―――哲学者『アリストテレス』
「ホシノ?」
「夜分遅くにすみません。」
「何かあったのか?」
「たまには…二人っきりでおしゃべりしたいな、と思いまして…。」
十六夜社長との酒宴を終え帰宅したネイトの元を訪れたホシノ。
「まぁ入ってくれ。」
「お邪魔します。」
こういうことはたまにあるのでネイトも彼女を部屋に招き入れた。
「コーラでいいか?」
「急に訪ねてきたんですからお構いなく…。」
「気にするな。俺だって一杯飲もうとしていたところだ。」
ちょうど出していたコーラを新しいグラスに注ぎホシノに差し出す。
「一先ず乾杯。」
「乾杯。」
何時ものように乾杯をし…
「さて…どういったネタでおしゃべりしようか。」
そう、話題の引き出しを探り出すネイトだが…
「実はネイトさん。」
「ん?」
「ネイトさんが出張中…夢にユメ先輩が来てくれたんです。」
ホシノが特上のネタを提供してくれた。
「ほぉ、ユメが。ようやく夢枕に立ったか。」
「えぇ、ちょっと力をためるのに時間がかかったとか。」
「元気そうだったか?」
「そうですね…。あの頃と変わりなく…そそっかしくてどんぶり勘定で全く変わっていませんでしたね。」
「フフッ、ユメらしいな。」
「えぇ…あの頃の通り…太陽みたいな笑顔でした。」
「そうかそうか。ホシノもやっと会えたんだな…。」
互いに縁の深いユメの話題に花が咲く。
ネイトも肩の力が抜けて楽しそうな表情を浮かべている。
「それで『なんでネイトさんを呼んだのか?』って聞いたんですよ。」
「ほぉ?それは興味深いな。それでユメはなんと?」
「…『勘』だったらしいです。」
「………え、『勘』?」
「はい。勘でネイトさんを選び…大当たりを引いたということらしいです。」
「………第二の人生貰っておいてなんだが…もうちょっとちゃんとした理由がよかった…。」
まさかの召集理由にあんぐりとした表情を浮かべるネイトだが…
「仕方ないですよ、ネイトさん。だって…ユメ先輩ですよ?」
「…確かに。」
ユメ本人がここにいたら『ひぃん』とでも言いそうな意見の合致であった。
「他にはユメは何か言っていたか?」
何分久しぶりのユメの話題にネイトも愉快そうにホシノに続きを求める。
だが…
「………。」
「…ホシノ?」
「…話題は全部ネイトさんのことでした。」
先ほどまでにこやかだったというのに突然、ホシノの表情と声に真剣みが帯び…
「…ネイトさん。」
「…何だ?」
「ネイトさんが出張中に十六夜社長から…貴方の危うさを聞きました。」
ネイトがミレニアムにいた時に交わされた十六夜社長とのやり取りを明かし…
「………。」
「ユメ先輩が夢に出てくれたのはその次の夜でした。」
その流れでユメがやってきたタイミングも明かした。
「十六夜社長は言ってました。ネイトさんは…容易く命を駒にできて…執着がないと…。」
「…フゥ~全く…。」
それを聞いた途端、ネイトの目付きが暗いものに変わった。
「そして…ユメ先輩にその理由を尋ねましたが一言こう言われました。」
「…彼女はなんと?」
「…『貴方を許してあげてほしい』、と。」
「『許す』…ねぇ。」
そう一言呟くと…
「ホシノ…俺は一体何を許されるべきなんだ?」
「…ッ!」
暗い瞳そのまま…いや、どす黒いまなざしを向けホシノにそう尋ねる。
ホシノですらそれに気圧されそうになるが…
(怯むな、小鳥遊ホシノ…!)
ぐっとこらえ…
「…夕方、十六夜社長から連絡が来ました。そして…ミレニアムであった事を教えてくれました。」
その目をまっすぐ見つめそう答えた。
「あの馬鹿弟子…。いつからそんなに口が軽くなった…。」
情報の出所は先生からだというのは分かり切っている。
そう恨めしそうに呟くネイトだが…
「…だとしたら、その情報に嘘は一切ない。」
一瞬目を閉じ気を鎮めそう返した。
「そうさ…。俺は…妻も守れず自分の子供すら踏み躙った…正真正銘の『極悪人』さ。」
ネイトは出会った当初もこう言っていた。
『自分は極悪人だ』と。
ホシノは最初は悪い大人に気を付けるための警句かとも思っていた。
だが…今放たれたその言葉の意味は…。
「貴方は…極悪人なんかじゃ…ありません…!」
それをホシノは否定するも…
「いいや、そうなのさ…。ハンッ『英雄』が聞いて呆れる。俺は大事なものを全て取りこぼしたただどうしようもなく狂った…弱い男さ。」
ネイトの自嘲は止まらない。
「それでもネイトさんは…誰にもできないことをやり遂げたことに変わりはありません…!それすら…貴方にとって無価値なのですか…!?」
「ホシノ…息子の夢を代わりに叶えるなんてのはな…俺の生き方とあの世の行き先を変えるような価値はない。」
やり遂げたことへの称賛すら自分にはふさわしくないと断じ…
「…じゃあ、ユメ先輩の願いは…!」
「………それは『仕事』だ。第二の人生という報酬を前払いでもらった。だから俺はここにいて…。」
自分がここにいるのは『仕事』だと一蹴する。
「じゃあ、その『仕事』が終わったら…どうするつもりなんですか…!?」
「…もうこの話は止めよう。」
ホシノがヒートアップしてきたのを察しネイトは一方的に話を打ち切り…
「悪いがホシノ、それを飲んだら帰ってく…。」
自分のグラスを呷ろうと手に取ったその時、
「―ッ!?」
「なッ!?」
目にも止まらぬ速さでホシノがネイトの手からグラスを引っ手繰り…
「んぐっんぐっ…プハァッ!」
「バッバカ!?何やって…!?」
一息で中に入ったコークハイを飲み干した。
「お、おい大丈夫…!?」
慌てて席を立つネイト。
中身は相当強いアルコールだ。
今まで飲酒の経験などないホシノがそんなものを飲んでは…。
だが、
「うぅ~…ッ!」
ホシノの目が一気に据わった…かと思った次の瞬間、
「らあッ!!!」
「ぐあッ!?」
まさに隼の如くネイトに飛び掛かり椅子に押さえつけた。
「ネイトさん…ッ!ふざけるのも大概にしてくださいよ…!?」
「ほ、ホシノ…!?」
動こうにも身体に跨られ胸倉をつかまれただけでなく…キヴォトス人の膂力にこの体勢で敵うわけがなく身動きが取れない。
「息子さんの…ッショーンさんの遺志を無駄にしないために荒れ果てた連邦を人生かけて復興させて…!」
そして…
「ユメ先輩の頼みを二つ返事で受けて…ッ!」
「ホシノ…?」
「今まで誰も出来なかった…ッ連邦生徒会も見捨てた…ッアビドスの借金を完済して…ッカイザーを追い払って…ッアビドスに『未来』を取り戻して…ッ!!!」
顔を伏せているので表情は分からないがその声は震え始め…
「アビドスだけじゃない…!私を…どうしようもなくバカな私を救い上げて…ッ!また前を向かせてくれたのに…ッ!!!」
ポタリポタリと胸に何かが当たる感触が伝わってきて…
「そんな貴方がっ!!!どうして自分の『幸せ』と『未来』を否定するんですかッ!!?」
最後には部屋の中に慟哭が響き渡った。
顔も勢いよく上がりホシノの目からは…とめどなく大粒の涙が溢れている。
「どうしてっ!!?貴方がいたおかげでアビドスは救われた!!!私だってっ!!!貴方がいなかったらきっとまた取り返しのつかないバカをやっていた!!!そんな私だって貴方は救ってくれた!!!なんでッ私を救ってくれたの、ネイトさん!?」
「………どうして…かな。」
「今なら分かります!!!貴方も『同じ』…いいえッ私よりももっと『深く傷ついて』いたから!!!なのに私を救ってくれたっ!!!」
ネイトの代わりにホシノが涙を流し叫びながら答える。
「自分は傷付いて傷付いてッそれでもネイトさんは私を救い!皆を救い!アビドスを救ってくれたっ!!!そんな貴方が『弱い狂人』なわけがないッ!!!」
怒りと哀しみ…そしてそこにはネイトへの想いが込められていた。
「貴方はとても強くて優しい人ですっ!!!それなのにッ貴方はそれすら分かっていない!!!いいやっ見て見ぬふりをして『使命』という仮面で覆い隠している!!!」
止まることのないホシノの慟哭。
「その仮面がネイトさんの『幸せ』と『未来』を奪うというのなら私が邪魔しますっ!!!アビドスの復興事業なんかぶっ壊してやります!!!シロコちゃんやノノミちゃんやセリカちゃんやアヤネちゃんや皆を巻き込んでアビドスを復興なんかさせるものかっ!!!」
「おっおい、自分が何を言ってるか…!」
「ネイトさんがいない蘇ったアビドスなんか私はいらないっ!!!誰もそんな貴方がかけたアビドスなんか望んでいないんだっ!!!アビドスが復興してネイトさんがいなくなるんだったら永遠に荒れたアビドスの方がいい!!!」
ネイトのためなら…アビドスの復興すら捨てる覚悟を言い放つ。
「それにッ本当はネイトさんだって分かっているはずです!!!貴方の奥底にある『想い』にっ!!!『父親』としての心は死んではいない!!!死ぬわけがないッ!!!そうじゃなければ連邦を蘇らせようだなんてできるわけがないッ!!!」
「…ッ!」
「60年も頑張ってまた人生をかけて誰にもできなかったことを成し遂げようとしてくれているッ!!!もう十分頑張ったのにっもう苦しみ抜いたはずなのにッまた立ち上がってくれた!!!そんなネイトさんだからユメ先輩だってそんな貴方だから私達を託したんですっ!!!」
ユメの想いを知るホシノだからこそ…
「ネイトさんだから私達もこんなに想っているんですッ!!!だからッこの世界では貴方は『幸せ』にならなきゃいけないんですっ!!!『未来』を生きていかなければいけないんですッ!!!」
誰よりもネイトを近くで見続けてきたホシノだからこそ…
「…もし、ユメ先輩や皆の想いを蔑ろにするんだったら…ッ!!!ネイトさんッ…!私は…貴方を許しませんからね…!」
目に渾身の力を籠めそう言い放った。
が、
「…キュウ。」
ホシノはそのまま糸が切れた人形のようにネイトに凭れ掛かった。
「ほッホシノ?…ホシノ?」
「スゥ~…スゥ~…。」
「眠ってる…だけか。」
そのまま寝息を立てて夢の中に入ってしまったようだ。
見ると顔が朱に染まっている。
初めての飲酒、それも高度数のウィスキーのカクテルを一気に飲みあのヒートアップっぷり。
ホシノの小さな体にアルコールが回るには十分すぎたのだろう。
「むにゅぅ…ネイト…さぁん…。」
「…ごめんな、ホシノ。」
今日は色々とありすぎた。
そのせいか…
「…スゥ…スゥ…。」
ネイトもそのまま目を閉じ穏やかに寝息を立て始めたのだった。
「ありがとう、ホシノちゃん…。これなら…。」
―――――――――――――
―――――――――
――
「…ここは…?!」
ネイトは目の前の光景に唖然としていた。
自分は確かにアビドス高校の技術室、そこに置かれている椅子の上で眠りについたはずだ。
だがここは…技術室などではない。
さらに言うと…ここはアビドスでもキヴォトスですらない。
今でも昨日のように思い出せる。
「連邦…?!」
目の前に広がる光景は在りし日の…まだ復興する前の荒れ果てた『連邦』だった。
間違うわけがない。
眼下に広がるこの荒涼な廃墟が広がる光景を。
この独特な香り交じりの懐かしい風を。
皮肉にも人の営みが無くなったことで取り戻された澄んだ空を。
そんな連邦の中でもここはマサチューセッツ州一の高さを誇る超高層ビル『マスフュージョンビル』の屋上だ。
「…ユメの仕業か?」
すぐにネイトはこの現象の犯人の見当がついた。
こんな芸当ができるのは自分が知る限り彼女しかいない。
そんなネイトの声に…
「正確には…あの子の貴方への強い思いがあったから、といったところだよ。」
背後から誰かが答えた。
「~ッ!?」
あり得ない、あり得るはずがない。
だが…聞き間違えるわけがない。
例え世界が変わろうが…忘れるわけがない。
振り返るとそこには…
「久しぶりだね、父さん。」
「ショ…ショーン…!?」
「60年ぶり…といったところか。」
白衣を着て白髪になり口髭を蓄えた…ショーンがいた。
目覚めてあった時そのままの年老いた姿だった。
「ど、どうして…!?」
いままでユメならこうして会うことはあった。
だが…ユメ以外が…それも元居た連邦世界の人物が出てくることなど想像もしたことがなかった。
「フム、科学者だった私が言うのもなんだが…神秘というのは凄まじい力があるものだね。」
「…ユメか?」
「そう、Ms.ユメ…彼女が私を夢の中という形でだがここに連れ出してくれたんだ。」
やはり、この現象の大本はユメのようだ。
「もっとも彼女の力だけでは私を連れ出せても父さんの夢に固定できないらしい。そこで…現実にいる彼女の後輩の力を借りる必要があったと言っていた。」
「…そうか。ホシノが…。」
そして…図らずもホシノがいてくれたからこそこうして話ができているらしい。
「これが…貴方の見た連邦の景色か…。」
いつの間にかショーンはネイトの隣に並び…共に連邦の光景を眺める。
「あのクレーターが…私の居た『C.I.T.』のあった場所か…。随分と派手に吹き飛んでいるな…。」
その視線はチャールズ川のほとりにぽっかりと開いたクレーターに注がれていた。
「そうか…。あそこで私は…。」
あの場所こそ…ショーンが率いた『インスティチュート』の地下本部があった『C.I.T.』が跡形もなく吹き飛んだ爆心地だ。
「不思議なものだ…。こうやって自分の墓標に等しい場所を眺めているのは…。」
「………。」
「…あぁすまない。こういう機会は望んでも得られるものではなくてね。」
若き姿に戻った父と年老いた息子…二人の間に沈黙が流れる。
ただ…マサチューセッツに吹き抜ける風だけがしばし二人の耳を打っていた。
その沈黙を破ったのは…
「その…ショーン…体の調子はどうだ?」
ネイトだった。
極々当たり前の…久しく会った家族と交わすような…ありきたりな内容だった。
「あぁ、以前のような体の辛さが嘘のようにない。何せ一度死んだのだからね。」
「…そうか。」
「そう言う父さんはどうなんだい?」
「…あぁ、俺も一度死んだ身だ。体は嘘のように軽い。」
互いに年老いて生涯を終えた身だ。
奇妙な話…親子でもこんな状況でなければ絶対に交わせない内容だ。
「話はMs.ユメから聞いているよ。また…結構な無茶をやったらしいね。」
今度はショーンが話題を振って来る。
その表情は苦笑交じりで…困った人を見るかのようだ。
「…あぁ。」
「キヴォトス…銃で撃たれようと怪我で済むキヴォトス人…。私からしても耳を疑うような世界だ。」
人造人間を生み出していたインスティチュートでもそんな存在を生み出せはしなかった。
科学者としても超一流のショーンから見れば興味深い世界と人種だろう。
「俺も…そうだったな…。」
「そこでも…また誰かの望みを叶えようと…『敵』を打倒したんだね…。」
そして…世界を跨いでも…ネイトの在り方は変わらなかった。
「…あぁ、結局…俺はどこに行っても…『死』と『破壊』を振りまくしか能がない…どうしようもない男のよう…。」
戦前、連邦、そしてキヴォトス。
ネイトの人生はずっとそうだった。
それを自嘲気味に語ろうとした、その時…
「それは違う。」
「え…?」
「絶対に…違う、父さん。」
怒りの表情を浮かべショーンがネイトの言葉を遮った。
「なぜだ、ショーン?現に…俺はお前すらも…。」
「そんな人が…こんな事なんかできるわけがない。」
そう言い、ショーンが扇ぐように手を動かすと…連邦の景色が変わり始めた。
廃墟が減っていき平地が増え…緑がその場所を覆い始め新たな街が生まれていった。
遠くの山野すら緑が寂しかった山肌を染めていった。
「ッ、これは…!」
「Ms.ユメができるようにしてくれたんだ。…貴方が復興した連邦の姿さ。」
それは…ネイトの前世の集大成である『復興した連邦』の姿だった。
「不思議なものだね、父さん。」
それを眺めながら…ショーンは語る。
「Ms.ユメに連れられて貴方に会うことになった時…正直、私は何を思うのか…分からなかった。」
「ショーン…。」
「恨みか?憎しみか?怒りか?そう言う負の感情を抱くものとばかり思っていた。」
「………。」
「だが出会ってみると…不思議なものだ。絶対に相容れず、共に殺し合い滅ぼそうと戦ったというのに…湧いてきたのは懐かしさと…強い喜びだった。」
「………。」
「不思議と…嫌な感情は湧いてこなかった。」
そこで言葉を区切りショーンはネイトに向き直り…
「だが、一つ答えてもらいたい。…どうして…あの子を先に脱出した人造人間たちに託したのかを。」
ネイトの目をまっすぐ見つめショーンは尋ねる。
『あの子』とは…ショーンの少年のころを再現して造られた人造人間のことだろう。
「それは…あの子が『ショーン』だと名乗ったからだ。」
その目をまっすぐに受け止め…ネイトも語りだす。
「もし…あの子が誰でもない。それこそ記憶喪失の子供であったなら…ともに脱出してもよかった。」
「………。」
「だが、あの子は…頑なに『俺の子』と言ってきかなかった。だから…俺は拒絶したんだ。」
「………。」
「別にあの子が憎かったとか煩わしかったからとかじゃない…。俺にとってショーンは…お前以外にいない…。袂を分かとうが殺し合おうが…俺の息子はお前だけなんだ…。」
「…そうか。少し…意地の悪い託し方をしてしまったようだね。」
その答えを聞き納得したのか、ショーンは再び連邦の風景に視線を移す。
「実は…あの子には私の遺言の入ったホロテープを託していたんだ。」
「え…?」
「あの子にも連邦の待つ未来を一緒に迎えるチャンスが欲しい…といった内容だったんだ。」
「…そうか。」
「聞いてくれなかったのは残念だったが…父さんはあの子に生き残るチャンスを与えてくれた。それを聞けて…少し安心したよ。」
「だが…俺はお前の最後の望みを…。」
「そうだね…。でも…こうして連邦が蘇った風景を見ることができた。素晴らしい…光景だ…。」
ショーンは心奪われているようなまなざしだった。
「父さん…貴方が正しかった。」
「正しかった…?」
「連邦の在り方を変えるのではなく…ありのままの…人々の営みを残すために最善を尽くすこと…。人造人間で意志を塗り替えることではなく…連邦の意思を尊重し…そして自らの意志を貫くこと…。」
「………。」
「だから…C.I.T.での貴方の言葉の意味…。そして…私を倒すという貴方の『勇気』の真実が分かった。」
「…『勇気』なんかある物か…。」
「いいや、父さん。貴方は…あの時、あの世界で誰よりも…勇敢だった。でなければ…あんな約束出来はしない。」
ネイトとショーンが交わした約束。
『必ず連邦を蘇らせる』。
短くも違えることを許さない…鉄の誓いだ。
「ただ私を排斥するのではない。私の遺志も背負って…貴方は成し遂げたんだ…。そんな父さんを…私は…父として…一人の男として…尊敬している。」
「ショーン…。」
「それでも父さんは…またそちらで同じことをやろうとしているのだろう?」
「…あぁ。」
「きっと…成し遂げられる。だって…貴方は私の父さんなのだから。」
ショーンは再びネイトに向き直り…
「父さん…一つやってほしいことがある。」
「なんだ、ショーン…。」
「私を…抱きしめてほしい。」
どこか心もとなそうな表情を浮かべながらそう頼んできた。
ネイトはその頼みに…
「…あぁ、もちろんだ…ッ!」
一も二もなくショーンに歩み寄り…力いっぱい抱きしめた。
「ショーン…ッ!」
震える声で呼びかけるネイト。
そして…
「父さん…。あぁ、そうか…そうだったのか。」
ショーンもまた…どこか腑に落ちたような感覚だった。
ネイトと再会し…ずっと感じていた空虚な感覚。
その意味が…ようやく分かった。
「私は…私はただ…父さんと…こうしたかっただけなのか…!」
思えば再会した時から…ショーンは一貫してインスティチュートの『ファーザー』としてしかネイトと接してこなかった。
ただの一度として…ネイトの『息子』として接することはなかった。
それが60年という長い時を経て…ようやく…『本当の親子』として接することができた。
「…よく聞いて、父さん。父さんはもう…私に縛られなくていい…。」
「縛られてなんか…いる物か…!俺は…お前の父親だ…!息子のことをそんな風に思うわけがない…!」
「だったら…もうあんなことは思わないでほしい…!自分の『幸せ』と『未来』を…諦めないでほしい…!」
「でも、俺は…!」
「その新たな人生で…アビドスを復興し終えたのなら…どうか…その『余命』を父さんの自由に使ってほしい…!」
「俺に…余命なんか…!」
「もし…父さんが自分の命に自分で決着を付けたら…私は許さない…!地獄にいようが…私が貴方をぶんなぐって見せる…!」
「………。」
「それから…その仮面を外してほしい…!もう『使命』の仮面を捨てて…どうか思うがままに行動してほしい…!そして…『あの子』の想いにちゃんと答えるんだ…!」
『あの子』とは…もはや言うまでもないだろう。
「父さん、今言ってたね…?!あの子は他の誰でもない、あの子そのものだ…!だったら…できるね…!?」
「でも…俺はお前を…!」
「私のことを覚えていてくれるのなら…それで十分だ…!だから…私に注げなかった『愛』を捨てるんじゃなくて…あの子に渡してほしい…!」
「ショーン…ッ!」
「もう…その体も…その心も…父さんの物なのだから…ッ!」
その時、ネイトの中で何かが『砕け散った』ような感覚がした。
「………分かったよ、ショーン…ッ!」
「………。」
「やって…みる…!どこまで続くか分からないけど…精一杯…生きてみるよ…!」
心の奥底からの…言葉だった。
心の底からの…『欲求』だった。
そして…息子と交わした…二つ目の鉄の誓いだった。
「…約束だよ、父さん。」
ショーンがそう答えると…意識が浮上していくのをネイトは感じた。
「忘れないで、父さん…!私はいつでも…父さんとともに…!」
そこで…夢の中でのネイトの意識が途絶えたのだった。
―――――――――――――
―――――――――
――
「…はぁッ…!」
目を覚ますと…そこは眠りに落ちる前の技術室だった。
時間にして一時間もたっていないだろう。
「………っ!」
アレは間違いなく…夢だった。
だが…間違いなくあれは…。
「………ッ!」
ネイトの目から大粒の涙が溢れて嗚咽が止まらなかった。
すると…
「んみゅ…ネイトさぁん…?」
胸の中で眠っていたホシノが寝ぼけ眼でネイトを見上げた。
「どうして泣いてるのぉ…?お腹痛いのぉ…?」
アルコールが抜けきっていないからかトロンとした声でネイトを心配そうに見つめる。
「違う…!違うんだ、ホシノ…ッ!」
「じゃあどうしたのぉ…?怖い夢でも見たのぉ…?」
「いいや、とても…とても幸せな…夢だった…ッ!」
「んむぅ…じゃあ、ホシノには分からない…。分からないけど…。」
涙が止まらないネイトを…
「ほ、ホシノ…?」
「大丈夫ぅ…ここには誰もネイトさんを怖がらせるものはいないんだからぁ…安心してぇ…。」
優しく抱きしめてくれた。
「ネイトさん…さっきはごめんねぇ…。」
「ホシノ…。」
「私はぁネイトさんにも…幸せになってほしいだけなんだよぉ…。」
「ホシノ…ッ!」
「許さないなんて言ってごめんねぇ…。でも…もうちっとも怒ってないからぁ…もう泣かないでぇ…。」
「ホシノ…ッ!」
「ネイトさんにはぁ…幸せになってほしいの…。」
そう笑顔を浮かべて…
「んみゅぅ…スゥ~…スゥ~…。」
また眠りに落ちた。
「…ありがとう、ホシノ…ッ!」
そんな彼女をネイトは抱きしめ返し…
(今は…眠ろう…。)
自分も再び眠りにつくことにした。
そして…数時間後、
「………。」
アビドスに太陽が昇り朝日に染まった砂漠をネイトは眺めていた。
そして…
「スゥ…スゥ…。」
「…行ってくるよ、ホシノ。」
気持ちよさそうに眠っているホシノを起こさない様に部屋を後にして行った。
さらにそこから数時間が立ち…
「んむぅ…うぅ…頭痛ぁい…。」
ホシノも目を覚ましのっそりと起き上がった。
意図せず初めての飲酒だったせいで少し二日酔い気味だ。
「あれ…ネイトさんはぁ…?」
寝る前の記憶をたどりネイトの姿を探していると…
「…あれ?」
机の上に書置きを見つけた。
そこには…
『ありがとう、ホシノ。少し出かけてくるから皆によろしく。』
と書かれてあった。
さらに
『PS.冷蔵庫にミックスジュースを入れておいた。二日酔いになってるのなら飲むこと。』
と今のホシノの様子を分かっているようなことも書かれてあった。
「…そっか、行っちゃったのか。」
その書置きを見てホシノは微笑み…
「大丈夫、ネイトさん…。貴方だったら…。」
そう、空を見上げて呟く。
だが、一先ず…
「…うぅ~…お酒なんて飲むもんじゃないねぇ…。」
痛む頭を押さえ冷蔵庫へ向かうのであった。
意志あるところに道あり
―――第16代アメリカ合衆国大統領『エイブラハム・リンカーン』