―――プロボクサー『モハメド・アリ』
「行くぜっ!!!」
C&Cリーダーコールサイン『ダブルオー』美甘ネル、
「応ッ!!!」
二つの世界において『英雄』と称されその名を背負う覚悟を持ったネイト。
性別も年齢も…そして世界の垣根すらも越えた『最強』同士が今激突する。
(さぁどうする!?何を出してきやがる!?)
『ツイン・ドラゴン』を構え飛び掛かりながらネルは脳内で様々な想定をする。
初撃こそ肉弾戦だったもののネイトの得物は実に多彩。
実弾、レーザー、プラズマ、ガウスライフル…ミレニアムに在籍する自分すら見たこともないような武器の数々。
ネイトはそれらの武器の性能に振り回されることなく十全に使っている。
そのことはライブ配信で目の当たりにし何度もシミュレーションを重ねてきた。
その結果…
(何が来ようが関係ねぇ!!!一発くらいくれてやるよ!!!)
何が来ようと自分は耐えきれる。
耐えて返す刀で仕留める、それが彼女の考案した作戦だ。
(来やがれ、どんな攻撃だろうが耐えて…!)
覚悟を持って突撃するネル。
だが…彼女を待っていたのは…
「シィッ!!!」
「ゴアッ!?」
左脇腹に叩きこまれたV.A.T.S.により瞬間移動を伴った右ハイキックだ。
「このッ!」
痛みに顔を歪ませながらもネルは右手の銃をネイトに向けようと振るう。
だが、
「シュッ!」
「なぁッ!?」
ネイトは左腕をその軌道上に置き向けられようとしていた銃を制する。
さらに、
「ヒュオッ!!!」
「ギィッ!!?」
息吹と共に一瞬のうちに右拳で回転運動を行いネルのハイキックを叩きこんだ左わき腹、左脇下、左こめかみに三連撃を叩きこむ。
無防備な場所に叩きこまれた拳の痛みに顔を上げるネルに…
「シィアッ!!!」
「あがガガガガッ!!?」
今度は両拳による連打が襲い掛かる。
その速度はすさまじく一発来たと思うよりも早く次の一撃が叩き込まれる。
反撃しようにも…
(こ、コイツッ詰めながら打ち込んできやがる!!!)
ネイトは常に前進、ネルはそのまま後退するしかなく体勢が崩れたままで反撃に移れない。
「リーダー!?」
「そんなッ!?」
「リーダーが…押し込まれてる…!?」
近くで見ていたアスナたちは驚愕するしかない。
接近戦においてネルは無類の強さを誇る。
そのネルが一方的に、それも銃を持たない相手に押し込まれている。
だが…
「こんっ畜生がぁッ!!!」
相手はミレニアム最強、そんなに甘くはない。
ほんのわずかな攻撃の隙間を縫い撃つのではなくネイトに銃その物を叩きつけるために右手を振るう。
「ッ!」
本来なら大したことは無かろうが…相手はキヴォトス人。
喰らわないことに越したことはないのでネイトは間合いを取るためにバックステップ。
「ふぅー…。」
そこで仕切り直しとなりネイトは再び最初のように構え直し
「ゲホッ…あぁ痛ってぇー…!」
体中が痛いネルはそう悪態着き、
「テメェ…なんだ、今のは…!?」
睨みつけながら問いかける。
長年、C&Cとして様々な鉄火場を潜り抜けてきたネル。
その中には銃を持たない、バットなどの凶器を持ったチンピラも多くいた。
かくいう、自分の戦闘スタイルも俗にいう『喧嘩殺法』の類。
お行儀のいい訓練は最低限しかやっておらず技術体系もめちゃくちゃな自覚はある。
だが、ネイトのそれはそんな不良や自分の喧嘩殺法とは物が違う。
きちんと理論に基づいた技術と長年積み重ねられた訓練…いや『鍛錬』の賜物だと身をもって思い知らされた。
こんな戦い方は見たことがない。
その答えとして…
「俺は元『軍人』だ。近接格闘術はみっちり仕込まれてるさ。」
端的にネイトは答える。
『アメリカ陸軍格闘術』、アメリカ陸軍が考案した格闘術だ。
組技はブラジリアン柔術をベースにレスリングに柔道、打撃技はムエタイにボクシングなど様々な格闘技の要素を組み合わせ生み出された。
飛び級扱いで長年前線に駆り出されていたネイトも学校時代にみっちり仕込まれている。
だが…
「ハンッ!それだけじゃねぇ…!アンタの技は…もっと丁寧に仕込まれたものだ…!」
ネルは感じ取っていた。
ネイトの今までの技は…すべて人体の構造に裏付けされたものばかり。
ハイキックも的確に肋骨を避けた場所に叩きこまれ、腕を抑えた際も最小限の力で自分は動きを止められた。
それこそ…何度も何度も検証と実戦を繰り返し会得したとしか思えない。
「ほぉ…やるな。」
感心したような声を漏らすネイト。
初見でここまで見抜かれたことは…戦前世界でもなかった。
「『詠春拳』、もともと俺の国にはない異国の武術だ。」
「えいしゅんけん…?」
『詠春拳』、中国は南部の広東省を中心に伝承された中国武術で中でもネイトが会得しているのは『葉問派詠春拳』と呼ばれるスタイル。
現実でも世界中で様々な格闘技に影響を齎している有名な武術だ。
特徴としては『無駄なことをしない』、つまり『実戦性・合理性の追求』というものがある。
その技は故に素早く、故に的確、故に攻防一体となりうる。
中国武術には珍しい『鍛錬の論理化』、つまりマニュアル化されている点もこの特徴を表している。
しかし、ここで疑問に思われるだろう。
ネイトがいた世界のアメリカは中国とは犬猿の仲であった。
そんな生粋のアメリカ人であるネイトがなぜ中国武術を会得しているのか?
「5歳の時に親父に老師の所に連れてかれて軍に入るまでみっちり12年間鍛えこまれたのさ。」
答えはネイトの故郷にある。
マサチューセッツ州ボストン、そこには全米でも上位の規模を誇る『チャイナタウン』があった。
元から土壌として中国文化には近かったのだが…さらにそこに加わる要素がネイトの父親だ。
代々軍人の家系であるのでネイトの父親も軍人だった。
そんな折、今でもそうだが非常に小柄だったネイトのことを案じ格闘技を習わせることに。
だが、体格が物を言う『近代格闘技』ではなく技術を用い相手を制し精神鍛錬も行える『武術』をネイトの父は選択。
軍隊時代の伝手を用い、チャイナタウンの奥にひっそりと居を構えた華人の老師の元に預けられた。
当時のネイトは分からなかったが『葉問派詠春拳』の開祖である『葉門』直下の門下生の孫弟子にあたる人物だったらしい。
その老師に鍛えられ、軍隊に入隊してからは軍隊格闘術の要素だけではなく…
「軍隊でも捕虜収容所の他流派の武術家とも組手をしたりしてたな。」
戦争中は本場中国からやってきた数多の武術家とも手合わせを行い研鑽に研鑽を重ねてきた。
「道理でどれもこれもめちゃくちゃ痛ぇ訳だ…。いったいどんだけ続けてんだか…。」
「…80…。」
「は…?」
「いや、まぁかなり長いキャリアはあるぞ。」
「…そうか。」
いま明らかにネイトの見掛けからは不釣り合いな数字が聞こえたが聞き間違いだろうとネルは納得し…
「へッだがよ、正直なところ物足りねぇな…。」
不敵に笑いながらも何やら不満があるようだ。
「物足りない?」
「アンタと言えば…『アレ』だろ?」
「だから、何がだ?」
「…パワーアーマー、持ってんだろ?」
開戦前に叫んでいたように…ネルはこの時を心待ちにしていた。
カイザーを叩きのめし情報によるとゲヘナの風紀委員長すらも圧倒したネイト。
その象徴ともいうべきものが『パワーアーマー』だ。
「出せよ、着込むだけの時間はくれて…。」
ミレニアム最強として…それと戦い打ち破りたい。
そんな期待と闘争心が入り混じったネルだが…
「…フンっ。」
「あん?なにがおかしい…。」
ネイトは鼻で笑い、
「いや?今のところ『生身』の俺でも一方的に殴られてるお前がパワーアーマーを求めるのはおかしな話だなと。」
そんな彼女を『挑発』するように言い放つ。
「…あ゛?」
思わずドスの効いた声を上げるネルだが…
「それとも何か?俺と戦って『負けた』時の…『言い訳』でも欲しいのか?」
お構いなしにネイトは…ネルの精神を逆撫でる。
次の瞬間…ネルの中で何かが音を立ててちぎれ飛んだ。
「あぁッ!!?舐めんなよッ、ぶっ殺すぞッ!!!」
言うが早いかネルは『ツイン・ドラゴン』を両方とも構えネイトに発射。
「ぶっ殺す、か。」
対するネイト、素早く腕で顔面をガードしつつ…
「もう聞き飽きてるんだよ!!!」
ネルの放つ弾丸の雨に向け突撃、
ネルの怒りが込められた弾丸は多数ネイトに着弾。
「ッ…!!!」
いかにバリスティックウィーブで強化された『シルバー・シュラウドの衣装』とはいえかなりの痛みがネイトを襲うが…
「ぬりやぁッ!!!」
「んがぁッ!?」
そんなことお構いなしにネルに肉薄し前蹴りを叩きこむ。
全体重が乗ったそれにネルも苦悶の表情を浮かべるが彼女も黙ってられない。
「うらぁッ!」
「ッ!」
脚を引っ込めるより早くツイン・ドラゴンをつなぐ鎖を巻き付け捉える。
「はっ捕まえ…!」
「しゅぅッ!!!」
「づぁっ!?」
だがネイトはその捉えられた足を軸に身体を翻し今度は左足でネルの顔面にケリを叩き込む。
のけ反ったところで拘束が緩み足を引き抜き体勢を立て直す。
「ヒュっ!!!」
「こん畜生がっ!!!」
再びの白兵戦。
「シィッ!」
ネイトが拳を放てば、
「ちぃッ!!!」
ネルが片方のツイン・ドラゴンでガード。
お返しと言わんばかりにもう片方のツイン・ドラゴンを構えようとすると、
「フンっ!」
「こいつッ!?」
ネイトが肘部で銃本体を抑え銃口を捉えさせず銃弾は空を切り、
「ヒュオッ!」
「がっ!?」
抑えていた肘をそのままネルに振り下ろす。
「こぉんのッ!!!」
次にネルはガードをしていたツイン・ドラゴンを操り引き金を引く。
「ツウ…!」
弾丸の一発がネイトの肩を掠めるが、
「らぁッ!!!」
「ゴハッ!?」
右拳をネルの鳩尾に叩きこむ。
打ち、蹴り、防ぎ、躱し、撃ち、空かし、踏み込み、後退する。
目にも止まらない徒手と銃弾の応酬。
互いに決め手を欠くなかであってそれでもなお…ネイトがネルを押し込んでいる。
「な、何ですか…あの方は…!?」
「キレたリーダーと互角で…!?」
「すっごーい!何あれ何あれ!?」
またしてもネルと、しかも切れた状態の彼女と近接戦で渡り合うネイト。
一度目は不意打ちというアドバンテージがあったが今度の話が違う。
怒り狂うネルの連撃を意に介さず肉薄し再びネルに自身は徒手による近接戦を挑み押し込んでいるネイト。
アカネとカリンは信じられないものを見るような目で見つめ、アスナだけはまるで大道芸でも見ているかのように大興奮だ。
「くそがぁッ!!!」
今度はネルがネイトに目掛け前蹴りを仕掛ける。
「ッ!」
ネイトは最小限の動きでこれを回避、
「フン!」
「がはッ!?」
残った軸足を払いネルの体勢を崩し地面に倒れたところに、
「―――ーッ!!!」
「あガガガガッ!!?」
腕をまるでチェンソーの刃のように回転させネルの顔面に連打を浴びせる。
この高速連打こそ詠春拳の特徴ともいえる技の一つ。
連打によって相手に攻め込む隙を与えさせない。
つまり『攻撃は最大の防御』を地で行く技なのだ。
これを実現するためにはかなりのパンチの連打速度がいるがネイトの最高速度は…1秒につき7発。
長時間とはいかないがまさにマシンガンのごとき連射速度でパンチが襲ってくる。
しかも、ネルは異常を感じ取っていた。
(どうしてだッ!?弾食らうよりどうして痛てぇんだよ!?)
戦いが始まって以来、ネイトの一撃はどれもこれもネルにダメージを刻んでいる。
弾丸が命中するなど今まで幾度もあった。
確かに痛いがその程度ではネルに明確なダメージは与えられない。
だが、ネイトの肉弾攻撃はどうだ?
威力はライフル弾などの方が高いはずなのに…どれもこれも確実にネルに明確なダメージを刻んでいく。
一方、目に見えてダメージを刻み込めている様子を見てネイトは…
(やはり仮説は正しかったか…!)
自分の考えが間違いではないことを確信していた。
キヴォトスに来てあと数ヶ月で1年が経とうとしている中でネイトは幾多者キヴォトス人との戦いを繰り広げてきた
戦歴の中では『空崎ヒナ』や『狐坂ワカモ』というある種『極まった』相手もいた。
そんな彼女たち相手の共通点として…並外れたタフネスが挙げられる。
ヒナに至っては生半可な弾丸は受け付けず戦車を容易に貫くガウスライフルでもってようやく防御を貫き目に見えてダメージを与えることができた。
ワカモもミニガンによる炸裂弾やミサイルの雨を受けても立ち上がって見せた。
だが、この二人には共通点があった。
それは…
(格闘と近接武器に関しては対弾丸ほどの耐久力は適用されない!!!)
銃や爆発物以外の攻撃は弾丸よりも効率的にダメージを与えられたということだ。
ヒナはロケットハンマーの攻撃を受け左腕複雑骨折。
ワカモに至っては頭突きで額に裂傷を与えX-02の前蹴りでダウンを奪った。
これらを基にネイトは銃弾以外の攻撃に関してはキヴォトス人の防御はかなり下がると想定。
あとはその実証を待つのみだったが…
(まさか相手がミレニアム最強になるとはな…!)
連邦時代から今までつくづく自分のこういう運の元生きることになっているのだろう。
そう、相手はミレニアム最強だ。
これで勝てるなら…苦労はない。
「いい加減にぃッ!!!」
「ッ!?」
「しやがれぇ!!!」
ネルが苦し紛れに放った一撃だった。
乱雑に振るわれた腕がネイトの脇腹に入る。
腰も入っていない普段ならなんともないような一撃だが…
「ぐぅッ!!?」
その一撃はあまりにも『重く』体の芯にまで届いた。
少しでも衝撃を逃そうとそのままネイトは横に転がる。
すぐに起き上がり構えるも当たった箇所が相当痛い。
(あぁックッソ…!フェラル並みかよ…!)
あの一撃の重さには覚えがある。
連邦で最も多く身近な脅威だった『フェラルグール』。
放射線に侵され理性とリミッターを失ったやつらの一撃、それをネイトは想起した。
マウントポジションをとられ雑に振るわれたのでこれだ。
まともに食らえば…
(スーパーミュータント級…は覚悟しなきゃか。)
絶対に食らえない。
今は何とか押し込めているがいずれクリーンヒットを食らうやもしれない。
ならば…
(悪いな、美甘ネル…。『ズル』をさせてもらうぞ。)
ネイトはコートの表面を撫で…それらを手に取る。
「このッ蛸殴りにしやがって!」
ようやく拳の乱打から解放されたネルは勢いよく立ち上がり、
「今度はこっちの番だっ!!!」
間合いを確保できたことにより再びツイン・ドラゴンを構え、
「おらおらおらおらぁッ!!」
再びネイトに向け乱射。
その寸前、ネイトがネルの頭上あたりに向け…それを投げ上げた。
瞬間、ネルの視界からネイトが消え…
「シィッ!!!」
「グヌァっ!?」
ネルの頭上に現れ踵落としを叩きこむ。
「こんのぉ!」
すぐにネルが顔を上げ前を向くと、
「ヒュっ!」
「ゴアッ!?」
ネイトの姿はそこにはなくネルの左サイドから顔面に右ストレートを打ち込む。
「なっ何が…!?」
ネルの理解が追い付くよりも早く、
「―――――っ!!!」
「グアアアアアッ!?」
今度は右に、背後に、正面に、上にと瞬く間にネイトは動き回りネルに技を打ち込む。
(な、なんだコイツ!?一体『何人』いるんだ?!)
その連撃はネルをしてネイトが分身しているのかと錯覚するほどの連撃だ。
『V.A.T.S.MA』、ネイトが体得した格闘術とV.A.T.S.を組み合わせた戦闘術だ。
ネイトが見せるグレネードをV.A.T.S.で撃ち抜く起爆方法。
これはつまり…ネイトが投げたものにV.A.T.S.が反応するということだ。
そして、V.A.T.S.で近接攻撃を行うと照準先に一瞬で移動ができる。
ネイトがネルに向かって投げ上げた物、それはコートにめり込んでいたネルが放った9㎜パラベラム弾の弾頭だ。
その弾頭にV.A.T.S.照準し移動、即座にV.A.T.S.でネルに一撃を加え別の弾頭に移動しまた一撃を加えまた別の弾頭へ…これを繰り返す。
この二つを組み合わせ上下前後左右縦横無尽に動き続け翻弄する。
そして…
「(これで…ッ!)シィッ!!!」
APが尽きる寸前でV.A.T.S.クリティカルを発動。
ネルに拳が叩き込まれた瞬間、
「が…ッ!?」
ネルの体が糸が切れた人形のように脱力、
(な、なんだ…!?か、体が…!?)
今までどんな一撃を食らってもへこたれなかったというのにだ。
ネルは知る由もないが…これはPerkの効果である。
『Iron Fist』、素手と格闘武器の威力を上げるのが主な効果だが最大ランクまで取得した際に…さらなる効果が付与される。
それは『V.A.T.S.クリティカルヒット時、100%の確率で相手を麻痺させる』というものだ。
その時間、約10秒。
つまり、その間は…
「ハァッ!!!」
「~ッ!!?」
無防備なネルにいままでの戦闘では使えなかったようなさらに重さを持たせたネイトの拳や蹴りが容赦なく叩き込まれる。
ネルも動こうにも身体が言うことを聞かずなすすべがない。
そして、麻痺が解除される寸前に…
「ラァッ!!!」
「がっ!?」
彼女の体が少し浮き上がるほどの豪快なアッパーを打ち込んだ。
それと同時に、
「がァッ!!!」
「ッ!?」
「捕まえたぜ、このヤロォォォォッ!!!」
鎖を巧みに操り巻き付けネイトの腕を自らの体に固定。
これでネイトは拳を引き戻せず次弾を撃てない。
(あれだけ食らってまだ動けるのか!?)
これにはネイトも内心驚愕する。
いかにキヴォトス人とは言え…無防備な状態でクリーンヒットを何度も食らい動ける者はいない。
それでも…ネルの目の闘志は一切衰えないどころかさらに燃え盛っている。
(これが…ミレニアム最強の『ダブルオー』か…!)
「お返しだっ!!!」
チャンス到来と言わんばかりにツイン・ドラゴンをネイトに向けるネル。
「戦う相手を間違えたなぁッ!!!」
だが、ネルが撃つよりも早く…
「ッとぉっ!!!」
「んなッ!!?」
空いている左手でネルを掴み引き寄せる。
(コイツは発射時腕を伸ばす癖がある!だったらこれで!)
結果、ネルの銃撃はネイトのすぐ背後で行われギリギリで回避、
「このッ離れろ!!!」
ほぼ密着状態となりこれではネルも銃撃どころか蹴りも放てない状態。
(だが、コイツもアタシをぶん殴れねぇはず!!!こいつを投げ飛ばして…!)
それはネイトも同じと判断、ネイトの胸ぐらを掴み上げる。
だが…
「―――ッ!!?」
次の瞬間、衝撃が襲い掛かったのはネルの方だった。
それも…体の芯に響くような非常に重たい衝撃で思わずたたらを踏んで後退し掴んでいた腕も離れ鎖も緩みネイトの右腕も解放される。
「て…テメェ何を…!?」
ネルには訳が分からなかった。
いかに格闘術に明るくないとはいえ…肉弾戦における道理は分かっている。
それは…パンチの威力を引き出すには幾分かの距離が必要ということだ。
先ほどの状況、あの密着状態ではそれはできないはずだ。
なのにこの威力の攻撃。
「…それもえいしゅんけんってのの技術か…?!」
「さぁ、企業秘密ってやつさ…!」
ネイトはぼかしたがネルの考えは正解だ。
『寸打』、詠春拳の象徴的な拳技の一つだ。
『ワンインチパンチ』とも呼ばれ読んで字のごとくごくわずかな動作で最大の威力を誇る一撃を繰り出すパンチである。
以前、ネイトがトレーニングルームでモモイやスミレたちに見せた『面白いもの』の正体がこれである。
威力は以前の通り、サンドバッグをくの字に曲げ打ち上げるほどだ。
「あぁクッソ…!こんなにやりにくい奴ぁ久しぶりだぜ、テメェ…!」
「お前とは踏んできた場数が違うってことさ…。」
そう、ネイトとネルの隔絶している差が『経験』だ。
戦後の連邦においてはそれこそ『喧嘩殺法』を使うレイダーともう数えるのも面倒になるほど戦闘経験を有する。
レイダーだけではなく人智を超えた怪力を誇るスーパーミュータントとも何度も戦ってきた。
その期間…実に60年以上。
(認めたくねぇが…!)
ネルもここまでで思い知らされ続けてきたので認めざるを得ない。
それでも…
「だからどうした!?あたしはまだまだやれんぞッ!!!」
自分はミレニアム最強、『約束された勝利の象徴』だ。
たとえどんな相手だろうと一歩も引き下がるなどそんな考えは端からない。
「それは俺も同じさ…!」
その意気にネイトも答え、ネルとの間合いを詰める。
(コイツに銃撃は効果が薄い!だったら!!!)
ネルのあの連撃を食らいつつネイトは突っ込んできた。
しかもそれからは様々な方法で回避してまともに銃撃を当てられていない。
ならば、
「来やがれ、『アビドス解放の英雄』ッ!!!」
ネルはツイン・ドラゴンを持ち替え、
「オラァッ!!!」
ネイトに殴りかかる。
「ッ!シィッ!」
「がァッ!ラァッ!!!」
それを避けネイトが裏拳を当てるも一切怯まずネルはなおも殴り掛かる。
正直言って動作の大きいテレフォンパンチと呼ばれる攻撃だ。
避けては打たれ逸らされては蹴られる。
格闘術の経験の差が如実に表れ始めた。
(どうした…?彼女の得意とするところは銃撃のはずなのに…?!)
ここにきて銃撃を捨てたネルに疑念を抱くが…動きを止めるわけにはいかない。
一切の油断なくネルの攻撃を捌き拳足を叩きこむ。
だが…
「シィッ!!!」
「ぐッ!!!」
幾度目かのパンチをネルが顔面に受けた…その時、
「ッ!」
「今度こそ捕まえたぜぇ…!」
鎖ではなくツイン・ドラゴンを放し自らの手でネイトの手首を握りしめ捉えた。
「このッ!!!」
小柄だというのにその力はそのまま手を握りつぶさんばかりの力だ。
がっちりと固定されている上に寸打を打つには間合いが広すぎるためなんとか振り払おうと小手返しを繰り出そうとするが…
「食らいやがれぇッ!!!」
ネルはフォルムもくそもないが力強い蹴りを放ち、
「~ッ!!??!?」
ネイトの脇腹に叩きこまれた。
体重差は倍近いというのにその威力は…今まで食らったどの蹴りよりも重たかった。
その威力たるや、ネイトを蹴り飛ばすほど。
地面を数度バウンドしネイトは先ほどアリスが明けた壁の穴の寸前で止まる。
「が…かぁ…!」
効く、いや効きすぎる。
呼吸が詰まり痛みに身体が悲鳴を上げる。
HPも一気に32%まで下がる。
(骨は…大丈夫…!内臓も変な痛みはない…!)
そんな中でもネイトは冷静に自身の容態を確認する。
ダメージこそ凄まじいが…まだ戦える。
(やはりキヴォトス人…!本当にスーパーミュータント級だな…!)
なんとか起き上がり体勢を立て直すネイト。
すると…ある物が目に入った。
「オラオラァ!!!今までのお返しをさせてもらうぜぇ!!!」
先の一撃で勢いづくネル。
(ようは単純、アイツの攻撃を根性で耐えて一撃ぶち込みゃいい!!!)
突破口を見つけ勢いづくネル。
だが、そんな彼女に襲い掛かったのは、
「フンっ!」
「ぐぇッ!?」
はるか遠い間合いから繰り出された突きだった。
「なっ何が!?」
見るとネイトの姿は近くにない。
そして、自分に一撃を食らわせたのは…
「て、鉄パイプ…!?」
長さが3mほどはあろうかという細身の鉄パイプだった。
おそらく先ほど破壊された壁の内部に走っていた残骸だろう。
「ふぅー…。」
深く息を吐き両手でその鉄パイプを胸の高さで構えるネイト。
「なろぉっ!!!んなもん、そこらの不良でも…!」
破れかぶれの策と思い再度突っ込むネルだが、
「シィッ!」
「がっ!」
ネイトが振るう鉄パイプは弧を描きネルの大腿部に叩きこまれ、
「フン!」
「ぐあッ!?」
手を切り返し今度は肩に振り下ろされる。
さらに、ネイトは鉄パイプの持ち手をスライドさせ、
「ムンッ!!!」
「げはッ!?」
ネルに前蹴りを叩きこんだ。
蹴り飛ばされたネル。
「このッ!」
素早く起き上がろうとするが視界に飛び込んできたのは…今まさに振り下ろされようとしている鉄パイプだった。
「のぉあ!?」
それを横に転がり回避し起き上がるも…
「ッ!」
自分の眼前には鉄パイプの先端が突き付けられている。
「さぁ、どうする…?」
「このッ卑怯…!」
「銃持ってるそっちに言われたくはないな…!」
「ちぃ、何も言えねぇ!」
突破口を見つけたと思ったら即座に対応され悔しそうなネル。
これもまた詠春拳の技術の一つだ。
『六點半棍』、詠春拳の技術体系に組み込まれた長さ3mほどはある長い棒を操り相手を制する棒術だ。
中国武術は何も格闘術だけを伝授するものではない。
むしろ流派によっては格闘術よりも先に武器術を教授する武術もある。
詠春拳もその一つだ。
「シィッ!!!」
突き付けていた鉄パイプを操り薙ぎ払うように振るうネイト。
「クッ!」
ネルはツイン・ドラゴンを立て受け止める。
だが、
「シャッ!」
「なぁッ!?」
鉄パイプを振り下ろしマガジンを叩き割る。
「フンっ!」
「がはッ!?」
そのまま軌道を変えネルの腹部に鉄パイプがめり込んだ。
ネイトはそのまま持ち手を引き上げパイプをネルの脇下に滑り込ませ
「ととととぉッ!?」
ネルを壁際まで追い込む。
「このッ!」
ネルはすぐさまツイン・ドラゴンを構える。
マガジンは破壊されたがまだ薬室には一発ずつ残っている。
が、
「ヒュオッ!!!」
「イッテェッ!!?」
今度は鉄パイプを振り下ろしネルの足の甲に叩きつける。
どれほど屈強な大男でも足の甲の防御力だけは鍛えることができない。
キヴォトス人でもそれは同義でさすがのネルも痛みに悲鳴を上げた。
つまりそれは…意識が乱れたということだ。
「フン!」
「なぁッ!?」
矢継ぎ早に今度は鉄パイプを振り上げネルに右手にあったツインドラゴンを宙高く弾き飛ばし、
「ラァッ!!!」
大きく弧を描いた鉄パイプはそのツイン・ドラゴンに叩きつけられ…
「あぁッ!!?」
ツイン・ドラゴンの片割れを粉々に粉砕した。
「てってめぇ!!!よくも!!!」
長年連れ添ってきた相棒を叩き壊されさらに激昂するネルだが、
「シィッ!」
「ギャッ!?」
鉄パイプをしならせながら太腿にたたきつけ
「ラァッ!」
「がっ!?」
返す刀で左側頭部を打ち据える。
だが…
「ゼラァッ!!!」
「ッ!?」
ド根性でネルは倒れるのを耐え鉄パイプを掴み、
「イライラさせやがってぇッ!!!」
空いた左手を掴み鉄パイプを中程から圧し折った。
「ちぃ、馬鹿力が…!」
まるでスナック菓子かとでも言わんばかりにボッキリ折られた鉄パイプを…
「欲しけりゃくれてやるよ!!!」
ネル目掛け思い切り投げつけた。
「喰らうか、ンなモン!!!」
ネルはそれを避け残された右手のツインドラゴンをネイトに向け構え…
(なんてな…!)
ずに彼女はネイトが投げた鉄パイプの方に照準を定める。
ネイトはこれまでネルにとっては未知の瞬間移動で奇襲を仕掛けてきた。
(さっきのでアタシに近づいて攻撃するのを嫌がったから鉄パイプで仕掛けてきやがった…!)
今まで格闘で戦ってきたのにここにきての武器攻撃。
それをみすみす放棄するか?
さらに、
(コイツはなにか『起点』がなきゃあの瞬間移動は使えねぇはず…!)
おぼろげながらもネイトのV.A.T.S.の原理にも気づいていた。
そこから導き出されるのは…
(あの鉄パイプを使って瞬間移動して奇襲ってハラだろ!!!)
先に見せた分身の如き連続攻撃の時と同様、パイプに瞬間移動してからの背後からの奇襲だ。
一発で決める、その気合を込めてネルは…
「そこだぁッ!!!」
背後に向けツイン・ドラゴンを構えた。
が…視界の先にはそのまま地面に落ちる鉄パイプしかなく…
「フンっ!!!」
「がっ…!?」
代わりに襲い掛かったのは正面から迫ってきたネイトの強烈な蹴り上げだった。
さらに、
「シィッ!!!」
「ぐあッ!?」
その横っ腹に向け正拳突きを叩きこんだ。
しかも、左のツイン・ドラゴンを背後に向けたため完全なリバーブローとなりこれにはネルも顔をゆがめる。
それでも…
「だがァッ!!!」
「ッ!?」
「捕まえたぜぇッ!!!」
苦痛に顔を歪ませながらもめり込んだ右拳をネルは捕まえた。
「喰らいやがれぇッ!!!」
とどめだと言わんばかりに左腕を振るいネイトに弾丸を叩き込もうとした。
隙間もなく完全に伸び切った状態では『寸打』も打てない、とネルは想定。
確かに本来なら『寸打』には僅かながらも隙間が必要だ。
…本来の『寸打』ならば。
相手はキャリア80年の武術家であり兵士。
「たった1インチ縮めるのに―――20年かかったぜ!!!」
「ぐはぁあああぁッ!!?」
再び…ネルの横っ腹に凄まじい衝撃が走り弾き飛ばされる。
衝撃によってブレたせいで最後の弾丸も明後日に飛翔。
まだ回復しきってない箇所にピンポイントに叩きこまれた心にまで届く一撃。
「グアアアアアあッ!!!?イッテええええええええ!!!?」
今日初めてネルがもんどりうってのたうち回る。
「奥義『無寸打』…!」
これぞ…ネイトが戦後連邦ですら鍛錬を続けた末に身に着けた新たなる拳技『無寸打』である。
本来僅かながらも必要な1インチという加速距離、それすらも排除し超密着状態であっても最大威力の拳を叩きこむ必殺の一撃だ。
状況とタイミングが合えば先のように打ち込んだ拳を用い追撃を行うことも可能。
ストロングですら膝をつかせたコンボ…そう言えばどれほどの威力か理解できるだろう。
だが…それでも…
「フー…ッ!!!フー…ッ!!!」
「Are You Serious…!?」
彼女は立ち上がった。
「あぁくっぞ…!体中いてぇ…!」
口からは血が足れ体中傷だらけ。
メイド服ですら泥だらけであちらこちらが破けて得物も弾切れ。
それでも…
「どうしたぁッ…!?まだアタシは倒れてねぇぞ…!!!」
『ダブルオー』、美甘ネルの目の闘志は今日一番に燃え上がっている。
「…これ以上は千日手か。」
ネイトはそう判断する。
いや、状況的には…ネイトの圧倒的不利だ。
既にネルはネイトの動きに対応でき始めている。
このままいけば…またあの一撃がネイトに叩きこまれるのも時間の問題だ。
さらに…
(朝急いで飛び出してきたせいで武器もろくにない…。)
手持ちの武器ではネルを倒せるという保証もない。
ヒナ以上のタフネスを誇るネル相手ではコンバットライフルは威力不足だ。
「さぁ、どうする!?次はどんな手をアタシに見せてくれるんだぁッ、『アビドス解放の英雄』ッ!!?」
やる気満々のネル。
そんな彼女に対し…
「…そうか、だったら!」
ネイトは構えを解き、
「…The warden threw a party in the county jail!」
「…は?」
「The prison band was there and they began to wail!」
突如高らかに歌い出し腕を大きく広げて腰や膝をクネクネさせダンスを始めた。
これにはネルだけでなく…
「 The band was jumpin and the joint began to swing!」
「…え?」
「 You should've heard those knocked out jailbirds sing !」
「なっなんですか、突然…?!」
巻き込まれない様に遠巻きに観戦していたカリンとアカネまで呆気にとられる。
唯一、
「Lets rock, everybody, lets rock!」
「あッダンスするの!?私もダンス大好き!」
アスナだけが何やらノリノリでそこに加わろうとする。
「Everybody in the whole cell block.Was dancin to the jailhouse rock. !」
「…おい。」
「ねぇねぇどう踊るの!?こんな感じ!?」
「混ざんじゃねぇよ、アスナぁッ!!!」
「お、良いねぇ!よしお嬢ちゃんも、Rockだ!」
「テメェも受け入れんなっ!!!」
ネイト一人でさえ呆気にとられたのにそこにアスナも加わって場はいよいよカオスに。
「Spider Murphy played the tenor saxophone,Little Joe was blowin on the slide trombone!」
「二番に入んな!!!テメェ、一体どういうつもりだ!!?」
「The drummer boy from Illinois went crash, boom, bang, The whole rhythm section was the purple gang. !」
「イッェーイ!!!」
さっきまでと打って変わって完全にふざけ倒し歌い踊るネイト。
「Lets rock, everybody, lets rockEverybody in the whole cell block.Was dancin to the jailhouse rock. !」
「あはっはっはっ!たっのしーい!」
ついにはアスナと手を取り合い軽快なステップを踏む始末だ。
そして…
「テメェはッ一体っ何をやってんだッ!!!?」
とうとうネルが今日一番の怒号を挙げた。
すると…
「お前のことをLockするためだよ、ノリが悪いなぁ!」
踊りながらネイトはこう答えた。
「…は?」
再度、訳が分からずに呆気にとられるネルだが…
「ターゲット確認…!エナジーハイパーロード…!」
「ッ!?」
彼女の耳をあの声が叩いた。
その方向を見ると…
「うっひゃあ気付かれた!」
「もっと回して、お姉ちゃん!」
「先生っまだですかッ!?」
「もうちょっと!」
才羽姉妹が何やらクランクを回しまくりユズがスコープで測的し先生がコードを持ちタイミングを計っていた。
数分前。作戦会議の時…
「俺は奴を引き付ける。」
『えぇ…ッ!?』
開口一番、ネイトの言葉に5人は驚くしかない。
相手はミレニアム最強、それを人間一人で引き付ける等無謀もいいところだ。
「むっ無茶だよ、ネイトさん…!」
当然、モモイが異を唱えるが…
「安心しろ、俺だって倒せる なんて思っちゃいない。」
「じゃあどうしてですか…!?」
「俺は囮、止めを刺すのは…。」
「…アリス、ですか?」
ネイトはアリスの目をまっすぐに見つめ頷く。
確かにアリスの武器はこの場にいる者の中で最強の威力を誇るが…
「ですが師匠、アリスの武器はバッテリーが…!」
「そ、それに、ネル先輩はさっき、アリスちゃんの砲撃を…!」
肝心の光の剣はバッテリー切れな上ネルは余裕で回避する。
どれほど強力な一撃でも当たらなければ意味はない。
「そこで…これを預ける。」
「これって…レーザーマスケット…?」
その答えとしてネイトは先生にレーザーマスケットを託す。
「コイツは手回しで高出力のレーザーを照射できる。つまり…。」
「ッ!めちゃくちゃ発電できるってことだね…!」
「そう言うことだ、モモイ。だが一丁だけじゃ不安だ。だから…。」
そう言い次にネイトが取り出したのは…
「ここに書いてある材料を設計図通りに組み合わせて5人で作るんだ。」
レーザーマスケットの機関部の設計図と材料のリストを渡した。
「ここは廃校、これくらいの材料は探せばすぐに見つかるはずだ。」
「その二つで光の剣のエネルギーを充填して…!」
「フルパワーでネル先輩に、叩きこむってことですか…!?」
「その隙は俺が作る。じゃあ行くと…。」
作戦も決まり立ち上がろうとすると…
「だっ駄目です…!」
「アリス…?」
「ダメです、ネイトさん…!このままだとネイトさんが…!」
涙目になりながらアリスがネイトの袖を掴み引き留める。
「アリス、あの後『ドラゴンテストⅤ 大空の新婦』をプレイしたんです…!そ、そしたら…!」
「そしたら?」
「ファ…『ファザス』が…とても強いボスにやられて…!」
「…そうか。」
「どんなに頑張ってもどれほどレベリングしても回避不能で…!こ、このシチュエーションは…!」
アリスが大好きと語ったキャラクター。
そのキャラクターはどうやら…『途中離脱』してしまったらしい。
そのシチュエーションが…ネイトがやろうとしているこの状況にかぶっていた。
「だ、だから、ネイトさん…ダメです…!アリス、ネイトさんが…!」
パニックを起こしかけるアリス。
すると…
「アリス…。」
「あ…。」
「だったら…その運命を変えてくれ。君にはその力がある。」
彼女の肩に手を置き真っすぐ目を見つめネイトはそう告げた。
「ここはゲームじゃない。それに…状況だって違うだろ?」
「あ…。」
「大丈夫…だなんて言いきるつもりはない。だから、俺を救うために…頑張ってくれ。できるな?」
勝つためではなく、自分を助けるため…そうアリスに願う。
そんな静かだが力強いエールに、
「…分かりました…!アリス、ゲームのイベントなんか乗り越えて見せます…!」
アリスの目に勇気が漲りしっかりと頷いて見せた。
「よし。じゃあみんな、頼んだぞ。」
『了解…!』
そのやり取りを見たモモイ達の目にも勇気が漲り…
「行くぞ…!」
立ち上がりネルと相対するのだった。
「アリスは回避不能のイベントなんか突破して見せます!!!皆なら…それができますっ!!!」
場面は戻り…アリスはネルに照準を定めながら叫ぶ。
約束通り、ネイトは生き残った。
ボロボロでも…立ち上がり『為すべき事』をなした。
ならば…今度は自分の番だ。
「為すべきことをなしますっ!!!仲間を…ネイトさんを救うためにっ!!!」
勇気を迸らせ、アリスは狙いを定める。
「アリス、こっちはいいよ!」
「こっちも満タン、いつでもいいよ!!!」
廃校中を走り回りかき集めて作った発電機を回しモモイとミドリもエネルギーの充填が完了し、
「照準完了、です!」
ユズも測的が完了し、
「行くよ、アリス!!!」
先生が光の剣にコードを接続した瞬間…
「アリスッ全力で行きますっ!!!光よオオオオオオオオオッ!!!!!」
今まで見たことないほどの極大の砲撃が放たれた。
「このッ見えさえすれば…!」
だが、さすがはネル。
すぐに回避しようとする。
だが…
「おっと。」
「あががガガガガッ!!!?」
ネイトがある物を取り出しネルに向け発砲。
命中した途端、ネルの体がけいれんし硬直する。
見ると…ネルの体に超巨大な電池のようなものが突き刺さり電撃を放っている。
ネイトの手に握られているのは…『パイプグレネードランチャー』。
放ったものはグレネードランチャー用のテーザー弾、以前のネルとの接敵時の様子を聞き秘密裏に用意していたのだ。
「てってぇッめええええええええ!!!」
こちらを睨みながら絶叫するネルに、
「キヴォトスで銃使って何が悪いんだ?」
悪びれもなくネイトは距離をとった。
次の瞬間…
―――――――――――――
「急いで!!!ネル先輩を早く止め…!」
ちょうどその時、騒ぎを聞きつけたユウカが保安部の生徒を連れやってきていた。
いかにC&Cでもゲーム開発部に砲撃を仕掛けたというのは寝耳に水過ぎた。
なんとかネルたちを抑えようと駆けつけたのだが…。
ズガアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!
「ッ!!?」
旧校舎全体が揺れ壁の大部分が吹き飛ばされた。
「な、何が…!?」
状況が呑み込めず固まるユウカだが…そんな彼女の遥か背後の車両に彼女が落下した。
それは…
「う…うぅ…!」
「ねっネル先輩っ!!!?」
全身ボロボロで呻くネルだった。
一方…
「リーダーッ!!?」
「大丈夫ですか!!?」
カリンとアカネはネルの元に走り出していた。
「わぁ、すっごい!リーダーとんでっちゃった!」
アスナはというとこの状況ではしゃいでいる。
「君は…行かなくていいのか?」
「うん、行くけど…きっとリーダーなら平気だよ!」
長年の付き合いか、朗らかに答えるアスナ。
「ねぇねぇ、貴方って本当に強いんだね!」
「まぁ、かなりギリギリだったけどな…。」
「そう?でもまだ本気じゃなかったんでしょ?」
「………鋭いな。」
そうだ、全力ではあったがネイトはまだまだ本気ではない。
正直もっとえげつない手を使えば楽に事は運んだだろう。
ポケットグレネードやステルスアタックetc…。
それでも…
「決め手に欠けてたのは事実さ。それに…。」
「それに?」
「俺の役目は『囮』、お膳立てが済んだらそこで終わりさ。」
ネイトはネイトが自らに課した役目を全うした。
「アハハッ、これは敵わないなぁ。」
自分たちもチームワークでは負けない自信はあったが…ネイトたちのコンビネーションはその上を行った。
ネイトも他の皆が間に合うのを信じ、モモイ達もネイトが生き残ることを信じていた。
「それじゃ、私も行くね!ダンス楽しかったよ、また踊ろうね!」
そう言い、アスナもネルの元へ駆けだしていった。
一人残されたネイトは…
「…はぁー…はぁー…!」
地面に腰を下ろし息をついた。
(疲れた…。)
ここまで腕を振るったのはいつぶりか。
戦闘で蓄積する疲労とはまた違う倦怠感がネイトの体にのしかかっていた。
流石はミレニアム最強、あのままではかなり危なかった。
(もっと…もっと強くならなきゃな…。)
そう心の中で決意していると、
「ん…?」
ネイトの手元にある物が落ちていた。
それは…
「あいつの…銃をつないでいた鎖…か。」
ネルのツイン・ドラゴンを繋いでいた鎖の一部だ。
と言っても優に1m以上あるが。
先の砲撃で引きちぎられたのだろう。
「…戦利品としてもらっとくぜ、『ダブルオー』。」
その鎖をPip-Boyに収納するとそのタイミングで…
『ネイトさんっ!!!』
「やぁ皆…お疲れ様…。」
そこに先生たちが駆けつけてきて…
「ネイトさぁぁぁんッ!!!」
「アリス…よく頑張ったな。」
アリスが光の剣すら放り捨てていの一番にネイトに飛びついてきた。
「よかったッ、よかったです!ネイトさんがっ途中離脱なんかしなくてよかったです!」
涙を流しながらネイトが無事であることをその身をもって感じるアリス。
「あぁ、そうだな…。アリスや皆が頑張ってくれたおかげだ…。」
重い手を何とか動かしアリスを撫でるネイト。
「凄いッ凄いよッネイトさん!ネル先輩に銃を使わないであんなにダメージ与えるなんて!」
「モモイ達もお疲れ様…。良くやってくれた…。」
「ごめんなさい…!もっと…もっと私たちが急いでいたら…!」
「何を言う、ミドリ…。ちゃんとやり遂げてしっかり間に合ったじゃないか…。」
「でもこんな…こんなに弾丸が…!」
「ユズ、安心しろ…。この服は特別製だ…。体中が痛いが深刻なダメージはない…。」
モモイ達も駆け寄りネイトを心配する。
「ともかく治療を!!!キヴォトス人の蹴りをもろに食らってたんですから!!!」
「あぁ、そうだな…。すまない、肩を貸してくれ…。」
「はいっ!アリス、ネイトさんを運びます!」
「もう片方は私が!!!」
ネイトは先生とアリスに肩を借り一行は旧校舎を後にしていく。
こうして…二つの最強がぶつかり合った大騒動は静かに幕を閉じるのであった。
愚痴をこぼすのは人間の性質だけど、前進しながらできる限りのことをやっているよ。
―――ロックンローラー『エルヴィス・プレスリー』