―――コメディアン『ジム・キャリー』
The Man Who Got Out of the Octopus's Leg
アビドス独立戦争後、W.G.T.C.は多角的な事業を展開していた。
アビドス生発の『アビドシアングラス』のアクセサリーショップがいい例だ。
さて、そうなってもW.G.T.C.の主要事業はアビドス砂漠の廃墟の解体である。
で、その解体の際に見つかる『電化製品』や『雑貨』などの物品。
それらを修理したりしてリサイクルショップに卸すことでも収益を上げていたが…
『もうこれも自分たちでやったら手っ取り早くね?』
ということもあり…
「ようこそ、『アビドス・ルインズ・ガレリア』へ!!!」
「こんにちは、ハンディさん!」
「おぉ~ヒフミの嬢ちゃんか!いいモモフレンズグッズが入ってるよ!」
アビドスの一角に建てられた店舗。
『アビドス・ルインズ・ガレリア』、アビドス砂漠の廃墟で見つかった物品を販売するリサイクルショップだ。
家電から雑貨に書籍、果てには車両まで手広く扱っておりかなり盛況を博している。
前述のヒフミのように今はもう手に入らないような昔のグッズを求め噂を聞きつけたマニアも足しげく通っている。
店員は希望者の生徒とMr.ガッツィーとMr.ハンディで連邦にあった『ゼネラル・アトミックス・ガレリア』を参考にしている。
さて、そんな『アビドス・ルインズ・ガレリア』を任されているのが…
「『店長』ッ!『ゲヘナ給食部』から業務用冷蔵庫の発注が来たぞッ!至急だとよッ!」」
「またかっ!?今月でもう5回目だぞ!!?在庫は!?」
「ばっちりメンテ済みがあるぜ!」
「割高で構わんなら速達すると伝えろ!」
怒鳴り散らしながら帳面に目を通し発注を捌く作業服の上に店名が刺繍されたエプロンを付けたかなり大型なボディのオートマタ。
そう、かつては『カイザーPMC』を仕切っていたアビドスの不俱戴天の仇でもある通称『理事』、その人だ。
なぜそんな人物がなぜW.G.T.C.が経営する店の店長に?
時をさかのぼること…アビドス独立戦争終戦してすぐのこと。
「理事、面会だ。出ろ。」
「あぁ…。」
開戦直後から身柄を拘束されていた理事。
同様に拘束されていたカクカクヘルメット団は残さずヴァルキューレに引き渡され懸賞金に変えられていた。
だが理事に関しては見張り付きで拘束され続けていた。
脱走しようにも周囲にはアビドス生徒やロボットソルジャーが蟻の子一匹通さないというほどの厳重な警備が敷かれている。
…もっとも、理事には最初からそんな考えはなかった。
(プレジデントに見捨てられた私に行く宛など…。)
拘束された直後に行われたネイトとプレジデントの会談。
あの時、プレジデントは実質的にカイザーを放逐した。
長年尽くしてきたプレジデントからのその言葉に理事は茫然自失。
その後の取り調べは心ここに非ずといった様子で聞いたことにすんなり答えていた。
それから終戦してからも身柄はアビドス高校が預かっているが…取調べ以外で初めての面会だ。
(一体誰が…。)
こんな自分に会いに来る人物など見当もつかず理事はある一室に通された。
そこにいたのは…
「よぉ、理事。飯は食えてるか?」
「やぁやぁ、先日はどうも。」
「な…ッ!?」
仕切り板もなく長机を二つ並べただけの一室にネイトとホシノが並んで腰かけていた。
まさかの相手に理事も驚愕するが…
「まぁかけてくれ。」
ネイトは理事を席に促す。
理事も状況が呑み込めないながらも用意されていた席に着いた。
「手錠は外してくれ。」
「了解っす。」
ネイトの指示で拘束まで解かれた。
「…とうとうヴァルキューレへの引き渡しの日でも決まったのか…?」
「まぁそう構えるな。」
「じゃあ、こんな奴にアビドスのツートップがそろって何の用だ…?」
正直、先に述べた用件以外でこの二人が面会にやってくる理由が思い浮かばない。
「それじゃあ、さっそく本題に入ろっか。」
そう言い、ホシノは理事にある書類を差し出す。
そこに書かれていた内容を見て…
「…なっ?!」
理事は驚愕の表情を浮かべた。
「こ、雇用の契約書…だと…!?」
「あぁ。理事、アンタをW.G.T.C.に雇おうと思ってな。」
差し出されたのはW.G.T.C.に就職するための雇用契約書だ。
「給料は下がるが前よりは余裕ができるはずだ。有給休暇の申請も…。」
「バカなのか、貴様らはッ!?」
構わず雇用条件の説明に移るネイトに理事は盛大にツッコむ。
「一体どこの世界に敵対していた会社の重役を雇うやつがいる!?」
至極ごもっともな理事の言葉だが…
「ここ。」
「グヌぅ…!」
「というか…そんなの歴史上数知れずじゃなぁい?」
ネイトとホシノの返答に言葉が詰まる。
「…分かった、それで納得しよう…!だが、お前らの狙いは何だ…!?」
口八丁では絶対に勝てないことはもう身に染みているのでこの申し出の理由を問う理事。
「今はお前らに身柄を抑えられているが本来なら私は即ヴァルキューレに突き出されてもおかしくないんだぞ…!?」
そう、カイザーPMCは独立戦争開戦前に単独行動中のホシノを襲撃し誘拐していた。
実行犯ではないだろうが…理事が関わっていることは確実。
共同正犯として逮捕されるのがむしろ普通なのだ。
それなのに突き出さないどころかこうやって雇おうという神経が分からない。
それに対し…
「そうだな。だが…。」
「平たく言うと『司法取引』みたいなのは終わってるからねぇ。」
「何…?」
ネイトとホシノは理事にそう返す。
「確かにおじさんはあの日にアンタたちに襲われて誘われたよ?でも、私が奪還された後も理事は色々協力してくれたじゃん。」
ホシノの言うように…理事は拘束後はアビドスに様々な情報を提供。
カイザーPMC本部基地の詳細な情報に自らのID、さらにはカイザーの重役たちの裏資産のリストまで。
「結果としてこちらの想定よりも容易く戦争を進めて講和も有利にすることができた。そこはまぁアンタのおかげさ、理事。」
「で、その協力と成果でそっちの罪を打ち消し合って…まぁ解放してもいいかなぁってことになったよ。」
『実直な仕事には、ふさわしい報酬を』、ネイトが口酸っぱく言っていることだがこれは例え敵であっても変わらない。
理事はそれに見合う仕事をしたと判断。
ホシノもそれを認め…理事を放免にすることに。
「ではさっさと解放でも何でもすればいいだろう…。」
と、理事はそう言うが…
「解放してもいいけどさぁ…その後どうすんの?」
「カイザーの残党からしてみればあんたは『裏切者』だ。まず…背中は気にして暮らしていかなくちゃな。」
「………。」
二人の言葉に口を閉ざすしかない。
いかに弱体化著しいカイザーとは言え…戦力はまだ残っている。
さらには裏社会の人脈があることも理事がよく知っている。
カイザーを裏切った自分が自由の身になって待ち構えているのは…想像に難くない。
「フン、貴様らからしたら望んだ末路だろ…?」
そんなこと当の理事も分かっているので皮肉交じりにそう言い返してみる。
「これまでさんざん好き勝手やってきたんだ…。まともな最期を迎えられることなど端から考えていない…。」
我が身を振り返りそう諦めきったようにつぶやくと…
「…なぁ、理事。一つ勘違いしてるようだから言っとくが…。」
「なんだ…?」
「この提案をしたのはホシノだぞ?」
「…は?」
W.G.T.C.に理事を雇い入れようとしているのはホシノの方だと聞き唖然とする。
「まぁ…いろいろあったのは分かるよ。正直私も借金が無かったら…って思うことは何度もあった。」
先ほどと打って変わって苦い表情で語るホシノ。
アビドスに入ってからずっと借金返済に奔走してきた。
その借金が原因で…大切な人も失った。
「…だからこそ、私は知らなきゃいけないんだ。」
「…何をだ?」
「アンタたちが何の目的でアビドスの土地を集めていたのか…。あの基地で何をしていたのか…。」
理事を始末するのは簡単だ。
…だからと言ってなんになる?
アビドスは自分たちの元に戻りカイザーを駆逐できた。
これ以上…この男を痛めつけてなんになる?
「この提案は交換条件だよ。カイザーがあの砂漠で何をしていたのか…包み隠さず話すこととね。」
ならば、理事を痛めつけるのではなく利用することをホシノは選んだ。
少しでも…アビドス歴代の生徒たちの無念を晴らすために。
「その代わりに…理事をカイザーから護ってあげる。それが私からの条件。」
様々な感情が混ぜこぜになったような表情で理事を見るホシノと対照的に…
「俺としてはまあ…中間管理職が欲しかったところだ。近々業務を拡大する予定でポストもあるし断る理由もない。」
やれやれといった表情で肩をすくめるネイト。
「…貴様はそれでいいのか、用務員?」
「アビドスの『トップ』の判断だ。従わざるをえまい。」
ネイトの言うようにあくまでもアビドスのトップはホシノで自分はそこに根を張る企業のトップ。
ホシノの提案にはよほどのことがない限り従わざるを得ない。
そんな二人の話を聞き、
「…フンッ相も変わらず、訳の分からん奴らだ。」
むすっとした態度でそう言い放つ理事。
「訳分からん奴じゃなきゃカイザーに挑もうだなんて思わないでしょ~?」
「そのおかげで俺はお前たちの裏をかけたわけだからな。」
それに対し軽口で返すホシノとネイト。
「あぁ…全く…本当に腹立たしい…。」
口ではそう言っているが…
「寄越せ。」
「ん?」
「契約書だ。詳細な内容を検めたい。」
「…あぁ、しっかり見てくれ。」
ネイトに契約書を渡させ中身を読み始めるのであった。
流石は元はブラック企業の幹部だった男、契約の確認に抜け目がない。
じっくり読み込み…
「…よかろう。」
理事は契約書の署名欄にサインをするのであった。
「W.G.T.C.にようこそ、理事。」
「フン、私は安くはないぞ?」
「それはそちらの働き次第だな。」
「相変わらずつかめん男だ。…よろしく頼む、社長。」
「こちらこそだ。」
「アビドスにようこそ、理事ぃ。」
「…世話になるぞ、アビドス生徒会長。」
―――――――――――――――
―――――――――
―――
こうしてまさかの敵側に再就職した理事。
初めは周りの生徒には不審がられていたが元はカイザーPMCを率いていた人物だ。
事務処理能力や人員配置の能力などはかなり高い。
そんなこんなでネイトからこの『アビドス・ルインズ・ガレリア』の店長を任されているが…
「なんだとッ!?偽のモモフレンズグッズを売りにきただと!?」
「ヒフミ嬢ちゃんが気付いて現在拘束してるがどうする!?」
「ヴァルキューレに通報して引き渡せ!私の店に偽物を流す不届き物は許さん!!!」
ここはキヴォトス、いかに治安の良いアビドスと言えどトラブルは絶えない。
このような偽物を売りつけにくる不良や…
「店長!万引きをとっ捕まえたぜ!!!」
「今行く!武装解除して裏へ連れて行け!」
万引き…
「今あなたペロロ様を侮辱しましたね…!」
「ヒイイイイイイ!!!」
「店の中で発砲しようとするなああああ!!!」
客同士の喧嘩などトラブルが絶えない。
「はぁぁぁぁぁ…。入店前に預けさせるためのガンラックを発注しよう…。」
とまぁ、こんな感じで理事は今も多忙を極めている
が…
(…まぁ、こういうのも悪くはないな…。)
正直、いやではない。
カイザーにいた頃に比べると理不尽な命令もなく上におべっかを使う必要もない。
部下からの突き上げもかつてほどはなくアビドス生徒たちも自分のことを認めてくれつつはある。
ネイトもネイトで自分にこの店を任せた後はこれと言って口を出すことはなく自分の裁量でやらせてくれている。
アビドス高校への納め分はカイザーにいた頃に見ていたものと比べると良心的だ。
給料は…些か下がったがそれでも充実した環境だ。
「ふぅ…さて、少し休憩したら報告書も書き上げねば…。」
ようやく一段落したので理事は休憩に入ろうとした。
…が、突如表で鳴り響く銃声。
「………。」
理事は無言で…傍らに置いてあった耐火ケースからそれを取り出す。
店の前では…
「店壊されたくなきゃ金だしなぁッ!!!」
「それから金目の物もなぁ!!!」
「唸るほど儲けてんのは知ってんだぞ!!!」
どこぞの獣人の強盗集団が武器を振り上げ店に迫ってきていた。
「野郎、やってやろうじゃねぇか!!!」
「野郎ども!!!お客様のご到着だ!!!盛大に歓迎してやれ!!!」
対する『アビドス・ルインズ・ガレリア』の店員やロボットたちも負けておらず武器や脚部の武装を構え待ち構える。
すると…
「退け、貴様ら。」
「て、店長!?」
そんな生徒たちを押しのけ理事…いや『店長』が前に出て…
「いらっしゃいませええええ!!!」
「ぎゃあああああああ!!?」
迫る強盗団に向け…手回し式の連発銃『ガトリングガン』を叩きこみ一人をノックアウトする。
「なっなんだ、お前はぁッ!?」
「店の前で暴れるのはいいだろう。そこは私の管轄外だ。」
驚く強盗団をしり目に店長は呟く。
「だが、ここは私が任された『店』だ。貴様らに壊されては困る。」
「テメェ何を言って…!」
「ど低能の貴様らが徒党を組んでここに来たのも…まぁいいだろう。」
「この、デカ物が…!」
そんな店長に銃を構える強盗団だが次の瞬間、
「だが貴様らは…この私の…休憩時間を奪った!!!」
『ッ!!?』
店長は叫び…
「強盗め、駆除以外の選択肢はない…!」
強盗団を睨みつけ…左手でクランクを猛スピードで回しガトリングガンを連射。
「な、なんだあれげぇッ!?」
「撃て、撃ち返しギャッ!?」
キヴォトスではなかなかお目にかかれない古い銃だが性能は折り紙付き。
ガトリングガン特有の高い精度と高威力で強盗団を次々に討ち取っていく。
「こ、このやろおおおお!!」
一人の強盗が店長に接近し弾丸を浴びせようとするが…
「だらっしゃぁっ!!!」
「ぐぇッ!!?」
その強盗の首を掴み『片手チョークスラム』で地面にたたきつける。
「何度送ってもすぐに壊すゲヘナ給食部ッ!!!」
「ギャンッ!?」
「手癖の悪い万引き犯に馬鹿なバッタモン売り!!!」
「グハッ!?」
「そして何よりッ貴様らのような時も考えずにやってくる強盗団ッ!!!」
恨み言をぶちまけながら強盗団を次々に制圧する理事。
あまりにも実感の籠った叫びに店員たちは茫然とするしかない。
「どいつもこいつもこの私を苛立たせるッ!!!」
「ひ、ヒィいいい!!?」
そうこうしているうちに強盗は残り一人に。
そして…
「地面で潰れて平伏しろ!!!」
「まっ待って…!」
その強盗を後ろから抱え込み…
「私こそが『店長』だ!!!」
「ぐへぇッ!!!?」
ジャーマンスープレックスで地面に叩きつけノックアウトするのであった。
『………。』
あまりの光景に店員はおろかお客もあんぐりとして言葉を失っていた。
「…フゥ~。」
起き上がった店長はガトリングガンを拾い上げ…
「通報は任せる…。」
「ら、ラジャ!」
「私は休憩に戻る…。」
傍にいたロボットに処理を任せ控室に戻ろうとした。
が、突如立ち止まり…
「…お騒がせして申し訳ございません。今後とも当店『アビドス・ルインズ・ガレリア』をどうかご贔屓に。」
お客に向け頭を下げつつそう言ってから引っ込んでいった。
『アビドス・ルインズ・ガレリア』…本日も騒動が起こりながらも通常通り営業中。
なお…
「…強盗来た方が収益がいいのはどうにかならんかなぁ…。」
ヴァルキューレから支払われた褒賞金を見てどうしたものかと嘆く店長なのであった。
職業に貴賎はない。どんな職業に従事していてもその職業になり切っている人は美しい。
―――小説家『吉川英治』