Fallout archive   作:Rockjaw

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疑わずに最初の一段を登りなさい。階段のすべてが見えなくてもいい。とにかく最初の一歩を踏み出すのです。
―――牧師『マーティン・ルーサー・キング・ジュニア』


The Most Powerful to Attack

昨晩、本当に色々なことがあった。

 

父親として先輩の十六夜社長に諭された。

 

いまを生きる者としてホシノに説教された。

 

そして…夢の中でショーンと和解できた。

 

皆…自分よりも年若いというのに…ネイトを導いてくれた。

 

こんな駄目な自分にしっかりと向き合って言葉を投げかけてくれた。

 

そんな前に進む勇気をもらったネイトは現在…

 

「すまないな、ユウカ。突然アポ取ってヘリポート空けてもらって。」

 

「いえ、それはいいんですが…。」

 

一天号を駆りミレニアムにやってきていた。

 

ネイトらしからぬ突発的な行動に何かあったかとユウカも出張ってきたが…

 

「今日がミレニアムプライスの締め切りなんだろ?追い込みの手伝いだ。」

 

シンプルにそう返し、部室のある建物に向かい始める。

 

「…あぁ、そうだ。ユウカ。」

 

「はっはい?」

 

「土産だ。受け取れ。」

 

そう言いつつ、ネイトはユウカに向け分厚いティッシュ箱くらいのバッグを投げ渡した。

 

「わわッ!?なっなんですかこれ!?」

 

「『ステルスボーイ』、短い間だが使用者を『透明』にするインスタントの光学迷彩装置だ。」

 

「…え?」

 

まさか雑に手渡されたのがとんでもない代物に固まるユウカ。

 

「じゃあ土産も渡したし行かせてもらう。」

 

だというのにネイトは俗にいう『つまらないもの』でも渡したかのように事も無げに歩を進めていく。

 

「ちょ、ちょっと!?光学迷彩って何なんですか!?ネイト社ちょおおおおおおっ!!?」

 

その背後でユウカの悲鳴に似た絶叫が響き渡るのだった。

 

そんな彼女の対処は周りにいた生徒にぶん投げてネイトは…

 

「…すぅ~ふぅ~。」

 

深く一息つき…

 

「…ネイトだ。入ってもいいか?」

 

ゲーム開発部の部室のドアをノックしつつ尋ねると…

 

「あッネイトさんだ!」

 

中から元気な声が響いてドアが開き、

 

「いらっしゃいっ!入って入って!」

 

若干疲労の色がうかがえるがモモイが出迎えてくれた。

 

「お邪魔するよ、モモイ。」

 

ネイトが室内に入ると…

 

「ネイトさん、おはようございます。」

 

「来てくれたん、ですね…!」

 

「ミドリにユズ、どうやらいよいよ大詰めのようだな。」

 

ミドリとユズもお疲れ気味だが笑顔でネイトを迎え…

 

「ネイトさんっ!来てくれたんですねっ!」

 

唯一疲労が感じられないアリスがネイトに駆け寄り抱き着いてきた。

 

「あぁ…来たよ、アリス。」

 

そんなアリスをネイトも抱きしめ返した。

 

「えへへ…。」

 

アリスは満面の笑みを浮かべているが…

 

「あれ…?」

 

「ネイトさん…?」

 

「何か、ちがう…。」

 

モモイ達はネイトの変化を感じ取っていた。

 

あれだけぎこちなかったアリスとのコミュニケーションが…今はそんな様子が一切ない。

 

と、そこへ…

 

「戻ったよ、皆。はい軽しょ…。」

 

コンビニの袋を持った先生がやってきた。

 

「…よぉ先生。」

 

「ねっネイトさん…?!い、いらっしゃって…!」

 

そんな先生を見てネイトは口角を吊り上げ先生は逆に表情が青ざめた。

 

「…四人とも。少し先生を借りるぞ。」

 

「えっいやあの…!」

 

「ちょっと面貸せ…。じゃあ、ちょっと出てくる。すぐに戻るから。」

 

そして有無を言わさずに先生の首根っこを掴んで部屋を後にしようとする。

 

「たっ助けて、皆…!」

 

先生は必死に助けを乞うが…

 

『いってらっしゃい、先生っ!』

 

「そっそんなああああああ…!!!」

 

モモイ達は笑顔で見送り無情にも先生は引き摺られて行くのであった。

 

そのまま二人は人気の少ない場所まで行き、

 

「さぁて馬鹿弟子…何か言いたいことは?」

 

「あの…その…!」

 

地面に正座する先生の前に仁王立ちするネイト。

 

「確かにあの日、俺はお前に俺の来歴を話した。俺の精神的に参ってたってのもあるが口止めもしなかった。…だが言いふらしていいとも言った覚えもないんだが?」

 

そう、昨日の十六夜社長やホシノが自分の来歴を知っていた件。

 

あの話はキヴォトスに来てからは黒服にすら話した覚えがない。

 

とすると…情報の流出先は…

 

「も、申し訳ありませんでした…。」

 

そのまま深々と頭を下げる先生だが…

 

「…で、ですが…。」

 

「何か言い分でも?」

 

「…ですが、ネイトさんを何とかしたかったのは本当です。ですが私には力不足でその…ノノミのお父さんを頼りました…。」

 

「………。」

 

「決して…ネイトさんをどうこうしようとするつもりなんかなかったんです。ただ…少しでもネイトさんが心安らかになれるならと…。」

 

やましい思いは一切なく偏にネイトの心を心配しての行動だったと訴える。

 

そんな先生の想いを聞き…

 

「…はぁ、もういい。立ってくれ、先生。」

 

「は、はい…。」

 

呆れ交じりの言葉を発し先生を立たせ…

 

「…ありがとう、先生。」

 

「え…?」

 

「もう…俺は大丈夫だ。」

 

先生の胸にこぶしを当て短くそう伝えた。

 

その顔には…以前よりも晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

 

「じ、じゃあ…!」

 

「…だが、先生。俺からはもう言えない。あくまであの子の意志…それを尊重してやってくれ。この前からの態度は謝りはするが。」

 

「…分かりました。でも…本当によかったです。」

 

「それから…もう少し口は重くしてくれよ。」

 

「あ、アハハハ…善処します。」

 

「さて、戻るとしよう。俺も出来ることがあれば手伝わせてもらう。」

 

伝えたいことも伝えることができたので二人はそそくさと部室に戻る。

 

さて、戻った二人は…

 

「はい先生!ここのデバッグよろしく!」

 

「ネイトさんはプログラムのチェックをお願いします!」

 

「そ、それから、出来るなら、ネイトさんにはDLCの監修を…。」

 

いよいよ大詰めとなった『TSC2』制作の手伝いに入る。

 

「あ、モモイ!ここ壁抜けしちゃうよ!」

 

「えぇーッ!?早く直さなきゃ!」

 

先生もゲームはそこそこ好きな部類なので操作しつつ不具合を見つけてはすぐにモモイとミドリが修正し、

 

「ユズ、ここのプログラムが競合を起こしてるからこんな感じに…。」

 

「そ、そう言う回避方法が…!アリスちゃん、できる?」

 

「アリスにお任せください!」

 

エンジニアの経験がありプログラムにも一家言あるネイトはユズとアリスと共にプログラムの書き換え作業を行っていく。

 

そうこうしているうちにどんどんミレニアムプライスの参加締め切りの時間が迫り…

 

「お姉ちゃんッまだなの!?」

 

「そうガミガミしないでよ!まだ十分あるんだからチェックするくらいの余裕はあるって、ミドリ!」

 

「正確には9分25秒です。そう言ってる間に残り9分17秒…。」

 

「アリス、大丈夫だからモモイを急かさないであげてね?」

 

「…ユズ、こっちのチェックは終わったぞ。」

 

「ネイトさんのおかげ、でテストもしっかりできました…。…うん、エラーは出てない。モモイ、こっちもいいよ!」

 

残り10分を切ったところでなんとかTSC2が組みあがった。

 

「オッケー!ファイルをアップロードッ!完了まで予想時間は…15秒!」

 

「ほぉ…何とか間に合いそう…。」

 

アップロードも余裕で間に合うようで胸をなでおろす一同。

 

すると…

 

「そう言えば、ミドリ。」

 

「なんですか、ネイトさん?」

 

「俺が宣伝の動画を制作したほうのゲームのアップロードはやってるのか?」

 

ふと疑問に思ったネイトがミドリにそう尋ねた。

 

「大丈夫です。宣伝動画送ってもらった後にお姉ちゃんに頼んでます。ね、お姉ちゃん?」

 

そのあたりは抜かりないようでモモイにそう声をかけるミドリだが…

 

」………え?「

 

「モモイ、文字が裏返ってる!」

 

キョトンとした様子で言い表しようのない声を上げるモモイ。

 

「…まさか、忘れてたの…ッ!?」

 

」…ア、アハハハハハ…。「

 

『………。』

 

「残り5分47秒です。」

 

モモイの笑い声とアリスのタイムカウントが部屋の中に響いた。

 

そして…

 

『…急げえええええええ!!!』

 

」ごめん、皆ぁ!!!忙しくて忘れちゃって…!「

 

「いつまで文字がひっくり返ってるんだ、モモイ!?」

 

「あ痛っ!」

 

そちらも大急ぎでアップロードを始める。

 

「ファ、ファイルのアップロード完了までの予想時間30秒!アリス、あと何秒!?」

 

「残り36秒です…!」

 

「おっお願い…!」

 

「間に合えぇぇぇ…!」

 

「アビドスの努力も無駄にならないように…!」

 

TSC2よりも容量が大きいのかアップロードにも時間がかかりかなりギリギリだが…

 

「て、転送完了…!」

 

アップロードが終わると…

 

「二作品目のミレニアムプライスへの参加受付が完了しました。」

 

「間に合ったああぁぁあッ!!!」

 

まさに紙一重、こちらもアップロードが完了し申し込みに成功した。

 

「ぎっギリギリ…心臓が止まるかと思った…。」

 

「あとは三日後の結果発表を待つだけです!」

 

「もうお姉ちゃん!ちゃんとしてよ!!!」

 

「ごめん、本当にごめん、ミドリ!」

 

「まぁまぁミドリ…。でも、今回の件は教訓にしなくちゃね。」

 

「新たな人員に総合マネージャーでも探してみるか?」

 

最後の最後で大ピンチになったが何はともあれ尽くせる手はすべて尽くせた。

 

「…あとは…三日後の発表を待つだけ、だね。」

 

「だな。間に合ったが…まだ結果が出たわけじゃない。」

 

「三日後には…このままこの部屋にいられるか、そうじゃないかが決まる…!」

 

あとはミレニアムプライスの審査員がどう評価するかを待つだけだが…

 

「でも三日って長いじゃん?そこで提案なんだけど…。」

 

「どうするんだい、モモイ?」

 

「先にWeb版の『テイルズ・サガ・クロニクル2』と『アレ』をアップロードしてみるのはどう?」

 

ここでモモイがTSC2ともうひと作品の先行公開を提案する。

 

「え…ッ!?」

 

「ど、どうして?」

 

ユズは唖然としミドリはその理由を尋ねると、

 

「三日も待てないよ!それに審査員の評価より先にユーザーの反応を見たくない!?」

 

せっかちだがクリエイターらしい答えが返ってきた。

 

「うーん…でもちょっと怖いかも…。低評価コメントも心配だし…。」

 

ミドリがそう心配そうな表情を浮かべるが、

 

「なに言ってるのさ、ミドリ!そもそもどっちもミレニアムプライスに出品するためだけに作ったゲームじゃないでしょ!?」

 

モモイの情熱がこもった意見と…

 

「そうさ。皆が一生懸命に作ったんだ。胸を張って公開しようじゃないか。」

 

ネイトの賛成の意見もあり…

 

「…うん、アップしよう。」

 

「ユズちゃん?」

 

「作品っていうのは…見てくれる人や遊んでくれる人がいてこそ、完成されるものだと思うから。だから…わたしは…わたしたちのゲームを、きちんと完成させたい。」

 

「ユズ…。」

 

ユズも自分たちのゲームを色んな人に遊んでほしいという思いを吐露する。

 

そして、

 

「大丈夫。もし前みたいに、低評価のオンパレードになったとしても…悔いなく全力で頑張ったから。それに…皆が一緒だから、きっと受け止められるから…私はもう、大丈夫。」

 

モモイにミドリにアリスに先生にネイトという仲間にも恵まれ以前にはなかった勇気が彼女にはあった。

 

「それじゃあ今すぐアップロードー!」

 

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 

「なに、ミドリ!?部長命令に逆らうっていうの!?」

 

「そうじゃなくて心の準備が!」

 

言うが早いかモモイが即座にその二作品を公開。

 

「転送完了!プレイして感想がもらえるまで少なくとも2~3時間かかるだろうしあとはしばし休憩…じゃなくていかなきゃいけないとこがあるんだった!」

 

と、何かを思い出したように叫ぶモモイ。

 

「行かなきゃいけないとこって?」

 

「提出が終えたら来てって呼ばれてるの!ネイトさん、ごめんだけどちょっと留守番をおねがいできるかな?」

 

「それは構わないが…俺は行かなくて大丈夫か?」

 

「大丈夫!だからお留守番よろしくね!」

 

「分かった。」

 

そして、ネイトを残しゲーム開発部と先生はどこかへと出かけてしまった。

 

「…銃の手入れでもするか。」

 

手持無沙汰になったのでネイトは得物の銃とメンテナンス道具を取り出し整備を始める。

 

オイルを差し適度に拭い、ネジやばねなどの各種パーツに異常はないか細かく分解しメンテナンスしていく。

 

エナジーウェポンも電圧のチェックやレンズを磨いたりシステムに問題がないかを調べる。

 

ネイトの戦闘スタイルの関係上多数の武器があるので時間はかかるが…

 

「…よし。問題はないな。」

 

それでも慣れたものでモモイ達が戻って来るよりも早く全部の武器のメンテナンスが終わった。

 

すると…

 

「………。」

 

ネイトの『悪癖』が出てしまう。

 

少し前のメンテナンスの時同様…今度はデリバラーにマガジンを挿入し自らに向けた。

 

薬室には装填されていない。

 

引き金を引いても発射されないが吸い込まれるような銃口内の闇を覗くと…

 

「…~ッ!」

 

以前には感じなかった…『明確な恐怖』をネイトは感じた。

 

それは…敵に銃口を突き付けられたときのものと全く一緒の恐怖だった。

 

すぐにネイトはデリバラーをテーブルの上に置き…

 

「はぁー…はぁー…!」

 

自らを落ち着けるように深く呼吸をする。

 

「…そうか。これが…『生きたい』ってことか…。」

 

ネイトにはこの正体が分かった。

 

ネイトがネイト自身の行動に対して蘇った『生存本能』だ。

 

以前までは何とも思わなかった行為なのに…

 

「…ハハッ、そうか…。俺…少し『まとも』になれたってことか…。」

 

いや、これが普通なのだろう。

 

「…うん、もうこんなことは止めよう。」

 

誰に聞かせるでもない。

 

そんなネイトの静かな決意は誰もいない部室内に響くのであった。

―――――――――――――

 

――――――――

 

―――

「フゥゥゥゥ…!」

 

その後、ネイトは壁にサンドバッグを立てかけスパーリングなどのトレーニングをしながら時間を潰していた。

 

それにしてもかれこれ2時間少々たったがまだ先生やモモイ達は戻ってこない。

 

「シィッ!…ふぅ~さて次は…。」

 

スパーリングも一段落させ次のトレーニングに移ろうとしたその時、部室のドアが開きモモイ達の姿がそこにあった。

 

「おっモモイ達、おかえ…。」

 

ネイトが動きを止め出迎えようとしたが…

 

「「「「ーっ!!!」」」」

 

「ふぐぅッ!?」

 

モモイ達が一斉にネイトに向って飛び込んでくる。

 

小柄とはいえ四人に突っ込まれ倒れ込んでしまった。

 

「どッどうしたんだ、四人とも!?」

 

起き上がろうにもモモイ達に纏わりつかれ起き上がれず顔だけ挙げて尋ねるネイト。

 

「何でもない…!ただ…こうしたいだけだよ…!」

 

「ネイトさん…!もう…大丈夫ですからね…!」

 

「私たちは…絶対に離れませんから…!」

 

「だからもっと頼ってください、ネイトさん…!」

 

「???」

 

抱き着きながらそう言葉を発するモモイ達にネイトの頭の中に疑問符が飛び交う。

 

「…先生、一体俺抜きで何があったんだ?」

 

「その…まぁ、今はその子たちがやりたいようにやらせてみては?」

 

「…そっか。」

 

振り払うのは正直容易い。

 

だが、理由は分からないがこの子達は何やら自分を心配しこんな行動に及んでいる。

 

「大丈夫だ、皆。今の俺は…もう大丈夫だから。」

 

そんなモモイ達をあやしながらネイトはしばしそのままの状態で過ごすのであった。

 

数分後、

 

「さて…何があったかは俺からは聞かない。」

 

ようやく離れてくれたのでネイトと四人は向き合っている。

 

「き、急に飛びついたりしてごめんなさい…。」

 

「ネイトさんのこと押し倒してしまいましたし…。」

 

「合体攻撃は少しやりすぎでした…。」

 

「その、怪我とかは、していないですか?」

 

「キヴォトス人ほどじゃないが俺も結構頑丈だから気にするな。…ふ~む。」

 

時間的には先ほど公開したTSC2ともう一つのゲームのダウンロード数やレビューが出てくるはずだ。

 

だが、この様子だとモモイですらそんな気にはなれないだろう。

 

なので、個人的な事ながら…

 

「…アリス。」

 

「はい!」

 

「この前は君の申し出に中途半端な答えをしてしまってすまなかった。」

 

ネイトはアリスのあの願いに関する決着をつけることにする。

 

「アリスも急に変なことを言ってしまいごめんなさい。モモイ達からあの後、少し注意されました…。」

 

「いや、謝ることはない。むしろ…謝るのは俺の方だ。」

 

「え?」

 

「あの時の俺は…アリスにも自分にも『嘘』をついてたんだ。」

 

慎重に、丁寧に言葉を選びながらネイトは語り続ける。

 

「そのことを帰ってからいろいろな人に諭された。こんなどうしようもない俺のことを…いろんな人が導いてくれたんだ。」

 

「ネイトさんはどうしようもない人なんかじゃありません!『英雄』と呼ばれる人がそんなわけがありません!」

 

「『英雄』…か。アリスは…俺のことをそう呼んでくれるんだな。」

 

「はい!アリス、ネイトさんのことを調べたり聞いたりしました!モモイの言っていたことは全部本当でした!本当にRPGの主人公みたいでした!」

 

「…そうか。」

 

アリスはあんな素っ気ない態度をとっていたというのに目を輝かせながらそう言ってくれる。

 

だからこそ、

 

「…アリス、これからちゃんと俺の本心を言うから…聞いてくれるか?」

 

ネイトも不退転の覚悟をもって打ち明けようとする。

 

「…はい!なんだかアリス、とてもドキドキします!」

 

アリスも笑顔でそれを受け入れ…

 

「うぅっなんだか私までドキドキして心臓が爆発しそう!」

 

傍らにいたモモイも期待と緊張でテンションが上がった。

 

その時だ。

 

ドカアアァァアンッ!!!

 

『ッ!?』

 

「も、モモイ!?本当に心臓が爆発しちゃったんですか!?」

 

「ちっ違う!私の心臓じゃない!!!」

 

この部室がある建物全体が揺れるほどの爆音が発生した。

 

「一体何の…!?ゲーム機が爆発!?」

 

「え、長時間やりすぎたかな…?」

 

「違う!これって46㎜軽迫撃砲の砲撃…カリン先輩の奴だ!」

 

「か、カリンってことはC&Cが!?」

 

「全員伏せろ!また来るぞ!!!」

 

そうこうしているうちに…

 

ドカアアァァアンッ!!!

 

「ひゃああああ!!?」

 

今度はさらに部室に近い位置に着弾し部室が大きく揺れた。

 

「誰か砲撃地点は分かるか!?」

 

「はい!遠距離攻撃を確認!部室正面に対し11時の方角、距離は約1㎞!」

 

「でかした、アリス!」

 

「ネイトさん、何を!?」

 

アリスの観測を聞き、ネイトはレーザーマスケットを取り出す。

 

素早くクランクを6回回し…

 

「アリス、より正確な位置情報を!」

 

「はいっ!方角…11時24分!距離…973mに迫撃砲陣地を確認!」

 

「…捉えた。」

 

部室の窓から外を覗き見、装着された『長距離リコンスコープ』を使いカリンたちがいるC&Cの砲撃陣地を見つけ出し…

 

「シュー…。」

 

軽く息を吐き…レーザーを照射。

 

狙うは…用意されている予備の迫撃砲弾。

 

光速で放たれたレーザーは寸分違わず迫撃砲弾を貫き誘爆。

 

残りの予備砲弾や操作していたカリンに他のC&Cの生徒諸共吹き飛ばした。

 

「よし、迫撃砲陣地を無力化したぞ!」

 

爆音はこちらまで届きモモイ達もそれを察知する。

 

「いきなり何なの!?前回の仕返し!?」

 

「分からない!でも、これで終わりじゃなさそうだよ!外を見て!」

 

今度は廊下の窓から外を見ると…この部室棟に目掛けて大勢の生徒やロボットが殺到。

 

「生徒会の人達…!?『鏡』の件の報復…?!」

 

「ちょ、ちょっとそれは申し訳ないと思ったけど…!」

 

正直、心当たりはビンビンに思い当たるがここまでされるいわれはない。

 

「反撃を開始します!」

 

アリスも光の剣を構え応戦しようとするが、

 

「ううん、アリス!一旦出よう!ここだと先生を巻き込んじゃうし…このままここで戦ったら私たちの部室が壊れちゃう!」

 

モモイがそれを制する。

 

そう、いまやここには二度と手に入らない貴重なゲームの数々だけではない。

 

生徒会に反抗してまで守ろうとした思い出が詰まった場所なのだ。

 

みすみす壊させてなる物か。

 

「お姉ちゃん…!」

 

「よし、だったら打って出るぞ!モモイにユズ!俺と前衛に付け!」

 

「ミドリとアリスは私と一緒に三人のバックアップを!」

 

『うん(ハイ)ッ!』

 

ネイトも得物をコンバットライフルに持ち替え全員で部室棟の脱出を目指す。

 

一階に降りるとドアの前にはすでに多数のロボットが集まりつつあった。

 

「モモイッユズッ、出迎えだ!派手にブチかませ!!!」

 

「はいっレトロよ、永遠であれ!」

 

そこへユズが『にゃん's ダッシュ』の銃口にミサイルを押し込み発射、

 

「私の怒りの剛速球を食らえええ!!!」

 

モモイも野球ボールグレネードを投擲する。

 

それらはまとめて大爆発を起こし固まっていたロボットの多くは吹き飛ぶ。

 

敵の出鼻は挫いた。

 

「俺は早いぞ…!」

 

そこにネイトが突っ込みコンバットライフルをADS、レジェンダリー効果『デッドアイ』によってネイトの体感時間が引き延ばされ…瞬時に10体のロボットに.308口径弾が叩き込まれる。

 

「進路確保!行くぞ!」

 

「すっ凄い!ゲームのコンボアクションみたいだった!」

 

「アリスもレベルが上がればあんな動きができるのでしょうか!?」

 

人並外れた動きで瞬く間にロボットを撃破したネイトに大興奮のモモイとアリス。

 

それでも脚は止まらない。

 

「ミドリ、この辺りで頑丈で追手を撒けそうな建物はある!?」

 

「少し離れたところに今は使われてない旧校舎があります!私が案内を!」

 

一先ず目指す場所は決まった。

 

だが、そう容易く向かわせてくれるわけもない。

 

「ぜ、前方からまたロボットが!」

 

「後ろからも!?」

 

こちらの目論見は分かっているのか挟み込むようにロボットは展開される。

 

それに対し、

 

「ネイトさんとモモイは前方の制圧を!アリス、後方にスーパーノヴァで砲撃!」

 

先生が素早く指示を飛ばし、

 

「どこまでも私達を邪魔しようって言うんだね!!!ううーっ許せなーい!」

 

「死神の目の大きさを知ってるか!?今からお前らに刻んでやるよ!!!」

 

「ターゲット確認!出力臨界点突破!」

 

モモイの焼夷徹甲弾の掃射、ネイトのデッドアイによる高速精密射撃、アリスのフルチャージの光の剣:スーパーノヴァの砲撃がロボット達に襲い掛かる。

 

目の届く範囲では不利と判断したか今度は…

 

「ッ!遠距離に射撃型ドローン!」

 

行く先にライフル装着型の飛行ドローンが飛来。

 

「モモイ、この辺に壊れて困るような電子機器は!?」

 

「ないッ!というか、そんなの気にしてる余裕はないよ!」

 

「確かに!ミドリは支援射撃!ユズ、パルスグレネード弾を!」

 

今度はネイトがレーザーマスケットに持ち替えながら指示を飛ばし、

 

「ドットを打つように緻密に…!」

 

ミドリの精密な連続射撃が次々に飛行ドローンを撃ち抜き、

 

「行きます…!」

 

ユズはパルスグレネード弾を発射する。

 

パルスグレネード弾はドローンの編隊の中心辺りに飛翔、

 

「雷雲に突っ込んだことはあるか…?」

 

その弾頭をネイトがV.A.T.S.クリティカルで撃ち抜く。

 

これによりPerk『Demolition Expert』による範囲・威力倍加の効果が付与されドローン編隊を一網打尽にした。

 

「よし、前進するぞ!」

 

「これでカンバンならいいんですけどね…!」

 

「フラグ立てないでよ、先生!」

 

そうこうしているうちに…

 

「見えた、あそこです!」

 

目的地のミレニアム旧校舎に到着。

 

長く放置されているようでエントランスのドアガラスは割れており進入は容易であった。

 

「はぁ…はぁ…なっ何とか逃げ切れたみたい…?」

 

「こ、これからどうする…?」

 

少々奥まったところまで逃げ込みようやく一息つくことができた。

 

だが、このままではまたC&Cやセミナーからの襲撃を受けかねない。

 

「もうミレニアムプライスへの出品は終わってるんだし…とりあえず結果が出るまでこのまま逃げ続けよう!」

 

「よし、じゃあアビドスにこい。四人くらいなら匿えるさ。」

 

そこでミレニアムを飛び出しアビドスに逃げ込むことを提案。

 

あそこならばアビドス高校とW.G.T.C.の総戦力でC&Cを迎え撃てる。

 

なおかつ、他学区なのでC&Cも大っぴらに暴れることはできないだろう。

 

「お、高飛びってこと!?そう言うの一度やってみたかったんだぁ!」

 

「じゃあこの後はベルチバードが停まってるヘリポートまで…。」

 

すぐさま行動に移ろうとする一行。

 

…だが、

 

「逃げ切れるとでも思ったか?」

 

『~ッ!?』

 

校舎内にネイトを除く全員が総毛立つ『あの声』が響き、次の瞬間にはサブマシンガンの銃声が響く。

 

いくつもの弾丸が襲ったのは…

 

「グゥッ!?」

 

「ネッネイトさん!!?」

 

ネイトだった。

 

「ツウ…!」

 

「ネイトさん!?ネイトさんっしっかりしてください!!!」

 

「そんなッ!!!いや、いやああああああ!!!」

 

着弾地点を抑え蹲るネイトに駆け寄る面々。

 

ネイトは自分達とは違う。

 

弾丸一発でも下手をすれば…。

 

必死にネイトに呼び掛けると…

 

「大丈夫だ、アリスに皆…!」

 

苦しそうな声を上げながらもネイトは立ち上がる。

 

見ると複数発の弾丸は『シルバー・シュラウドの衣装』のコートの表面で止まっている。

 

そして…

 

「…なるほどな。道理でヘイローもないくせに前線を張れるわけだ。」

 

ガラの悪そうな声とともに…彼女が姿を現した。

 

「それに動きも判断も抜群と来た。さっきこのチビ達を指揮したのもミレニアムの差押品保管所を襲撃したのも…アンタ等だったか。」

 

「…美甘ネル、か。」

 

「知っててくれて手間が省けたぜ。先生と…『アビドス解放の英雄』さんよ。」

 

C&Cのリーダーにしてミレニアム最強のエージェント…『美甘ネル』だ。

 

「…どういう用件だい?リベンジ?」

 

ネイトに変わり先生がそう尋ねた。

 

「はっ!そんなくだらない理由で来るわけ…。」

 

ネルはそんな先生の推測を一笑に付し答えようとした…その時、

 

「ターゲット確認…!出力臨界点突破…!」

 

「なッ!?」

 

「チッいきなりかよ!?」

 

今まで感じたこともないほどの…『怒り』を溢れさせ…

 

「光よオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

アリスがネルに向けフルチャージの砲撃を放った。

 

ドカアアアアアァァアンッ!!!

 

砲撃はそのまま飛翔し旧校舎の壁に巨大な風穴を穿った。

 

「わぉ!?」

 

「クッ!」

 

「なんという威力…!校舎の壁をこうも簡単に消し飛ばすほどの…!」

 

それを見ていたアスナたちC&Cのメンバーも背筋が凍る。

 

「す、凄い…!」

 

「こんな威力見たことない…!」

 

モモイ達もこれには唖然としている。

 

「はぁー…!はぁー…!」

 

息を荒くしつつ巻き起こった土煙を睨みつけるアリス。

 

「あっアリス、どうして…!?」

 

あまりにも容赦のない一撃に先生も思わずアリスを問いただすも…

 

「…あとにしろ、先生。」

 

「え…?」

 

「まだ…終わってない。」

 

土煙から一切視線をそらさないネイトに制止される。

 

それに呼応するかのように…

 

「確かに…並大抵の火力じゃねぇが…ただそれだけだな。」

 

『ッ!!?』

 

土煙の中から無傷のネルが歩み出てきた。

 

「い、今のを…避けた…!?」

 

「クッ!再度魔力をチャージして…!」

 

驚愕するユズをしり目にアリスは追撃を加えようとするも…スーパーノヴァから警報音が鳴り響く。

 

「ッ!マナが…!」

 

「ハハッ、電池切れってわけか。」

 

「だったら肉弾戦闘で…!」

 

なおも怒りに染まった表情でネルに突撃しようとするアリス。

 

だが、

 

「待て、アリス。」

 

「ッね、ネイトさん…?!」

 

「落ち着け、周りが見えてなければ…アイツには勝てないぞ。」

 

冷静な声でネイトが彼女を落ち着かせる。

 

「…はい。」

 

アリスも頭に上った血が引いたのか冷静さを取り戻した。

 

「へぇ~随分懐かれてるじゃねぇか。」

 

「どうも。」

 

「だがまぁ、ありがとうよ。いきなりおっぱじめるのも嫌いじゃねぇが少し話がしてぇとこだったんだ。…まずはそこのデコ出してるあんた。」

 

「ひっ!」

 

空気が少し落ち着いたところでネルがユズを睨みつけ…

 

「あの時はよくもあたしをだましてくれたな…?」

 

「すっすみません!」

 

まずは先日の差押品保管所での出来事を挙げ…

 

「しかもよぉ、思い出したぜ。お前ら、あの時そこの奴が乗ってきたのと同じヘリに乗り込んでたチビ達じゃねぇか。」

 

「まずい…覚えられてた…!」

 

「あんときは痛かったぜぇ?豆鉄砲とはいえミニガンぶっ放すわ、痺れて地面にたたきつけられるわで。」

 

「やッばい…!」

 

以前の廃墟区画へ向かう際の一悶着を言い放つネル。

 

完全にキレていると怯えるモモイ達だが…

 

「…やるじゃねぇか、褒めてやるぜ。」

 

「「「…え?」」」

 

不敵に笑いながら称賛するではないか。

 

「怯えたふりしてブルブル震えながらアタシを騙すなんてな。大した演技力だ。」

 

((((それ絶対に演技じゃない…。))))

 

「そして、即席のメンバーでアタシに手も足も出させないたぁ…あんな経験はいままで無かったぜ。」

 

曲がりなりにもミレニアム最強を手玉にとったのだ。

 

この事実は快挙ともいえる。

 

「まぁそれはいいとして…おい、『アビドス解放の英雄』。」

 

「…何だ?」

 

「テメェも随分うちのモンを可愛がってくれたようだな?」

 

続いてネルが睨みつけたのは…ネイトだった。

 

「…さぁ?何のことやら?」

 

「とぼけやがって…ネタは上がってんだよ。」

 

知らないふりをするネイトにネルはいくつかのある物を見せつける。

 

それは…溶けた弾丸・プラスチック片、黒焦げの何かだ。

 

「カリンの銃に詰まった弾丸、分析したらよぉ…撃たれる寸前で一瞬のうちにドロドロに溶けてなきゃ説明つかねぇってさ。」

 

「………。」

 

「それにアスナの近くに落ちてたこのプラスチック片。コイツぁアーチェリーとかで使われる矢羽根っていう話だ。」

 

「………。」

 

「そしてこの黒焦げのブツ。牛の革ってことだぜ?なんでこんなのがアカネのバッグの中から出てくるんだ?」

 

「………。」

 

「それでよぉ、最近ミレニアム内でこれぜぇんぶに当てはまるモンを持ってる奴がいるってことらしい。」

 

ネルが掲げているそれらすべて…ネイトが仕掛けたものだ。

 

矢は回収していたが…微細な破片を見落としていたらしい。

 

だが、

 

「…だから?それが俺に何の関係がある?」

 

「あん?」

 

「俺があの場にいないことはそこの三人も証明してくれるはずだ。」

 

それらの証拠を見せられてなおネイトはケロッとした様子ですっとぼけて見せた。

 

「…チッ、ピクリともしねぇ。」

 

ネルはつまらなさそうに呟き、

 

「あぁ、そうだよ。これはあくまでただの推測。これがあったからってアンタの関係を裏付ける確固たる証拠がねぇ。」

 

あっさりこれ以上ネイトを追及できないと諦める。

 

「だが、誤解してるかもしれねぇから一応言っとく。」

 

「なんだ?」

 

「別にアンタが関わっていようが関係ねぇし関わっててもC&Cに一発食らわせた分の復讐って話じゃねぇ。」

 

「ほぉ?」

 

「あちこち怪しい部分はあったが…こっちとしては正当な依頼の中での出来事だった。そっちはそっちであたしらを相手に目標を達成しただけだ。」

 

さらにあの戦いに関しての恨み言は一切ないというではないか。

 

だとすると…疑問も生まれる。

 

「だったらあの大捕物は何だ?たった6人に迫撃砲部隊まで持ち出すのはやりすぎだろ?」

 

ならばなぜネイトたちにあんな大部隊を差し向けたのか。

 

正直言って、自分たちを相手取るならC&Cのナンバー持ちが襲い掛かってくれば済む話なのに。

 

あまりにも大げさすぎる。

 

それに対し、

 

「まぁな。別にそこに恨みはねぇが…俄然興味が湧いて来てな。」

 

「興味…?」

 

「確認って言った方がいいかもしれねぇが…さぁ、テメェら全員…相手をしてもらおうか。」

 

まるで牙をむき出しにした猛獣のごとき凶暴な笑顔を浮かべネルは得物である二挺のMPX『ツイン・ドラゴン』を構える。

 

「うわぁ…ヤバい…!」

 

「ネ、ネル先輩と戦うことになるなんて…!」

 

「に、逃げられない…よね…!」

 

「マナが…!マナがあれば…!」

 

相手はミレニアム最強、モモイ達の表情から血の気が引く。

 

「だ、大丈夫…!私がついてるから…!」

 

先生もネルが放つ空気に飲まれそうになりながらも鼓舞するようにそう言い放った。

 

その時、

 

「…ハイっ!」

 

『え?』

 

「あぁん、なんだ?」

 

ネイトが勢いよく挙手し…

 

「作戦タアアアアアイムっ!」

 

『あらぁッ!!!?』

 

まさかの申し出にモモイ達はずっこけた。

 

「…クッ!アハハハハッ!いいぜ、アンタ気に入ったよ!」

 

これにはネルも腹を抱えて笑い出し…

 

「よぉし、認めてやる!」

 

そんなネイトの度胸に免じ作戦タイムを許可したのだった。

 

「よし、みんな集まれ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってネイトさん!」

 

「展開に付いて行けないんですけど、師匠!?」

 

「いいから、最強様が下さったお慈悲だ。無駄にはできない。」

 

そんなこんなでその場にしゃがみ込み…

 

「「「「「「ゴニョゴニョゴニョ・・・。」」」」」」

 

作戦会議が始まった。

 

しばし続き…全員が立ち上がった。

 

「終わったか?」

 

「あぁ、ばっちりだ。」

 

「そうかい。じゃあ…!」

 

気を取り直しいよいよ開戦の火蓋が切って落とされようとした。

 

その時、

 

「光よ!エナジーオーバーロード…リリース!!!」

 

アリスが光の剣を構え再び砲撃しようとする。

 

「ハンッ電池切れで何ができるってんだ!?」

 

ネルは鼻で笑いながら飛び掛かる。

 

だが…次の瞬間には光の剣から小規模な砲撃が放たれる。

 

狙いはネルではなく…彼我の間の天井。

 

いかにエネルギー不足の一撃とはいえ天井を破壊するには十分だったようで瓦礫と共に粉塵が舞い上がって視界を奪った。

 

「目くらましのつもりか!?」

 

怯むことなくネルはなおも突撃する。

 

だが…次の瞬間、

 

「―ッ!」

 

「なッ!?」

 

ネルの目の前にネイトが突如出現、

 

「シィッ!!!」

 

「ごッ!!?」

 

彼女の顔面にネイトの鉄拳が突き刺さった。

 

非常に小柄な体格と相対速度にネイトの重い一撃も相まってネルの体は弾き飛ばされる。

 

「グゥッ!」

 

「まぁ…この程度じゃ倒れないか…。」

 

それでもネルは素早く空中で体勢を立て直し着地する。

 

「て、テメェ…!」

 

「なんだ?お前だって不意打ちしただろ?」

 

小柄な女子高生に容赦なく鉄拳を食らわせる成人男性。

 

絵面的には最悪もいいところだが…ネルの懸念はそこではない。

 

「…おい、チビ共と先生は?」

 

先ほどまでいたはずのモモイ達が忽然と姿を消していた。

 

「さぁ?」

 

当然、ネイトが答えるわけがない

 

つまり…この状況は…

 

「へぇ…アンタがアタシの相手になってくれるのかい?」

 

ミレニアム最強相手に…

 

「売られた喧嘩は…相手が破産するまで買う主義なんでな。」

 

ヘイローを持たない人間一人で挑むということだ。

 

「ハハッ、上等!」

 

ネルは凶相を浮かべ笑う。

 

今までこんな奴はいたか?

 

自分相手に逃げも隠れも怯えもせず、それどころか銃も構えずに挑んでくる奴はいたか?

 

否、全くもっての否だ。

 

「最ッ高だぜ!!!アンタとはいつか闘り合いたいと思ってたんだ!!!」

 

ネルは嗤う。

 

「見せてみろよ!!!あのカイザーを叩き潰したその力を!!!」

 

ネルは昂る。

 

「アタシをいいようにしやがったアビドスの連中を育て上げたその力を!!!」

 

ネルは猛る。

 

「そう言やぁ名乗りがまだだったなあッ!!!」

 

ネルは叫ぶ。

 

「C&Cリーダーッ!!!『コールサインダブルオー』美甘ネル!!!掃除を始める!!!」

 

そして…

 

「だったら俺も名乗らせてもらおう。」

 

ネイトも目を閉じ黙想する

―――――――

もう大丈夫か?

あぁ、もう大丈夫だ。

そうか。

それに…決めたんだ。

何を?

俺は…英雄なんかじゃない。

………。

でも…こんな俺を『英雄』と信じてくれる子たちが沢山いる。

そうだな。

だから…

だから?

俺はその子たちの前だけでも…『英雄』であろうと思う。

…分かった。おかえり、『俺』。

あぁ…ただいま、『俺』。

じゃあ、やるとしようか…!

あぁ、やろう…!

俺達で…!

俺達の力で…!

『『ミレニアム最強をぶっ倒そう!!!』』

 

―――――――

「ふぅ~…。」

 

ネイトは軽く息を吐き…構えをとる。

 

手は開き膝を曲げ全身を脱力している。

 

そして…名乗りを上げる。

 

「『アビドス解放の英雄』…コードネーム『ワンダラー』…ネイト。来い、ミレニアム最強。」

 

次の瞬間、

 

「行くぜっ!!!」

 

「応っ!!!」

 

二人の最強が激突した。




君の魂の中にある英雄を放棄してはならぬ。
―――思想家『フリードリヒ・ニーチェ』
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