Fallout archive   作:Rockjaw

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人生における大きな喜びは、「君にはできない」と世間が言うことをやってのけることである。
―――経済学者『ウォルター・バジョット』


Let's start again now.

美甘ネルとの戦闘後、治療のためミレニアムの保健室に運び込まれたネイト。

 

夜だったため誰もいなかったが…

 

「よっと…!」

 

『えぇーッ!?』

 

連邦の万能薬『スティムパック』を一発打つと体中にあった青痣がスゥッと消えていったのを見て先生たちは唖然としていた。

 

それでも一応包帯などを巻き応急処置をしていると…

 

「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「ちょ、ユウカ!!?」

 

ドアを開けてユウカがスライディング土下座を決めてきた。

 

何でも騒ぎの詳細を聞き顔を真っ青にして駆けつけてきたとのこと。

 

ネルは…ネイトに奇襲として銃撃していた。

 

戦闘中ならともかくこれは…明らかな『殺人未遂』に該当する。

 

これほど治安が乱れた超銃社会のキヴォトスであっても『殺人』関連の罪状はかなり重い。

 

もしネイトがこの事をヴァルキューレにでも訴えれば…。

 

これに対し、

 

「気にするな、ユウカ。今更一発二発どころかワンマガジン撃たれたくらい『殺人未遂』の内にも入らん。」

 

おおらかなのか無頓着なのかよくわからない言葉で彼女を宥めるネイト。

 

何せ…ホシノとの初対面時『殺すつもり』で撃たれた散弾を何発も浴びた男だ。

 

面構えも気構えも違う。

 

「いえっどうか!どうか何なりとお申し付けください!!!」

 

それでもユウカは頭を挙げない。

 

ネイトは許してくれたが…問題はネイトの背後にいるメンツだ。

 

ホシノは元より…カイザーとの戦争を潜り抜けたアビドス勢力がいる。

 

もし彼女たちがブチギレようものなら…。

 

「…よし、じゃあ一つお願いごとをしようか。」

 

そんな彼女の意を汲んでネイトはある頼みごとをするのだった。

 

その後、騒動がこれ以上広まる前にネイトは一時アビドスに帰還することに。

 

一天号には先ほどの『お願い』の品物が積まれている。

 

「ネイトさん、今日は色々と巻き込んでごめんね…。」

 

「いいさ、賑やかな一日だったし俺も得るものがあった。」

 

「怪我は本当にもういいんですか?」

 

「俺の頑丈さは知ってるだろ、ミドリ?もうピンピンさ。」

 

「あ、あとは私たちが、何とかします…!だから、ゆっくり休んでください…!」

 

「そうさせてもらうさ。ユズもあまり無茶するなよ。」

 

正直、今日のこの騒動の終息は一筋縄ではいかないだろう。

 

旧校舎はボロボロな上…ミレニアムの最高戦力を打ち破ってしまったのだから。

 

幸い、ユウカがこちらに同情的かつ…

 

「先生、四人のサポートを頼んだぞ。」

 

「分かりました、ネイトさん。」

 

先生もいるので少しはゲーム開発部の有利にはなるだろう。

 

そして、

 

「もう帰ってしまうのですか、ネイトさん…?」

 

「すまないな、アリス。俺がこのままここにいると騒ぎが大きくなってしまうんだ。」

 

この前と違いトンボ帰りとなってしまったのでアリスは悲しそうな表情を浮かべている。

 

「今度は…いつ会えますか…?」

 

「そうだな…。良し、じゃあ約束しようか。」

 

「約束ですか?」

 

「あぁ、ミレニアムプライスが終わった次の日は俺も休みだ。だから、その時に皆で慰労会をやろう。俺の奢りでだ。」

 

と、このネイトの申し出に…

 

「ホントに!?やったー!」

 

「お姉ちゃん!」

 

「アテッ!」

 

モモイが喜びの声を上げたがミドリによってすぐに黙らされた。

 

「…そう言うことだ。だから…そんな悲しい顔をしないでくれ。」

 

改めて、ネイトがそう願うようにアリスに声をかけると…

 

「…ハイ、分かりました!アリス、楽しみにしています!」

 

アリスもようやく笑ってくれた。

 

「よし、じゃあみんな。ミレニアムプライスを楽しみにしているぞ。」

 

それを見てネイトも浅く笑い、ゲーム開発部の健闘を祈りアビドスへ帰っていくのであった。

 

それから…三日後。

 

運命のミレニアムプライス当日を迎える。

 

ちなみに、ネイトが帰った直後…

 

「待てって!!!大丈夫だから!!ちゃんとお詫びの品も受け取って決着ついたから!!!」

 

「うへぇ~ミレニアム最強?おじさんが一丁揉んでやりますかぁ♪」

 

「ホシノォッ!!!生徒会長のお前がそんな格好であっちに行くとシャレにならないんだよ!!!」

 

「ん…ミレニアムのメイド部を襲う…!」

 

「だからやめろって、シロコ!!!ミレニアムの中枢組織なんだから抑えろ!!!」

 

「大丈夫ですよぉ、ネイトさぁん♪証拠は一切残しませんからぁ♪」

 

「んなデカいもん持ってって証拠残さないとか無理だから、ノノミ!!!あと、ハンマーも下ろせ!!!」

 

「そうよ、ノノミ先輩。ここは1㎞以上遠くから一発でぶち抜いてあげないと…!」

 

「それ完全に暗殺者のセリフーッ!!!ゲパート持ち出してなにをする気だ、セリカぁッ!!?」

 

「皆さん、一天号の爆装が完了しました。いつでも出れます…!!!」

 

「また戦争おっぱじめる気か、アヤネ!?今先生やモモイ達がこれ以上波風立てないように動いてるんだから!!!」

 

ネイトが撃たれたと聞き完全武装のホシノ達復興施策委員会のメンバーがミレニアムに殴りこもうとしたのをネイトが全力で引き留めていたのは内緒の話だ。

 

ちなみに…

ホシノ→水族館デート

シロコ→ロードサイクル

ノノミ→ショッピング

セリカ→アルバイトの手伝い

アヤネ→骨董品店巡り

 

ということで手を打ってもらった

 

閑話休題。

 

「いよいよ…だな。」

 

この日は定期訓練の日だがその昼休み。

 

訓練場近くに設けられた休憩室のテレビの前に参加している生徒のほとんどが集結していた。

 

「大丈夫かな、モモイちゃん達…。」

 

「ん…大丈夫、アヤネ。私達も協力したからきっと受賞してる。」

 

「だといいんだけどね…。応募も相当多そうだし…。」

 

「うぅ~なんだか私までドキドキしてきましたぁ~…!」

 

「モモイちゃん達の緊張はもっとすごいことになってるだろうねぇ…。」

 

ホシノ達、復興施策委員会の面々も固唾を飲んで見守っている。

 

「大丈夫っすよ、親分たち!あのゲーム、めっちゃ面白かったぜ!」

 

「なんかこう…懐かしさっつうぁ子供のころを思い出すような面白さだったです!」

 

番長やほかの生徒達もうんうんと頷いている。

 

彼ら彼女らもゲーム開発部にはお世話になっている。

 

しかも、ゲーム作りに一枚かんでいるとあってアビドス生徒の大半がTSC2や例のゲームをダウンロードし楽しんでいた。

 

と、その時…

 

《これより、ミレニアムプライスの結果発表を行います!司会及び進行を担当するのは私、豊見コトリです!》

 

「お、始まったな…。」

 

画面に元気いっぱいのコトリが映し出されいよいよミレニアムプライスの発表式が始まった。

 

《今回はこれまでのミレニアムプライスの中でも最多の応募数となりました。おそらくは生徒会の方針変更により部活動維持のために『成果』が必要になった影響かと思われます!》

 

「えぇ、そんなのってありなの!?」

 

「よその学校ですからとやかく言えないですけど…タイミングが最悪ですねぇ…。」

 

どうやらゲーム開発部だけでなく他の部活でもここで成果を上げないといけないところが多いようだ。

 

それがよりにもよって今回とは…。

 

《昨年の優勝作品であるノアさんの『思い出の詩集』は本来の意図とは少し違ったようですが…その形而上的な言葉の羅列がミレニアム最高の『不眠症』に対する治療法として評価されました。》

 

「うへぇ~なんか凄そう。おじさんも読んでみようかなぁ?」

 

「ん…それって眠たくなるほどつまらな…。」

 

「し、シロコ先輩!しぃ―!」

 

《今回も『歯磨き粉と見せかけてモッツァレラチーズが出る持ち歩きチーズ入れ』、『ミサイルが内蔵された護身用傘』…。》

 

「そういえば戦前はチェダーチーズが出るスプレー缶とかあったなぁ。」

 

「お!それなんだかウケそうじゃないっすか、アニキ?」

 

「ん!ミサイルが内蔵された傘は気になる…!」

 

「ダメですぜ、シロコの姉貴。ぜぇったい強盗に使う気でしょ?」

 

《『ネクタイ型モバイルバッテリー』『ちょうど缶一個なら入る筆箱型個人用冷蔵庫』…。》

 

「缶一個かぁ。もうちょいデカけりゃ砂漠での活動に役立つのになぁ。」

 

「やっぱ変なのもあるけどアイデアがすげぇな、ミレニアム。」

 

コトリの紹介でミレニアムプライスに出展されている作品が次々挙げられていく中…

 

《そしてっ!今キヴォトスのインターネット上でセンセーションを巻き起こしているスマホでマルチプレイが楽しめるレトロ風ゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル2』!》

 

「お、ゲーム開発部の紹介だ!」

 

いよいよゲーム開発部の作品の名が挙がる。

 

そして、

 

《さらにッSNS上では『一度見たら忘れられない』宣伝動画と共にこちらもセンセーションを巻き起こしているウォー・シミュレーションゲーム『キヴォトスファイト』などなど!》

 

「あッ!私たちが宣伝動画取ったゲームよ!」

 

「そんなにあの動画受けてたかぁ…。」

 

ネイト達も関わったゲーム『キヴォトスファイト』の名前も挙がった。

 

すると…

 

《ハイ、ハイハイ…なんと!ここでその宣伝動画を放映してもよいと許可を頂いているそうです!それではご覧ください!》

 

画面が切り替わりネイトたちが撮影した宣伝動画が流れ始めた。

――――――――――――――――――

場面は訓練場の一角

「キヴォトスファイトがでーるぞ!」←キャンペーン・ハットを被り教官服姿のネイト

『キヴォトスファイトがでーるぞ!!!』←訓練服で銃を持って走るアビドス生徒&先頭で旗持ちをするシロコ

「コイツはど派手なシミュレーション!」

『こいつはど派手なシミュレーション!!!』

場面が戦車のスラローム射撃やベルチバードの掃射に変わる

「はまり込め!」

『はまり込め!!!』

「はまり込め!」

『はまり込め!!!』

また元のランニングしている場面に戻る

「セミナー会計にゃ内緒だぞ!」

『セミナー会計にゃ内緒だぞ!!!』

真ん中に『戦術が最高の兵器になる』と現れる。

《はまり込むシミュレーションゲーム…キヴォトスファイト》

タイトルロゴがドーン

「「「「き、キヴォトスファイトがでーるぞ…。」」」」

ヘロヘロになってる訓練服姿の美食研究会の面々を横で怒鳴りつけているネイトの場面で映像は終了

―――――――――――――

《以上!今話題の企業『W.G.T.C.』の全面協力で制作された宣伝映像でした!》

 

「う~ん、もうちょい美食研究会をへばらせた方がよかったかな…。」

 

「俺ももう少し戦車の動きにキレが出せたら…。」

 

「ロケットの模擬弾も撃った方が派手だったでしょうか…。」

 

ミドリからOKはもらったが作った身として改善点を言い合うネイトたち。

 

ミドリたちからもらった予算ではこれくらいが限界だったのが歯がゆい所だ。

 

「あ、見てください!美食研究会のモモッターアカウントでも宣伝してくれてますよぉ♪」

 

「なんやかんやあの子たちも『インフルエンザ』だからもっとヒットするだろうねぇ。」

 

「『インフルエンサー』ね、ホシノ先輩。」

 

「ん…柴関ラーメン奢ること条件で撮影に参加してもらってよかった。」

 

まさかのテロリストとしても知られる美食研究会も協力したことも大反響を呼んでいるようだ。

 

《今回出品された三桁の応募作品のうち、栄光の座を手にするのはたったの上位7位の作品のみ!》

 

「さぁいよいよだな…!」

 

とうとう結果発表の時。

 

これで…ゲーム開発部の未来が決まる。

 

《それでは7位から受賞作品を発表します!7位は…!》

 

まずは7位の発表だが…ゲーム開発部の作品は呼ばれず。

 

「ふぅー…なんだか私たちのことみたいにドキドキしちゃうわね…!」

 

「うちらもゲーム開発部のチビ達には元気にいてほしいからなぁ…。」

 

「まだ7位だよ。大丈夫、モモイちゃん達だって頑張ったんだから…。」

 

この場にいるアビドス生徒たち全員が祈るように見守る。

 

だが…

 

《続いて6位の製品は…!》

 

「また…違う作品ですね…。」

 

《5位は…!》

 

「ゲーム開発部…呼ばれませんねぇ…。」

 

《次です、4位…!》

 

「だ、大丈夫なのかよ…!?」

 

あっという間に4位まで発表されるも…ゲーム開発部の作品はどちらも名前が上がらずに…

 

《さぁ、ここからはベスト3です!3位は…!》

 

「ん…もう2つしかない…!」

 

《僅差で2位を受賞したのは…!》

 

「お願いだよぉ…!」

 

「あぁ、違いましたねぇ…!」

 

とうとう残すは1位のみに。

 

《最後に!今回ミレニアムプライスで最高の栄誉を受賞した作品です!》

 

『…………。』

 

最後の希望に縋るように全員がテレビ画面を食い入るように見つめる。

 

《その1位は!》

 

「…頼む…!」

 

ネイトすら手を合わせ祈る仕草をとる。

 

…が、

 

《CMの後で!!!》

 

コトリがそう言った瞬間、

 

「ん…こんな心臓に悪いものを引き延ばすのはよくない…!」

 

「勿体ぶらずに早くいってほしいですねぇ…!」

 

「視聴率とかどうでもいいからサッサと発表しなさいよ!!!」

 

「うへぇ、終わらせるならすっぱり行ってほしいねぇ…!」

 

「ちょ、ちょっと皆さん!?」

 

アヤネとネイト以外の全員がテレビに向け銃を構えた。

 

「…落ち着け、今ここでテレビ壊してもどうにもならないぞ。」

 

『………。』

 

ネイトも苦々しい表情を浮かべているが何とか周りにいる生徒たちを落ち着かせる。

 

永遠にも思えたCMの時間が明け…

 

《さぁ、それでは発表します!》

 

コトリがとうとう発表する。

 

《ミレニアムプライス、待望の1位は…!》

 

『………!』

 

この場の全員の想いが一つになった瞬間、

 

《『同票数』で新素材開発部―――》

 

ゲーム開発部の名前は…呼ばれなかった。

 

『………。』

 

それまでの空気が一気にしぼむように…この場の雰囲気が暗くなった。

 

終わった…。

 

これでゲーム開発部は…。

 

自分たちのために尽力してくれた他校の部活が…。

 

もう自分達には…どうすることも…。

 

「………ん?」

 

「どうかしたの、ネイトさん…。」

 

その時、何か引っかかったネイト。

 

「今…『同票数』って…コトリ言わなかったか?」

 

「ん…言ってたね。でもそれって…。」

 

ネイトの指摘とシロコの同意を聞き…

 

『………えぇッ!!?』

 

再び全員の視線がテレビに集中する。

 

つまり…

 

「1位が…2つあるってこと…!?」

 

まだ希望は潰えていない。

 

《そしてなんとぉっ!!!前代未聞の空前絶後!!!審査員の方々が全く同じ点数を付けた作品がもう一つあります!!!》

 

「お願いお願いお願い…!」

 

「最後のチャンス、来てくれ…!」

 

再び、この場の全員が祈るように画面を見つめる。

 

そして…

 

《ミレニアムプライス!栄えあるもう一つの第一位の作品は…》

 

『…………。』

 

《ゲーム開発部の『キヴォトスファイト』です!!!》

 

次の瞬間、

 

『イィヤッタアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

この場にいる全員が喜びの叫び声をあげた。

 

中には抱き合い喜びを分かち合う生徒もいる。

 

画面では審査員の総評が語られ始めた

 

《今作品『キヴォトスファイト』はこれまでキヴォトスでは一般的には重視されなかった『戦術』、それを遊びながら多角的かつ多彩に検証、実戦、改善ができるという非常に『実用性』に富んだ作品でした。》

 

《作品に関しても専門家の意見を参考とし、ゲームでありながら実戦さながらの戦闘を繰り広げるという非常に高クオリティなものに仕上がっていました。CMのユーモアも実によかったです。》

 

《得点を付けた際に非常に悩みましたが…『実用性』という分野は一つではないという審査員全員のもと同率一位として選んだ次第です。》

 

「やったぁ!ネイトさん!ネイトさんが関わってくれたおかげで一位になったんだよ!!!」

 

「いいや、俺の力なんかごくわずかさ…。がんばったのはモモイたちゲーム開発部さ…!」

 

「でも!あの戦いがあったからこそキヴォトスの意識も変わったんです!もし、私たちが勝っていなかったらゲーム開発部だって…!」

 

そう、ネイトたちが戦い抜いた『アビドス独立戦争』。

 

これによりキヴォトスにおいて『戦術』の概念が非常に重要視されるようになった。

 

これまでのような数や兵器によるごり押しではなく少数であっても多勢を圧倒しうる術、それが戦術だ。

 

ゲーム開発部はそのことに着目、ネイトたちが配信した動画やネイトにも協力を仰ぎ『キヴォトスファイト』を製作していたのだ。

 

結果…ミレニアムプライスの審査員すら一般向けの『戦術の教材』としての『実用性』を評価するに至ったのだ。

 

「よし、さっそくモモイにお祝いの連絡を…!」

 

こうしてはいられないとネイトがスマホを取り出すと…

 

《それから…これは審査員全員で協議したのですがもう一つ…『特別賞』に選ばれた作品を発表したいと思います。》

 

「特別賞?ネイトさん、こういうのあるの?」

 

「いや、俺も初耳だが…。」

 

審査員が『特別賞』を発表すると言っているではないか。

 

何事かと再びテレビに集中すると…

 

《ミレニアムプライスはこれまで生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し『実用性』を軸に据えて授賞を行ってきました。これはよりよい未来を求め実現していくという趣旨に基づいています。》

 

審査員はミレニアムプライスの意義を語り、

 

《しかし今回の作品の中には新しい角度から『実用性』を感じさせてくれるものがありました。…とある『ゲーム』が実際に懐かしい過去をありありと思い出させ未来への可能性を感じさせてくれたのです。》

 

これまで無かった方向性の『実用性』について語る。

 

「お、おい…!いま『ゲーム』って…!」

 

「まっまさか…!」

 

聞き逃せなかった。

 

審査員が語った…その単語を。

 

《よって私達はこの度、もう一つ異例の選択をすることにしました。今回は『特別賞』を設けます。》

 

「ひょっとして…!」

 

「ほ、本当に…!?」

 

信じられないものを見るような一同。

 

そして…

 

《その授賞作品は…ゲーム開発部の『テイルズ・サガ・クロニクル2』です。レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と創造を超えていく展開、一見してそれらとマッチしてそうにない不可思議な世界観…と最初は困惑の連続でしたが…。》

 

「あ、アハハ…なんというか…あの子たちらしいゲームなんだね。」

 

「…だな。」

 

若干苦笑気味に述べる審査員にうんうんと頷くTSC2をプレイした生徒たち。

 

《新しい世界を旅して、一つ一つ新たな希望を結びながら、愛情を大切にし魔王を倒しに行く…。そういったRPGの根本的楽しさがしっかり込められた作品だと思います。》

 

それでも、審査員はしっかりと楽しんでくれたようだ。

 

《プレイしながらかつて初めてプレイしたゲームに夢中になった頃の思い出を鮮明に思い出しました。そういった点を評価してこの作品に…今回ミレニアムプライス『特別賞』を授与します。》

 

『………。』

 

審査員の総評を聞き終え周囲には沈黙が広がる。

 

だが…ネイトが拍手をし始めた。

 

その拍手はどんどん周囲に広がっていき訓練場に万雷の拍手が響くのであった。

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

――――

その翌日、

 

「えぇ―じゃあ皆!飲み物は持ったね!」

 

ここはミレニアム学区内にあるカラオケボックス。

 

そこにモモイ達ゲーム開発部やエンジニア部にヴェリタスの部員たち。

 

さらに先生やネイトも集まり…

 

「ではっ!ゲーム開発部、ミレニアムプライスグランプリと特別賞受賞を祝して!カンパァイ!!!」

 

『カンパァイ!!!』

 

約束通り、慰労会…いや、ゲーム開発部の祝賀会がモモイの乾杯の音頭で始まった。

 

「やったな。モモイ、ミドリ、ユズ、アリス。」

 

「うん!ホントに夢みたい!何度も何度も見直しちゃったもん!」

 

「朝起きたら全部嘘なんじゃないかって思ってましたけど…!」

 

「夢なんかじゃ…ありませんでした…!」

 

「アリス、皆とこれからもいられて本当に嬉しいです!」

 

この受賞は栄誉だけではない。

 

ゲーム開発部の存続もこれで確約されたということでもあるのだ。

 

その喜びはひとしおだろう。

 

「先生もお疲れさま。後始末、大変だっただろう?」

 

この二週間、付きっ切りでモモイ達をサポートし続けてきた先生にもねぎらいの言葉をかけるネイト。

 

「いえ、そちらの方は意外と大丈夫でしたよ。」

 

「そうなのか?」

 

先生があの後にあったことを教えてくれた。

 

あの大騒動に関してゲーム開発部はほぼお咎めなし。

 

C&Cが『部活中の事故』として処理したとのこと。

 

「へぇ、アイツらが…。」

 

「どうやらあの後、あの四人全員がユウカにこってり絞られたらしくて…。」

 

「そこまで言わなくてもいいんだけどなぁ…。」

 

「それから…ネルから伝言を与っています。」

 

「へぇ、なんと?」

 

「『まだ負けてない。次はぶっ壊してコナゴナにしてやっから』、と。」

 

「…フッ、その時は全力で叩きのめすだけさ。」

 

あれだけボロボロにされていまだ彼女の闘志は折れていないようだ。

 

ネイトは不敵に笑いながら再会の時を楽しみにする。

 

すると、

 

「ネイトさん、私達も参加してよかったのかい?」

 

飲み物を持ったウタハが二人の元にやってきた。

 

「構わないさ。それに、エンジニア部がいなかったら『鏡』を手に入れられなかったしな。」

 

「だが、結局G.Bibleは…。」

 

「いや、G.Bibleの中身はさほど重要じゃない。あの経験があったからこそゲーム開発部は奮起できたんだ。」

 

あの作戦の結果はどうであれ、ゲーム開発部には大いにいい影響があったことは間違いない。

 

エンジニア部の協力が無ければTSC2も完成しなかったかもしれない。

 

「だから、今日は存分に楽しんでくれ。」

 

そう、ネイトはグラスを軽く上げ浅い笑みを浮かべる

 

「…そうか。では、お言葉に甘えさせてもらうよ。」

 

「遠慮はするなよ?」

 

「無論さ。では、またあとで。」

 

ウタハも浅い笑みを浮かべネイトのグラスに軽く当てその場を後にしていった。

 

続いて、

 

「やぁ、ネイトさん!宣伝の動画凄かったね!」

 

「あの動画のメロディが頭から離れないから効果は抜群だね。」

 

「まさかかの悪名高い美食研究会を出演させるとは…。」

 

「マキ、ハレ、コタマ。今日はよく来てくれたな。」

 

ヴェリタスの面々が挨拶にやってきた。

 

「それに聞きましたよ?『ダブルオー』相手に大立ち回りした…と。」

 

「いや、俺一人じゃどうあがいても勝てなかったさ。先生やゲーム開発部がいたから辛くも勝利を収められた。」

 

「そうはいっても…前代未聞だよ?たった一人、それも銃も使わずにネル先輩と戦って立ったままでいられたのは。」

 

先日のネルとの戦いはすでにミレニアム内では語り草となっている。

 

セミナーも情報統制をしようとしたが…やはり人の口には戸が立てられない。

 

それが情報に関しては右に出る者がいないヴェリタスならば余計にだろう。

 

「ねぇねぇ!何かネル先輩に勝ったトロフィーみたいなのないの!?」

 

「トロフィーって…あ、そう言えば…。」

 

マキにそう求められネイトが取り出したのは…

 

「あ、それって…!」

 

「ツイン・ドラゴンの…鎖ですか…!?」

 

「あぁ、アリスの砲撃でちぎれ飛んだ切れ端だ。」

 

「情報じゃ知ってたけど…本当だったんだ…。」

 

見かけは傷だらけで黒ずんでいるただの鎖だ。

 

だが、なぜかその鎖からはあの猛々しいネルのオーラが熾火のように放たれているようだった。

 

ダブルオーを仕留めた、その鎖はそれを雄弁に証明していた。

 

「でもこれから大変ですね…。」

 

再度行われるであろうこのマッチメイクにコタマは心配そうな表情を浮かべるも、

 

「リベンジマッチならいつでも歓迎さ。」

 

ネイトは不敵に笑いまるで歓迎するかのようだ。

 

「言ったね?トトカルチョでもやっちゃおうかな。」

 

それを聞きハレが何やら怪しいビジネスを思いつくが、

 

「じゃあ、俺にベットしとくから支払いを頼むぞ。」

 

「…これは勝てないなぁ。」

 

「自信満々だね!それでこそネイトさんだよ!」

 

自分に対し賭けるというネイトにすぐにそんな考えは霧散するのだった。

 

「まぁ、そんな物騒な話は今日はなしだ。」

 

「そうさせてもらいます。しっかり楽しませてもらいますね。」

 

「『妖怪エナジー』も用意してくれてありがとう。」

 

「よぉし、カラオケなんだし歌っちゃおうかなぁっ!」

 

ヴェリタスも挨拶を終え祝賀会を楽しむために繰り出していくのであった。

 

その後…

 

「ーーーーーー♪」

 

「よく分からないが…ウタハはだいぶ古風な歌を歌うんだな…。」

 

「演歌って…女子高生がどうして…。」

 

コブシを聞かせて熱唱するウタハや、

 

「ハレ先輩、そんなにエナドリばかり飲んだら…!」

 

「大丈夫、飲まないと逆に手が震えるから飲んだ方がいいの。」

 

「それは完璧に『カフェイン中毒』ですね!カフェインは、神経を鎮静させる作用を持つアデノシンという物質と化学構造が似ており、体内においてアデノシンが作用を発揮するために結合しなければならない…!」

 

『妖怪エナジー』ばかり飲むハレにコトリがカフェイン中毒の危険性を説明したり、

 

「それでですね、お姉ちゃんったら発表前にモニター撃っちゃったんですよ。」

 

「だってコトリが新素材研究部って言ってたじゃん!勘違いしたって仕方ないよ!」

 

「ちゃんと、『同票数』って言ってたんだから、落ち着かないと、モモイ。」

 

「すぐにユウカがお祝いにやってきて教えてくれました!」

 

「だから連絡した時困惑してたのか…。」

 

結果発表の時にゲーム開発部で起こったことなどを聞いたりと賑やかに祝賀会が進んで行く。

 

食べて飲んで歌って…なんとも学生らしい賑やかな雰囲気だ。

 

「えぇ~ネイトさんも歌ってよぉ~!」

 

「いや、俺が歌える歌がこの中にないんだよ…。」

 

ネイトもカラオケに挑戦しようにも…さすがになかった。

 

すると…

 

「はいっ!アリス、歌いたい歌があります!」

 

元気よくアリスが名乗りを上げた。

 

「おぉ、アリスの歌か。何を歌うんだ?」

 

「今日この会の時に歌うといいとモモイに教えてもらいました!練習もしています!」

 

「うん!アリスが何を歌えばいいか悩んでて『これだ』と思って教えたの!」

 

「…大丈夫なのか?」

 

モモイのおすすめと聞き一抹の不安を覚える。

 

「ちょっと、ネイトさん!?それってどういうことなの!?」

 

流石にこれには抗議するモモイだが、

 

「大丈夫ですよ、ネイトさん。私も聞きましたけど…いい歌でした。」

 

その歌の内容を知る先生が柔らかな笑顔で太鼓判を押す。

 

「…そうか。すまなかったな、モモイ。」

 

「分かってくれればいいんだよ!」

 

「はい、入れれました!」

 

そうこうしているうちに端末を操作し曲を入力するアリス。

 

そして…

 

「アリスちゃーん!がんばってー!」

 

「大丈夫、アリスちゃんなら、きっと伝えられるから…!」

 

「いっちゃえ、アリスー!思いのたけをぶつけちゃえー!」

 

「はい、アリスは思いを込めて歌います!」

 

スピーカーから軽快なメロディが流れ始め…アリスの想いがこもった歌が始まった。

 

「CPUなら 100万メガヘルツで あなたのお役に 立って見せます~♪」

 

「…!」

 

「I love love love 100万べん言えるから~♪あなたのお側に おいて欲しいの~♪」

 

「これは…。」

 

ネイトはこの曲のことは知らなかった。

 

だが…その歌詞はあまりにも…。

 

「『アリス』の体の中を 駆ける電子が あなたを求めているよ ほんまホットに本当に~♪」

 

そして何より…

「あなたの心の中を のぞかせてよね♪ 『アリス』を思う気持ちが ひとつあったら幸せ~♪」

 

アリスはオリジナルの振り付けをしながらずっと…ネイトを見つめながら歌っている。

 

「CPUなら 100万メガヘルツで あなたのお役に 立って見せます~♪」

 

「先生…これは…。」

 

「ネイトさん、これが…アリスの想いです。」

 

そんなアリスから…ネイトも目を離せなくなっていた。

 

「You love love love♪ 100万べん聞けるまで あなたのお側に 置いておいてね~♪」

 

「うんうん、やっぱり…アリスにはぴったりな歌だね…。」

 

「そうだね…。それに…ネイトさんにも届いてるよ…。」

 

「どうかこれで…ネイトさんとアリスちゃんが…。」

 

モモイ達もそんな二人の様子を見てどこか祈るような微笑を浮かべている。

 

「海より山河よりも お日様よりも 笑顔のあなたが好きよ♪ ほんま後光キラキラ~♪」

 

「やられたね…。この歌とアリスの組み合わせには勝てないよ…。」

 

「アリスちゃんの歌声、とても澄んでますね。」

 

「うん、それに…ものすごく想いが込められててこっちも温かくなるね…。」

 

エンジニア部の面々もアリスの歌に聞き入り、

 

「アリスの心の中を 覗かないでね♪あなたを好きな気持ちが ポップコーンになるから~♪」

 

「…綺麗な歌声ですね。録音して何度も聞きたいものです…。」

 

「なんだか…とても暖かくなるね。こんな感情久しぶり…。」

 

「なんだか聞いてるだけで心がポカポカしてくるね!」

 

普段はクールなヴェリタスの心も揺れ動かす。

 

「CPUなら 100万メガヘルツで♪あなたのお役に 立って見せます~♪」

 

「………。」

 

「…ねぇ、ネイトさん。聞いてほしいことがあるの。」

 

「…どうかしたのか、モモイ?」

 

すると、モモイやミドリにユズがネイトの元にやってきて…

 

「We love love love♪ 百万べん言えるまで あなたのお側に おいて欲しいの~♪」

 

「実はね…私達も…聞いてるの。」

 

「ネイトさんの…その前世ともいうべき話を…。」

 

「ヒマリ先輩が…教えてくれたんです…。」

 

「!…そうか…。」

 

「毎日イヤなことばっか つい続いちゃって 涙がこぼれ落ちちゃって… ほんまブルーな夜も…♪」

 

怒られるのではないかという怯えからか…ネイトの手を優しく握りつつそう打ち明けた。

 

時は『鏡』奪還作戦前夜。

 

「ねぇ先生!ネイトさんに一体何があったの!?」

 

「なっなんでもないよ、モモイ…。」

 

「じゃあなんで一緒に戻ってきてないんですか!?」

 

「それは体調が悪いって言ってて…。」

 

「じゃあアリス、お見舞いに行きたいです!恋愛ゲームでは王道の展開ですね!」

 

「…アリス、それはやめておいた方がいい。」

 

「ど、どうしてですか、先生…?」

 

ヴェリタスの部室に戻った先生はモモイ達から詰問されていた。

 

「その…ネイトさんだって人だから体調が悪い時くらい…。」

 

ネイトの状態を伝えられるわけがなく何とか誤魔化そうとするも…

 

「具合が悪いわけないよ!ううん、それよりももっともっとひどいはずだよ!」

 

「あんなネイトさん、見たこともないです!とても普通の状態じゃないですよ!」

 

「ネイトさんの声、ケテルに吹き飛ばされた時よりも…戦争前の時よりもずっと…ずっとずっと酷かったです…!」

 

モモイ・ミドリ・ユズにはそんな誤魔化しは通用しない。

 

そう、この三人はネイトが開戦直前まで隠し抜いたアビドス独立戦争の開戦をおぼろげながらもネイトの微妙な変化を見抜いていたのだ。

 

口八丁ではネイトに及ばない先生の誤魔化しなど見抜けないわけがない。

 

(ど、どうすれば…?!)

 

ここまで鋭いとは予測できておらず先生も口を濁すすべを考える。

 

すると、

 

「せ、先生…!あ、アリスが…いけなかったのですか…?」

 

「アリス…?」

 

「アリスが…ネイトさんにあんなことを言ってしまったから…!」

 

泣きそうな表情を浮かべアリスは先生に尋ねる。

 

それまで普通だったネイトに変化を与えたとするなら…自分の『あの願い』しかない。

 

目覚めて数日とはいえ…アリスにはそれが分かってしまった。

 

「違う。そうじゃないんだ、アリス…。」

 

「じゃあ、どうしてですか…?モモイに先ほどあんなことを言うとびっくりすると教えられました…。悪いことをしてしまったのなら…アリスはネイトさんに謝りたいのです…!」

 

「…大丈夫、アリスは何も悪くないんだ。」

 

今にも泣きだしそうになりながらネイトに謝りたいと求めるアリス。

 

だが、もし今のネイトにアリスを合わせてしまうとどうなるか…先生にも分からない。

 

もしかすると…今度こそ二人の関係は修復不可能な状態になる可能性すらある。

 

それでも…

 

「アリス…ネイトさんのあんなステータスを見たくありません…!ネイトさんには…笑っていてほしいのです…!」

 

ネイトのことを切に願うアリス。

 

どうすればいいか、ヴェリタスの面々も対応に困っていた…その時。

 

「失礼します。」

 

「ぶ、部長!?」

 

「ヒマリ先輩…!?」

 

「か、彼女が…?」

 

ヴェリタスの部室にヒマリがやってきた。

 

元よりヴェリタスの部長はヒマリだ。

 

やってきても何ら不思議はないが…あまりにも唐突過ぎてコタマ達も驚いている。

 

「ヒマリ…?ではあなたが賢者のヒマリ先輩なのですか…?」

 

「あら、賢者とは嬉しいことを言ってくれますね。初めまして、アリスにシャーレの先生。明星ヒマリと申します。」

 

「…初めまして、ヒマリ。」

 

初対面のアリスと先生とあいさつを交わすと…

 

「申し訳ありませんが…先生を少々お借りしても?」

 

「え?」

 

「少々ご内密にお話しすることがありますので…。」

 

先生をこの場から連れ出そうとするそぶりを見せる。

 

「…分かったよ。ごめん、皆。少し失礼するね。」

 

「あ、先生…!」

 

何かを察した先生はこの申し出を即座に了承しヒマリと共に部室を後にした。

 

その後二人は近くの空き教室に入り…

 

「それで…私に何か用かな、ヒマリ?」

 

先生は彼女に向き合って用件を尋ねると…

 

「…先生、申し訳ありませんでした…。」

 

「ちょ、ちょっとヒマリ…!?」

 

ヒマリは開口一番謝罪の言葉を口にし先生に向け頭を下げた。

 

初対面でいきなりの行動に先生は困惑するが…

 

「…先ほど、私も…ネイトさんの過去を聴いてしまったのです…。」

 

「ッ!まさか…!」

 

その言葉で彼女が何を聞いたか察する。

 

「どうしてだい…!?どうして…そんな真似を…?!」

 

今、自分はこれまで『生徒』に向けたことがないような表情をしているだろう。

 

迂闊ではあった。

 

だが…彼が苦しみながら吐露した彼の過去を盗み聞いたことに対するヒマリへの感情は…推して知るところだ。

 

「彼の弱みを探ろうなどというつもりはなく…本当に『好奇心』で…!」

 

『好奇心は猫をも殺す』という言葉がある。

 

しぶとい猫ですら…強すぎる好奇心で命を落とすのだ。

 

それが人間ならば?

 

それも人より知的好奇心が強い『全知』の彼女ならば?

 

「申し訳…ありません…!」

 

震える声で先生に釈明するヒマリを見て…

 

「…無暗矢鱈に言いふらしたり暴露を、するつもりは…無いんだね?」

 

少し声音を和らげ彼女に尋ねる先生。

 

「無論です…。彼を貶めるつもりは…一切ありません…。」

 

ヒマリもしっかりと答える。

 

彼女が聞いた話は…自分では決して抱え込み切れないほど重く辛いものだ。

 

それをネイトは周囲に一切察知されることなく振舞い過ごしてきたということに他ならない。

 

もし、それを暴露した場合…何が起こるか分からない。

 

下手をすると…ミレニアムとアビドスで取り返しのつかない事態に発展するやもしれない。

 

メリットよりも…デメリットが多すぎる。

 

それが分からないヒマリではなかった。

 

「…分かったよ。ヒマリ、君がそう約束してくれるのなら…。」

 

それを確約できるのであれば…先生はこれ以上彼女を問い詰める理由はなくなる。

 

だが、その時…

 

『うわぁッ!!?』

 

「「ッ!?」」

 

教室の引き戸が倒れ…

 

「み、皆…!?」

 

そこにはモモイ達だけではなくヴェリタスやエンジニア部の面々が倒れ込んでいた。

 

「ひっヒマリ先輩に先生!いったい何を聞いたの!?」

 

「ネイトさんが…それで苦しんでいるんですか…!?」

 

「お、教えて、ください…!」

 

すぐに起き上がったモモイ達が二人に詰め寄る。

 

「それは…。」

 

迂闊だった。

 

もう少し気を張っておくべきだったが…時すでに遅し。

 

「部長…どうしてそんなに思い詰めて…。」

 

ヴェリタスも…

 

「ネイトさんのこと…なんだね、『全知』?」

 

エンジニア部も…下手な誤魔化しは許さない、そんな気迫を込めている。

 

「………ヒマリ。」

 

「…分かりました。」

 

これ以上は騒ぎが大きくなると判断した先生とヒマリは覚悟を決める。

 

「ですが、条件を付けます。」

 

「じ、条件…?」

 

「まず、もうこれ以上彼の過去を広めないこと。そして、聞いた後に彼との接し方を一切変えないこと。そして…」

 

「もう一つは…何ですか…?」

 

「貴方方の企て、それはセミナーに伝えさせてもらいます。」

 

「そ、そんな…!?」

 

「それでもなお計画を完遂出来るのであれば…お教えしましょう。これが条件です。飲めないのであれば…私と先生の胸に秘めさせていただきます。」

 

正直、かなり厳しい条件だ。

 

相手はセミナーだ。

 

奇襲を仕掛けても成功しない可能性の方が高い。

 

それをセミナーに通達されるとなると…成功率は非常に低くなるだろう。

 

それでも…

 

「…分かりました、ヒマリ先輩。」

 

「あ、アリス…?」

 

「アリス、その制限下でクエストをクリアして見せます…!」

 

一歩踏み出したアリスが強い決意を宿し言い放つ。

 

「アリス、ネイトさんのことを…もっと知りたいんです…!そして、ネイトさんに笑ってもらえるように…頑張りたいのです…!」

 

「アリス…。」

 

そんなアリスに触発されたからか、

 

「…うん、上等だよ!!!その条件のんだよ、ヒマリ先輩!」

 

「ネイトさんを少しでも理解できるのならやって見せます!」

 

「こ、怖いけど…!友達を救えるのなら、やり遂げて、見せます…!」

 

ゲーム開発部も、

 

「やれやれ…これまた『全知』は難題を…。でも、やる価値はあるね。」

 

「難題に挑まなければ…それはもうミレニアム生じゃないよ、ヒマリ先輩。」

 

「我々はエンジニア部!困難な挑戦程燃えるというものですよ!」

 

エンジニア部も、

 

「私も盗聴癖は人のことは言えませんが…一緒に背負いますよ、ヒマリ部長。」

 

「部長がどっちの味方かわかんなくなっちゃったよ…。でも…やるよ。」

 

「それを乗り越えられるような作戦を考えればいいだけだもんね。やって見せるよ。」

 

ヴェリタスも続けて名乗りを挙げる。

 

そんな彼女たちの覚悟を聞き、

 

「…分かりました。お約束しましょう。お伝えするのは…ミレニアムプライスの締め切り後、でよろしいですね?」

 

「はいっ!」

 

ヒマリも力強く頷くのであった。

 

そして…『鏡』奪還作戦も成功しゲーム開発部もミレニアムプライスへの出展を終えた四日前、

 

「…ということです。」

 

約束を成し遂げた面々にヒマリは…先生の立ち合いの元、あの日聞いたネイトの過去を打ち明けた。

 

『………。』

 

室内に重い空気が立ち込める。

 

いきなり異世界だの、転生だの…キヴォトスでも受け入れがたい話ばかりだ。

 

だが…

 

「正直…中々飲み込めない話だけど納得がいったよ。」

 

ウタハのその一言がすべてを現していた。

 

ミレニアムでも実用化できていない、そもそも構想すらない技術に人並外れた戦闘能力と経験。

 

それが…ネイトが異世界で90歳になるまで生きてきたという土台の上でなら説明がつく。

 

そのネイトが抱える『過去』は…少女たちにはあまりにも重すぎた。

 

だが…

 

「…かしいよ…!」

 

「お姉ちゃん?」

 

「おかしいよ、そんなのっ!!!」

 

『ッ!?』

 

モモイが涙を溜めながら勢いよく立ち上がり叫ぶ。

 

「だって!奥さんを奪われても!!!息子さんと大喧嘩してでも!!!ネイトさんはちっとも逃げなかったんだよ!!?」

 

「モモイ…。」

 

「それに頑張って…うぅん!!!『頑張る』なんかじゃ言い表せられないほど頑張って!!!動けなくなるまで頑張り続けて!!!息子さんの想いごと背負って誰にもできなかったようなことを成し遂げたんだよ!!?」

 

「モモ…。」

 

「そんなネイトさんが!!!報われちゃいけないなんておかしいよッ!!!間違ってるよッ!!!」

 

『………。』

 

モモイのネイトへの想いがこもった叫びは止まらない。

 

「それにッここは別の世界だっていうのに!!!もう休んでもいいのにっ!!!カイザーと戦ってアビドスの未来を取り戻してっ!!!私たちのお願いや夢を笑わずに真剣に叶えようとしてくれてる!!!」

 

「…そうだね、モモイ。」

 

「そんなネイトさんがっ!!!優しくて強い私の友達がっ!!!幸せになっちゃいけないなんて私は嫌だよ!!!そんなの寂しすぎるよッ!!!」

 

「…うん、モモイの言う通りだ。」

 

「嬉しく思っていいのに!!!喜んでもいいのに!!!自分の気持ちを覆い隠すなんて間違ってるよ!!!」

 

涙を溢れさせ地団太を踏みながらもモモイは…ネイトの幸せを願ってくれている。

 

その想いは…この場の全員に波及する。

 

「お姉ちゃんの…言う通りだね。そんな寂しいネイトさんは…私も嫌だよ…。」

 

「私もネイトさんには、戦いから離れている間は、幸せになってほしい…。」

 

ミドリとユズも涙を溜めながらもそう答え、

 

「………。」

 

アリスは目から涙を流しながら…何かを想っているようだ。

 

「…アリス。」

 

「なんですか、先生…?」

 

「君は…どうしたいんだい?」

 

そんなアリスに先生は問いかける。

 

「どうしたい…とは…?」

 

「今の話を聞いて…アリスはネイトさんは幸せになる権利はないと思ったかい?」

 

アリスは首を横に振る。

 

「そっか。ネイトさんといると…幸せに思えるかい?」

 

今度は何度も首を縦に振る。

 

「…よかった。それなら…心配はいらないね。」

 

「心配いらない…とは?」

 

「いや、こっちの話だよ。大丈夫、後は…アリスの想い次第だよ。」

 

「アリスの想い…。」

 

その言葉を聞き…

 

「…だったらアリスはッ!!!」

――――――――――――――――

 

―――――――――

 

――――

「夜空の星を数えて 眠ればいいよ…あなたに会える明日の 朝がすぐに来るから~♪」

 

アリスの歌も佳境に入り、歌声にも更なる熱が宿る。

 

「そうか…。」

 

「あれが…アリスが自分で出した『答え』だよ、ネイトさん。」

 

「だから…今度こそしっかりと答えてあげてください。」

 

「大丈夫です…。ネイトさんならきっと、立派にその役目を果たせます…。」

 

モモイ達からことの顛末を聞き…ネイトの声は震え始めていた。

 

「『アリス』の体の中を 駆ける電子が~♪あなたを求めているよ ほんまホットに本当に~♪」

 

「なぁ、皆…。これからも…俺と友達でいてくれるか…?」

 

「もちろん!ずっとずっとネイトさんとは友達だよ!」

 

「どんなことがあっても…それだけは絶対に変わりません…。」

 

「エンジニア部やヴェリタスの皆も、一緒の思いです…。」

 

ネイトの問いにモモイ達はそう答え、

 

「だから…アリスにちゃんと答えを出してあげてください、師匠。」

 

先生もネイトに静かなエールを送った。

 

そして、とうとう…

 

「あなたの心の中を のぞかせてよね~♪『アリス』を思う気持ちが ひとつあったら幸せ~♪」

 

アリスの歌が…終わった。

 

だが…拍手はなく室内に沈黙が流れる。

 

「…ネイトさん、アリスの歌は…どうでしたか?」

 

そんな中、アリスがネイトにそう尋ねる。

 

「あぁ…とっても元気で…アリスの気持ちがこもった…いい歌だったよ…。」」

 

「喜んでもらえてよかったです。…ネイトさん。」

 

「どうか…したか…?」

 

アリスはネイトに歩み寄り…

 

「もう一度…アリスはネイトさんにお願いします。」

 

微笑みながらも強い決意を込めた表情で…

 

「ネイトさん…どうか『アリス』の『パパ』になってはもらえませんか?」

 

あの日と同じ願いをネイトに告げた。

 

「………アリス。」

 

「はい。」

 

「俺はあの時…その申し出を受けて…とても嬉しかったんだ…。」

 

ネイトも…もう逃げない。

 

涙を浮かべながらも…逃げずにアリスに向かい合う。

 

「あの時の俺は…それが許せなかったんだ…。許せなくて…仮面を押し当てて…その想いを押し殺そうとした…。俺には不要なものだと…踏みつぶそうとしたんだ…。」

 

「そう…なんですか…。」

 

あの時のネイトの想いを聞き、アリスは少し悲しそうな表情を浮かべる。

 

だが…

 

「でも…できなかったんだ…。」

 

「え…?」

 

「何度も何度もそう思ったのに…!アリス…君の笑顔を見るたびに…その想いが湧き出てきたんだ…!」

 

「ネイトさん…。」

 

「今まで数え切れないほど敵を打倒してきた俺が…この気持ちだけは…この想いだけは…できなかった…!」

 

「………。」

 

「どうやっても…この想いだけは…何度も何度も芽吹いて…朽ちてくれないんだよ…!」

 

とうとう…ネイトの目から大粒の涙が溢れた。

 

溢れて溢れて…止まらなかった。

 

「…アリス、俺は…アビドスでやるべきことがある…。」

 

「はい、知っています。」

 

「それを…投げ出すことはできない…。それでも…いいのかい…?」

 

「はい、『為すべき事を成す』ことを…アリスは応援します。」

 

「毎日毎日…傍にはいてやれない…。アリスに…寂しい思いをさせるかもしれない…。それでも…いいのかい…?」

 

「大丈夫です。アリスにはミレニアムの皆がいます。少しの間会えなくても…へっちゃらです。」

 

「お、俺は…経験がないんだ…。何が正解か分からないから…君に迷惑をかけるかもしれない…。それでも…いいのかい…?」

 

「アリスも一緒です。一緒に学習して…一緒にレベリングしていきましょう。」

 

涙を流しながらのネイトの問いかけにアリスはしっかりと答えていく。

 

「………。」

 

本当に…本心から…願ってくれているとひしひしと伝わってくる。

 

そして…

 

「…アリス。」

 

「はい。」

 

「俺が…君の…アリスの…『パパ』になっても…本当に…いいのかい?」

 

涙でかすむ視界の中…アリスを見つめ最後の問いかけをするネイト。

 

アリスは…

 

「はいっ!!!」

 

満面の笑みと…少しの涙を浮かべ答えてくれた。

 

「………グスッ…うぅ…!」

 

袖で涙をぬぐっても…喜びの涙が溢れて止まらなかった。

 

それでも一頻り拭い…

 

「…アリス、お願いがあるんだ…。」

 

「はい、なんですか?」

 

「君を…抱きしめても…いいか…?」

 

あの夢の時のように…今度は自分からそう願ってみた。

 

その願いに…

 

「…はい!どうぞ、来てください!」

 

アリスは両手を広げ答えてくれた。

 

ネイトはしっかりと立ち上がり…

 

「アリス…!アリス…ッ!!!」

 

アリスを…壊れないように、それでいて力強く抱きしめた。

 

「…とても…とても暖かいです、パパ…。」

 

アリスもネイトを抱きしめ返す。

 

「あぁ…俺もだ…!こんなに暖かいんだな…アリスは…!」

 

「パパにこうしてもらえて…とても…とても…アリスは幸せです…。」

 

「俺も…俺も…幸せだよ、アリス…!」

 

二人はしばらくの間…幸せの涙を流しながら抱きしめ合うのだった。

 

そんな光景を…先生やモモイ達も涙を浮かべて愛おしそうに見つめる。

 

この日…長い眠りから覚めた一人の少女と長きに渡り戦い抜いた一人の男が…心で繋がった親子となったのだった。

 

そして…

 

「…ネイトさん、そしてアリス…これは私からのせめてもの贈り物です。」

 

どこかの一室でそれを『聴いて』いた『全知』の少女はある場所にハッキングを仕掛けアリスの生徒名簿にこう記した。

 

『養父:ネイト』…と。




私たちを父子とするのは、血肉ではなく、心である。
―――劇作家『フリードリヒ・フォン・シラー』
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