―――作家『司馬遼太郎』
ゲーム開発部のセミナー襲撃という大騒動が明けた翌朝、
「さて…解析は終わってるかな?」
ネイトはベルチバードを抜け出しゲーム開発部の元へ向かっている。
すると、
「お、ネイトさんじゃ~ん!」
「マキか。おはよう。」
「今ちょうどゲーム開発部に向かってるところだったよ!」
道中、ヴェリタスのマキと遭遇。
彼女の手にはネイトの左腕に何時も付けているPip-Boyがあった。
「いやぁ、結構バタバタしたけど解析には成功したよ!」
「それはよかった。これでPip-Boyも戻ってくる。左腕が軽いから落ち着かなくてな。」
「『鏡』はセミナーに返さなくちゃいけなくなったけどおかげでチヒロ先輩にどやされなくて済むしウチとしても大助かりだよ!」
「…返したのか、あれ?」
なんとあれだけ頑張って取り戻した『鏡』をあっさり手放したというではないか。
「ヒマリ先輩が『それくらいあげてもいいからこれからあんまり無理しないで』って。」
「…やっぱり変わった生徒だな、彼女は。」
全知たる彼女の考えは常人には分からないものなのだろう。
「それに部長は約束してたから…。」
「約束?」
「あぁ、ネイトさんは大丈夫!私たちの個人的なことだから。」
「そうか。…ちなみにPip-Boyはバラされてないよな?」
「大丈夫、ハレ先輩もコタマ先輩も手をワキワキさせてたけどセミナーの対応を押し付けてガードしたから!」
そうこうしてるうちに二人はゲーム開発部の部室に到着。
「入るぞ、皆。」
「ハ~イ、ゲーム開発部のちびっ子たち!マキちゃんからプレゼントのお届けだよ~!」
「あ、ネイトさんにマキちゃん!おはよう!」
「おぉ遂に!」
扉を開けるとミドリとモモイが出迎えてくれた。
「先生はどうした?」
「あ、アハハ…ユウカに連れてかれちゃって…。」
「お説教中…ってことか。」
ネイトはここにいない先生の行き先を聞き心の中で黙とうをささげるのであった。
そして…
「ネイトさ~ん、来てくれたのですね!」
「~ッ!あ、アリス…。」
満面の笑みを浮かべたアリスがネイトに勢いよく抱き着いてきた。
「アリス、頑張りましたよ!」
「そう…だな、アリスの援護のおかげで作戦は成功したな…。」
「報酬としてアリスを誉めてください!」
確かにアリスの活躍が無ければ作戦は上手くいかなかっただろう。
無邪気にそう求めてくるアリスに…
「……偉いぞ、アリス。良く…頑張ったな…。」
硬い表情のままネイトは彼女を撫でるのであった。
「えへへ…。」
「…アリス、そろそろG.Bibleについて聞かなきゃだよ!」
「あ、そうでした!」
モモイがそう言うと興味がそちらに向かったのかアリスがネイトから離れる。
「マキ!どうだった!?」
「ふふふ…じゃじゃ~ん!」
気を取り直してマキがPip-Boyを掲げて画面を見せると…
と画面に映し出されていた。
「ようやくG.Bibleが私たちの手に…!」
感無量、それ以外言いようのない表情を浮かべるミドリ。
「あ、それでね。ちょっと見てもらいたいのがあるんだけどPC借りれる?」
「これ使っていいよ、マキ。」
マキがモモイからPCを借りて手早くPip-Boyと接続し画面をリンクさせる。
「見て、G.Bibleと一緒にこの〈Key〉っていうフォルダを見つけたの。」
見ると確かにお目当てのG.Bible以外にもう一つフォルダが収納されている。
「なにこれ?…ケイって読むのかな?」
「ケイ?」
「『キー』でしょ!?お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?」
中学校レベルの英単語で思い切り間違えたモモイにミドリのツッコミが炸裂するのであった。
「何かまずいデータやウィルスとかじゃないよな、マキ?」
「それがさっぱり分かんないんだよ、ネイトさん。ファイルは壊れてなさそうだけど…私たちの知ってる機械語じゃ解読できないような信じられないような構成をしてるの。」
「G.Bibleはきちんと開けたのにか?」
「うん、四人はこの〈Key〉のこと何か知ってる?」
「いや、私たちも全然…。」
「俺もあの時慌ててたからなぁ…。いらないデータが巻き込まれたのか…?」
残り数秒で行った緊急手段だったのでそのようなこともあり得るかと納得しかけるネイトだが…
「…もしかしてこの〈Key〉って…。」
ミドリはあることが思い当たった。
「…まさかあの時の…?」
「ミドリ?」
「ネイトさん…あの時、コンピュータがアリスちゃんのことを聞いたのを覚えていますか?」
「あぁ、あったな。…まさかそれか?」
ミドリの話を聞きネイトも思い出す
あの工場にあった端末。
アレは確かにこう尋ねてきた。
と。
「…分かった。帰った後俺の方でも少し調べてみよう。」
「そっちの方がいいかもね。私達と違ったアプローチなら何か分かるかも。ま、何はともあれ今はG.Bibleのほうでしょ。それじゃご注文通りしっかり仕事したから!またね!」
「マキちゃん、ありがとね!」
「今度会うときは秘書を通して連絡してね!なにせ私たちは『TSC2』と『切り札』で大ヒットする予定だから!」
「あははっ楽しみにしてるよ!ネイトさんもまた気が向いたらうちの部室に顔出してね!」
「仕事を依頼するかもしれないしそうさせてもらうさ。」
仕事の完了と納品を終えたマキは部室を後にして行った。
そしていよいよ…
「よぉし、じゃあみんな集まって!ユズもほら!改めて…G.Bibleを見よっか!」
伝説のゲームクリエーターの遺産であるG.Bible…その中身を確かめることに。
「それじゃネイトさん!やっちゃって!」
「じゃあ…G.Bible起動!」
Pip-Boyを操作しファイルを開くと…
映し出される伝説のゲームクリエーターの残した文章。
そして…
「いっいよいよ!」
「なんだかすごそう…!」
「…もったいぶるな、この作者は。」
「でも、来ますよ…!」
いよいよ…先人からの神ゲーを作るヒントが明かされるのであった。
「………ん?」
「おぉ…オープニング…みたいな感じかな?それっぽい。」
「そ、そう?」
浮かび上がったのはたったその一言。
モモイは依然としてワクワクとした表情のままだが…ネイトとミドリは怪訝そうな表情を浮かべた。
が、待ってみても…
「…まさか、これで終わり…じゃ、ないよね?」
浮かび上がるのはこの文字だけ。
「なっ何かバグってるんじゃない?」
「ちょっと待って!えぇっと設定変更はどうやって…。」
「待て待てモモイ、俺がやろう。」
いやな予感がビンビン感じるが一縷の望みをもってPip-Boyを操作するネイトだが…
という文字が浮かんだ後…
まるでこちらの意図は予想済みといった文章が浮かんできた。
「あ、やっぱり!このまま終わるはずがないよね!」
この文章に希望を見出すモモイだが…
「嘘ぉ!?」
無情にもかつての伝説のゲームクリエーターの残した結論は…
この一言だった。
「これは…。」
「そっそんなはずないよ!きっと何かエラーが…!」
現実を受け止め切れないモモイだが…無情にもファイルには何の問題もなかった。
「こ、これで…終わり…!?」
「お姉ちゃん…私達…何か悪い夢でも見て…?!」
「あ、あんなに…頑張った、のに…!」
見る見るうちにモモイ・ミドリ・ユズの顔は絶望に染まっていき…
「終わりだああぁぁぁああッ!!!」
モモイの慟哭が轟くのであった。
が、
「?終わったって何がだ?」
「なにが終わったのですか、モモイ?」
「「「へ?」」」
そんな三人をきょとんとした表情で見つめるネイトとアリス。
「そっそれは!これがっG.Bibleが最後の手段だったのに!それがあんな誰でも知ってる文章一つが入ってるだけなんて!釣りにもほどがあるよ!!!」
涙目になりながらモモイは必死に訴える。
「知ってたさ!世界にそんなそれ一つで全部が変わって上手くいくような便利な方法なんか無いって!でもっ期待ぐらいしたっていいじゃんか!!!うわああああああンッ!!!」
「ごめんね、アリスちゃん…。私たちは…G.Bible無しじゃいいゲームは作れない…!」
「ネイトさんも、ごめんなさい…。この三日間、私たちに付き合わせて、無茶ばかりさせて…。」
さらにミドリとユズも二人に謝罪する。
せっかく修羅場を潜り抜けたというのに…その結果がこれだ。
このままゲーム開発部は廃部になってしまう、三人の思考は完全にネガティブなものになっていた。
だが、
「だったら…作ればいいじゃないか。『TSC2』、ミレニアムプライスに出すんだろ?」
「そうです。アリスは否定します。アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームは面白いです。」
『ふぇ…?』
なおもキョトンとした表情でそう言い放つネイトとアリス。
「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが…このゲームをどれだけ愛しているかを。」
「アリスちゃん…。」
「そんな沢山の思いが込められたあの世界で旅をすると…胸が高鳴ります。」
「アリス…。」
「仲間と一緒に新しい世界を旅するあの感覚は…夢を見るというのがどういうことなのかを…その感覚をアリスに教えてくれました。」
「アリス、ちゃん…。」
「だから、待望のエンディングに近づくほどに…あんなに苦しんだのに思ってしまうのです…。この夢が覚めなければいいのに…と。アリスはそう思うのです。」
アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』への熱く胸が躍る思いを。
「大体、モモイ達はG.Bibleがなくたっていいゲームが作れていたじゃないか。この数か月で評判がいいのが作れたんだろ?」
「ネイトさん…。」
「声高に言うわけじゃないが…俺とのあの二日間が三人を変えたんだろう?だったら、今回だって大丈夫さ。きっといいゲームが作れる。」
「ネイト、さん…。」
「それともこの三日間の経験も無駄だった、というのか?きっとこのゲームクリエーターもロボット兵の群れを蹴散らしたりセミナーにカチコミ仕掛けるようなことはやっていないはずだ。その点において…ゲーム開発部はこのゲームクリエーターを超えている、俺はそう断言するぞ。」
「ネイトさん…。」
ネイトは三人と出会ってからの彼女たちの成長を認識させるよう言い聞かせるように。
二者二様、言葉は違うが…
『今のゲーム開発部なら出来る。』
そんな確固たる思いがひしひしと伝わってきた。
「…作ろう。」
そんな二人の声にユズが真っ先に答えた。
「え?」
「私たちの夢は…私たちの作ったゲームをもっともっと皆に面白いって言ってもらうこと。」
今でも思い出す。
『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプ版。
正直言って…ゲームと呼べるか怪しいものだった。
低評価コメントは4桁以上、そのほかは冷やかしで終わる結果だった。
ユズはその批判のせいで外の世界を恐れこの部室に引きこもるようになったが…
「そんな時…モモイとミドリが、訪ねてきてくれた…。」
二人は訪ねてきて早々、
『自分みたいに面白いゲームが作りたい!』
と言ってくれた。
そこから…三人のゲーム開発部が始まった。
「…それで、二人と一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させて…今年のクソゲーランキング1位になっちゃったけど…。」
そこからはもう怒涛のような日々だった。
「二人に強引に引っ張り出されて、ネイトさんと出会って…とても凄い体験をすることができたし、作ったゲームが評価されるようになって、嬉しかった…。」
「ユズ…。」
「そしてアリスちゃんが訪ねてきてくれて…面白いって、言ってくれた。それで、私の夢は叶ったの。」
「ユズちゃん…。」
「心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう…ずっと一人で思い描いているだけだった、その夢が。」
心の底から嬉しそうに語るユズだが…
「これ以上は、欲張りかもしれないけど、叶うなら…私はこの夢が…この先も終わらないでほしい。ゲームを愛する気持ちなら、絶対に負けてないから…!」
すぐに決意に満ち満ちた表情に変わる。
「…うん、よし!ねぇ、今からミレニアムプライスの応募締め切りまで時間はどれくらい残ってる?」
モモイもその目に覚悟を宿し尋ねる。
「…6日と6時間38分だな。」
「…それだけあれば十分。」
「お姉ちゃん…!」
そして、
「さぁ、ゲーム開発部諸君!『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発、始めよう!」
元気いっぱいに音頭をとり、
「「「うんっ!!!」」」
三人も元気いっぱいに答えるのであった。
――――――――――――――――
――――――――――
―――
(やれやれ、一時はどうなるかと思ったが…あの様子なら大丈夫そうだな…。)
その後、ネイトは機上の人となっていた。
ここから先は彼女たち『ゲーム開発部』が力を尽くす時だ。
いかに友人と言えど…ネイトはゲーム開発に関しては門外漢もいいところだ。
そして、そろそろアビドスに戻らなければならないタイミングでもあったので一旦帰還することに。
そして…見送りの際、
『ではネイトさん!依頼したこと、よろしくお願いしますね!』
『任せろ。凄いの作ってきてやるからな。』
『楽しみにしてるね、ネイトさん!』
『私たちも、頑張ります…!』
ミドリからかねてより頼まれていた依頼も受けてきている。
門外漢ならば門外漢なりに…彼女たちの力になろう。
ネイトはそう心に決めていた。
「………。」
だが…ネイトの脳裏には…
『ネイトさん!今度はいつ来てくれるのですか!?アリス、楽しみに待ってますね!』
天真爛漫なアリスの笑顔が焼き付いていた。
(…忘れろ。あの子はただのゲーム開発部の一員だ。)
頭を振り払い操縦に集中する。
ベルチバードは何事もなく飛び続け昼前にはアビドスに到着した。
「ふぅ~…。」
「お疲れさまっす、アニキ!出張、お疲れさまでした!」
「いろいろあったよ、いやほんと…。土産が後ろにある。寮で皆に分けてくれ。」
「了解っす!」
「それからホシノたちは委員会室か?」
「えぇ、今日もいろいろ事務作業があるって聞いてます!」
「分かった。じゃあ、後のことを頼む。」
「うっす!おーい、誰か荷物を運ぶの手伝ってくれー!」
生徒たちにベルチバードを任せネイトは四日ぶりにアビドス高校に足を踏み入れた。
真っ先にホシノ達がいる復興施策委員会室に赴き…
「…ということを提案された。」
「キヴォトスで起こる不可解な事態への対処に関する協力かぁ…。」
「回答はどうされたんですかぁ、ネイトさん?」
「ホシノたちの意見を聞かなきゃならないから一旦保留にはしている。」
先日、ヒマリから持ち掛けられた『特異現象捜査部』とW.G.T.C.との同盟に関することを伝えた。
「ん…ネイトさん的にはどう思っているの?」
「俺個人としてはアリだと思っている。報酬も確約されているしミレニアムのテクノロジーは魅力的だ。」
「そうですね…。今後、ミレニアムの関係はアビドスとしても必要不可欠なものになるのは確実でしょうし…。」
「そのヒマリっていう生徒は信用できるの?まさかこっちをだましてW.G.T.C.の…アビドスの戦力だけが目当てだったりしない?」
「だったらもっと露骨な方法をとるはずさ、セリカ。それに俺の見立てとしては…ヒマリは信用してはいいと思っている。」
「なぁるほどねぇ…。」
ネイトから聞かされたメリットとデメリット、彼が分析したヒマリの人柄などを勘案し…
「…よし、ネイトさん。その話、進めてもらっちゃって大丈夫だよ。」
ホシノがGoサインを出した。
「ホシノ先輩、大丈夫なの?」
「ウチとしても対外的な『立場』は欲しいからねぇ。ミレニアムとはあの戦争だとこっそりとした関係しか構築できてないけどこれで堂々と関係を構築できるってことだよぉ。」
「…確かに。W.G.T.C.は実質的に『アビドス高校』の勢力ですから間接的にミレニアムと同盟を結ぶも同然ってことですからねぇ。」
「もし向こうが何かでごねたらネイトさん経由で『アビドス生徒は関わらない』と伝えたらそこまで。W.G.T.C.だって『アビドス』の企業だからウチが勧告したら…。」
「そゆこと。協力は惜しまないけど嘗められるわけにはいかないからねぇ。ネイトさんもそゆことでいい?」
「分かった。次に会った時にでもヒマリにもそう伝えておこう。」
何はともあれアビドス高校とミレニアムの協力体制は無事に結ばれるようだ。
「それにしたってぇモモイちゃん達も大変だねぇ…。」
話題は変わりネイトがミレニアムにいた土産話に入る。
「ん…頑張っていいゲーム作ってるのにやっかみでそんな目に合うだなんて…。」
「私たちもあの時とてもお世話になりましたし何かお力になれたらいいんですけど…。」
「モモイちゃん達、とってもいい子たちですから…廃部になんかならなきゃいいんですけど…。」
シロコやアヤネにノノミも心配そうな表情を浮かべる。
戦争の時だけではない。
ネイトが水没地帯に赴いた際、モモイ達とは肩を並べて戦った戦友だ。
そんな戦友の危機に手を貸せない自分たちが少し歯がゆいのだろう。
「でも、新しい部員だって入ってくれたんでしょ?大丈夫よ、きっと!そうでしょ、ネイトさん…。」
と、セリカが皆を元気づけようとネイトにそう問いかける。
だが…
「…そう、だな。」
何やら歯切れの悪い答えが返ってきた。
「…ネイトさん?」
「どうかしたか、ホシノ?」
「…その新入部員ちゃんと何かあったの?」
その違和感に気付いたホシノが心配そうな目つきでそう尋ねる。
が、
「いいや、別に…。なんでだ?」
「…うぅん、それならいいんだけど…。」
先ほどと打って変わってはきはきと返答するネイト。
「…そういえば、ちょうどいい話があるぞ。」
「ん…ゲーム開発部を助けられる話?」
「そう言うこと。ミドリからちょっと依頼を受けてきたんだ。」
「ミドリちゃんからですかぁ?」
「そ、ゲームの宣伝の動画を作ってほしいってさ。」
そう言い、ネイトはミドリから預かってきた企画書をホシノ達に見せる。
「…へぇ、面白そうね。ミドリったらいい作戦立てたわね。」
「これなら素材も大量に用意できますしすぐにできそうですね。」
セリカとアヤネは乗り気なようだ。
「やっていいか、ホシノ?」
「もっちろん!ミドリちゃんの頼みならばっちり答えちゃってぇ!」
「分かった。じゃあ他の生徒たちにも参加を呼び掛けてくる。」
こちらもホシノのGoサインを得てネイトは委員会室を出ていった。
「ん…面白そう。私も参加してくる。」
「ミドリちゃんのためにもいいものを作りましょ~♪」
「それじゃ私も参加のための準備を。」
「私もまとめ役として行ったほうがよさそうね。」
ネイトの後を追いシロコたちも委員会室を後にして行った。
そして、一人残されたホシノは…
「…ネイトさん、一体何があったんですか…?」
一人そう呟くのであった。
――――――――――
その後、ミドリからの依頼やD.U.で依頼した品物の受領や本業のW.G.T.C.の仕事などネイトも慌ただしい日々を過ごした。
「…よし、送信っと。」
そして現在、ミドリから依頼されていたデータを送信…
「…よかった、大満足のようだな。」
出来栄えにミドリも喜んでいるようですぐに感謝のメッセージが届いた。
「さて…いよいよ明日か…。」
夕焼けに照らされるアビドスを眺めながらネイトは呟く。
明日の今くらいの時間が…ミレニアムプライスの応募締め切りだ。
ちょくちょく制作の進捗がネイトにも届いているが…何とかギリギリに間に合うという計算らしい。
「先生も手伝ってるらしいし大丈夫だろうが…。」
アビドスにいる自分には信じて待つ以外できない。
そう黄昏ながら外を眺めているとネイトのスマホが震えた。
「ん?…どうしたんだ、一体?」
相手を確かめ通話に出ると…
「もしもし?あぁどうも…え?」
用件を聞きそんな声を上げるのであった。
その後、迎えに来た車に揺られ数十分後…
「到着いたしました、ネイト様」
「ありがとう。…ここか。」
ネイトの姿は賑わいの戻ったアビドスの中心街、その中にある一際高いシティホテルにあった。
いかに過疎化が進んでいたアビドスと言えどこのホテルは一際の豪華さを放っていた。
普段はラフなネイトも場所が場所なのでジャケットを羽織りフォーマルな服装をしている。
「…行くか。」
意を決し…というと変な話だが背筋がいつもより伸びネイトはホテル内に足を踏み入れる。
そして…指定されたフロアに進むと…
「お待ちしておりました、ミスターネイト。」
「申し訳ありませんが規定ですのでボディチェックを…。」
「武器をお持ちの場合はこちらにお預けください。」
タキシード姿の猛獣系の獣人からのボディチェックを経て…
「どうぞお進みください。旦那様がお待ちです。」
待ち合わせ場所…会員制のバーに入店できた。
そこで待っていたのは…
「やぁネイトさん。急に呼び立ててすまなかったね。」
「気にしないでくれ、ミスター十六夜。」
カウンターに掛けこちらに笑顔を向ける十六夜社長だった。
「しかし…さすがはセイント・ネフティス社の社長…。こんな豪勢なところを貸し切りとは…。」
「はっはっはっ、たまには貴方とサシで飲んでみたいと思ってね。」
「でもいいのか?店内に護衛を配置していなくて。」
「冗談を。貴方という最強のボディガードがいるのに?」
「…そのボディガードと飲もうってんだから世話ないな。」
「違いない。さ、かけてくれ。」
十六夜社長に促されネイトも隣のカウンター席に腰掛ける。
「お飲み物は?」
「遠慮しないで。今日は私が持つから。」
「じゃあ、ウィスキーをロックで。」
「私はジントニックを頂こうかな。アテはお任せで。」
オートマタのバーテンダーにそれぞれ飲み物を注文し…
「では、乾杯。」
「乾杯。」
グラスを合わせて静かな酒宴が始まった。
「そうそう、アビドスと例の契約を交わせたよ。」
「おぉ、俺の居ない間に…これでようやくワンステップ進めた。」
「ウチとしても有効活用できることに越したことはないからね。あ、もちろん成分分析をして有害物質がないものを選ぶから。」
「あっても俺がクラフトすれば一発だが心遣いに感謝するよ。」
「そう言えばこの前の出張じゃ…。」
始めこそ仕事関連や…
「どうだい?アビドス高校の子達とは最近上手くいってるかい?」
「お陰様で。アビドスどころかこの前はゲヘナの美食研究会がやってきた。」
「えぇ!?あのテロリストの!?」
「なに、少し協力してもらって礼として柴関ラーメン奢ったら大人しく帰っていったさ。」
「…相変わらず豪気というか扱いが上手いというか。」
生徒たちとの日々の関りなど世間話が続いていく。
「…そう言えば変わったことと言えば…。」
「何かあったのかい?」
「ホシノ達が俺に色々アプローチを仕掛けてきてるな。」
「ほぉ?例えば?」
「アヤネはドライブだろ?セリカは俺をバイトに誘ってきたしホシノは昼寝しようって屋上に引っ張られかけたな。」
「あははっ若い子に誘われるだなんてネイトさんもやるねぇ。」
「いや、ここ最近忙しかったからいったん断ったんだけど…。」
「…そっそうかい。」
「シロコも何日か前に俺の顔見るなり真っ赤になって逃げだしたしノノミは…俺を膝枕で耳掃除するって言ってきかなかったし…。」
「…なんだって?」
「安心しろ、きっちり断ったから。」
「…それは…それで複雑だなぁ…。」
と、そんな他愛のない話題が続いていき…
「…で、ミスター十六夜。」
「なんだい?」
「本当は何の用で俺をここに誘ったんだ?」
とうとうネイトが本題を切り出した。
よくよく観察すると…グラスの中身は減っているがネイト自身からはアルコールの匂いがしない。
「驚いたね…。どうやったんだい?」
「知り合いの『手品師』に教わってな。」
そう言い、ネイトが少し袖をめくると…透明なチューブが繋がっている。
「飲み会のちょっとした余興くらいのことはできるさ。…良いウィスキーを捨てると罰が当たるから戻させてもらう。」
今度はそのチューブを通しウィスキーをグラスの中に戻した。
「…やられたね。飲んでたのは私だけだったということか。」
「疑ってるわけじゃないが素面で聞いた方がいいかと思ってな。」
「いいさ。むしろ私が少し酔ってないと話せないことだからね。」
十六夜社長は自分を勢いづけるようにグラスを呷り…
「…ネイトさん、先生から貴方の過去とある女の子との関係について相談を受けてね。」
いままでの話は前置きと言わんばかりに単刀直入に本題に入った。
「………。」
今度はネイトが持つグラスが揺れた。
「貴方の過去、それにとやかく言うつもりも権利も私にはない。だが…なぜだい?」
「…なぜ、とは?」
「なぜ…それほど自分の幸せを無視…いや否定するんだい?」
柔らかながらも十六夜社長の視線はネイトを射止めるように向けられる。
「アリスちゃん…だったかな?君はその子に『パパになってほしい』と言われたんだろう?」
「…あぁ、ただのゲームから学んだことでその意味なんか分かって…」
そのネイトの答えは十六夜社長にではなく…まるで自分自身に言い聞かせてるようだったが…
「そんなのじゃないよ、きっと。」
十六夜社長は諭すようにその言葉を遮る。
「誰を父親にするか…それを決めるのはね、ネイトさん。貴方じゃないんだよ?」
「ミスター十六夜…?」
「それに…男が親になるのはそう簡単なことじゃない。」
懐かしむように十六夜社長は語る。
「女性はヒトでいうと『十月十日』、その期間その命を宿し守り出産も命懸けだ。だから、女性は子供を宿した瞬間から『母親』になるんだ。」
「………。」
「だが男はどうだい?下世話な話、『種』を仕込んだらあとは何もしなくていい。そこで本来はお役御免だ。野生動物の大体はそうだろう?」
「…あぁ。」
「極端な話…父親はいても居なくてもいい。子供というのはちゃんとした母親さえいれば立派に育ってくれるものさ。私の家族への仕事をとことんそぎ落とすと…家族が不自由なく暮らせるお金を入れること。」
「………。」
「あとはそうだね…。子供が良い事をしたときは目一杯褒めて悪いことをしたときはしっかりと叱ることかな。…まぁ、最悪私じゃなくても出来ることばかりだ。」
苦笑交じりに語る十六夜社長。
ネイトはソレを黙って聞くしかできなかった。
そして、十六夜社長の目線は再び柔和なものになり…
「………。」
「私がノノミの『父親』でいられるのはね、ネイトさん。あの子が…そうであることを『望んでくれている』からに他ならない。」
「望んで…くれている…。」
「戸籍とか血縁とかそう言うのは関係ない。子供が『この人が父親だ』と決めてくれて初めて…男は『父親』になれるんだよ。」
静かに滔々と自身の父親観を語り…
「心の整理がつかないのも分かるよ。でも…しっかり自分の過去と向き合って整理を付けれたら…アリスちゃんの想いにしっかりと答えてあげてほしい、ネイトさん。」
「………。」
「人生の大先輩は貴方でも…これでも父親としては私が大先輩だ。だから断言できる。貴方は…きっと立派な父親だったしまたきっとなれるよ。」
笑顔を浮かべて肩に手を置きそうネイトに言い切るのであった。
「さ、説教臭い話は終わりだ。今日は飲もう。」
十六夜社長はそう言い新しいグラスをバーテンダーに頼む。
「………。」
対するネイトはようやく目の前にあるウィスキーに手を付けるのであった。
―――――――――――――――――
―――――――――
―――
「ふぅ~…。」
結局あの後…ネイトはあの一杯しか飲まなかった。
対する十六夜社長は終始楽しそうに一人で好きに喋りどんどんグラスを開け…
「Zzz…Zzz…。」
潰れてしまったところで自然とお開きに。
アビドス高校に帰ってきたネイトは根城の技術室で夜空を見上げたそがれていた。
頭の中では先ほど十六夜社長が言っていた言葉が何度も繰り返されている。
「…一杯だけ…飲むか。」
気持ちの整理を付けるため手早く飲む準備を始めるネイト。
コーラとレモンとウィスキーを手早く混ぜ…
「ヌカコーラとマットフルーツだったら『ダーティウェイストランダー』ができるが…まぁいいか。」
連邦でも飲んでいたお気に入りのカクテル風の物を作り口を付けようとしたその時、技術室のドアがノックされた。
「誰だ?」
席を立ちドアに向かい空けるとそこには…
「ホシノ?」
「夜分遅くにすみません。」
ホシノが立っていた。
道に迷うことこそ、道を知ることだ
―――東アフリカの諺