で息をするモモイとミドリ。

 

「…あなた達、本当に今日は色々とんでもないことをやってくれるわ…!」

 

「まさかアスナ先輩をたった二人で…これは少々本気を出さざるを得ませんね…!」

 

最早1㎜の油断もなくユウカとアカネは二人と…

 

「先生…?」

 

「や、やぁユウカ…!」

 

「…今度シャーレには抗議文を送らせていただきます…!」

 

物陰に隠れる先生を睨みつける。

 

「その前に…不具合を起こしたロボットを排除しなくちゃね…!」

 

刹那、ユウカとアカネは互いの得物を取り出し発砲。

 

味方を攻撃していたロボットを瞬時に破壊する。

 

「では…改めて初めまして。モモイちゃんにミドリちゃんにシャーレの先生。マキちゃんとコトリちゃんについてはギリギリ許せる範囲かもしれませんが…。」

 

アカネはメガネを怪しく光らせ…

 

「ここまで入り込んでしまった挙句アスナ先輩を倒したあなた達にもう言い訳の余地はありませんよ…!」

 

鋭い眼光をモモイ達に向ける。

 

そして…

 

「せ、戦闘ロボットが…!」

 

「まだあんなに…!」

 

アカネたちの背後からさらなる数の戦闘ロボットが現れた。

 

万事休すか…と思われたその時だった。

 

室内に突然爆炎が発生。

 

発生源は…

 

「きゃあああああああああああああ!!?」

 

「アカネ!?」

 

アカネの持つ爆発物が満載された荷物からだった。

 

(まさか事故!?)

 

あり得る話だ。

 

アカネは大量の様々な種類の爆発物を何時も携行している。

 

扱いは心得たもので細心の注意を払ってはいるが…万が一という可能性も捨てきれない。

 

しかし、

 

(こんなタイミングで!?)

 

タイミングは最悪と言っていいだろう。

 

いかに頑丈なキヴォトス人と言えど至近距離の大爆発に耐えきれるはずもない。

 

「………。」

 

アカネは周囲に展開していた戦闘ロボットを巻き込みボロボロになって地面に倒れ伏してしまった。

 

「クゥ、なんだっていうのよ!?」

 

ミレニアムの最強組織C&Cのエージェントが三人も戦闘不能にされた。

 

こんな事態はユウカも経験がない。

 

「よし、なんだか知らないけどラッキーだよ!」

 

「あとはユウカを超えていけば!」

 

障害が一つ減りモモイ達の意気も上がる。

 

「だったら私だけでもあなた達を捕まえて…!」

 

それでもなおもユウカはモモイ達の前に立ちふさがる。

 

いまだ戦闘ロボットは大量にいる。

 

上手くいけば…

 

(私だけでもこの子達を止めて見せ…!)

 

セミナーとしての役目を果たそうとこちらも気合を入れるユウカだが…彼女は失念していた。

 

今、この建物は停電している。

 

それはつまり…電子式でロックされている『あの部屋』も解放されたも同義なのだ。

 

「ターゲット確認。」

 

「え…?」

 

ここにいるはずのない…あの生徒の声が聞こえた。

 

「魔力充填…100%…!」

 

「この音…!」

 

「お姉ちゃんに先生、伏せて!」

 

それに気付いたモモイ達はすぐさま耐ショック姿勢をとる。

 

次の瞬間…

 

「…ッ光よ!!!」

 

ユウカの脇を極大のビーム砲撃が通り過ぎ…その軌道上にいたロボットがすべて粉砕されてしまった。

 

「まさかッ!?」

 

こんな芸当ができるのは一人しかいない。

 

素早くそちらを見ようとするユウカだったが…その時、視界の端で何かが揺れた。

 

(え…?)

 

そして今度は…赤い閃光が走ったかと思ったら彼女の意識はそこで途絶えてしまった。

 

「…よし、作戦通りだね!」

 

「アリスちゃん、大丈夫だった!?」

 

この場は完全に制圧。

 

モモイとミドリは喜んで彼女の元…

 

「はい、アリスはクエストをコンプリートしました!」

 

砲煙を上げる『光の剣:スーパーノヴァ』を携えたアリスの元に駆け寄った。

 

「凄い凄い!これでもう差押品保管所まで行くことができる!」

 

「本当に嘘みたい…!C&Cやユウカに勝っちゃうなんて…!」

 

「モモイもミドリも凄いです!凶悪ダンジョンを攻略してボスも倒してあとはお宝を奪うだけなんて!」

 

大金星に喜ぶゲーム開発部組だが…

 

「コラコラ三人とも…忘れちゃったわけじゃないでしょ?」

 

先生がそう指摘する。

 

「もっちろん!本当に滅茶苦茶援護してくれたからここまで来れたってわかってるよ!」

 

モモイがそう先生に答え…

 

「もう出てきていいよ!停電とハッキングで記録も残らないし!」

 

どこへ聞かせるでもなくそう声を響かせた。

 

「?モモイどういうことですか?ここにはモモイ達以外誰も…。」

 

首をかしげるアリスだが…その時、

 

「えぇッ!?」

 

モモイ達の背後の景色が揺らいだかと思うと形と影を持って現れた。

 

それは全身を黒いボディスーツで多い金色のバイザー付きヘルメットを装着した人型の存在だった。

 

そして…

 

「ふぅ…ようやく立ち上がれた…。」

 

ネイトが頭部のマスクをとりつつ汗でぬれた顔を露にした。

―――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

 

あの時、ネイトは紙にこう記していた。

 

『堂々と姿をさらしては参加できないが陰ながら参加しよう』、と。

 

一見して内容は理解できなかったが…すぐにその意味は誰しもが理解できた。

 

今朝のことだ。

 

「なんで…なんであんなのが…!?」

 

「材質は…!?構造は…!?動力は…!?原理は…!?」

 

エンジニア部にてヒビキとコトリが頭を抱えて唸っていた。

 

「…なんだか悪いことしてしまったようだな。」

 

「いや気にしないでくれ…と言いたいところだけど私も頭を抱えたいよ…。」

 

そんな様子をボディスーツを着たネイトと額に手を当てるウタハが見ていた。

 

「凄い凄い!もう一度見せてよ、ネイトさん!」

 

「それじゃ行くぞ。」

 

モモイにせがまれネイトがバイザー付きのヘルメットを被り直し…しゃがむと…ネイトの姿が消えた。

 

代わりによく見ると若干空気が揺らいでいるように見える。

 

「す、凄い…!全身が消える光学迷彩なんて初めて見ました…!」

 

「本当に透明人間になれるものがあったなんて…!」

 

「我々でさえ『物』が透明になるだけしか実現していないというのに…。」

 

ミドリと先生は感嘆しウタハは眉間のしわが深くなった。

 

「…これは今度のミレニアムプライスは出展を見送ろうかな…。」

 

「エンジニア部は何を出そうとしてたの、ウタハ先輩?」

 

「光学迷彩下着セットと言って下着自体が透明になる物を…。」

 

「…それってつまり丸見えじゃないですか!?///」

 

やはりエンジニア部、かなりぶっ飛んだ開発を行っているようだ。

 

すると…

 

「…あ、あれ?ネイトさんは?」

 

一瞬目を離したすきに今までそこにあった空気の揺らめきの塊はなくなっていた。

 

四人で辺りをきょろきょろと探すと…

 

「わッ!」

 

「ひゃあぁっ!?」

 

モモイが背後から声を掛けられ跳ね上がる。

 

「…とまぁ、こんな代物だな。」

 

「もう、驚かさないでよ!?」

 

「すまんすまん。」

 

「いやはや…サーマルはおろか各種電波探知にも引っかからないなんて恐ろしい代物だ…。」

 

「『ステルスアーマー』、現役時代に散々辛酸をなめさせられた装備さ。」

 

『中国軍ステルスアーマー』、その名の通り…着用者を透明にし姿を隠すレッドチャイニーズの光学迷彩スーツである。

 

開戦当初からパワーアーマーに苦戦していた中国軍。

 

その対抗策として開発されたのがこの『中国軍ステルスアーマー』である。

 

初期型のT-45は内部配線が露出していたりと明確な弱点が存在していた。

 

中国軍の特殊部隊『クリムゾン・ドラグーン』はこのアーマーを纏い接近、内部配線やフュージョンコアを直接攻撃し撃破していた。

 

後継機のT-51はその弱点が解消されたため効果が薄くなったが一般兵相手には依然として脅威であり続けた。

 

しかも、各種センサーをも掻い潜る高性能ぶりなので対処法は…怪しく感じたところに弾丸を撃ちまくるというなんとも脳筋な方法しかなかった。

 

「こんな代物…一体どこで手に入れたんだい?」

 

なぜ、そんな敵軍の最新装備をネイトが…それもキヴォトスで所持しているかというと…

 

「拾ったのと出先アパラチアで設計図を手に入れたからな。」

 

いかに中国軍の最新装備と言えど無敵ではない。

 

破壊されたものや占領された基地などからの鹵獲品など本国に運ばれたものも相当数あった。

 

果てにはアパラチアでは金塊で設計図も入手できたのでクラフトも出来る。

 

「これを使えば姿を見せず作戦に参加できるってことだ。」

 

「まさに忍者ですね…!でも、大丈夫なんですか…?」

 

確かにネイトの参加は心強いが…相手はセミナーだ。

 

「もし下手をしたらW.G.T.C.の活動にとても影響が…。」

 

先生が心配するのも無理はない。

 

下手をすれば廃墟区画解体の契約に大きな影響をもたらすだろう。

 

だが…

 

「それはそうだが…『命の恩人』のゲーム開発部の頼みだ。無視するわけにはいかないだろう。」

 

ネイトは社長である以前に男だ。

 

『命の恩人』の問題に手を貸すことに…躊躇はない。

 

「それにばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ。」

 

「…ありがとう、ネイトさん。」

 

「ネイトさんがいるなら百人力です…!」

 

モモイとミドリはそんなネイトに静かに礼を述べる。

 

一方、

 

「いやはやなんとも強力な助っ人だが…ウチのプライドをボロボロにするのはやめてほしいかな…。」

 

ウタハはげんなりした表情を浮かべ明後日の方向を見る。

 

このステルスアーマー同様、ネイトはある装備をこの場に持ち込んでいる。

 

一つはコンパウンドボウ、廃墟区画でも使用した隠密に特化した武器だ。

 

そしてもう一挺…造りは簡素な曲銃床のライフルのようだが何やらクランクと機器が乗っかっている。

 

「俺の『シンボル』みたいな武器だ。そう言わないでくれよ、ウタハ。」

 

「…じゃあ、もう一度撃ってはもらえないかな?」

 

「分かった。」

 

ウタハの頼みを受け今一度射撃場に立ち…ネイトは銃に付けられたクランクを1回回し…レーザーを発射した。

 

標的の金属製の的には穴が穿たれその周囲が赤熱しておりかなりの出力がうかがえる。

 

「…どうして…どうして手回し発電機を1回回しただけでこんな高出力なレーザーが撃てるんだ…!」

 

とうとうウタハも打ちひしがれて膝をついてしまった。

 

「なんだかハイテクとアンティークが混じった武器だね、ネイトさん。」

 

「『レーザーマスケット』、簡易的だがクランクを回すだけでレーザーを撃てるライフルだ。」

 

「ということは…弾がいらないってことですか!?」

 

「撃つたびにクランクを回してエネルギーをチャージする必要があるがな。」

 

『レーザーマスケット』、ネイトが立て直した組織『ミニッツメン』を象徴する武器だ。

 

戦後の荒廃した連邦で生み出された非常に簡素な武器だが…見ての通りクランクを回せばレーザーが撃てるという常識外れの機能を持つ。

 

狙撃での奇襲を旨とするミニッツメンの隊員に愛用され無論ネイトも扱いは習熟している。

 

なお、材料はワンショットグラスなど本当に連邦でも容易く手に入れられるジャンク品ばかりでキヴォトスでも容易く製造できた。

 

最大6回チャージができその威力はレーザーライフルのそれを大きく超える。

 

「これなら薬莢も出ないし俺が攻撃しても証拠はあまり残らないから俺の関与も疑われにくくなるだろう。」

 

「なるほど…。」

 

「うぅ…きっと追いついて見せる…!」

 

「ウタハ先輩、泣かないで…。」

 

まざまざと未知のテクノロジーを見せつけられ涙を流すウタハを慰めるミドリなのであった。

 

場面は移り、作戦開始15分前

 

「ネイトさん提供の『パルスグレネード』、これを用いればおそらく数分はあらゆるシステムと電力をシャットアウトすることはできる…。」

 

「それだけあれば片手でもハッキングは余裕だよ。」

 

ヴェリタスの部室に一同が会し最終作戦会議が行われていた。

 

ネイトの協力もあって作戦遂行は容易い…と思われていたが…

 

「そして進入から二分以内にアカネ先輩とできればアスナ先輩を封じ込める。4分後にカリン先輩をネイトさんのカウンタースナイプで制圧、10分後にロボットを突破して12分後に『鏡』を確保でその後…。」

 

「…どう頑張っても25分後には、全員捕まっちゃう。」

 

「う~ん…。」

 

「なんとかネイトさんは安全圏に逃げられるかもしれないけど…。」

 

どう足掻いてもこの作戦の終着点は捕縛だ。

 

なんとかネイトは逃げ切れるかもしれないというのがせいぜい。

 

これに関してはこの場の全員が認めているところである。

 

95億の収入をみすみす捨てさせるような無茶をやってもらうのだ、それくらいの恩恵は全員当然と思っている。

 

問題は捕縛されるタイミングでゲーム開発部の面々に関しては拘束される場所を部室にしなければならない。

 

こんな事をして処分なしで行けるほど甘い見積もりではない、停学は覚悟の上である。

 

だが、部室で停学されればゲームの開発はできミレニアムプライスにも間に合わせることができるかもしれない。

 

セミナー勢力を撃退し『鏡』を確保したのちに部室まで取って返す。

 

そう考えると…余裕が全くないスケジュールだ。

 

すると…

 

「…全員じゃなければいいんじゃない?」

 

「ミドリ、どゆこと?」

 

ミドリが此処で一計を案じる。

 

「たとえ私たちの何人かが負けたとしても最後には勝つ方法…。」

 

「…別動隊ということだね、ミドリ。」

 

「はい、そう言うことです。」

 

「ミドリに先生?なにを言ってるの?」

 

「ネイトさんがいつも言っていることだよ、お姉ちゃん。『次善策を常に用意しておくもの』ってね。」

―――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

「わぁ凄い!凄いです!今日のネイトさんは『アサシン』なのですね!」

 

「…そうだな、アリス。今日の俺の役目はそれさ。」

 

そう、それこそがアリスだ。

 

モモイ達が派手に動けば動くほど既に拘束されているアリスへの警戒度は薄くなる。

 

そこへパルスグレネードによる停電とハレのハッキングによって彼女を解放。

 

第二の矢として戦場に送り込み一気に戦況を打開する。

 

作戦は…見事に的中するのであった。

 

「さぁ!これで邪魔者はいなくなったよ!あとは鏡をとりに行くだけだぁー!」

 

だが悠長にしている余裕はない。

 

モモイを戦闘に一同、差押品保管所へ急ぐ。

 

「でも、、ネイトさんって狙撃も出来たんですね。」

 

道中、これまでの行動を振り返る。

 

この作戦は文字通りネイトの陰ながらの活躍があったからこそうまくいったともいえる。

 

カリンの『ホークアイ』の弾丸がなぜ詰まったか?

 

「言ってなかったか?俺の一番得意とするのは狙撃だぞ?」

 

「大口径とはいえまさか数百mの銃口の中の弾丸を撃ち抜くなんて…!」

 

そう、モモイがカリンの居る方向に向け弾幕を張っていたあの時…ステルスアーマーによって不可視となったネイトがカリンに向けレーザーによる狙撃を行ったのだ。

 

ただ、普通にカリンを撃ち抜くのであってはすぐに怪しまれる。

 

そこでネイトが狙ったのは…『ホークアイ』に装填されている『.55 Boys』である。

 

銃口の軸線を捉えて放たれた出力を調整するため2クランクチャージされたレーザーマスケット。

 

レーザーの特性上ゼロインを必要としないその攻撃は寸分たがわず『.55 Boys』に照射、一瞬のうちに弾頭を溶解。

 

これによって弾丸は銃身内にへばりつき間接的にカリンを無力化できたのである。

 

「じゃあなんでいつも前に出て戦ってるの?」

 

「前線指揮官が後ろに引きこもってちゃお話にならないからな。必要があるなら狙撃手にもなるってだけだ。」

 

「ネイトさんはステルスアタックも得意なのですね!」

 

「おまけにロボットのハッキングとアスナ先輩には爆発矢まで食らわせちゃうなんて…。」

 

無論、その後も大暴れのネイト。

 

先ほどのアスナが感じ取っていた違和感。

 

アレは見えないはずのネイトを感覚的に察知していたのだ。

 

本来ならばあまり手出しをするのは好ましくないが時間を置けば作戦に支障をきたすと判断。

 

投入された戦闘ロボットをPerk『Robotics Expert』でハッキングし『扇動』させ同士討ちとアスナへの攻撃を行わせた。

 

それによって大きな隙をさらした彼女に…鏃に『爆薬』を装着した矢で攻撃。

 

ステルスによる大ダメージということもありアスナを一撃でノックダウンして見せた。

 

それだけではない。

 

「それにアカネにはポケットグレネード、ユウカには…フルチャージでレーザーを叩きこみましたね?」

 

「一撃必殺、戦場の基本だぞ?」

 

あとからやってきたアカネにはPerk『Pickpocket』で点火した爆発物を彼女の収納に忍ばせた。

 

『ポケットグレネード』とも呼ばれる技法でこれに耐えきれる敵はいない。

 

しかも元から持っていた爆発物にも誘爆したので…。

 

ユウカに至っては単純、レーザーマスケットの最大攻撃『6クランク』をドタマに叩きこんだ。

 

威力でいうとガウスライフルにも比肩するある例外を除いてレーザー系統最強の一撃である。

 

それをステルスアタックで叩きこまれて耐え切れる生徒はそうそういないだろう。

 

アスナ以外には存在すら察知されずここまで暴れまわったのはさすがというほかないだろう。

 

「何はともあれあとは『鏡』を持って帰るだけだ。気を引き締めていくぞ。」

 

懸念していた障害はすべて排除できたがそれでも『鏡』を奪還し帰るまでがこの作戦である。

 

「あった、ここだよ!」

 

とうとう差押品保管所に到着、急いで中に滑り込んだ。

 

「はぁ…はぁ…やっと着いた…!みんな、大丈夫!?」

 

「アリスのHPは十分です。」

 

「私も大丈夫だよ、お姉ちゃん。」

 

「後が怖いけど私も平気だよ。」

 

「俺も平気だが…早くコイツを脱ぎたい…。」

 

何とかここまで誰一人欠けることなくやって来れることができた。

 

「ここが…差押品保管所?なんかかなりぐちゃぐちゃだけど…。」

 

「窓ガラスも割れてるし棚も倒れてる…。」

 

「さっきの爆発とかでこうなったんだろう。」

 

やはりアカネの爆発は相当なものだったようで室内は物品が散乱している。

 

「早くユウカたちが目を覚ます前に『鏡』を見つけ出そう。」

 

「その後はヴェリタスがどうにかしてくれるはずだしね!」

 

「捜索クエスト開始です!」

 

急いで狙いの品を探すと…

 

「あっ見つけた!『鏡』が入ったUSBだよ!」

 

意外とあっさり見つかった。

 

これだけ荒れた室内であったというのに傷一つついていないのは幸運だろう。

 

「よし、さぁ早く帰ろー!」

 

「ネイトさんも急いでベルチバードに戻ってくださいね。」

 

「そうするとしよう…。」

 

あとは帰るだけとなった。

 

だが…

 

「ッ!全員声を落とせ…!」

 

「え?」

 

「…アリスも分かりました。誰かがこちらに向かってきています。」

 

「…人数は一人、ユウカたちの物じゃない…。」

 

ネイトとアリスがこちらに近づく足音を察知。

 

「う~ん、ユウカたちじゃないなら強引に突破しちゃう?」

 

ここにいるメンツなら全然ありな手段だが…

 

「あ、待って。ハレ先輩から通信が来てる。」

 

それに待ったをかけたのが…ハレからの情報だった。

 

『逃げてっいや隠れて!早く!なんとしてもそこ$!#”&!@#」

 

余程急いで送ってきたのだろう、最後の方は文がめちゃくちゃだ。

 

「一体どういうことなんだい、これは…?」

 

「いつも冷静なハレ先輩なのに…どうしたんだろ?」

 

「ネイトさんみたいに幽霊でも見たんじゃない?」

 

状況がつかめず?マークを浮かべる先生と才羽姉妹。

 

「…足音からして相当小柄のようだが…。」

 

ネイトは足音だけでその者の体格を察知し…

 

「接近対象を確認、ミレニアムの生徒名簿を検索…対象を把握。」

 

アリスはその姿を確かめその者の正体を明かした。

 

「身長146㎝、登録武器ダブルSMG『MPX』登録名『ツイン・ドラゴン』、メイド服の上から龍柄のスカジャン…。」

 

「…え?」

 

「まっまさか…!?」

 

そんな特徴に合致する生徒など…一人しかいない。

 

「隠れてっ…!」

 

声を潜めたミドリの声に全員が一斉に息をひそめる。

 

「先生、おしりが出てます!」

 

「はッ早く、急いで!」

 

「ごめん、でも狭いんだよ…!」

 

「ネイトさんはってやっぱり便利だなぁ…!」

 

幸い荒れている室内だったので隠れる場所には苦労しなかった。

 

全員が身を隠したその直後…ある生徒が姿を現した。

 

「…フーンもうどこもめちゃくちゃだな…。」

 

キツイ目つきにオレンジの短髪の小柄な生徒。

 

着崩したメイド服の上に龍の絵が刺繍されたスカジャンを羽織るという奇抜なファッションだが…その姿こそ『ミレニアム最強』を意味するものであった。

 

(ね…ネッネル先輩だ!)

 

(なんで、どうして!?あの人が此処に!?)

 

(ミレニアムから離れてるんじゃなかったのか!?)

 

メイド部…いやC&Cのリーダーにしてコールサイン『ダブルオー』。

 

それが意味するところは…『約束された勝利の象徴』。

 

(奴が…美甘ネル…。ミレニアム最強のエージェントか…。)

 

ミレニアムサイエンススクール3年生にしてミレニアム最強の称号を欲しい侭にする絶対強者だ。

 

「…ん?なんか声が聞こえたような…。」

 

(ッ!?)

 

(ヒィ~…!)

 

流石はC&Cのリーダー、勘も鋭いか室内を探り始める。

 

(…この人、何かが違います…。)

 

アリスも気配を殺しつつネルを見てそう感じ取った。

 

(恐怖…初めて…いいえ、二度目の感情…!)

 

この感情は…昨日ゴリアテにビーム砲を打ち込まれそうになった時と同じ…いやそれよりも強いものだ。

 

勝てない、いや…

 

(今この状況で戦闘が発生した場合の勝利の確率は…ほぼ…!)

 

勝てるわけがない。

 

アリスがそう思ったその時だ。

 

彼女の鋭敏な聴覚があの音を捉えた。

 

もう聞きなれたその音は…

 

(ネイトさんの…弓を引く音…!)

 

見えないがアリスには分かった。

 

ネイトが…戦闘態勢をとったということを。

 

するとどうだ?

 

(そう…ですね。ネイトさんがいるならまだ可能性が…!)

 

いつの間にか…アリスの恐怖心は収まっていた。

 

「…フーん、確かに気配が…机の下か?」

 

だが、無情にもネルは先生たちが隠れている机に一歩、また一歩と接近。

 

(ひいぃ…!)

 

(ど、どうしよう…!)

 

(このままでは…!)

 

恐怖で身がすくむモモイとミドリに先生。

 

このまま見つかるのを待つしかないか…。

 

「あ、あの!」

 

「アん?」

 

突如として外から声がかけられネルの足が止まった。

 

そこにいたのは…

 

「ね、ネル先輩!大変です!」

 

(((ゆ、ユズ(ちゃん)―!!!)))

 

別動隊として待機していたはずのユズだった。

 

息を切らしていて相当焦ってやってきたことがうかがえる。

 

「…アンタは?」

 

ネルは足を止め彼女に誰何すると…

 

「せ、生徒会『セミナー』所属の、ユズキです!戦闘ロボットが暴走したせいで今、あちこちがめちゃくちゃなんです!アカネ先輩とアスナ先輩もすでにやられてしまって…!」

 

彼女は所属と名前を誤魔化し今起こっている非常事態をネルに報告。

 

「なっなんだって?!アカネとアスナがやられたってのか!?」

 

「はっはい!ですので至急救援をお願いしたいんです!」

 

「あれ差し押さえたのなんか随分前だぞ!?なんだってそんなのに…!カリンはどうした!?」

 

「カリン先輩もトラブルが起こったようで…!じょ、状況的にネル先輩の力が必要でここにいらっしゃると聞いたので…!」

 

嘘と事実を織り交ぜたユズの報告を聞き…

 

「分かった、すぐに向う!お前は?!」

 

「わっ私はここを整理します…!そ、その、戦闘は怖くて…経験もあまりないですし…!」

 

「無理もねぇな…。」

 

なにせ自らが認めるアカネとアスナが戦闘不能になっているのだ。

 

一般生徒会役員ではどうにもならないというのはネルも理解できる。

 

だが、

 

「ところでよ…。」

 

「な、なんですか…?」

 

ネルは引っかかっていた。

 

「お前…どこかでアタシに会わなかったか?」

 

「~ッ!?」

 

目の前にいるこの生徒、ユズを見つめそう尋ねた。

 

ネルの中にどこかで見覚えがある。

 

生徒会役員ならそれもあるだろうが…もっと別の場所で見たことがあるように感じた。

 

「わ、私は生徒会の新入りで…ネル先輩と話すのも初めてで…!」

 

ユズは何とか誤魔化そうとする。

 

無理もない。

 

ユズがネルに覚えられている可能性があるのは…数か月前のあの時。

 

ベルチバードに襲い掛かろうとした彼女をシロコとホシノが撃退したその時しかない。

 

勘付かれたら…すべてが終わる。

 

だが…

 

「…そうか、知らせてくれてありがとうよ。」

 

ネルはその答えを不審に思わず事態の収束へ向かおうとする。

 

「…あぁ、それから。」

 

「はっはヒ…!」

 

「覚えておきな。戦闘で一番大事なのは武器でも経験でもねぇ。何事にも動じねぇ度胸だ。」

 

「ど、度胸…?」

 

「その点で…アンタに素質がないとは思わねぇ。アタシがどう思われてるかくらいアタシにも分かってる。アンタが結構ビビりなこともまぁ分かる。」

 

「あぅ…。」

 

「それなのに危ない中ここまでやってきて初対面のアタシに声をかけるなんてのはそれなりに度胸がいることだろうからな。」

 

「は、はひ!ありがとうございます!」

 

「じゃあな、またどっかで会おうぜ。」

 

ネルは自分なりの言葉でユズを誉め部屋から飛び出していくのであった。

 

ネルの気配が完全に感じれなくなったところで…

 

「ふ、ふぇ~…!し、死んじゃうかと思った…。」

 

緊張の糸が切れたかユズは地面にへたり込んでしまった。

 

「ゆ、ユズうウウウウウウウウ!!!」

 

「ユズちゃん凄い!おかげで命拾いしたよ!」

 

「やったね、ユズ!よく頑張った!」

 

「ち、力になれて、よかった…!」

 

そんな彼女にモモイとミドリと先生が駆け寄り彼女を称賛する。

 

あのネル相手に一芝居うち危機を脱した。

 

これが偉業と言わずなんという。

 

「ユズ。」

 

「ネ、ネイトさん…!」

 

「Nice guts、さすがはゲーム開発部の部長だ。」

 

姿を現したネイトも微笑みながらユズをしっかりと褒めた。

 

「と、所で、今アリスちゃんが、持っているのが…!」

 

「はいッ!これが人類と世界を救う私たちの新たな武器、『鏡』です!」

 

「や、やっと…!」

 

「お祝いはあとにして急ごう!ネル先輩が戻ってきたりユウカたちが目を覚ましたら今度こそ一巻の終わり!」

 

だがこれで終わりではない。

 

全員、わき目も降らずにミレニアムタワーを脱出するのであった。

 

戦闘ロボットは先の戦闘ですべてスクラップになっていたので脱出自体は容易だった。

 

…十数分後、

 

「………!」

 

目を覚ましたユウカは肩を揺らしながらある場所を目指していた。

 

「ユウカ先輩、まだ怪我が…!」

 

「そんなのいいわ!絶対突き止めてやるんだから!!!」

 

周囲にいる保安部の生徒の制止も聞かずにたどり着いたその場所は…

 

「あら、セミナーのユウカさんじゃない。こんな夜更けに何の…。」

 

ネイトが眠っているベルチバードが駐機しているヘリポートだった。

 

目線の先にはカーテン代わりの布がかけられたベルチバードが駐機しており、周囲を警備しているアサルトロンがそうユウカに声をかけるが…

 

「ネイト社長を出して、今すぐに!」

 

怒気を一切隠そうともせずにネイトの召喚を求める。

 

「ちょっと落ち着きなさいよ。いったい何があったの?」

 

「誤魔化さないで!あんなことできるのはあの人以外にいないんだから!」

 

「だから、それが何かって聞いてるのよ。今日はなんだか爆発音とかが多いのは察知していたけど…。」

 

「いいからネイト社長を出しなさい!出せる物ならね!」

 

相手は連邦でも最強を誇る戦闘ロボットだというのに一切怯まないユウカ。

 

流石の保安部のせいともたじろいでいると…ベルチバードのハッチが開き…

 

「うるさいなぁ…。何があったんだ…?」

 

寝間着姿で眠たそうな雰囲気を隠そうともしないネイトが現れた。

 

「…ユウカじゃないか。何かあったのか?」

 

欠伸交じりでサンダルを履いてこちらにやって来るや否や・・・

 

「ネイト社長…!アナタ、今までどこで何をやっていたか説明してくれますよね…!?」

 

ネイトを睨みつけながらそう尋ねるユウカ。

 

「どこで何って…俺はずっと機内で寝てたぞ?」

 

「…では、ミレニアムタワーで何があったかご存じですか…!?」

 

「いや、今までぐっすりだったから何がなんだか…何があった?」

 

眠たそうな眼はそのままにネイトは若干佇まいを正しユウカに尋ね返す。

 

「…ゲーム開発部が侵入してそれはもう色々と大暴れしましてね…!」

 

「…なんだって、アイツら本当にやったのか…?!」

 

「えぇ、本当です…!もう部室で捕縛してそのまま一週間の停学処分を科しましたけど…!」

 

「何やってるんだよ、あいつら…。」

 

ユウカの話を聞き呆れるやらいろいろな感情で眉間を抑えるネイト。

 

だが、

 

「あなたの関与も疑われているんですよ、ネイト社長…?!」

 

ユウカがとうとう切り込んだ。

 

「は?」

 

「今回の一件、不可解なことが多すぎるんです…!どう考えても…!」

 

そう睨みつけながら追及するが…

 

「待て待て待て、どういうことだ?俺はあの中で寝ていたんだぞ?」

 

当然、ネイトは関与を否定する。

 

「なんだったらアサルトロンに聞いてみてくれ。こいつらはロボット、プログラム上嘘はつけない様になってるからな。」

 

「そうですか…!ではアサルトロンさん、一つよろしいですか…!?」

 

「なにかしら?」

 

「ネイトさんはベルチバードに入った後に…ベルチバードから『外出』されましたか?」

 

ユウカのその問いに…

 

「えぇ、外には出ていたわよ?」

 

アサルトロンははっきりとそう答えた。

 

「ッやっぱり!」

 

ついに尻尾を掴んだ…そう思ったが…

 

「でもそれはあそこのトイレに行った1回だけよ?」

 

「…え?」

 

「ほんの1~2分だったわね。用を足したらすぐに戻ってきてたわ。」

 

只のお手洗いしか出ていないと答えられ固まってしまった。

 

「う、うそでしょ!?もっとよく思い出して!」

 

「ログを確認したけどマスターがベルチバードから『外出』したのはそれだけよ。」

 

聞き返すユウカだが相手はロボット。

 

人間よりもそのあたりの記録は正確なはずだ。

 

「そんなに気になるんだったら…周りにいるあなた達の部下に聞いてみたらいいじゃない。」

 

「そうさ。あそことあそことあそこに見張りを置いてるんだろ?」

 

「ッ!?」

 

さらにアサルトロンとネイトはある方向を指さしそう伝える。

 

確かにその先には…ユウカが配備した見張りの保安部部員がいる。

 

「…もしもし?どうかしら?…分かったわ。」

 

「どうだった?」

 

「…確かに保安部の者もその一回のみと言っています…!」

 

監視についていた保安部の生徒も同じ証言だ。

 

「…もういいか?俺明日早いうちにアビドスに帰らなきゃいけないんだが…。」

 

現状ではこれ以上ネイトを追求することはできない。

 

何せ身内がネイトのアリバイを証明してしまったのだ。

 

「…分かりました…ッ!夜分遅くに申し訳ありませんでした…!」

 

ユウカは引き下がるしかなかった。

 

「あぁ、じゃあおやすみ。」

 

ネイトはそう答えベルチバードの機内へと戻っていくのであった。

 

機内に戻りハッチを閉めユウカたちが立ち去ったのを確認すると…

 

「……すまんな、ユウカ。見返りはいずれ。」

 

そうすまなさそうに呟く。

 

その足もとには…シートが外され露になったハッチがそこにあった。

 

ベルチバードには機内からのラぺリングや墜落し横転した場合のためのハッチが備え付けられている。

 

これを使うことによりネイトはベルチバードという密室から『脱出』し中国軍ステルスアーマーを用いてアサルトロンや監視の目を掻い潜ったのである。

 

「さて…明日の朝ゲーム開発部の部室行ってPip-Boyを返してもらわなきゃな…。」

 

そう言い、ネイトは本当に眠りについたのであった。

 

こうして、ゲーム開発部の連合部隊の『鏡』奪還作戦とネイトの暗闘は成功裏に幕を閉じるのであった。




いちばん嫌らしい嘘は、いちばん真実に近い虚言だ。
―――小説家『アンドレ・ジッド』
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